Irregular   作:ノキシタ

10 / 10
 知ってるかいカルラドちゃん、ストッキングとKiwiとライターと濡らした脱脂綿を使って磨くと靴が鏡みたいに綺麗に光るんだよ。
 何が言いたいかわかるね?(品位を保つ義務)



 お気に入り登録ありがとうございます。執筆の励みになります。


1-9 来訪者

「自殺で処理する?」

 

 リグは啞然としてそう聞き返していた。廠舎での事件から一夜明けた朝、指揮所天幕ではリグ、カイ、ラウラと、ノーリズが集まっている。議題はもちろん、死亡した2名についてだ。

 

「ええ。あの2人はどういうわけか突然希死念慮が発生し第48打撃任務部隊廠舎にて自殺を図った。そういうことにしようかと」

「別にこちらとしても異存はないが……お前はそれでいいのか?」

 

 リグがノーリズにそう尋ねる。拍子抜けというか、こちらの思い通りにことが運びすぎて不自然さを覚えた。

 

「いいも何も、それ以外の処理のしようがないでしょう。2人とも撃ち抜いた弾丸の線条痕は自分で携帯していた拳銃のものと一致、拳銃自体は自分で握った状態で死亡。自殺と判断して矛盾はない」

「私らがぶっ放して握らせたとは考えないのか?」

「立証できんでしょう。『疑わしきは罰せず』、ですよ」

 

 ノーリズは肩をすくめる。この様子から察するに指紋照合も弾道解析も無駄だったのだろう。ニンフの頭脳ユニットにある記憶領域を閲覧すれば一発だが、それは憲兵本部長の許可が必要であり、憲兵ですらないノーリズら9SBnには許されていない。

 

「だからこんな面倒な真似したくなかったんですがね」

 

 と、ノーリズは半ば独白のように言う。

 

「意外だな、あれだけ偉そうな口を叩いていた奴から出る言葉とは思えんが」

「本音と建前ってあるでしょう、それですよ」

 

 リグにそう答えながらパイプ椅子の背もたれに寄りかかるノーリズ。確かに、今のところ9SBnやその指揮下に配置されている10SBnが率先して憲兵まがいな真似をする動機は見えてこない。

 

「上からの圧力だったんですよ。もっとも師団長には仰指入ってないっぽいですが」

「おいそれ喋っていいのか?」

「独り言ですよ。主導したのは特務師団司令部のフーヴァ作戦参謀だそうですが、まああの人の思いつきじゃないでしょうね」

 

 そこまで仕事できる人じゃないですし、そう付け加えることもノーリズは忘れない。毎度毎度この余計な一言を敢えて付け加えるところは鼻につくが、それはそうとして気を利かせた独(・)り(・)言(・)ができる程度には話が分かるらしい。

 

「じゃあこれも独り言なんだが、私はさらに上の陸上総軍が怪しいと踏んでる。指導部内にいるニンフの差し金ならこんなまだるっこしい真似せずに憲兵本部を投入してくるはずだからな」

「随分つまらない独り言ですね、お休みになられては?」

「この野郎……」

 

 アルカンド・アクロバットチームの曲芸飛行並に態度を急旋回させたノーリズ。リグは青筋を立てるも、それはそうとしてノーリズの言葉の意味は理解している。

 つ(・)ま(・)ら(・)な(・)い(・)独り言。その内容に特に注目すべき事項がないということは、つまりノーリズもその程度のことは既に承知しているということである。

 

「喋りすぎましたね、とりあえずこの件はそういうことで」

 

 そう言うとノーリズはさっさと荷物をまとめて指揮所天幕を出ていった。

 残された3人はほとんど同時に安堵のため息をつく。事情聴取時からミラの存在を口裏を合わせて徹底的に隠していたこともあり、ミラに話題が行くことはなく決着となる。

 

「バレたらどうしようかと思いましたよ、ミラちゃんのこと」

 

 ラウラがそう言う。ラウラはレッドアックスの隊員ではないが、今回の件で41後支に話を通す際にミラの存在についても話してある。

 

「そのミラちゃんのことなんですが……」

「何かあったのか?」

「いえ、ケガとかそういうのはありませんでした。ただ、検査の過程で判明したことがありまして」

 

 レポートを手に話題を切り出すカイ。その普段見ることのない複雑そうな表情に、リグは訝しんだ。

 

「あの子、ニンフの頭脳ユニットに遠隔接続できるらしいんです」

 

 その一言はリグやラウラを愕然とさせるには十分だった。そんなものは外界とシャットアウトされた端末に侵入するようなものである。

 

「ご存知の通り、我々ニンフの頭脳は高性能コンピュータとも言うべきもので、通常スタンドアロン状態で稼働しています。しかしながら、これが外界と接続することがあります」

「拡張頭環を用いた介入か」

「その通りです。拡張頭環という外部装置を用いた特殊な信号の送受信により頭脳、身体制御系に介入することで、我々ニンフは鎧殻を扱うことになります。ところがミラちゃんはこうした外部装置なしに、この信号の送受信による介入を遠隔操作で再現できるようでして」

 

 報告を聞いてリグはこめかみを揉んだ。ラウラも顎に手を当てて考え込む様子である。

 この報告が事実なら、ミラは法外なハッキング能力を自在に操れることになる。スタンドアロンであるニンフの頭脳に遠隔接続できるなら、自動機械やその他の端末へのアクセスなど造作もないだろう。

 

「もちろん、制約はあります。同時多目標への接続は困難であること。信号の送受信が可能な通達距離内に対象がいること。そしてニンフに接続するためには目(・)を(・)合(・)わ(・)せ(・)る(・)必要があることです」

 

 ミラの能力による遠隔接続は強烈に演算リソースを消耗するらしく、厳密な数は不明ながらいくつものニンフを同時に接続するとミラ自身の脳がパンクするのだという。また、信号が届かなければ意味がないので遠すぎる目標には接続できない。

 そして3つ目の制約。ニンフの頭脳がスタンドアロン状態で稼働していることはカイの説明の通りであり、それは電子的にはもちろん、物理的にも頭蓋骨に守られていて外部の信号を遮断している。接続にはこの頭蓋骨を迂回する必要がある。

 またニンフは視覚について、眼球が感知した映像を頭脳に流して処理することで認識している。この信号の経路を用いて接続するらしく、原理は不明ながらそれを解析するのに目を合わせるのが最適なのだそうだ。

 

「じゃああの2人がいきなり自殺したのも、ミラと目を合わせたから?」

「そうなります。ミラちゃんはあの2人を『敵』だと思ったんでしょうね」

 

 で、殺したと。カイの一言で空気がさらに重くなる。

 ミラが暴走したら他のニンフや自動機械では太刀打ちできない。対処法といえば目を合わせないことぐらいだろうか。目元を覆うタイプの拡張頭環でも使えば別かもしれないが。

 

「差し詰め『電脳戦型』ってことか」

「言うなれば、そんなところでしょう。まあカルラドがついてますし、あの反応を見るにミラちゃんも自分が何やったのかは自覚してるみたいなので、今後あの子が能力を濫用することはないと思います」

「……そういえば、ミラはカルラドにえらく懐いていたな。取り上げたのがあいつだったにしても不自然なぐらいに」

「それもあの子の能力によるものだと思いますよ」

「何?」

 

 リグの疑問に、カイが答える。とはいえ推測の域を出ませんが、そう前置きを挟んで。

 

「カルラドがあの子を取り上げた時、生まれる直前あの子と目を合わせているらしいんですよ。多分その時にあの子も無意識に能力を使ったんでしょうね。それでカルラドと繋がった」

「それがどうしてああも懐く理由になる?」

「ミラちゃんの能力は『遠隔接続ができる』ことです。それは自分と他人との間にアクセスする経路を形成することであって、必ずしも一方向なものではないのかなと」

 

 信号の送受信により遠隔接続し、遠隔操作までも行うとなれば継続的な受信も必要になる。その受信した信号にミラ自身が影響されてしまう可能性もまた、この能力は持ち合わせていた。

 

「あの時ミラちゃんはカルラドの中の情報を取り込んでしまい、何らかの処理がされた結果カルラドを『ねーさま』と呼び慕うに至ったのではないかと考えてます」

「……ミラから遠隔接続しても、その経路を逆手に取られたら逆にミラの方が操られるかもしれないってことか」

「おそらくは」

 

 リグはこめかみにあてていた手を後頭に移し、髪をかき回した。どうやらリグ達は、予想以上に大変な子を拾ってきてしまったらしい。

 

 

 

 大脊柱。ホド全体を縦に貫くような形で各層のほぼ中心にそびえ立つそれは、中層においてはギプロベルデの根拠地として知られている。

 同時に、上下層への移動用エレベーターが集中する場所でもあり、それ故に戦略的価値は極めて高い。ガーディナの開戦事由もこれが本命だったのではないかと言われるほどだ。

 そしてこれがギプロベルデの戦力配分を悩ませる種にもなっていた。下層は異形、上層はアルカンド内の反中層派やアゥラム原理教団とかいう連中の脅威が直近で存在する。エレベーターはそうした連中の絶好の進入路となり得る。

 だからこそ大脊柱内にいるギプロベルデ第1親衛軍はエレベーターに対しても防御陣地を構築していた。

 

「つかなんだよ『アゥラム原理教団』って」

 

 防御陣地で警戒にあたる兵が相方に愚痴をこぼす。

 

「アゥラムってあれだろ、あっち(アルカンド)の掛け声みたいなもんだろ?」

「なんでもアゥラムって言い続ければ死んだ後いい感じなとこに行けるんだと」

「なんだそりゃ」

 

 相方の返事にギプロベルデ兵も首を傾げるしかない。アルカンドですらアゥラム原理教団の教義は色眼鏡で見られており、道行くニンフ達に辻斬りのごとくアゥラムと声を掛ける様をして「あいさつ運動」と揶揄されているのだが、それは2人には知る由もない。

 そんな時、鈍い重低音が突如響きだす。ギプロベルデ兵達に緊張が走った。音の出所は他でもない、眼前のエレベーターだ。

 兵の1人が制御モニターを見ると、下層から中層へと昇ってくるエレベーターがある。

 

「下層からだ!」

「くそっ異形かよ」

「戦闘配置!」

 

 慌ただしく火器を準備する兵達。積み上げた土嚢の上にはニンフでさえ携行困難な60mm機関砲が据え付けられ、その他の火器もその銃口をエレベーターのシャッターに向ける。

 

「下から来たってことは異形、遠慮はいらん!自由射撃だ、シャッターが開いたら撃て!」

 

 指揮官の命令が飛び、兵達はそれを聞いて安全装置を解除する。

 ガーディナとの戦争が始まって以来、このエレベーターを使って誰かが中層に入ったことなど一度もない。エレベーター監視部隊にとってはほとんど初めての実戦だ。

 ガンッ、という音が響く。エレベーターが到着したのだ。引き金に指をかける兵達の額に流れる冷や汗、ほんの数秒の静寂を破ったのは、シャッターの開放音でもなければ先走った誰かの発砲でもなかった。

 

『ギプロベルデの皆さま!わたくしは敵ではありませんわ!今からシャッターを開けますから、どうか撃たないでくださいまし!』

 

 全周波数帯で無線で呼びかけてきた何者かは、その宣言通りにシャッターを開け始めた。

 とりあえず撃ち方待てをかける指揮官。そんな彼女らの前に姿を現したのは、2機の鎧化兵だった。

 

「突然の来訪、失礼致しますわ。わたくしはナガラ幕府、外窟奉行のカナデと申します。こちらは護衛をしてくださっている下層連合軍事参謀委員会のレンリ警備官ですわ」

 

 ナガラの鎧殻を装備したニンフがそう名乗る。状況にそぐわぬ明るい笑顔でいる彼女とは対照に、ギプロベルデ側は啞然としていた。

 

「ナガラ……幕府?」

「下層連合って何だ……?」

「ナガラは滅んだんじゃなかったのか?」

「のー!ですの!」

 

 カナデが叫ぶ。そう、ナガラが滅んだというのは誤りだ。少なくともカナデにとっては。

 

「確かにナガラは一度、母樹たる女王を失いましたわ!でも新たな女王のもと再興を果たしたのです!」

「それ一回滅んだって言うんじゃ……?」

「とにかくナガラは復活したんですの!って、そんなことを主張するために来たのではありませんわ」

 

 カナデは我に返る。大変未練のありそうな表情ではあったが、それよりも優先すべき使命があるのだろう。

 

「わたくし、カナデは下層連合の……えっと、けんぜんたいし?」

「全権大使です」

「そうそれ!『ぜんけんたいし』として、中層の覇権を握るギプロベルデ及びガーディナに対し、『きどーえれべーたー』を『けんぞー』するための『こーしょー』をしに参りましたの!」

 

 護衛であるレンリのサポートを受けつつそう宣うカナデ。どう考えても単語の意味を理解していないであろうその様子に、指揮官はため息をつきながら内線電話を取って状況を報告する。一応、使節であるなら無下にするわけにもいかない。

 

「……はぁ、まあ陛下がそう仰るのであれば。はい、了解しました」

 

 今一つ煮え切らない返事をして受話器を置く指揮官。なんとも腑に落ちないというか微妙に納得がいかなそうな顔をしながら、兵達に武器を下ろさせた。

 

「女王陛下がお会いになるそうです。こちらへ」

「まあ!こんな突然の来訪にも応じてくださるとはなんと聡明なお方なのでしょう」

 

 全く何も考えてなさそうなカナデと、一貫して無表情なレンリは指揮官の案内で、大脊柱のさらに奥に進む通路へと誘われていった。

 戦闘配置を解いて持ち場に戻る兵士達。疑問符は全員が共有するところである。

 

「きどーえれべーたーって何だ?」

 

 

 

 中層上空。ほぼ天井すれすれの空域で、レームは専用支援機とのドッキングを果たしていた。

 

『手ひどくやられたね』

 

 ニンフとも他の自動機械ともつかぬ謎の生物的な外観をした自動機械は、修理を開始しながら無線でそう話しかけてくる。全く無駄な機能だが、教会長は何を考えてこんな機能を持たせたのだろう。

 

「ガーディナ軍にあれほどの実力者がいるとは聞いていない」

『情報部も詰めが甘かったんだろうね。しょうがない、そういうこともあるよ』

 

 レームのせいじゃない。そう慰めてくる支援機だが、それがやけに引っかかる。ささくれだった心を刺激されるような感覚だ。

 そんな機能は実装されていないはずだが。

 

「……修理を急げ」

『ふふっ、はいはい』

 

 何が可笑しいのか、支援機はそう笑って返してくる。もっとも、急かしたところで支援機の修理速度は変わらない。

 

『ねえ、レーム』

「何だ?」

『これ、覚えてる?』

 

 唐突に話しかけてきた支援機は、ひとつ鼻歌を聞かせた。何の曲なのか、全く見当もつかない。

 

「記憶にない」

『……そっか。もう覚えてないか』

「説明を要求する。今のは?」

 

 レームは尋ねる。任務に関係する情報かどうかは聞いてみないとわからない。

 だが結局、「なんでもない」とだけ言って支援機は話題を切り上げてしまった。

 代わりに支援機が切り出したのはまた別の話題。彼女達自身のこと。

 

『レームは、私達がここに来た理由、知ってるよね?』

「教会長閣下がお遣いになられた偵察機(Edn001 G12 Trius)が消息を絶ったから、だな」

 

 レームは即答する。本来この偵察機が担うべき役割だった『他層への観察』という使命は、この偵察機の交信途絶(SIGNAL LOST)により急遽レームら近衛騎士隊へと引き継がれた。

 原因は、未だ判然としない。撃破されたのか、事故死したか。そもそも死んだのかさえわからないままだ。

 

『その偵察機の信号、一瞬だけだけど拾えたの』

「確かか」

『うん。短すぎて逆探知はできなかったけど、信号強度からみて中層にいることは間違いない』

「教会長閣下に報告は?」

『もちろんしたよ。『現状任務を維持せよ』だってさ』

「……そうか」

 

 レームは肩を落とす。無意識にやっているのだろうが、偵察機の救出を望んでいるのは目に見えてわかった。

 とはいえ、彼女達にもとより選択肢なるものは存在しない。信仰に身を捧げ、教会の防衛機構に組み込まれた彼女達の人格データは一定周期で更新される。次のアップデートの時にはもうそんな感情すら残っていないかもしれない。

 

『……はい、修理完了。ついでにガーディナの部隊も見つけといたよ。ずいぶん上手く隠れてるね』

「了解。次はそちらを攻撃目標とする」

『もう観察じゃないね、これ』

「教会長閣下の描いた世界からかけ離れているのなら、その要因を取り除くのもまた我々の使命だ」

 

 ドッキングを解除して、レームは変形、急発進する。いずれにせよ、ガーディナかギプロベルデのどちらかを打倒しなければ下層に降りることすらままならないのだ。

 ならば撃滅して見せよう。その志だけを胸に、レームはガーディナ第3混成団主力がいるマツノキ集結地目掛けて飛翔した。

 

 

 

「レーダー目標探知、方位角5251、距離28000、高度4800、進行方向2051、時速180km」

「どこから湧いて出た?識別!」

「応答なし」

「敵機と認定、目標アルファと呼称!対空赤警報!」

 

 第3混成団主力の対空指揮所は蜂の巣をつついたような騒ぎとなっていた。

 集結地付近の上空に突然現れた反応は味方の識別信号を出していない。このホドにおいて、味方でないならそれは敵と同義だ。

 しかもそんなものが集結地目掛けて真っ直ぐ向かってきている。警報を鳴らさない理由がない。

 けたたましい警報音が隊員達の無線機を駆け回り、電話機の呼び出し音が各指揮所に連発する。

 

「MGーッ、配置つけーッ!」

「対空戦闘、目標アルファ、射撃部隊1中隊、命令送信」

 

 地対空ミサイルの発射機(LAU)が立ち上がり、対空機関銃陣地に兵士が入って重機関銃を空へ向ける。

 慌ただしいのは集結地最奥にある混成団本部も例外ではなかった。

 

「各対空陣地は敵機を視認次第各個に対空戦闘を展開!その他の部隊は偽装を徹底せよ!」

 

 混成団副長の怒声にも似た命令が飛ぶ。第10混成団、第5戦闘団が立て続けに壊滅し、前進停止命令を受けて3時間。遂に方面軍左第一線となる第3混成団にまで敵の手は伸びてきた。

 

「団長、敵はやはり例の未確認航空機と推測されます」

「そうでしょうね」

「ネットランチャーとハープーンガンを用意させます」

「ええ。そうしてください」

 

 副長の意見にそのまま頷くモーン。彼女が副長の意見に異を唱えたことはない。

 ただ序列を確認するだけのやり取りを手短にして、副長はその通りの命令を飛ばす。

 一方、主戦闘地域においては既に防空大隊による対空戦闘が展開されていた。

 

『31、51LAU発射準備完了』

『発射準備完了了解、号令送信』

『11LAU発射確認、射撃継続中』

 

 放たれた地対空ミサイル(SAM)が群れを成して敵機に襲い掛かる。しかしレーダー上のフラップは常にSAMの機動の一手先を飛んでいて、白い線をいくら生贄にしても消えることはない。

 

『ミス!命中ならず、目標健在!』

『撃ち続けろ、近付けるな』

『防空戦車(ADTK)各車!データリンクで目標は追えているな?射撃用意!』

 

 中距離、短距離の各種SAMによる防空網が抜かれると、というよりは抜かれる前に、集結地各所に展開するADTKが砲塔を一点に指向し始める。

 ADTKに車載された短距離SAMが、レーザー照準にてその目標をとらえた。大分迫られている。

 

『レーザーオン!撃て!』

 

 レーザー誘導型の短距離SAMが撃ち出される。フレアディスペンサーを搭載していたとしても熱源誘導方式でないのなら意味はない。

 すると敵機はミサイルを発射してこれに応じた。特徴的な緑の光を帯びて飛翔する小型ミサイル達はレーザーSAMに命中するや爆発とともに強烈な電磁波を放ち、他のSAMのレーザー誘導も阻害していく。彼我の装備の原理を知識として心得ていなければ、そして眼前にあるそれが知識にあるうちのどれなのか判別ができなければ成し得ない芸当だ。

 

『クソッタレ、機関砲に切り替えろ!弾種エアバースト榴弾(AHEAD)、各個に撃て!』

 

 通常型ニンフ兵2名を収める砲塔が射撃管制レーダーに連動して旋回し、両側の35mm機関砲が空を睨む。射程に入ったのを見計らい、砲手(ガーナー)がトリガーを引き絞った。

 刹那車外から連続して鳴り響く発砲音。放たれた35mmの砲弾は信管のレーダーに反応があり次第起爆するレーダー近接信管を採用しており、実際敵機に近付いた砲弾はその仕様の通り起爆して見せる。

 だが敵機の回避機動が素早く、その爆風もほとんど意味を成していなかった。数発ごとに混じった曳光弾が織りなす光の鞭が、敵機を追ってしなっては時折爆発で空を彩るのみである。

 結局防空大隊は敵機を撃墜できなかった。対空陣地に肉薄した航空自動機械と思しきそれは変形しながらADTKを蹴り飛ばして着地した。

 特徴的な4脚、巨大な装備、そして中央のニンフ。巨大鎧化兵と呼ぶべきそれは、この後第5戦闘団に対して行った以上の虐殺を始めることになる。

 

 

 

 集結地の外れにあるいつものビルの屋上。気分転換にリグはまたこの場所にやってきていた。

 層間連絡路にあった謎の施設、突然乗り込んできた特務師団隷下部隊、ミラの能力、そしてアンジェが言い残した『あの因子』、『イレギュラー』という言葉。どうにも頭痛の種が多すぎる。

 

「誰ぞパパっと解説してくれる奴でもいればなぁ……」

 

 ひとつ愚痴をこぼし、手すりにもたれかかって景色を眺めながらコーヒーを飲む。弱気なところは部下には見せられない。なればこそ、こんな辺鄙なところで油を売っているわけである。

 とはいえいつまでもこうしているわけにもいかない。リグが一兵卒だったならばいざ知らず、今の彼女は分駐部隊を取り仕切る指揮官。少なくとも長期不在にしていいポストではない。

 コーヒーを一気に飲み干して、指揮所に戻ろうと振り向いた。そんなリグの目に異様なものが飛び込んでくる。

 屋上のほぼ中央、先程まで何もなかった場所に、1脚のパイプ椅子が展開されていたのだ。

 パイプ椅子が音もなく勝手に生えてくるはずもない。リグはホルスターから拳銃を抜いて周囲を見回す。こんな場所に来るのは精々ルーシぐらいのはずだ。

 

「ルーシか?妙ないたずらはよせ、下手に飛び出して来たら撃つぞ」

 

 そう声を張り上げるも、応答はない。――否、その返事はまず言葉ではなく、突然背後から喉元にナイフを突き付けられることによってなされた。

 

「へぇ。ここに来てたお友達、ルーシちゃんって言うんだ?」

 

 耳元で囁くその柔和な声に、リグは聞き覚えがあった。というよりは、聞き慣れていたというのが正しいだろう。どちらにせよ聞きたくはなかったが。

 ゆっくりと、首が刃に触れぬよう振り向くリグ。背後にいたのは灰色の髪をし、一見おっとりとした印象を与える優し気な表情をたたえたニンフだった。

 ガーディナ軍総司令官、ハレイである。

 

「久しぶり、リグちゃん。随分な体たらくだね」

「否定はしませんよ、衰えを実感する歳なもんでね」

「そうは言っても私より全然若いじゃない。訓練を怠っちゃダメだよ」

 

 そう言われてリグは言い返そうとはしなかった。実際、霧にいた頃に比べて実力は落ちているだろうし、それを補おうと特段努力した記憶もない。

 それに、そもそも話の本題はそこにないことぐらい、リグも心得ている。

 

「私に何用で?」

「うーん、別に私的には君に用件なんかないんだけど。顔が見たかっただけ。ただそうだね、君は私に聞きたいことがあるんじゃないかな?」

「例えば?」

 

 聞き返すとハレイは微笑んで、パイプ椅子を顎で示す。座れ、ということらしい。

 喉元にナイフを突きつけられては落ち着いて話もできない。とりあえず従って、椅子に腰かける。そのすぐ真後ろに、ナイフをしまったハレイが佇む。

 

「イレギュラー。聞いたことあるでしょ?」

 

 話しかけながら、ハレイは両手をリグの戦闘服とボディアーマーの間に挿し込む。服の上からリグの豊満な胸を撫でまわし、鎖骨、首筋、頬へ、優しい手つきで少しずつ上に撫で上げていく。

 

「貴方もその1人。気にならないなんてこと、ないはずだよね?」

 

 そう確かめるように囁いて、ハレイはリグの髪を束ねているヘアゴムを外した。

 

「久しぶりに、話そっか」




・カナデ
 ナガラ幕府外窟奉行。
 旧ナガラにおいては実際の戦闘能力が序列を決めていたのに対し、現ナガラは『血筋』という産出シリーズによっておおよその序列が決められる。
 カナデは極めて高位の血筋にあるニンフであり、それ故に高い地位、装備、教養を与えられてきたものの、その実力は良くも悪くも箱入り娘相応と言わざるを得ない。
 与えられるのと、身に着けるのは、全くの別物である。

機動外肢   :Type09 CF Kashima
拡張頭環   :Type09 CF Kashima
砲架副腕   :Type09 CF Kashima
加速翅    :Type09 CF Kashima
特技背嚢   :Type09 CF Kashima
主腕部武器 壱:TYPE36 LBS Kanehiga
主腕部武器 弐:Type20 DSG Wagana
副腕部武器 右:-----
副腕部武器 左:-----

顔部:F0433_YAM_FC
後髪:F0012_FOX_BH
前髪:F0433_YAM_FH
素体:ナガラ通常素体

【挿絵表示】


【挿絵表示】


【挿絵表示】




・レンリ
 下層連合軍事参謀委員会理事局警備第3課外事警備官(正)。
 軍事顧問として下層連合に参加するコロニー『ヘイデン』の出身で、かつてその偽装、潜伏能力の高さから『カメレオン』、『透明な死神』などの異名で恐れられた傭兵。第一線を退いた今でもその戦闘能力に衰えは見られない。
 なおヘイデンから下層連合に出向する者は配備先地域にかかわらず、下層連合のイメージカラーである青と白の装具の着用が義務付けられている。

機動外肢   :A12C2 Salnas
拡張頭環   :A10C4 Fosbia
砲架副腕   :A12C2 Salnas
加速翅    :LCF06v4 Epona
特技背嚢   :A9C2 Valdol
主腕部武器 壱:GPR22v4 ArrowHead
主腕部武器 弐:LVB09v1 Balmung
副腕部武器 右:LCF05v2 Gungnir
副腕部武器 左:LCF05v2 Gungnir

顔部:F3309_TTK_FC
後髪:F3158_NYC_BH
前髪:F0551_NAG_FH
素体:ヘイデン通常戦闘素体

【挿絵表示】


【挿絵表示】


【挿絵表示】
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。