夢を叶える魔法の石~鬼才の錬金術師が万能の石を生み出した結果少女にTSしてついでに親友は小人になりました 作:Yumerur
朝の陽だまりが差し込むアルカヌム寮の談話室。昨夜の小さな冒険から帰ってきたリシアは、まるで宝物を握りしめるように、パン屋の老夫婦からもらった手作りのお守りを大切そうに手に持っていた。その神々しいまでに美しい顔には、これまで見たことのないような達成感と、ほんの少しの大人びた自信が浮かんでいる。
セシルは、昨夜リシアとフィンが無事に帰ってきた安堵から、少し青白い顔をしているものの、リシアの変化を複雑な心境で見つめていた。彼女が一人で街を歩き回り、様々な人々と交流したという事実に、心配と、そして言いようのない責任感を抱いている。
フィンは、セシルの膝の上の小さなクッションに座りながら、リシアの「冒険報告」を聞いている。昨夜の強行軍で疲れ切っているはずなのに、その小さな顔には「この話は重要だ」という真剣な表情が浮かんでいた。
エルナは窓際で編み物をしながら、リシアの話に耳を傾けている。時折手を止めて、感嘆の声を上げたり、心配そうに眉をひそめたりしていた。
リディアは、いつものようにお気に入りのミルフィーユを食べつつ、ぼんやりと外を眺めているように見えたが、実は会話の一言一句を注意深く聞いていた。
「それでね、パン屋のおじいちゃんとおばあちゃんがね、リシアにお仕事をお手伝いさせてくれたの!野菜を洗ったり、お皿を運んだり...」
リシアの瞳が嬉しそうに輝く。その話し方は、以前よりも少し落ち着いて、実体験に基づいた具体性を帯びていた。
「でもね、最初は焼き栗屋さんでお金がわからなくて困っちゃった!光る丸いものをくれるお客さんがいたから、全部お店の人にあげちゃったの!そうしたら、みんなビックリしてた!」
エルナが編み物の手を止めて、困ったような笑みを浮かべた。
「あら、リシアちゃん...それはお金のことよね?お客さんからもらったお金を、お店の人にあげちゃったの?」
「そうそう!でも、おじさんがね、『そんなことしなくていいんだよ』って言って、代わりに温かい栗をくれたの!お金より、みんなの笑顔の方がキラキラしてたもん!」
リシアの純真な説明に、談話室にいた他の寮生数名も困惑と微笑みの混じった表情で振り返った。
「それから、夜警のおじさんにも会ったよ!最初は『危険だから早く帰りなさい』って言ってたけど、リシアがお話ししたら、『こんな純真な子は初めて見る』って言って、みんなで見守ってくれることになったの!」
寮生の一人が、心配そうな表情で口を挟んだ。
「リシアちゃん、夜中に一人で歩いてるのに、街の人たちがそんなに親切にしてくれるなんて...普通なら警戒されるし、とても危険だと思うのだけれど...」
「あ、それからね、街の人たちがリシアにいっぱいものをくれるの!焼き栗に、温かいミルク、それから可愛いリボンも!野良猫さんも仲良くしてくれたの!みんな最初は『こんな時間に一人で...』って心配してくれるんだけど、リシアがお話しすると安心してくれるの!」
「パン屋のおばあちゃんがね、リシアの髪をブラッシングしてくれて、お料理も教えてくれたの!おじいちゃんも『また遊びに来なさい』って言ってくれて...」
リシアの詳細な報告に、談話室の空気が徐々に変わっていく。最初は微笑ましく聞いていた寮生たちの表情に、困惑の色が混じり始めた。
エルナが編み物を膝の上に置いて、首を傾げた。
「リシアちゃん、お金の概念がわからないって...それに、見知らぬ人の家に泊まることに何の疑問も持たないなんて...普通は小さい頃に教わるものよね?」
「記憶に何か障害があるにしても、これは...」別の寮生が小声で呟いた。「まるで生まれたばかりの赤ちゃんが大人の体に入ってるみたい...」
「リシアちゃんの反応って、社会常識が完全に欠如してるのに、言葉や身体機能は完璧...これって普通の記憶障害とは違うわよね?」
寮生たちのひそひそ話が次第に大きくなっていく。リシアは、みんなが自分について話しているのは分かるが、なぜみんながそんなに困った顔をしているのか理解できずにいた。
「リシア、昨日まではセシルがいないとダメだったけど、今はちょっぴり一人でも大丈夫になったの!街の人たちがね、『君は本当に変わってる子だね』『でも純粋で可愛い』って言ってくれるの。おばあちゃんは『まるで天使みたい』って泣いてくれたの!」
リシアがセシルを見つめながら誇らしそうに言うと、セシル(フェリクス)の表情が曇った。内心では、リシアの行動報告があまりにも「普通の人間」からかけ離れていることに、危機感を覚えていた。
エルナが立ち上がって、リシアの前に座り込んだ。その茶色の瞳には、純粋な疑問と心配が浮かんでいる。
「リシアちゃんのお話を聞いていると、まるで…まるで生まれたばかりの人みたい。お金もわからない、社会のルールもわからない、でも言葉は完璧に話せて、身体は大人の女性で…」
エルナがゆっくりと言葉を続ける。その声には、真剣さが込められていた。
「セシルちゃんは『記憶に問題がある』って言ってたけど…これって、普通の記憶障害とは違うわよね?まるで最初から『人間として』の知識が全くないみたい…」
談話室の空気が重くなる。他の寮生たちも、エルナの言葉に頷いている。
「もしかして、リシアちゃんって…普通の人間とは違う、何か特別な存在なのかしら?人工的に作られた…?」
エルナの核心を突いた質問に、セシルの顔から血の気が引いた。
「え…あ、あの…人工的って、どういう…」
「そんな、人工的なんて、そんなことは…リシアは普通の…」
セシルが必死に否定しようとするが、言葉が続かない。
「……その、事情が複雑で…医学的にも説明が難しい状況で…」
セシルの歯切れの悪い説明に、エルナをはじめとする寮生たちの疑問はますます深まった。
その時、リディアが静かにミルフィーユの皿を置いた。カチャリという小さな音が、談話室の緊張した空気に響く。
普段のほんわかした雰囲気が一瞬で消失し、垂れ目がわずかに鋭くなり、背筋がピンと伸びた。その変化は、まるで眠っていた獅子が目を覚ましたかのようで、談話室の全員が息を呑んだ。
「皆さん…」
リディアの声は、いつものたどたどしさが嘘のように、落ち着いて威厳に満ちていた。
「セシルさん、リシアさんの状況について、私たち寮生にはもう少し詳しい説明をしていただく必要があるのではないでしょうか」
リディアの穏やかだが有無を言わさぬ口調に、セシルの顔が青ざめた。逃げ道を完全に塞がれたような感覚に陥る。
「あ、あの…それは…」
「記憶障害という説明でしたが」リディアが静かに続ける。「リシアさんの症状は、一般的な記憶障害の範疇を大きく超えているように見受けられます」
エルナが困惑したように首を振った。
「確かに、お金の概念すら知らないなんて…普通の記憶障害では説明がつかないわ」
「私の従兄弟が事故で記憶を失ったことがあるけど」別の寮生が口を挟む。「それでも基本的な社会常識は残ってたのよ。リシアちゃんの場合は…まるで」
「まるで?」リディアが促す。
「まるで…この世界に生まれ落ちたばかりの、何も知らない存在みたい」
寮生の一人が小声で呟いた言葉に、談話室がざわめく。
「そんな…そんなことってあるの?」
「魔法的な呪いとか?」
「でも、リシアちゃん、言葉は完璧に話せるし…」
リディアが手を上げて、ざわめきを静めた。
「セシルさん。この状況で嘘をついても、誰のためにもなりません。寮生の皆さんは、すでにリシアさんを家族のように思っています。真実を話していただけませんか?」
リディアの言葉に、セシルの肩が小刻みに震え始めた。長い沈黙の後、彼は深いため息をついた。
「…わかりました」
セシルが顔を上げると、そこには観念したような、それでいて覚悟を決めたような表情があった。
「皆さん…本当のことをお話しします」
談話室が水を打ったように静まり返る。
「私の…兄が、錬金術師でした。古代錬金術の復活、特に『生命創造』の研究に没頭していたのですが…その研究は極めて危険で、禁忌とされるものでした」
フィンがものすごく何かを言いたげな目線で睨んでくる。
(おい、セシル!急に兄なんて設定を作り出すな!君には兄弟なんていなかっただろう!しかも古代錬金術って…そんな大層な研究をしてたのは君自身じゃないか!)
エルナが小さく息を呑む。他の寮生たちも身を乗り出すように聞き入っている。
「ある日、兄の実験室で大きな事故が起きました。私はたまたまその場にいて…爆発に巻き込まれてしまったのです」
セシルの声が微かに震える。その演技は完璧で、誰もが固唾を呑んで続きを待っていた。
(事故?!確かに事故だったが、君が一人で勝手に実験して失敗したんだろうが!被害者面するのはやめろ!それに『たまたまその場に』って、君の研究室じゃないか!)
「そして、リシアは…その実験の結果として生まれた、人工的な生命体なのです」
30秒ほどの重い沈黙が談話室を支配した。エルナは口を両手で押さえ、他の寮生たちは互いに顔を見合わせている。
「人工…生命体…?」誰かが震え声で呟いた。
「そんなことが…本当に可能なの?」
「錬金術でそこまで…」
寮生たちの反応は様々だった。驚愕する者、恐怖を感じる者、そして同情を示す者。
「リシアが常識を知らないのは、『人間としての経験』が全くないからです。でも決して悪い子ではありません!ただ、この世界について全てをゼロから学んでいる状態なのです」
セシルの必死な弁明に、エルナが最初に口を開いた。
「それなら…リシアちゃんの行動が全て説明がつくわ。生まれたばかりの存在なら、社会常識がないのも当然…」
「でも、セシルさん」別の寮生が心配そうに言う。「そんな大変な状況を一人で背負って…」
「人工的に生まれた命でも、リシアちゃんはこんなに純粋で優しい子に育ってる…」
寮生たちの理解と同情の声が続く中、リシアだけは困ったように首を傾げていた。
「じんこー?リシアはじんこーなの?よくわからないけど…セシル、なんで悲しそうな顔してるの?」
フィンは思わず苦笑いを浮かべそうになった。
リシアの純真な困惑が、重い空気を一瞬和ませる。
「リシア、何か悪いことしちゃった?みんなも変な顔してる…」
「いいえ、リシアちゃん」エルナが涙ぐんだ目で微笑む。「あなたは何も悪くないのよ。みんな、ただ驚いているだけ」
「お兄ちゃんのじっけん?よくわからないけど、セシルがいるから大丈夫!リシア、セシルが大好きだもん!」
リシアの屈託のない愛情表現に、談話室の雰囲気が少し温かくなった。
しかし、リディアの表情は依然として鋭いままだった。
「セシルさんのお話、よく理解できました。お兄様の生命創造実験で、このような状況になられたのですね」
リディアの声は穏やかだが、その奥に何かを見透かすような鋭さが潜んでいる。
「ただ…そのような重大な錬金術事故、特に人工生命体の創造があったなら、魔導学院や錬金術師ギルドへの報告義務があるはずですが…」
セシルの表情が強ばる。リディアの指摘は的確すぎて、反論の余地がない。
「そして、セシルさん。お話の内容に、いくつか…整合性に欠ける部分があるように思われますが…」
リディアの視線がセシルを捉える。その瞳には、普段の頼りなげな雰囲気は微塵もなく、代わりに深い洞察力と確固たる意志が宿っていた。
「あ、あの…それは…」
セシルが狼狽える中、リディアは立ち上がった。そして、その瞬間、まるでスイッチが切り替わったかのように、普段の砕けた口調に戻った。
「まあ、真実がどうであれ…セシルちゃんとリシアちゃんが寮のみんなに心配をかけて、大事なことを隠してたのは事実だよね」
リディアの口調が急に親しみやすくなったことで、談話室の緊張が少し和らいだ。しかし、その言葉の内容は決して軽いものではない。
「だから、ちょっとした『お仕置き』として…街での奉仕活動をしてもらおうかな」
「お、お仕置き…ですか?」
セシルが困惑の声を上げると、リディアはにっこりと微笑んだ。しかし、その笑顔には少し意地悪な輝きが宿っている。
「うん♪ リシアちゃんには人間社会を学ぶ良い機会になるし、セシルちゃんには『責任を持つこと』の大切さを実感してもらえると思うんだ」
エルナが心配そうに口を挟んだ。
「でも、リシアちゃんは社会常識がまだ…」
「だからこそだよ〜」リディアがきっぱりと答える。「実際に色んな人と接することが、何よりの勉強になるでしょ?」
そして再び、寮長としての威厳を取り戻したように背筋を伸ばし、敬語に戻った。
「では、正式に申し上げます。セシルさん、リシアさん。お二人には、寮生としての責任を果たしていただくため、街での奉仕活動への参加を義務付けいたします」
リディアは談話室の掲示板を指差した。
「こちらに、今月の奉仕活動一覧がございます。この中からお選びいただき、週に三日程度の活動をお願いいたします」
掲示板には、整然と並んだ奉仕活動のリストが貼られていた。
- 孤児院での子供たちのお世話
- 図書館の蔵書整理
- 商業地区の清掃活動
- 老人ホームでの話し相手
- 魔法道具店での簡単な手伝い
- 街の案内ボランティア
- 市場での荷物運び
- その他、緊急時の特別活動
セシルは内心で(どの活動を選んでも、リシアが何か問題を起こしそうだ…特に人と接する活動は…でも、これは明らかに『罰』として出されている。避けて通れない…)と頭を抱えていた。
(それにしても、リディアに完全に見抜かれている。嘘がバレているのは確実だが、今はこの処分を受け入れるしかない…)
リシアは掲示板を見上げて、嬉しそうに手を叩いた。
「わあ!色んなお仕事があるのね!リシア、みんなのお役に立ちたい!セシルと一緒にお仕事できるなら、何でもやってみる!」
リシアの純粋な積極性を見て、寮生たちの表情が少し和らいだ。しかし、セシルの不安は募るばかりだった。
リディアが再び砕けた口調に戻って付け加えた。
「あ、それから報告は毎週末にお願いします♪ 活動の様子や、リシアちゃんの成長ぶりを聞かせてもらうからね〜」
その言葉に、セシルはリディアの「監視」の意図を感じ取った。これは単なる社会勉強ではなく、明らかに自分たちの行動を見張るための措置でもあるのだ。
エルナが微笑みながら言った。
「リシアちゃん、その気持ちが大切よ。きっと良い経験になるわ」
しかし、セシルの心配は尽きなかった。フィンも膝の上で小さく首を振っている。
「それでは、明日から開始ということで、よろしくお願いいたします」
寮長としての最後の宣言を敬語で締めくくったリディアは、満足そうに談話室を後にした。残されたセシル、リシア、そして膝の上のフィンは、これから始まる新たな試練に向けて、それぞれ複雑な思いを抱いていた。
「セシル〜、明日からお仕事なのね!リシア、とっても楽しみ!セシルと一緒なら、きっと上手にできるよ!」
リシアの無邪気な期待を前に、セシルは苦笑いを浮かべるしかなかった。
「ああ…そうだね、リシア。一緒に頑張ろう…」
内心では、(果たして、俺たちはこの『お仕置き』を無事に乗り越えることができるのだろうか…)という不安が渦巻いていた。