日常が終わった日。そうとでも表現するのがいいのだろうか。
こういうありきたりな言葉から始まる悲劇惨劇。この世界ではどこでも起きえること。
私はそれに不運にもそれに出会した。
戦争が始まり、両親と最期の別れを告げたすぐあとのこと。
私たちは早速敵に襲われてしまった。
まず、ノイリアが斬られた。路地からやってきた男によって。
メラゾフィスも深い傷を負い、絶体絶命。
私は、覚悟を決めて吸血し、メラゾフィスを吸血鬼に変えた。
新たな力を手に入れ、暴れ出すメラゾフィス。
そんな激しい戦闘の最中、平が現れた。
呆然としていた私に声がかかる。いや、声じゃなく念話だ。
ソフィアさん、しっかりしてください!一体何がどうなって......!?)
目まぐるしい展開に心の整理が、理解が追いつかない。
かろうじて、言葉を発したものの、それは大した意味を為さなかった。
(あ......街が、家が、燃えて......敵が、殺しに来て......メラゾフィスが......)
(メラゾフィス?ああ、あの従者の......)
そのあたりのことはよく覚えていない。心が限界だったのだろう。
鮮明に記憶しているのは変な女が現れ、殺しの命令を出したこと。
それにより、恐怖耐性のレベルが上がった。
脳に響く慣れ親しんだ日本語に、極めて僅かであるが余力を取り戻す。
「お嬢様には、手出しさせん!」
それにより、メラゾフィスが敵の目に仁王立ちになり、私を庇っているのを認識した。
しかし、多くの敵に囲まれている。このままでは勝てない。
「世に災厄を齎す吸血鬼め。すぐに殺してやる。」
奴らを率いている女の、絶対零度の声が私を貫く。
どうしよう......殺される......災厄......私が吸血鬼なんかにしたから......メラゾフィスまで......それに、平だって......
渦巻く闇の思考。元から青白い顔が更に蒼白になっていくのがわかる。
そんな私を救ったのは、彼の優しい約束だった。
私のと大して変わらない小さな手。それで精一杯の指切りをしてくれた。安堵からか、目の端に涙が光る。しかし、現実は甘くない。奴が、ついに目の前まで到達した。
(なんで、そこまで......)
念話が繋がっていたのをすっかり忘れており、そんな思考が会話に流れた。
それに対し、彼は丁寧に返答をくれる。
(......前世の好、ですかね。)
そんな、そんなもので?
本人は大したことなさげに言っているのが余計に腹立つ。
こいつはずっと、前世の時からそうだったのを思い出す。相当な変人なのだ。
(......なにそれ。)
ぶっきらぼうな返事しかできない自分に嫌気がさす。
こんなだから......いや。もう前世には囚われないと決めたのだ─────
(さぁ、そんなことより早く逃げますよ!ほら!)
なんて、そんなことを考えてる場合じゃない!言われた通り走る。ひたすら走る。跳ぶ。
彼の指示に従い言われたところへ走る。彼は少し後ろを走り、敵の攻撃から私を少しでも守ろうとしてくれている。その平の背後には魔法を構える敵集団。
......って、さっきから魔法がギリギリを掠めてばっかりだ!?しかも敵の数が増えてるし!?
もう無理、と泣き言を言いかけたその時、急に伏せろと言われる。
唐突な言葉に困惑していると、彼が私を抱え無理やり地面に倒れ込む。まさか、こけた!?
「む、んぅ!?!?んー!?!?!?」
覆い被さられて重い......それにすごく息がしにくい......一体何が......?
抗議をしようとしたが無視される。ちょ、ほんとにどうしたの!?!?
その時、強い風を感じた。それによって布が激しくたなびく感触も。
そして、苦悶の声をあげる平。まさか、魔法!?
結果から言うと、悪い予想は的中していた。
敵の増援が、子供の足じゃ逃げられないほどの範囲で魔法を撃ってきたのだ。
もちろんそんな攻撃、少しでも受ければひとたまりもない。
手を回す。
溢れ出る血の匂い。どうしても甘美な香りに感じてしまうこの鼻が嫌いだ。
血を求める吸血鬼の本能を理性で精一杯意識からどけて周囲の様子を探る。
早速奴らが接近してきていた。冷酷な声が聞こえる。
「無駄な抵抗残念だったな。これで終わりだ......死ね。」
そんな!?
これで死ぬの?嘘でしょ?せっかく転生できたのに、そんなの............嫌。
目をぎゅっと瞑った刹那────────突然立ち上がった彼の、迫真の絶叫が轟いた。
「ウル............ドーナァァァァァァァァ!!!!!!!!!!」
大地が音を立てて揺れる。まるで大地震のようだ。
そして、鋭い岩石が敵を皆串刺しにする。
続いてばたりと力なく倒れる平。
「ねぇ!だいじょーぶ!?ちょっと、ねぇ!!」
声をかけるが、全く聞こえていない様子だ。
これやばいんじゃないの!?だって、だって............!!
世界から音が遠のいていく。震える手が、彼の服を掴もうと伸びた。
待って、目を閉じないで、お願い......!!!
自分でも気づかないうちに、目からたくさんの粒がこぼれ落ちていく。
ねぇ、ねぇ!!お父さんもお母さんも、ノイリアもメラゾフィスも、平も、みんないなくなっていく......!こんなの耐えられない!
視界が暗転していく。絶望に染まる。こんなはずじゃ............なかったのに............
膝を折る。倒れ込む。痛い。喉が詰まる。呼吸ができない。どうして、と呟こうとした声は、震えとなって霧散した。
しかしすぐさま、乾いた破裂音が連続して夜空に響き、私は再び開眼することになった。
バン!............バンバン!
え?
聞き馴染みのない、でもうっすらと理解できる音に恐る恐る目を開く。
なんと目の前に広がっていたのは、あの女が銃で平を撃ち抜いた光景だった。
彼の額から何かが噴き出していた。
「ッひ」
声が漏れる。
やだやだやだやだやだやだだやだやだやだややだやだ!!!!!!
女がこちらを向いた。当然、今度は銃がこちらに向けられる。
「......あ。」
色々な感情で歪みまくった顔を、ゆっくり声の聞こえた方に向ける。
彼の喉の奥から漏れたのは、鮮明すぎる絶命の音だった。
私は呆然としていた。思考が止まった。向いた先に見えたのは、背中を切り刻まれ頭と腕と足を撃ち抜かれどれだけ大量の血を流しながらも燃えていた彼の双眸が、魔力が枯渇しどれだけ魔力回路を損傷して血を吐いても輝いていた慧眼が、灯していた光を失い生の証を流出させて全てを灰燼に帰して虚無へと沈む姿だった。
その衝撃的な様が、蹂躙され尽くした私の心にとどめを刺した。
今話以降は投稿時間が23時54分定刻となるのデス!宜しくお願い致しマスデスよ!