ボスとジョルノの幻想訪問記 第32話
常識知らずの東風谷早苗②
先日の人里ではあるニュースで持ちきりだった。
そのニュースは幻想郷に広く知れ渡っており、興味がある者もない者も一応一度は小耳に挟んだことはあった。
その内容とは「東風谷早苗に彼氏が出来た」というものだった。彼女は人間からの信頼は厚く、また人気もあったためそのニュースが幻想郷中を天狗の号外によって駆け巡ったときは多くの人々が衝撃を受けたらしい。
これほどのゴシップ、いや、守屋神社にとってはかなりのスキャンダルだった。だが、彼女たちはそれによって信仰を失うどころかさらに勢力を拡大したのだ。
何故か? それは東風谷早苗がそれらのニュースに流されることなく賢明に布教を続けていたからである。
そもそも、ニュース自体の信憑性も薄い。天狗の記事には確かに早苗ともう一人の男性が並んで写された写真が載っていたが、誰一人としてその写真の人物と早苗が一緒にいるところを見たことはなかった。また写真の男性を知る人間もいなかったのである。これによってやはり天狗の記事は単なる捏造ではないか、とされた。
その非を守屋神社は慈愛の心を持って許したのだから、彼女たちの人気は止まるところを知らなかった。博麗霊夢に一時期人里を席巻されるまで人里の施設のほとんどは守屋ブランドと言っても過言ではなかったのである。
――――と、ここまでが表向きの話である。
八坂神奈子は言葉を切った。
「・・・・・・その事件は僕が幻想郷に来る前に起こったものだと聞いています。ですがそれ以上のことは・・・・・・」
「私もジョルノも知らないウサ。――――特に興味も無いウサからね」
永遠亭の客間。そこに座っているのはジョルノ・ジョバァーナ、因幡てゐ、そして八坂神奈子の三人である。
「だろうな。むしろ表向きの話を知っていることに驚きだ」
神奈子は高圧的な態度のまま言葉を接いだ。卓に出されたお茶を飲み干して「続きだ」と言う。
「本題は『どこからどうみても早苗には彼氏がいる』んだ。私も諏訪子も薄ぼんやりとだが、早苗の近くに何かがいる気がする」
「・・・・・・」
神奈子の言葉にジョルノとてゐは押し黙った。もしかして、と顔を見合わせる必要もないだろう。十中八九、彼らが思っていることは的中しているのだから。
「・・・・・・人里で『見えない何かを操って博麗霊夢と戦っていた』というジョルノ・ジョバァーナ。貴様はどう思う? 私からすれば来てよかったと思っているよ・・・・・・。貴様と早苗はどこか似た雰囲気がある」
ジョルノはポリポリと頬を掻いた。この神様の言いたいことは分かる。鈴仙の件で頭が一杯のジョルノは当然神奈子の依頼は断りたくてしょうがないものだ。だが、断ったら一体この暴力の象徴のような視線を持つ彼女に何をされるかなんて、用意に想像が付く。
「なあジョルノ。お前まさかこの依頼を断ろーとか考えてねーだろうウサか?」
そんなジョルノの様子を見ててゐが脇を小突いて言う。
「いいウサか? ここでこの神様が機嫌を損ねようものなら私やアンタだけに及ばず永遠亭が吹き飛んじまうウサよ。悪いことは言わないウサ。鈴仙のことは一旦置いといて・・・・・・」
てゐはマジに焦っている。彼女が忠告なんて面白くないことをしてくるとはよほどの事態なのだ。
だがジョルノの答えはてゐの心臓を更に悪くするものだった。
「・・・・・・えっと、よく分かりません。八坂神奈子・・・・・・あなたは一体僕に何をしろ、と言っているのでしょうか?」
「おいッ!!」
てゐは汗を流してジョルノに突っかかる。
「今ので理解が出来ないほどお前はバカなのか?」
神奈子は苛立ちを込めてジョルノを睨み付ける。
「いいえ、理解はしてます。ですが、僕は何をすればいいか分からないんです。意味が分かりますか? 僕はまだ貴方から『何をすべきか』提示して貰っていない。てゐの言う『依頼』というものがまだ発生してないんです」
「・・・・・・ジョ、ジョルノ?」
ダラダラと冷や汗が止まらないてゐはジョルノの顔を見る。
「――――人に依頼するときは言うべき言葉があると言ってるんです」
「~~~~~!!」
その言葉を聞いたてゐは真っ先に脱兎のごとくその場から跳躍して身を隠した。あきらかに神奈子を怒らせてしまったのだ。
だが――――。
「・・・・・・もう少し利口な生き方をした方がいいぞ? あの兎のように」
「僕が目標としている人は少なくとも『お利口さん』ではありませんから」
神奈子は怒りもせず口の端を緩めてジョルノにそう語った。ジョルノもジョルノで真っ直ぐと何かを確信したかのような表情を浮かべている。
「・・・・・・」
神奈子は押し黙ったまま視線を下に移した。そのまま何かを言おうとして――――。
「・・・・・・すまない、今の早苗は『早苗じゃない』。私や諏訪子ではもうどうしようもないんだ。だからこうして、誠心誠意を込めてジョルノ・ジョバァーナ。貴様にこの依頼をする」
八坂神奈子は頭を垂れた。
「早苗を解放してくれ。頼む」
その言葉を聞いたジョルノはフッと小さく笑って神奈子に答える。
「・・・・・・あなたは凄い人だ。神様と崇められるほどの存在であるあなたが、一人の人間のために僕のような赤の他人に助けを懇願するなんて普通は出来ない。きっとプライドが邪魔をしてしまうはずだ。けれども、あなたはそれが出来た。プライドよりも愛が勝ったんです」
ジョルノの真っ直ぐな言葉に神奈子は少し表情を緩める。彼女の頬はほんの少し紅潮していた。
「・・・・・・恥ずかしいぞ。そんな言葉を私にかけてくれるな。それに、早苗は私たちの家族だ。愛が勝つのは当然だろう?」
神奈子は満更でもない、といった感じだ。
「美しい方々だ。その依頼、引き受けましょう――――ところで、小耳に挟んだんですが早苗という方は『奇跡を起こす程度の能力』を持っていると聞きましたが・・・・・・」
むしろ、ジョルノの狙いはここである。障子の裏に隠れていたてゐそーっと障子を開いて部屋をのぞき込む。神奈子はそのことには気が付いてはいたが、ジョルノから目を離すことは彼に対して失礼だと思い目を閉じて口を開いた。
「・・・・・・確かに、早苗は『奇跡を操る程度の能力』を持っている。里でも有名な話だしお前が知っていても不思議ではないが、なぜ今その話になるかは・・・・・・予想はつくがな。つまり貴様が言いたいのはこういうことだろう? 『叶えたい願いを叶えたい』――――言葉に直すと違和を感じるが私に求めるものはこんなところか? ジョルノ・ジョバァーナ」
神奈子は右の瞳を細めるようにしてジョルノを睨み付けた。蛇。さながら蛇。再び後ろの方で様子を見ていたてゐの背中に寒気が走る。自分に向けられている視線では無いのにてゐの体は恐怖に対する防衛反応を示す。
しかし、ジョルノは怯まない。圧倒的な力の差を感じているのに、対等であろうとしている。彼の眼には覚悟の意思が宿る。
「――――このジョルノ・ジョバァーナには成し遂げなければならない不可能がある」
――――もはやジョルノは自分では鈴仙を元に戻すことは出来ないと確信していた。何か奇跡でも起きない限り――――。
* * *
守矢の2柱は自分たちの神社の屋根の上に並んで座っていた。
「・・・・・・結局神奈子は折れたんだね。珍しいこともあったもんだ」
守矢諏訪子は沈みゆく夕日を眺めてポツリと呟いた。今日も早苗はまだ帰ってきていない。
「お前の言うとおりだよ。普段なら早苗を利用されたら全員皆殺しにしてきたんだがな・・・・・・」
「じゃあ何でしなかったの? 神奈子なら1秒とかからなかったでしょ?」
物騒だが事実である。神奈子は純粋な戦闘ならば幻想郷最強クラス。かつては軍神と言わしめられた彼女の強さは人間や妖怪では絶対に届かないレベルにある。
だが神奈子は清々しい表情で言った。
「直接話せばお前も分かるんじゃあないか? ――――ところでお前は何をしてたんだ? 急に私の近くからいなくなったりして・・・・・・」
「私? 私はねー・・・・・・」
諏訪子はにやにやしながら神奈子のほうを見る。神奈子はその厭らしい表情を見て少し不快感を覚えた。
* * *
話は戻って永遠亭。神奈子が諏訪子を隣の部屋から連れて帰ってその後の状況。諏訪子がいた部屋には永琳が一人で座っていた。
「・・・・・・永琳様? 一体何をして・・・・・・」
何か様子がおかしいと思ったてゐが放心状態の永琳に近付くと・・・・・・。
「かえる・・・・・・たまご・・・・・・にゅるにゅる・・・・・・たまご・・・・・・・・・・・・いっぱい」
「・・・・・・」
「・・・・・・てゐ、今日はもう休みにしましょう」
「そうだね」
ロリ永琳が大人の階段を再び登っている様子を見てジョルノとてゐはため息をつく以外、何もできなかった。
* * *
彼女は人里にて布教活動を行っていた。緑色の鮮やかな色をした髪をしたその少女は手にしている木の棒に白い紙のようなものが付いた物体を振りかざして得意満面で勧誘をしていた。
彼女の名前は東風谷早苗。ただの神道に熱心な現人神である。
「皆さん、今日もご視聴ありがとうございます! 我々、守矢神社をこれからもどうかよろしくお願いしますね! 信じる者は救われます! 今日からあなたも、そこのあなたも、そこのあなたも! 笑顔で入信しましょう!」
早苗は非常にハキハキとした語りで周りに集まった人々に語り掛けていた。その人数は日に日に増していき、最初こそ誰も見向きもしなかったが今はメガホンが必要なくらいに大勢の人々が早苗の話を聞きに来ている。
人里ではしばらく霊夢が暴政を奮っていたので早苗は大仰には活動していなかったが、先週その暴政も途端に終わったため再び早苗は大手を振るように布教活動に勤しんでいる。
彼女のご高説を聞いた老人や若者は口をそろえて次のように述べるのだった。
「早苗ちゃんはそりゃあいい子だよ。こんな老いぼれの私たちのことまで気遣ってくれちょってのぉー。人がよう出来ちょる。この前だって向かいんとこの私より2個上のじーさんの手伝いとかしちょったよ」
「早苗ちゃんの話はどこか信憑性があるんだよな。彼女の言ってることもそうだけど、何よりも直接心に訴えかけてくるような物があるよね」
「早苗ちゃんと一夜を過ごしたいです・・・・・・デュフフ・・・・・・」
「確かに男のうわさもあったけど、そんなのは単なるうわさで済んだもんなぁ~。まぁ早苗ちゃんももう大人だし、そういう時期があってもいいんじゃないの?」
村人たちから「早苗ちゃん」の愛称で呼ばれているほど、彼女の信頼は厚い。早苗は帰り支度を始めていた。それと同時に村人たちは早苗の周りからちらほらと消えていく。中には早苗との握手を求める熱狂者もいた。
この光景はどことして不思議な箇所が一つもない。
「はい! ありがとうございます! ええ! 分かっておりますよ!」
代わる代わる村人たち一人一人と握手を交わし、早苗は満面の笑みでそれに応対していた。
最後の一人が早苗との別れを惜しみつつ、また明日も聞きに来ますと約束をして、ついに早苗の周りから村人たちが消えた。
「ふぅ・・・・・・」
「・・・・・・終わりですか?」
早苗がポツリと呟いた瞬間に背後から一陣の風が巻き起こり、誰かが姿を現す。
「キャッ・・・・・・!?」
咄嗟にスカートを抑えて巻き上がるのを防ぎ、背後を振り向いた。そこにいたのは早苗の本質を暴こうとしている烏天狗。黒い羽根を広げて団扇を仰ぐ彼女の名前は――――。
「射命丸文さん・・・・・・? どうされました?」
早苗はその姿を見取るや、瞳に影を落として警戒心に満ちたような声色で問いかける。射命丸文と呼ばれた烏天狗は首から下げたカメラを左手に持って「やれやれ」と言いたげに首を横に振った。
「どうって、一応取材ですよ。私の記事をゴシップにして、一度失った信仰を取り戻した『秘訣』とやらのね」
「秘訣、と言われましても・・・・・・そもそも私には彼氏なんていませんし」
かつて東風谷早苗の恋愛スキャンダルを書いた記事を作ったのはこの射命丸文であった。文は確かに一人の男と手をつないでいる早苗の写真を撮ったにも拘らず、それを嘘の記事だとされていたのである。全ては早苗の行動や人間性による賜物のはずだが、文は完全にそれを否定する。
早苗に対する村人たちの狂信は度が過ぎている。
「・・・・・・いいえ、確かに見ました。そして私のファインダーには一切の捏造もなくそれが映し込まれている。私は嘘を付きませんし、写真は嘘を映さない」
文は現像した早苗ともう一人の男が映っている写真を取り出す。写真の男は早苗よりも20㎝近く身長の高い赤いくせ毛が目立つ好印象な青年だった。
「・・・・・・私には関係ありませんね。そこに映っているのは私ではありません。仮に私だとしても、その男性はあなたが話題を得たくて仕込んだただの合成でしょう?」
話題のため。お金のため。早苗のその一言は文のモットーに傷を付ける。
「・・・・・・私はこう自負しています。『清く、正しい、射命丸』と」
文は手に持った写真をビリビリと破った。ちょうど早苗と思われる女性と隣の男性が引き裂かれるように。しかも、しっかりと早苗に見せつけるように破り裂いた。
「この私が! ただ金やちやほやされるためだけに新聞記事を書いていると思うなァァーーーーーーーーーッッ!!!」
早苗はそんな文を見てピクリと眉を動かした。
「・・・・・・話は終わりですか? それならどうぞ、お引き取りを・・・・・・」
「いいや、終わりじゃあないです。これも見てください」
文はもう一枚別の写真を取り出した。そこにもやはり、早苗と思しき女性ともう一人同じ男性が映っていた。
「現に、あなたのスキャンダルに関する写真は他にもまだ沢山ありますよ。これも、これも。すべての写真にあなたともう一人同一の人物が映ってるんです」
1枚、2枚、3枚と早苗の写真を懐からいくつも取り出し、文はそれらを早苗の足元に仕向けた。
「・・・・・・よく出来たフィクションですね。ですが、こんな物は認められません」
早苗は一貫して文にはNoの態度を取っている。このままでは埒が明かない。早くこの巫女につけられた新聞記者としての汚点を拭い去らなければならないというのに。さっさと決定的な証拠を取らなければ記事の時と同じようにすかされてしまうだろう。
そう考えた文はふと気が付いた。
自身のプライドを逆なでされ、冷静に戻ることで頭が冷え、周りに目が行くようになっていた。
「・・・・・・ちょっと待ってください」
帰ろうとした早苗に文はストップをかける。そしてきょろきょろと周りを確認して――――愕然とした。
「・・・・・・!? そ、そんな・・・・・・。今は、今は一体・・・・・・!?」
――――――文が気が付いたことに早苗も気が付いた。
「・・・・・・・・・・・・さて」
早苗は溜息をつきながらさっきとは打って変わって文との距離を詰める。文は状況に戸惑いを隠しきれず、体をガタガタと震わしていた。
動けない、声が出ない。まるで金縛りにあったようだ。
「よく気が付いたな。お前が初めてだよ」
素に戻った口調で早苗は文の顔面を鷲掴みにする。
「どうやら素質はあるらしい。お前自身は全く見えなくても、お前のカメラには彼が映っているようだな。思いが強い物体には映る――そう、心霊写真のように」
そしてそのまま文を持ち上げた。ただの人間のどこにこのような力があるかは分からない。ただ文は間違いなく恐怖していた。
「写真の方は私がとぼけていれば勝手にゴシップになるが、今お前が気が付いたことを記事にされると非常に厄介だ。誰もが気が付かなかった私の本質をお前が記事にすると全員が私を理解してしまう」
文は何とかして早苗の腕を振り解こうとするが無意味だった。まるで見えない何かが自分の全身を拘束しているようだ。
「気が付いた人間どもは全員今のお前みたいに悲惨な状況に陥る。分かるか? 私の本質を記事にしたら村人が全員死ぬことになるぞ・・・・・・」
「んーッ! んんーッ!!」
文は必死で頷こうとする。早苗に対して心が屈伏してしまっているのだ。
「ベネ。物わかりのいい烏だ」
早苗はぱっと顔を離すと文は受け身も取れずにその場に崩れ落ちた。
「ハァーッ! ハァーッ! ハァーッ!」
呼吸を整えようにも恐怖でうまく息ができない。
「・・・・・・では、射命丸さん。一つだけお願いがあります」
早苗はそんな文を見下しながらにっこりと笑って、元の口調で言った。
「最近私のことを探ろうとしてる不届き者がいますが、サクッと殺しちゃってください。おそらくそいつも私と同じ種類の人間ですので、・・・・・・まぁあなたなら対抗できるでしょう。あとは使い方ですから」
文は地べたに這い蹲りながら早苗を見上げた。その表情の裏には人間が有する情などは影も形もない。
「『出来て当然』『あるのが普通』と思うだけです。信じるのです。自分なら出来る、と。それが『スタンド』というものなのですから・・・・・・」
早苗はそう言い残して何処かに消えた。その場には恐怖を埋め込まれた文だけが残った。
何か靄のようなものが晴れて文は確信した。
「・・・・・・っ!! か、彼女は一体・・・・・・何なの!?」
文の目に映った光景は何の変哲もない人里の様子。
ただし、時間は深夜だった。
33話へ続く・・・・・・
* * *
あとがき
まずはお詫びをば・・・・・・。
投稿期間が間延びしまくってて本当にごめんなさい。
いろいろ忙しかったんです! 言い訳終了!
と、第33話終了ですね。こんな感じで風神録がスタートしました。今回新しく出たキャラは早苗と文でしたが・・・・・・。早苗さんだけ確定でスタンド使いっぽいですが、文もこりゃもしかするかもしれんね(適当)。
次の話からは副タイトルが常識知らずの東風谷早苗から変わります。全然早苗が出てない件についてはお詫び申し上げます。
次回から風神録キャラを続々と出していきたいですね。現在順番的にはExボス→6ボス→5ボス→4ボスの順番で出てますから次に出てくるキャラはお値段異常な彼女ですかね? 分かりません。
と、今回もここまでお付き合いくださいまして誠に感激の至りです。
次回もどうか楽しみに待っていただけると幸いです。
感想お待ちしております。