Irregular   作:ノキシタ

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 続いちゃった……()

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1-1 有線構成任務

 ガーディナやギプロベルデのある中層には空と呼べるものがないらしい。

 そんな訳あるかとリグは思う。雲はあるし、大型航空機が好き放題飛び回れる高度もある。確かに厳密な空ではないかもしれないが、偽りでも空と呼んでいいんじゃないか。

 そんな空間を眺めながら、リグを始めとしたレッドアックスの隊員達は車両に揺られていた。外郭224区での戦闘から21時間後の昼下がりである。

 

「隊長、間もなく作戦地域に入ります」

「あいよ」

 

 後ろに並ぶカイにサムズアップで答える。ガーディナの鎧化兵輸送車(CT T86A2 COW)は自動操縦であり、荷台部に鎧化兵を最大8機、縦隊に並べて搭載する。大変窮屈だが、鎧殻の嵩張る鎧化兵をより多く、より小回りよく運ぶには仕方がないことだと現場は割り切っている。

 荷台部の仕様もいろいろあり、リグが今回借りてきたのはオープントップ型だった。他にはコンテナ型だったり、骨組みだけのスケルトン型があったりする。

 

「アックス、最終確認だ。現在、我が第3混成団は大脊柱南東地区を制圧中であるが、混成団本部と前方指揮所(ACP)を繋ぐ有線ケーブルが敵の砲撃により断絶している。

 我が隊はこれを復旧し、混成団の作戦指揮に寄与する」

 

 リグの説明した任務内容を隊員達は余裕そうな様子で聞いていた。欠伸している者さえいる。

 これまでレッドアックスに課されてきた任務はいずれも最前線での戦闘任務だった。それが今回、比較的後方での有線構成だけとなれば、敵もいないし楽勝だろう。

 ただ1人、カイだけはその任務内容を訝しんでいたが。

 

「到着し下車次第ペーネとロペは有線の復旧作業。グスタとフカールは周辺警戒。クスイとカイは無線アンテナ設置、細部は現地指示する。質問?」

 

 真っ先に挙手したのはコールサイン、アックス21のクスイだった。

 通信兵であり隊で1番の食いしん坊で、道端に落ちてる生体部品も美味しそうに食べる様から『3MB(第3混成団)の残飯処理機』の異名があった。生存自活には向いているだろうがとても褒められたことではない。

 

「なんで今日増加食(おやつ)ないんすか?」

「楽な仕事なんだからその分補給剤も要らんだろう」

「そんなんじゃ力が出ないっすよ」

「じゃお前がおやつ(生体部品)になるか?」

「すんませんした」

「よろしい。他?」

 

 次に手を挙げたのはコールサイン、アックス45のペーネ。斥候兵だ。

 統合火力誘導教育を修了しており、彼女のコールサインと要求コードであらゆる砲爆撃が要求できる。一方で偽装や潜入といった斥候の能力が壊滅的に低い。何故斥候兵として回されてきたのか。

 

「こっちの正面への火力配当は?」

「ない。まあドンパチする任務じゃないからな」

「うす……」

「なんで不満そうなんだ……他?」

 

 お次はコールサイン、アックス46のロペ。狙撃兵であり、主腕武器の(プライマリ)スナイパーライフル(SR308 A6 AwlPike)(セカンダリ)ハンドガン(HG002 A3 Keris)を装備している。

 狙撃の腕自体はいいのだが視力が極端に低く、常に視力補助用のメガネをかけている。そしてメガネを外すと途端に暴走する。メガネで人格を切り替えないでほしい。

 

「どうして現実はいつも辛く苦しいんですか?」

「今日は楽だぞ。喜べ」

「わ、わぁい」

 

 質問の挙手はまだ続く。アックス57、グスタが手を挙げた。

 歩兵、わけてもポイントマンの類で、壱にショットガン(SG T34A1 TOZ)、弐にサブマシンガン(SMG T12A2 VADT)を装備する。

 兵科初期教育を出たばかりの文字通りの新兵で、大きな音が怖いのか射撃する度に目を閉じる癖がある。お陰で射撃精度はすこぶる悪い。

 

「きょ、今日カイ副長のお誕生日って本当ですか?」

「違うぞ。どこ情報だそれ?」

「た、旅商人さんから聞いた話で……」

「その商人後で締め上げときます」

「そうしてくれや」

 

 手の骨を鳴らすカイ。ちなみにカイの兵科は衛生兵で、何人もの隊員達を救ってきた。

 裏を返せばそれだけニンフの身体的限界を熟知しているわけで、カイの前では生半可な仮病は通用しない。

 最後に挙手したのがアックス69、機関銃手のフカール。壱にライトマシンガン(LMG056 A3 Scutum)を入れている。

 戦闘能力だけならカイにも並ぶ隊員だが、人格とトレードオフしている。具体的にはセクシャルハラスメントの常習であり、一部界隈では『レズビアン・マゾヒスト・ガール(LMG)』の悪名で知られる。勘弁してくれ。

 

「隊長ぉ〜、今日は何色のおパ――」

「黙れ口を閉じろ下ネタ大魔神」

「あぁん、今日もキレッキレぇ!」

「きっしょ……ほら、もう着くぞ」

 

 隊員達と馬鹿話しているうちに、輸送車は目的地に到着した。乗降ハッチが開放されると、リグを筆頭に荷台部から飛び出した。

 加速翅を使った高速機動で、輸送車からどんどん離れていくレッドアックス。輸送車はそのまま集結地へと帰還し、次の任務へ向かうだろう。

 

「さっき確認したことは覚えてるな!ペーネとロペは有線復旧、グスタとフカールは周辺警戒!

 クスイ、前方300、赤いタンクの付いたビルの屋上にアンテナを立てろ!各自機材は持ってきたな!」

「イエッサー!」

「よし、各自行動かかれ!」

 

 リグの命令一下、7機の鎧化兵が散開する。先ほどまでの不真面目な様子は鳴りを潜め、しっかり2人1組で行動していた。

 練度の低さと学習能力は必ずしも比例しない。部下達は腕前こそまだまだだが、昨日の戦闘から学び得たこともあったようだ。

 

 

 

 リグがクスイに指示した建物は、老朽化しているとはいえ未だに直立していた8階建てのビルだった。

 この辺りの地域は5階以下の建物が多く、ここなら一帯を瞰制下に置けるし通信もしやすい。

 屋上でクスイにアンテナと無線ネットワークを構築させている間、リグとカイは8階の一室にいた。

 

「隊長。今回の任務、隊長が仕組みましたね?」

 

 カイは2人きりになるやそう切り出した。

 今まで最前線での戦闘任務しか来なかったレッドアックスが、何の前触れなくこんな雑用任務に回されることなど、普通なら考えられない。

 リグが混成団本部でゴネたか、命令書そのものを偽造したかの2択が有力である。

 

「やっぱお前にはバレるか」

 

 ばつの悪そうにこめかみを揉むリグ。無論想定していなかったわけではない、言い訳はいくつか考えていた。

 

「団本でひっくり返って地団駄したら変え――」

「であれば昨日帰ってきた時のあの不景気そうな顔に説明が付きませんね」

 

 言い訳第1弾は早速叩き潰されてしまった。やはりこの副長に嘘は通じない。

 着任してからこの方、一度としてカイ相手に嘘を貫き通せたことがなかった。

 これでは他の言い訳も無意味だろう。リグは腹を括り、カイに本当のことを話すことにした。

 

「……カイ、手を出せ」

「何故です?」

「いいから」

 

 カイは訝しみつつも、上官の言う通り左手を差し出す。行動理由を不可解に思いこそすれ、自らの隊長を信用していないわけではなかった。

 カイの左手をリグの左手が握り、接触暗号通信が始まる。

 

『接触暗号通信、ですか?』

『そうだ。あまり人に聞かれたくないんでな』

 

 話しながらリグは部屋の入り口と窓の外を確認し、盗聴、盗撮のないことを確認すると、本題にかかった。

 

『まず、これを見てみろ』

 

 その言葉と共に、映像が送られる。リグがレジーナから託されたものだ。

 

『ウィルススキャンはかけてあるから安心しろ。

 で、このレジーナとかいうのは、妹であるギリー・ベルの脱出を手助けしてくれと言ってる』

『助けるつもりですか!?』

『もちろん』

『何故!?』

 

 突拍子もないリグの言葉にカイは驚きを隠せない。

 一応表情モジュールへの信号は切ってあるが、そうしていなければ驚きは顔にも出ていたであろうことは想像に難くない。

 

『なあカイ。私ら、今まで何人殺してきた?』

『いきなり何です?』

 

 誰とも知れない敵を救助したいと言い出して、次は突然この質問。カイの処理能力が圧迫されてきた。

 そんなカイに、リグは自らの心中を語る。

 

『私らは殺すことしかしてこなかったんだ。

 それで本土にいる幼精達に顔向けできるか?

 普段何してるか胸張って言えるか?

 敵をとっ捕まえてバラして部品にして食ったと、動けなくなった鎧化兵に焼夷弾ぶち込みまくって焼き殺したと、迷子になってた敵の幼精の腹掻っ捌いて敵誘き出してたと。

 そんなもん、()()()()()()()()()()()()()じゃない。

 最低限、幼精達の前では誇れる兵隊でありたいんだよ、私は。たまには人助けしたってバチあたらんだろう』

『しかしそれは……』

 

 ただの自己満足じゃないか、そんなことはリグとて百も承知だった。

 だが、リグの意思が揺らぐことはない。

 

『その自己満足で救える命があるなら万々歳だろうよ』

 

 それに、とリグはニヤリと笑って付け加えた。

 何か良からぬ企みをする時の笑みだった。

 

『なんか面白そうじゃん?』

『はぁー……』

 

 思わずため息をつくカイ。表情モジュールとはリンクしていないので、真顔のままため息をつく様は少しシュールでもあった。

 

『……わかりました。隊長のご意思は固そうですね』

『ああ、だからこのことは黙――』

『私もお供させて頂きます』

『……はい?』

 

 今度はリグが唖然とする番だった。

 この副長は正気だろうか。明確な軍規違反に自ら加担すれば極刑もあり得るというのに。

 

『このまま隊長を放っておいたら何しでかすかわかりませんからね。

 そうだな、皆!』

 

 皆、という言葉に、リグはぎょっとした。まさかこの暗号通信の内容を無線で流していたというのか。

 しかし部隊のチャンネルには流れていないはず。そう考えた時、隊員達の声が聞こえた。

 

『こちらアックス21。バッチリ聞こえてましたよ、勿論お供します』

『こちらアックス45、私も隊長の意見に賛成です』

『アックス46、右に同じく』

『あ、アックス57。わ、私も隊長に付いていきたいです』

『付いていきたいじゃなくて、付いていきます、でしょお?

 アックス69、隊長と添い遂げる覚悟ですわ』

『お、お前達、何で聞こえてたんだ!?』

 

 珍しく驚きの表情を見せるリグに、少し愉快そうに笑いながらカイが種明かしをした。

 

『いいですか隊長、このレッドアックスには、隊長含めた全員が加入する部隊チャンネルと、隊長以外の全員が加入する下士官・兵チャンネルがあるんですよ』

 

 下士官・兵チャンネル。元々は上官に話しづらいことを先任の下士官に相談したりするために試験的に設けられたチャンネルだが、多くの部隊では上層部や上官への愚痴に使われていた。

 カイは接触暗号通信をこの下士官・兵チャンネルに繋げ、隊員全員に今の会話を全て聞かせていたのだ。

 

「隊長」

 

 最早隠し事も必要あるまい、カイは接触暗号通信を解除し、それでいて手は握ったまま、リグを真っ直ぐ見据えた。

 

「隊員達を信じてやってください。

 そうすれば我々は、どこにでも隊長を信じて付いていきます」

 

 カイは決然と言い切る。

 今までの指揮官は、どいつも隊員達を使い捨て、特攻させて自らの手柄にすることしか頭にないクソ共だった。

 新たに着任したリグは違う、初めてのタイプだった。戦力の損耗を嫌い、特攻自爆戦法を嫌い、練度の低い隊員達を戦術でもってカバーする。そして自らもまた、戦地の一兵となって共に戦う。

 隊員達は、リグを自らの上官として相応しいと認めていた。

 

「皆……すまん、ありがとう」

 

 リグはカイの手を握り締めた。初めて()()のありがたみを実感したのが、この時だった。

 

 

 

「それで、隊長。ここに来たのもそのベルって奴のためなんですよね?」

 

 水を差すようではあるが、ペーネが無線で尋ねた。

 

『ああ、そうだった。有線に傍受装置を取り付けたいんだが、断絶箇所は見つかったか?』

「有線の断絶は隊長の仕業じゃなかったんですね」

『被害報告を読んでてたまたま見つけてな。で、見つかったか?』

 

 集結地方面から伸びる有線ケーブルを見つけ、それを手繰っていくペーネとロペ。

 しばらく手繰っていくと、丁度砲弾の着弾跡でケーブルが切れていた。反対側には前方指揮所側のケーブルの切れ端も見える。

 

「発見しました」

『機材の中にルーター見たいなのあるだろ。それを有線に繋いでくれ。

 クスイ、アンテナにバラキューかけとけ』

『了解』

 

 機材袋の中から小さな箱型の機械を取り出し、ペーネは早速有線の接続に取り掛かる。ロペは周辺警戒しつつペーネの補助だ。

 ふと見ると、クスイの方は設置を終えた無線アンテナに多用途偽装網を被せ、偽装を始める。光学、電子、熱探知から中身を隠蔽する使い勝手のよい偽装網だが、その分単価は高く、あまり配備数は多くない。

 現場部隊は全滅した味方部隊から装備を拾得して運用することも多かった。

 

「アックス45、有線構成完了。埋設にかかります」

『了解、ペーネとロペは作業完了次第こっちに合流しろ』

「了解」

 

 命令を受け、ペーネは折りたたみ式の携帯シャベルを展開する。そこら辺の土を乗せ、構築した有線ケーブルに被せようとして、その手はふと止まった。

 

「……なあロペ」

「なんですか?」

「ここ、砲弾が落ちたんだよな?」

 

 言いつつ、ペーネは顔を上げる。正面遠方には大脊柱がそびえ立つ。

 つまりは敵の陣地があり、砲弾もそこから飛んできて、こちらに対し横長の弾着痕を残すはずだ。

 しかしこの弾着痕はこちらに対し、()()だった。

 

「本土の教育で教わったんだが、榴弾砲の砲弾は着弾すると砲からみて横長に弾着痕ができるんだ。無論射角にもよるけどな」

「……この弾着痕は縦長、つまりこの砲弾は敵の陣地から飛んできたやつじゃない、真横――!?」

 

 気付いた時には遅すぎたのかもしれない、拡張頭環 がけたたましい警告音を鳴らす。レーザー検知、被ロックオン警告。

 

「ロペ伏せろっ!!」

 

 叫ぶが早いか、伏せるが早いか、それとも飛んできた多目的対戦車榴弾(HEAT−MP)が2人を吹き飛ばすが早いか。

 155mmの砲弾は、繋がったばかりの有線ケーブルを再び吹き飛ばした。辺りの廃墟諸共に。

 

 

 

 一帯を瞰制下に置くビル8階からも、その爆発はしっかりと見えていた。

 瓦礫が崩れていき、ペーネとロペがいた路地を塞いでいく。

 

「アックス45、46、応答しろ!生きてるか!?」

 

 無線で怒鳴りつけるが応答はない。帰ってくるのはノイズだけだ。

 リグは直ちに敵を探しにかかる。飛んできた砲弾は、リグ達から見てペーネ達の位置よりおよそ800ミル右から飛んできた。リグからペーネ達の方位角はおよそ6000ミル。敵の方向はリグ達から見て400ミル方向に存在する。

 リグ達のビルからペーネ達の位置までは約4kmであるから、従って敵はここから400ミル方向12km先から砲撃してきたということだ。

 拡張頭環で計算を瞬時に済ませてあたりをつけると、案の定その方向から駆動音を唸らせ無限軌道で地面を揺らしつつ、巨体が姿を現すのを確認できた。

 

「ギプロベルデの自律警備車両!?何故こんなところに!?」

 

 カイも敵を認めたようで、驚きを隠せない様子だった。無理もない。正直リグでさえ驚いている。

 ギプロベルデ戦役勃発前、下層に『異形』と呼ばれる連中が大量発生し次々とコロニーを飲み込む事態が生起すると、ギプロベルデは自律型の自動機械を大量に生産、下層と中層の境界に配備して守備させ、また時には下層への調査任務に送り出すなどしていた。

 目の前の、戦車に前脚が生えたような奴もその一種である。本来下層でしか運用されていないものが、対ガーディナ正面に投入されていた。

 今のギプロベルデに新規生産する余裕もないだろう。あれは下層の対異形正面から引き抜いてきたと見るべきだ。

 兎にも角にも、クスイに現地保持を命じて、リグとカイはペーネ達の下へ向かうべく加速翅を唸らせた。

 

「層間連絡路を使って側背に回ったのか」

「しかしその経路は全て老朽化して通行できないはずです!」

「生きてるルートがあったんだろう。今はペーネとロペの救出が先だ」

 

 敵の出現経路に見当をつけ、滑走しながら指示を出していく。

 

「今敵の予測進路を送った!グスタ、先回りして2つ目の交差点で待ち伏せろ!フカールは黄色のアパートの4階で待機!クスイ、ペーネとロペを呼び出し続けろ!カイはペーネとロペを現地確認!

 奴の目の前で止まるなよ、かかれ!」

 

 無線から聞こえる4人の了解の返事。それぞれが行動開始したのを確認しながら、リグは真っ直ぐに自律警備車両の方向へ滑走していく。

 事実として、レッドアックスの中で最も戦闘経験があり練度が高いのはリグである。 その実力は、ギプロベルデ鎧化兵を正面から単機で撃破出来るほどだった。

 

「上手く回れれば、な」

 

 そう独白するリグの頭の中には、既にあの敵を撃破する策がいくつか案出されていた。伊達に最高司令部で参謀をしていない。

 複数案を比較検討し、我の勝ち目と敵の勝ち目を突き合わせ、状況に対する最適解を算出、各隊員毎に指示内容をまとめてデータリンクにアップロードする。

 とはいえ、最後の決はリグの役割だ。自分が敵を止めなければ、隊員達では太刀打ちできない。ここが踏ん張りどころと見て、リグはセカンダリの得物を確かめた。

 

 

 

 ペーネの意識が戻ったのは、砲弾の着弾から2分後であった。

 崩落した廃墟の瓦礫で頭を打ったペーネは気絶していたのである。

 

「くそっ、状況は?……そうだ、ロペは!?」

 

 目を覚まし、仲間を探そうと立ち上がろうとしてペーネは激痛に襲われた。足が動かない。

 見るとペーネの両脚は瓦礫の下敷きとなってしまっていた。これではロペを探すことはおろか、脱出もままならない。

 

「あっ、ペーネさん、目が覚めたんですね」

 

 ロペの声に、ペーネは周りを目で探す。

 以外にもすぐ近くにロペはいた。伏撃ち(プローン)の姿勢で、瓦礫の隙間から何かを狙っている。

 

「状況は?」

「横から撃たれて、今は瓦礫の下の空間に隠れてる感じですね。私は無線機が故障してしまって、連絡が取れなくなってます。ペーネさんの方試してみてもらえませんか?」

「了解」

 

 いつの間にかダウンしていた無線機に電源を投入し、周波数を設定して通信を試みる――までもなかった。

 電源が入るや、クスイによる呼び出し信号が耳を連打したからだ。

 

「こちらアックス45。アックス21応答せよ」

『こちらアックス21、無事か!?』

「私は両脚下敷きになって脱出不能、ロペは五体満足だが無線機がイカれた。現在瓦礫の下で隠れてる。

 外の状況は?」

『隊長達がギプロベルデの自律警備車両と戦ってる。そっちには副長が向かってるから合流してなんとか脱出するんだ』

「了解」

 

 交信を終えて、ペーネは脱出の準備にかかる。機動外肢と膝とを繋ぐ神経系を遮断し、接続解除信号を流す。

 しかし機動外肢側のシステムが死んでいるのか、脚が外れない。舌打ちしながら、ペーネはサバイバルナイフを取り出して機動外肢と膝の接続部に突き立てた。

 

「ロペはさっきから何狙ってるんだ?」

 

 ナイフで接続シャフトを強引に切断しながらロペに聞く。

 先程から何かを狙い、しかも忙しなく銃が揺れていることから照準に手間取っていると見ていた。移動目標でも狙っているのか。

 

「自律警備車両の後部にあるエネルギータンクです。あそこなら308口径(7.62mm)弾も通用しますから」

「なるほど。いい考えだが、精密狙撃用の火器管制システム(FCS)なんか使ったらレーザー取られてバレるんじゃないか?」

 

 左脚を切り落とし、右脚の切除にかかるペーネはそう尋ねる。

 狙撃兵の拡張頭環には精密狙撃用のFCSおよび専用のOSが搭載されているが、このFCSはレーザーを照射してその反射から諸元を算出する装備である。

 つまり敵がレーザー検知器を装備していれば照準していることがバレて、最悪こちらの位置を暴露することになる。

 このせいで何百機もの狙撃兵がカウンタースナイプの餌食となってきた。

 しかしそんな懸念などどこ吹く風、ロペはさらりととんでもないことを言ってきた。

 

「FCSは使ってないです」

「使ってない?じゃ肉眼で照準してるのか」

「そうですね」

「ひゃー、メガネ掛けてるのによくやるよ。

 ……よし、いけた」

 

 話しているうちに右脚も切り離し終えたペーネは、ようやく瓦礫から動くことができた。

 とはいえ両脚を切り落としているので、動くとしても地面を這いずり回るしかできないのだが。

 頭上の瓦礫が退けられ、光が差し込んできた。カイが助けに来たのだ。

 

「ペーネ、ロペ、無事か!?」

「生きてます!」

「なんとか!」

 

 2人の生存を確かめて、カイは安堵する。

 しかしほっとしてばかりはいられない。敵はこちらに向けて進行しているのだ。

 

「よおし、ここから反撃開始だ!

 ペーネ、引っ張り上げるぞ、手を出せ。

 ロペはここから敵の弱点を狙撃出来るか?」

「敵がこっち向いてる間は無理です。反対か、せめて横向いてくれないと」

「それなら大丈夫だ、グスタが撹乱してくれる。射撃の時機はデータリンクを確認しろ」

 

 ペーネを引き上げて担ぐと、カイは自身の拡張頭環を外してロペに投げ渡した。

 

私の拡張頭環(私物)を貸しておく、これで無線も使えるだろう」

「副長は?」

「心配するな、予備(官品)がある。致命の一撃頼むぞ」

 

 予備の拡張頭環を装着しながら、カイはこの場をロペに任せて近場のビルに走っていく。

 拡張頭環を付け替え、無線機能を復旧したロペは、部隊チャンネルのデータリンクから指示内容を引き落とすと、敵を狙う手を止めた。

 厳密には、()()()()()()のを止め、()()()()()()()()()()ことにしたのだ。

 

「リグ隊長の作戦なら、これで当たるはず」

 

 ロペはそのまま、獲物を待つことにした。

 奇襲を受けたという()()を、獲物を待つという狙撃兵にとっての()()に落とし込む。

 肉体労働担当の兵士にとっては、わかりやすい命令の方が遥かに正確に理解でき、好まれる。そういう指示の出し方をしてくれる指揮官は仕事ができる指揮官だと、ロペは狙撃教育の先輩達から教わっていた。

 

 

 

 グスタは臆病である。ギプロベルデ戦役勃発後に産まれ、本来3ヶ月あるはずの新兵初期教育を4日で卒業させら(叩き出さ)れ、原隊に着隊して7時間後には敵前逃亡していた。

 お陰でグスタは原隊と一緒に仲良く全滅することもなかったが、代わりに懲罰兵扱いを受け、2週間で17の隊をたらい回しにされた。

 どんな時にも、とにかく死ぬのが怖い。痛いのが怖い。傷付けられるのが怖い。傷付るのが怖い。

 グスタが射撃の際、思わず目を瞑ってしまうのもその臆病な性格故だろう。結局、戦えない戦闘型を受け入れてくれるのはレッドアックスしかなかった。

 同じ時期にレッドアックスに来たフカールのお陰で多少は立ち回れるようになったものの、それでも臆病な性格は変わらない。それは今日この戦闘においても例外ではなかった。

 

「た、たたた、た、隊長、こ、こんぬ、こんなの私には無理ですぅぅ!」

 

 交差点に放置された自動車両の残骸に隠れながら、グスタはリグに泣きついていた。

 グスタに任されたのは撹乱。 具体的には指定されたルートを指定されたタイミングで一挙に駆け抜けろというものだった。

 

『お前の初期教育での成績は聞いてる、やれるはずだ!』

「無理無理無理、無理ですってぇ!私まだ初期教育から2週間しか経ってないんですよぅ!」

『私に言わせればどいつも練度は五十歩百歩だ、心配するな!』

 

 そう言い合う間にも、自律警備車両はもう交差点に差し掛かりつつあった。

 何かを警戒してか、やけに低速で徐行している。それがかえって、グスタの恐怖を煽った。

 

『いいかグスタ、とりあえず息を吸え。でもって一緒に唱えよう、私はできる私はできる』

「わ、私はできる、私はできる……」

『私はできる、私しかできない、私しかできない』

「私はできる、私しかできない、私しか……」

 

 リグの通信越しの声と、グスタの肉声が重なっていく。呪文を唱えるにつれて呼吸が整っていき、狭まっていた視界が広がっていくのを感じた。

 やたら大きく見えた自律警備車両も、よく見れば高さは鎧化兵約2機分ほどと、思ったほど高くないことに気付く。

 

「私しかできない、私しかできない……私だけができる……!」

 

 データリンクの指示内容を再確認。頭に叩き込んでイメージアップ。やることは初期教育最終日にパスした障害走よりも単純だ。

 自律警備車両が交差点の中央に来た時、グスタは残骸の陰から飛び出した。

 

「ぅううおりゃあああぁっ!!」

 

 ショットガンを連射しながら、自律警備車両の正面を猛スピードで横断、敵の注意を引く。そのまま右折、背後に回り込む。

 自律警備車両も無論、左前方から飛び出したグスタを攻撃しようとして砲塔を向ける。

 が、旋回が間に合わない。車体までもを完全に超信地旋回させて、ようやくグスタに照準した時には、グスタは当初の位置から反対側のビルの陰に隠れていた。

 代わりに、機関銃の連射が装甲を叩く。グスタが逃げ込んだビルの隣にあるアパートから、フカールが銃口を覗かせていた。

 

「私のかわい子ちゃんをイジメるのはぁ、ちょぉっと許せないわぁ」

 

 最大連射速度で弾丸を叩きつけるフカール。そちらに照準が向くと、フカールは直ちに射撃態勢を解いて陣地を変換する。

 壁の穴から撃っていたフカールの動きを、自律警備車両は知ることができない。砲弾が撃ち込まれた時には、そこにフカールはいなかった。

 しばらくしてまた違う壁からの銃撃。自律警備車両は連装機銃で応戦する。

 その時、自律警備車両は当初の敵を完全に失念していた。瓦礫の下から鋭く狙いを定めるロペ。その照準眼鏡の先には、弱点とする車体駆動用のエネルギータンクがあった。

 真ん中のメインタンクが真ん中に来た時、ロペの引き金はすとんと落ちるように引かれる。

 瓦礫の中、引いては外の空気を切り裂いて飛ぶ弾丸。狙い通りにメインタンク、それもエネルギー充電用の電源ケーブルまでも貫通して破壊し、自律警備車両の足を止めた。

 その様子を少し離れた建物の屋上から、カイとペーネが見ている。無論見ているだけでなく、切り札を召喚しようとしていた。

 

「サンドヴァイパー、サンドヴァイパー、こちらアックス45!

 緊急火力要求、目標位置グリッド48941-03575、標高380、観目方位角1142、観目距離130、自律警備車両1、速やか!」

 

 クスイが繋げたチャンネルで、ペーネが火力を要求する。

 繋げた先は混成団より上の方面軍にある火力調整所だ。火力配当はないということだが、さすがに任務待ちの砲兵や航空機ぐらいいるだろうと踏んで、リグが要求させた。

 

『アックス45、こちらサンドヴァイパー。

 近迫限界内(デンジャークローズ)である。緊急火力で間違いないか』

「間違いなし!1番速いやつを頼む!」

『了解、しばし待て』

 

 火力調整所が一旦通信を切る。今頃動かせる火力を引っ張り出しているのだろう、その時間がもどかしい。

 しかし意外なことに、5秒ほどで火力調整所からの通信は再開した。運が良かったのか、リグがここまで見据えていたのか。

 

『アックス45、緊急火力誘導命令。

 目標諸元先に同じ、CB(輸送爆撃機)1機、コールサイン、スティングレー501、LJDAM(レーザー誘導爆弾)実装、投弾1発、近迫限界300、復唱せよ』

「目標諸元先に同じ、CB1機、コールサイン、スティングレー501、LJDAM実装、投弾1発、近迫限界300!」

『復唱よし。なお投弾まで30、落下秒時6。終末誘導用意せよ』

「了解、感謝する!」

 

 火力調整所から射撃内容を受け取り、ペーネは拡張頭環のFCSとレーザー誘導装置のシステムをリンクさせる。

 まだレーザー発射はしない。検知器で暴露する恐れがある。

 カイに支えられながらペーネが誘導準備をする間にも、投弾準備は進む。

 

『サンドヴァイパーよりスティングレー501。緊急火力投弾命令。

 目標位置グリッド48941-03575、標高380、弾種LJDAM、投弾数1発、観測者終末誘導、コールサイン、アックス45』

『目標位置グリッド48941-03575、標高380、弾種LJDAM、投弾数1発、観測者終末誘導、コールサイン、アックス45、了解。投弾する』

 

 そう時を置かず、ペーネの誘導準備が完了する。あとは投弾された誘導爆弾とデータリンクし、終末誘導をして敵に爆弾を当てれば良い。

 

「アックス45よりアックス全員、空爆が始まる!敵から離れろ!」

 

 その言葉を合図に、グスタとフカールは射線を切りながら距離をとり、カイ、ペーネ、ロペはその場で衝撃に備える姿勢をとる。

 

『投弾5秒前……3、2、1、今、LJDAM投弾』

「データリンクよし、誘導開始」

 

 輸送機を改造した輸送爆撃機から、誘導爆弾が投弾される。データリンクで接続して、レーザーを目標に照準、その反射から算出した軌道を真っ直ぐに誘導爆弾は落ちていく。

 

『弾着、今!』

 

 火力調整所からの通信と、誘導爆弾の着弾はほぼ同時だった。

 砲身砲とは比べ物にならない爆風を感じ、それがやむと自律警備車両を確認した。

 結果はどうか、脚や砲はへし折れているが、完全に破壊には至ってないらしい。だが、ここまで追い込めれば勝ちは確定だ。

 

「了解待て……弾着点よし任務終了、敵車両制圧!」

『弾着点よし任務終了、敵車両制圧、了解』

 

 ペーネが火力調整所との通信を終えると、誘導機材の撤去にかかる。

 そしてカイが、リグに無線を繋いだ。

 

「隊長、とどめをお願いします」

『あいよ!』

 

 返事をする当のリグは、自律警備車両の直ぐ側にある建物の中でLJDAMの爆風をやり過ごすと、すぐさま行動にでた。

 屋上に板材を重ねて置き、ジャンプ台を作る。

 そしてセカンダリに装備している大剣(GBB T03A2 DRK)に圧縮空気を充填させながら、一気に加速してジャンプ台を飛ぶ。

 落ちる先には満身創痍の自律警備車両。しかし完全に死に損ないというわけでもなく、まだ生きていた連装機銃を向けて発砲してくる。しかし火器管制に異常が出たのか、精度は望むべくもなかった。

 

私ら(ニンフ)にはなぁ!脚と翅と手と頭があるんだぁっ!!」

 

 砲塔の直上から落下、そのままの勢いを武器の攻撃力に上乗せして、リグは思いっきり自律警備車両の頭部を切った、否、叩き潰した。

 制御系統を物理的に潰されれば、いくら頑強な装甲を持つギプロベルデ産自動機械でも停止を免れない。

 機能の停止を確認して、リグはDRKを引き抜いた。

 

「敵機の撃破を確認。残敵なし、戦闘終了!」

 

 そう宣言した瞬間、無線は安堵の息と歓声で溢れた。あの強大な戦車を、空爆もあるとはいえ自分達で撃破したのだ。

 

「よーし、全員異常ないか?」

『ペーネの脚がありません』

「後で直してもらえ。グスタとフカールは周辺警戒、ペーネとロペはすまないが再度有線を張り直してくれ。終わったら帰るぞ!」

『了解!』

 

 最後の一仕事とばかり、隊員達は当初のポジションへと戻っていく。

 ロペがペーネを担いでいること以外は振り出しに戻った形だが、その不満を零すものはいなかった。




・カイ
ガーディナ第3混成団第48打撃任務部隊副長。
48STF発足当初から所属している最古参隊員で、何人もの指揮官を迎えては見極め、そして見送ってきた。
リグのことを「優秀だか無茶なことをしがちな指揮官」として心配する一方で、新兵同然の隊員達の練度向上にも注力し、両者の橋渡し役にもなる縁の下の力持ちである。

機動外肢   :MRF T05A6 WALV
拡張頭環   :MRF T05A6 WALV
砲架副腕   :MRF T05A6 WALV
加速翅    :MRF T05A6 WALV
特技背嚢   :MRF T05A6 WALV
主腕部武器 壱:AR T12A3 BOLG
主腕部武器 弐:SG T34A1 TOZ
副腕部武器 右:GC T02 FALG
副腕部武器 左:GC T02 FALG

顔部:F0433_YAM_FC
後髪:F2568_FVK_BH
前髪:F0010_LSC_FH
素体:ガーディナ制式戦闘素体

【挿絵表示】


【挿絵表示】


【挿絵表示】

 なおレッドアックス隊員の鎧殻については特別記載のない場合はカイと同様の構成である。

・レッドアックス所属隊員の兵科と特技
アックス11:リグ   歩兵(特殊作戦)
アックス12:カイ   衛生兵(戦闘救護)
アックス21:クスイ  通信兵(野外通信)
アックス45:ペーネ  斥候兵(火力誘導)
アックス46:ロペ   狙撃兵(対人狙撃)
アックス57:グスタ  歩兵(前衛強襲)
アックス69:フカール 歩兵(軽火器)
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