ボスとジョルノの幻想訪問記   作:フリッカリッカ

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第3章 【タイトル未定】
真紅の王、氷上の姫


ボスとジョルノの幻想訪問記 第51話

 

真紅の王、氷上の姫

 

 ジョルノ達が妖怪の山へと赴く丁度一日前。

 

 そう、記憶を改竄された神奈子と諏訪子が永遠亭に訪れた日である。

 

「準備はいい? 今を逃すと貴方がここから出る術はないわ」

 

「……問題ない。やれ」

 

 完璧で瀟洒な復活を果たした元メイド、十六夜咲夜の問いに彼は何の不服もなく答える。

 

 それを合図に咲夜が時を止めた。時を止める直前にディアボロは自身のスタンド『キングクリムゾン』を出す。時を止める直前に『キングクリムゾン』がいないと彼はこの世界に入門することが出来ない。

 

「幻世『世界(ザ・ワールド)』」

 

ドォーーーーーーーz______ン!

 

 世界の全てが彼女を中心に静止する。それに抗えるのは彼一人だ。

 

「では行くぞ、咲夜」

 

 彼は不本意だが、咲夜のことを名前で呼んだ。そうしろと咲夜が取引をしたからである。こんなものは単なる口約束でしかないが、咲夜を徹底的に道具として用いるためだと割り切っている。

 

「はい、了解したわ」

 

 どことなくにこにこ笑顔でご満悦な咲夜はディアボロの後をついて行った。咲夜にとってはディアボロだけが自分だけの世界に入ってこれる唯一の存在で、それこそが理解者たる所以だと思っている。

 

 もちろんディアボロにそのようなつもりは毛頭無い。ただ咲夜という駒を利用しているに過ぎない。

 

(ーーーーそんなこと、薄々分かってるわ)

 

 もうそろそろ28歳を迎えようとする彼女は、それが理由で彼を諦めることなど出来なかった。

 

 自分だけを愛してくれる王子様など、どこの世界にも存在しない。そんなのに憧れる少女マンガのような恋は少女のうちに卒業した。

 

 たとえ自分を見てくれなくたっていい。理解者だというのも自分の思い違いで十分だ。

 

 尽くすに値する男性を初めて身近に得られたのだから。

 

*   *   *

 

 無事に咲夜とディアボロは誰に気付かれることなく永遠亭を出発した。目指す場所はパチュリー・ノーレッジが向かったとされる地底である。地底入り口は幻想郷の東の端、博麗神社の麓にひっそりと口を開けた小さな洞穴である。

 

 永遠亭からの距離はかなりある。しかし、咲夜の時間停止は何度も連続で使用できるものではなく、常に時間を止めながら移動などしようものなら30分足らずで咲夜は廃人となるだろう。

 

 よって二人は徒歩で移動するほか、地底にたどり着く術を持たなかった。

 

「スタンド使いは引かれあう。俺が外の世界にいたとき、俺の組織には弓と矢で生み出したスタンド使いのほかに、何名か生まれながらのスタンド使いがいた」

 

 出発前のディアボロの言葉を咲夜は思い出す。

 

「つまり、我々が二人で動けばいづれ別のスタンド使いが現れるだろう。我々に向かってくる人間や動物、妖怪は全て敵スタンド使いだと仮定して行動するべきだ」

 

 言い換えれば近付くもの皆排除せよ、ということだ。

 

 今二人は竹林を抜け、人里を迂回するルートで地底入り口へと向かっていた。周囲は木々で囲まれており、一応道らしきものはあるが、足跡などはなく人通りの少なさが伺える。

 

「……」

 

 その時、咲夜は視界の端で動く物体を捉え、瞬間ナイフを投擲する。

 

「ビギィー!」

 

 直後に鳴き声が響き、二人の横に小さな鳥が地面に落ちた。

 

「こーゆー小動物もスタンド使いなわけ?」

 

「そういう可能性もある。俺が飼っていたココ・ジャンボという亀もスタンド使いだった」

 

 地面に横たわる小鳥は首の部分が半分ほど切断されており、即死であった。筋肉の痙攣でぴくぴくと動いているが、治療の余地もないだろう。

 

「……いいわ、行きましょう」

 

 果たしてここまで細心の注意を払う必要があるのか? と疑いつつ咲夜は案内を再開する。

 

 

 しばらく経って、とある妖怪がこの鳥の死骸を発見した。

 

「……誰? こんな酷いことしたの……」

 

 悲しそうな表情を浮かべて死んだ鳥を優しく持ち上げ、頬に当ててその小さな命を慈しむのは、ミスティア・ローレライだった。

 

「……許さない、許さないわ!」

 

 悲しみでしおれていた羽を大きく広げてミスティアは歌う。

 

 聞けば人を魅了する妖気を帯びた歌。しかし、その歌は人を惑わす為ではなく、自分の同胞を集めるため。

 

 数十秒もすれば彼女の周りには何百匹という夥しい数の鳥が集まってくる。

 

「私の可憐な同胞たちよ! 彼女を殺した奴は我々鳥類を侮辱した! 下すべきは天誅よ! この子を殺した犯人を捜しなさい!」

 

 彼女の合図で集った鳥達は一斉に散らばった。周囲に怪しい人間がいないか、調査するためだ。

 

 死骸が残っているあたり、これは単なる悦楽による殺害だ。妖怪のせいならば死骸は残らない。食うためだからだ。これは計画殺人だ。いや、鳥か。何にせよ、残虐性十分! とっつかまえて、玩具にして、そして最後は食べて殺そう。

 

 ミスティア・ローレライは堅くそう誓った。

 

*   *   *

 

 ーーーー地底。幻想郷の全てのアウトロー達が何故か引き寄せられる場所だ。その薄暗く、どことなく不愉快な雰囲気を纏った巨大な地下空間の奥に一つの都市が存在する。

 

 そこが旧地獄都市、通称旧都である。主に種族的に混沌・悪に分類されるような妖怪が多く住み着き、また、強い恨みを残した死者の霊魂である怨念も多く漂っている。

 

 しかし、ここに住む多くの者達は口をそろえて言うだろう。「ここが俺たちの桃源郷だ」と。彼らに言わせてもらえればここは非常に住みやすい場所だ。気兼ねなく、自分たちの過ごしたいように日々を満喫できる。飲んでは酔い、酔っては飲む。

 

 ーーーーだから、そんな空間に当然彼女はそぐわなかった。突然道ばたに放り出され、右も左も分からない。乏しいコミュニケーション能力をフル活用しても、彼女は寝床どころかろくな魔力供給源も得られなかった。

 

 当然だ。パチュリー・ノーレッジは100年以上、あの図書館にほとんど引きこもっていたのだから。

 

「……ぅ」

 

 魔力がわずかに漏れ出ている霊脈にボロ雑巾のように放置されている魔女。そこは腐臭漂う飲食店街の裏路地である。端から見れば少女が飢餓で苦しみ残飯を漁りながら延命しているようにしか見えなかった。もともとから死人のような目をしていた彼女は既に死体だと間違われても仕方のないレベルだった。

 

「……にゃ」

 

 路地裏をたまたま通りがかった地獄の火車、火焔猫燐がそのパチュリーの姿を見て運ばないわけがなかった。燐は死体運びを生業としている妖怪である。既に火車には地上からかっぱらってきた人間の死体約50体がこれでもか、といった風に押し込まれており、比喩ではなく死体の山を築きあげていた。

 

 最後にプラス1体、ラッキーラッキーという程度に考えていた彼女はにこりと微笑んでパチュリーに近付いた。もちろん、山の頂に据える51体目の死体とするためだ。

 

 

 荒い鼻息が近付いてきている、とパチュリーは気が付いた。焦点の合わない視線を向けると、どうやら化け猫の類なのだろうか。黒い猫耳を生やし、周囲に鬼火を浮かべた妖怪がいた。そしてどうやらただ者ではないらしい。

 

 あふれ出る妖気からその力のほどが伺える。単純な妖怪としてのパワーなら美鈴と比肩するだろう。華奢な体つきをしているが、それは殆ど無駄のないアスリートのような美しさである。残念なことに胸は自分より控えめのようだ。

 

「……」

 

 と、パチュリーは背後にある台車に目を留める。大量の動かない人間が積まれているのを見て察した。なるほど、彼女は火車の妖怪か。別名死体運びと呼ばれる妖怪だ。人間の墓を暴いて埋めてある死体を回収し、地獄へと運ぶ役目を担っている。

 

 だが、もし彼女が火車の妖怪だとしたら一つ矛盾点がある。それは美鈴と並ぶほどの妖気をたかが火車の妖怪である彼女が持っていることである。本来ならあり得ないのだ。

 

 この矛盾点を納得するように説明するには、こいつ自身が特別強い火車であるかーーーー。

 

 こいつの住処が相当エネルギーを持った土地であるか、だ。

 

「~~♪」

 

 彼女は鼻歌交じりにダンベルより軽いパチュリーの体を持ち上げて火車に乗せる。そしてそのまま路地裏を後にして、跳んだ。

 

 彼女にとって手押し車は飛行する媒体である。飛び上がる瞬間、パチュリーは強い浮遊感を覚え、何事か、と目を見開いた。

 

「ーーーーっ」

 

 見れば旧都の眠らない街が眼下に写る。本棚より高所に上がったことのない彼女からすれば、この光景には鳥肌が立っただろう。

 

「んにゃ??」

 

 一瞬死体が動いたと感じた燐だが、さっきの少女の死体は動く気配も無い。大方自分が飛び上がった衝撃で山が崩れそうにでもなったのだろう。彼女は気にすることなく自分の家へと戻っていく。

 

 地底で一際豪華で、一際人の気配がない、地霊殿へ。

 

(……何にせよ、これで私の魔力供給は滞りなく行われるはずだわ。それにしたって、あのスキマ妖怪はどうして私のこんなところへ……)

 

 死んだふりを続けるパチュリーは顔も見せず自分をここに強制送還した紫のことを思い、ため息を着く。

 

 ここにレミリア・スカーレット復活の手がかりがあると言うのかしら?

 

 

*   *   *

 

 ミスティア・ローレライの同胞は彼女の命令により幻想郷中を散開し怪しい人物を捜していた。

 

 そのうちの数匹がミスティアから1500m以上離れた地点に二人の人間を発見していた。人間の男女である。二人とも背が高く、そして底の知れない雰囲気を出していた。明らかにこの二人が怪しいと鳥達は思い、出来るだけ接近して明確な証拠を探し始める。

 

 次の瞬間、鳥達は視界が暗くなる。そして自身の体が突然軽くなる。更に、どういうわけか翼を動かす感覚がなくなり、地面へと墜落していく。

 

 首の辺り。頸椎から気道にかけて。深く鋭利な切れ込みが刻まれている。あまりにも一瞬の出来事で、異常なまでのナイフの切れ味の良さから、出血は忘れているかのように押さえられている。

 

 ふらり、ふらりと同胞達は地に沈んでいく。地面に落ち、しばらくしてからゴボォと切れ込みから大量の血が噴き出し、周囲を赤く染めていった。

 

「……多いわね。異常だわ」

 

 8匹目の鳥獣を切り落として咲夜が呟いた。これ以上は殺しても無意味というか、逆に自分たちにとって不利益しか生み出さないように思えてくる。

 

 殺すことによって仲間を集めてしまっている気がするのだ。

 

「ディアボロ。あなたは近付くものを全て排除しろ、と言ったけど……これ以上は逆に危険だわ。私たちがここにいることを示している。まさかとは思うけど、こんなにも鳥達が寄ってくるなんて……」

 

「……確かにな。失策だったか……?」

 

 と、ディアボロ先ほど息絶えた鳥を見て舌打ちをした。初めに殺した鳥の大きさは雀と大差なかったのに、この鳥の大きさはカラス以上だ。段々、体長が大きくなってきているのである。

 

「何かが近付いてきているわ。明確な個体ではなく、群体で」

 

 先ほどから鳥達が向かってきている方角ーーーー自分たちが今まで歩いてきた方向を見て咲夜はディアボロに告げた。

 

「……いや、『キングクリムゾン』」

 

 ディアボロは『キングクリムゾン』を出した。臨戦態勢である。

 

 一気に咲夜の全身に緊張が走った。既にディアボロは敵を捉えている。どこだ? 一体どこにーーーー?

 

「上だ」

 

 瞬間、数匹の隼が二人の喉元に爪を立てようと急降下。既に『キングクリムゾン』の未来予知で隼がくることを予知していたディアボロは能力を発動。

 

「時を0.5秒だけ吹っ飛ばした。お前等下等生物には急降下したという結果だけが残る……!」

 

 気が付けば、隼は既に上空へと飛び立つ瞬間であり、自分が何も抉っていないことに違和を感じながら飛翔。

 

「スタンドを使ったのね。隼の攻撃を無効にして……、ということは」

 

 咲夜とディアボロは同時に上を見た。そこには飛翔する隼達の向かう先に人影があった。

 

「……お前等か。私の大切な同胞を殺したのは……!」

 

 明らかな殺意を持って、ミスティア・ローレライはその美しい翼を大きく広げた。

 

 眼下の二人は必ず殺す。魔性の雀鬼は周囲に弾幕を浮かべてゆっくりと地面へと降り立った。

 

 

 ……第52話へ続く

 

*   *   *

 

 あとがき

 

 大変長らくお待たせしました、第3章に突入です。

 

 第3章は第2章でジョルノ達が妖怪の山を攻略している途中のお話になります。ディアボロ・咲夜サイドですね。

 

 早速犠牲者が増えそうな予感ですが、どうなるんでしょうか、彼女。

 

 出来る限り投稿ペースは早めていきたいですね。では52話でお会いしましょう。

 

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