ボスとジョルノの幻想訪問記   作:フリッカリッカ

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姫海堂はたては動けない

 ボスとジョルノの幻想訪問記33

 

 姫海堂はたては動けない

 

 私は姫海堂はたて。一切家から出ることのないいわゆる引きこもりだ。ただし、親の脛を齧っているわけじゃあない。そもそも一人暮らしだし、仕送りなんて気前のいいものは入って来やしない。

 私の怠惰な生活を支えているのは新聞だ。私が出版している新聞、花菓子念報という名前だが、結構お気に入りだったりする。だが、私の新聞は紙媒体を用いない、いわば電子新聞だ。天狗たちに支給されている携帯電話を利用すると有料で購読できる。私の新聞の購読率は全天狗の3割と言ったところか。それなりに売れている方だ。ゆえにお金の心配はそこまでない。

 毎日パソコンに向かって念写した写真を記事に適当に起こせばいいだけの簡単なお仕事。それで金が入って来るんだからやっぱりこの能力は欠かせない。全く家から出ない私は妖怪ネット通販で適当に生活に必要なものを届けてもらい、毎日を社会の底辺として過ごしている。

 社会の底辺とはいっても、私にとってはホームグラウンド。ベストプレイスだ。この生活は誰にも壊させないし、誰にも譲らないつもりだ。居心地がイイなんてもんじゃあない。ここにいないと死んでしまいそうだ。部屋は散らかっちゃあいるけれど、この状態が私が呼吸できる場所なんだ。

 

 そんな私だけの空間にずかずかと乗り込んでくる奴は全員敵だ。

 

「・・・・・・姫海堂さん」

 

 私はとっさに、本能的にクローゼットに隠れた。鍵をかけていたはずなのに、訪問者は合鍵でも持っているような速さで鍵を開けて私の家に入ってきた。信じられない、というか、何なんだ。聞き覚えのない声(まぁ、私が知っている声は天魔様くらいだが)が私の名前を呼んでいる。誰だ。私の名前が知れていることには疑問は持たない。新聞に自分の本名を乗っけているから。

 私は情けなくも、歯をガチガチと打ち鳴らしてクローゼットの中で震えていた。他人と会うのは数年ぶりだ。まだ会っていないが、肉声を聞くのがそれ位ぶりだということだ。別に人間恐怖症という自覚はないが、ゾッとした。この時初めて自分は人が怖いんだ、という認識を持った。

 私の名を呼ぶ人物はまだ入り口にいるらしい。部屋に入ってきたような物音はしない。居留守を使おう。そう決め込んだ私はクローゼットに籠城することに決めた。

 そんな決心は脆くも崩れ去った。

 

 クローゼットの横壁が突き破られたのだ。たぶん、人間の手だろう。白く、綺麗に整えられた爪が私の鼻を掠めた。声も出せずに、私はその場に突っ立たままでいた。

 クローゼットは破壊の音を上げて、地面の埃をまき散らしながら崩れる。何だ? この人間は素手でクローゼットをぶっ壊したのか? この、緑色の髪をした女性は・・・・・・。

 

 女性は笑いながらクローゼットを粉砕し、棒立ちになった私を見た。彼女の目に私はどう映っただろう。思考は普通に巡っているのだが、歯はガチガチと打ち鳴らされ、目には涙が浮かんでいる。

 

「そんなに怖がらないでください」

 

 いや、怖がるだろう。普通。もはやこんなの押し入り強盗となんら変わりないのだから。

 

「あなたのことを教えてくれたのは、ご存じ射命丸さんです」

 

 ・・・・・・射命丸。存じ上げないが、一度だけ会ったことがあるような無いような・・・・・・。少なくともここ数年は他人との接触をしてないので私はその名前を聞いてもはっきりとは思い出せない。

 

「私はあなたの力をお借りしたいのです」

 

 こいつは何を言っているんだ。私の力なんて、せいぜい社会の底辺でも飯には困らない程度にしか使えない。そもそも、人の力を借りたいのにクローゼットを破壊するとは、頭のネジでも外れてるんじゃあなかろうか。

 私は心の底でそう思いながら、恐怖の表情を上っ面に張り付けていた。頼むから早く帰ってくれ。私は他人とは関わりたくは無いんだ。力なんてこれっぽちも貸したくない。クローゼットのことは水に流すから、私の目の前から消えてくれ。

 

「・・・・・・そんな表情をしないでください」

 

 おそらく、この女性の言葉を察するに今の私は酷い顔をしているんだろう。ゲロでも吐きそうな表情でもしていたら、それはそれで傑作だ。私の心内環境は至って平穏を取り繕っており、力を貸す気なんてサラサラないのに、私の体の方は私の意識下には無いらしい。

 

 そんな私の思いとは裏腹に彼女はこう述べた。

 

「私と友達になろう?」

 

 死んでも御免だ。私は心の中でそう叫びつつ、首が縦に振れるのを止められなかった。

 

*   *   *

 

 気が付けば、クローゼットは元に戻っており、女性と私と、女性が言っていた射命丸なる天狗が私の部屋にいた。

 

 その間、私はずっと黙っていた。射命丸も黙っている。女性は一人で何かを話している。永遠に、一人で、どうでもいいことを話し続けている。早く帰ってくれ、私にこれ以上関わることは止めてくれ。私は言おうとした。だが、声の出し方がよくわからなかった。

 

 話は適当なところで切られて、今度は女性は射命丸に耳打ちをした。もちろん、耳を寄せてその内容を聞こうとしたりなんて煩わしいことはしない。私の願いはこいつらとの接触をさっさと断つことなのだから。

 

「・・・・・・」

 

 射命丸はしぶしぶ頷いた。こいつも私と同じで、巻き込まれたくなさそうだったが、私の敵である。と、思っていると女性は立ち上がり、私の部屋から出ていった。

 

「じゃあ、射命丸さん。彼女と仲良くしてあげてね?」

 

 冗談じゃない。仲良くなんて、他人とできるか。そもそも、自分とも仲良くないのに・・・・・・意味が分からないが、そこはどうでもいい。正直な話、今日という日が抹消されることを願った。

 

 これから毎日、地獄が待っている。私からすればそんな印象だ。みんな死ねばいいのに。

 

*   *   *

 

 最悪だ。私はこれから毎日この精神障害者と生活しなければならない。早苗の命令は、このコミュ障を通り越したヒューマンフォビアを更生させろ、というものだった。不可能だ。いくら使える能力を持っていたところで、持ち主がガラクタなら意味を成さない。早苗はこいつを過大評価しすぎている。そもそも自分を調べようとしている人間を消すために、こんな奴の助けが必要とは思えない。

 

「・・・・・・本当に、癇に障る・・・・・・!」

 

 私は早苗に対する怒りを抑えきれずにいた。一刻も早くあいつを現在の地位から引きずり降ろさなければ私の腹の虫が収まらない。あの不可解な能力さえなければ私の風で八つ裂きにしているのに・・・・・・!

 

「はたて」

 

 私は目の前で震える小動物のような天狗を見下す。名前を呼ばれたことに対してビクッと体を震わせ、縮こまるように塞ぎ込んだ。

 

「私はあんたを更生させるようにアイツから言われた。でも私はそんな気はサラサラないし、あんたとしてもそんなことは御免だって思ってるでしょう?」

 

 私はイライラを募らせながらはたてに言う。だが、はたては話を聞く気がないのか、耳まで塞いで私の声から逃れようとしている。

 

「・・・・・・ちっ」

 

 私は舌打ちをして部屋を見回した。そこにはパソコンが置いてある。そういえばこいつの新聞購読数は私よりも多かったはずだ。癪に障ることだが、それだけ正確な記事を書くことが出来るという点は称賛に値する。私は清く正しいので他人を蹴落とすことはしない・・・・・・が、ちょっと興味が湧いた。

 

 はたての方をちらっと見ると、私に背中を向けてうずくまったままだった。私は特にロックのかかっていないPCを立ち上げて、彼女のハードディスクを眺める。

 

「・・・・・・と、ありましたありました。現在執筆中の原稿ですか・・・・・・」

 

 私は更新日時がつい最近のフォルダーを開いて中を見た。そこにはこのような記事が書かれていた。

 

『東風谷早苗、ついにその仮面が剥がれ落ちる!? 安心・安全の裏に隠された悪意とは!』

 

「・・・・・・は? えっ!?」

 

 私は目を疑った。記事の見出しが衝撃的過ぎた。私は震える手でその記事の続きを読む。と、ちょうど書き終りのところまで行き着いた。まだ、記事は途中で止まっていたのだが、さらなる衝撃的な光景が私の目の前で行われていく。

 

「・・・・・・! こ、これは・・・・・・誰も触っていないのに! 私はキーボードに触れてさえもいないのに! 『記事』が更新されていくッ!?」

 

 途中だった原稿がどんどん文字で埋められて行き、ついに一本の記事となった。私はそれの全てを目に収める。衝撃的な内容だった。まさか、まさか、こんなことが起こり得るはずがない。まるで夢物語だ。私は食い入るように画面を見た。何度も何度も記事を読み直し、その内容をしっかりと確認していく。

 

「な、何てことですか!? こ、こんな、こんなことが現実に起こったら・・・・・・!」

 

 と、不可思議な現象に気を取られていた私は背後の脅威に気付かなかった。

 

 

「やあああああああああああめえええええええええええええええええろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 ヒステリックな金切り声を上げてはたては椅子を持ち上げて私に殴り掛かってきた。突然の出来事で、私ははたての攻撃を避けるのに精一杯だった。当然、空を切る椅子はそのまま・・・・・・。

 

 ゴガシャアァァ!!

 

 と、凄まじい音を上げてパソコンを直撃。パソコンは一瞬で粉砕した。

 

「はあああああああ!?!?」

 

 私は折角のヒントをぶっ壊され、逆上しはたてを押さえつける。

 

「はたてぇええええ!! 何してんのよ! あ、あんたのせいでえええええ!!!」

 

「うるさいうるさいうるさい!! 人のパソコン見るなんて、あんたが死ね!」

 

 どうやらはたては私が勝手にパソコンの中を見たことに対してブチ切れたらしい。だが、そのせいで唯一のてがかりは失われた。証拠が一切残っていない。

 

「だからって、自分のパソコン壊すなんて、馬鹿にもほどがあるわ!! あんたが変なことさえしなければ、私は、私はぁぁっ!!」

 

「何よ! 私の私物を私がどうしようったってどうでもいいじゃあない!! 出てってよ! 私の目の前から消えてよ! 一人に、一人にさせてよぉ!!」

 

「いかれてんじゃあないの!? このクソアマがァァアァ!!」

 

 怒りで我を忘れて私とはたては取っ組み合いになる。もちろん、伝統文屋の私がこんな引き篭もりに体力面で劣るはずもなく、すぐに組み伏せることができたが・・・・・・。

 

「や、めろ!! 触るなぁあ! 穢れる、穢れる!!」

 

 はたては泣きながら私にそう叫び続けるのだった。

 

「・・・・・・この、ゴミめ! 人が傷つくようなことをよくもそんな・・・・・・!」

 

 私は右手を挙げて、そのままはたてに振りおろす。乾いた音が鳴って、はたての左のほほに私の手形が残った。

 

「・・・・・・っ!」

 

 はたては声も出せずに打たれた左の頬をさすった。平手打ちをくらったのがよほどの衝撃だったんだろう。呆然と私の方を見るだけだった。

 

「・・・・・・ふん、少しは落ち着きましたか?」

 

 なんか悪い気がしたので私ははたてから離れる。はたてはしばらくの間、呆然と頬をさするだけだったが、ついに何かを決心したかのようにキッと私を睨み付ける。

 

「そんな目をしたって全く怖くないですよ。あなたの強さなんてたかが知れていますからね・・・・・・!?」

 

 次の瞬間私の脛に鈍い痛みが走った。油断してた。はたては落ちていた酒瓶を地面擦れ擦れで投擲し、私の右脛を思いっきり殴打していた。

 

「おっ、ほぉ!?? き、うっくううう!!」

 

 たまらず右脛から崩れ落ちるような形で地面に倒れる。あのクソ天狗、脛に酒瓶とか非常識にもほどがあるだろう。これだからコミュ障は加減というものを知らないのだ・・・・・・。

 

「い・・・・・・今のは痛かったですよッ!!」

 

 私はひびの入った酒瓶を拾ってはたてに投げ返した。それは綺麗な放物線を描き、はたての脳天を直撃。その衝撃で瓶は割れ、破片が当たりに散らばった。

 

「あっ、~~~ぐぅうッ・・・・・・?!」

 

「人の痛みを知りなさい! あんただけが辛いと思ったら大間違い・・・・・・」

 

 脛が痛すぎて立てない私が頭を押さえてうずくまるはたてに抗弁垂れていると、はたてはフラフラしながらこっちに近付いてきた。

 

「・・・・・・こ、・・・・・・この汚らしい阿呆がァァーーーーッ!!」

 

「うるせぇぇええええーーーーーーーーッ!!」

 

 はたては焦点の合わない瞳で私に殴り掛かってきた。雑魚のくせに、生意気な。真正面からどつき合ってやる。

 

「うがああああああああああああああああ!!」

 

「しゃああああああああああああああああ!!」

 

 二匹の殺意むき出しな天狗が醜い醜い争いを続けた。

 

 そんなある日の昼下がりだ。

 

*   *   *

 

 しばらくたって、けんかの音がやんだ。女子同士のけんかとは恐ろしいもので、使えるものは何でも使う。既にはたての部屋にある重そうな物体や尖った物体は酷使しすぎて壊れてしまっている。ちなみに両天狗は血まみれではあるが全然ピンピンしている。

 

「・・・・・・は、はたてェ・・・・・・あんたの、あんたの新聞記事・・・・・・。一体どういう仕組みなのよ・・・・・・!」

 

 ある程度部屋が破壊しつくされて、頃合いを見て文はそう尋ねた。その言葉に肩で息を整えているはたては携帯電話を取り出し、何かを操作し始めた。

 

「・・・・・・(しゃべろよ)」

 

 どうやら文字を打っているらしい。カチカチと携帯に文字を打ち込んで、はたては画面を見せた。

 

 知らない。どうやら未来を念写出来るらしい。このことについて念写しても、この写真が撮れるだけ。

 

「・・・・・・ふむ?」

 

 と、はたてが再びカチカチと携帯を操作し始める。今度は画面をスクロールしているらしかった。そして、もう一度画面を文の方に向けた。そこには黄色い円盤の周囲を真っ赤な物体が取り囲んでいる写真だった。

 

「・・・・・・何ですかこの不快な画像は」

 

 文が眉をしかめながらそう尋ねると、はたては自分の頭を指さした。

 

「まさか、自分の脳内の画像とか言うんじゃあないんでしょうね」

 

 その言葉に、はたては首を縦に振った。文はぎょっと目を丸くする。まさか、本当にそうだとは微塵も思ってなかったからだ。

 

「・・・・・・冗談のつもりで言ったんだけど、・・・・・・まぁいいわ。それより、さっきの記事なんだけどもしも本当にあの記事の内容が未来に起こり得るのならば、もしかするとあの東風谷早苗をあの有頂天から引きずり下ろすことが出来るかもしれないわ。もちろん、協力しなさいよ、はたて」

 

 文はようやく見出した光明に一縷の望みをかけてはたてに手を差し出した。

 

「・・・・・・」

 

 しかし、はたては音も立てずにため息をつくと

 

 ぺっ

 

「・・・・・・」

 

 差し出された文の手に唾を吐きかけたのである。

 

「・・・・・・はたてぇ・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

 文はマジ切れしそうになるのを堪えて、つばが付いたままの手で無理やりはたての手を握った。はたての手にも唾が付いた。

 

 

 それから二人の奇妙な共同生活が始まった。文は表向きははたてを更生させるためだが、裏では早苗の完璧伝説を打壊すために。はたては平穏で何の恐怖も感じない生活のために。いがみ合い、衝突しながら、二人は日々を過ごしていった。

 

「はたて、それで・・・・・・予知記事は出ないのかしら?」

 

「・・・・・・河童に修理頼んだパソコンが返ってこないから無理」

 

「はぁ・・・・・・あんたが壊さなきゃこんなことには・・・・・・」

 

「先にハードディスクの中を覗いたあんたが悪い・・・・・・」

 

 こんな会話を何度続けただろうか。次第に日数は流れていき、はたても文となら普通に会話できるようになっていた。

 

 そんな折。

 

 ドンドンとはたての家のドアをたたく音が聞こえた。

 

「・・・・・・ま、まさか・・・・・・早苗?」

 

 ノックの音を聞いた文とはたては一気に緊張ムードになる。特にはたては早苗に対して心底恐怖を植え付けられており、早苗が来たかもしれないと分かると歯をガチガチ打ち鳴らして塞ぎ込んでしまう始末。それを見た文は急に恐ろしくなり、このまま早苗に対して居留守を決め込もうと思ったくらいである。文は玄関まで来たが、それ以上足がドアに向かうことは無かった。

 

「ごめんくださーい」

 

 続けざまに声が聞こえた。・・・・・・いや、違う。早苗の声じゃあ無い。男性の声だ。出てもいいだろう。文ははたての方を向いたが、はたては依然として塞ぎ込んだままだった。耳を塞いでるため声も聞こえないらしい。文は向き直りドアに手をかける。そして、鍵を開けてノブを回して・・・・・・。

 

 

「・・・・・・いるんなら早く開けてください」

 

 

「・・・・・・さなッ!?」

 

 ノブを回した瞬間、ものすごい力でドアを引っ張られ半開きになった扉からぬぅっと東風谷早苗の顔が入って来た。目が、合う。淡い緑色をした狂気に満ちている瞳だった。そんな印象を受けた。

 

「う、うわあああああああああああああッッ!!!」

 

「・・・・・・っぐ、ええッ!?」

 

 文は反射的に扉を思いっきり閉じた。すると、ノブを通していやな感触が手に残る。ドアを閉じた瞬間に早苗は顔を引っ込めることはしなかったのだ。そのまま、凄まじい勢いで閉められたドアに早苗の首は挟まった。瞬間、ブヂブヂブヂィッ!! と耳に残る不快音を立てながら・・・・・・。

 

「しゃ、めいま・・・・・・るッ・・・・・・き、ぐかッ!?」

 

 ごとん。

 

「きゃああああああああああああああッッ!!!!」

 

 玄関に少女の首が落ちた。

 

 文は突然の出来事に前後不覚に陥る。足を滑らせて倒れた。受け身なんて取れるはずもなく、後頭部を床に打ち付ける。その衝撃で文は視界が暗転し、気を失ってしまった。

 

*   *   *

 

 目が覚めると、視界に映ったのははたての部屋の天井だった。どうしてしまったのか、文はいつの間にか気を失っていたことに気が付いた。後頭部に痛みが残っており、なぜ気絶したのかを整理すると・・・・・・。

 

「・・・・・・やっとお目覚めですか?」

 

 文の思考を遮るように、早苗は文の視界を遮った。

 

「・・・・・・ッ!? え、はッ!?」

 

 文は瞬間理解する。先ほど起こった現象と現在の現実を比べて、ありえない点、矛盾点を割り出した。答えは一つ。

 

 ドウシテ東風谷早苗ハ、イキテイル?

 

「う、ごえぇぇえええええええッ!!」

 

 文は仰向けになった状態で腹の底からせり上がってくる異物をその場にぶちまけた。不可解な減少に頭を混乱させていたため、呼吸が出来ていないことにも気付かない。

 

「あらあらあらあらあらあら、大丈夫ですか射命丸さん。そんなゲロなんてぶちまけてしまって。介抱してあげて姫海堂さん?」

 

 早苗はそんな文の様子を憐れむように見て、後ろで震えているはたてに言った。

 

「ほら、姫海堂さん。掃除機と水。私が用意しましたから、それを片付けておいてくださいね?」

 

「うぅ・・・・・・」

 

 はたては文と早苗を交互に見て、どうすればいいか分からない、と言いたげに首を振った。その様子に早苗は溜息をついて、はたての髪を掴み顔をのぞき込む。

 

「掃除ですよ、掃除。射命丸さんと一緒に今まで暮して来たんですから、分かりますよね? 掃除機ですよ、掃除機。私が充電式クリーナーを偶然にも神社からわざわざ持って来ていたんですから、これを使うべきですよね? 使わなくてはならないのですよ?」

 

 涙を流すはたての手に無理やり早苗は充電式クリーナーを持たせた。だが、それは先の方が広いやつは外されており、狭い隙間などを掃除するための形状をしていた。スイッチを入れると大仰な音を立てながら空気を吸引する。

 

「・・・・・・え? え?」

 

 はたては訳が分からない、といった風に早苗を見た。すると、早苗の表情から一瞬だけ笑顔が消え去る。

 

「・・・・・・分かれよ」

 

「・・・・・・うっううう!!」

 

 はたては早苗の圧力に押されて、クリーナーを文の口元にあてた。

 

「そうですそうです、そしてそのままスイッチを入れるんですよ。彼女を苦しみから解放してあげるのです。今まで怠慢なあなたの部屋を掃除してくれたせめてもの恩返しをしましょう。さぁ、姫海堂さん? 躊躇なく容赦なく、吸い込むのです。射命丸さんの口の中にそれを突っ込むのです。さぁ、さぁ、さぁさぁ!!」

 

 早苗は心底嬉しそうに、ご丁寧に両の手を合わせてはたてに向かってそのように言い散らした。無論圧倒的な何かに恐怖するはたてがその言葉に抗うこともなく、自分の保身のために、クリーナーを文の口に突っ込んだ。

 

 ぎゅ、ごぉぉぉぉおおおおおおお!!

 

 半液体を吸い込むような耳障りな音を上げながら、クリーナーは文の内臓から物体を吸引していく。

 

「お、ぐ、んんんんんんんんんん!? んんっ、ぐうううんん!!」

 

 感じたことのない異物を吸い上げられるという感覚に文は意識を覚醒させて、目を見開いた。はたてが自分の口にクリーナーを突っ込んで、ゲロを吸い上げている。全く持って状況が理解不能。文は舌も巻き込まれているためロクに喋ることも出来ずに、掃除機を無言で引き離そうとするが・・・・・・。はたての手で掃除機を抑える力が強すぎて、抵抗はほとんど無意味だった。

 

(や、やめて・・・・・・! はたてぇ! し、死んじゃう・・・・・・! 私、私死んじゃうからぁっ・・・・・・!)

 

 視線で必死に訴えるも、はたては涙を流しながら、鼻水を垂らしながらクリーナーを押さえ続けていた。吸い込む力も相まって、酸素不足の文の力ではどうしようも出来ない。そして、ゲロをほとんど吸い上げてしまったクリーナーは文の喉奥を吸い込もうとしていた。

 

 ぎゅむ、ぎゅむ、ぎゅうううううう・・・・・・

 

(う、やばいやばいやばいやばい・・・・・・! の、喉が、喉が吸い込まれる!! 裏返されちゃううううぅぅ!!)

 

「うふふ、うふふふふふふふ・・・・・・いいですね、いいですよ。姫海堂さんの愛情、射命丸さんの苦しみ・・・・・・。すれ違う二人、惨劇、残酷、焦燥、衰弱・・・・・・!! 最高です、最高です・・・・・・! やっぱり、うふふふ、ふふふひひへへふへふへえええはへえええ・・・・・・。最高です、最高です、最高です。二人の少女が地獄の葛藤に悶え苦しむその無様な顔、歪んだ表情・・・・・・! もう、ほんっとうにほんっとうに・・・・・・」

 

 その二人の様子を脇で見ていた早苗は手を胸と股間に当てて無造作に撫でまわし、恍惚に満ちた表情で地獄を堪能していた。

 

「ほんっとうに・・・・・・さいこぉ・・・・・・」

 

 早苗はだらしなく舌を出して快感に入り浸った。そして、二人には気が付かれないように・・・・・・『スタンド』を出す。

 

「・・・・・・ふぅ、ん、れろ、れろ・・・・・・」

 

 それは徐々に人間の姿を成していき、本物の人間のようになった。赤い髪、癖のある前髪、170センチ後半の身長、濃緑色の学ラン。そしてまるでそれが自身の特技であるかのように動く舌。

 

 舌。

 

 

「レロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロ」

 

 

 さくらんぼを舌の上で転がすかのように、早苗の舌を転がす。非常に非常に速い舌の動き。これが早苗は大好きなのだという。

 

「レロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロ」

 

 自分のスタンドから受ける接吻は果たして甘美なものだろうか。それは本人しか知らない。

 

「ふふ、ふふふ、あなたもそう思うでしょう? ・・・・・・花京院さん」

 

 

 

 文に対する責めはクリーナーの充電が切れるまで続き、文は瀕死状態で解放された。そのやつれきった無残な天狗の姿を見たはたては罪悪感から大泣きして、ひたすらに「ごめんなさい」を繰り返すだけだった。

 

「・・・・・・はっ・・・・・・はっ・・・・・・」

 

 何とか文は呼吸だけは出来ていた。少なくとも、今すぐに死ぬような状況ではない。その様子をにやにやと薄ら笑いを浮かべながら早苗が観察していた。

 

「そういえば」

 

 と、早苗は話を切り出した。

 

「そういえば・・・・・・つい昨日くらいに妖怪の山に侵入者が現れたそうですよ? 河童の手によって捕獲されたようですが・・・・・・まぁ、それが私のことを探っていた外来人だとしたら、あなたたちはもう用済みというわけでしてね」

 

 確認が済んだら、『処分』しますね。

 

 早苗ははたての耳元で静かに呟いて、はたての家から出ていった。

 

「・・・・・・う、ううううっ!」

 

 はたてはただただ涙を流すことしかできなかった。逃げる? いいや、無駄だ。あの女は何があろうと徹底的に私たちを追い詰めるつもりだ。助けを求める? これも無駄だ。あの女が妖怪たちに手を回していないとは思えない。

 

 どうする? このまま、このままあの女の言いなりになるのか?

 

 どうすれば、どうすればいいの??

 

 頭を抱えて、くしゃくしゃになった表情ではたては思考していた。そんな彼女の膝に・・・・・・文の手が置かれた。文は息も絶え絶えの様子ではたてに話しかける。

 

「・・・・・・そんなことは・・・・・・絶対に・・・・・・・・・・・・許さない・・・・・・。何より・・・・・・、あいつが言っていた通りには・・・・・・事はうまく運ばないわ」

 

 文は段々と落ち着いてきたのだろうか。はたてに必死で訴えた。

 

「・・・・・・え?」

 

「河童に捕えられた・・・・・・確かにそのことは今は確認出来ないあなたの記事にも経過として書いてあった。でも、捕えられたにもかかわらず、外来人は抜け出して早苗の元まで辿り着いたとあったのよ・・・・・・! あいつの、あいつの思い通りには・・・・・・ならないわ・・・・・・」

 

 文は思い出していた。はたての予言する新聞記事に書かれていた内容だ。

 

 運命通り、事が進めば早苗神話は絶対に崩壊する・・・・・・。はたての新聞の購読数が未来の予言に絶対が保証されているのだ。

 

(・・・・・・でも、そのためには・・・・・・私もしなくちゃならないようね・・・・・・っ)

 

 そう、新聞の内容には文に関することも書いてあったのだ。

 

 彼女はそうせざるを得ない運命なのである。出来なきゃ、運命は変えられてしまう。

 

「はたて・・・・・・手を貸しなさい。あんたのことは怒ってないわ。悪いのは全部アイツ。・・・・・・あんたと私なら、あの優越感を顔面に張り付けたクサレアバズレに一泡吹かせられるわ」

 

 その文の提案にようやくはたては・・・・・・。

 

「・・・・・・」

 

 こくり、と肯定の意味を示したのである。

 

*   *   *

 

 姫海堂はたて スタンド名:トト神

 

 特定のスタンド像を持たない。はたてのコンピューターに勝手に未来の事象が書き込まれるスタンド。予言される内容ははたてに関係あることから全く接点のないことまで様々。優先順位のようなものは存在せず、適当に未来の事象を予言する。ここに書かれた内容通りの行動をすれば、絶対に記事に書かれた通りになる。今回の予言を目撃したのは射命丸文のみ。よって、予言の詳しい内容は彼女しか知りえない。

 

 

 東風谷早苗 スタンド名:???

 

 人間の姿をしたスタンド。早苗は花京院と呼んでいる。能力は不明。

 

*   *   *

 

 早苗がはたての家に訪ねてくる約24時間前、永遠亭。

 

「・・・・・・準備しましたか? てゐ」

 

 黄金の頭髪をオールバックにした少年ジョルノ・ジョバァーナはうさ耳を跳ねさせる妖怪幸せウサギ、てゐの方を見た。

 

「当然だよ。はぁ、全く持って、どうして私があんたと二人っきりで妖怪の山に潜入何てせにゃならんのかねぇ」

 

 てゐは溜息をついて不平を漏らしていた。この理由については今までジョルノは散々言い聞かせてきているのだが・・・・・・。

 

「・・・・・・てゐ、これで説明するのは何度かはもう覚えてませんが・・・・・・」

 

「だ~~~!! 分かった分かった! 永琳様は小さいままだし、鈴仙は動くこともままならない。もし咲夜がよからぬ行動を起こした時、止めることが出来るのはスタンド使いの妹紅だけ! 消去法でジョルノを案内できるのは私だけってことでしょ!? 耳に出来たタコが破裂しそうなくらいには聞き飽きたよ!」

 

 てゐはうさ耳を塞いでジョルノの言葉を遮った。そう、現在まともに何のしがらみも後ろ髪引かれる思いもなくジョルノが自由に連れまわせるのはてゐだけだったのだ。

 

「・・・・・・そうです。しっかりと割り切ってくださいね。――――あと、今回は出来るだけてゐも守りながら戦うつもりですが、そんな余裕があるとは思えません。自分の身は自分で出来るだけ守るようにして貰いたいですね」

 

 ジョルノの言葉に「えっ!?」と、てゐは声を裏返らせた。

 

「ちょ、ちょっと冗談きついよジョルノぉ~~! それじゃあこの私を、か弱い私を守ってくれるのは・・・・・・」

 

「そうです。自分だけですよ」

 

 無慈悲にもジョルノはそう告げる。だが、そんな言葉は予定調和だと言わんばかりにてゐはニヤリと笑って。

 

「・・・・・・まぁ、ジョルノがそんなことを言うことは遥か2000年前からお見通しウサ」

 

 と、永遠亭の玄関の扉を開けて外に出た。そこにいたのは・・・・・・。

 

「げっ!?」

 

 ジョルノが思わず声を荒げてしまう程の人物。そう、ジョルノはこの人物とは初対面ではない。

 

「はっはっは! 話は聞かせてもらったぞ雑魚どもよ! 妖怪の山の奴らなんて、このあたいにかかれば虫けら同然よっ!」

 

 そこにはふよふよと宙に浮いて仁王立ちをする小さな小さな妖精の姿。

 

「いよっ、流石(自称)最強さん! 頼りになりまっせウサ!」

 

 てゐはよいしょを忘れない。どこか罵倒の含みがあるような気がするが、本人は気が付いていていない。

 

 なんでかって?

 

 答えは単純明快。

 

「この全宇宙最強最高のあたいに任せなさいっ! 昼飯前にはおうちに帰れるわよ!」

 

 てゐの用意した助っ人が、⑨だからである。

 

「・・・・・・まだ出発してませんが、もう帰りたい気分ですね・・・・・・」

 

 かつて散々苦しめられた馬鹿が目の前にいる。えっと名前は何だっけな・・・・・・、あぁ、そういえば――。

 

「・・・・・・えっと、チルノだっけ? 悪いことは言いません、帰ってください」

 

「嫌だっ! サイキョーの称号を手に入れるまであたいは帰んないもんねー!」

 

 そう、氷の妖精・チルノである。てゐは一体どんな嘘を付いてこの馬鹿を口車に乗せたのだろうか。

 

「ほらほらジョルノ」

 

 チルノが鼻を高くしているところで、てゐは目を盗んでジョルノの耳元でぼそりと話しかける。

 

「あいつはあんなんだけど、かつて魔法使いを負かしたことがあるくらいには力はあるウサ。スタンドも意外と強力らしいし、仲間に入れといて損は無いウサよ。何より妖精は死んでも一回休みになるだけだし」

 

「いや、たぶん肉壁にするつもりですよね。本心が最後に出てましたよ」

 

「・・・・・・まぁ、いいじゃあないか。ここは騙されたと思って連れて行こうよ」

 

 ジョルノはてゐの言葉に渋々頷き、チルノの同行を承諾した。

 

「よぉーしっ、あたいを先頭に、進軍開始ぃぃいい!!」

 

 ジョルノ、てゐ、チルノ。このチグハグトリオの妖怪の山冒険が今始まる。

 

 

 

「ねぇ、てゐ。おやつは300円までよ! しっかり計算してきたかしら? あたいはうまい棒をしっかり3本まで持って来たわ!」

 

「遠足気分ウサかよ!!  しかも掛け算すらまともに出来てないし!! ・・・・・・ジョルノ、今更けど心配になってきたウサ」

 

「今更過ぎますよてゐ。・・・・・・いや、マジに今更過ぎます」

 

 

 

第34話へ続く・・・・・・。

 

*   *   *




後書き

どうも、フリッカリッカです。かなりお久しぶりですね。

投稿遅れて申し訳ないです。でも更新は止めません。

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