ボスとジョルノの幻想訪問記 第45話
青娥娘々の異常な愛情④
霍青娥のスタンド『グリーンディ』で生み出されたカビは宮古芳香のスペルによって『下降している』と勘違いし、ジョルノたちに対する繁殖を際限なく行っていた。このままでは数分と経たない内に全身にカビが回ってしまう。
「なに、この……植物? いや、これは……!!」
異変の元凶に理論と知識に基づき推理したジョルノと違い、チルノは感覚で自分に取りついている緑色の物体を理解する。自然物の象徴である妖精からしてみれば、カビとはいわば毒そのもの。
「う、わあああああああああああああッ!! パーフェクトフリィーーーズ!!」
妖精の存在意義そのものに対する危険を感じたチルノはカビの進行を止めるために全身を一気に凍らせる。てゐ、文、ジョルノに対しても同じように氷を纏わせた。チルノの直感は上手く作用し、寒さこそあるもののカビの進行は停止する。
「さ、ぶッ!! ジョルノ! これも『スタンド』ってやつウサかッ!?」
てゐは全身を覆う氷に肌を震わせながら、何とか声を出す。
「断定は出来ませんが、いずれにせよ危険な能力ですッ!! チルノが凍らせなかったらさっきの大鷹のように僕らもグズグズになってしまっていたでしょう!」
半身を凍らせて、ジョルノは一歩山を登る。
「射命丸文、と言いましたね? あなたのカビの進行はどれくらいでしょうか?」
比較的芳香から距離が離れていた文を見てジョルノは尋ねる。ジョルノの見立てでは文が一番被害が少ないはずだ、と思ったからだ。
「……信用しますか、この私を」
凍り付いた羽を広げながら文はジョルノに尋ねた。
「する。僕たちを信用していなきゃ行えない行動をあなたはした。それが根拠です」
ジョルノは半分氷に覆われた黄金の精神を光らせる視線を文に向けて断言する。
「……予言のお陰でもあるけどね。あなたがここ妖怪の山に来てくれて本当に感謝します。カビの進行は……飛ぶのに支障が出ない程度ですね」
バサッ、と翼を開いて文は答える。ジョルノは十分だ、と言いたげに頷いて一歩。文に近付く。
「僕を山頂まで運んでください」
「えッ!?」
「ちょ、私たちは!?」
その言葉にチルノとてゐが耳を疑った。特にてゐからすれば、身を守ってくれる味方が減るのだ。
「私のこと守るって言ったじゃんか!! 約束を破ろうっていう気ウサ!?」
しかし、ジョルノは「そんなつもりはありません」と言い
「あなたの隣にいる少女では、僕の代わりは務められませんか?」
その言葉にてゐは言葉を詰まらせる。確かに、チルノならばカビと老いに対して完璧なアドバンテージを取れているのだ。逆にこの状況ではチルノの隣にいた方が安全だと言える。
「……ジョルノも分かってんじゃん、アタイのこと」
それを隣で聞いていたチルノは思わず笑みを零す。チルノは文とジョルノを覆っている氷を解除した。早く行け、という意思表示だろう。それに勘付いたてゐはやりきれない表情で首を振って。
「~~~~!! あ~も~! 勝手に行きゃいいウサ!! その天狗が来た時点で道案内の必要もないだろうしねぇ!」
ジョルノと文の二人に背中を向ける。
「……帰ったら、好きな物食べさせます。行きましょう文さん」
「話は纏まりましたか。チルノさん、てゐさん、気を付けてください」
文はジョルノの体を軽々と背負い、一気に飛翔する。芳香のスペルの射程距離を抜け、体に付着するカビはそれ以上の成長を止めた。
「……珍しいわね、てゐ。あんたが人の我儘聞くなんて」
飛び立った直後にチルノはてゐに尋ねた。
「はん、我儘なんてウチの姫様のお陰で慣れっこウサ。そんなことより、あんたはしっかり私の護衛を頼んだウサよ。ジョルノが期待してんだから。……というか、これもうちょっと暖かく出来ない? めっちゃ寒いんだけど」
「我慢してよ。加減なんて難しくて出来ないわ」
「そーゆーとこで融通利かないウサねぇ……まあ、助かってるからそれ以上文句は無いけど」
と、そんな会話を聞いていた芳香は飛び立った二人では無く、目の前の二人を倒そうと考える。
「……『ザ・グレイトフル・デッド』」
「……『エアロスミス』」
芳香が再びスタンドを出すのに合わせてチルノも自身のスタンドを出す。
「私のスタンドにスピードやパワーは無いけど……お前らをこれ以上先に行かせないことくらいは出来るぞー……」
芳香は『グレイトフルデッド』からガス状を霧を発生させる。あの霧が老いる効果の原因なのだろう。
「『老いるとは朽ちること』。青娥は説明してくれた。だから、さっきみたいに一気に老いさせるんじゃあなくって」
「待て、何を……」
と、てゐが異変を感じ取る。地面が揺れているのだ。何か、地震でも起こっているかのように……。
「――――ち、チルノ!! 下からウサ!! 何か来る……!」
その声にチルノが下を向くと同時に、地面が突然隆起する。
「触手……い、いや、木の『根っこ』ッ!?」
ボゴォッ! と触手のような動きで根っこが地面を押し上げチルノに襲い掛かったのだ。ヒュンヒュンと鞭のようなしなやかさを持った根は華奢なチルノの体に横なぎに払われる。
「うぎぇっ!!」
予想外の攻撃にチルノはぶっ飛ばされ、林を抜けて再び滝のあるところまで戻された。
「そ、そうか。芳香は地中を『老化』させていた! 地中の有機物を高速で老化し、肥料を作ったんだ……。さらに、樹木自体も少しずつ老化させることで爆発的に成長させ、ジョルノのような芸当を可能にしているッ! 更に、地中の温度は常に一定以上に保たれるためチルノの冷気で防ぐことも出来ないッ!!」
地中を老化させる。つまりは腐らせる。腐らせるということは、いわば植物を操ることと同義である。しかし、普通そんな器用なことは不可能だが……。
「ゲホッ!! こいつッ!! こんな普段はのんびりした⑨っぽいのに、スタンドを操る技術だけは天才的だッ! アタイ以上に!」
チルノはわき腹を押さえて何とか起き上がる。てゐとの距離はそんなに離れていないため、チルノの氷が剥がれ落ちることはないが、それは芳香との距離も近いということである。
ぎこちない動きだが、芳香はチルノの近くまで迫っていた。
「たーべーちゃーうーぞーーーー」
ウネウネと地面から突出した蠢く木の根を操りながら芳香はチルノを見下ろした。チルノの背後には滝。前方には不気味なモンスター。
「……何だっけこの状況。洪水の陣、じゃなくって……潜水の陣でもなくって……ええっと……」
「……香水の陣かー?」
「……」
「……」
チルノと芳香はしばらく見つめ合った後。
「知ってんだよォォ~~~~~~ッ!! 国語の教師かオメェーはよォォォーーーーーーッ!!!」
「合ってたかー。青娥に褒められる」
チルノは逆切れしながら『エアロスミス』を出して滅茶苦茶に芳香に向けて乱射した。それを芳香は植物を操ってガードする。
ズギャギャギャギャギャギャギャッ!!!
けたたましい銃声を響かせながら、二人の戦いは激化していく。
(……背水の陣、だけど……。教えられる雰囲気じゃあねぇーウサ……)
馬鹿二人の凄まじい攻防に息を呑みながら、溜息をつくという矛盾を抱えたてゐはそう思った。
* * *
文はジョルノを持ち上げ、妖怪の山へと一気に飛んでいく。
(ぐおッ! なんて風圧! なんてスピード! まずい、振り落とされそうだッ!!)
ジョルノは必死で文に掴まっているが、外れた腕で力が入るはずもなく、激痛に悶えながら殆ど両足だけで文にしがみ付いていた。
その様子に気が付いた文は空中で突然停止した。そして両腕がブラブラとしているジョルノに向けて心配そうに声をかける。
「……両腕、外れてるんですか? えっと」
「ぐっ、ジョルノです。……さっきの奴にやられました。何とか動かしたいんですが、どうにもならなくって」
(……そんな状況でよく山頂に行こうって言いましたね)
文は内心そう思ったが、それよりもそんな状況で敵に立ち向かうジョルノの精神に称賛を送った。
「ジョルノさん、私が治しましょうか?」
「えっ? いや、治せるんですか?」
「ええ、まぁグイッと」
「グイッと!?」
文は笑みを浮かべて両腕で謎の動きをした。そんな簡単に肩が戻るならぜひともやってほしいものだが……。
「でも待ってください、肩を入れるのって相当痛いって……」
「泣き言言わないでください。治したいんでしょう?」
あくまでも文は治せるつもりらしい。もし失敗したらそれこそ『痛いじゃすまされない』状況になりそうだが。
「……じゃあお願いします」
ここは文を信じるしかない。どっちみち、治らなくても腕が使えないことには変わりないのだ。ジョルノは決心してそう言った。
そして、その直後に後悔した。
「はい、じゃあ行きますよ」
「……ハッ? ちょ」
ジョルノの体の支えが一瞬で無くなったのだ。
上空100mくらいの場所で。
「―――――ッ!!!」
冗談では済まされない浮遊感。しかも両腕が使えないため霊夢と闘ったときの様に緩衝材を生み出すことも出来ない。というか、そもそも高さの規模が違い過ぎる。ジョルノは一瞬死を本気で覚悟したが……。
ゴキッ、ゴキンッ!!
「ガッ―――!!!」
骨を無理やり接合させるような爆音が両肩から頭に響き渡り、そして尋常ではない痛みが走り抜ける。正直痛みでショック死してもおかしくないレベルだったが、その前の死の予感のせいで痛みどころでは無かった。
「はいっ、治りましたよって……大丈夫ですか?」
その直後に文が再びジョルノを担ぐ体制に戻った。この間は1秒にも満たない早業である。
「やっぱり痛かったですか……?」
「……い、いや……痛みより……あの浮遊感が……もう二度と空中で肩入れなんて御免です」
文は首を傾げた。痛みよりも気になることがあっただろうか? そして、これ以降空中でこんな芸当をする状況は無いだろうに、とも思った。
「……まぁ、無事ならいいでしょう。しばらく痛みは続きますが、頑張ってくださいね」
「は、はい」
今更担って響いてくる痛みにジョルノが耐えながら下を見ると。
既に妖怪の山を全域がカビで覆われている。
「……や、山が」
「……何てこと……? みんなが、このままじゃあ……」
文はその光景に息を呑み、視線を山頂に移した。
「早く向かいましょう、文さん……。一刻を争うでしょう」
「言われなくてもそのつもりです。これ以上好き勝手させるもんですか!」
ジョルノを抱え直し、文は再び全力で飛翔した。これならば数十秒とかからず、山頂に辿り着くだろう。さっきまで二人がいた場所には一陣の風が吹く。
* * *
時は少し遡り守矢神社、境内。霍青娥が優雅に詩を口ずさんでいると……。
「――――あら、お早いお帰りですわね。もう用事は済みましたの?」
飛来し、着地した影に彼女は優しく声をかける。だが、かけられた方の表情に優しさなど微塵もない。
「東風谷早苗さん? どうしたのかしらその右腕は」
わざとらしく青娥は早苗のカビに浸食された右腕を指さした。もちろん、青娥の思惑通りである。これで早苗の腕の半分は制御できたと言っても過言ではない。
「……そんなに死にたいか霍青娥。まさかこんなに早く裏切るなんてな」
東風谷早苗はドスを聞かせた声色で青娥を睨み付けた。もはや、そこに守矢神社の現人神として信仰の対象となっている東風谷早苗の姿は無い。
それを見た青娥は扇子を広げて優雅に笑う。
「ふふっ、怖い表情ですわね。そんなに尖がってちゃあ駄目よ。もっと楽しむような余裕が無いと」
青娥はふわりと浮いて早苗との位置に高低差を付ける。少し早苗より高いだけでいいのだ。それは早苗も重々承知であり、本来なら青娥と相見えるときは彼女よりも高所をキープしなければならないのだが。
「……その必要はない。私が求めるのは楽しさじゃあない」
早苗は一切動じることなく、青娥から視線を外さない。
「ふぅん、じゃああなたの求める物とは一体何かしら? 富? 名誉? それとも、やっぱり信仰かしら?」
「私が求めるのは『真の安寧』だ。心の底から安心できる生活。そんな現実を望んでいる」
その答えに青娥は笑みを零さずにはいられなかった。まるで見当違いな目的だ。それならば早苗の行動はまるで破綻しているではないか、と。
「おかしなことを言うわね。あなたの口は行動とは真逆のことを言うような仕組みになっているのかしら?」
早苗はその青娥の言い分に「貴様には理解できまい」と一言断りを入れる。そして、狂人のそれのような視線を青娥に向け、自身の破綻した行動理由を述べる。
「全てを虐げずにはいられないんだよ、私は。あらゆる人間の上に立ちたい。あらゆる種族を見下していたい。あらゆる生物を管理し、凌辱し、その存在を蹂躙したいって。でも、私には激しい『喜び』はいらない……そのかわり深い『絶望』もない……『植物の心』のような人生を……そんな『平穏な生活』こそ私の目標だったのに……」
早苗は表情に影を落とした。そして言葉を続ける。
「私には『他者を虐げずにはいられない』という『サガ』を持っているが、幸せに生きる『権利』も持っているはずだ。こんな『サガ』と『希望』の同居など不可能だと重々承知だが、それでも私は幸せに生きたいのだ。平穏な生活を手に入れたい……」
言葉を切り、今度は迷いを切り捨てた瞳で青娥を見た。
「貴様は私の求める『真の安寧』を邪魔している。悪い芽は今摘む必要がある」
ザザザ、と早苗の周囲に砂塵が舞い上がる。持っている風祝を青娥に向けて、宣戦布告。
それを青娥はこう受け取った。
「……日本の詩はご存じ? 最近太子様が折に触れて大層気に入ってらっしゃるの。だから私もさっきまで一句作ってたところだったわ」
「……何が言いたい」
青娥の奇妙な言動に早苗は眉を潜めた。
「――人の世に 祀り祀らる 風祝 その身の程や 神も恐れぬ」
次の瞬間、早苗の周囲にある砂が一斉に戦車のような装備をしている獣のような姿になった。
「――『愚者(ザ・フール)』。まさに私への『あてつけ』ということだな。……楽に死ねると思うなよ、邪仙(ユアンシェン)」
「あらあらまぁまぁ、随分と稚拙で低能そうなスタンドだこと。『グリーンディ』、たかだか神の素質があるだけの人間に、『弁え』というものを教えて差し上げましょう?」
第46話へ続く……
* * *
あとがき
大変長らくお待たせいたしました。東風谷早苗のスタンド能力の答え合わせのお時間です。
本編を見たら分かる通り……正解は『愚者(ザ・フール)』です。まさに、この作品の早苗さんを表現したスタンド名ですねぇ。そしてかなり応用の幅が広いです。あとがきの下に早苗さんのスタンド詳細を書いておきます。ちなみに、正解した人は確か二人だったはずです。おめでとうございます! おめでとう……それしかいう言葉が見つからない……。
今まで沢山の予想コメントありがとうございました。本当に最後の最後まで色々な方々が色々な予想をしてくださって、作者冥利に尽きます。時々、「あれ? そっちの能力の方が面白そうだったかな?」みたいに思っちゃったりしましたが、やはり早苗さんは『愚者』のままで行きました。
早苗さん予想スタンドコメント期間が終わってしまったので、適当に誰かのキャラを何のスタンドか予想してみてください(投げやり)。例えば、輝針城キャラの誰々でこんなスタンドにしてよーとかでもいいです。もはや要望ですね。でも要望も勿論ウェルカム。メインストーリーに絡まない範囲で参考にしたいと思います。今回の天子の話みたいになると思いますね。
と、ここまで読んでくださって感謝感激の至りです。次回も一カ月以内の更新はしますので、お待ちいただければと。ちなみに次回は恐らく青娥V.S.早苗回になると思います。
では、46話で。
* * *
東風谷早苗:スタンド『愚者(ザ・フール)』
東風谷早苗のスタンド。砂そのものを操る能力で砂の性質上変幻自在であらゆる姿をすることが可能。自分の姿にしたり、花京院の姿にしたり、声まで変幻自在というチートっぷりである。また、砂のため直接攻撃では全く手ごたえが無いのも特徴。本来の姿は原作とあまり変化は無い。
スタンド:『愚者の奇跡(ザ・ピースフル・フール)』
東風谷早苗のスタンド『愚者(ザ・フール)』に『奇跡を操る程度の能力』を組み合わせることで発現する能力。奇跡的な成分を含んだ砂を操ることが出来る。どのように奇跡的なのかについては早苗と、砂を取り込んだ人間にしか分からない。きっと幸せな幻覚を見たり、猟奇的な悪夢を見たりと早苗の思い通りなのだろう。まさに奇跡の砂である。