ボスとジョルノの幻想訪問記   作:フリッカリッカ

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えくすとりーむ・えんじぇう②

ボスとジョルノの幻想訪問記 38

 

あらすじ

 

 舞台は永遠亭に戻り、留守を任された妹紅は見知らぬ2名の女性に八意永琳を誘拐されてしまう。ギリギリで誘拐犯の姿をとらえた妹紅だが、その様子を見ていた八雲紫は『妹紅では永琳を取り返すことは不可能』と判断し、誘拐犯捕獲のためにも自分の藍以外には見せることのないと言っていた『スタンド』を送り込んだ。

 

 静かな永遠亭で一波乱の予感……。

 

*   *   *

 

 ボスとジョルノの幻想訪問記 38話

 

 えくすとりーむ・えんじぇう②

 

 藤原妹紅は自分に対してかなりの憤りを感じていた。ここしばらくの幻想郷ではスタンド使いにまつわる出来事が立て続けに起こっており、今回の襲撃も勝手にスタンド使いを狙ったものだと思ってしまっていた。

 

 その思い込みが、永琳誘拐に繋がった。考えてもみれば月の頭脳があんな小さくなっているのだ。誘拐するのに何の苦労もない。さらに、能力は健在のためあらゆる悪事に用いられてもおかしくない。

 

 真っ先に優先して守るべきは永琳だったのだ。

 

「くそッ!! ハァ、ハァ……!」

 

 舌打ちをしながらも、妹紅の目線はただ一点。

 

 全速力だ。あの二人は歩いている上にまだこちらに気が付いてさえもいない。これならば、追いつくと同時に全力の攻撃を叩き込めるだろう。燃やすか、殴るか。いや、まずは一発、それもありったけの火力を込めて右手で後頭部をぶん殴ろう。でないとこの自分の怒りの感情の矛先が見当たらなくなってしまう。このもやもやした感じを晴らすにはこれが絶好の機会ではないか。

 

 ――――おかしい。

 

「……はぁ!! くっ、……何だ、あいつら……!! は、『速い』!!」

 

 妹紅は全力で走っていた。自慢ではないが彼女の素の身体能力は妖怪以上神以下といったところだ。流石に鬼には遠く及ばないが、肉弾戦で妖怪たちには引けを取らない。人間にしては異常なまでの身体能力だ。

 

 だが、前の二人はコツ、コツ、コツと同じようなペースで足音を立ててゆっくりと歩くだけである。なのに、全く追いつけないのだ。逆に、どんどん離れて行っている気がする。

 

「……何だこりゃ!? まるで紅白巫女の結界みたいだ……!!」

 

 霊夢の張る二重結界に少し似ている。近付いているのに遠ざかっているのだ。だが、前の二人がそのような結界を張っていた節も無いし、何より周囲を見渡しても特に結界のような類は……。

 

「結界は……。……何?」

 

 妹紅はあまりの衝撃に足を止めた。右を見て、左を見て、更に下を見た。終いには後ろを見て永遠亭を見る。

 

 永遠亭がはるか彼方にあるように感じられた。まるで地平線のかなたにあるようだった。

 

「……!?? い、一体何が起こっているの……??」

 

 その異常な光景に妹紅は再び周りを見る。空を見上げる。

 

「……な、何だこりゃあッ……!!」

 

 周りを見ると、自分の体よりも二回りほど太い大木が何本も乱立していた。だが、それはよくよく観察してみると竹だ。当然、迷いの竹林にいるのだから。しかし、妹紅の記憶が確かならば……というか、常識的に考えてここまで太い竹というのは存在しない。

 

 いや、よく見ると足元の地面も土の踏み固められた道が砂利道に変わっている。そして、何よりも……。

 

「こ、これは……蟻か……? なんだ、この蟻は……わ、私の手のひらサイズはあるぞ……!! な、何か『おかしい』!! 『スパイスガール』!!」

 

 危険を感じた妹紅は瞬時にスタンドを出す。

 

「『スパイスガール』!! 周りをよく見て!! 何か分かったらすぐに知らせるのよ!!」

 

 妹紅は背後をスタンドに任せて辺りを注視した。凄まじい違和感がある。何だ、これは……。

 

「……モコウ」

 

「どうしたの『スパイスガール』! 何か変化はあった?」

 

 妹紅は視線を背後には向けず、そのまま前方を警戒していた。

 

 そして『スパイスガール』はこう告げる。

 

 

「……ワタシノ前カラ『スタンド』ノヨーナ奴ガ来テマス……。ドウシマスカ? 『攻撃』シマスカ?」

 

 

 その言葉に妹紅は振り返ると――――。

 

「早ク命令シテ下サイ。コイツ、ドンドン近付イテ来テイル……」

 

 背後から『スタンド』が近付いて来ていた。体中に見たことのない記号が羅列しており、頭には王冠のような形をした黒い頭巾のようなものを被っている。ゆっくりとした動きではあるが、確実に、妹紅の背後に来ていた。

 

「――構わない、思いっきり攻撃するわ。コイツが、この不可解な現象の元凶よッ!!」

 

 すぐさま、妹紅は『スパイスガール』でラッシュを叩き込む。だが、そのスタンドは両手をサッと構えてそのラッシュをいなした。

 

「――ク!!」

 

 スカ、スカッ! と、『スパイスガール』の拳は空を裂く。いなした直後、そのスタンドがラッシュから離れて妹紅たちの右側に周っていた。

 

 すぐに、迎撃の姿勢を取るが、そのスタンドは一歩身を引いた。攻撃しない? と思い、妹紅が再び『スパイスガール』で攻撃しようとした時。

 

「……落ち着ケ、藤原妹紅……。私は敵デハ無い。味方だ……」

 

「喋った!?」

 

「モコウ、私モ喋ッテマス」と、『スパイスガール』。

 

「あ、そうか……じゃなくて!」

 

 どうでもいい茶番をさっさと切り上げて妹紅はその『味方』だとほざく『スタンド』を睨んだ。

 

「信じられるか? お前はどう見ても私の目からは敵にしか映らない……。本体はどっちだ? 右の奴か? 左の奴か?」

 

 妹紅は再び前方を歩く誘拐犯の二人を見た。距離はさきほどからそこまで変わっていない。

 

「……信用を得ルには……ヤハリ、コレしか無サそうだな……」

 

 そう言ってその『スタンド』は懐からとある物体を取り出した。

 

 それは透明で何の変哲もない円盤……。

 

「……DISC!!」

 

 妹紅は前、ジョルノから話半分に聞いていたDISCの存在を思い出す。丁度、手のひらよりも大きく真ん中に穴が開いており、弾力のある物体。聞かされていた情報では、更に金色である、とあったがどうも色は違うようである。

 

「ソウだ。私はコノ『DISC』を用イタ能力を持ってイル……。記憶を制御する透明の『記憶DISC』と、スタンドを制御する金色の『スタンドDISC』の2種類ダ。君が今、体験してイルこの不可解な距離感とハ別の能力ダ」

 

「――――!!」

 

 妹紅は確信した。これまでのスタンドに関する異変は全て『コイツ』の仕業だと。

 

「……これまで起こった異変にアンタは関与しているのか? その能力を使って、スタンド使いにさせた奴がいたりは……」

 

 その妹紅の質問にこう答える。

 

「……イヤ、私が主のスタンドとシテ発現シタのはツイこの前ダ……。君の言う紅魔館デノ出来事は主から聞イテ知ってはイルが、私はその時いなかった」

 

「……」

 

 妹紅はまだ疑いの目を向けていた。

 

「話していても仕方が無イ……私ノ主はあの二人に私怨がアル、とだけ言ってオコウ……利害は一致するハズダ……」

 

「……そうだな。私的には何が起こっているのか、さっぱり分からないが……当面は永琳の救出だ。お前のことについてはその後でいいだろう」

 

「良シ。マズは八意永琳の救出カラだ。でなければ、突破出来ル物も突破出来ナイ」

 

 一旦は決着が付いた。二人は八意永琳の救出のために一時協力することになった。

 

「私はそれで構わない。――そういえば、お前。『スタンド名』はあるのか?」

 

 妹紅は『スパイスガール』を出して前方を歩く二人を見た。永琳が背中に乗ってこっちを見ている。

 

「私の名は……『ホワイトスネイク』。覚えて貰ワなくテモ結構ダ……」

 

 早く助け出さなくては……。妹紅の考えはそれだけだった。

 

*   *   *

 

 八雲紫 スタンド名:『ホワイトスネイク』

 

 人間の記憶とスタンドをDISCにして保存・持ち運びを可能にする程度の能力。遠距離操作型のスタンドで本体との距離が近ければそのパワーも大きくなる。

 

*   *   *

 

 妹紅は『ホワイトスネイク』と名乗ったスタンドを見て、自分の『スパイスガール』と同じように自我の存在するスタンドだと判断した。今のところ誰がスタンド使い本体かは分からないが、協力すると言っているのだ。信用は出来ないが、利用できる分は利用してやろう、と考えた。

 

「とにかく、永琳の救出を第一目標にする。そのためにはあの二人に近付く必要があるんだが……」

 

 妹紅は視点を前に向けた。依然として少し遠くを二人は歩いている。

 

「いつまで経っても追いつけナイ……か? 私の主モそうダッタ。近付いても近づけナイ。むしろ、遠ざかってイル感じがする……ダロウ?」

 

 『ホワイトスネイク』は妹紅に言う。実にその通りの内容だ。妹紅がいくら近付こうとも、あの二人には追いつけずにいたのだ。そして、そんなに離れた覚えもないのに、永遠亭がかなり遠くに見える。

 

「……あれ? お、おかしい……」

 

 ふと、妹紅が永遠亭の方を見ると、さっきは地平線の彼方にあったように思えた永遠亭が、ほんの少し遠い場所にあるように見えるのである。先ほどから一歩も動いていないのに。まるで、永遠亭がこっちに近付いてきているようだった。

 

「……マダ、気が付かないのか? 藤原妹紅……」

 

「何のことだ」

 

 何故か心配そうな声をかけてくる『ホワイトスネイク』にむっとしながら妹紅は尋ねた。

 

「少し落ち着イテ物事を見ろ……。周りの竹はどんな風に見エル?」

 

 そう言われて妹紅は動きを止めて周囲を見た。すると、今まで気が付かなかったが徐々に、徐々にではあるが、竹が小さくなってきているのが分かる。

 

「ち、違うッ!! 私が! 大きくなっているのか!?」

 

 妹紅はバっと振り返り、一歩後ずさる。すると、『ホワイトスネイク』を前に、誘拐犯二人を背にした状態で、一歩。

 

 その一歩で、急に『ホワイトスネイク』の大きさが大きくなった。

 

「こ、これはッ……!! この『状況』は……」

 

 妹紅は理解した。『ホワイトスネイク』が妹紅の横まで近付くとそれに合わせて大きさが同じになっていく。

 

「ソウイウコトだ。あの二人のウチ、八意永琳を背負ってイナイ方の『スタンド』の能力ダ……。アイツに近付こうとスレばスルほど、アイツの能力下に置かれてイル存在は小さくなってイク。おそらく、目測だが距離が2分の1にナレバ、我々の大きさモ2分の1になってイルだろうナ……厄介な相手ダ」

 

 『ホワイトスネイク』はいまいましげに呟いた。

 

 そういえば、私怨がある。とか言っていたが、あの二人について妹紅は何も知らないのだ。興味本位ではあるが、尋ねずにはいられない。

 

「……『ホワイトスネイク』。あの二人は何者だ? あいつらはどうして八意永琳を狙ってんだ?」

 

 少しの空白を置いて、『ホワイトスネイク』は「……君は知らナイと思うが」と切り出した。

 

「アレは幻想郷では無ク、もっと上……つまり、天界カラやって来た天人ダ。右を歩いている方が比那名居天子。そしてその隣デ八意永琳を抱えてイルのが付き人の永江衣玖ダ。今、この能力ヲ使っている方が比那名居天子の方ダナ」

 

 妹紅はその名前に聞き覚えは無かった。そもそも天界とはどこだろうか……天人と言われてもピンと来ない。

 

 だから、妹紅が『ホワイトスネイク』の主は誘拐犯と同じく天人だと思うのも無理は無かった。

 

(……天界か……。まるで私には関係ないな)

 

「そして、何故比那名居天子が八意永琳を誘拐しているかにツイテだが……その理由は不明ダ。大方、暇潰シ程度の物だと思うガナ」

 

「暇潰しだと??」

 

「……私を睨むナ。そーゆー可能性もあるのが天人ダ」

 

 何て道徳の無い人種なんだ。暇潰しで誘拐されてちゃ溜まったもんじゃあない。

 

「……そちらの事情は分からん。だが、暇潰しごときで私の手を患わせるってんなら、あの二人にはドギツイお灸を据えなきゃならんようだね……」

 

 妹紅は二人を睨んだ。一向にこちらに気が付く気配が無いが、これはおそらく妹紅と『ホワイトスネイク』が発している『音』さえも小さくなっているからだと考えられる。

 

「……ところで、何か策はあるのか? 『ホワイトスネイク』」

 

「アル。このDISCを八意永琳に入れれば完了ダ。だが、実行にはやはり距離がネックになる」

 

 そう言って『ホワイトスネイク』は一枚のスタンドDISCを取り出した。

 

「おい、それって……」

 

「ご存じ、スタンドDISCだ。私がとある人間から奪ったものダガ……中々に強力だゾ。今、あの二人に接触できているのは八意永琳だけだからナ。うまく、彼女が攻撃してくれれば……」

 

「それが永琳のスタンドになるのか? ……どんな能力だ」

 

 妹紅は少し不安を覚えていた。まさか、あんな小さな子まで戦いに巻き込むとは思っていなかったからだ。

 

「私は『パープルヘイズ』と呼んでイル。毒のスタンドだ。こいつを手に入れるのは骨が折れたが……」

 

 毒、か。永琳なら解毒剤が作れるから、理に叶った能力だろう。うまく扱えるかどうかは分からないが。

 

「よし。よこせ、私が永琳まで届ける」

 

 よこせ、と言いながら妹紅はDISCを『ホワイトスネイク』から奪い取った。

 

「オイ、待て! 近付けナイと言ったダロウ!?」

 

「じゃあ近付かなきゃいいのよ」

 

 そう言って妹紅は二人の元に走り出すのではなく、竹の上に上がり始めた。するすると妹紅は竹を登り、すぐにビルの5階程度の高さになる。

 

「待て! 飛び降りても無駄ダ!! 落ちれば落ちるほど小さくナル。つまり、一生辿り着けナイ、と私は思うッ!!」

 

 その『ホワイトスネイク』の言葉に妹紅はピタリ、と登るのを止めた。そして、するすると再び戻ってきたのだ。

 

「……まだ考えるベキことはあるハズだ。早まった考えは身を滅ぼす。落ち着いて、観察を……」

 

「そんなまどろっこしいことしてられないな。答えは『さっさと永琳にDISCをいれる』。それだったらねぇ~~~~~~。付近の竹を利用して出来るのよ私は」

 

 と、妹紅は『スパイスガール』を出して今登った竹の根元を殴った。すると――――。

 

「竹は根元から折れ曲がる」

 

「折レ曲ガレバ竹ハ倒レル!!」

 

 『スパイスガール』が高らかに宣言し、竹は根元から『ぐにゃり』と曲がり、二人に向けて一直線に落ちていく。だが、小さくならない!

 

「な、小さくならなイ……!」

 

「あいつらの付近の竹の大きさとここの竹の大きさが変わらない……だったら、竹なら倒しても距離の分は小さくなることはないわ。これで永琳にDISCが届いた」

 

 天子と衣玖の周りでは竹が小さくなっていないことから、ここから竹を倒すとその高さ分、小さくならずに近づけると考えたのだ。

 

「……もう少し、あと2センチ右だったわね。気に入らないけど、DISCは届いたッ!!」

 

 妹紅の倒した竹の上には先ほどのDISCが突き刺さっており、丁度永琳の真上に来るように竹は倒れていく。このまま倒れれば、永琳に丁度DISCが入るというわけだ。

 

「うわ、うわあああああ!?」

 

 ようやく、自分に向かって倒れてくる竹に永琳が気が付いて悲鳴をあげるが、間に合わない。もはや、永琳にDISCを避けることは不可能だ!

 

 そう思った直後。

 

 ピシャッ!!! ガガガガァァン!!

 

「……ッ!? 稲光!?」

 

 妹紅の倒した竹が永琳に当たるか当たらないかの直前で、突然雷が落ちたのだ。永琳は突然の雷に白目をむいて驚いている。

 

 だが、一体なぜ雷が? そして、雷は丁度、妹紅の倒した竹に直撃したらしい。永琳にDISCが挿入される前に竹は蒸発し――――。

 

 

「……空気を読みました。総領娘様」

 

 

 『ホワイトスネイク』から永江衣玖と呼ばれている方の女性がついにこちらを向いて口を開いた。

 

「ご苦労だったわね衣玖。よかった、私の『おさない天子』、もとい『幼い永琳』が木端微塵になっちゃうところだったわ。次からは長い物体も小さくしておこっと」

 

 衣玖に総領娘様と呼ばれた方の女性もこちらを向いた。

 

「……さて、ゴミ掃除だね」

 

 比那名居天子は嬉しそうに笑って今度は妹紅に近付き始めた。

 

*   *   *

 

 比那名居天子 スタンド名『グリーン・グリーン・グラス・オブ・ホーム』

 

 天子が指定した物体以外の大きさを天子に近付いた距離だけ小さくする程度の能力。この力はあらゆる物体に働き、今回は藤原妹紅と八雲紫以外を指定して、能力の範囲を制御していた。その気になれば自分以外の全ての物体を小さくすることが出来る。ただし、そうした場合、自分が一体どんな状況に陥ってしまうかは分からない。

 

*   *   *

 

 比那名居天子が近付くと、それに比例して妹紅が小さくなっていく。それは『ホワイトスネイク』も同様だ。妹紅はこれ以上近付かれるとマズイ、と判断しすぐに天子から距離を取ろうとするが。

 

「逃げられないわよ? お・ち・び・ちゃ・ん」

 

 にやにやとしながら天子は妹紅との距離を縮めていく。妹紅はどんどん小さくなっているため、妹紅が全力で走っているのに歩いている天子から逃れることが出来ない。

 

「く、な……何だよこれッ!! 『近い』のに『遠い』ッ!!」

 

 距離的には近いのだが、妹紅が小さくなっているため段々と天子が遠く、そして大きく見えるのである。

 

「ほ~ら、ほらぁ? さっさと逃げなきゃその辺の蟻と大きさ変わんなくなっちゃうよ~~?」

 

 と、天子は懐から何かを取り出した。

 

「あんたたちの声は小さすぎて聞こえないけど、これ何か分かるかしら?」

 

「……瓶!? 液体が入ってるが……」

 

「聞こえないわ。衣玖、答えは?」

 

 天子ははぁ、と溜息をつきながら衣玖に尋ねた。衣玖は空気を読んで目立たない様にしていたが、天子に名指しされたために目を伏せながら答える。

 

「瓶詰の水でございます、総領娘様」

 

「ぴんぽ~ん。流石は衣玖ね。じゃあこの水をあんたたちに向かってかけたらどうなるでしょーか?」

 

 そんなことを呑気に言いながら天子は瓶の口を開いて妹紅に向かって水を捲いた。

 

 既に妹紅との距離は2mを切っており、妹紅の大きさはその辺の虫けらと変わらないサイズだった。

 

 そして水がまかれる。ただでさえこの大きさで水をかけられたら相当辛いのに、水は天子の手から離れると同時にその大きさを取り戻していく。

 

「―――ッ!!」

 

「……何て能力ダ……。危険すぎるッ」

 

 激流だ。妹紅は目を見開いて必死で水から逃げた。だが、水が近付けば近付くほど天子から離れるためどんどんと大きくなっていき、妹紅から見れば50m並の津波に見えた。こんな水流に飲み込まれたら人間は死んでしまう。

 

 『ホワイトスネイク』は妹紅が水に対して逃げるように走って行った方向とは逆、つまり、天子の足元まで全速力で走った。とはいえ、天子に近付くということはどんどん小さくなるということ。だが、『ホワイトスネイク』は天子に対して何かをするために近付いたのではなく……。

 

「見つケタぞ……蠅だ」

 

 自分と同じ大きさくらいの蠅の背中に飛び乗った。蠅はスタンドである『ホワイトスネイク』を認識できないが、頭上から降り注ぐ水は視認できている。蠅の動きは複眼によってかなり精密に障害物を避けられるのだ。『ホワイトスネイク』は蠅の脱出に合わせてこの場を切り抜けるようだ。

 

「とは言ってモ、蠅が水から離れれば離れるほど、この私ノサイズも大きくなってイクか……もう、乗ってられナイな……ッ!!」

 

 ある程度、水を避け切ったところで『ホワイトスネイク』は蠅から離脱して地面に降り立った。既に水の射程距離外だ。そして、自分とは逆に逃げた妹紅の方を見ると……。

 

「く、『スパイスガァアアアアアアアーーーーーーーール!!!』」

 

 全力で妹紅は叫び自分の背後に『スパイスガール』を出現させ、自分を殴らせる。

 

「WAAANNABEEEEE!!!」

 

 命令を受けた『スパイスガール』は自分自身の主を柔らかくした。それも、ぐにょぐにょに広がってしまうほど。妹紅の体は一気に平べったくなり、激流に呑み込まれる。だが、薄く広がりサーフボードの様な体になった妹紅は波に呑まれながらもうまくその水流を受け流していく。

 

「……ガボッ!!」

 

 水こそ大量に飲んだものの、水面に浮くことは容易だった。すぐに『スパイスガール』の能力を引っ込めて、元の体に戻る。

 

「げほっ、がほっ!」

 

 えずきながら妹紅は立ち上がった。だが、天子から見ればまるで這い蹲る羽虫のよう。どこか、気に入らなかったのか水を入れていた瓶を振りかぶって……。

 

「しぶといわね、人間!」

 

 妹紅に向かって投げつけた。瓶は大きくならないが、それでも虫サイズの妹紅からしてみればただの瓶でさえ巨大なハンマー。

 

「う、おおおおおお!! 蓬莱『凱風快晴‐フジヤマヴォルケイノ‐』!!」

 

 燃え上がる噴火のごとく、妹紅の体から自身の身を焼き尽くすほどの高温の炎が立ち上る。その炎は妹紅に迫りくる巨大な瓶を溶かし尽くし、ボドボドと溶けきったガラスがあたりに散乱した。

 

「うっ、クソッ!!」

 

 まるで火山弾のように巻き散らかされた溶けたガラス片は小さな妹紅にとっても危険だった。

 

 ジュゥゥ……という音を立てて溶けたガラスが妹紅の周囲を囲むように散乱していた。熱い、いや、早く天子から逃げなくては。この体格差では勝てるわけが……。

 

「はッ!?」

 

 妹紅が解けたガラスを避けて逃げようとするも、何か透明な物体が道を塞いでいる。何かと思えば……。

 

「ぷっぷー! あんた、自分の強さ過信しすぎてなぁ~い? あんたの今の大きさじゃあ、マッチの炎程度の火しか出せなかったようね! 瓶は全く溶けきってないどころか、逆に着地点が微妙に溶けることで割れずにあんたを閉じ込めちゃったわ!!」

 

「んなッ!!」

 

 妹紅が周りを見渡すと、確かにガラス瓶だ。まさか、自分の炎がこんなにも小さくなってしまっているとは思わなかった。今の大きさでは瓶に指程度の穴をあけるのが精いっぱい……ッ!!

 

「しかも、瓶の入り口は天子の方に向いているッ!! は、果たして私はこのわずか10センチ程度の距離を到達できるのかッ!?」

 

 妹紅がいる辺りは瓶の底に近い地点で、瓶の口まで12センチ程度だ。既に天子は1m圏内まで近づいてきているため、10センチでも近付くともはや蟻と区別がつかないほどの大きさまで小さくなってしまうかもしれない。

 

「藤原妹紅ッ!! 無闇に行動をするナ! また攻撃を受ケルぞ!」

 

 水責めを逃れていたらしい『ホワイトスネイク』が天子との距離2m程度のところで何かを言っている。だが、瓶の中にいてなおかつ天子と距離が近い私にその言葉は届かなかった。

 

「……っ!」

 

 また一歩天子が妹紅に近付いた。これで50センチ。すでに妹紅の身長より瓶の厚さの方が大きいようだ。

 

「ん、見えなくなっちゃったわね。まぁいいわ……ええっと……」

 

 天子は何かつまらなそうな表情をして衣玖の方を見た。

 

「ねぇ、衣玖。ハエ取り蜘蛛とか捕まえてきて」

 

「既に捕まえております、総領娘様」

 

「んー、流石衣玖ね。気が利くわ。じゃあ瓶の中に入れて」

 

「かしこまりました。念のため5匹程度入れておきましょう」

 

 気絶している永琳を抱えている衣玖は何時の間に捕まえていたのだろう。手に5匹の小型の蜘蛛を持っており、それを瓶の中にすぐに入れた。当然、瓶の中にいた妹紅はぎょっとして突然侵入してきた5匹の蜘蛛に驚く。

 

「う、うわあああッ!! な、なにこの巨大生物!? く、蜘蛛ッ!! いや、わ、私が小さいんだ!!」

 

 妹紅はすぐに瓶の底まで移動して出来るだけ蜘蛛と距離を取った。その時。

 

「じゃあ、ちょっぴり離れるわね」

 

 そう天子が言い、少しだけ瓶と距離を取る。すると、妹紅の大きさがそれに合わせて少しだけ大きくなった。蜘蛛より一回り小さいサイズだ。

 

「……!! だ、駄目だ……瓶底は厚すぎる……! 私のこのサイズじゃあ溶かせない……!!」

 

 蜘蛛から逃げる為に炎で瓶を溶かそうとするも、時間がかかりすぎる。そうこうしているうちに獲物の臭いを嗅ぎつけた蜘蛛の群れが妹紅の背後に迫っていた。

 

「ふふっ、人間と蜘蛛なんて、大きさをそろえたら蜘蛛の方が圧倒的に強いらしいわね。知ってた衣玖?」

 

「初めて存じ上げました。流石は総領娘様」

 

 空気を読んで知っていたけど知らないふりをしつつ、衣玖は天子を称賛した。

 

「まぁ、でも現実にそうなのか確かめてみたいってことでー。頑張ってねその辺の人間♪」

 

 天子は笑いながら蜘蛛のサイズの妹紅を見下した。当の妹紅と言えば、迫りくる5匹の化け物に応対して、戦うために、そして天子から永琳を奪い返すために、策を練っていた。

 

「……ま、まさか蜘蛛がこんなにも恐ろしい生物だとは……な……」

 

 妹紅の足は震えていた。今の自分の強さはどれくらいなのか、見当がつかないからだ。

 

「……『ホワイトスネイク』」

 

 助けを乞うても本人は近づけずにいる。瓶の口は天子の側だ。

 

 一人で闘わなくてはならない。

 

 

39話に続く……

 

*   *   *

 

 後書き

 

 ということで、ボスとジョルノの幻想訪問記38話 えくすとりーむ・えんじぇう②でした。新キャラとして比那名居天子、そして永江衣玖が登場しました。そして天子のスタンド……原作で呼んだときは「あれ? こいつ最強じゃね?」 と思いました。実際倒してないですしね。

 

 あと、ゆかりんの『ホワイトスネイク』はつい最近発現してます。決してこれまで能力があったけど使わずに橙をスパルタ教育的に仕事させていたとか、そんなもんではないです。ほんとに。

 

 そして早苗さんのスタンド予想の話ですが、紫様が『ホワイトスネイク』なので『WS』予想してくれた方、裏切っちゃいましたね。ちなみに、今のところ正解は出てないです。(誰か当てて)

 

 というわけで駆け足ですがこれにて38話は終わります。まだまだ天子の話は続きますよ。何故永琳を誘拐したのか? についても触れたいですし。

 

 では、また39話で。

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