Irregular   作:ノキシタ

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 DollsNestコミカライズですってよ奥さま。(井戸端並)
 出番をもらえるように頑張るのだ。フィールド・マニュアルを読め、カルラド=サン。(無茶振り)


1-7 出産

 女王を戦場においてどのように取り扱うか。それを想定したニンフは今だかつていなかっただろう。

 最前線に女王が出てくることは物理的に不可能であるし、女王の所在地が戦場になるということはそもそも根絶が目的であり、取り扱い云々以前に攻撃目標となるからである。あくまでオブジェクト(目標物)であって、ユニット(戦闘単位)ではなかった。

 しかしリグ達が直面した状況はそれらとは異なっていた。なるほどギプロベルデを根絶することは最終的な戦争目標であるが、根絶目標たるギプロベルデ女王は大脊柱にあり、少なくとも眼前に林立するそれらではない。

 

「どうすんですか、これ?」

 

 クスイが尋ねた。各窟に1本だけしかないはずの女王が大量に並んでいるという特異な事態を前にして、いち下士官に過ぎない彼女が判断するのは無理がある。

 

「どうするったって、なあ……」

 

 そして判断に窮するのはリグとて同じことだった。かつて指導部最先任参謀の職を拝した身とはいえ、眼前の事態はイレギュラーに過ぎる。

 とはいえ何もしなかったわけでもない。突入して安全化した後、リグは手分けして女王達を調べるよう命じていた。

 

「そ、そもそも生きてるんでしょうか……?」

 

 女王達を眺めながら、グスタが呟くように言った。

 実際、林立していた女王32本のうち、生体機能が完全に停止していたのが31本、機能停止と断定できないもののほぼ停止していると思われるのが1本という状態だ。

 

「こいつだけか、判断つかないのは」

 

 最後の1本の樹を前にして、リグは首を傾げた。

 確かに生きている様子はない。だが、枯れて(死んで)いるのなら実を結んだ枝が折れずに残っているはずもない。死んだのなら枝のセル結合を維持できず折れるはずだ。

 とりあえず振り向いてクスイに外部との通信を確立するよう命じようとした、その時――

 

「……誰か、そこにいるの?」

「ッ――!?」

 

 リグは咄嗟に樹に向き直ってライフルを構えた。周囲の隊員達も得物を向ける。

 喋った。生きているか死んでいるかもわからなかった樹が、わずかな生体機能を目に見える形で再開させた。

 

「ごめんね……もう何も視えないから……貴方がどんな子か……わかんないの……。新入りさんかな……?」

「……ああ、そうだ」

 

 リグは銃口を降ろしつつ答えた。何も視えない、とすればこちらが口を滑らせなければガーディナ兵とはバレないはず。うまくすれば情報を引き出せるかもしれない。

 

「そっか……ここのことは、ごく一部しか知らないから……知らないのも、無理ないよね……」

 

 弱々しい声で答える樹、ものが視えないだけでなく、会話にすらも体力を消耗しているらしい。

 

「私はアンジェ。親衛軍第6師団にいたの……戦闘型、だったんだよ……えへへ……」

「それがなんでこんな姿に?それにここは?他の樹も皆戦闘型だったのか?」

 

 リグは段々と焦り始める。ある1つの仮説が脳裏をよぎったのだ。

 対してアンジェはゆっくりと、昔話でもするように話す。

 

「皆がみんな、戦闘型だったんじゃないよ……技師型も……防衛型の子も、いたんだよ……皆はどうしてる……?」

「……死んでる」

 

 隠さずリグは端的に事実を伝えた。ここは嘘をついても得することはない。

 アンジェの反応も、そう激しいものでもなかった。

 

「そう……まあ、そうだよね……この体()になったら、長くは生きられないって、言われてたから……」

「教えてくれ、アンジェ。その姿は何なんだ?」

「……やっぱり、知らされてないんだね……いいよ、教えてあげる」

 

 するとアンジェはひと呼吸おいて、事実を話し始めた。

 とても常識に合致しているとはいえない、しかし否定もできない、事実を。

 

 

 

 レッドアックスが層間連絡路に繰り出していた頃、南東地区の集結地の指揮はラウラというニンフが執っていた。

 黒ずくめの装備と鎧殻、私物まみれの兵装、それにある種似合わないマゼンタの長い髪、何より()()()()()()が特徴的なニンフだ。

 第404特殊作戦小隊(404SOPt)の隊長でもある彼女は、リグと同じく特殊作戦の特技保有者でもあり、小部隊指揮には十分に精通していた。

 さて、そんなニンフは今、厄介な状況に直面していた。詳細を省くと、偉い人の対応である。

 

「第3混成団分駐部隊の指揮官は?」

 

 臨時の指揮天幕に乗り込んできたニンフは、ラウラと同じように黒い装備をしていたが、部隊章が違う。404SOPtのような混成団内のいち小隊とかではない。

 

「48STFのリグ隊長ですが、不在にしてますので私が代行をしております」

「お前は?」

 

 黒いニンフの態度に、表情には出さないもののラウラは少し不快感を抱いた。人のシマに乗り込んできて初対面でお前呼ばわりとは何だ。

 

「失礼しました。404SOPtのラウラであります」

 

 そう敬礼して名乗ると、相手も慇懃に敬礼して答えた。

 

「総軍特務師団、作戦参謀のフーヴァだ。この集結地に当面の間、指揮下の2個大隊を駐留させてもらう」

「駐留?上からは何も聞いてませんが?」

「だろうな、これは現場判断によるものだ」

 

 何言ってんだお前、と言いたくなるのを堪え、ラウラは反論する。然るべき指揮系統も経ずに勝手に乗り込んでくるなど軍隊として論外だ。互いに作戦の足を引っ張り合いかねない。

 

「じゃあ現場部隊に乗り込む前に上に筋通してくださいよ」

「必要ない。総軍から必要な権限は付与されている」

「だったら尚の事然るべき指揮系統を通して頂きたいんですがね」

 

 ラウラは流石に苛立ちを隠せなくなってきた。このフーヴァとやらが言っていることが本当だとしても、正式な分駐部隊指揮官のリグや任命権者である混成団長モーンの決裁なしに任務境界(バンダレイ)を書き換える権限はラウラにはない。

 それぐらいのことは、この大層な肩書の参謀閣下も当然承知のはずだが、フーヴァが引き下がる様子はなかった。

 

「それから、敵鎧化兵の脱走を手引きしている者がいるという情報があるので、これの捜査も総軍特務師団が行う。今後、お前達は捜査対象となるのでそのつもりで」

「ちょっと待ってくださいよ、何の証拠があってそんな言いがかりを付けようってんですか?」

「それをお前が知る必要はない。では失礼する」

 

 それだけ告げて帰ろうとしたフーヴァ。ラウラはついに拳を机に叩きつけるに至った。

 

「特務師団の参謀殿は最低限の根回しもできないんですな、そんなのが現場部隊を容疑者扱いするとは片腹痛い。まずご自身の身内から疑ってみては?」

「総軍隷下にないお前に意見する権限はない」

「その通り、()()()()()()()()()()()()()。従って貴方の命令に従う義務はない」

「……」

 

 フーヴァは沈黙した。返す言葉がないのか、他に何かを考えているのか、いずれにしろ、その不快な口を閉じることができただけラウラにとっては1つの勝利だった。

 しかしそれは、大変ミクロな勝利に過ぎなかった。

 

 

 

「開戦から1年後、ガーディナの反攻作戦をきっかけに、ギプロベルデは慢性的な兵力不足が問題になったの」

 

 アンジェの言葉に、リグも頷きながら聞く。即席の機械化混成軍による遅滞戦闘の終了と、再編された機動作戦軍団による同時多発的反攻作戦は、それまでの趨勢を覆して余りある結果を生み出した。

 

「最初は戦闘型に防衛型を混ぜて、つぎに通常型を混ぜて、そして技師型も……それでも足りなくなって、ギプロベルデはアルカンドに助けを求めたの。

 アルカンドもガーディナの存在を危険視していたから、協力してガーディナを倒そう、そんな話を持ちかけて。

 でもアルカンドは、軍隊を派遣しなかった。アルカンドは内戦中で、そんな余裕はないって。

 その代わりに、アルカンドは技術をくれた。ニンフを擬似的な女王につくり変えて、ニンフを産ませる技術。

 ギプロベルデは、それに縋るしかなかった……じゃなきゃとっくに、ギプロベルデは滅んでた」

 

 突拍子もない話に、隊員達は呆気にとられる。ニンフを擬似的な女王にしてニンフを産ませる技術、そんなものは技術立国というべきへロスやバウカーンでさえ聞いたこともない。内戦中で連邦内部の統制がとれていないアルカンドなら尚更である。

 しかし、アルカンドはその技術を作り出し、現にその産物が目の前に鎮座していた。

 

「私達は、人為的につくられた女王……そしてここは、その女王達がニンフを産む場所。

 ここで産まれたニンフは、ギプロベルデのニンフとして、最前線に送り込まれるの……。

 それでも、所詮は擬似的な女王に過ぎないから……3人に2人くらい、ニンフじゃない子が、産まれちゃうけどね……」

 

 そこまで話し終えると、アンジェは息をついた。久しぶりに話し疲れたのだろう。

 しかしそれでも、アンジェはまたリグに話しかけてきた。

 

「ねえ、新入りちゃん。お名前は?」

「エリクソンだ」

 

 咄嗟に偽名を名乗るリグ。先日のルーシの件もあり、本名だとガーディナ兵とバレる恐れがあったのだと、理由を内心後付けしておいた。

 

「あら……じゃあエリーで、いいかな?エリーは、どこの部隊から?」

「第3戦域軍第9突撃機動団だ」

「あのサンキュー団から?……じゃあ、ギリー・ベルって子、知ってるかな?」

 

 あまりに予想外の名前に、リグは目を丸くした。何故ベルのことを知っているのか。

 答えを待たず、アンジェは話を続ける。

 

「あの子もね……私が産んだの。双子のお姉ちゃんでね。最初はことばがわからなくて、皆で教えてあげたんだよ。懐かしいなぁ……」

「待った、()()()()()()()()?」

 

 ベルはそこで口を挟むことができた。双子という話は初耳である。

 では何故双子両方ではなくベルだけが脱出を図っているのか、どうしてレジーナのデータにはベルだけしかなかったのか。

 

「うん。ギリー・ベル……と、ギリー・リン。

 2人とも……戦闘型、防衛型、技師型の遺伝子情報を……混ぜ合わせて産んだ子でね。ベルは戦闘型、リンは技師型の、形質が強く出たんだ。でもね、2人とも、とーっても、可愛いんだよ。リンが……毎晩、寝る時に、ベルにくっつくとこ……とかもう、ね」

「待て待て待て待て、その妹ってのはどこに?」

「側近部の、技術要員になった……って聞いたけど……そのあとは、わからない。私達には、外の情報が制限されてるから……あっ」

 

 話していると、ふいにアンジェが震えだした。震えるというよりは、断続的な痙攣とみるべきか。

 

「どうした?」

「ん、あっごめ……ちょ、ちょっと産まれる……」

「ちょっと産まれるってなんだちょっとって!?」

 

 リグは突っ込みながらに、アンジェの枝についている実を確認した。

 すでに赤子を守る外膜には亀裂が入り、破水している。これでは産まれるのも確かに時間の問題だろう。

 

「カルラド!真下で受け止めてやれ!ヨスは白珠をコンテナごと持ってこい!」

「いいんですか?敵ですよ?」

「おい馬鹿っ!」

 

 リグは鬼気迫る顔でヨスを睨んだ。ヨスもまた自分がとんでもないことを口走ったことに気付いて口元を塞ぐが、もはや無意味である。

 アンジェをして敵と言った、つまりはここに来たリグ達はアンジェの敵、ガーディナ兵であることを暴露する。

 会話が成立していたあたり聴覚は残っているはずだから、今の言葉も聞かれた可能性がある。そうなればこれ以上情報は引き出せないし、もし外部との連絡手段を持っていたら増援を呼ばれる可能性まである。

 そしてここは閉所、それも袋小路ときた。ギプロベルデ兵を相手にするにはあまりにも相性が悪すぎる。

 産気づいていて聞いていないことを祈りながら、リグはヨスに白珠を取りに行かせた。

 

「ど、どどっどう受け止めればいいんですか!?ていうかなんで僕なんです!?」

「お前4脚だから安定性あるだろ!」

 

 一方カルラドは実の真下で慌てふためいている。それもそのはず、生まれてこの方ニンフの出産に立ち会ったことなど一度としてないのだ。

 もっとも、出産に立ち会う戦闘型ニンフなど、この世には殆ど存在しないのだが。

 戸惑いながらとりあえず赤子を受け止めようと姿勢をとるカルラドを横に、リグ達はヨスが持ってきたコンテナから白珠を取ってはアンジェに次々と投入していった。

 

「うっ、お……うえっ、ちょ、ちょっと?白珠にも適量が、げっふ、あるんだけど……!?」

「んじゃ止めてほしかったらストップって言ってな、私ら適量とかわからん!」

「ストップ、ストップ!」

「はい止めー!」

 

 白珠の投入を止めると、アンジェは少しずつ白珠を消化していく。

 最初は大量の白珠を苦しそうに消化していたアンジェだったが、しばらく時間を置くと白珠の消化も進み、呼吸も整っていった。

 

「どうだアンジェ、産めそうか?」

「うん。なんとか……最後の1人に、なりそうだけど」

「最後の1人?」

 

 どういうことだ、そんな顔でリグはカイに視線を送る。衛生兵であるカイなら女王やニンフの出産にも知識があるのではないか。

 

「女王が産めるニンフの数にも限りがあるんです。厳密な数字は個体差があるので何とも言えませんが」

「その最後の1人が今から産まれそうってことか?」

 

 リグはアンジェに視線を戻す。アンジェも会話から察してか、ふふっと微笑んだ。

 

「おかしいかもしれないけどね、なんとなく、わかるんだ。

 『ああ、この子が最後の子なんだ』って」

「それじゃ、そいつ産んだら……」

「うん。私はもう()()()()。ここは閉鎖されて、私は皆と一緒に(CELL)に還るの」

 

 こともなげにアンジェは言う。そうは言っても最後のニンフを産んだら死んでしまうのだ、怖くないはずはない。

 それでもアンジェは恐怖に震えるでも、己の運命を呪うでもなく、懸命に最後の我が子を産もうとしている。何がアンジェにそこまでさせるのか、リグにはわからなかった。多分、一生わからないだろう。

 

「……そろそろ、かな」

 

 アンジェの言葉通り、実の方もいよいよ外膜の亀裂が広がりだす。

 亀裂から羊水が溢れ出し、カルラドの顔面に滝のように叩きつけた。

 

「ちょっ、こんなんで受け取れって!?」

「ニンフの羊水なぞ人体に害はない!慌てるな!」

「そうは言ったって……!」

 

 口答えしながらもまっすぐ実を見ようとするカルラド。よく見ると実の中にはまだ小さいニンフが体を丸めていた。

 その顔は眠っているように見え、しかし出産を前にして怖がっているような、不安げな顔をしている気がした。

 

「大丈夫、大丈夫だからな、僕がいるからな……」

 

 ふと口をついて出た言葉。カルラドは優しく実の中の赤子に語りかける。

 その時、赤子がいよいよ目を開きだした。小さく開いては瞬きを繰り返す。文字通り何もわからないだろう無垢な胎児は、しかし出産の瞬間、確かにカルラドの目を見た。

 

「あっ……!」

 

 外膜が破れ、羊水と共に胎児が落下する。

 本来ならそのまま地面に激突するであろうその幼子は、しかし真下にいたカルラドによって無事に受けとめられた。

 白い肌に碧い髪、首があって手足があって、顔も、各5本の指もしっかり揃っている、五体満足なニンフが産み落とされた。

 

「こ、これ大丈夫かな?死んでたりしないかな」

 

 受け止めてから微動だにしない幼子を見て狼狽えるカルラド。だがそれも杞憂にすぎなかったようで、顔をカルラドの胸元にうずめるように体を丸めだす。

 ついで顔を上げ、紫の丸い瞳でカルラドの顔を見た。

 

「……?」

 

 まるで不思議なものを見るかのような表情で、ぱちくりと何度か瞬く。すると今度はカルラドに抱きついた。

 

「……ねーさま!」

 

 

 

 宿営準備を始める特務師団第9特殊作戦大隊を眺めながら、ラウラは部下から手当てを受けていた。

 閉口したフーヴァから繰り出されたのは出鱈目な論理武装でも偽造書類でもなく、強烈な右ストレートだったのである。

 

「反論できなくなったからって暴力はないっしょ、暴力は」

 

 憤慨するラウラだが、しかしながら結局一撃で気絶させられて集結地の使用を許してしまったことを悔やんでもいる。

 

「でもまあ、ニンフ(戦闘兵器)としては問題を暴力で解決する方がむしろ自然な気もしますけどね」

「やめて、そういうの?反論不可能なんだけど」

 

 ラウラが肩をすくめる。目元が一切ないのっぺらぼう状態の顔は、どうやら苦笑しているらしかった。

 

「しっかし、なんで特務師団お抱えの特殊作戦大隊が2個も出張って来やがるんです?」

 

 部下が外を指して言う。特殊作戦大隊なる組織は本来高度な特殊性の伴う任務に投入される部隊であり、まかり間違ってもこんな正面戦闘の前線の1つに長期駐留するような集団ではない。

 

「憲兵の真似事さ。ギプロベルデ鎧化兵の脱走を手引きしてる奴がいるんだと」

「奴らのオツムで捕まえられるんすかね、本職の憲兵じゃあるまいし」

「少なくともあいつらはそのつもりでいるらしいな」

「うへぇ。やですよ、誤認逮捕なんてのは」

「同感」

 

 手当てを終えて軽く首を回すラウラ。応急修理セットをしまいながら、部下も自身の肩を揉んだ。

 

「首元、随分凝ってましたからね。筋肉部品も新品に取っ替えときましたよ」

「道理で動作が軽いわけだ、ありがとさん。ミッツも休んどきな」

「自分の肩直したら、そうします」

 

 自身の専用工具箱を取り出しながら、その部下、ミッツは答えた。

 戦闘型でありながら手先の器用さだけであらゆるものを作り出す彼女は、技師型が随行できない特殊作戦において重宝されている。

 そんな彼女を404SOPtに繋ぎ止めているのは、ひとえにラウラの人柄であった。

 

 

 

「わかるか、アンジェ?産まれたぞ」

 

 リグは新生児を抱き抱えたカルラドを近寄らせつつ話しかける。ニンフを産んでから顕著に反応が鈍い。

 

「そう……ああ……産まれた、のね……よかった」

「型はちょっとわからんが、技師型じゃないな。で、名前は?」

「名前……?」

 

 リグの問いかけに、アンジェは疑問符を浮かべる。もしかして、今まで子供に名前をつけたことがなかったのだろうか。

 

「ここにはお前と私らしかいない。こいつに名前をつけるべきはお前だろう」

「そうなの……?うーん……ギリーシリーズの……最終機だから……ギリー・ラスト?ギリー・ツレスト?」

「安直っ」

「だよね……うーん……」

 

 自分でも安直すぎると思ったのか、考え込むアンジェ。我が子に送れる最初で最後の贈り物なだけに、考えるアンジェも真剣な様子だ。

 もう演算リソースを消費するだけでも苦しいだろうに。

 

「……『ミラ』、どうかな」

 

 思考の果、辿り着いた答えがそれだった。

 

「ミラクルの、ミラ……私がこの子を産めたこと……私が貴方達と出会えたこと……貴方達に出産に立ち会ってもらえたこと……いろんな奇跡(ミラクル)のもとで産まれた、最後の子。だから、ミラ」

「ああ、そりゃいいな。いい名前だよ、ミラ」

 

 リグも頷きながら新生児を見る。周りのことなど気にせず、カルラドに抱きついて離れない赤子を。

 

「……ねえ、エリー」

「なんだ?」

 

 ふと唐突に、アンジェがリグに尋ねる。その声は一際穏やかで、しかし内容は鋭くリグを突いた。

 

「貴方、ガーディナの兵でしょ?」

 

 その一言は、この場の前提を揺るがすものではあり、しかしリグを動揺させるには至らなかった。

 ヨスが口を滑らせた時点で、覚悟はしていた。

 

「……聞こえてたか、さっきの」

「最初から、気付いてたよ……あんなに外で、ドンパチしてるんだもの……気付かないはず、ないでしょ」

「だったら……」

 

 なんで私達に真実を話した、リグはそう聞こうとした。何故敵として迎えなかったのか。

 しかし、アンジェの言葉の方が先だった。

 

「私ね、今でも夢に見るの……ギプロベルデのニンフと、ガーディナのニンフが……昔みたいに、仲良く、笑ってる夢……貴方達なら、安心して話ができる……そう、思った。思い、たか……ったの……かな……」

 

 言い終える前に、アンジェの体に異変が起きた。枝の先にある葉の光が消え始め、幹が枯れて裂け始める。

 カイが診断装置を取り付けて調べ始める。すぐに険しい表情を見せた。大分よくない。

 

「体内のセル結合が解けて崩壊が始まってます!」

「なんとかしろ!まだ死んでもらっちゃ困る!」

「やってます!」

 

 カイは拡張頭環を接続して電気信号を流し、なんとかセル達を繋ぎ止めようとする。

 しかしアンジェを形作る何億ものセルは言うことを聞かない。セル自体が力を失っている。

 

「ごめんね……もう、保たない……そんな、気がする……」

「弱気になるな、うちの衛生兵を信じろ!」

「はは……優しいね……ねえ、エリクソンって……本名……?」

「すまんが偽名だ」

「じゃあ……本当は……なんていうの……?」

「リグだ」

「リグ……」

 

 今際の際にリグの本名を聞いたアンジェ。ただの興味だったのだろうが、その名前を聞いたアンジェの反応は、これもまたリグの予測の範疇から遥かに逸脱していた。

 アンジェはまだ、真実を抱えていた。

 

「……プログラムナンバー……44528981……あの因子の……感染者……ああ……そうか……貴方も……」

「おい、何だ、何を言ってる!?あの因子って何だ!おい、アンジェ、しっかりしろ!」

 

 アンジェを叩いて意識を保たせようとするが、すでにアンジェの意識はリグの言葉を聞いていなかった。

 

「貴方も……イレギュラー(Irregular)……」

 

 イレギュラー、その言葉を言い残したのと同時に、アンジェの生体機能は、完全に停止した。

 リグがカイを見やるが、カイも首を横に振るしかなかった。

 

「なんだよ、イレギュラーって……」

 

 その呟きに近い問いかけに、答えられる者はいなかった。




・ラウラ
 ガーディナ第3混成団第404特殊作戦小隊長。
 リグの特殊作戦課程の同期で、分駐部隊の指揮官代行も務める。
 目元の造形がなく、本人は「近接戦闘時に視線で次の行動を予測されないため」と言っているが、実際は造形情報の編集中によそ見をして誤操作しただけである。

機動外肢   :MBF T02A5 DAMD
拡張頭環   :MBF T02A5 DAMD
砲架副腕   :MBF T02A5 DAMD
加速翅    :MBF T02A5 DAMD
特技背嚢   :MBF T02A5 DAMD
主腕部武器 壱:BG000 P52 Caladbolg
主腕部武器 弐:PSD066
副腕部武器 右:S4C12 Sankbloom
副腕部武器 左:S4C12 Sankbloom

顔部:F1230_GVV_FC
後髪:F1230_GVV_BH
前髪:F2024_TKG_FH
素体:ガーディナ制式戦闘素体

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