憧れは所詮、憧れに過ぎないのだろうか
小さい頃は誰でも一度はなりたいと思うだろ?
カッコイイヒーローに、眩しいくらいのライトに照らされながら、歌って踊るアイドルに
俺も例に漏れず同じだった
ネオ戦隊、覆面ライダー、赤い巨人戦士
分かりやすく正義の味方に憧れたんだろうな
そんな俺を見た母が〇プロダクションの子役募集の紙を持ってきた。
ヒーローに会えるかもしれない
当時の俺はそんな単純な理由でワクワクしながら母に連れられてオーディションに向かったんだ
まぁ、当然ヒーローはいなかった。
当時の俺はガキだったから、渡された紙に書いてある通りに台詞も読めたし、簡単な踊りや歌も楽しそうにやったらしい
結果は見事に合格だったとか
しかし、現実は厳しい物で合格したからとすぐにデビュー出来る訳では無い。
まずは事務所への登録料、レッスン料、交通費などの金が掛かるのだ。
母はその額面に驚き、父親に無断でオーディションに連れてきていた事を話し、俺を連れて帰宅した
ちなみに俺の家は金持ちではないが裕福な方だ、家族が普通に食べていける程度には
「芸能プロダクションだって?こんな金あるわけないだろ!」
「最初はお金が掛かるのは仕方ないじゃない!この子は才能があるのよ!」
「ふん、子役になったからなんだ。一生それで食えるかどうかわからないだろ!やめておけ。プロダクションだか何だか知らんが所詮は金取りだ。」
俺の父さんは自営業をやっていて、金には凄くシビアだったらしい
俺の夢は始まる前から終わった…かにみえた
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母さんがしぶしぶ断りの電話をしてから1週間後
〇プロダクションと書かれた封筒が届いた
母さんが興奮気味に俺に内容を話した
特待生
事務所登録料、レッスン料を事務所が負担する
交通費は自腹だが正直、破格な条件
母の行動力は父にすぐに連絡し
翌日には俺は子役として事務所に所属する事に
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芸能界に入ってすぐ、俺はヒーローなんて居ないと事実を知った。
大好きだったヒーローの中から別人が出てきた。
カッコ良く変身する人と敵と戦う人が違う
子役としての初仕事が、大好きな【ヒーロー番組】だったらしい
ヒーローに会える!
そう思った俺の純粋な気持ちは
現場に入って数秒で粉々に砕け散った
「あァ?なんだこのガキ…俺子供嫌いなんだよな~マネージャー。出番来るまで近付けさせんなよ!」
みんなが憧れる強くて優しいリーダー・レッドはテレビで見るより最悪な人だった
正義の味方よりも悪役みたいだった
俺はその日からヒーローが嫌いになった
当然、そんな現場や役者ばかりではないのだろう
しかし、ガキの俺にはそんな事は知らなかった
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正直覚えていないが、何故かその番組は好評だった
役はヒーローに助けられる少年だ
ふてくされていた俺は態度に出ていたのだろう
いわゆる素直じゃない子供として映っていた
幸いだったのはピンクのお姉さんが優しい人で、優しくしてくれたので、自然に笑顔を見せていたらしい。
カメラが回っていたのも知らずに
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意外に子役は忙しい
レッスンには大まかに
ボイストレーニング、演技指導、ダンスレッスン、アクション訓練などがある
体が成長しきっていない子役ゆえにレッスンはそんなにキツくはない
事務所的には色々な方向性で出してみて、売り方を決めていくらしい
ヒーロー番組だけでなく、色々なドラマに出演させて貰った
俺の路線は素直じゃないけど、たまに見せる笑顔が可愛いって感じだ
いつの間にかそれが当たり前になってた
少ないなりに出演すればギャラが出るし、打ち上げなんかにも呼ばれる。親同伴で
この頃から色々おかしくなったんだ
まず、母さんが俺の代理でパーティに出まくるようになった
迎えはいつも父さんだ
「最近、忙しいみたいだな…大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ」
最初あんなに反対した父さんが優しい言葉をかけてくれた。反対に母さんはもっと頑張りなさい。売れないと駄目。あなたは凄い子なんだからと俺の幼少期はレッスンとドラマ出演が主だった
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今俺は東京から離れてロケに来ている
場所は宮崎にある病院
子役時代を終えた俺はそのまま役者になった
医療ドラマの撮影で大病を患った入院患者の役を貰った
作品の舞台が宮崎の総合病院で、協力を取り付けたらしい。しかも入院患者やドクターもそのままエキストラで出演する。
いや、いいのかよ!?ありかそんなドラマ!
あ、スポンサーの指示?ならありだ
俺の出る所までは暇だから少しぶらつく事にする
入院患者の服のまま歩いていると、病院では流れない音楽が流れてきた
一番奥の部屋だ、少し扉が開いている
「少し覗いてみるかな」
中に居たのは女の子と医師、なにもおかしいことはない
アイドルのDVDを見ていなければ、更に言うなら女の子がサイリウムを振ってる
「ひゃあ~アイ最高♪ね、せんせ!」
「あぁ、そうだな…でもあまり動くと体に良くないぞ?」
ふと医師と目が合った、仕方ない入ろう
「こんにちは。なにやら楽しそうな音楽が聴こえてきたので、つい。ごめんなさい」
「あぁ、それは構わないけど…君は?見ない顔だけど新規入院かな?」
「あぁ、先生は説明の時に居なかったですもんね。この度、宮崎総合病院に撮影で来ました。〇プロダクション所属の蒼(そう)と申します」
医師は少し驚いたもののすぐに名乗った
「産婦人科医の雨宮吾郎(あめみやごろう)だ。君、しっかりしてるんだな。何歳だい?」
「今年で15歳になりました。一応、役者をしていますので…そちらの君は?」
DVDが終わったのか、こちらを見ている女の子に声を掛けた
「あ…えと…さりな」
「さりなちゃんか。よろしく!蒼と言います。ん?そのDVD…ライブ会場でしか買えない限定版だ」
【B小町】最近、売れ出した人気アイドルグループで新しくセンターになった星野アイを中心に活躍の場を増やしている。
「え、わかるの!?」
「あぁ。僕も同じの持ってるからね」
さりなちゃんはB小町の話をした途端、凄まじく距離を詰めてきた。さりなちゃんが疲れて寝てしまうまでに雨宮先生は消えていた
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「やぁ、凄かったよ。本物の患者みたいだった…流石は役者って所か」
余命僅かの患者役になりきる為の、化粧を落としていると雨宮先生が声を掛けてきた
「雨宮先生ですか。ありがとうございます!けれど僕なんてまだまだですよ。」
「いや、演技には詳しくないけど…君が凄いのは俺にも分かる。それと、ありがとう」
何故か礼を言われてキョトンとしていると、雨宮先生はゆっくり話し始めた
「さりなちゃん、厄介な病気でね、退形成性星細胞腫(たいけいせいせいせいさいぼうしゅ)という病気だ。脳に発生する悪性の腫瘍で、未だ有効な治療法がない上に…さりなちゃんはステージ3、余命幾ばくもないんだ。こんな田舎の病院じゃあ、延命治療すら難しい」
「なるほど…でも何故この話を僕に?」
「うん…彼女、初対面の筈なのに君と話せて楽しかったみたいでね。この病院にはさりなちゃんと近い年齢の子は居なくてさ。暇を見つけては俺が来ていたんだ。けど研修医の辛い所でな、いつでも来られる訳じゃない。」
つまりロケの期間中、さりなちゃんと会って欲しいと言いたいんだな
「良いですよ。僕もさりなちゃんが喜んでくれたら嬉しいですから。でも、ひとつ貸しですよ?」
「ははは…分かったよ。俺に出来る事なら、何でもするさ」
俺と雨宮先生の約束は、数年後果たされる事になる
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さりなちゃんは毎日楽しそうだった
体は満足に動かせず、調子の良い時で数分の歩行が出来るくらいだったが…彼女の病を考えればとても頑張っている。
俺は撮影の合間を縫って、毎日さりなちゃんに会いに行った
「あ、蒼にぃおそーい!」
「こんにちは、さりなちゃん」
ベッドから身を起こし、若干辛そうにな顔をするが、すぐに元気そうな明るい表情に変わる。俺はさりなちゃんの嘘に気付いていたが、あえて言わない事にした。毎日を生きる事に必死な子に心理的負担を掛けてどうする。
「あはは!蒼にぃの顔、白いの残ってるよ?」
「え?ウソ!?」
慌てて鏡に顔を映すが、そんな事実は無い
「騙したなぁ?」
「えへへ~愛情表現♡なんてね!」
今ではこんな風に仲良しだ(笑)
「せんせには適わないけど、蒼にぃもイケメンだしね。せんせに頼んで蒼にぃの出てるドラマもチェックしてるんだから♪」
「ま、吾郎さん歳の割にイケメンだよな。けど俺だって成長すれば追いつくさ…っと忘れちゃいかんな。お待ちかねのブツだ」
ベッドに備え付けのテーブルに小包を載せた
「!あ、開けても…?」
「ふふふ…無論」
慎重かつ大胆に、恐る恐る小包を開封するさりなちゃん
中身を確認すると病室が凄まじい光に包まれる
いや、さりなちゃんが凄まじい笑顔を浮かべているだけなのだが、空気が変わったと錯覚する
「B小町の最新アルバム、しかも全員のサイン入り!!これは初回限定かつライブ限定品!!至高のお宝じゃぁぁぁ!」
「甘いぞ…それは永久保存用!これが普段用!更にメンバーからの手紙もあるよ」
「な…蒼にぃ…貴方は神ですか!?」
「ふっ。ただの駆け出しの役者だ」
まぁ、事務所がB小町の所属してる苺プロと仲良くしてるからってのは内緒だ
「さて、後は体に負担が掛からないように…って聞いてないね」
さりなちゃんは手紙とアルバムを交互に見ながら目が輝いている。
______
さりなちゃんが眠ったタイミングで病室を出た
すると吾郎さんに会った
「やぁ」
「吾郎さん」
吾郎さんと深夜までやってる食堂に来た
「さりなちゃんの声、診察室まで届いたよ。なんか久しぶりだったな…何があったんだ?」
「苺プロの知り合いに限定アルバムとB小町フルメンバーからの手紙を送って貰いました」
「え?なにそれ欲しい」
「ありますよ。アルバムだけですが」
ガシッと握手を交わす男二人
「そっか…次の撮影で終わりなのか」
「えぇ。次でクランクアップです。次の仕事も決まってますから」
本来、このようなロケはすぐ終わるが、今回のドラマは一話から最終回までを病院で撮る予定だったからこそ、長い滞在になった
実は今回貰った役、最終回まで登場するメイン級だったのだ
「さりなちゃん、寂しがるだろうな」
「俺にとっても、年の離れた妹みたいなものですし」
「…何かあったら連絡するよ。そしたら必ず来てあげてくれないか?」
さりなちゃんの余命は幾ばくも無い
その時は思ったよりも近いのだろう
それきり会話はなくなり、出された料理が冷めていくのを眺めていた。
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そして俺が宮崎から出発する日が来た…のだが
「さりなちゃん」
「…グスッ…ぞぅ…ニィの…バカぁ…ヴェェ」
さりなちゃんが号泣しているのだ。これには吾郎さんも予想外らしく頭を抱えている
「なぁ、さりなちゃん…また会いに来るからさ。泣き止んでくれよ。俺、さりなちゃんの素敵な笑顔で見送って欲しいな」
「…ゥッ…ゥッ…ほんとに…またくるぅ?グスッ」
大粒の涙を流しながら俺を見つめてくる
「あぁ、約束だ。それともうひとつ、メールだけじゃなくテレビも見てて!さりなちゃんにずっとメッセージを送るから。」
「…ん…ほんとに?B小町のアレ?」
いや~あれは…まあ、仕方ないよな。さりなちゃんの為だ。バラエティとかに出る時にしよう
「全国ネットでやってやるよ!」
「…ぷっ…あっはっはは…蒼にぃ、ありがと…待ってるね。これ、蒼にぃに預ける」
「!アイ無限恒久永遠推し!!!キーホルダー?い、いいのか?さりなちゃんの宝物だろ?」
「うん!それを私だと思ってね。ばいばい、また、会おうね?」
さりなちゃんの笑顔は今までで1番の輝きと、儚さを内包していた。
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「正直、びっくりしたよ。随分懐かれたな、本当の兄妹のようだった」
「俺にとっても本当の妹の様に思ってますよ。けど、大事にしていたキーホルダーを預けてもらえるなんて。」
「あぁ、わりと長い付き合いだったんだが…若さには勝てないな…さりなちゃん、今の所は大事には至らないが…油断は出来ない。あまり長くは持たないと思ってくれ」
そうして俺は宮崎から東京へ戻った。
携帯の電源を入れると、通知が3件、マネージャーと腐れ縁のアイドル、そして…さりなちゃん。
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蒼にぃ、もう東京へ着いたかな?私は今すっごく寂しいです。毎日のように蒼にぃに会って、笑って、たくさんお話したね。せんせは毎日来てくれるけど、なんか違うんだよね…あはは、せんせには言えないね。私、お母さんが会いに来なくなって、見捨てられたって…分かってた。自分の体の事もなんとなくね…だから演技してたの。せんせは気付かなかったけど、蒼にぃには見破られてた。だから蒼にぃの前では演技出来なくなってたんだよ。今まで生きてきて初めての…蒼にぃ!次に会えるの楽しみにしてるね!
続く