19話 集合場所
「3月27日……」
0846はカレンダーを見上げた。
赤丸が付けられている。
出版社で、新婚旅行企画と取材旅行企画の説明会。
表向きは、漫画雑誌のイベント。
だが、サウザンドにとっては違う。
初めて堂々と集まれる場所だった。
「胃が痛い……」
政府。
出版社。
サウザンド。
一般参加者。
記者。
全部が混ざる。
絶対に平和では終わらない。
◇
『集合場所、出版社で決定』
チャットへ書き込みが流れる。
『了解』
『新婚旅行企画申し込んだ』
『これ、サウザンドどうやって判断してるの?』
『抽選って形にしてアンケートで判別してサウザンドだけに招待状送ってる。素人だけだと成り立たないから、サウザンド以外の業者も厳選して呼んでる』
『すごい』
『出版社、本気で異世界旅行会社になる気か』
『もう止まらない』
『俺、普通に漫画家さんのサイン欲しい』
『目的がおかしい』
『目的は元からおかしい』
『それもそう』
笑いが広がる。
緊張している者も多い。
それでも、誰かと一緒なら動ける。
『地図持っていく』
『地球儀も忘れずにね』
『コピー大量に刷った』
『各自、覚えてる情報を書き込もう』
『薔薇王国の王都はここだったよね?』
『違う、一つ北』
『四千年経ってるんだから変わってるだろ』
『参考程度だな』
画面の中で、一枚の白地図が少しずつ埋まっていく。
誰かが山脈を書く。
誰かが街を書く。
誰かがダンジョンを書く。
誰かが、斜線を入れる。
『ここ俺の黒歴史』
と書き込む。
『消すな』
『資料だから』
『嫌だ』
『生まれたものは消えない』
チャットは今日も平和だった。
◇
「専務」
内閣官房の男が資料を机へ置く。
「例の女性ですが」
「綾瀬花さんか」
「はい」
「どうだった」
「極めて口が堅いです」
「だろうな」
「ですが、一つだけ断言しました」
「何を」
「あれは現実だ、と」
部屋が静かになる。
「ゲームではない」
「はい」
「それだけで十分だ」
男は頷いた。
「少なくとも、彼らは征服ゲームのようには考えていません」
「そこは安心材料だな」
「むしろ、我々へ慎重な対応を求めてきました」
「制御できるのか」
「できないそうです」
「だろうな」
誰か一人が世界を管理できるなら、もっと違う答えになっていた。
「接触手段は」
「あります」
「断言したか」
「いいえ。政府に政治的な話はできないと。二次元キャラクターの嫁との新婚旅行企画としてなら協力できるそうです」
「は?」
「出版社が主導してます。国には関われず、個人としてしか動けないようです」
資料へ赤字で書かれる。
【接触方法あり(高確率)】
【個人のみ情報提供・協力可能】
【管理者権限なし】
「ま、まあいい。ルールがあるなら、ルールを守った上で目的を達成すればいい。監視は」
「継続します」
「過度にはするな」
「はい」
「こちらが敵だと思われたら終わる」
「承知しています」
◇
アメリカ。
レオナルドは、ニュースを消した。
『各国、共同調査団設立を協議』
『宇宙機関が観測強化』
『宗教学者「神話との関連も」』
全部予想通りだった。
「遅いくらいだ」
地球は慎重だ。
ファンタジーアースはもっと混乱しているだろう。
今、一番危険なのは。
「誤解」
地球は侵略と思う。
向こうは侵略されたと思う。
どちらも武器を持つ。
だからこそ。
「誰かが橋にならないと」
端末を見る。
転移チケット。
指が伸びる。
止まる。
まだ早い。
今は。
「待つ」
◇
ファンタジーアース。
王都では神託が写本されていた。
「星」
「月」
「惑星」
初めて聞く単語。
学者たちは徹夜で議論している。
「つまり、我らは空の球にも人が住むと言われたのか」
「神託です」
「否定はできん」
「では青い世界にも」
「人が住む」
沈黙が落ちる。
今まで。
空は飾りだった。
世界は一つだった。
そう思っていた。
違った。
空にも世界がある。
人がいる。
文明がある。
「戦争になるか」
誰かが呟く。
「分からん」
「交易かもしれん」
「神はサウザンドはいずれ現れると仰った」
「救世主か」
「侵略者か」
「分からん」
誰にも分からなかった。
◇
アッシュは机へ突っ伏した。
「疲れた……」
問い合わせ件数。
一万二千七百三十八件。
「増えてる!」
誰かが質問すると。
その答えに対してまた質問が来る。
永久機関だった。
《月とは何ですか》
《星は食べられますか》
《惑星は落ちてきますか》
《神アッシュ様は空を飛べますか》
《サウザンドは本当に千人もいるのですか》
「いるんだよなぁ」
質問を閉じる。
また開く。
また増えている。
「テオー!」
思わず叫ぶ。
「早く来てー!」
もちろん返事はない。
問い合わせ着信のお知らせだけが静かに光っていた。
◇
その頃。
出版社では。
「第二次婚約届が100万件突破しました」
「……予想の100倍多いな……」
編集長が重々しく告げた。
「応募開始三時間です」
「やっぱり旅行企画? 大々的に協力者募ったしね」
「はい、あの星に行きたいと……。婚約届が前提なので」
「まだ日程も決まってないのに?」
「はい」
「百万円だよ?」
「惑星旅行と考えれば安いでしょう。婚約届が高額転売されてるようです。参加証になるからと」
「そんな連れてけないぞ。取材旅行がメインで、新婚旅行はチーターを釣る口実だったんだから」
「納得するでしょうか? 政府は確実に介入してくるかと」
「民間企業なんだがなぁ」
編集長は天井を見上げた。
「まあいい。抽選で押し切る。政府が勝手に当選して何を裏でしようと俺たちは知らない。協力は魔道具譲渡で十分やった」
「はい」
「ただ、取材旅行の漫画家先生の安全は最大限配慮しろよ」
「はい」
「まあ、10……100組連れてけば十分過ぎるだろう。その方向で話を進めてくれ。協力者に楽しんでもらうのは絶対。後は普通のファンを30組、インフルエンサーのファンを5組で十分だろ。政府も10組くらい入れてやって。外国含めて10組な。残りの枠はファンで。転売ヤーなんか入れんなよ。これだけ競争率が高いと暴動が起きる」
「はい」
「0846さんや胡蝶さんに協力をお願いするのは必要だ」
「はい」
「でも先生や作品の『マスカレード』はしっかり守れ。作品に口は出させるな」
「はい」
出版社の1番の目的は、本物のファンタジーを作家さんに体験してもらって大ヒット作を描いてもらうことである。
マシュマロ
https://marshmallow-qa.com/lucaluca
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https://odaibako.net/u/karin2022v
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