ボスとジョルノの幻想訪問記   作:フリッカリッカ

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人間少女の二律背反④

ボスとジョルノの幻想訪問記 第50話

 

人間少女の二律背反④

 

 東風谷早苗と射命丸文は照り付ける灼熱の中、息を切らしながらお互いを睨んでいる。

 

 早苗としては自分にかけられたスタンドの能力……『ヘブンズ・ドアー』をどう解除するべきかについて。文としてはこの体力を否応なく奪い続けるこの環境下で、どうやって早苗を打ち破るのかについて。

 

「……っ」

 

 しかし、文のそんな考えとは裏腹に、林の向こう側からやってくる人影は凄まじいプレッシャーをこちらに向けている。

 

 近付いてきている、八坂神奈子が。恐らくは早苗がさっさと要件を済ませて帰ってこないことに対して不審に感じての事だろう。

 

 ……どうする? 逃げるか? 

 

 背後を振り向いた文は大勢の同胞たちの苦しそうな表情を見て、自分一人だけが逃げるなどという考えを払拭した。

 

「いや、私が皆を守らなくてはならないようですね……!! 『ヘブンズ・ドアー』……」

 

「――くッ、『愚者(ザ・フール)』……」

 

 本になってしまい上手く動くことが出来ず、また攻撃も出来ない早苗に文は命令を書き込もうと近付く。

 

 正直、早苗はどうすればいいのか分からなかった。このままでは逆にこいつに操られてしまう可能性がある。そうなれば神奈子の手を煩わせてしまいかねない。

 

「……ッ!! 射命丸、文ッ!! 貴様の好きには……」

 

 何とか引き摺るようにして文から距離を取る早苗だが、その動きは非常に緩慢だ。

 

「逃げようったってそうは行かないわよ……あんただけでも……!!」

 

 と、文があと数センチまで早苗に肉薄したところで……。

 

 ズボォッ!! と、文の足元の地面が深く陥没した。

 

「――――ッ!? 落とし穴!?」

 

「『愚者』を地面に通して貴様の通るであろう地面を砂にした……! これは攻撃では無く単なるトラップだ。貴様の能力は不明だが、これなら……」

 

 文が足を取られた穴は深く、流砂となって地中へと文を引きずりこもうとする。既に暑さで消耗していた文にとってこの罠は非常に効果的だった。地中へ埋めることは敵わずとも、文の動きを完全に止める事は可能だ。

 

「く、あ……もう、体力が……ぁあ……」

 

 力を手に込めてもそこは砂。踏ん張りがきかず、堂々巡りを続けていた。対して早苗も、それ以上の危害を『ヘブンズ・ドアー』によって禁止されているため、ただその様子を見ているしかなかった。

 

 そして、遂に神奈子が林の入り口までやってきた時。

 

 

「神奈子ぉー!! あったよ、『矢』だ! これでようやく私たちの……」

 

 

 神社から全裸のまま出てきた諏訪子が初めてこの不安感に気が付いた。

 

「――――神奈子?」

 

 何かがおかしい。照り付ける太陽のせいだとしたら、どれほど良かったことだろうか。だが、原因はそうではない。

 

 諏訪子は大地に手を当てた。ジュゥ、と熱された鉄板のような熱を持った地面だが、今更そんなことを気にしている場合では無い。

 

「――――何?? これ……」

 

 山の生命が、全て静まり返っている。

 

 その瞬間、諏訪子に今まで感じたことのない眠気が襲ってくる。視界は大きくぐらつき、そのまま地面に倒れる。

 

 暑い、いや。それ以上に、何だこの眠気は?? 絞り出した「神奈子」という声もきっと彼女には届いていないだろう。

 

 八坂神奈子も既に意識は無い。彼女はその場に崩れ落ち、眠りにつく。

 

 射命丸文も、東風谷早苗も例外なく、意識を手放し深い眠りについた。

 

「……」

 

 そのまま諏訪子は目を閉じた。全ての生命が静寂を迎え入れた。

 

 

 

 ――山を下っていたてゐも、山の緊急入院施設の者たちも。

 

 ――永遠亭でジョルノたちの帰りを待っている鈴仙、永琳、輝夜、雷鼓、妹紅も。

 

 ――墓場まで戻ってきていた邪仙とその忠実な死体も。

 

 ――人里に住む人間、妖怪問わず。

 

 ――そして博麗神社で空を眺めていた紅白の巫女でさえも。

 

 

 

 

 

 幻想郷と生けとし生ける者が全て、眠りについたのだ。

 

 

 

*   *   *

 

 過去に捨てた罪。

 

 あの命を懸けて旅をしてきた9日間。

 

 僕は一度たりとも仲間を見捨てたことは無い。

 

 仲間の一人にその信念を「甘え」だと言われたこともあった。

 

 だが、僕は信念を曲げず、最後まで戦い抜いた。

 

 アバッキオは奴の存在の手がかりを示してくれた。

 

 ナランチャは奴の能力の恐ろしさを示してくれた。

 

 ブチャラティは奴を倒す方法を示してくれた。

 

 捨てたなどと一度も考えなかった。

 

 彼らの死は犠牲では無い。

 

 彼らの覚悟は僕が受け継ぎ、奴を倒す――――。

 

 

 ――――はずだった。

 

「ぐうぅう、う、う……ああああああッ!!」

 

 彼の全身に纏わりつく感触は、まさに人間の腕と何ら変わりないものだ。これは幻覚では無い、現実だ。

 

 守矢諏訪子の能力によって実体化した過去だ。

 

 そして彼らは耳元で囁く。

 

「……ジョルノ、お前さえ、お前さえしっかりとしていれば……」

 

「『矢』のパワー、その恩恵を手にすることが出来る強靭な『黄金の精神』をお前が持ち合わせてさえいればなぁぁぁ……」

 

「何でだ、どうして……うう、苦しい……ジョルノ」

 

「助けて、まだ、死ぬのは……」

 

 かつて生死を共に潜り抜けてきた仲間たちの悲痛な叫びが彼の脳みそへと刷り込まれていく。

 

 思い出すべきでは無かった記憶だ。だが、忘れていたことは更なる罪だ。

 

 思い出したことで彼の認識はそう移り変わっていく。

 

「記憶が……無くなったのは僕のせいだったんだ……! 僕の精神が、弱かったからだ……うぅ、げほ……」

 

 ジョルノは恐怖と後悔で声を震わせ、涙を流しながら懺悔するように呟いた。

 

「――――どうして俺たちを裏切った?」

 

「――――俺たちの覚悟を裏切った?」

 

「――――俺たちはお前を信じていた」

 

「――――嫌だ、嫌だ、嫌だ」

 

 耳を塞ごうとも、彼の罪達は囁き続ける。

 

「……ち、畜生ッ……!! うぅ、あああ……」

 

 振り解こうにも上手く体に力が入らない。そのうち、彼に纏わりついていた『過去』は形状を変え、半透明のフィルムの様になり、ジョルノを拘束していく。

 

「な……これは……う……」

 

 だが、彼に抵抗の手段は残されていなかった。口を覆われ、口からの呼吸が不可能になり、次第に鼻も閉じられていく。しかし、そのことについて彼は恐怖していない。むしろ、このまま窒息したほうが罪から逃れらると思ったのだ。

 

 

「――――無理ダ。君ハ罪からハ逃れられない」

 

 

 その絶望的な希望も、『シビル・ウォー』によって打ち砕かれる。

 

「君ハ死ぬこともないシ、逃げることも出来ナイ。私がここにいる限リ、君の過去は無限に君ヲ呪い続けるだろう。例外は無い」

 

「……ッ!!」

 

 終わりが無い。無限とはそういう意味だ。

 

「終わりが無いのが終わり、罪を忘れた君ニハ当然の報いだと言えヨう」

 

 『シビル・ウォー』は声色を変えずに無慈悲にそう言った。

 

 しかし――――。

 

「……今」

 

 口をふさがれたジョルノが確かに言葉を発した。

 

「何と言った?」

 

「……?」

 

 いつの間にか、ジョルノ・ジョバァーナの瞳に力が戻っていた。

 

「……終わりが無いのが終わり、ダ。それがどうした?」

 

 『シビル・ウォー』は身動きが取れないジョルノを見て首を横に傾ける。

 

「その前だ。『例外はない』と、確かに言ったな……?」

 

 その通りだ、と『シビル・ウォー』は思った。だが、答えなかった。

 

 この短時間のうちに、まさか気が付くとは思わなかったのだ。

 

「……あの蛙女は例外じゃあないのに、『過去』に縛られていなかった。だったらその理由は何だ?」

 

「……貴様」

 

 『シビル・ウォー』はそれしか言わなかった。否。そうではない。

 

「お前自身に戦闘力は無い。焦っているのか??」

 

 ジョルノの目から見てもはっきりと分かるほど、『シビル・ウォー』は動揺していた。

 

「もういい、『シビル・ウォー』。十分だ」

 

 ジョルノはただそれだけ言うと、『ゴールドエクスペリエンス』を出した。目的は能力を使うためでは無く、ある物を引き寄せるためだ。

 

「例外ではないなら、あの守矢諏訪子にも過去の罪がおっかぶさるはずだ。だが、そうはならなかった。一定の距離を取ってそれ以上近付かなかった。『なぜなのか』?」

 

 『GE』が手を伸ばして引っ掴んだのは先ほどまで諏訪子が使っていたホースだ。

 

「……いいのか? 僕の行動を黙って見ているだけってのは。お前の目的は足止めだろう?」

 

「……私にはこれ以上出来ルことは無い。貴様の勝ちダ」

 

 まるで溜息を付くような――スタンドがそのような行動を取るとは思えないが――何かを悟ったような声を上げた。

 

 

「―――罪は水で清めることで、『洗い流せる』」

 

 

 ジョルノは『GE』のギリギリの射程距離を用いて蛇口を捻った。

 

 ――――水は出なかった。

 

*   *   *

 

「何……だとッ……!? 水が出ない、これは!!」

 

 ジョルノの表情が焦りに変化する。この水さえ出ていればおそらくは『シビル・ウォー』のこの呪縛から逃れることが可能だっただろう。

 

「何と、まァ。恐らくは我が主人の諏訪子が気を利かせテ水道管を破裂させたノだろう。と、言ってモ外は神奈子のスタンドによって全ての水分ハ蒸発してしまっているだろうがナ……」

 

 ホースから水が出ないことに驚きつつも、『シビル・ウォー』は達観した口調でそう述べた。

 

「残念だったナ、ジョルノ・ジョバァーナ。せっかくの脱出手段が見つかったノニな。どちらにせよ、貴様がここで衰弱し息絶えようト、外に出てあの二人を同時に相手しようと、死ぬ運命には変わりナイが……」

 

「……」

 

 ジョルノは黙っていた。もう打つ手がない。この状況を打破する有効打が見つからない……。

 

「……何だ、何故こちらを見ている? 私の顔に何か付いているノか?」

 

「……違う、良く喋る奴だ、と思っていただけさ」

 

 ……わけではない。ジョルノの目には敗北感など宿っていなかった。

 

「蒸発、水分が蒸発する。これほど素晴らしい条件は無いでしょう」

 

 そう呟いたジョルノの言葉の意味を『シビル・ウォー』は理解しきれなかった。

 

「何の話だ?」

 

 ジョルノの言葉を一つ一つ整理してみるも、蒸発した水というのは今の状況では全く役に立たない、ということしか分からなかった。

 

 そんな絶望的な極限状態において、何故ジョルノ・ジョバァーナが不敵な笑みをたたえ、そのような言葉を発せるかが分からなかった。

 

 だから、彼には尋ねる事しか出来なかった。

 

「気でも狂ったのカ? 水は蒸発してもう無いのダ。貴様が逃れる術はもう……」

 

「水は蒸発しても『そこにある』ぞ? 『水蒸気』として存在している」

 

 と、ジョルノの頬に1匹の小指の先程度の大きさの甲虫が止まった。見た目はゴミムシのような感じで……。

 

 その体表面は水で覆われていた。

 

「……!? 何だその生物ハ? 何故、水を纏っている?」

 

 ジョルノの頬にその水分が移動すると、その箇所が『シビル・ウォー』の呪縛から解放される。その効力はごくごく小さなものだったが……。

 

「知らないのも無理はない。これはアフリカの砂漠にしか存在しないサカダチゴミムシダマシという昆虫だ。この虫は環境の厳しい砂漠で生き残るために特殊な構造をした『甲殻』を持っている」

 

 ジョルノが説明を始めるとブゥ~ンという羽を高速で動かす音が辺りから聞こえはじめる。見ると、周囲から同じような甲虫が何匹も姿を現していたのだ。そいつらはあの1匹と同じように体表面に水分を纏っていた。それら全員がジョルノの元に群がり、そして離れていく。

 

「水分をはじく性質を持った甲殻に非常に細かい溝が掘られている。その特徴的な甲殻に水蒸気となった水分を集めて、口まで運ぶことが可能だ」

 

 次々に、次々に甲虫は寄って集ってを繰り返し、水をジョルノの元へと運んでいく。

 

「そうして水蒸気から水を獲得できる。水道管を止めて蒸発させて水を無くすという方法……むしろ、地面に染み込ませていた方が僕は困っていたかな」

 

 そう言い終えると同時にジョルノは呪縛から解放される。そして『シビル・ウォー』に面と向かって言い放った。

 

「忘れていた罪は思い出した。だが、僕はそれらを受け止めよう。お前の言う通り罪は償わなくてはならない。かと言って、ここで一生束縛されることが罪滅ぼしになるとは思えない」

 

「……なら、どうすル?」

 

「……思えば」

 

 と、ジョルノは言葉を噤んだ。これまで起きた全ての物事は、そう。

 

「思えば、この幻想郷に来たのも僕のこの罪を償うための『冒険』なのかもしれない」

 

「……何故そう思う?」

 

 『シビル・ウォー』にそう問われる。

 

 いや、ジョルノは確信していた。これはまさに彼の過去の罪との戦いであるということを。

 

 確信の所在は一つ。

 

「ディアボロ、奴がここにいる」

 

 ジョルノはそう言って、出口に向かう階段へと向かった。

 

 やるべきことは、ただ一つだった。

 

*   *   *

 

 ジョルノが外に出ると同時に、その違和を感じ取る。

 

「……何だ、一体……。何が起きたんだ……?」

 

 辺りが異様なほど静まり返っているのだ。まさかもう文達天狗衆は殺されてしまったのか? という考えが首をもたげてくる。

 

 しかし、ジョルノのその考えはすぐに頭から消え去った。

 

「……守矢諏訪子?」

 

 神社前の広場で倒れている全裸の幼女の姿だ。だが、その様子がどこかおかしい。

 

「――――ッ!?」

 

 近くで見ると、その左胸が深く、大きく抉られていることが分かった。

 

 『ゴールドエクスペリエンス』で生命エネルギーを確認するが、既に彼女は絶命している。

 

「……だ、誰が!? 文さん……か? いや、それよりもッ!!」

 

 ジョルノは周辺を探した。しかし、無い。

 

 あの、『矢』がどこにも存在しない!!

 

「矢が、失われている……!」

 

 あれは守矢諏訪子が言っていた通り、ジョルノの過去から発掘された物体だ。何故、矢だけが現実として出てきたかは分からない。だが、あれを他人の手に渡らせてはならないということは直感で理解していた。

 

「……誰か、誰かいないのか!?」

 

 ジョルノは叫ぶも誰からも返事は無い。キョロキョロ、と見渡すと林の入り口で誰かが倒れているのを発見できた。

 

「……クソッ!!」

 

 急いで倒れている人間の方に向かうも、嫌な予感が彼の脳裏を掠めていた。

 

「……!! 八坂、神奈子……」

 

 その姿は彼女にそっくりだった。だが、既に八坂神奈子では無い。

 

 彼女も守矢諏訪子と同様に左胸が大きく抉られ、絶命していた。

 

「……はッ!!」

 

 顔を上げると東風谷早苗と天狗たちの姿が確認出来た。だが、その全員が倒れて起き上がっている者は一人もいない。

 

「……ま、さか……」

 

 東風谷早苗、彼女も例外なく左胸を抉られて絶命していた。

 

 しかし、天狗たちは無傷のままだ。

 

「……?」

 

 まさか、天狗の中の誰かがこのようにしたのか? ジョルノの脳内には疑問符が浮かび上がる。

 

「……う、ん……?」

 

 意味不明な状況の中、一人の天狗の少女が呻き声をあげた。どうやら彼女は生きているらしかった。すぐにジョルノが近付いて介抱を始める。

 

「大丈夫ですか? 一体何が起きたのか……」

 

「……ん? ふわぁあ……あなたは……」

 

 彼女は気怠そうに欠伸をした。寝起きの様にも見えた。だが、ジョルノの顔を認識するなりバッと上体を起こして。

 

「ジョ、ジョルノさん!? い、一体私は……じゃあなくて、東風谷早苗は!? 八坂神奈子は!?」

 

 と、戦闘態勢を取った。その突拍子もない行動にジョルノは「ちょっと待ってください」と諫める。

 

「え? ジョルノさん……ですよね? まさか、守矢諏訪子だけじゃあなく、あの二人も纏めて倒したというわけですか?」

 

 目の前の見知らぬ天狗の少女が何かを口走っている。まるで、これまでの事の顛末をすべて知っているかのような口ぶりだ。

 

「……いや、整理しましょう。落ち着いてください。まずいいでしょうか?」

 

「……どうされたんですか、そんなに畏まって」

 

 こちらはそっちの名前も知らないのだ。状況の整理の第一歩として、まずはこの少女とコミュニケーションを取らなくてはならない。

 

「えぇと、まず貴方の名前を教えてください」

 

 そのジョルノの問いかけに目の前の少女は「はて?」と首を傾げた。

 

 そして、さも当然のように以下の様に述べたのである。

 

 

「……まさか、私のことを忘れたんですか? 清く正しい射命丸文のことを」

 

 

 嘘はついていない。彼女の瞳はそう物語っていた。

 

*   *   *

 

 同刻、永遠亭―――――。

 

 静寂の中、最も早く目を醒ましたのは藤原妹紅だった。

 

(……? なんだ……ったんだ? 今のは……。私は……)

 

 上体を起こそうとした時、彼女は全身に及ぶ痛みを感じる。

 

 まさか、攻撃を受けたのか?

 

(敵が……いるかもしれない……み、んな……)

 

 この程度の痛みならばすぐに回復する、と思っていたがどうにも回復が遅い。何とかしてまずは状況を確認しようと右を向くと、鏡があった。

 

 どうやら病室にいるらしい。だが、鏡に自分の姿は無く、鈴仙の姿があった。

 

「……鈴仙? 起きてる……のか? ……どうした、口を動かし……」

 

 と、ようやく言葉を声に出したところで彼女は不自然に気が付いた。

 

 自分の内側から鈴仙の声が聞こえるのだ。

 

「ち、違う……!! 鏡の動きと……、この声!! 私が『鈴仙』になってるのか!? どうなってるんだ……!!!」

 

 訳の分からない突然の現象に汗を流す彼女の元へ、どたどたと大きな足音を響かせて妹紅の姿をした人間が入ってきた。そいつは病室に入るなり、口をパクパクさせて妹紅を指さしたのである。

 

「「わ、私が、私がいる!!」」

 

 二人は同時に声を出した。

 

*   *   *

 

 同刻、博麗神社――――。

 

「霊夢!!」

 

 凄まじい大声が博麗神社に響いた。

 

「何よ……萃香。せっかく人が気持ちよく寝てたっていうのに……あれ、私何で寝てたんだっけ?」

 

 いまいち状況が把握しきれていない霊夢は突然の来訪者、伊吹萃香の大声に頭痛を覚える。

 

 だが、今一度思い返すと、萃香の声では無かった気がする。確かに霊夢の事をこんな大声で呼ぶのは萃香に他ならない。だが、声色が違って……。

 

「ん?」

 

 彼女の顔を覗きこんでいたのは自分自身だった。

 

「……あぁ、最近疲れてんのね。年かな……」

 

「違うぞーー!! 確かに疲れた顔してるけども、これは異変だよ!!」

 

 と、霊夢の姿をした人間は手鏡を取り出して彼女に突き付けた。

 

「ほら!! 霊夢よく見て! あんた、私になってんだよ!!」

 

「……うるっさいわねぇ……そんなことがある……はず……?」

 

 だが、霊夢は今の言葉を撤回するだろう。

 

 目の前に映っていたのは間違いなく、伊吹萃香の顔だったからだ。

 

「……タンマ。ちょっと、何これ? 異変……よねぇ。紫はいるかしら?」

 

 頭を押さえて霊夢は萃香に尋ねた。

 

「紫なら見てないけど……」

 

 と、萃香が答えたところで

 

「あら、お呼び?」

 

 目の前にスキマが空いて八雲紫……では無く八雲藍が姿を現した。その両脇には橙と紫がいる。本来逆であるはずの構図が展開されていた。

 

「……察したわ。面倒なことになってるのね」

 

 霊夢は溜息を付いた。萃香の頭の上には疑問符が浮かんでいるが……。

 

「お察しの通り、私たちもついさっき気が付いたわ。不意の睡魔というか……抗いようのない力によって強制的に眠りにつかされたのよ。そして目が覚めてみるとこのように、精神が入れ替わっていた。私は藍に。藍は橙に。そして橙は私に」

 

「……何だか訳が分からないわ。面倒だから紫に話しかけても?」

 

 と、萃香の姿をした霊夢は紫の姿をした橙に話しかけた。

 

「え、ええ!? 私っ?」

 

「冗談よ。で、藍……というか紫……ええい、ややこしいわ。この影響はどこまで広がってるの?」

 

 霊夢の言葉に紫は目を細める。そして、やれやれだわ、と言いたげに畳んだ扇子を額に当てて。

 

「……幻想郷全土よ。森も、山も、人里も、地底も、全て」

 

 霊夢は再び頭を押さえた。その手に感じた不自然な感触は鬼の角だった。

 

 

第51話へ続く……

 

*   *   *

 

あとがき

 

 お疲れさまでした。中途半端ですが、第2章風神録編が幕引きとなります。

 

 これ以降の話は第4章(おそらく最終章)になりますね。第3章はディアボロ側の地底の話です。

 

 何かどこかで見たことのある現象が発生してますね。一体何オッツレクイエムなんだ……。(文章にすると意外と混乱しません。絵にすると多分すっごいごちゃごちゃした話になりそうですが)

 

 霊夢たち結界チームも異変となっちゃあ本格的に動き始めそうですね。一体誰がこんな異変を(棒読み)!

 

 ということで、次回から第3章に入っていきます。幻想郷のアンダーグラウンド、地底に向かう現実世界の闇の帝王。また色々なスタンド使いも出す予定なので乞うご期待です。

 

 ではまた。

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