サウザンド   作:かりん2022

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神:アッシュ3

 次の日。

 

 俺は保育園でも上の空だった。

 

「悠人くん?」

「は、はい!」

 

 カイ先生に呼ばれ、慌てて返事をする。

 

「大丈夫?」

「うん!」

 

 大丈夫じゃない。

 頭の中は昨日のことばかりだった。

 

 神。

 

 創造魔法。

 

 本番環境。

 

 そして、一年後。考えれば考えるほど、胃が痛くなる。

 

「はい、お絵描きの時間ですよ」

 

 配られたクレヨンを手に取りながら、ぼんやり考える。

 俺は神だ。

 でも、神だから何でもしていいわけじゃない。

 むしろ逆だ。

 ゲームの時みたいなノリで世界を弄った結果が、今のファンタジーアースなんだから。

 

 ダンジョン。

 

 失伝した魔法。

 

 滅んだ国。

 

 全部、俺達が積み上げた四千年の歴史だ。責任が重すぎる。

 

 ◇

 

 その日の帰り道。

 母さんと手を繋いで歩きながら聞いてみた。

 

「ねえ、母さん」

「なぁに?」

「母さんの種族には、忍術みたいな伝承ある?」

 

 母さんは少し考えて首を傾げた。

 

「ないわね」

「そっかー。もし忍術が使えたら、お父さん嬉しいかな。お母さんも忍術みたいなのほしいと思う?」

「そうね。忍術が使えたら、本当に……本当に嬉しいと思うわ。お母さんも魔法が使えたらとっても嬉しいと思う。でもね。魔法には才能とお金と先生と高価な道具が必要なのよ」

 

 そこに、俺の失敗した理由の全てがあった。

 金が掛かり、特殊な血族しか使えず、技術的に高度で、特殊な道具が必要だった。

 失伝してもしゃーない。

 

「お母さん、魔力はあるのよ。でも、お金がないとね」

「そっかぁ」

 

 うーん、これ、テコ入れ簡単じゃないな?

 

 ◇

 

 夜。

 

 父さんも母さんも寝静まった頃。

 

 俺は部屋のカーテンを閉めた。

 

「マイルーム」

 

 静かに扉が現れる。

 中へ入り、鍵を閉める。

 誰にも見られない。

 ようやく一人になれた。

 

「……創造魔法を使えば……」

 

 手の中へ、金色の高級触媒を一粒取り出す。

 

 小さな金平糖みたいな結晶。

 

 これ一つで勇者すら作れる。

 

「何を作る?」

 

 世界を変える兵器か。

 

 最強の護衛か。

 

 新しい種族か。

 

 どれも違う。

 

「才能、教師、お金、道具……」

 

 全部一気に解決なんて無理だ。

 俺は自分へ言い聞かせる。

 

 まずは失われた知識を戻す。

 

 それだけでいい。

 

 ◇

 

 頭の中で設計図を描く。

 

 本。

 

 生きている本。

 

 読むだけではなく、教えてくれる教師。

 

 忍族の血を引く者だけに反応する。

 

 悪用されないように自我と転移魔法を与える。

 

 そして、厳しくも優しい教師の人格を与える。

 

「よし」

 

 高級触媒が光になる。

 

 部屋いっぱいへ光が広がり、一冊の本がゆっくり形を成していく。

 

 黒い表紙。

 

 中央には青白く輝く石。

 

 ゲームの頃、一番好きだった宝石。

 

 ラブラドライト。

 

 潜在能力を引き出す石。

 

 忍者にはぴったりだと思った。

 

「完成!」

 

 本がふわりと浮いた。

 

 パラパラと勝手にページがめくれる。

 

 まだ文字はない。

 

 持ち主を待っているのだ。

 

「名前は……」

 

 少し考える。

 

「才蔵」

 

 本が小さく震えた。

 

【承認】

 

 頭の中へ声が響く。

 

「喋った」

【我が名は才蔵】

【忍術継承支援型神具】

【創造主の命令を受領します】

 

 うわぁ。

 本当に命を与えてしまった。

 ゲームだからと騙されたのではなく、自分の意思で。

 

「命令」

 

 少し考えてから答える。

 

「忍族へ忍術を伝えてほしい。ただし、悪人に教えないよう注意して」

【了承】

「それだけ」

【……以上ですか?】

「以上」

 

 それ以外の何があるんだ。

 

【世界征服】

「しない」

【新国家建設】

「しない」

【軍団創設】

「しない」

【勇者育成】

「しないって。なんでそんな物騒なんだよ!」

【創造主は前科がありますので】

「…………」

 

 否定できない。ゲーム時代の俺なら全部やったし。

 むしろ同時進行だった。設定で一行書くだけだったんだから俺は悪くない。多分。

 現実化するって知ってたら俺だって考えたよ、まじで。

 

 ◇

 

「才蔵」

【はい】

「絶対に世界をかき回すな」

【了承】

「忍術を教えるだけ」

【了承】

「教える相手も、本人が望んだ場合だけ」

【了承】

「押しかけるな」

【了承】

 

「……あと」

 

 俺は少し笑う。

 

「困ってる子がいたら助けてやって」

 

 本は静かに閉じた。

 

【創造主の命令を受諾しました】

【最優先任務として実行します】

 

 その瞬間。

 

 本が光って、消えた。

 

「え?」

 

 いきなり、神具は行方不明になった。

 うーん不安だ。でもあと2冊作ろう。魔族式魔術と紋章術である。

 脳内の天使レオンがちょっと待てって言ってるけど俺は忍術とか見てみたい。

 これでテコ入れになればいいけど。

 

  ◇

 

 一ヶ月後。

 父さんと母さんの職場が変わったらしい。

 なんか偉い人に頼まれたんだって。スカウトってこと? すごい!

 守秘義務で何も言えないみたいだけど、休日が増えて、一緒に外で訓練してくれるようになって嬉しい。今まではあんまり外に出してくれなかったからね。

 でも生活は楽になったらしく、ラジオを買ってくれた。

 

 おお、文明の香りがする!

 

 ワクワクしながら家族揃ってラジオをつける。

 

 ニュースが流れる。

 

『失われていた技術を伝える神具、出現』

 

『神具は意思を持ち会話可能であり……』

 

『四千年前の創造主アッシュに作られたと名乗っており……』

 

『中華仙国は伝統技術である紋章術の神具の所有権を主張しており……』

 

 白白の作った国が俺の紋章術を伝統にしてた!

 伝承されてんじゃん、紋章術!

 

 更に、連れて言ってもらった広場から見える大型テレビでいくばくかの忍術や紋章術や魔族式魔術が公開されて、俺は小躍りするのだった。

 




マシュマロ
https://marshmallow-qa.com/lucaluca
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https://odaibako.net/u/karin2022v
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