サウザンド   作:かりん2022

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一般人:幻夢先生

滝河 龍弥、ペンネーム 幻夢は漫画家としてデビューして一番のピンチを迎えていた。

 

『あんたの所の漫画キャラがうちの子を誑かして妊娠させたのよ! 責任取りなさい!』

『麗夜様が本当にいるんですか!?』

『麗夜様の正妻は私です! あんな男なんかじゃありません!』

 

これは出版社に寄せられた苦情である。いや、世の中いろんな人がいるわ。

 

腐女子の皆さんには残念ながら、バトル漫画「マスカレード」は若干の推理要素を含むど健全なバトル漫画である。男同士は結婚しないし子供も産まない。麗夜の嫁は桜なのである。

 

漫画キャラがうちの子を妊娠させましたなんてヤベー人は普通はスルー安定なのだが、それが世界初の両性具有の人の妊娠なのが悪かった。

 

多分麗夜コスプレの同胞と熱いアバンチュールを過ごしたのだろうが、それを漫画キャラと本当に結婚できた! と判断してもらうのは困る。

 

しかし、そんなやばいファンこそが投資してくれるのも事実。

麗夜のはんこや指輪を高価格で売り捌いてきた身としては、それらのファンを否定するのも難しい。

なので真正面から否定せず、沈静化を図ろうと四苦八苦していた。

 

ところが。

 

麗夜と同じ髪色、麗夜と同じ瞳、麗夜と同じ超能力を持った子供が生まれたので、事態は更にややこしくなった。

 

「どういうことなの? 俺、責任取らなきゃいけないわけ?」

「そんな事は絶対にないです!! 自信持ってください、麗夜はフィクションです!!」

「そ、そうだよな」

 

 同じ漫画家の先生達からは既にかなりネタにされている。

 

 一体何が起こっているのか。俺は必死で予測した。

 

 例えば、俺が実は並行世界を観測していて、その並行世界から麗夜が来た。

 却下。それでなんで男を孕ますんだよ。そもそも麗夜は計算して組み立てたキャラだわ。頭に思い浮かんだ物語をそのまま描く先生もいるけど、俺はそのタイプじゃない。

 

 例えば、妄想が下位世界を作り出し、腐女子の妄想と混ざり合い、変質し、そのキャラと接触して子供を産んだ。

 却下。そんな簡単に世界が生まれてたまるか。

 

「先生、アポが取れました。いくらファンとはいっても、今回の事は度を越してます。こちらが悪者にならないようしっかり理論武装して説得しましょう。大丈夫、私は先生の味方です!」

「うん、ありがとう、田中くん」

 

 

 

 そんなわけで、編集部で会うことになった。

 いつ来るのかとドキドキしながら窓から外を見ていると、唐突に男女と赤子が現れた。

 

「は? テレポート?」

 

 待って普通に編集部に入らないで。

 戸惑う声で倉木さんがいらっしゃいましたと言われて、応接間に向かう。

 

 女の子が土下座していた。

 

「ほらっ 胡蝶も頭下げて!」

「ええ、なんで? 麗夜の子供に会えて嬉しいじゃん」

「いいから下げろ……」

 

 どすの利いた声で女の子が言い、赤子を抱いた男は頭を下げる。

 

「この度はご迷惑をおかけして、誠に申し訳ありませんでしたっ!!」

「申し訳ありませんでした……?」

「胡蝶にはよーく言って聞かせますので!」

 

 赤子を見て、息を呑む。

 思っていた以上に麗夜の子供だった。

 雰囲気、顔立ち、髪色、目の色。全てが麗夜だった。

 

「ほら麗夜、この人がおじいちゃんだよー」「胡蝶!」

 

 ひぃぃぃ、とムンクのような女の子。

 

「わ、悪い子じゃないんです! ただちょっと、思い込みが激しいだけで!!」

「思い込みで子供はできないでしょ」

「おっしゃるとおりですけども!」

 

 とりあえず、仕切り直そう。

 

「俺は幻夢。マスカレードの作者です。マスカレードはフィクションのバトル漫画です。あなた達は?」

「倉木 優太! 親しい人には胡蝶って呼ばれてます。胡蝶の夢からとって胡蝶。この子は麗夜との子供で、名前はまだないです。こっちの子は綾瀬 花。0846様って呼ばれてます。麗夜×四郎のカップリングが大好きだから、0846様」

「されたくなかったこんな認知のされ方。訴えるのは……訴えるのはお許しください……」

「父親は麗夜なら、麗夜と会わせてもらう事はできる?」

「はい!」

 

 軽いジャブを放ってみると、倉木くんは笑顔でファンアートを見せてきた。

 

「いや、実際に会わせて欲しいかなって」

「会わせる……」

 

 ぽやーとした顔の倉木くんは、落雷に打たれた顔をした。

 

「そうだよ! 赤ちゃんより、旦那さん作るほうが先じゃん!」

「胡蝶……そこから先は黙ろうか……。神々の作品の贋作を作ろうなど私が許さん」

 

 綾瀬くんがガチギレで倉木くんに詰め寄り、赤子が泣き、物がふわふわと浮いた。

 二人は慌てて子供をあやして落ち着かせる。

 衝撃発言に俺は呆然とした。

 

「作る……君は麗夜を作れるのかな」

「たぶんイケる。0846様も作ってたし」

「作ってない! 作ってないよ!? あなた勘違いしてるのよ!」

 

 慌てる綾瀬さん。怪しい。えっ この人達、やべー能力者って事?

 幻想をリアルにする能力者とか?

 

「いい、胡蝶。あなたが暴れると、マスカレードの続きが発売されなくなる可能性があるの。それは、マスカレード、ひいては麗夜を殺すことと同じなのよ。旦那様を殺したい?」

「えっ なんで!? なんでそうなるの」

「麗夜を作ったとして、戸籍はどうするの? 麗夜を無戸籍にするの? 麗夜が事故で人を傷つけてしまったら? それらはあなたのやったことだけど、なぜかこちらの幻夢先生が責められることになるのよ。それは筆を折ることにつながるわ」

「ど、どうすれば……」

「麗夜の格好をした人が父親でした、といえばいいのよ」

「つまり麗夜ってこと?」

「麗夜の格好をした人よ」

 

 なんだかとんでもないことを話している。

 

「落とし所はそれでいいけれども。許すには条件があります。麗夜の著作権、つまり大体の権利は俺にあるので、勝手にキャラを使うのは基本的には罪なんです。親告罪だから、こっそり使う分には目溢しするけど、俺が訴えれば俺が勝つってこと。あ、今回のお願いで全部許すってことじゃなくて、お願い聞いてくれれば今訴えるのは勘弁してやるって事ね。君ら際限なく好き勝手しそうだから、無条件の許しはあげない」

「ヒィッ」

「ハワワ」

「空とぶ道具を頂戴。君らが妄想を具現化できるのならね」

 

 そして俺は飛空の効果を持つ魔道具をしこたまもらった。まじか。

 デザインも仕組みも全然違う人類の夢がいっぱいである。

 

 

 

 

「田中くん」

「は、はい先生!」

「このまま発表すると大変な事になるから、口裏合わせようか……麗夜の子供を匂わせたほうがまだましだ」

「は、はいぃ!」

 

 いやしかし、すげーな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前のキャラが作った子供と面会したって聞いたぞ! やべーな!」

「いやまあハハハ。写真見ます?」

「麗夜にまじでそっくりじゃん……」

「結納品見ます? 空飛べるんですよこれ」

「はああああー!? なんでお前ばっかり! よしじゃあ、俺のキャラの嫁も募集する!!!」

 

 そういった友人の漫画家先生だったが、本当に複数の嫁(子持ち)が現れて泣きついてくるのだが、それは未来の話である。




マシュマロ
https://marshmallow-qa.com/lucaluca
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https://odaibako.net/u/karin2022v
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