ボスとジョルノの幻想訪問記   作:フリッカリッカ

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機械少女の論理的思考③

ボスとジョルノの幻想訪問記36

 

機械少女の論理的思考③

 

「ふっ」

 

 にとりが何かを悟ったかのように漏らした吐息はジョルノやチルノたちの耳には諦めの念が取れるように聞こえていた。偶然とはいえ、こちらの最も打ち勝つことが難しかったであろうゴリアテを突破したのである。こちらの手持ちはレティとチルノ。対してにとりには両者に弱点を取られてしまう神姫がいる。状況はすでにチルノの方が有利だ。

 

 あと一体のにとりの手持ち次第ではあるが……。

 

「……わずか30%の命中を当てきるとは、少々予想外だな……」

 

 にとりは、しかし、落ち着いていた。その目には未だに戦う意思が残っていた。

 

「妖精とはいえ甘く見ていてはこちらが痛い目を見るようだな……。いいぞ、実にいい目をしている……チルノ、今の君はゲームとはいえ、真摯に向き合う強い輝きが漲っている」

 

 逆だった。にとりはチルノの目を見て嬉しそうに笑みを零した。その狂気的な言葉にチルノがたらりと冷汗を流す。

 

「しかし、私には私なりの誇りというものが存在する。ちっぽけだが、ゲーム勝負で君たちに負けるわけには行かないんでね。これからはロジカル語法抜きで、全力で叩き潰してやるよ……」

 

 にとりが再び画面に視線を戻し、選択をした。まだ降参を選択しないということは、チルノに対して勝つ見込みがあるということだ。

 

「……ゴリアテだけが超えるべき関門じゃあないのか?」

 

「どうやらそうみたいウサ。まだにとりはチルノ・レティの2体に対抗しうるだけの戦力を控えさせてるみたいウサ」

 

 ジョルノとてゐが後ろでヒソヒソと話していると

 

「アタイは勝つわ、二人とも」

 

 チルノがはっきりとした強い意志でそう言った。

 

「……」

 

 ジョルノは思った。

 

(チルノ……単なる力の強いアホの子だと思っていましたが、それは間違いだった。あなたのその無邪気さの裏には強い意志が宿っている。子供染みていても、確かに存在する黄金の魂が……)

 

 その姿にジョルノはどこか懐かしさを覚える。子供っぽくて、でもはっきりとした強い意志を持った――――。

 

 ――――『エアロスミス』――――

 

「……?」

 

 不意にチルノのスタンドが脳裏に浮かんだ。何故かはジョルノには分からなかった。

 

「ジョルノ! お相手の3体目がお出ましウサ!」

 

 てゐの声にジョルノはハッと我に返って画面の方を見る。画面内ではチルノが背中を向けてアイスを振り回しており(なんとも子供っぽい待機動作だろう)、画面の右斜め奥からにとりがカケラを繰り出していた。

 

 繰り出されたのはジョルノが少し前に痛い目を見せられた妖精の一人……いや、元凶の

 

「スターサファイアッ!!」

 

 ジョルノの脳裏に嫌な記憶が呼び起された。そういえばあの時はチルノも敵だった。

 

「ジョルノ、スターサファイアについて何か知ってんのかウサ?」

 

 ジョルノの反応にてゐは疑問を投げかけざるを得ない。ジョルノは「いや……ちょっと嫌なことがありましてね」とだけ答えた。

 

「いたずらでもされたか? まぁ、あいつらのいたずらなんて私のに比べりゃあ子供と大人並の差はあるけどねぇ」

 

 得意顔をしているが、ジョルノ的にはあれをいたずらと言っていいか……。

 

「ふぅん、スターかぁ。まぁアタイの敵じゃあないね」

 

 ゴリアテを突破して絶賛勢いづいているチルノは技を選択する。

 

「……」

 

 にとりも同様、同じように技を選択する。

 

「二連続・絶対零度だッ!! これであんたの負けは確定よ!」

 

 素早さで速いのはチルノだった。スターサファイアに向けて先ほどゴリアテを葬った技、絶対零度が向けられる。しかし、当のにとりはいたって平常だった。

 

「どうした! これで負けるかもしれないんだぞ! もう諦めたか!」

 

「いいや、これは諦めの沈黙では無いよ。この沈黙は『呆れてものが言えないね、この馬鹿』っていう沈黙さ」

 

 チルノの挑発ににとりはハン、と鼻息を漏らして挑発し返す。チルノの思考は短絡的なので「にゃ、にゃにぃ~?」と言って画面を見ると……。

 

 大量の冷気をスターサファイアに向けてチルノが放出した。しかし、その圧倒的破壊冷気圧はスターサファイアの方では無く、見当違いの方向に飛んでいった。

 

「ぐっ、は、外れた!」

 

「当然だよ。30%って言ったって2連続で当たる確率はたったの⑨%だ……。おっと、チルノ。君の様な⑨(馬鹿)には難しい計算だったかな?」

 

 にとりの言葉にチルノは疑問符を浮かべていた。やはり馬鹿である。

 

「でも、スター程度にあたいがやられるもんか! 次のターンにまた打てばいいだけの話!」

 

 気を取り直して次の攻撃を待つチルノ。しかし、にとりは残念そうにチルノに言った。

 

「……君に『次』なんて無いよ……無敵のスターサファイアで何とかするからね」

 

 と、続いてスターサファイアの攻撃は……。

 

「じゃれつけ、『スターサファイア』ッ!!」

 

 『じゃれつく』だった。じゃれつくと言えば威力90の物理フェアリー技。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!」

 

「えっ、な、なにこれ!?」

 

 しかし、画面内のスターサファイアは何故か筋骨隆々としており、じゃれつくをチルノに向かってブチかました。どちらかと言えば、じゃれつくというか、一方的なタコ殴りである。その訳の分からない攻撃にいつの間にかチルノの体力はどんどん減っていき……。

 

「う、うわああああああああッ!!??」

 

 なんと、HPは空っぽになってしまったのだ。

 

 チルノは たおれた!

 

 無慈悲なテロップがチルノとジョルノとてゐの目に映し出される。

 

「ど、どうしてええええええ!? な、何で一撃っ、えっ!? 急所でも何でも無いのにぃぃ!!」

 

「どういうことウサ! スターサファイアの攻撃の種族値はたったの50のはず! いくら防御が紙のチルノでも一撃で死ぬなんて……」

 

「スターサファイアは」

 

 そのてゐの疑問に対して答えたのはにとりだった。まず第一声がその一言であり、にとりの話にてゐを筆頭に3人は耳を傾ける。

 

「特性が力持ちって言ってね。攻撃が2倍になるんだ。おっと、ここで間違っちゃあいけないのが種族値が2倍になるんじゃあなくって『実値』が2倍になるってことだ。つまり、攻撃実値が2倍になったスターサファイアの攻撃力を種族値換算すると……」

 

 彼女は言葉をためて、3人に衝撃の数値を告げる。

 

「164だ」

 

「ひゃ!?」

 

「――た、高い」

 

 後方で見ていた二人の衝撃は大きかった。そしてジョルノは再びあの時の屈辱が思い起こされた。やはり、スターサファイアはあの3人の中でも一際飛びぬけていたのだ。ゲームにもそれが反映されていた!

 

「ぐ、ぐぐ……ハァ、ハァー……な、んで……く、くそっ!!」

 

 チルノは急激に汗をかき始めていた。いや、溶けるように水分が体から流れ落ちていくのである。体が段々と小さくなって……。

 

「――はッ!? ち、チルノ!! 負けを認めるなッ!! 魂が体から抜け出ているぞッ!!」

 

 ジョルノが気付いてももう遅かった。チルノの肉体は溶け始め、すぅっと半透明のチルノの形を模した何かが抜け出て行っているのだ。すかさずにとりがスタンド『アトゥム神』を出してチルノの体から出てきた魂を掴み――。

 

「……ジョ、るのぉ……助け……」

 

 チルノが恐怖に怯えた表情でジョルノに最後に言おうとして……。

 

「魂は貰ったァァーーーーーッ!!」

 

 ガオンッ!!

 

 チルノの魂を掴んだ『アトゥム神』はディスプレイの中にその魂を叩き込む。チルノの魂はディスプレイの中に閉じ込められ、予め作られていたMMDのチルノモデルに取りつかされる。

 

「ち、チルノが……っ!」

 

 スタンド使いでは無いてゐに今の現象は見えていない。だが、ぴくりとも動かず、体がじんわりと溶け始めているチルノの肉体を見て全てを悟ったようだ。

 

「ぬ、ぬけがらだ……! ジョルノ、もう……チルノの魂は……!!」

 

「…………」

 

 ジョルノはチルノの肉体に触れる。やはり魂の痕跡は感じられない。『ゴールドエクスペリエンス』で持ってしても生き物の気配はそこからは感じられなかった。全て持っていかれたのだ。

 

「……チルノの肉体は氷で出来ている。それをコントロールするのは魂だ。彼女の魂が無い限り、肉体は一方的に溶けるばかりだ」

 

 ジョルノは冷静な分析をして、チルノの肉体が解け始めている状況をてゐに説明する。そしてにとりの方を見て

 

「この部屋に冷蔵庫か冷凍庫はあるか?」

 

 と尋ねた。

 

「……あるよ。でも、どうするつもりだい? まさか、その溶け始めてるぬけがらでも入れるつもりじゃあ」

 

「御託はいい。どこにあるか早く教えろ。お前がすることは『それだけ』だ」

 

 ジョルノの強勢を伴った物言いににとりはぐっ、と押し込められ「冷蔵庫ならあそこだよ」と指をさす。指さした先には確かに大きめの冷蔵庫のような箱があった。

 

「てゐ、チルノの肉体を運びます。溶けきる前にあの中に入れましょう。きっと効果があるはずです」

 

「え、ああ……分かった」

 

 二人がかりでチルノの肉体を運び、そして冷蔵庫の中に収めた。その様子を見てにとりが堪らずこう尋ねる。

 

「……何のつもりだい? まさか、この私から魂を取り戻そうってことか?」

 

 その愚問にジョルノはパソコンの前に座りながら答えた。

 

「――助けて、と。そう言ったんだ。あの『チルノ』がだ。決して人に弱音を吐くような子ではない。――何でか分かるか?」

 

 慣れた手つきでコントローラーを操作し、一気にマッチング画面へと移った。

 

「お前への無念を晴らしたいからだ。この勝負は絶対に勝ち、僕が彼女を助ける。そして彼女がお前に無念を晴らす! ……僕の魂を賭けよう」

 

「……グッド」

 

 ジョルノの凄味に圧倒されながら、にとりは次のゲームを受け付けた。

 

*   *   *

 

 ルールは先ほどと同じ、6体チームの選出までは相談可能である。

 

「……てゐ、この勝負はあなたにかかってます。ばれない様に頼みますよ?」

 

「ま、まさかジョルノがそんな卑怯な提案をするなんて……いや、まぁ確実にそれなら勝てるからいいけどさ……」

 

「あなたもよくやってることじゃあないですか。そのためのこの『6体』なんですから」

 

 ジョルノは画面をてゐに見せる。確かに、この6体はにとりにとっては全く予測できないものだろう。

 

「でも、どうしてさ? そんな回りくどいことをするのは……」

 

「……僕の読みだと、彼女は心を読んでます。チルノに戦闘中に何度も質問してましたよね? それにチルノは答えてませんでしたが、それでもチルノの行動に合わせた対処をしてました」

 

「……」

 

 てゐはにとりの言動を思い返して、あぁそういえば、と感じるだけだった。

 

「ですが、彼女の心情読みはイエスかノーの二択でしか分からない感じがします。最初の神姫への交代のとき、交代かどうかだけで判断し、まさかフェアリーの大妖精が来るとは全く思ってなかったという反応でした。単なる判断ミスだけからはあそこまで大きな動揺はしません」

 

「……か、確証は??」

 

「それだけです。でも、それだけあるならやる価値はあります」

 

「……」

 

 ジョルノのやっていることはてゐのソレとは明らかに違った。

 

(ジョルノ、お前のそれは私がやっていることと同じだと言ったが……あんたのはただの大博打だ! その仮定通りににとりが心読みが出来るって保証はどこにもないのに、ただの憶測だけでそんな策をするのは危険ウサ!)

 

 だが、そのジョルノへの思いをてゐが口に出すことは無い。ジョルノのこれまでやって来たことは全て正しいことだからだ。正しい方向に向かうからだ。てゐもそのことを体感で理解していた。

 

(……でも、アンタがそうって言うんならきっとそうなるんだろうね……人を信じるだなんて、私も焼きが回ったかな?)

 

 そう思っててゐは準備をする。

 

 決してにとりに気付かれないように。

 

*   *   *

 

「さて、6体の選出は終わったかい?」

 

 にとりは口調をそのままでジョルノに尋ねた。ジョルノは無言を持ってそれに答える。

 

「じゃあ開始だ。よろしくお願いします」

 

「こちらこそ……」

 

 マッチング画面が映し出される。にとりの手持ちは先ほどと少々面子が変わり、シャンハイ(エスパー/鋼)、すいか(炎/地面)、こいし(エスパー/悪)、ゆゆこ(草/ゴースト)、かなこ(幻想)、にとり(水/電気)だ。

 

 対するジョルノの選出は……。

 

「……なんだこれは?」

 

 にとりが疑問を抱かずにはいられない構成だった。

 

 ジョルノの6体はぬえ(悪/飛行)、マミゾウ(地面/エスパー)、かぐや(草/水)を『2体づつ』だった。

 

(……ふん、私の『アトゥム神』の能力に既に気付いての構成か? いや、それしか考えられないな)

 

 口には出さなかったがにとりは口の端から笑みを零していた。

 

(だが、お前の対策は全くの無駄だぞ? 証明してやろう……)

 

 勝負が開始される。まずは手持ちの3体を選ぶことからだ。

 

(ぬえとマミゾウの特性は『イリュージョン』。これは手持ちの一番最後にいるカケラに成りすまして出てくるというもの。つまり、輝夜を一番最後に置いた時点で、残りの2体は自動的に輝夜の姿になるわけだ……。こんな小細工で私の能力を看過したつもりか??)

 

 心の正誤というのは、いわゆる表面上のものだけではなく魂の、奥底の問題であるのだ。ゲーム上を取り繕ったところで、ジョルノがマミゾウか、輝夜か、ぬえか。誰を選ぶかはにとりからは丸分かりなのである。

 

 あそこまで大口を叩いておきながら、この程度の対策しか練れていないあたり、やはりこの男はゲームに関してはド素人だ。ただ意表を付けばいいってもんじゃあない。このゲームの鉄人・河城にとりの敵じゃあないな、とにとりは思って……首を振った。

 

(……いかん、さっきも私はチルノにこんな感情を抱いてたんだっけ……。人間は土壇場でどんな行動に出るか分からないからな。慎重に行こう。まずは、この男が何を先発で起用するかだ)

 

「……さて、えぇと……報告の名前ではジョルノ・ジョバァーナだっけか? 君の先発を予言しよう」

 

 このにとりの発言にてゐはドキっとしてジョルノの方を見た。それはまだ準備が完了してないことを示す合図だったが、ジョルノはそれに気が付かない。

 

 だが、ジョルノはそのことさえも見越している。

 

「……いいですよ。でもあなたは予言なんて出来ない、とはっきり言っておきます」

 

「は……?」

 

「なぜなら僕が『先発は輝夜にする』と予告をするからです」

 

 その言葉ににとりはむっ、とした表情で

 

「……何だ君は。人がしたいことを先に奪ってしまうなんて。嫌がらせもいいところだな。まるで日をまたぐ直後に誕生日おめでとうメールを友人に送ろうと思ったのに、その友人から『俺今日誕生日なんだけど』ってメールが逆に送られてくるくらい不愉快だが、果たしてその言葉は本当なのかい?」

 

 そのにとりの質問にジョルノ心は……。

 

【YES! YES! YES!】

 

 確かに肯定の意を示していた。これは間違いのない事象だ。彼の心が、魂が肯定をしているということは、100%! ジョルノの先発は輝夜だということである。

 

(ふん、まさか本当に先発予告をするなんてな。この男はマジに嫌がらせをしているだけらしい)

 

 するとにとりの先発は自動的に決定する。もちろん、受けとして強力で、さらに毒技のダストシュートを覚えている幽々子である。

 

 そして残りのメンバーの選出に移る。幽々子の弱点はゴースト、炎、氷、飛行、虫、悪、エスパー。これらを相補完的に半減でき、ジョルノの手持ちに炎タイプがいないことも含めシャンハイ、そして確実にぬえを殺すためににとりを選出した。

 

「さて、準備はいいかな?」

 

「ええ、こっちは輝夜様をまずは繰り出しです」

 

 その言葉ににとりの『アトゥム神』は嘘が無いことを見抜いた。確かに決意は変わらず、輝夜を初手繰り出しするようだ。

 

【YES! YES! YES!】

 

「……では、始めようか」

 

 にとりの言葉を皮切りに対戦が開始された。

 

 ――――既に、てゐは画面を見ていた。確かに、作業は完了した。あとは、このトリックがばれないようにするだけだ。

 

(何とか、首尾よくいってよかった。『起きててくれて』本当によかったウサ……)

 

 対戦開始、の4文字が映し出され直後にまずジョルノ側がカケラを繰り出す。やはり、輝夜が出てきた。そしてにとりは幽々子を繰り出す。

 

「……っ! やっぱり幽々子が出てきたウサよ! どうすんのさ!」

 

 ジョルノにてゐは尋ねる。いくら輝夜の耐久値が異常に高いと言っても、このタイプ相性では押し負けてしまうだろう。ちなみに、幽々子もバケモノ級の耐久値がある。

 

 だが、ジョルノはいたって冷静に

 

「マミゾウに交代します」

 

 と告げた。

 

「……は?」

 

 後ろで見ていたてゐは首を傾げる。確かに、マミゾウならダストシュートは受けれる。だが、幽々子のタイプは草・ゴースト。地面・エスパーのマミゾウではいかんせん分が悪いのだ。

 

「……いや、ジョルノ」

 

 と、てゐは早まるジョルノを押さえようとするが、それより早くジョルノは交代を完了した。

 

「……な、何てことをッ!!」

 

 その行動に頭を抱えててゐは立ち崩れる。そして、ちらり。とにとりの方を見た。

 

 もちろん、このてゐらしくない行動はブラフである。もし本当ににとりがジョルノの心を読んでいるとしたら、ここでてゐのブラフに引っかかるわけがないからである。

 

(さぁ、どうウサ!? 心を読んでみろ!!)

 

 そのてゐの疑問ににとりは――。

 

【NO! NO! NO!】

 

(もちろん、マミゾウがここで出てくることは100%あり得ない。『アトゥム神』がジョルノのNO!!を読み取っている! だが、交代すると言っていたのだ。とすると、やはりここはぬえが妥当。幽々子に対して有利だし、何より速くて火力も高い。――ということは……)

 

 いろいろ悩んだ末ににとりは

 

「……いや、本当に交代するのか?」

 

 と、ふと口走った。すると、ジョルノの心に『アトゥム神』にだけ認知可能な魂の声が反響した。

 

【YES! YES! YES!】

 

 やはり、ジョルノは交代をする。これは間違いない。だが、マミゾウでは無い。つまり、今から出てくるのはぬえのはずである。

 

(ぬえを確実に殺せるのはにとり……というか、私か。私のカケラの耐久値と火力ならぬえの攻撃を1発までは耐えて逆襲の雷で1撃……。命中率に不安は残るが、当てきれなかったらそれまで、か)

 

 にとりも交換を選択する。そしてゲームが動き始めた。

 

 まずはマミゾウが出てくる。しかし、これはマミゾウでは無い。にとりのアトゥム神はマミゾウでは無いことを確実に示していたからだ。つまり、これは『マミゾウの姿をしたぬえ』ということになる。

 

(やはり、予想通りぬえ!! 私のにとりで一撃で沈めてあげよう!)

 

 にやり、と笑ってにとりはにとりを繰り出した。

 

「……!!」

 

 ジョルノの顔に衝撃が走る。

 

「ふん? どうした、青ざめているよ? まさか、本当に心を読まれて動揺しているのかな?」

 

 2ターン目に移りにとりは即刻雷を選択し、コントローラーを置いて余裕の表情でのたまった。

 

「……いいえ、そんなんじゃあありません。この表情は『予想通りだぜ!』って思ってる表れですよ。河城にとり」

 

 ジョルノがそう告げるとにとりはもしや、と思い画面を見る。にとりがまず雷を放った。

 

「……えっ!? な、んで『先攻』ッ!?」

 

 にとりの経験上、ぬえににとりが素早さで優った覚えはない。にとりの素早さ種族値は75、対してぬえは120。にとりがどれだけ素早さに振ろうと(役割論理的にはそれはありえないが)ぬえに素早さで優ることなどあり得ない。

 

 黒い鉄球(必ず後攻になるアイテム)を持たせている可能性もあるが、なげつける(持っている道具を相手に投げつけて攻撃。黒い鉄球は最大ダメージを叩きだせる)を覚えられないぬえに持たせるメリットは皆無。ましてや、鉄球トリック(黒い鉄球を無理やり相手に持たせて最速カケラを必ず後攻にすること)など素早さが元々高いぬえにはほとんど必要ない。ゆえに、ぬえならにとりより遅いということはありえない。

 

 ――だが、素早さ種族値70のマミゾウならあり得る。

 

「――マミゾウは地面タイプ。よって雷タイプ技の雷は効果を示さない……。やれやれですね。ヒヤッとしました」

 

 雷は当たりはしたが、マミゾウは無傷でにとりを睨んでいた。狸に睨まれた河童だ。

 

「馬鹿なッ!? 技が当たったのに変化しないということは確かにこれはマミゾウ……だけど、さっきお前は絶対にマミゾウは出さないって……!!」

 

「え? 僕が? いつ? 口に出したのはマミゾウを繰り出す、ってちゃんと言いませんでした? それとも、本当は僕がそう思ってなくて、それをあなたは『読み取った』とか……?」

 

「うぐっ」

 

 痛いところを付かれたにとりはギクリとしてしまう。

 

(やはりジョルノ・ジョバァーナは私のスタンド『アトゥム神』の心読みを見抜いていた! だが、今の矛盾は説明が付かない……!! マミゾウを繰り出す、という言葉に対して魂は否定しておきながら、行動は肯定だっただとッ!? こ、こんなことは……こんなことは今までなかったのにッ!!)

 

「……図星、っぽいですね。そして、確信しました。あんたの心読みはイエスかノーの二択でしかない」

 

「……くっ、だ、大正解だ……だが、貴様……! 一体どんな手を使って私の能力を欺いているのさ!?」

 

「さぁ?」

 

 ジョルノはしらばっくれるばかりだ。いつのまにかにとりは汗をかいていた。その表情からは今までの余裕は消えている。

 

(ば、バカな……この私が、ゲーム勝負では最強のこの河城にとりが……! こんな初心者に対して『汗をかかされている』だと……ッ!! あり得ない、あり得ない、あり得ないッ!!)

 

 単なる偶然だ。きっとコントローラーで決定する直前に自分で意思を変えたんだ。行動する直前まで心を読めばきっと看過できるッ!!

 

 にとりはそう自分に言い聞かせて画面に向き直る。

 

「……マミゾウは地面タイプだ……にとりの弱点である地面で攻めてくる……ふつうはそうするよな……?」

 

 ちらり、とにとりはジョルノの方を見た。そして心を読み取る。ジョルノの心をアトゥム神で鷲掴みにして、端から端まで、綺麗に見定める。

 

【YES! YES! YES!】

 

(……ッ!! い、イエスだ! 次は絶対に地面技を放って来る!! にとりじゃ受けきれない……交代しなくては! シャンハイも耐えるが次の攻撃で沈むだろう……。ここはやはり、浮遊で無効出来る幽々子しかッ!!)

 

 にとりは幽々子に交代しようとする。だが、操作可能時間ぎりぎりまで粘るようだ。そのギリギリまで、ジョルノの心を読み続けるつもりなのだ。

 

【YES! YES! YES!】

 

 時間5秒前、まだジョルノは地面技を放って来ると決めている。更に、コントローラーも机に置いて待機している。

 

 1秒前、時間いっぱいだ。にとりは幽々子に交代を決意した。そしてちらりとジョルノの心を読む。

 

【YES! YES! YES!】

 

(……あ、あくまで意思を変えないつもりか!)

 

【YES!】

 

 画面では交換が行われる。にとりが繰り出したのは幽々子だ。そしてマミゾウが行動に移る。交代しない。やはり攻撃だ。地面技だ。幽々子の浮遊で無効化出来る!

 

 マミゾウの サイコキネシス のこうげき!

 

「……な、なぁああああああ!!?」

 

 にとりは画面を食い入るように見た。

 

(サ……サイコキネシスだ! エスパー技だ! 地面じゃあない! 弱点だ! 幽々子に対して弱点のサイコキネシスだ! 普通なら読めていた! でも、こいつの心が地面と宣言していたから! 騙された! でもなんでッ!? どうして魂に嘘を付ける!? あ、ああありえなぃぃぃィィィィ!! こんな、こんなこと……!!)

 

 幽々子は死にはしなかったが、体力を半分ちょっと削られてしまった。素早さで幽々子はマミゾウには勝り、弱点である草技を最大火力をぶつけられる。そうなればマミゾウは沈むだろう。だが、その後のぬえにはもう成す術はない! ここでぬえに交代でもされたら、今度こそ幽々子は死ぬ!

 

 と、にとりはジョルノの方を見た。

 

「……き、貴様! ジョルノ・ジョバァーナ! イカサマをしているなッ!!」

 

(そうだ! 正攻法でやってこんな芸当を出来るわけがない! 何か、絶対にタネはあるはずなんだ!)

 

 そう問い詰めるとジョルノは黙ったままだったが……。

 

【I DO! I DO! I DO!】

 

「し、しているのか……!!」

 

(や、やっぱりィィ~~~~!! い、イカサマを……このガキ!! だ、だけど……どういうイカサマを……)

 

「ど、どういうイカサマをしているんだ! 分かっているんだぞ! 私は!!」

 

【・・・・・・・・・・・・・・・・】

 

「はっ!」

 

 ジョルノの心からアトゥム神は何も読み取ることは出来なかった。複雑な質問は答えられないのだ。

 

「……どうでした? 心を読んだ感想は……。まぁ、あなたには分からないでしょうがね」

 

「い、いや!! スタンドだ! 『ゴールド・エクスペリエンス』をイカサマに使用しているな!?」

 

【NO! NO! NO!】

 

(ききくきかきィィィ~~~~~!! ち、違うのかッ!! じゃ、じゃあ一体どんなイカサマを……ん?)

 

 汗びっしょりのにとりは怒りに歯をギリギリとかみ合わせながら、ふと冷静になって周りを見回した。

 

 そこには同じく、汗びっしょりの因幡てゐがジョルノの影に隠れるように立っていた。それを見てにとりは笑みを零さずにはいられない。

 

 どう考えてもコイツが怪しいッ!!

 

「因幡てゐィィーーーーーッ!! 貴様だッ!! 貴様がイカサマを助長していたんだろう!! これが『真実』だッ!!」

 

 その言葉にジョルノとてゐはびくっと反応し……

 

【【YES! YES! YES! YES!】】

 

 二人の魂は肯定を示した!!

 

「勝ったッ!! 貴様らのイカサマを暴いたぞ!! 因幡てゐッ!! 貴様は即刻ゲームから離れろッ!! 近付くんじゃあない!!」

 

「う、うううう……」

 

 てゐはジョルノの方を見て唸る。にとりは大方てゐがジョルノの代わりに操作でもしていたのだろうと推理していた。そしてあの反応を見るに、どうやらその通りだ。

 

「く、くく、くだらんなぁ~~~……。んんwwwww我にイカサマをしようだなんて、無駄ですぞぉwwwww」

 

 ロジカル語法を駆使しててゐをゲーム付近から下がらせた。おそらくは、コントローラーではなく、キーボード操作によってゲームを動かしていたのだろう。だが、そんなのは所詮子供だまし。

 

「この河城にとりを出し抜けると思ったのか、この間抜けッ! 罰としてこの男が負けたら貴様の魂も……」

 

「次は……」

 

 にとりが意地の悪い笑みを浮かべててゐに指をさし、罵倒しているところに割り込む声。

 

「ジョルノ!」

 

 ジョルノは不敵な笑みを浮かべつつ、汗の引きかけていたにとりを更に揺さぶりにかかる。

 

「再びマミゾウでサイコキネシスだ。今度こそ幽々子に止めをさす」

 

「~~~~~!!!」

 

 ジョルノの宣告ににとりはアトゥム神を急いで発現させる。読み取った答えは……。

 

【YES! YES! YES!】

 

(こ、こいつッ!! また、性懲りもなく……予告をッ!!)

 

 だが、既ににとりはジョルノたちのイカサマを見抜いている。にとりは自分に落ち着くように念じると、すぐにかき返していた汗を引かせる。

 

「……ぐ、だが……イカサマのペナルティは払ってもらうぞ……! 貴様が負けたら因幡てゐの魂も……」

 

「いいえ、てゐだけじゃあない。それじゃあ『等価』になりません」

 

「え?」

 

 素っ頓狂な声がてゐから上がる。にとりも何か言おうとしたが、ジョルノの『スゴ味』に押し黙ってしまった。

 

「この勝負に僕と、そこの因幡てゐ。そして今永遠亭にいる鈴仙! そして永琳さんの魂も賭けよう!」

 

「な、何故だッ!?」

 

 にとりは思わず声を荒げた。新たな魂、しかも月の頭脳と言われるあの八意永琳の魂だ。だが、さっきのジョルノの言葉が気になる。

 

(『等価』だと!?)

 

 そして、その言葉には流石のてゐもジョルノに突っかかった。

 

「ジョ、ジョルノ!! 鈴仙や永琳様の魂までかけるなんて……!! 気でも違ったか!!」

 

 当然だ。今はいくら幼いとはいえ、こんながきんちょ一人の一存によって月の頭脳の魂が担保にされたら敵わない! だが、ジョルノはてゐの講義に異を介せず、続ける。

 

「にとり、あんたは今別のことを考えている。それは……『東風谷早苗』のことだ。持っているだろう? 情報を……心の読めるあんたのことだ。能力について『質問』くらいはしたことがあるんじゃあないか?」

 

「げぇーーーーーッ!! き、貴様!! あ、あいつのことについて……わ、私から聞こうというのかッ!?」

 

 明らかににとりは動揺している。それは東風谷早苗の能力について何か知っている、という証拠の表れである。やはり、早苗とにとりはグルだった(まぁ、そう考えない方がおかしいのだが)。

 

「知っている、と取ります。話してもらいますよ」

 

 ジョルノは勝つつもりだ。そして有利に話を進めるつもりだ。勝てば、おそらく早苗に対してかなり有利になるだろう。だが、その前にイカサマがバレてしまっているにとりに勝てるのだろうか!?

 

「ちょ、待て! まだ、まだ私がその条件を呑むとは言ってない! 確かに魅力的な条件だが、命と天秤にかけてまで欲しいってほどじゃあ……」

 

「では、蓬莱山輝夜の魂も賭けよう」

 

「ひゅいいいいいいいいいいいいい!!!」

 

 ついににとりのタガが外れた。今こいつは何て言った? 蓬莱山輝夜の魂も賭ける? あの、輝夜姫のことか? 幻想郷で最強の一角である、永遠亭の重鎮中の重鎮……!

 

(……ほ、欲しいッ!!!)

 

 にとりは欲に負けた。

 

(よ、よくよく考えてもみろ河城にとり! 相手はゲームのゲの字も知らない初心者だ! イカサマも見破った! 負ける道理が無いじゃあないか! ボロい商売だ! まさにカモがネギと合わせ味噌と土鍋とガスコンロを持って自分の手羽先を掻っ捌いて私の目の前に現れてるような状況じゃあないか!! 負けるわけがない! タダでもらっているも同然だ! それに早苗のことは恐ろしいが、こんな舐められちゃあ河童の立つ瀬がない!!)

 

 しばらくの考えの後、にとりは息を切らしながら……。

 

「……GOOD」

 

 承諾した。

 

「ジョ、ジョルノ……まさか……」

 

 てゐは困惑していた。これはにとりの恐怖心を煽るための挑発じゃあない。

 

 おそらくは……見方を焚き付ける作戦なのだ。だが、それではジョルノの命が危ない。

 

*   *   *

 

「さて、いいでしょうか? もう一度宣言します。今度こそ、僕はサイコキネシスで幽々子に止めを刺す。交代するなら交代しろ」

 

 ジョルノは既に選択を終えていた。依然としてにとりから見たジョルノの魂は【YES!】を告げている。間違いない。

 

「……」

 

 ノータイムでシャンハイに交代だ。サイコキネシスならカスほどのダメージも食らわない上に次ターンでゴリアテに進化。ゴリアテならばマミゾウ程度の地震ならばゴリアテは2発は耐える。一発耐えたあとの進化後素早さ勝ちで先攻れいとうパンチで確定2発。ゴリアテは体力を半分残しつつマミゾウを葬ることが出来る。

 

「……よし」

 

 にとりはシャンハイに交代した。すぐさま画面にそれが反映される。そして、マミゾウの行動だが……。

 

「……グラッツェ。『やっぱり』地震だった」

 

 マミゾウはサイコキネシスでは無く、地震を放ったのだ。

 

「な、なんでぇえええええーーーーーッ!!?」

 

 にとりは訳が分からない、といいたげに画面に食い入る。シャンハイの体力はガンガン削られ、一気に赤ラインまで減らされた。シャンハイの時点では防御が格段に低いのだ。これじゃあゴリアテに進化してもそのターンはシャンハイの素早さで換算されるため先手が取れず何も出来ぬまま死ぬ。

 

「……ふぇ……」

 

 にとりが情けない声を漏らすと共に、すぅっと画面から何かが飛び出した。

 

「ジョ、ジョルノ!! あれを!! チルノの魂だ!!」

 

 ディスプレイから飛び出してきたのはチルノの形をした半透明の何かだった。きょろきょろと当たりを見回すと、一目散にチルノの体が入った冷蔵庫に向かっていった。

 

「た、確かに! 冷蔵庫に向かったはいいが冷蔵庫のドアに頭をぶつけて疑問符を浮かべているあの半透明の物体はチルノの魂だ! つまり……」

 

 ジョルノがにとりの方を見る。にとりははっとして「えっ!」と声を上げた。

 

「し、しぃまったァーーーッ! つ、ついうっかり魂を手放してしまったぁ~~~!! ま、負けを認めたわけではないぞ! うっかりだ……ちょっと授業中にカクンカクンしてる寝不足の受験生みたいなもんさぁ! まだ居眠りは……」

 

 てゐが冷蔵庫を開けてチルノの肉体に魂を降ろすと「うぅ」とチルノが声を上げた。

 

「……居眠りは……なんですか? 続けるというなら、続けましょう。東風谷早苗について聞きたいことは山ほどあります」

 

「く、くくぅぅ~~~~!!」

 

 既ににとりはチルノの魂を手放した、ということは負けを魂が認めたということだ。勝敗は決していた!

 

「どうしますか? 続けますか?」

 

「つ、つづ……つづけ……ぇ! は、はっ、はっ!」

 

 再び汗だくになり、呼吸もままならないにとり。既に彼女の魂は負けを認めてしまっているのだ。『続ける』という言葉が出ない。

 

「あっ、あああああ~~~~!! た、魂がっ! 私が集めた嫁達の魂があああ~~~~!!」

 

 ふと気が付くと、チルノだけでは無く他の物の魂も解放されていった。何とかして捕まえようとするも、生身の彼女では幽体の魂が掴めるはずがない。

 

「……負けを認めたんですね? では……東風谷早苗の秘密を話してもらいましょうか」

 

 溜息をついてジョルノは床にへたり込んだにとりを見下した。にとりはビグゥ! と驚いてジョルノに向き直る。息も絶え絶えで、既にその顔は少女のものでは無く……。

 

「……何かこいつ、一気に老けちゃったウサね。まるで50台のババァみたい」

 

 てゐはニヤニヤと笑みを浮かべてにとりを見た。それに気が付いたにとりはてゐを見て

 

「き、貴様っ! い、イカサマをしていたな!! パソコンから離れても、じょ、ジョルノの魂とは全く別の動きがぁ!」

 

「イカサマ? 私が?」

 

 てゐはニヤニヤを止めず、ジョルノの方を見た。

 

「ジョルノ、私が一体どんなイカサマしたのか気が付いた?」

 

 そのてゐの発言ににとりは「え?」と耳を疑う。

 

 いや、確かにジョルノはイカサマをしたと肯定していたのだ。ジョルノがそのことについて知らないはずが……。

 

「いいえ、全く見当もつきませんでした。最初はね」

 

「ふーん、じゃあいつ気が付いた?」

 

「最後のターンでようやく……にとりに鈴仙と永琳さんの魂を賭けるって宣言する直前です。全くてゐのタネが分からなかったんですが、てゐが離れても『続行』されてたので、そこで気が付いたんです」

 

 ジョルノの回答ににとりは『アトゥム神』を使って真実を聞いた。

 

【YES! YES! YES!】

 

(……っ!! こ、こいつがてゐに命令したんじゃあなく……!)

 

「そうウサ。ジョルノが私に頼んだことは『にとりにバレない様にイカサマをしてくれ』っていうことだけウサ。内容とか手順、段取りは全部私。心を読まれるからジョルノには詳細は一切教えてないよ」

 

 てゐは得意げに説明した。しかし、それでは納得がいかない。なぜ、てゐがその場を離れてもイカサマが続行されていたかが分からない。

 

『――正解は――――ザザ、私――ザザ』

 

 と、疑問が解けないにとりの耳に何かのノイズに交じって綺麗な女性の声が聞こえた。近くのパソコンに繋いでいるトランシーバーからだった。通話先が不明になっていることから電波が傍受され、あっちからこっちにかけているということ。こんな芸当ができるのは河童くらいしかいないはず。

 

『――――まさか、私の魂まで賭けちゃうなんて――ザザ、―――ジョジョったらホントに面白いわ――――ザザザ』

 

「……申し訳ないです。でも、おかげで本気で闘えたでしょう?」

 

 ジョルノが声の主と話している。

 

「わたしゃ止めたんですがねぇ。というか、姫様が起きてることに驚きましたよ」

 

 てゐもその会話に割って入った。二人とも敬語で話している。今の永琳はロリと化しているためこんな話し方では無い。つまり、この……

 

「あんたは……い、いや……あなたは……!!」

 

 にとりはガクガクと震える。まさか、自分はこんな化け物と闘っていたのか……??

 

「ほ、蓬莱山輝夜ッ!!」

 

『――――ザザ、そうよ? ところで、あなたはだぁれ?』

 

 声の主、蓬莱山輝夜は特に興味なさげににとりに聞き返した。だが、にとりがそんな問いに答えることは恐れ多いことである。声すら上げれず、口をパクパクしていた。

 

 蓬莱山輝夜、と言えば幻想郷で最強の『ゲーマー』である。この事実を知っているのは同じくゲーマーだけ。表向きはただの呑気しているお姫様、と思われがちだが、ネットでは知らぬ者がいないほど、有名な人物である。実際、輝夜はネット上では『ゲーム界の姫君』として外の世界でも知られており(大半には中身はただの中年のオッサンと思われているが)、この東方人形劇が幻想入りする前から外の世界のランキングにトップ5入りするほどである。

 

 当然にとりも知っている。ゲーム界ではにとりからすれば輝夜など雲の上の銀河の先の存在だ。対戦することも許されないほどだ。

 

 その存在が、今、声だけではあるが目の前にいる。

 

「私が姫様にここらへんのパソコンを使って連絡して、対戦にハッキングさせた(まさか出来るとは思わなかったけど)。実際、姫様が起きてるか起きてないかが一番の心配だったけど、丁度お昼ご飯直後くらいの時間でよかったウサ」

 

『ふふ――――ザザザ、昼ごなしには丁度よかったわぁ――――ザザ、ふわぁあ……ジョジョ、てゐ、私もう寝るから……おやすみぃ~~―――ぶつん』

 

 そこまで輝夜は告げると連絡は途絶えた。相変わらずの呑気さである。今回はとても頼りになったわけではあるが。

 

「……わ、私はあの蓬莱山輝夜と対戦してたのかよ……! そ、そんなの勝てるわけがないじゃあないか!! イカサマだぞ! む、無効だ! こんなゲーム!」

 

「……てゐ、僕の代わりに言ってあげてください」

 

「ん? あ、あぁ。アレね。いいウサよ。と、いうかその台詞は私の方が向いてるんじゃあない?」

 

 快活な笑みからギィっと味方サイドとは思えないような悪い笑みを浮かべててゐは言い放つ。

 

「バレなきゃ、イカサマじゃあねぇんだぜ?」

 

*   *   *

 

 チルノは魂が戻ってきたことにより、意識を取り戻していた。

 

「う、うぅ~~ん……いたっ、ね、ねぇ……ジョルノ、ジョルノぉ~~。あ、アタイの頭見て、ねっ、これ」

 

「あぁ、チルノ。さっき魂でぶつけた頭が肉体にも反映してますね。コブになってますよコレ」

 

「ちょ、さ、さわんないで! やさしく、これ、痛い、大丈夫かなぁ~~~」

 

 チルノは頭を押さえてコブになったところをジョルノに見せる。やっぱりコブになっているらしい。ジョルノにそう診断されてチルノは涙を見せながら……。

 

「ひゅい!?」

 

「コブになっちまってんじゃあねええええかよぉぉおおおおお!!! どう責任取ってくれるんだこのクソッ!! このクソがッ!!」

 

「ああああああ!! や、やめろ馬鹿!! い、いくらしたと思ってるんだああああ!!」

 

 チルノはにとりを蹴ろうとしたのを方向転換して、にとりのコンピューターをぶっ壊し始めた。ご丁寧に、『エアロスミス』による銃撃で。

 

 ゴガシャァア! ズギャ! ズギャ! ゴォオオオン!!

 

「ひゅいいいいいい!! わ、私の高スペックPCがああああああ!!!!」

 

 炎上するパソコンを見て頭を打ち付けるにとり。すっきりしたチルノはふぅ、と溜息をついてジョルノの方に戻っていく。

 

「気はすんだよ」

 

「お疲れさまです、チルノ。そのコブは我慢してください。僕じゃあそーゆー傷は治せないので」

 

「はぁーい」

 

(えげつねーっ)

 

 てゐはチルノの容赦ない破壊に背筋を凍らせながら(しかも酷い逆恨み)その光景を眺めていた。

 

「さて」

 

 廃墟の残骸のように様変わりしたPCを前に呆然とするにとりにジョルノは話しかける。

 

「まずは僕たちをここから出してください。そしてその後は知っていることを教えてもらいます」

 

「……はい」

 

 もはや抵抗する気力もないようだ。にとりは力なく頷いた。

 

*   *   *

 

 あの空間は巨大カエルの胃袋だったらしく、ジョルノたちを捕まえるために早苗がにとりに貸し与えたものだった。胃液とかは出てなかったが説明を受けたときはジョルノとてゐはくらりと眩暈がした(チルノは何故か納得していたが)。

 

「東風谷早苗について、知っていることを教えてもらいますよ」

 

 玄武の沢の近くの森の中でジョルノはにとりに尋ねた。だが、当のにとりは汗を流して、視線を合わせようとしない。

 

「どうしました? 約束ですから……」

 

「し、知らないんだ!!」

 

「……」

 

 ジョルノはにとりの目を見た。にとりの言っていることは本心のようで本心じゃあない。……隠しているというより、隠されているような気がした。

 

「本当に、知らないんですか? それとも、言おうとしても言えないわけが……」

 

「ち、違う! ほ、本当に……ああ! お前の言う通り、心を見たよ! だけど、あいつは『スタンド使い』であることしか分からなかった……。質問を一度だけしたら、その後あいつは私の前に直接現れることを一切しなくなったんだ……」

 

「……あるじゃあないですか。知っていること。その質問内容の答えだけで構いません。教えてください」

 

 にとりは俯いて喉を鳴らした。――恐れているのだ。もしかすると、自分が早苗に始末されてしまうんじゃあないかと。

 

「そ、それは……」

 

「大丈夫です。話したらあなたは川の底に逃げるんです。河童は水の中ではかなり強いんでしょう?」

 

「うん……そ、そうだけど」

 

 にとりは自分のビジョンを思い浮かべる。だが、水中に逃げたところで早苗から無事逃げ切る手段が全く思いつかない。

 

「……あ、あんたらがアイツを確実に倒すっていうんなら……教える。でも! 私が教えたってことは秘密にしろ!」

 

「……グラッツェ。約束しましょう」

 

 ジョルノは真っ直ぐににとりを見て約束した。もとよりそのつもりだったのだから。

 

「……質問の内容は『東風谷、アンタのスタンドは近距離の方が強かったりするのか?』ってことだ。するとアイツは『それを知ってどうするんだ?』って聞き返してきた……恐ろしかったよ……私は何も言えなかった。ただ、アトゥム神で見ていたから分かる。確かにアイツは『YES!』と示していた!」

 

「――――東風谷早苗のスタンドは」

 

「近距離パワー型ッ!」

 

 てゐとチルノはその言葉に反応した。

 

 それを知れただけでも非常に有利だ。こちらはその射程内、つまり遠距離から攻撃すればいいのだから。

 

「チルノ」

 

「アタイの出番ってわけね」

 

 遠距離ならジョルノの『GE』よりチルノの『エアロスミス』の方が適任である。ジョルノは瞬時に判断しにとりにお礼を言った。

 

「……ありがとうございます。これで、一つの対策が出来る。――何も知らないよりは遥かにマシになりました」

 

「……た、頼んだぞ! 私は殺されるのは嫌だからな!!」

 

 にとりはジョルノの服の裾を掴んで懇願する。だが、ジョルノはパシィ、とその手を振り払い

 

「……勘違いしないでください。あなたを助けることとあなたを許すことは『別』ですから」

 

「ふぇ?」

 

 ――――ジョルノは『ゴールドエクスペリエンス』を出した。その漲る力ににとりの顔面から今度は汗がサァーっと引いていき、青ざめる。

 

「え、えぇっと、じょ、ジョルノさん? そ、そのスタンドは……」

 

「にとり。舌を噛みたくないなら口を開くな。少なくとも、僕は君に対して受けたこの嫌がらせを許すつもりは毛頭ない」

 

 にとりは口をパクパクさせて涙を流す。

 

「さて、ここで問題です。いいですか、一度しか問題は出しません。2回言うってことは無駄だからだ。無駄は辞めておいた方がいい。……と、話が逸れましたね。では行きますよ」

 

 ジョルノは怯えるにとりの前に『GE』を出して右拳と左拳を握りしめた。

 

「今から君をぶん殴りますが、どっちの手で殴るか当ててください。簡単ですよね? 心が読めるんですから」

 

 にとりは息を乱しながら震え声で尋ねる。

 

「……ひ、一思いに右でやってくれ……!」

 

【NO! NO! NO!】

 

「ひ、左か……?」

 

【NO! NO! NO!】

 

「……両方ですかぁ……?」

 

【YES! YES! YES!】

 

 にとりは己の運命を受け入れた。

 

「もしかして、無駄無駄ですかァ~~~!!?」

 

 その叫びにてゐは肩を竦め、チルノは首を振って

 

「「YES、YES、YES、……Oh My GOD」」

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!!」

 

「ひゅぎぃええええええええええええええええ!!!」

 

 容赦のないラッシュでにとりは川の中に殴り飛ばされ、川の底で気絶した。

 

「じゃあ、そこで終わるまで眠っておいてください。そこならいい夢が見れるでしょう」

 

 3人は再び川に沿って山を登り始めた。

 

 

37話へ続く……

 

*   *   *

 

 河城にとり 再起不能

 

*   *   *

 

 あとがき

 

 ようやくにとりとの戦いが終わりました。まさか輝夜が戦うことになるなんて、作者も予想だに出来ませんでした。

 

 さて、本来ならイリュージョン持ちのポ○モンはゾロ○ークだけですが、ぬえもマミゾウも変身(ぬえのはちょっと違うけど)が得意なので、にとりの予想をかき乱すのに一役買いましたね。ちなみに、ジョルノの手持ちは輝夜、輝夜、マミゾウでした(あれほどにとりが警戒していたぬえは選出されていなかった!!)

 

 さて、次の話は……ちょっと永遠亭の方に視点を戻してみます。輝夜が起きてご飯を食べていた、ということは永琳の他に「誰か」がいたということに……。いや、永琳一人でもご飯は作れますがね。そういう可能性もあるということで……。

 

 あ、ボスと咲夜さんたちの方はまだまだ活躍しません。風神録終わるまで待ってください。お願いします! なんでもしますから!

 

 と、いうわけでこれにて機械少女の論理的思考が終わりです。さきほど述べた通り、次は永遠亭の方に視点を戻します。

 

 感想、意見、早苗さんのスタンド予想など、書いてくれると嬉しいです。

 

 ではまた。

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