異能使いの魔王は学園を好き放題に蹂躙する (旧題 : 金色の魔王(魔法の王)は微笑む)   作:2F29くん

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廃屋でのワンシーン

 月明かりに照らされた廃屋は、黒ずんだ壁がまだらに浮かび上がり、窓枠には割れたガラスが残骸のように突き刺さっていた。

 風が吹くたびに、錆びた看板が軋み、音が夜の静けさを裂く。

 屋内からはかすかな埃の匂いが流れ出し、趣がでている。

 そんな場所でとある組織が会議をしていた。

 

「唐突で悪いが、この世で一番価値のあるものって何だと思う?」

 

 この場には黒き福音の幹部、総勢9人が集結している。

 そのうちの一人にボスであるドミナスが聞いた。

 

「分かりません!」

 

 身長はゆうに2mを越え、全身を厚い筋肉に覆われている、大男がドミナスの質問に答えた。

 

 その清々しいまでの"分かりません"に他の幹部たちは呆れの色を滲ませている。

 

「それは"力"ではありませんか?」

 

 漆黒のマントを翻して、一振りの細身のレイピアを携えた若き男が言った。

 彼は優雅さを醸し出しているが、実はこの組織の中で一番の脳筋はこいつである。

 

「残念不正解だ。あくまで俺の意見だが、正解は情報だよ。値段のつけられないものを除くと、おそらくこれが最も価値が高い。そして、この学園には最高級の情報が揃っている」

 

 腕を広げて大仰に言ってみせるドミナス。

 

「なるほど!だから学園を襲うんですね!」

 

 廃屋に大男の声が響くが、防音設備は整っているので問題はない。

 

「あぁ、ここの学園には世界に欲しがる奴がいくらでもいる情報が保管されてるからね。それを奪いに行こうか!」

 

 既に大まかな作戦はあるが、幹部であるハゲ・コリンズの脱出作戦も同時並行をしないといけないので、さらなる緻密な作戦が要求される。

 

 その作戦を練るために、会議はまだまだ続く…。

 

 

 

 

 

 「よし、じゃあ特訓に行こうか」

 

  週末のお昼過ぎにヘルトがいきなり声をあげた。

 昼食を食べてから1時間も経っていない。

 しかも、事前に何も言われていないので、準備がまったく出来ていない。

 

「ちょっと待って、聞いてないんだけど!」

 

「あれ、イザベルから聞いてなかったのかい?」

(イザベルが自分で連絡すると言っていたはず…。まぁ、あの子は色々適当なところがあるから、忘れちゃったんだろうね)

 

 

 メアは首を縦に振る。

 イザベルから聞くどころか、対抗戦以降会ってもいないし、連絡先も交換していない。

 なので、そもそも不可能であった。

「聞いてなかったのなら仕方ないね。けど、別に今日は用事なかったでしょ?」

 

「そうだけど…」

 

「第3運動場で待ってるから、準備が出来たらおいで」

 

 そう言ってヘルトは部屋から出ていった。

 残された私は唖然とするしかなかったが、それでは何も変わらない。

 なので、気持ちの整理と剣の準備を両方し始めた。

 

 

 

 

 準備が終わって、第3運動場に足を踏み入れると、突然静寂が訪れる。

 まるで外界から切り離された巨大な空間は、わずかな足音さえも反響させ、無限の広がりを錯覚させる。

 

 そんな空間には静かに佇んでいるアンバランスな男女がいる。

 

「あなた、ヘルトさんを待たせ過ぎじゃない?」

 

 その一言に室内の空気が一瞬凍りついた。

 その可愛らしい容姿からは想像出来ないほど、底冷えする声だった。

 

 しかし、隣にいるヘルトは渋そうな顔をしている。

 

「それはいきなり俺が言ったからだよ。だからメアを責めないでくれるかい?」

 

 ヘルトは慣れた手つきでイザベルの頭を撫でる。

 

 その様子を見ると、なぜだか怒りが湧いてくる。

 しかも、イザベルが心底嬉しそうにしているも、拍車をかける原因になっている。

 

「…分かった…」

 

 頬を染めながらイザベルは言った。

 

 ヘルトは父性的なノリでやっているのだろうが、彼女は完全に女の顔をしている。

 

 

 

「さあ、記念するべき初回の特訓は、イザベルとの擬似的な殺し合いだよ。メアと王位戦に出ている者との力量差を測るためには、これが一番手っ取り早い」

 

「確かにそうね。イザベルとは戦ったことないし……あれ、今殺し合いって言った?」

 

 自然な流れすぎてスルーしていたが、日頃生活していては絶対に聞かない言葉がヘルトの口から飛び出した。

 

「ああ、言ったさ。けど、本当に殺し合いなんてしたら、それはただの事件だから」

 

「それはそうね。じゃあどうするの?」

 

 ヘルトが答えようとすると、横からイザベルがひょこっと出てきて代わりに答えた。

 

「この前の学年交流会と同じ仕様に1〜7の運動場はなっているの。だから、死ぬことはない。けどそれだと緊張感が足りないでしょ」

 

「(全然そんなことはないと思うけど…)」

 

 この子の感覚は明らかに常軌を逸している。

 このような人格がどうやったら形成されるのだろうか?

 

 

「実は痛覚を設定で変えれて、痛みは本物に近いのを味わえるように出来るの。これなら緊張感は十分でしょ」

 

 イザベルは普段あまり見せない笑顔で悪魔的なことを言う。

 しかし、この提案を受けて同意したヘルトも、同じく悪魔かのかもしれない。

 

「えぇ〜!」

 

 運動場にメアの悲痛な叫び声がこだました。

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