サウザンド   作:かりん2022

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神:アッシュ2

 

 レオンの国だった。

 その事実は、思った以上に俺の頭を混乱させていた。

 

「ユート?」

「え?」

「どうしたの?」

 

 エリーゼが不思議そうに俺を見る。

 

「あっ、ごめん」

 

 いや待て待て待て。

 落ち着け。まず確認だ。

 ここは本当にレオンの国なのか?

 

「先生!」

「うん?」

「アメリカンフロンティアって、どんな国なの?」

 

 カイ先生は絵本を閉じた。

 

「みんな知ってるかな?」

 

 園児たちが元気よく手を挙げる。

 

「ヒーローの国!」

「メカリア!」

「ヴィランいる!」

「正解!」

 

 全部聞いたことがある。

 いや、作った覚えがある。

 俺じゃない。

 レオンが。

 

「この星はね、千人の開拓者が開拓したって伝説があるんだよ。レオンは、アメリカンフロンティアを開拓したって言われてる」

 

 ぶふっ。

 危うく吹くのを我慢した。

 

「千人の像を祀った神殿が各地にあって、その場所ごとに中心の像が違うんだ。諸説あって、開拓者、地図を作った旅人、神様だったなんて説もあるね。まあ、今の神殿で無事なものはほとんどないんだけどね。なにせ作られたのが古い時代だから。彼らはサウザンドって呼ばれてる」

 

 俺は頭を抱えた。

 あの神像ってこの為かよ!

 

 ◇

 

 家へ帰ると、父さんが笑顔で迎えてくれた。

 

「今日はどうだった?」

「楽しかった! サウザンドって古い開拓者のお話聞いた!」

 

 これは本当だ。

 保育園なんて前世ではほとんど覚えてない。

 意外と面白い。

 父さんと母さんは、本当に優しい。

 大好きな両親。

 忍族の父さん。

 魔族の母さん。

 どちらの種族も俺が作った。

 

 ……いや。

 

 設定した、が正しい。だってゲームだったんだから。

 

「ねぇ父さん。」

「ん?」

「忍者って知ってる?」

「忍族だよ。お父さんは最後の純血の忍族なんだ」

「そうなの?」

「そう。大昔、忍術っていう、いろんな魔法を使ったっていう伝説があるんだよ」

「父さんも知ってる?」

「絵本で動物は喋るけど、実際は喋らないだろ? そういう話」

 

 うーん。完全に失伝してる。

 

 ◇

 

 その夜。

 俺は空を見上げた。

 

 真っ暗だった。

 

 星が一つもない。

 太陽しか存在しない空。

 ゲームの設定そのままだ。

 

「俺、本当に世界を作っちゃったのか」

 

 ゲームだと思っていた。

 ただの遊びだと思っていた。

 ダンジョンを置いて、魔物を配置した。

 冒険者を作って、国を設定した。

 

 「面白そうだから」

 

 そんな理由で。もし本当に現実なら。

 

「……ごめん」

 

 誰に謝ればいいのかわからなかった。

 

 ◇

 

 幼児なりに絵本やおしゃべりで一生懸命勉強しながら、二年が過ぎた。

 俺は5歳になっていた。

 父さんと母さんは仕事で留守。代わりに夜は誕生日ケーキでお祝い予定。

 お願いして保育園から借りた絵本を一人で読んでいると、突然。

 頭の中に、懐かしい声が響いた。

 

『大変お待たせいたしました』

 

 俺は立ち上がった。

 

『惑星ファンタジーアース製作実験にご協力いただき、ありがとうございました』

 

 運営女神様だ。

 忘れるはずがない。

 

『規定年齢に達しましたので、一回目の報酬を支給いたします』

「……来た」

 

 心臓が速くなる。

 

『ステータスを解放します』

『ステータスオープンと唱えてください』

 

 俺は周囲を確認した。

 誰もいない。

 

 よし。

 

「ステータスオープン」

 

 青い半透明の画面が、目の前へ浮かび上がる。

 

「本当に出た……」

 

 夢じゃなかった。

 

 俺達の十年間は、本当にあったんだ。

 

 画面には懐かしい名前が表示されていた。

 

 灰原・縁――アッシュ。

 

 現在名、弓星悠人。

 

 種族、忍族・魔族。

 

 ジョブ、なし。

 

 そして素質欄には、俺がゲーム内で設定した魔法が並んでいる。

 

「ちゃんと残ってる」

 

 思わず笑ってしまう。

 その下には見覚えのある項目が並んでいた。

 アイテムボックス、マイエリア、ショップ、ノート。

 どれもゲームで散々使った機能だ。

 

 まずはアイテムボックスを開く。

 

 中には五つの箱。

 あのゲームは基本は累積式で、神はゲストから神まで五種類の課題をしないといけない代わりに、五種類の報酬をもらえた。今回もそうなのだろう。

 

 ゲスト。

 

 職人。

 

 クリエイター。

 

 精霊。

 

 神。

 

「まずは神報酬から行くか」

 

 一番大きな黒い箱を開ける。

 すると、中から色とりどりの金平糖が現れた。

 

「……金平糖?」

 

 中から金色の粒を一つとる。

 手にとって本能で理解すると同時に思い出した。

 これは高級創造触媒だ。

 ゲーム内で神しか使えなかった最高級素材。

 一騎当千のNPCや神具を作ることができる。

 

「危なっ」

 

 慌てて蓋を閉める。

 五歳児の部屋に置いていい物じゃない。

 他の報酬も確認する。

 

 大量のアイテムポイント。

 

 スキルポイント。

 

 ジョブポイント。

 

 転移チケット。

 

 転生チケット。

 

 ポーション。

 

「本当にバイト代だったんだな……」

 

 いや、普通のバイト代ではない。

 現金は流石になかったけれど、人生がひっくり返る額だ。

 

 ◇

 

 ショップを開いてみる。

 やはり、ほとんどの商品には鍵が掛かっていた。

 水と携帯食、貴金属に宝石とポーションだけ買える。

 何かあっても餓死の心配はなさそう。

 

『正式オープンまで あと365日』

「まだ買えないのか」

 

 少し安心した。

 今全部買えたら、俺はきっと調子に乗る。

 調子に乗って世界を滅ぼしかねない。

 

 実績がある。

 

 ゲームではカオス国をダンジョンだらけにして自滅させた。

 レオンにも白白にも散々怒られた。

 反省は……一応している。

 たぶん。

 でもだって、現実になるなんて思わないだろ。

 

 ◇

 

 その時、小さな通知が点滅した。

 

【運営からのお知らせ】

 

 開いてみる。

 

『第二回報酬支給まで 365日』

『第三回報酬支給まで 730日』

『報酬内容は現在までの行動によって変動します』

『本番環境開始まで 365日』

 

「本番環境……」

 

 本番。

 本番って何だ。

 ゲームなら正式サービス開始。

 

 でも、ここはもう現実だ。

 

 ファンタジーアースは四千年も歴史を積み重ねている。

 

 今さら何が始まる?

 

 答えは書かれていなかった。

 

 ◇

 

 俺は窓の外を見る。

 

 今日も平和だ。

 

 近所の子供達が走り回り、ドリアッドのおばさんが庭木を手入れしている。

 

 空飛ぶ車が頭上を通り過ぎ、遠くではヒーローが飛んでいた。

 

 どこにでもある日常。

 

 でも、この平和は俺達が作った世界の上にある。

 

 ゲームの中で、「面白そう」の一言で配置したダンジョン。

 

 軽い気持ちで設定した魔法。ロマンだけで増やした遺跡。

 

 全部、この世界では現実だ。

 

 俺の作ったダンジョンで滅んだ国も、俺がややこしい設定をしたせいで継承ができずに失われた魔法も、魔法が失われて没落した種族も、ぜーんぶ現実。

 真面目に考えたら発狂しそうなこの事実。

 たとえ何も知らなかったのだとしても。

 

「……責任、あるよな」

 

 初めて、その言葉が胸に落ちた。

 

 神だからではない。

 

 作ってしまったからだ。

 

 俺は深く息を吸う。

 

「一年後に何が起きるかわからない」

「でも、それまで何もしないのは違う」

 

 父さんと母さんは忍族と魔族なのに、種族魔法を知らなかった。

 失われた知識は、この世界にまだまだある。

 

「まずは、そこからだな」

 

 俺にしかできないことをやろう。

 俺はそう決めた。




マシュマロ
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