私の名前はやごころえいりん
ボスとジョルノの幻想訪問記30
あらすじ
(注意、永琳は諸事情によりロリ化してます)
みなさん、こんにちは。私の名前は八意永琳、しがない普通の薬剤師さ。ある日、紅魔館の連中に襲撃を受けて再起不能になった私は液体になってしまった。瓶詰め妖怪と化した私はてゐのひょんな一言から気が付いたら・・・・・・
体が縮んでしまっていた!! ドッバァーーーーーz____ン!!
取りあえずお医者さん(正確には薬剤師)だったのは覚えていたみたい。でも私ったら天才だからすぐに理解したわ。目の前で慌てふためいてるウサちゃんは因幡てゐちゃん。私の名前を様付けしているから、きっと私の奴隷みたいなものだったのよ。きっと。なーんにも覚えてないけどてゐちゃんが身の回りのことは全部やってくれるから気分はまるでお姫様ね! あー、楽しいわ。人生が楽しい!
と、一日永遠亭で暮らしてると色々なことが分かったわ。まず結構患者さんがいたこと。ゴキブリ(ホタル)と雀の妖怪がいたわ。あと、てゐちゃんは見せてくれなかったけど半妖の人も。ゴキと雀の2人………リグルちゃんとミスティアちゃんはその日のうちに目を覚ましたからてゐちゃんが退院させちゃった。もっと遊びたかったのになぁー。あと、目は覚ましてるのに何故か無反応な鈴仙・うど・・・・・・何ちゃら・イナバっていう人。何度呼びかけても反応がないから死んでるかと思ったけどどうやら違うみたい。てゐちゃんが説明してくれて、うどんげちゃんは心がやられちゃってたの。これはお医者さん、八意永琳の出番ね! 一日中うどんげちゃんを励ましてたわ。・・・・・・あんまり効果が無かったから飽きて寝ちゃったけど。でも、今日もお仕事に励まなくっちゃ。
と、いう所で永遠亭のドアを叩く音。で、外に出るとそこには――――。
* * *
ボスとジョルノの幻想訪問記 第30話
わたしの名前はやごころえいりん
永遠亭の病室のベッドは再び人間で埋まった。鈴仙・優曇華院・イナバ、十六夜咲夜、パチュリー・ノーレッジ、ヴィネガー・ドッピオ、上白沢慧音が寝かされている。だが、そこに他の人たちの姿はなく、残りのメンバーは全員居間に集まっている。
「・・・・・・とりあえず、てゐ。これは一体どういうことですか?」
居間に集結したのは5人。ジョルノ・ジョバァーナ、因幡てゐ、藤原妹紅、紅美鈴、それに・・・・・・八意永琳だ。
ジョルノは問題の八意永琳を見た。永琳は現在、何故か体長が縮んでおり思考回路や精神年齢も見た目相応の物になってしまっている。自分が見られている、と思った永琳は「うん?」と首を傾げて無邪気な笑みを浮かべた。
「・・・・・・い、いや・・・・・・これには深いふかーい理由があるウサ・・・・・・」
てゐはぼそぼそと言い訳を始める。見るからに永琳の幼女化の原因はてゐにありそうだった。
「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい、てゐ、てゐ、てゐィィ~~~~?? 深い理由って何だよお前。どうやったら人間が幼児退行するんだお前。蓬莱人でも月人でも『時間を戻す』のは不可能だろうが」
妹紅は口ごもるてゐを睨む。確かに妹紅の言うとおり、時間を止める人間や時間の長さを操る人間はいるが時間を戻す者はこの幻想郷にはいない。いくら光の速さで動けようと、過去に戻すことは不可能である。
「・・・・・・まさか、てゐ。あなたの『スタンド』の仕業でしょうか?」
「じ、『時間を戻すスタンド』ということでしょうか? まさか、そんな能力を持った『スタンド』があるとは・・・・・・」
思えない、と美鈴は言う。(もちろん、『時間を戻すスタンド』は2体ほど存在する。しかも相手を小さくするスタンドなら専売特許が更に2体存在する。しかし、そんなことを美鈴が知る由もない)
だが、てゐの答えは否定だった。彼女は首を横に振る。ちなみにてゐの隣に永琳はいるわけだが、さっきからずっとてゐの耳を触って遊んでいた。
「ち、違うウサ! いや、よしんばそうだとしても私が永琳様を子供にする意味が・・・・・・あ、ちょっと永琳様止めてください耳がとれてしまいます」
「てゐちゃん遊ぼうよぅ、私暇なんだけどー」
何となく今の永琳と輝夜の姿がジョルノと妹紅の中で重なった。月人とは精神年齢が低いとみんなワガママなのだろうか。
「じゃあどういう経緯で永琳がろーりんになるんだよ」
「妹紅今のうまいと思ったんですか? 寒いですよ」
「・・・・・・」
妹紅は赤面した。ジョルノの突っ込みが余りにも図星過ぎたからだ。
「えっと、うん。説明するウサ・・・・・・そう、あれは一日ちょっと前・・・・・・。私が瓶詰めの液体永琳様に向かって言った一言が原因で・・・・・・」
てゐは事の経緯を説明し始めた。その間、永琳はてゐの耳で遊んでいて、てゐの耳は片結びされた。
要約すると、てゐは永琳に「全身を構築するのに時間がかかるのであれば、構築し直す体積を減らせばすぐに回復するのでは」と言ったところ、気が付いたら瓶の中に小さな永琳が閉じこめられていたという。急いでてゐは残りの液体を水槽に移し窒息寸前の永琳を救出した。そして永琳が目を覚ますと、記憶も精神年齢も幼くなってしまったという。
「・・・・・・訳が分かりません」
「私に言わないでよ! というか耳超痛い! これほどける? ねぇ、これほどける?」
てゐが説明を終えた後、妹紅は慧音を永遠亭に任せて自分は元の案内人としての仕事に戻っていった。永遠亭がいくらこんな状況でも幻想郷の怪我人病人は治療を待っているのだ。とりあえず、妹紅には本日の診療は昼からだと言うことを伝えて、ジョルノとてゐは仕事の準備を進めていた。
これまでは永琳と鈴仙がいたのだが、これからは二人で仕事をしなければならなかった。患者がいる以上、仕事に穴を開けることは出来ない。
そんな状況の中、なんと美鈴が手伝いを進み出てくれた。彼女には永琳と咲夜や鈴仙たちの相手をして貰っている。美鈴が子供好きで本当によかった。
「めーりん! ほら見て、ほら見て! 薬が出来たよ!」
「うわぁ、スゴいですね八意先生! ちなみに何て言うお薬ですか?」
「ジクロフェナクナトリウム」
「何それかっこいい」
永琳が病室でジョルノとてゐが依頼した薬を精製していた。子供だから、もしかすると作れないのではと思っていたが能力は健在らしく名前を挙げるだけで「分かるよ~」と言ってすぐに作ってしまう。やはり天才であることは変わりないようだ。
それを美鈴がうまくおだてて仕事をさせていた。子供特有の飽きっぽい性格も美鈴による子供処世術にかかれば解決である。次々と薬箱に補充する用の薬を作っていく。
「一応、薬の精製には問題ないようですが、午後の診療が心配ですね。僕とてゐだけでやっていけるんでしょうか?」
と、片結びされて鬱血している耳を何とかほどこうと悪戦苦闘しているてゐを見た。
「鈴仙も永琳様もいないからね・・・・・・そんなことより薬の訪問販売を美鈴とロリ永琳様に任せて大丈夫ウサか?」
やっとほどけた。てゐはふぅ、とため息をつく。
「・・・・・・二人を信じましょう。あ、てゐ。今日ばっかりは仕事を途中で抜け出したりさせませんからね」
「ギクっ」
「二人しかいないんです。もし逃げたらゆっくりにしますよ?」
「ゲェ! 話の中に出てきた3妖精にやった奴!? 勘弁してよウサ!」
てゐはしゅん、と肩を落とした。やっぱり途中で仕事をサボる気だったらしい。僕は甘くないぞ、とジョルノはジロリとてゐに釘を刺す。
「あ」
注射器を洗いながらてゐは唐突に声を上げた。
「何かあったんですか?」
「いや、何か忘れてると思ったら・・・・・・」
てゐは再びため息をつく。
「・・・・・・あ」
ジョルノも思い出したようだ。そう、永琳の事で頭が一杯だったが、永遠亭にはもう一人わがままなお姫様がいる。
* * *
我々はこの女性を知っているッ!
この長く伸びた黒髪と、薄桜色を基調とした着物を身に纏ったこの女性を知っているッ!
名前は蓬莱山輝夜ッ!! 永遠亭で最も偉く、動かない人物ッ!!
そして、『ニート』であるッ!!
「・・・・・・姫様、朝起こすの忘れてましたがもうすぐ昼です。御昼食の準備をしておりますゆえ、もうそろそろ起きていただければ・・・・・・」
因幡てゐは輝夜のいる部屋の襖を丁寧に開けて中に入った。輝夜の部屋の中は大量のゴミ、ゴミ、ゴミ。足の踏み場もないこの部屋のどこかで輝夜は寝ている。
「・・・・・・あれですね」
ジョルノが指さした先には・・・・・・布団。布団が簀巻き寿司のようにぼてんと部屋の真ん中に無造作に転がっていた。おそらくそのなかに輝夜が寝ている。というか髪の毛が外に出ている。
「姫様起きてください! これ以上寝たら髪の毛に斑点模様のカビが生えてしまわれます!」
てゐは慌てて輝夜の所に近づいて布団を揺らす。だが、輝夜は微動だにしない。完全に熟睡状態だ。
「輝夜様、起きてください・・・・・・」
と、ジョルノが布団に手をかけると異様な気配を察知する。
布団がやけに『硬い』のだ。
「・・・・・・てゐ、この布団には鉄板でも仕込んであるのか? やけに硬いんですが」
「そんなはずはないウサ。・・・・・・でも言われてみれば布団っぽくないウサね。揺らしても布団そのものは動くけど、布団が簀巻き状態からほどけることはないウサ」
きっと姫様が能力でなんやかんやしてるせいウサね。とてゐは付け加えた。
「・・・・・・困ったお姫様だ、本当に」
ジョルノはため息を付いて、布団の端っこをつかんだ。これを引っ張ればいくら能力でどうこうしようと、布団はほどけるハズ・・・・・・。
「・・・・・・ん?」
だが、布団は本当に微動だにしないのだ。いくら引っ張ってもその簀巻き状態から形が変わることはなかった。
「・・・・・・てゐ。そっちの端を持ってください。いっせーのが、せっ! で引っ張りますよ」
仮にも姫様にそんな暴挙を働いてもよいのか、と思うかもしれないが永遠亭では輝夜の鈍感さはずば抜けているのでその程度の無礼は輝夜は全く気が付かない。
「そんなにほどけないウサか? 分かったけど」
てゐも不可思議な布団に首を傾げながらジョルノとは反対側の布団の端を掴んだ。
「いっせーのーが・・・・・・せッ!!」
ばッ! 二人は一気に輝夜の布団をはぎ取ろうとするが・・・・・・。
ガッキィィィーーーンッッ!!
「――――ッ!?」
「えぇッ!?」
布団はまるで鉄の塊のように硬く、やはり二人が一緒に引っ張っても形が変わることはなかった。
そして、今、ジョルノには確かに見えたのだ。
「――――『スタンド』!?」
輝夜の布団の内側に、一瞬だが何かいたのだ。直感的にジョルノはそれをスタンドだと判断する。
「す、スタンドって・・・・・・そういえば姫様、鈴仙のスタンドも見えてたらしいウサね。それが今、この状況で発現してるって事ウサか??」
てゐはスタンド使いではないのでジョルノには見えたスタンドは見えていない。
「いや、もしかすると・・・・・・輝夜様が他のスタンド使いから攻撃を受けて閉じこめられている可能性があります。不死に有効なのは『破壊』ではなく『封印』ですから・・・・・・『ゴールドエクスペリエンス』ッ!」
そう、もしかすると輝夜はジョルノたちではない他のスタンド使いから攻撃を受けたかもしれないのだ。その可能性は0ではない。自分が挑発していた八雲紫、その差し金が早速やってきたのかもしれない、とてゐは思う。
ジョルノは自身のスタンドを出して布団を掴んだ。だが、全く動かない。
「・・・・・・く、そッ!? 何と言う硬さだッ!? 『ゴールドエクスペリエンス』が、全く歯が立たない・・・・・・!」
ギギギギギ、と布団を開こうとするが布団は開く気配さえない。と、ジョルノが歯を食いしばっていると布団の内側から『スタンド』が現れたッ!!
「・・・・・・ッ!! これが『本体』か!」
姿を現したスタンド本体は上半身だけがある人型のスタンドだった。頭に二本の触角のようなものが生えており、下半身はいくつもの管が布団に繋がっていた。そいつはそのまま腕でジョルノを攻撃すると思いきや――――。
シュゥ・・・・・・。
と、輝夜がくるまっている布団に落ち着いた。
「・・・・・・?? な、何だ? 攻撃してこないのか?」
「何が起きてるウサ! 私には見えないんだから何ちゃらワゴンよろしく実況しながら戦うウサ!」
てゐが高度な無茶ぶりをジョルノにふっかける。
「・・・・・・何もしてこないんです。僕らを攻撃するわけでも、輝夜様を攻撃するわけでもなく、『ただそこにいる』。布団の上にいるだけです」
「・・・・・・はぁ?」
てゐは再び首を傾げた。
「もしかすると、本当に輝夜様の『スタンド』かもしれませんが・・・・・・攻撃します」
見た目は輝夜の印象からはほど遠いスタンドだ。何もしない、という所はそっくりなのだが。
とりあえずジョルノは本体が見えているので『ゴールドエクスペリエンス』で攻撃を試みる。
「無駄ァッ!!」
『ゴールドエクスペリエンス』の拳が布団の上に取り付くように居座るスタンドを殴った。
だが、手応えがない。はっきり言うと、ほとんど殴ったようには思えなかった。殴った気がしないのだ。
「ど、どうなってるウサ」
「・・・・・・攻撃が無効化されました。殴った衝撃も、『ゴールドエクスペリエンス』の能力も、全て! む、無敵だッ!」
ジョルノの攻撃は全て無効化される。まさに無敵だった。何一つ攻撃を受け付けない、寄せ付けない。だが、このスタンドから反撃はないしジョルノが打ったダメージの反射もない。
「じゃあどうするウサ! 姫様のスタンドだとしても、これじゃあどうしようもない!」
「・・・・・・確かに、もしかすると輝夜様のスタンドは暴走状態にあるのかもしれない。制御が出来ていないんじゃあ・・・・・・」
と、ジョルノが半ばあきらめかけたその時だ!
バッサァァッ!!
「――――な!?」
「嘘ッ!!?」
二人は同時に声を上げる。なぜなら――――。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん? ・・・・・・・・・・・・おはよぉ~・・・・・・てゐ、それとジョジョ・・・・・・」
二人があんなに一生懸命になってまで開こうとした布団が簡単にほどけただけでなく、中から何事もなかったかのように輝夜が現れたからだッ!!
「・・・・・・ジョジョ、どうして『スタンド』出してるの・・・・・・?」
輝夜は眠い目を擦りながらジョルノの『ゴールドエクスペリエンス』を指さした。そしてきゃっきゃと笑いながら。
「ん~・・・・・・ジョジョのスタンドって・・・・・・金ピカで綺麗だわ~・・・・・・ぽぇ・・・・・・むにゃ・・・・・・」
対してジョルノとてゐは固まっている。輝夜は楽しそうだが、二人は眉一つ動かさず輝夜の笑顔を凝視する。
・・・・・・まさか、本当に輝夜様のスタンドか? とジョルノは疑っていた。
「・・・・・・? どうしたの・・・・・・? 私の、顔。何かついてる~・・・・・・?」
あまりにジロジロと見てくるものだから流石に呑気していた輝夜もその視線に気が付いた。
「い、いえ・・・・・・輝夜様。スタンドを使えるのですか?」
「?」
輝夜はジョルノの問いかけに「なぁに、それ?」と言いたげな表情をした。どうやら自分がスタンド使いだと忘れているようだ。
「・・・・・・えっと、お忘れですか? スタンドが見える者はスタンド使いだということを・・・・・・」
「・・・・・・そうだっけ? じゃあ・・・・・・てゐは?」
話を振られたてゐは首を左右に振った。
「いえいえ、わ、私は見えませんよ! だから私はスタンド使いではありません!」
その答えに「ふぅん」と輝夜は声を漏らして。
「輝夜様、今さっきまで自分はスタンドをご使用なさっていた、という認識はありますか?」
ジョルノは慣れない尊敬語を使いながら問いかける。
「ううん。ぜんぜん?」
輝夜の答えはノーだった。するとジョルノはため息をついててゐに耳打ちをする。
「・・・・・・やっぱり暴走していたようですね。ほとんど害は無かったから良かったんですが」
「それじゃあどうすんのさ。さっきは何もしてこなかったけど、暴走状態って何してきてもおかしくないウサよ!」
「そんなことは分かってますよ。でも、多分輝夜様の能力には発動条件が存在する」
「何よそれ」
「見てれば分かります」
輝夜には聞こえない声で素早く会話をして、ジョルノは輝夜の方を向いた。
「・・・・・・輝夜様、少しだけの時間。もう一度布団を被ってみてください」
その依頼に輝夜は「え?」と声を出すが
「・・・・・・まぁ、おやすいご用よ。え~い」
ばっさぁ、と布団を頭から被って横になった。すると――――。
ドォォーーーーーーーン!!
「――――ふ、再びあのスタンドが! やっぱり発動条件がある!」
ジョルノの声にてゐは「どういう条件ウサ!」と聞き返すと
「輝夜様は布団を被って寝るとスタンドが発現する。おそらく効果は『あらゆる衝撃を吸収する程度の能力』でしょう」
「・・・・・・それって」
てゐは再び簀巻き状態になった輝夜を見て言った。
「・・・・・・いわゆる、布団は無敵ってこと?」
「そういうことです。布団を被っている状態なら輝夜様はどんな攻撃も受け流せるでしょう・・・・・・」
・・・・・・しばらくの沈黙の後、てゐは爆笑した。
* * *
スタンド名『20th Century boy』
蓬莱山輝夜のスタンド。布団を被って寝ることで自動発動する装備型のスタンド。布団なら何でもよく、スタンドが布団に取り付くようにして発動する。能力は『あらゆる衝撃を受け流す程度の能力』。つまり輝夜は布団を被っている間は外部からの干渉を一切受け付けない無敵状態と化す。これにより、どのような環境下においても輝夜は快眠を取ることが可能になる。布団は最強の防具である。
* * *
その後、昼食の時間となった。今日の当番は永琳だったが流石に幼女状態の彼女が料理をできるはずもなく・・・・・・
「できるよっ! やるやる!」
・・・・・・と、思ったら案外普通に料理が出来てしまうのである。妹紅から貰った栗を炊き込みにして栗ご飯を作った。流石にそれだけでは寂しいので美鈴も一緒になって中華スープとサラダを作っている。
「・・・・・・天才って、子供の時から天才なんですね」
ジョルノは台所で野菜を手際よく切っている永琳(美鈴が脇を抱き抱えている)を見てそうこぼした。
「かわいい~、永琳もこんな時代があったんだぁ~・・・・・・」
昼ご飯前なので珍しく食卓には輝夜の姿があった。相変わらず永琳が幼女となっていることに対して対した危機感を抱かずにのんびりとしているが。
(姫様は活発さがないだけで今の永琳様と変わらないんですがね・・・・・・)
「てゐ何か・・・・・・今、変なこと言った・・・・・・?」
「いや言ってないですよソンナバカナ」
「?」
てゐはほんの小さな声でグチをこぼしたのだが何故か輝夜には聞こえたらしい。話の内容は分かっていないようだった。
「しかし美鈴には助けられました。昨日はあんなことがあったのに、本当に感謝してもしたりません。・・・・・・あなたの主たちのその後で何か手伝えることがあったら、惜しみなく手伝いますよ」
ジョルノは台所で永琳の脇を支える美鈴を見て言った。
「いやぁ・・・・・・子供相手は妖精たちで慣れてるので・・・・・・。それと、お嬢様たちのことは気にしないで結構ですよ。・・・・・・咲夜さんとパチュリー様が目を覚ましたら、私たちだけで残りは済ませます」
それが仕えた者としての役目ですから、と付け加えた。紅魔館が炎に包まれてから鎮火し、夜が完全に明けるまで美鈴は紅魔館に向かって叫び続けていた。それほどの主従関係があったのだ。だが美鈴は心中しなかった。生きて、と主に言われたからだ。
生きて、咲夜さんに伝えることが残っている。
「・・・・・・まだ、私には役目があります」
美鈴は誰に聞き取られることもなく、ぽつりと呟いた。
しばらくたって、永琳が小さいながらも頑張って皿を運んできてくれた。栗ご飯に美鈴特製中華スープ、キノコと水菜の焼き野菜のサラダが並べられた。
「うわぁーい、おいしそ~」
輝夜はがちゃがちゃと食器を鳴らして笑顔で感想を述べる。そして永琳を見て「おいで」と膝の上を叩くと永琳は少し遠慮がちに美鈴と輝夜を交互に見て――――ぼふ。
「・・・・・・か、かわいいい・・・・・・」
輝夜の膝の上にちょこんと座った。どこか永琳は緊張しているようだ。やはり輝夜は傍目から見れば絶世の美女。誰もがかしこまるほどの美貌を持っている。永琳は幼いながらもその高貴さを理解していた。
「エライねぇ~~~~~~、永琳、永琳。今のあなたも前のあなたも私は大好きだよ」
「あ、ありがとうございます・・・・・・」
「はい、あ~~~ん。どう? おいしい~?」
輝夜は料理か、永琳か、どちらかは分からないが唾液を垂らしながら栗ご飯をすくって膝に座らせた永琳の口元に運んでいる。永琳は促されるままに口を開いて咀嚼。
「おいしい・・・・・・!」
「あーん、永琳。やっぱり今の方がかわいいわぁ・・・・・・」
輝夜は永琳がもっ、もっ、と咀嚼しているにも関わらずむぎゅっと永琳を抱きしめた。その様子を見ててゐとジョルノは笑っているが――。
やはり、姫。普段はぽえぽえしてる輝夜だが、やはり人を恐縮とさせる雰囲気がある。ジョルノが様付けで呼ばざるを得ないのも、彼女のその雰囲気によるものだった。
(蓬莱山輝夜は別格・・・・・・。お嬢様にも同じような雰囲気があったけど、少し違いますね・・・・・・)
永琳以上に輝夜の高貴さを読みとったのは美鈴だ。やはり、どこの勢力もトップはどこか『違う』。
ちなみに、そんな雰囲気も少し一緒に暮らしていれば感じなくなるのだが・・・・・・。
と、思い出したように美鈴は台所に行き、お盆を抱えて戻ってきた。
「それと、患者の5人には一応お粥を準備しました」
美鈴の気遣いは素晴らしい。まだ、誰も起きていないがもしかすると今の間に目を覚ましている人がいるかもしれない。ジョルノはこくり、と頷いて自分の食事もそこそこに美鈴と一緒に病室に入った。
「・・・・・・やっぱり、誰も起きてないですね」
「うーん、そっか・・・・・・」
美鈴はポリポリと頬をかいた。彼女としては気遣いが無駄になっただろうが、ジョルノからすれば全然無駄ではない。
「ありがとうございます。これは責任持って僕たちで食べましょう」
「そうだね・・・・・・ん?」
美鈴はふと、誰かが起きていることに気が付いた。
「・・・・・・ジョルノさん、多分・・・・・・」
美鈴がちょいちょい、と手招きしたのは――――
「・・・・・・鈴仙」
鈴仙・優曇華院・イナバの眠るベッドの前である。彼女は目を開けて虚空を眺めていた。
「起きているようですね」
ジョルノはイスを持ってきて鈴仙のベッドの脇に腰掛けた。
「・・・・・・美鈴」
何も反応がない鈴仙を見ていたジョルノは美鈴に話しかける。
「何でしょうか?」
「・・・・・・『心』はどうやったら取り戻せるんでしょうか?」
鈴仙が失った心を取り戻すためには、どうすればよいか。フランドールがいない今、鈴仙の心を元に戻す方法は分からなかった。
もちろん、その問いに美鈴は答えられなかった。ジョルノさんは自分を責めているのではない。確かに、妹様は私の主だがそれを責めることは私の傷を抉ることでもある。ジョルノさんがそんな稚拙な真似をするはずがない。
本当に、答えを探しているのだ。鈴仙の『心』を取り戻すその方法を。
「・・・・・・永琳さんでは心の傷は治せないそうです。僕の能力でも不可能なんです。彼女が治せるのはあくまで薬剤による治療が可能なもの。僕が治せるのはあくまで外科医療が可能な外傷のみ」
「ジョルノさん・・・・・・」
「・・・・・・奇跡を願うしか、方法は無いのでしょうか?」
ジョルノは美鈴から受け取ったお粥をすくって鈴仙の口元に持っていく。
口が開くことはなかった。
* * *
昼食を終えて美鈴と永琳は薬の訪問販売に行こうとしていた。輝夜は昼食が終わると部屋に引き払っていったので、永琳は何事もなく解放された。
幼い永琳が一生懸命靴のひもを結んでいると、ドンドンと玄関口のドアを叩く音が。
「はーい」
薬箱を持っている美鈴は靴を履き終わり、永琳を待っていたのでそのまま出ると・・・・・・。
「ん? 美鈴とろーりんか。丁度時間だったか?」
訪ねてきたのは妹紅だった。あくびをかみ殺してそう挨拶をする。
「あれ? 妹紅さん、どうしたんですか?」
当然、何も知らない美鈴は妹紅を見て少し驚いた。と、靴のひもを結び終えた永琳は立ち上がって。
「えっと、白い人!」
そう妹紅をズビシィ、と指をさす。
「・・・・・・うん、あながち間違っちゃいないが、私には妹紅っていう名前があるんだ」
「もこたんインしたお!」
「・・・・・・」
美鈴とは対照的でどうやら妹紅は子供が苦手なようである。美鈴は苦笑する。
「笑うなよ。・・・・・・って、そうそう。お前たち薬の訪問販売に行くんだろ? 普段はてゐと鈴仙がやってるからいいんだけど、お前ら二人じゃ竹林は抜けられないだろうと思ってさ。家で着替えとシャワー浴びて、ちょっと仮眠を取って迎えに来たんだ」
そういう妹紅の服は振り袖姿からいつものもんぺに変わっていた。なるほど、美鈴と永琳が迷わないようにと気を利かせて・・・・・・。
「・・・・・・でも私、道なら分かるよ?」
永琳が口を挟んだ。
「・・・・・・え?」
「ここは私のおうちよ! 人里への道も、帰り道もしっかりまるっとごりっと全部分かってるんだから!」
「・・・・・・いや、でもお前子供じゃん」
「あ、妹紅さん。実は永琳さんは・・・・・・」
と、美鈴は妹紅に耳打ちをする。永琳は幼くなっているが実は製薬や料理においてその天才ぶりは遜色がなかったということを。つまり、永琳は道を覚えている可能性が高いのだ。
「・・・・・・えぇ~~~~~~~~???? 何、じゃあ私ってここに来た意味無いのぉ~~~~~~~?? 骨折り損のクタビレ儲けって奴ぅ~~~~~~???」
「うん!」
妹紅の気遣いは永琳の元気な返事によって脆くも崩れさった。
「・・・・・・じゃあ戻るか。――――とは言っても、結局竹林の入り口までは一緒になるのか」
「結果的にはそうですね。・・・・・・永琳先生が本当に道を覚えてるのかも怪しかったし」
「な~に? 美鈴、私の記憶力を疑ってるの?」
「あ、いや・・・・・・別にそういうわけでは」
「嘘付け、永琳の言うとおりだろ」
そんな会話をしながら。美鈴は左手に薬箱を、右手に永琳の左手を。妹紅は右手をポケットに、左手に永琳の右手を。永琳は両手を二人のお姉さんたちに。
永琳の幼い心はわくわくで一杯だった。
* * *
特に何事もなく、三人は竹林を抜ける。そこで妹紅とは別れて美鈴と永琳の二人になった。
「じゃあ、行こう美鈴!」
「はい八意先生、僭越ながらこの美鈴がお供させていただきますね」
美鈴は子供扱いがうまい。永琳くらいの年の女の子の扱いなどは特に。
二人が手を繋いでしばらく歩くと人里に着いた。関所をくぐって中に入ると・・・・・・。
「・・・・・・ん? これは・・・・・・」
美鈴は道のど真ん中に大量の稲の刈痕が残っているのを見た。何故こんな道のど真ん中、しかもおよそ2キロ以上に渡って稲の刈痕が? と思ったが永琳がそれよりもすぐ近くにあった玩具屋に興味が移っていたので調べる暇はなかった。
まぁ、いっか。大方豊穣の神の気まぐれだろう。
「いらっしゃい」
店に入ると店主とおぼしき男性が声をかけた。
「薬はいらんかね!」
永琳は店内に入ると第一声にそう叫んだ。続いて美鈴が入ってくる。
「あはは、すみません。永遠亭の薬の訪問販売です」
すると店主は「あり?」と声を上げた。
「いつもの兎の二人はどうしたんだい? アルバイト?」
「あぁ、いや。彼女たちはちょっと手が空いてませんので」
意外と鈴仙とてゐの顔は人里に知られているらしかった。なんだかんだいって彼女たちもしっかりと仕事をしていたのである。
「わたしの名前はやごころえいりん!」
ドッバァーーーーz_____ン! 効果音がつきそうな不自然なポーズで永琳は自己紹介をした。
「あっはっは、八意さんとこにも一人娘が出来ていたとは・・・・・・それに娘に同じ名前を付けるなんてなぁ。相手はアレかい? 最近やってきたっていう外来人の・・・・・・コロネ、だったっけ?」
「あはは、まぁそういう感じです。で、私は乳母みたいな」
まぁ、全然違いますけどね。説明が面倒だし、永琳さんも店主の話より玩具に興味が行ってるみたいですから。
「それで、何か不足している薬はありますか?」
美鈴は適当に嘘も付きつつ、店主に笑いかけた。すると店主は「う~ん、いや? 別に不足してたのは無かったような・・・・・・」と言って店の奥に入っていった。
「すまんね、ちょっと確認するから待っててくれんか?」
「いえ、大丈夫ですよ」
店主は美鈴を振り返って申し訳なさそうに言った。当然、否定する理由もないので美鈴は首を縦に振る。
と、店主がいなくなったところで美鈴の裾を永琳が引っ張った。
「どうしたんですか・・・・・・?」
「ん」
「・・・・・・タケ●プター?」
正確にはタケトンボらしい。あとで店主に教えて貰った。
* * *
その後、二人は人里での訪問販売を続けた。永琳は片手に握ったタケトンボを嬉しそうに握りしめている。ちなみに4つ目か5つ目の訪ね先で何で道に稲の跡が残っているか教えて貰った。何となくジョルノの顔が美鈴に浮かんだ。
だんだんと日が西に傾き始め、そこでようやく目処にしていた一区画の訪問が終わった。明日は反対の区画に行ってみよう。
「じゃあ美鈴!」
永琳はやっと遊べる、という風に腕をぶんぶん振り回しながら美鈴の腕を引っ張った。
「八意先生、どこに行くんですか?」
「広いところ!」
広いところとは、まぁ漠然としているが・・・・・・美鈴にアテが無いわけではなかった。人里に比較的近く、そして妖怪が現れない安全な場所と言えば・・・・・・。
「・・・・・・それでどうしてウチに来るわけ? しかも、『ソレ』はどういう状況よ」
美鈴は博麗神社に来ていた。ちなみに霊夢はつい3時間前に紫の家からここに返されている。顔にはヒドい痣があった。
「まぁまぁ、いいじゃあないですか。あとどうしたんですかその顔」
「ああ?」
霊夢は軒先に突然現れた美鈴とちっちゃい少女を見て縁側から睨みつける。既にその少女はタケトンボを飛ばして楽しそうに遊んでいるが。
――どうやら怪我のことに触れるのはNGらしい。相当不機嫌だ。
だが、霊夢はふぅ、とため息を付いて理由を話し始めた。
「・・・・・・ちょっと負けたのよ。変な髪の毛の男に」
(あれ、ジョルノさんじゃね?)
美鈴の中で変な髪の男=ジョルノという方程式が成り立っていた。
「そうなんですか、珍しいこともあったもんですね」
「変な力に頼りすぎたのかもね。『スタンド』っていうんだけど」
「知ってます」
「ふぅん、結構有名なんだね。まぁでも私はそんなアホらしい力には二度と頼らないって決めたわ」
意外だった。よほど『スタンド』が原因で負けたのが悔しかったのだろう。現に霊夢からスタンド使い独特の何ともいえない気配は感じ取れない。
「よっぽどボロッカスにやられちゃったんですか」
「封殺するぞ」
ごめんなさい、と美鈴は素直に謝った。そして霊夢に並んで縁側に座った。
「出すお茶はないわよ」
「結構です」
美鈴は目を細めて夕日をバックに楽しそうに遊ぶ永琳を眺める。
「・・・・・・いい加減、アレは何なのよ。さっき『わたしの名前はやごころえいりん ドッバァーーーーz____ン』って言ってたけど、本当にあの年増女なの?」
霊夢の口の悪さは素である。『スタンド』の影響は受けていない。美鈴は「それ本人の前で言ったら殺されるだろうな」と思いながら、大体の事のあらましを答えた。
――――少女説明中
「・・・・・・それで、あんたが面倒を見てるわけね」
「一応、恩を受けてますからね。ジョルノさんや妹紅さんがいなかったら、私たちは全滅していたのかもしれない」
「・・・・・・」
霊夢としては複雑だろう。自分をけなし、誇りを傷つけた人間が別の場所では確かな正義を持って戦い、守っていたことに。
やっぱり、あの時の『悪』は私の方だったのか。
「でも、あんたはこんなことしてていいのかしら?」
「・・・・・・これからのことでしょうか」
「レミリアとフランドールのことよ。何もしてないんでしょう?」
美鈴は霊夢の方を見た。まさか、あの淡泊を具現化した博麗霊夢が死者への供養を話題に出すとは。
「・・・・・・ちゃんと弔ってあげなさいよ。死人は案外自分が死んでるかどうかがよく分かっていないらしいから・・・・・・どこぞの亡霊よろしく、ね。でなければ、魂は浄化されず救いを得られない」
「・・・・・・霊夢さん」
「今すぐに、とは言わないわ。でも出来るだけ早く――――メイドや魔女も連れて、全員で供養した方が彼女たちも安心して逝けるでしょうね」
美鈴はただ霊夢の言葉を聞いていた。
「・・・・・・そう、魔理沙も、アリスも・・・・・・」
美鈴は誰にもまだ話していなかったが、確かに最後のレミリアと敵との戦いの中で、敵が「魔理沙」、そしてレミリアが「アリス」という単語を叫んでいたのを聞いていたのだ。
それを霊夢に打ち明けた。彼女には伝えておかなくてはならない。
霊夢は懐から煙草とマッチを取り出して火を点ける。そして遊び疲れて美鈴の所に戻ってきた永琳を見て。
「・・・・・・子供の前で吸うのは駄目なんでしょうけど・・・・・・。・・・・・・フゥゥーーーー・・・・・・」
しばらく永琳の顔を見て霊夢は反対を向き煙を吐いた。そしてそのまま美鈴の方を振り返らずに立ち上がる。
「もう帰りなさい。そろそろ日が暮れるわ」
霊夢の一言に美鈴は「・・・・・・では」と言って立ち上がる。永琳も「ばいばい」と霊夢に手を振って美鈴についていった。だが、もう永琳は眠いのだろうか、足取りがおぼつかない。
「あ、八意先生」
それに気が付いた美鈴は永琳をおんぶしてしっかりと抱える。
「じゃあ、霊夢さん。今日はありがとうございました」
「・・・・・・ああ。だけどもう二度と来るなよ」
霊夢は振り返らずに手をひらひらと振って神社の中に入っていった。
既に日は沈みかかっており、美鈴は「急ぎますよ」と永琳に言うと――――。
「くぅー、くぅー・・・・・・」
既に永琳は美鈴の背中で気持ちよさそうに寝ていた。
「・・・・・・」
美鈴は博麗神社の石段の上に立つと、階段を下りるのではなく、大きく飛翔した。
一気にジャンプして竹林まで戻るつもりだった。早く戻らないとみんなが心配するだろう。美鈴は風の抵抗を受けながら大空を飛翔する。
神社の中に戻った霊夢は灰皿とビールの空き瓶が乗ったちゃぶ台で二本目の煙草を取り出した。消え入りそうな西日が射し込む部屋は赤暗く、哀愁が漂っている。
「・・・・・・そうか、先に死んだんだ」
失踪してから随分時間がたっていた。思えば昔から私より無茶する奴だった。でも、どうしてか毎回死なずに生きてた。
赤い霧の時も、冬の桜の時も、永い夜の時も、引っ越してきた変な神の時も、熱い灼熱地獄の時も、船が空を飛んでいる時も、宗教戦争の時も。いくつもの危険をくぐり抜けていた。
だから、今回もどうせいつかひょっこり戻ってくるだろうと思っていた。
「・・・・・・魔理沙」
不思議と涙は出なかった。悲しいはずだが、枯れてしまったのだろうか。
「・・・・・・年は取りたくないわね」
煙草の灰を灰皿に落としながら霊夢は一人でそう呟いた。
* * *
美鈴は竹林の入り口に戻ってくると、そこには屋台が出ていた。
「う~う~泣くのは誰の子じゃ♪ 電鼓も太鼓も利きはせぬ~♪」
でんどんでんどん、と歌に乗せて太鼓を叩く音も聞こえてきた。聞き覚えのある歌声に美鈴はふい、と屋台の中をのぞき込むと。
「ん? あら、いらっしゃい。珍しいわね」
歌っていたのはミスティア・ローレライだった。手にはでんでん太鼓を持って歌っている。
「宴会のとき以来ですね。――――それは?」
美鈴は見慣れない道具を持っているミスティアに尋ねる。でんでん太鼓か・・・・・・あの玩具屋さんにもあったような・・・・・・。
「これは・・・・・・竹林で拾ったよ。スルーしようと思ったけど、これ鳴らしてると気分が盛り上がるっていうか」
でんでんとミスティアは太鼓を振って音を鳴らす。確かに美鈴の耳にもその音は心を高揚させるように聞こえた。まるで自分の内側を揺らされている気分だ。
「それで、ご注文は?」
「あぁ、いえ。私は食べにきた訳じゃあ無いんですよ。ミスティアの歌声が聞こえたもんですから」
美鈴は笑顔で辞退する。ちょっぴりミスティアは悲しそうな顔をするが、美鈴が誰かを背負っていることに気が付いた。
「その子が原因ね? 遅れちゃあ駄目だもんねー♪」
「あはは・・・・・・(実は永琳さんなんですけど)そういうわけです」
それを聞いたミスティアはにやり、と笑って。
「どうしてこんな時間にここに来たかは知らないけど、せっかく足を運んできてくれたんだし、その子にコレ。あげるよー♪」
太鼓を鳴らしながら美鈴に渡した。
「い、いえ結構ですよ」
「いいのよ、どうせ私なら一日くらいで飽きちゃうだろうし」
あくまで美鈴、というか後ろに背負っている子のために渡すつもりらしい。まぁ、裏の意図が見え隠れしていないわけでもないが。
「・・・・・・分かりましたよ。じゃあ、・・・・・・焼きヤツメウナギを5つ」
「まいどー♪ さっすが門番さん、気が利くね!」
「騙された気分ですけど・・・・・・。あ、そういえば妹紅さんの家ってどこにあるか分かりますか?」
美鈴は太鼓を受け取って思い出したようにミスティアに尋ねた。そういえば、永琳は今寝ているのだった。彼女は確かに迷い竹林の抜け方を覚えてはいたが、眠っている人間が案内を出来るわけがない。結局行きも帰りも妹紅の手を煩わす羽目になったのだが。
「妹紅さんなら・・・・・・」
ミスティアはヤツメウナギを片手に焼きながら、懇切丁寧に美鈴に妹紅の家の在処を教えてくれた。
二回ほど、丁寧に説明を受けている間に注文していたウナギが焼きあがった。美鈴はなけなしの小遣いを殆ど使いきって、ミスティアに何とも言えない表情で礼を言った。
「ご贔屓にー♪」
笑顔でミスティアは手を振っているが、やはりヤツメウナギを五人分は高い。これが焼き鳥ならまだリーズナブルだろうが、彼女が焼き鳥を焼くとは到底思えない。
「トホホ・・・・・・」
美鈴は頭を掻きながら説明を受けた妹紅の家に向かって歩き始める。既に日は暮れていた。
「・・・・・・美鈴、もう営業時間外だが・・・・・・」
妹紅はドアを開けるなりゲンナリした顔で美鈴を見た。やっぱり、危惧していたことが起こったか、と言わんばかりの表情だ。
「そうなんですか? いいじゃあないですか。永琳さんが寝ちゃって帰り道が分からないんですよ」
美鈴は懐から焼きヤツメウナギを取り出して妹紅の前にチラツかせた。
「・・・・・・あのなぁ、いくら私でも物で釣られるほど安くは・・・・・・」
結局道案内をしてもらった。妹紅がミスティアの焼きヤツメウナギが好きなのは知っている。さすが美鈴、気が利く女です。
「――――で? お前等薬の訪問販売してたんじゃあなかったのか? どうして二人して手に玩具を握りしめてんだよ」
妹紅は永琳がタケトンボを、美鈴がでんでん太鼓を持っているのをそれぞれ示した。
「これは小さくなった永琳さんのために・・・・・・」
「そんなので喜ぶのか? 子供になったとは言っても月の頭脳だぞ?」
妹紅はまだ永琳が本当にただの子供と遜色無い精神年齢だと言うことを疑っているようだった。
「でもタケトンボで疲れて寝ちゃうまで遊んでたんですよ? 博麗神社で」
美鈴は背中の上で寝息をたてる永琳を見た。妹紅はどうしても煮えきらないが、それよりも気になる単語が耳に付いた。
「・・・・・・ならいいんだけどさ。ていうか、博麗神社ってもうあの守銭奴復活してたのか?」
「ええ。妹紅さんとジョルノさんは次見たら全力でぶっ潰すって言ってましたよ」
「ヒェー、おっかねぇ~・・・・・・」
博麗神社と言えば、博麗霊夢がいる。とは言っても、最近では人里にいる方が多かったようだが・・・・・・。
つい昨日の昼に霊夢はジョルノと妹紅によって再起不能にされたわけだが、一体どうやって回復したのだろうか。まるで不死だ。
「――――で、整理は付いたのか美鈴」
妹紅は声のトーンをそれまでよりかなり落として尋ねる。それは紅魔館のこと。つまり、レミリアとフランドールという亡くなってしまった美鈴の元主たちのことだ。
不死であるからこそ、命を大切にする妹紅は美鈴のことを最も気にしていた。
「・・・・・・はい、霊夢さんにも言われましたが・・・・・・みんなで弔います。パチュリー様と咲夜さんを・・・・・・咲夜さんは渋るかもしれませんが、しっかりと事情を説明して、嫌でも参加させます」
美鈴はもう下を向いていない。確かに、もう前を向いていた。妹紅は「そうか」と答えて。
「・・・・・・まぁ、お前がいいんなら、それでいいのかもな」
妹紅としてはやりきれないだろう。現に、上白沢慧音はまだ腕が繋がったまま、意識が回復していない。おそらく回復にはフランドールの力が必要だったが、そのフランドールがもういないのだ。
美鈴が前を向いて、妹紅はまだ下を見ていた。
「大丈夫ですよ、妹紅さん」
「・・・・・・?」
美鈴は妹紅の心中を察して優しく声をかける。
「きっと、慧音さんはジョルノさんが治してくれますよ。これから医療に対する知識と技術を積み重ねて、きっと」
ジョルノの『ゴールドエクスペリエンス』なら、あるいは、可能なかもしれない。今のジョルノには圧倒的に知識と経験が足りない。腕を切断して新しく二本の腕を創り、縫合する。それを慧音が失血多量で死ぬ前にやり遂げなければならない。様々な技術と、それに伴って凄まじい集中力、体力、精神力が必要になるはずだ。
「・・・・・・そうだな、あいつなら・・・・・・」
しかし、ジョルノならそれが出来そうな気がする。彼にはそういったことをやり遂げることが出来る魂の輝きを持っている。
妹紅はジョルノを信じようと思った。彼女が人間を信用することは非常に珍しい。だが、ジョルノなら――――何とかしてくれるかもしれない。
* * *
ようやく永遠亭に帰り着いた美鈴は妹紅に案内してくれた礼を言って、中に入る。
「ただいま帰りました~、いやぁ結構訪問販売も疲れますね~」
美鈴は年寄りのようにどっこいせ、と言いながら玄関に座って靴を脱いだ。
「おかえりウサ。って永琳様寝ちゃっているのね」
奥からパジャマ姿のてゐが出てきた。と、美鈴の鼻に香ばしい匂いが届いた。どうやらもう夕食は出来ているらしい。
「ん~、何やら良い匂いがしますね。何ですかこれ?」
「カレーライス。今日はジョルノが当番だからね。というか、アイツ真面目に上手な料理はカレーしかないらしいウサ」
聞き覚えのない料理名に美鈴は首を傾けた。かれー? 何だそりゃ。
「あー、幻想郷にカレーは無いからねぇ・・・・・・。何か、ジョルノが唯一作れる外の世界の料理だってさ。変な薬草とかを併せて香辛料を作って、野菜スープとそれを混ぜた後とろみを着けたら完成。結構旨いウサよ」
「う~ん、しかし良い匂いですね。食べたことはありませんが・・・・・・むむっ、これは私大好物の予感」
美鈴はズビっ、と涎を拭いながら居間に入った。そこではジョルノと輝夜が食卓についている。てゐも美鈴に続いて食卓につく。
「おかえり美鈴さん。永琳さん。手を洗ってから食べてくださいね」
ジョルノがエプロンを着ている。新鮮な風景だ。促されるまま、美鈴は手を洗いに行った。
「ジョジョ~、ルー多めがいい~」
戻ってくると輝夜がテーブルをバンバン叩きながら催促をしていた。
「輝夜様はルーしか食べないじゃあないですか。ちゃんとお米も食べてください」
と、輝夜の前にご飯とルーを均等に乗っけた皿が出された。輝夜は「けちんぼー」と言いながらキンキンとスプーンを鳴らす。と、輝夜は永琳に気がついた。
「あ~ん、永琳が寝てるぅ。ちょっと貸して」
輝夜は美鈴には特に気にも止めず永琳を渡せと言った。もちろん断る理由はないので美鈴は素直に差し出す。ジョルノは輝夜がカレーから永琳に興味が移ったことでルーの量に文句を言わなくなったのでホッとしている。
「じゃあてゐのには鷹の爪増量しときますね」
「何でよ! あたしゃ辛いのとかそういう系好きじゃあないんだからね!」
妖怪ウサギは健康に気を使う。唐辛子は多すぎてはいけないのだ。ちなみに永遠亭の中でてゐだけはヤケ酒をしない。
「嘘ですよ、ハイ」
「・・・・・・」
渡された皿を一応かき混ぜて点検している。と、今度は美鈴に皿が渡された。
「どうぞ、美鈴さん。今日はありがとうございます。特に変わったことは無かったですか?」
「あ、いや。意外と楽しかったですよ。そっちは?」
「ははは、今日はいつもより診療客が少なかったのが幸いでした。大きな怪我をした患者さんも来なかったし」
ジョルノは今度は小さな器にカレーをよそう。どうやら永琳用のようだ。
「ほらほら、永琳永琳永琳ィィ~~~~ん? 起きて、ご飯よ~~」
輝夜が寝ている永琳の頬を抓りながら遊んでいた。永琳は目を覚まして・・・・・・「!?」と言いたげな表情をした。どうやら目の前に輝夜がいたことに驚いているらしい。
「・・・・・・」
その反応を見た輝夜は固まる。それを見計らった永琳がそそくさと輝夜から離れて美鈴の隣に座った。
「・・・・・・ジョジョ、てゐ。永琳が私を嫌ってる」
「・・・・・・いや、多分違うんじゃあないんでしょうか」
と、ジョルノ。
「姫様、気を落とされないでください。姫様の圧倒的姫パワーに幼い永琳様は緊張しているのです」
と、適当なことを言うてゐ。
「・・・・・・そうなの?」
輝夜の顔が一気にぱぁっと明るくなった。流石はてゐ。このニート姫の扱いに長けている。
ならいいのよ、えへー。と、輝夜はにっこりご満悦なご様子だ。
「カレーだ!」
美鈴の隣に座った永琳は前に出されたカレーに輝夜と同様目を輝かせた。どうやらカレーの味は覚えているらしい。
「永琳、カレー好き?」
「大好き!」
輝夜はにこにこしながら永琳に聞くと、さっきまでの輝夜に対する反応とは打って変わって永琳は元気に頷いた。
実質、これは永琳の中で輝夜はカレーに負けた、ということになるのだが、そんなことは気が付いても誰も言わなかった。
(・・・・・・姫様、あんたそれでいいのか?)
(輝夜様は本当に馬鹿ですね・・・・・・)
(・・・・・・カリスマブレイクの時のレミリア様と同じ気がする)
最後にジョルノが自分の皿にカレーをよそって。
「じゃあ、いただきます」
「「「「いただきます」」」」
その後、美鈴が焼きヤツメウナギを取り出したが、人数が五人に対して残りのウナギが四本しかないので、争奪戦が繰り広げられた。でもそれはまたのお話。
第31話へ続く・・・・・・。
* * *
後書き
ほのぼのとした日常編、ボスとジョルノの幻想訪問記 第30話です。第一章と第二章の閑話休題的な話ですね。次回から第二章を始めていこうと思っています。
と、閑話休題とか言いながらちょっと哀愁漂う話もありましたね。霊夢さんが弱冠24にして既に大人の哀愁を漂わせている。
ちなみに、霊夢の哀愁漂う回想の通り『ボスとジョルノの幻想訪問記』の時間軸は『心綺楼』後『輝針城』前です。でも『輝針城』キャラも出ます。既にそんなにおいを漂わせるものも出てきましたね。何かは言いませんが。(正邪が針妙丸騙す前ですが、別にキャラクターが出てきても問題ないよね! 多分!)
それと、輝夜の『スタンド』ですがあれだけひっぱいておいて特に活躍もせずに終わりそうです。『プラネットウェイプス』かと思った? 残念、下っ端のクズ野郎のスタンド、『20th Century boy』でした!! 不死なのに無敵能力って宝の持ち腐れじゃあねぇか!! って思う方。ぽえぽえしてる輝夜ちゃんが布団にくるまってるんだぜ!? それだけで満足じゃあねぇか!(ド正論)
多分、ここまでのーてんきキャラの輝夜は珍しいと思います。大体二次だといわゆる極悪非道・ゲス野郎というレッテルを貼られている姫様ですが、ここでは只の呑気してるお姫様です。裏表ありません。
と、いうわけで。ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます。出きるだけ早く第二章を進めていきたいと思っているので応援よろしくお願いします。
では、次回もよしなに。