ボスとジョルノの幻想訪問記 41話
えくすとりーむ・えんじぇう⑤
『ホワイトスネイク』の言葉に藤原妹紅は耳を疑った。
「永遠亭に入る……だと? 正気か? 奴の射程距離に永遠亭を入れることになるぞ! それだけは駄目だ……永遠亭には鈴仙と慧音の二人の昏睡患者がいる(輝夜もいるけど)」
だが、『ホワイトスネイク』は妹紅の言葉には耳を貸さなかった。考えがある、とだけ答えて永遠亭へと天子との距離を保ちながら下がっていく。
「というか、もう既に永遠亭の一部は射程距離内に入っちゃってるよ。今から永遠亭を避けて逃げても、病室に奴の射程距離が少しでもかかったら……」
雷鼓はそれ以降の説明はしなかった。一度でも20m圏内に入れば、そこから天子が離れれば土人形と化すからだ。
「これ以上逃げ続けても埒が明かないのは妹紅も百も承知だろう? ここはこいつの考えってやつに賭ける以外の道はないとお姉さん思うけどねぇ」
言葉通り、いずれは『追い詰められる』のだ。地形的に追い込まれたり、疲労や天候など、様々な要因でいずれは天子の距離を強制的に詰められるのだ。妹紅もそのことは重々に承知しており、何も対抗策が浮かんでいない自分より『ホワイトスネイク』の策に賭けた方が数倍マシである。
「……分かった。だが、そこまで言うんなら絶対に天子を倒せるんだろうな!?」
「確証は無イ。八意永琳の提示した答エに則った作戦ダ」
ここで言う八意永琳の提示した答えとは、『グリーン・グリーン・グラス・オブ・ホーム』の能力の真意は『重力を付与する』能力だということ。そこを突いた作戦なのだという。
「あと少しダ。永遠亭に入ルゾ……!!」
『ホワイトスネイク』が二人を先導して永遠亭の中に入った。これでもう外に逃げることは出来ない。
「ち、畜生~~……!! 天子の奴が走ってこないってことは本当らしいが……、やっぱり絶体絶命には変わりねえぞ? これから何処に行くんだよ?」
永遠亭の玄関を閉めずに、『ホワイトスネイク』は射程内ギリギリで天子を見た。ここを閉めると天子との距離が分からなくなるからだ。
「……弾幕も展開してこない、ということはそれほどまでに能力に力を裂いてイルというわけダ。好都合だ」
妹紅の疑問に答えることなく、『ホワイトスネイク』は永遠亭の中に入っていく。雷鼓も永琳を抱きかかえてそれに続いた。永琳が「お姉さん、さっきのまたやってよー」と、雷鼓におねだりをしているが「いい子だから、ちょっと待っててねぇ~」と軽くかわしている。
「妹紅、早く行くよ。それ以上玄関にいるとまた奴の射程圏内に……」
「……おい、この家は……」
「?」
妹紅がいつまで経っても玄関から移動しないため、雷鼓が連れて行こうとする。しかし、彼女は別の事に気が取られていた。
「大丈夫か? 玄関がミシミシ言ってるような気がするんだが……」
確かに、妹紅の言う通り玄関が軋んでいる。そこまで老朽化が進んでいるとは思えないのだが……。
「ち、違う!! 玄関から小さくなっているッ!! 倒壊するぞ妹紅っ! その辺はもう射程圏内だ!! 早く、早くこっちに来い!!」
「……いや、駄目だ。玄関が小さくなっているなら、玄関から家がバランスを失って全てが倒壊する。永遠亭はきっと潰れるだろうな」
「だったら呑気してないで早く!!」
雷鼓が手を伸ばす。だが、妹紅の身長は小さくなり始めていた。
「早くしろ藤原妹紅ォォーーーーッ!! それ以上小さくなったら奴から離れる前に追いつかれるぞォーーーーーッ!!」
既に玄関はバランスを崩しかけ、倒壊寸前だった。だが、妹紅は至って冷静に……。
「まだ、間に合う。私にはすべきことがある。――行くぞ」
と、小さくなり始めている体のまま、妹紅は『スパイスガール』を出した。
「ドノクライニスル?」
「そうだな……ぐにっと曲がる感じでいい。ゴムみたいな強度だ」
「リョウカイ」
『スパイスガール』はクルッと天子の方を向いて――――。
「WAAAANNAAAABEEEEEEEEEEEEE!!!!」
永遠亭を狙ってラッシュを叩き込んだ!!
「――柔らかいということはダイアモンドよりも壊れない……。これで永遠亭が倒壊することは無くなったッ!!」
ぐににぃ……と音を立てながら縮小していく玄関は倒壊の気配を微塵も感じさせなかった。
「や、柔らかくする能力……。実は頼りになるのね……妹紅」
「私は何時だって頼りがいのある少女さ。『お姉さん』?」
にやっと笑ってへたり込む雷鼓の手を取って、妹紅は天子から距離を取る。大きさを取り戻しながら、『ホワイトスネイク』の跡を追った。
* * *
藤原妹紅 スタンド名『スパイスガール』
『殴った物体を柔らかくする程度の能力』を持つスタンド。独立した自我があり、能動的に行動する。しかし、妹紅の命令には忠実であり、今では大切な相棒の様な存在である。また、柔らかくする能力はかなり応用の幅があり、自分をゴムボールのように柔らかくすることでラッシュの衝撃による緊急離脱が出来たり、べっとりと薄く広がるような柔らかさにすればサーフボードの様に浮くことも出来る。また、銃弾をドロドロになるまで柔らかくしたり、衝撃を皆無にする程度の柔らかさにすれば、例え手りゅう弾をぶん殴っても爆発することはない。
* * *
『スパイスガール』の能力を用いた妹紅の機転により、永遠亭は端から小さくなっても倒壊することは無くなった。『ホワイトスネイク』は妹紅に「よくやっタ」と礼を言い、依然として天子との距離を一定に保ちながら奥へと進んでいく。
「おい、『ホワイトスネイク』。私にお礼を言ったことは素直に嬉しいが、これ以上先に進んでどうする気だ? もう、この先には病室と調合室、そして輝夜が寝ている自室しかないぞ? まさか、あんなニートの手を借りるつもりじゃあ……」
「そんなつもりは毛頭なイ……。私が目指してイルのはこの部屋ダ」
と、『ホワイトスネイク』はこともあろうに病室に入った。
「ま、待て!! 何をする気だ!!」
病室には鈴仙と慧音しか残っていない。他には武器になりそうなものなど存在しない。何を企んでいる? 妹紅は『ホワイトスネイク』の腕を掴み、理由を聞こうとする。
「話している時間ハ無イ。こうしてイル間にも奴は射程距離を詰めテ来るゾ……。君ガしなくてはならないことは上白沢慧音の避難をさせることではナイカ?」
「――――た、確かにそうだが……目的は何だ? まさかとは思うが……」
妹紅は慧音を見た。彼女はまだ昏睡状態だ。両腕が繋げられ、頭部にもひどい損傷が残っている。だが、『ホワイトスネイク』の口ぶりだと、鈴仙はどうする?
いや、『ホワイトスネイク』は鈴仙を……。
妹紅は慧音を抱えていたが、『ホワイトスネイク』の行動に体が止まる。
「――何をしている『ホワイトスネイク』ッ!! き、貴様……まさか!! ――――雷鼓!! こいつを止めろ!! 何かヤバい!!」
だが、雷鼓は黙って見ているだけだった。
「……いや、私は主人を守るだけだからねぇ。『ホワイトスネイク』が他人に何をしようが、私には関係無いのだけれど」
「この裏切り者ッ!!」
妹紅は雷鼓の態度にそう叱り飛ばして走る。
妹紅は慧音を抱えながら『スパイスガール』を出して、鈴仙の頭に手を置く『ホワイトスネイク』をぶん殴ろうと接近する。
「……落ち着け、藤原妹紅……。私がすることハ貴様にとって益にシカならない……」
と、妹紅が飛びかかってくる直前に『ホワイトスネイク』は鈴仙から離れた。
「これが答えダ……既に、起きていたナ」
『ホワイトスネイク』の謎を残す発言に戸惑いながら妹紅は信じられない光景を目の当たりにする。
「……鈴仙?」
鈴仙・優曇華院・イナバがぼんやりとした表情で上体を起こした。全く動くことのなかった彼女が。
* * *
急激な意識の覚醒と共に、私はそれまで見ていた光と色を知覚の範囲だけでは無く、脳の中で景色として認識した。耳に届いていた様々な雑音を聴覚の範囲だけでは無く、脳の中で人の声として認識した。それまで、感じるだけであった五感が、その感覚を脳に届け、私の脳がそれを情報として受け取り始めた。
意識がどんどんと戻っていく。それまでにどれほどの時間を費やしていたか分からない。私は今までどれほどの時間をこうしてきた? どうして私は考えることを止めていた? 疑問に思うも、それの原因たる出来事を思い出すことが出来ない。
いつの間にか上半身を起こしていた私は目の前で私の名前を呼ぶ少女を認識する。久しぶりの感覚である。考える、そして、身体を機能させるという行動がかなり久方ぶりのようだ。ギシギシと音を上げる私の関節は、痛みと共に再び動けることへの喜びの声を示している。
再び考える。どうして私は今まで動くことを放棄、否、考えることを放棄していたのか。分からない、分からない、思い出せない、まるで記憶が無い。
「……れ、い……せん? お前……動ける……のか? い、いや……『ホワイトスネイク』、お前が……」
震える手で私の顔をぺしぺしと叩く彼女は藤原妹紅。はっきりと私は彼女のことを覚えていた。不老不死で炎系の弾幕を操る人間の少女だ。少女と言っても年齢は1000歳程度だったと思う。
「私が治したという勘違いはスルナ。私はただ『忘れさせた』だけダ……彼女を人形の様に変えてシマった狂気にまみレた記憶とやらをナ……」
妹紅の視線の先には不気味な風貌をした人型の化け物……いや、私はこいつを知っている。『スタンド』だ……。なぜ、妹紅が『スタンド』と会話が出来ているのかは分からない。どちらにせよ、妹紅もスタンド使いであるという証拠だ。
「……記憶DISCか……! つまり、鈴仙はあの日を忘れている……ということか? 特定の記憶のみも抜き取れるとは……だが、鈴仙を起こしてどうするつもりだ?」
「そう焦るナ。まずは彼女の意識がはっきりしているかドウカ……そこからだ」
『ホワイトスネイク』自身は鈴仙と面識があるわけではない。彼女の意識を確かめるのは妹紅の役目である。
「……鈴仙、大丈夫か? 全てを説明してやりたいところだが、今はそんな時間は無いんだ……。立てそうか?」
「……え……あ……」
こくん、と鈴仙は頷いた。上手く呂律が回っていないのは久しぶりに声を出すからであろう。だが、彼女は何とかして自分一人で立ち上がろうとする。
「無理はするなよ……。ところで、どこまで思い出せる?」
「……えと……『スタンド』については……分かるわ。師匠が小さくなってるってことも、何度も私の前に来てたから分かる……。でも、どうして私が今まで動けなかったかについては全く思い出せない……」
つまり、『ホワイトスネイク』は見事に鈴仙の恐怖の記憶だけをDISCとして抜き取ったことになる。
と、なると今の鈴仙は……。
「私……謝らなきゃ……。みんなに……迷惑、かけて……」
今までのジョルノやてゐ、そして妹紅たちみんなにかなり心配されていた鈴仙。それを罪悪感に感じて鈴仙はゆっくりと、ベッドから降りる。
「……誰か……来てるんでしょう? ……さっき、妹紅が私を庇ってた……」
「さっき……あ、あぁ。永琳が攫われていた時か……。そうだ、一人がこっちに来ている。詳しい説明は省くが、動けるんなら自力で動いてほしい」
鈴仙は敵がいるということも理解していた。そして自分を目覚めさせた『ホワイトスネイク』を見る。
「私を起こしたのは貴方でしたね……。ありがとう、だけど、なんのつもり?」
鈴仙が疑問に思うのは当然である。その質問に『ホワイトスネイク』は「君の手を借りたイ」と短い答えを返した。
「……病み上がりだけど、見知らぬ『スタンド』に恩を受けっぱなしなのも性に合わないわ……力になるわ」
鈴仙は頷いて、それから辺りを見渡す。そして永琳を抱きかかえる堀川雷鼓と目があった。
「……あなたは?」
「ん? あぁ、私は堀川雷鼓だ。時間が無いので説明は凄く端折るけど、主人のお守りをしているお姉さんだ」
端折りすぎて全く訳が分からない。でも、とりあえず主人というのは永琳であるということは見た目で分かる。
「……その子が師匠ですよね。ちょっといいかしら」
鈴仙は永琳を見て雷鼓にこちらに渡すように言った。害意が全くないその表情を確認して、雷鼓は抱いている永琳をそっと地面に降ろした。
「師匠、いつも看病有難うございました……。おかげで元気になりましたよ」
鈴仙は永琳と目線を合わせるようにしてしゃがみ、永琳の頭を撫でた。対する永琳は少し恥ずかしそうにして「うん」と頷いてから。
「私もうどんちゃんが元気になって嬉しい!」
と、笑顔を作った。
つられて鈴仙も微笑む。
「……さテ、そろそろ時間ダ。射程圏内に病室が入り始めタぞ!」
『ホワイトスネイク』が言葉を切って、全員は病室から出て更に奥に逃げる。
ここは永遠亭の長い長い廊下。その中間地点。
20mの間を開けて天子に対峙するのは藤原妹紅、堀川雷鼓、八意永琳、『ホワイトスネイク』、そして鈴仙・優曇華院・イナバ。
天子の周囲はスタンド像の射程距離内に存在するのか、廊下が捻じれる様にして湾曲している。それでも永遠亭が倒壊しないのは『スパイスガール』のおかげであった。
「これは……どういう能力なの?」
鈴仙が疑問に思うのも無理はない。妹紅が説明しようと思ったが、代わりに雷鼓が「永琳ちゃん、説明できる?」と言った。
「うん、出来るよ」
永琳はさも当然のように首を縦に振って鈴仙に現状を説明する。天子を中心に物体が縮小し、最終的に裏返ること。そして、その現象の元凶は体の中心に生み出される新しい重力のせいであるということ。
「……重力って言われても……全然意味が分からないわ。どうして廊下が螺子曲がって見えるのかしら」
「あぁ、それは私が『スパイスガール』で壊れない様にしているからだ……って、今はそんなことは関係ないな。で、どうするんだ?」
歪んだ廊下を見て平衡感覚を失いそうな中、妹紅は『ホワイトスネイク』に尋ねる。
「鈴仙、いきなり起こしておいて申し訳ナイが、君にしか出来ない頼み事がアル。聞いてくれないカ?」
天子の方を見ながら、『ホワイトスネイク』はそう言った。
「……私にしか出来ないこと?」
「あぁ、君の『狂気を操る程度の能力』が必要なのダ」
『ホワイトスネイク』は策の概要を説明し始めた。
* * *
「……無理だろ、いや、出来るわけがない」
「お姉さんも流石に無理があると思うなぁ……だって非現実的じゃあない?」
「うどんちゃん、ほんとーにそんなこと出来るの?」
妹紅と雷鼓と、そして永琳までその策をとても心配した。現実にそんなこと出来るわけがないと思ったのだ。あの、天才永琳までも。
「出来る出来ない、じゃあナイ。やって貰わなくテハ全滅ダ」
「……そう、よね」
だが、現状は何一つ打開策が存在しないのだ。むしろ、『ホワイトスネイク』が無理やりこじつけたような策を緊急で用意できた方が奇跡である。
「やるしか……無いわね。出来る気が全くしないんだけど」
鈴仙も、そのことは重々承知である。周りを含めて、今この状況を突破するには奇跡でも起きない限り不可能だということを。
「では、頼んだぞ……妹紅と雷鼓は『始末』を頼ム」
「「出来たらね」」
二人は重なるようにして答えて……。
「『セックスピストルズ』」
鈴仙が一歩前に出てスタンドを6体出しつつ、ひとさし指の先を天子に向けた。
「久シブリジャアネェーカ鈴仙ーーッ!!」
「暴レテヤルゼオラァーーーーッ!!」
「アイツニブチコムノカ!? 朝飯前ダゼェェェーーー!!」
「ミ、ミンナ……鈴仙ガマダ何スルッテ決メテナイヨ……」
「ウルセェーーーンダヨ泣キ虫! 鈴仙ガ俺ラヲ呼ンダラブチ込ムニ決マッテンジャアネェーーカ!!」
「ヨッシャアアア!! 準備万端ダゼェエエエ!!」
6体の小さなてゐ達は空中で久しぶりの活躍にテンションが上がっており、全員がやる気満々だった。
だが、鈴仙はぶち込むのではなく――。
「違うわみんな。今回は少し違う……。私の目の前でこの一発を回し続けて。キャッチボールをするように、私がいいというまで、弾をパスし合うの。そして、いいと言ったら今度は全員でぶち込みに行くわよ」
「……」
ピストルズは呆然としながら話を聞いていたが、最後にぶち込むという単語が聞こえたので再びテンションを上げる。
「ドッチニシロブチ込ムンダロォオオオオーーーーー!! キャッハアアアア!!」
「ヤッテヤロォーーージャアネェカアアアアーーーーーッ!! 野郎ドモ、行クゼェエエエエーーーーー!!」
ピストルズは鈴仙の命令通り、すぐ手前で展開し、鈴仙からの射撃を待った。配置にそれぞれが着いたのを確認すると――
「仕事よ、みんな!! いいというまで、パスを回しな!!」
鈴仙は一発のライフル弾を打ち出す。
「イイイイイイイイイハアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「ヘイヘイヘイ!! パスパスパァーーーース!!」
「久シブリノパスワークダァアーーーーーー!! 存分ニ回シテヤレヤ、野郎ドモ!!」
「フヒャッホォオオオーーーーーーー!!」
「イィイイイハハハハァァーーーーーッ!!」
そのライフル弾は鈴仙の手前で超高速で動き回り、ピストルズ達によって加速していく。
そして、鈴仙はというと……。
「……」
黙って弾を目で追い続けていた。その瞳は真っ赤に染まり、弾を注視し続けている。
鈴仙が行っているのは『狂気を操る程度の能力』を用いて、弾の波長を変更させていたのだ。
彼女たちが使う弾幕は大半が光弾である。それは光である以上、少なからず波長を持っているのである。
鈴仙の『狂気を操る程度の能力』はいわゆる、波長を操作する能力である。それは、人間の思考から、単なる光の波長まで、あらゆる波長を彼女には操ることが可能であるのだ。
そして、今彼女は自分で発射した光弾の波長を操作している。しかし、操作には時間がかかる。だからピストルズを用いて、弾を自分の眼前で回させ続けているのだ。
では、鈴仙は光弾の波長をどのように操っているのか。
次第に、鈴仙の打ち出した光弾は徐々に速度が増していくと共に、尾を引くようになる。ただの弾だった形状が次第に、次第に伸びていき、まるで光の筋がピストルズの間でやり取りされているようだった。
ピストルズ達の正確無比なパスワークにより、光弾に与えられる波長は徐々にではあるが、弾から棒状に。そして棒状の帯から光の線に。
そして、光の線から超高圧のレーザーに。
「グウウウウウウ!? レ、鈴仙!! コレ以上波長ヲ与エ続ケタラ!!」
「ハ、ハエエエエエ!? ミエネェ、デモ同ジコースデパスガ来ルカラ返セチマウ!! デモ、熱イ、痛エエエエエ!!」
「俺タチガヤベエエ!! 鈴仙!! 聞イテンノカ……ッテ」
ピストルズが回していたパスはほぼ目で追うことは不可能なほどのスピードになっていた。もはや、弾幕の最高速度をはるかに上回っている。
だが、ピストルズがそれに触れて無事なわけがない。だからこそ、鈴仙に停止を求めるが……。
「あと、少し、よ……」
ピストルズのダメージは鈴仙にも反映されていく。彼女は全身が既に血で滲んでいた。
「まだ、完成じゃあ……無い、わ」
「レ、鈴仙ェーーーーーン!!! オ、オ前!! オ前ガ先ニクタバッチマウヨォオオ!!」
「ウググッガガガ、ア、熱イイイイ!!! モ、モウ駄目ダ!! コレ以上触ルノハマジニヤバイ!! 鈴仙!! イイ加減ニシネェエート、アンタノ腕モ溶ケチマウッ!!」
「ウエエエエエーーーーン!! 早ク、早ク合図ヲシテクレヨォーーーーー!!」
ピストルズの言う通り、鈴仙の体はどんどん高温になっていく。レーザーで全身炙られているかのような状態だ。だが、それを鈴仙は止めない。
「あと、少し……よ。もう、終わる……から」
「大丈夫ジャアネェエエエーーーーー!! イマニモ倒レソウジャアネェカァアアア!!」
「俺タチモダンダンパワーガ落チテキテイル!! モウ駄目ダ!! ハヤク、合図ヲシロォーーーーーー!!」
ピストルズ達もかなり辛い状況だった。
「……もう……ちょっと……そう、あと、5秒……真の覚悟はここ……からよ……ピストルズ!! 腹を括りなさい……!」
鈴仙はふらふらとしながら告げる。
「5秒……!!」
「長イ!! 5秒ガ長エエエエエェェェーーーーーヨォオオオ!!」
「熱ッチイイイイイイ!!! コゲル、コゲル!! コゲコゲコゲコゲ……」
果てしない、とほうもないほど長い5秒。
鈴仙は超高温の光を受け続けるような地獄を5秒、耐える。
その時間が永遠にも感じられた。
「……永遠、なら……慣れてるわ……私は、永遠亭を……師匠を、妹紅を、みんなを……守るんだ……!!」
鈴仙は最後の最後、倒れかけたのを踏ん張り、目を見開いて天子を真っ直ぐに見た。
「――――発射」
「「「「「「イイイイイイイイイヤッハアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」」」」」」
超高圧のエネルギーが、光速で射出される。
鈴仙の言葉の瞬間に、ピストルズは足でレーザーの方向を天子に向けた。
鈴仙の右足がジュゥウウ!! と焼けこげるが、全身の痛みに比べたら大差はない。
だが、これで終わりじゃあない。鈴仙は『ホワイトスネイク』の肩を借りながら発射されたレーザーを見る。
「……っ!! 『波長』を……!!」
発射されたレーザービームは一瞬で天子の元に辿り着く。もちろん、光速に近いのだ。当然、一瞬で天子を貫くかに思われたが……。
「レーザービームとは面白い、だが……『グリーン・グリーン・グラス・オブ・ホーム』」
天子は小さくそう告げて、スタンドを出した。
届く前に、限りなく小さくすればいい。そうすれば、こちらにはレーザービームであろうと届かないのだから。
「……ん?」
だが、眼前に迫るレーザーは確かにスピードは天子の手前で激減した。しかし、大きさが小さくなることは無い。
レーザービームは鈴仙から放たれて一本の線の様に一瞬で天子まで到達する。だが、鈴仙はレーザーに『波長』を送り続けていた。
「……増幅しろ!! その光線は小さくなることはないッ!!」
そう、波長を操ることでレーザー自体の波長を絶えず増幅させていた。天子との距離が半分になればレーザーの大きさも半分に……だから、それに合わせてレーザーの波長が2倍になるように『増幅』させているのだ!!
「な、ん……!? ち、小さくならない!?」
当然、そんなことをしらない天子は何としてもレーザーを止めようとする。しかし、一向に小さくならない。
ならば、裏返すまで。
「『グリーン・グリーン・グラス・オブ・ホーム』、裏返せ!!」
天子の声と同時にレーザーの前にスタンド像が現れレーザーに触れる。しかし……。
「――光そのものに表と裏は『存在シナイ』。表も裏も全てが『光』だからダ」
『ホワイトスネイク』が告げる。つまり、光は一本の線。裏返ろうと、光は光のままなのである。
「うっがああああああああ!!!」
小さくもならない、裏返りもしない。天子はそれでも、能力を使い続けた。
光に重力をかけ過ぎたのである。
「――――え」
すると、予期せぬ事態が起こった。
一瞬にしてレーザーが消失したのである。
そしてその瞬間、天子の両腕が消し飛んだ。
「――――ッ!!?」
消失したレーザーが何か別の物体に変わっている。
黒い、黒い、渦巻いた、深く、黒い、『何か』だ。
自分のスタンドの目の中のような『暗黒』だった。
「『グリーン・グリーン・グラス・オブ・ホーム』解除!!」
両腕が無いのは自身のスタンドの両腕がその『暗黒』に飲み込まれたからだった。底知れぬ恐怖を覚えた天子は腕の痛みなど忘れてスタンドを本能的に解除した。
解除された瞬間、その『何か』は消えた。だが、天子の腕は戻ってこなかった。
「う、ぐ、あ」
唸るように地面に崩れ落ちる天子を取り押さえる為に妹紅と雷鼓がそれぞれの『スタンド』を出して接近し、天子を牽制する。既に2m圏内に入った。だが、彼女たちの大きさはそのままである。『グリーン・グリーン・グラス・オブ・ホーム』の能力が消えているのだ。いつの間にか捻じ曲がった廊下は元通りになり、その場に残ったのは両腕を引き千切られたかのような状態で地面に伏すみじめな少女の姿だった。
「……」
妹紅と雷鼓は間近で天子の腕を見て強烈な不快感をあらわにする。一瞬とはいえ、人間をまるで『物』のように引きちぎり、捻じ曲げるあのエネルギー。まさに、最凶の名を冠するにふさわしい能力である。
光に対して重力をかけ続けた結果、重力が光のスピードに勝る――つまり、レーザーが天子に『到達しない』とき、それは光さえも逃げられない超重力のエネルギー的な概念へと昇華する。
あれはブラックホールだ。ごく僅かの、ほんの0コンマ一秒にも満たない時間だけ発生したブラックホールは一番近くにあった天子の腕を一瞬で引きずり込み、そして消滅した。
「最終的にブラックホールまで作り出してしまうなんて……何て能力だ……。まるで、この世から出現した物とは思えないな」
被害が天子の両腕のみ、というのは最高の幸運であろう。もう少し、天子が解除するのが遅かったら、天子どころの騒ぎでは無かったはずだ。
「ぐ、あ……い、うう……」
彼女はもう立ち上がる気力さえないのだろう。ただ、痛みに泣きながらその場にうつ伏せたままだった。両腕はねじ切られたせいで出血は無いが、痛みのショックは凄まじいものに違いない。
かわいそうだが、妹紅と雷鼓には天子に何もしてやれることは無い。瀕死の彼女を見ても、助けることは出来ない。
だが、彼女だけは違った。
「何見てるの……!! は、はやく……その子を助けなさいよ……!! ここには師匠がいる……両腕切断程度の応急処置ならきっと訳ないわ……!」
鈴仙は自分の全身の火傷を意に介さず、妹紅と雷鼓に檄を飛ばした。そして永琳を見て
「師匠、まだ……まだ彼女は助かります……。早く、治療を!!」
鈴仙の気迫に幼い永琳はこくんこくんと頷いて妹紅達のもとに駆け寄った。『ホワイトスネイク』も鈴仙に肩を貸しながら
「強いな君ハ……。こんな状況でも他人を優先させるトハ……」
と、言いつつ天子のそばに近寄る。
「……ふふ、……こうしないと……帰って来た時に怒る奴がいるからね……」
鈴仙はとある男のことを思い浮かべて苦しそうにしながらも笑みを零した。
* * *
比那名居天子→再起不能。スタンドは『ホワイトスネイク』に無事回収される。
鈴仙・優曇華院・イナバ→『ホワイトスネイク』によって意識覚醒後、全身に及ぶ火傷という負傷により再び病室送り。しかし、再起可能。
藤原妹紅→全員を守り切る、という使命を達成。
ホワイトスネイク→比那名居天子のDISCを回収、任務完了。
堀川雷鼓→永琳救出という使命を達成。そのまま八意永琳を主人として永遠亭内に残る予定。
永江衣玖→実は空気を読んで仮死状態(天子を焚き付けるための演技)となっていた。八意永琳の適切な治療を受け生還。再起可能。
八意永琳→鈴仙、天子、衣玖の応急処置をし、いずれも一命をとりとめる。
死亡者……0人!!!
42話へ続く……。
* * *
あとがき
これでえくすとりーむ・えんじぇう、もとい比那名居天子編が終わりました。最後若干消化不良な気もしますが、ジョジョ原作の第2部や第4部っぽい感じで締めて頂いた次第でございます。
次回からはまた、妖怪の山に行ったジョルノたちにスポットライトを戻しますね。えくすとりーむ・えんじぇうは番外編みたいなものですので。まぁ、その番外編で何凄まじいバトルをしてるんだって感じですがね。
それよりも、祝!! うどんげちゃん復活!! 原作でもついに本製品が出ましたからね。そりゃうどんげも復活しますわ。そして自分も動けなくなるけど一撃必殺のような技も使えるようになりました。おぉ、こわいこわい。でも多分二度と使いたがらないでしょうね。
また、恒例の早苗さんスタンド予想大会ですが、ヒントがあります。それは……スタンド名が彼女自身を暗示している、という点です。というか、これはまぁこの話の中だけの設定なので、「違うだろ」って思われる方もいらっしゃると思いますがあしからず。いや、でもこれ分かっちゃうんじゃあ無いんでしょうか。意外と二次でこういう感じあるので。
もちろん、いつも通り感想や批評なども受け付けています。評価もたまにはつけて欲しいと思ったりしなかったり……。
それでは、次は42話でお会いしましょう。これからも、応援よろしくお願いします。