ボスとジョルノの幻想訪問記   作:フリッカリッカ

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えくすとりーむ・えんじぇう④

ボスとジョルノの幻想訪問記 40話

 

 えくすとりーむ・えんじぇう④

 

 

「い、衣玖ゥーーーーーーッ!!!」

 

 瀕死の重傷を負い、起き上がることも出来ない永江衣玖を見て、天子はその場に崩れ落ちた。

 

「衣玖!! しっかりしなさい!! あんたっ、勝手に……私を置いて勝手に死ぬなんて絶対に許さないんだから!!」

 

 ぽろぽろとその瞳からは大粒の涙が零れていた。当然だった。衣玖は天子にとって幼少の頃から唯一の味方だったのだから。苦しく、肩身の狭い天界での生活。初めて約束を破り地上へと降り立ったあの日。自分の我儘で同じように罰を受けても私を許してくれた彼女。

 

 そんな永江衣玖が、今度は再び起こした自分の勝手な行動で死にかけている。

 

「衣玖っ、衣玖ぅ……ううう……」

 

 天子は衣玖の背中を見た。その背中には本来あるはずの柔らかな皮膚は存在せず、肉がごっそりと剥げて背骨の様な器官が露出していた。不思議と血は全く出ていないが、逆にその状況が恐ろしい。

 

「……ま」

 

「!!」

 

 悲しみに暮れる天子の耳に小さな声が聞こえた。ハッとして天子は衣玖の顔を見る。

 

 まだ、かすかに意識が残っている――!!

 

「そ、う……りょ……、……め……さま……ちが……」

 

「い、衣玖っ!! わ、私のことはどうでもいい!! 自分の心配をしなさい!! 今すぐお医者さん呼んでくるからね!! 絶対に死なないでよ!!」

 

 虚ろな瞳で衣玖は天子の口から流れる血を心配していた。そんな衣玖の態度に天子は嬉しくも、怒らずにはいられない。だが、天子の行動を衣玖は止めた。

 

「……!! いけませ……ん!! わ、たし……に…………、か……わない……で……。もう……、たすか……ら……。……あな……たは、王に……なるべ……人……」

 

 天子は首を振って「いいよ、もう!! そんなこと!! 私は、あんたにっ!!」と叫ぶ。だが、衣玖はふっと微笑んで……。

 

 

「……私、永江衣玖は総領娘様にお仕えできて幸せでした。どうか……御自分の天啓を……成し遂げてください」

 

 

 おやすみ、私の天使様。

 

 

「……?? ……衣玖? ねぇ……目を醒まして……。お願い、もう、もう私我儘言わないから……。衣玖に迷惑かけないからぁ……えぐっ、衣玖、衣玖ぅ……」

 

 永江衣玖は瞳を閉じて眠りについた。そばでは一人の可憐な少女が彼女の死を嘆いていた。

 

「衣玖ううううぅーーーッ!!! うあ、うううう……うあああああああああ!!」

 

 少女は流した。悲しみの涙を。

 

 しかし、その慟哭を慰めてくれる彼女はもう、いない。

 

*   *   *

 

 距離を取った妹紅たちは突然現れた女性に質問をしている最中に、突然天子が大声で泣きだしたことに気が付く。

 

「……おい、泣いてるぞあいつ……まさか……」

 

 妹紅の脳裏にあの永江衣玖の瀕死の表情を思い浮かべる。そして、永江衣玖が死んだということを察した。

 

 ……また人が死んだのだ。

 

 生命が消えた。

 

「……」

 

 妹紅の目の色が変わる。そして永琳を抱く赤いショートヘアの女性の胸ぐらを掴んだ。

 

「……助けて貰っといて、こんなことをするのは恩を仇で返す用で申し訳ないが、一つ聞かせてくれ。アレはお前がやったのか?」

 

「何かしらこの手は。離しなさい」

 

 妹紅よりも背の高いその女性は特に動揺する態度を見せることもなく、妹紅を見下していた。

 

 その態度が気に入らなかった妹紅は右手で拳を作って女性の顔面にストレートにブチ込んだ。

 

「……何も殺すことはなかったんじゃあないのか? あぁ?」

 

 だが、女性は微動だにしない。唇を切って血を流してはいるが、妹紅の拳を受けて倒れもしなかった。

 

「……ふふ、いい拳ね……でもスナップが甘いわ。もう一発叩いてみてよ……ねぇ、ホラ、ここ」

 

 そして、今度は左の頬も差し出して妹紅を挑発する。その狂気じみた台詞に少し引いて「……結構だ」と彼女の胸ぐらから手を離した。

 

「あら、残念。聖書では右の頬を殴られたら左の頬も差し出しなさいってあったわよ? それはそうと、あなた結構殴るセンスあったわよ?」

 

「……お前、ドMか?」

 

 常軌を逸したセリフに再び妹紅の背筋に悪寒が走る。助けてくれたのはいいが、どうにも気に入らない奴だ、と妹紅は思う。

 

「……まぁ、死んじゃったのはしょうがないわ。私もこんな手順で出られるとは思ってなかったし」

 

 女性は永琳を抱きながら肩を竦めて言う。その言葉に『ホワイトスネイク』は疑問を投げかける。

 

「手順? 出られル? 君は一体何者なんダ? 奇妙過ぎル……突然現れ、しかモ天子の能力によっテ小さくなってイタ節も無イ」

 

「奇妙って、あなたの容姿の方が奇妙ね。まぁ、でもあなたたちは主人を助ける為にここにいるわけだからお姉さんが教えてあげるわ」

 

 胡散臭い、と妹紅は思った。主人、主人とさっきから言っているが一体誰のことを指しているのか。まさか、とは思うが八意永琳か? こんな奴を部下に持っていたとは知らなかったが。

 

 妹紅がそう思っていると、女性は自分の周囲に円環によって繋げられた大小様々な六角形の物体が幾つも出現する。

 

「私の名前は堀川雷鼓。この子の持っている電電太鼓を仮の依代にしていた九十九神だよ。まぁ、太鼓に憑いてる神様だね……そして、何か異物が挿入されたおかげでこうして顕現出来たわけだけど……」

 

 と、堀川雷鼓と名乗る女性は周囲に浮かぶ物体とは別に、もう一つの人型の物体を出現させた。

 

「……これ、何なの?」

 

 妹紅と『ホワイトスネイク』は瞬時に『スタンド』だと分かった。西洋騎士の様なメットに透明のバイザーが付けられ、その顔を守っているかのような風貌。しかし、その表情は唾液をダラダラと垂らし、瞳は血走って虚空をぎょろぎょろと見つめていた。

 

「うじゅううううるううううううううう……」

 

「うわ、汚い。ほんとこれ何? 私の意思で出し入れできるけど……」

 

 どうやら、雷鼓は『スタンド』がどのような物かについては理解していないらしい。

 

「……おそらクは、妹紅が永琳に挿入しようとしたDISCが雷によって外れて、偶然持ってイタ電電太鼓の中に挿入されたヨウだな……。スタンドが発現すルことでマダ表に出れなかった君もつられて顕現したんだロウ……『スタンド』は精神エネルギーの塊でもあるカラな……」

 

 過剰にエネルギーを受けることで予定より早く顕現できたわけだ。

 

「……それって私が永琳にちゃんといれてればコイツは出て来なかったってこと?」

 

「そうとも言い切れナイな。スタンドDISCは素質のある人間に傾く。例え君が直接永琳にDISCを挿入しようトした所で堀川雷鼓に引っ張られる力が強ク、どっちにしろ不慮の事故等で堀川雷鼓にDISCは挿入されテいただロウ。残念なことにナ」

 

「むっ、まるで私がいらない子みたいじゃない」

 

 二人の発言に気に入らないところがあったのか、雷鼓は少し怒ったような態度を取る。が、二人は無視。

 

「とにかく、八意永琳の救出は完了しタ。あとは比那名居天子から『グリーン・グリーン・グラス・オブ・ホーム』を回収するだけだナ……ん?」

 

 『ホワイトスネイク』は天子の方を見る。すると……。

 

 天子は立ち上がってこちらを凄まじい形相で睨み付けていた。

 

「……堀川雷鼓、面倒ナ事をしてクレタな……貴様が永江衣玖を殺しタせいで彼女はモウ容赦はしないダロウ……しかし、奴を倒しDISCを回収するコトに変わりはナイ」

 

「ちっ、これは見逃してはくれないよな……まぁ、あいつの気持ちは痛いほど分かる……。親しい者の死は……特にな……」

 

「……うん、私のせい……だよね。主人を助ける為に一生懸命で無我夢中で何も覚えてないけど、たぶん私のせいだよね」

 

 3人は義務、同情、責任と三者三様の感情の元、向かってくる天子と対峙した。

 

*   *   *

 

 ×八意永琳→○堀川雷鼓 スタンド名『パープルヘイズ』

 

*   *   *

 

 衣玖が死んだ。

 

 精神的に未熟な比那名居天子がこの事実を受け止めるには余りに酷なことだった。もう、自分が唯一心から信頼できるあの永江衣玖はもう私の傍に戻ってくることは無い。

 

「……分かったわ、衣玖」

 

 天子の涙は止まっていた。その、余りにも酷な現実から目を背けず、正面から受け止めた彼女の精神は凄まじい成長を見せた。

 

「あんたの思いが心で理解できた。あんたを殺したこんな理不尽な世界なんて……私が統制しなくちゃあならない……『支配』しなくてはならないッ!!」

 

 天子の目には何も知らぬ少女の持つ希望の光など宿っておらず、はっきりとした意思を持った眼光を持っていた。

 

 漆黒の意思、黒い炎。

 

「『勝利』して『支配』する!! それが私に与えられた天啓ッ!! ……そのことを衣玖は死を賭うて私に示してくれた……。全てはッ!!」

 

 天子は右手を出し、その手に緋想の剣を握る。深紅だった刀剣には少し黒味がかかっており、今の天子の瞳の色と酷似している。

 

「私の為に…………」

 

 鞘を投げ捨てると、その鞘は何故か土の様にボロボロに崩れてしまった。

 

「……あんたら地上のゴミ共に逃げ場などない!! 『グリーン・グリーン・グラス・オブ・ホーム』!!」

 

 高らかに宣言し、スタンドを発動させる。対象は八意永琳を含めた15m先にいるあの4人。

 

「手始めにあんたらの血で衣玖の弔いをしてあげる。絶対ッッ!!!」

 

 カツーン、カツーン……と、ブーツの音を立てながらゆっくりと天子は4人の方へ歩き始めた。

 

*   *   *

 

 明らかにやばい。今の比那名居天子には底知れぬ殺意が窺える。

 

「……おいおいおいおい……何だあの化け物は……全くもって勝てる気がしないんだが……」

 

 天子の体から蒸気のように噴出しているのはスタンドエネルギー。あんな風に迸るほど凄まじいエネルギーはこれまで一度も経験したことは無い。近しい物に『レッド・ホット・チリ・ペッパー Act.2』が存在するが、恐怖度はこちらの方が数倍上回っている。

 

 そして、天子が近付いてきている……ということは相対的に妹紅達は小さくなり始めているということだ。

 

「……どうする? ひとまず、アイツとの距離を一定に保たなくちゃあ小さくされるばかりだ。幸い、走って向かってはいないから同じようなペースで後退しよう……」

 

 と、妹紅は両サイドにいる二人に言い、天子から距離を取る。そして、一歩、二歩、三歩、と雷鼓も『ホワイトスネイク』もそれに倣って天子との距離を一定に保つ。

 

 大きさの変化は見られない。

 

「……これが『スタンド』の能力? 本当に訳が分からないわ……一体どういう原理で小さくなるのよ?」

 

「スタンドは『精神エネルギー』の具現ダからな……原理がドウコウより、スタンド使い本体ノ意思が強く反映サレル……。君の『パープルヘイズ』も似たようナ物だろウ」

 

 『ホワイトスネイク』の言葉に雷鼓は「えーっ!?」と驚いた。

 

「嘘でしょー? 私の精神の具現があんな化け物なの? うわー、まいったまいった」

 

 何故か嬉しそうな雷鼓だが、現時点ではどうでもいいことだ。だが、妹紅は雷鼓の言っていた『原理』について不可解なことを思い出す。

 

「……私が天子のスタンド像に近付いてた時があったよな……『ホワイトスネイク』も見ただろうが……」

 

 その言葉に『ホワイトスネイク』は「うム」と頷く。スタンドやスタンド使い本体が極端に天子に近付くことで目の前に現れたあの『禍々しさ』を具現化したようなスタンドのことである。

 

「何というか……うまく、言葉にできないけど……あいつと対峙している間、まぁ一瞬なわけだが体が相当重かった。これ、あいつに対する突破口になったりしないか?」

 

「……重く? ……実際に感じたのカ? 単なる精神的重圧から来ル緊張では無く、実際に自分の体重が何倍にも増えたトカ……」

 

 そんな感じだ、と妹紅が答える。だが、『ホワイトスネイク』は自我を持ったスタンド。思考は出来ても妹紅の言う断片的な現象からは天子の能力の実態を推測できるほど優れた頭脳を持っていない。

 

「分からないナ……私の主はともかく、私自身の考エはそう凄いモンじゃあナイ」

 

「そうか……」

 

 身をじりじりと後退させて、小さくならないように天子との距離を一定に保ちながら、その会話を聞いていた雷鼓は「じゃあさ」と切り出した。

 

「私の主人に聞いたら? 天才だし」

 

「……」

 

「……」

 

 妹紅と『ホワイトスネイク』は黙ったまま雷鼓の方を見た。

 

 こいつ、いかれてるのか? この状況で……幼い永琳がそんなこと分かるわけないだろう。

 

「いや、分かるよ。多分ね。主人は幼くなっても超天才だから」

 

 そう言って雷鼓は永琳を落とさない様に足で支えつつ懐から木の棒を取り出した。

 

「おい、何を――――」

 

「まぁ、黙ってなって。今から主人を『叩き起こす』。――――GOOD MORNING、お姫様」

 

 そう永琳の耳元で呟いてから、雷鼓は周りを漂う太鼓の一つをその木の棒――ドラムスティックで盛大にぶっ叩いた!

 

 その音は太鼓らしい力強い『ドン!!』という音で、特に何の変哲もない。たしかに音は大きかったが、これしきの音で気絶している少女の目が覚めるはずが……。

 

「……ん、おはよう……」

 

「お、起きたァーーーーッ!!?」

 

 なんと、お姫様抱っこされている八意永琳の目が覚めたのである。どういう現象が起きたのか分からない妹紅に雷鼓は

 

「ふふ、じゃあお姉さんが教えてあげよう」

 

 と得意げに指を立てた。何だか腹が立った妹紅は雷鼓の説明を無視することに決めた。

 

「私が元々持っている能力は『何でもリズムに乗せる程度の能力』でね、今のは主人の目が覚めるように『目覚めのリズム』を刻んだのさ。要するに、リズムに乗ったってこと……って聞いてないし!」

 

「よし、永琳目が覚めたか。お前を抱いてるのは味方だ。ただ、変態だ。気を付けろ」

 

「早く本題に入レ、妹紅」

 

「あぁ、百も承知だ」

 

 『ホワイトスネイク』に促され眠い目をこする永琳に向けて妹紅は話しかけた。

 

「永琳、天才なお前に聞きたいんだが……、今あそこに天子ってやつがいる。あいつに近付くと私たちの大きさはどんどん縮小していくんだ。そして、あいつとの距離が10センチになると急激な重さに私は襲われた。どういう現象か分かるか?」

 

「……えっとね」

 

 寝起きの永琳は妹紅の話を聞いて目を光らせた。流石天才だ。寝起きでもすぐに質問の答えを……。

 

「妹紅、何言ってるか全然わかんない!」

 

 返さなかった。満面の笑みで永琳は妹紅に言い放った。

 

「……そうか」

 

 そして妹紅は雷鼓をぶっ叩いた。

 

「おい!! 全然分かってないじゃあねぇか!! いい加減にしろよこの阿保!!」

 

「ああん、もっと叩いて妹紅! 最高のスパンキングよ!!」

 

「うるせぇええええええーーーーーッ!!」

 

 『ホワイトスネイク』は呆然とそのやり取りを見ていた。今はふざけている時間では無いのに、何だこのコント集団は……と。

 

「いいかしら、妹紅」

 

 雷鼓が話を止める。

 

「まず、あなたの質問が駄目だわ。子供に物を尋ねるときはこうよ、こう」

 

 と、苛立つ妹紅を横目に雷鼓は永琳に顔を近付けて。

 

「永琳ちゃん、これを見て」

 

 と、永琳に見える位置に自分の周りを浮いている太鼓の中で一番大きい太鼓を示す。そしてその太鼓から少し距離を開けて雷鼓がドラムスティックを立てる。

 

「まずね、この一番大きい太鼓さんがこの木に登りたーいって言ってるの」

 

「うん」

 

 どうやら太鼓を擬人化させ、ドラムスティックを木に見立てて説明しているらしい。

 

「でもね、太鼓さんが木に近付こうとすると……、ほら!」

 

 と、太鼓を操作してドラムスティックに近付けていく。すると、ある一点を過ぎたところで瞬時に雷鼓は一段階小さな太鼓と取り換えた。よく見ていなければ分からないほどの速さだ。

 

「えっ!? 小さくなっちゃったよ!?」

 

「そぉーだねぇー! 小さくなっちゃったねぇーー!!」

 

 そんなワザとらしい声を上げながら更に雷鼓は小さくなった太鼓をドラムスティックに近付ける。すると、また瞬時に太鼓が入れ替わり、太鼓の大きさは再び縮小した。

 

「あれー!! また小さくなった!」

 

 永琳は驚きと共にその雷鼓の説明に興味津々だ。雷鼓はにっこりと笑顔で永琳の様子を見ながら「どんどん近付くよー」と言い、近づけるたびに太鼓を小さい物へと取り換えていく。

 

「えー!! これじゃあいつまで経ってもたどり着けないよぉ……」

 

 永琳は悲しそうな表情で木にたどり着けない太鼓さんを憐れんでいた。まるで、紙芝居を見ている子供の様な反応だ。

 

「そう、すごいね永琳ちゃんは! 太鼓さん、このまんまじゃあたどり着けないね……。でも、諦めきれない太鼓さんは頑張ります! すると……」

 

 と、持っている太鼓の中で最小のものをドラムスティックに近付けていくと……突然太鼓が倒れた。

 

「あれ? どうしちゃったの?」

 

「うーん、どうやら太鼓さん、体が重くて動かないみたい。どうやら、小さくなっちゃうことと関係があるみたいだけど……どういうことか永琳ちゃん分かる?」

 

「……えっとね」

 

 永琳はちょっとだけ考えて口を開いた。

 

 

「太鼓さんの中心に重力があるみたい」

 

 

「――――ッ!!!」

 

「せ、正解だわ……すごい、永琳ちゃん……で、いいのよね? 妹紅」

 

「あ、あぁ……多分そうだ。おそらく、それだ。それが、正解だ」

 

 妹紅は震えていた。慧音から聞いたことがあった。重力はあらゆる物体が地球から垂直下方向に受ける力であると。さらに、全ての物体はその物体の中心に同じように重力を持っていて、物体を引き付ける……つまりは万有引力の法則がある。

 

 あまりにも地球の重力が強いため、万有引力はほとんど日常生活では働かない。だが、この天子の『物体を近付けば近付く分だけ縮小させる』という能力はそれを応用したものかもしれない。

 

 つまり、物体の中心に新しい重力の様なものを与えて、その力で体積を縮小させている。つまり、内側から肉体を引き込んで小さくしている、というわけだ。

 

「……じゃ、じゃあ私があれ以上近付いていたら……」

 

 妹紅は限りなく内側に引き込まれる自分の姿を想像した。

 

 浮かび上がったのは『裏返る自分の姿』だった――――!!

 

*   *   *

 

 西日は十分に傾いて、そろそろ日もくれそうな空の下。じりじりと天子から距離を取りながら、背後には永遠亭が。

 

「……『裏返る』?」

 

 その不穏な言葉に雷鼓が疑問を漏らす。人間が裏返る、とはどういう状況なのだろうか。

 

「文字通り、だ……。内側に出来た重力が自分を引き込み過ぎることで裏返る……つまり、体の芯である背骨を中心に皮膚と肉が内側に、骨と内臓が外側になる」

 

 その姿を想像して雷鼓はぞっとした。

 

「……はは、そんなのお姉さん笑えないねぇ……」

 

「そして、今ブチ切れているアイツに射程10センチが変わらずにそのままであるとは思えない。スタンドは精神の成長に合わせて能力が上昇されるらしいからな……」

 

 つまり、出来るだけ天子には近付くことは許されないわけだ。しかし、じりじりと天子は3人に歩みを進める。

 

「……どうする? 相手が重力だと永琳が断定した今、そんな巨大な力に対抗する術は『逃げる』くらいじゃあないか?」

 

 妹紅が永遠亭の敷地内に足を踏み入れた。もう、こんなところまで後退してきてしまった。

 

「落ち着け藤原妹紅。天子が一直線に走っテこちらに来ていないのにはワケがあるはずダ……」

 

 『ホワイトスネイク』は一番後ずさっている妹紅を押さえて、天子との距離を忠実に図る。目測、およそ15メートル。

 

 この距離から天子の側に近付けば縮小が始まる。

 

「いや、とにかく永琳を安全な場所に匿うのが先決だ。おい、えっと……お前!」

 

「堀川雷鼓だよ。お前とか呼ばれると名前覚えられてないみたいで凄い傷付くよ」

 

 自分より身長の低い人間からお前呼ばわりされたことに少なからず憤慨気味の雷鼓。だが、そんなことを意に介している場合では無いことは明白だ。

 

「んなことはどうでもいいんだよ。さっさと永琳を安全な場所まで持っていくぞ!!」

 

「……安全って言ったって……。……あれ? 妹紅、どうしたのその右足」

 

 雷鼓が永遠亭に向けて踏み出した妹紅の右足の違和に気が付いた。

 

 足の甲からつま先にかけて不自然な変色が見られる。

 

「……ん? 泥……いや土か? ぬかるみでも入ったか……?」

 

 と、一番近くでその足を見た妹紅は足を戻してその土のような物を振り払う。

 

 ぼろっ べしゃっ

 

 土は妹紅の足から剥がれ落ちた。

 

「……『べしゃっ』?」

 

 だが、土にしてはいやに水分を含んだ落下音だ。聞きなれない音に妹紅が底を見る前に――――。先に雷鼓が口を開いた。

 

「……ち、違うよ……!! それは、『土』なんかじゃあない……」

 

 その言葉と同時に妹紅の眼球が赤くボドボドと滴る血を捉えた。

 

「あ、『足』じゃああああないかああああ……!! 妹紅、あんたの……『つま先』だよおおおお、それ……!!」

 

 雷鼓は永琳の顔に目隠しを作って妹紅のつま先を凝視した。

 

「う、うぐあああああああッ!!? こ、攻撃!? だが、どこから……!? 何時の間にッ……!!」

 

 つま先から流れる血を見て妹紅は一気に焦り始める。そして、地面に落ちた土のような物体の正体を知るために拾い上げようとして手を伸ばした。

 

 ボロっ……

 

「――――!! わ、私の指も……、一瞬で……!! い、『痛い』ッ!!」

 

 妹紅の伸ばした手の指先が3本、一気に焦げ茶色に変色し地面に落下した。切断面から血は大量に流れているが、地面に落ちた指先からは血は出ていない。

 

 いや、その指は失ったつま先と同様、血が通っているような見た目ではなく、土の塊のようにしか見えない。

 

「何だこの攻撃は……!! 私の『つま先』と『指先』が土の様になって取れた!?」

 

 妹紅は汗を流して天子の方を見た。相変わらず、天子が何かをしているような風では無い。とにかく、距離を取る必要がある。だが、どうして自分だけが攻撃を受けているのだろうか……。

 

「……待て、藤原妹紅。それ以上……天子から離れすぎるナ」

 

 先に行こうとする妹紅には人目も向けず『ホワイトスネイク』は言った。相変わらず天子との距離を正確に図りながら、距離を一定に保っている。

 

「……何だと?」

 

「君だけが被害にあってイルのは、天子のスタンドの特徴の一ツ、『距離』が関係してイルのではナイか?」

 

 一番天子からの距離が離れているのは妹紅だった。そして、更に遠くに行こうとして踏み出した足の先っぽが被害にあい、つま先に触れようとした指先も同時に被害にあった。

 

「……これ以上、先に進めば全身がこうなるってことか? だが、あいつの能力は近付けば近付くほど小さくする能力じゃあ……」

 

 『ホワイトスネイク』の忠告通り、妹紅はそれ以上手を伸ばすことも一歩踏み出すこともしない。

 

「君も言っていたダロウ。スタンドは精神に合わせて成長スル、と。比那名居天子が永江衣玖の死を受け入れタことで精神的に凄まジイ成長を遂げたのナラ、スタンドが成長し、新たナ力を得てもおかしくハ無イ」

 

「……スタンドの成長……」

 

 雷鼓は二人の間にいて呟く。

 

「堀川雷鼓、君は八意永琳を抱いテイテかなり不安定ダ……。今から少シ試したい事がアルが、君が真似する必要は全く無イ」

 

 『ホワイトスネイク』は雷鼓にも注意を促して、妹紅の隣に立った。そして、そこから一歩先に踏み出す。

 

「ばッ!! お前が駄目だって言ったのに!?」

 

 妹紅は『ホワイトスネイク』の行動を止めようとするが……。

 

「……ふム」

 

 『ホワイトスネイク』の足は崩れることなく、そのままの状態だった。そして、天子の方を見る。天子は先ほどから一歩だけこちらに近付いて来ていた。

 

 その距離は20m弱。

 

「……これ以上進めば『土になって体が崩れる』。そう思ってイイだろう……20m、ここが限界ダ……」

 

 15mから天子の方に近付けば、大きさがどんどん縮小していき、20mより天子から離れれば体が土の様になってボロボロに崩れる。

 

「……我々の行動範囲は5m前後に縛られたワケだ……」

 

「……おいおい、そいつは何て悪夢だよ。近付くことも遠ざかることも許されないなんて……」

 

「最悪の状況ってわけね……無我夢中だったとはいえ、お姉さん反省だわ」

 

 確かに雷鼓のスタンドが招いた結果だと言っていい。妹紅もそのことについて責めてはいたが、仕方のない部分もあった。

 

 妹紅は負傷したつま先と指先が徐々に回復していくのを見て『再生』は出来ると判断する。しかし、果たして全身が裏返ったり、全身が土のように崩れたりした時、自分の再生能力が発動するかは分からない。

 

「どうするんだ『ホワイトスネイク』。この距離から頭を下げても天子にはまるで無意味だと思うが……」

 

 天子を見て妹紅は寒気を覚える。走って近付くことはしないが、一歩一歩、妹紅達を確実に追い詰めるその様は暴君の如く。

 

 だが、『ホワイトスネイク』は特に焦る様子もなく――――。

 

「……離れられない、と言うナラ好都合だ……常にこちらの『射程圏内』に奴はいてくれる訳だからナ……コノまま、距離を保ったまま『永遠亭に入る』ぞ……」

 

 比那名居天子に臆することなく、そう言った。

 

……41話へ続く。

 

*   *   *

 

 比那名居天子 スタンド名『グリーン・グリーン・グラス・オブ・ホーム ベター・プレイス・トゥ・ダイ(生にしがみつけ)』

 

 永江衣玖の死を受け入れ、彼女の悲願でもある自らの天啓を成し遂げる為に成長したスタンド。能力は『物体が天子に近付けば近付くほど小さくなり、一定距離遠ざかると体を土に変える程度の能力』。天子の『大地を操る程度の能力』が『グリーン・グリーン・グラス・オブ・ホーム』に組み合わさった結果生まれた能力である。また、『グリーン・グリーン・グラス・オブ・ホーム』の能力上の特性から逃げられることが多いため『絶対に逃がさない』という天子の漆黒の意思を反映させた能力となっている。欠点としては天子自身、能力の維持に凄まじいエネルギーを消費するため走ったり叫んだりといった激しくエネルギーを使う行動が出来ない点にある。しかし、強制的に相手の位置を15m~20mに追い込み続けるという能力は非常に凶悪。

 

*   *   *

 

 あとがき

 

 絶対に逃がさないマン、比那名居天子。

 

 3対1で戦ってるのに全然妹紅達が勝てる気配が無いです。『ホワイトスネイク』が何か策があるようですが、……どうなるんでしょうかねぇ(他人事)。

 

 今回、初めて(?)東方キャラ固有の『程度の能力』と『スタンド能力』を組み合わせた能力が誕生しました。強いです。はい。

 

 

 ちなみに、恒例となりつつある早苗さんスタンド予想ですが、ヒントとして早苗さんも天子と同じように『能力の組み合わせ』を使っています。

 

 他にも、既に何人かは『組み合わせ』についてのアイデアがあるので、これからも楽しみにお待ちください。

 

 感想、意見など、随時お待ちしております。応援よろしくおねがいします!

 

 では、41話で会いましょう。

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