レオナルドはうたた寝から目を覚ました。
「……僕の家?」
ガタっと立ち上がる。
幼い体。目の前にはおやつの皿。
時計を見る。日付はあの日のまま。
長い、永い夢だった。やけにはっきりとしていた。
「夢……?」
『惑星ファンタジーアース製作実験にご協力いただき、ありがとうございました』
「ひゃっ」
レオナルドは飛び上がった。
『初回報酬支払いにつき、ステータスを解放します』
『ステータスオープンと唱えてください』
「ステータスオープン……?」
青い画面が広がり、レオナルドは慌ててそれを引っ込めた。
やり方は夢の中で学んでいた。
「レオ、どうしたの」
「寝ぼけちゃった」
10年ぶりに聴く、ママの優しい声。
感情が抑えきれなくなって、レオナルドは泣いてしまった。
「どうしたの?」
「怖い夢見た」
ママは台所にやってきて、優しく抱きしめてくれた。
10年以上。10年以上だ。
仲間達とゲームを作り続けた日々。
アッシュ。
白白。
テオ。
エーリャ。
999人の仲間。
全部、夢とは思えなかった。
「どんな夢を見たの」
「忘れちゃった」
レオナルドはぎゅっとママに抱きつくと、部屋に行くと告げた。
部屋に鍵を掛けて、レオナルドは懐かしい部屋で、深く息を吐く。
「……。ステータスオープン」
ぽん、と出る青い画面。
やっぱり。
全部、本当だった。
◇
翌日。
学校へ向かう。友達が駆け寄ってくる。
「レオ!」
「宿題やった?」
「もちろん」
全力で10年前を思い出しながら部屋や鞄を漁り、宿題をした。
なぜか攫われる前を鮮明に思い出せたけど、それでもドキドキしながら友達の顔を必死で思い出していた。
幸い、目の前のこの名前も顔もわかる。よかった。
普通だ。
世界は何も変わっていない。
なのに。
自分だけが違う。
ポケットには誰にも見えないアイテムボックス。
頭の中には創造魔法。
そして。
神という階級。
「……」
こんなの、誰にも相談できない。
◇
放課後。
レオンは部屋へ閉じこもった。
「さて」
改めて画面を開く。
「アイテムボックス」
報酬を確認する。
ポイント。
高級触媒。
ポーション。
全部ある。
「本当に貰えた」
ゲームの戦利品。
いや。
もうゲームじゃない。
現実で使える。
その重さが急に怖くなった。
◇
「ショップ」
試しに開く。
プレオープン。
まだ殆ど何も買えない。
「一年後」
運営はそう言っていた。
契約書にも本番環境と書かれていた。あれは何だろう。
ゲーム会社を名乗ってはいたけど、あれは違った。
千人の意識を攫い、10年労働させ、一瞬で元の時間に戻し、現実でステータスオープンを可能とする。そんなの人間にできるわけがない。
逆らうのは愚策だと、子供のレオナルドでもわかる。
あの10年の夢について黙っているのは確定事項だ。
「あれはいったい何だったんだろう」
考えても答えは出なかった。
◇
窓の外を見る。
夕日が綺麗だった。
アッシュも今頃、この夕日を見ているのだろうか。
いや。
まだゲームをしているのかもしれない。
レオンが帰還を選んだ時、アッシュは残れる限り残ると言っていた。
帰りたくないと言っていたけど、ちゃんと帰れただろうか。
それだけが心配だった。
アッシュだけではない。テオ、白白、エーリャ……。他にも多くの友人ができた。
「……会いたいな」
言葉が自然に漏れた。
ゲームの中では毎日のように話していた。
十年以上。
家族より長く一緒にいた。
なのに。
もう連絡する方法はない。
◇
レオナルドは高級触媒を手に取った。
金色に光る結晶。
「創造魔法……」
今なら何でも作れる。
強いヒーロー。
巨大ロボット。
宇宙船。
ゲームの頃なら迷わず作っていた。
でも。
「まだだ」
静かにアイテムボックスへ戻す。
「今はまだ使わない」
世界がどうなるか分からない。
運営が言っていた本番環境も始まっていない。
焦って動いて失敗したら取り返しがつかない。
そもそも、今のレオナルドに力なんて必要ない。
ずっと力が必要になる場面が来なければいい。
「待とう」
レオンはそう決めた。
その判断が正しかったのか。
間違っていたのか。
それを知るのは、一年後。
世界が本番環境へ移行した、その日だった。
マシュマロ
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