ボスとジョルノの幻想訪問記   作:フリッカリッカ

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光陰邪の如し①

ボスとジョルノの幻想訪問記 第52話

 

 光陰邪の如し①

 

 展開された弾幕の数は彼女が引き連れいている鳥獣と同じ数である。それぞれの同胞に彼女の弾幕は手渡され、彼女のコントロールに鳥獣達の超反応が加えられる『回避する弾幕』が出来上がる。

 

 ミスティア・ローレライの新技とも呼べる攻撃態勢だ。

 

「私はお前達を殺すッ! 冗談で言ってるんじゃあないわ。もし私のこの言葉が単なる子供の戯れ言だと感じるならば、それは同胞達たちの死を侮辱する行為よ」

 

 さらにミスティアはスペルカードを2枚取り出した。

 

「鷹符『イルスタードダイブ』、そして鳥符『ヒューマンケージ』」

 

 一度に2枚切るのは弾幕ごっこでは御法度である。しかし、この戦いはごっこ遊びではない。弾幕ごっこ用に美しさを重視し威力を抑えた物ではなく、殺傷に特化した無骨な巨弾である。

 

 そしてミスティアは口を開けた。そこから発せられるのは綺麗なソプラノボイス。しかし、その歌声には催眠術の類のような暗示が込められており、聞いた者を鳥目にさせてしまう。

 

 ディアボロ達は次第に視界が不明瞭になっていく。鳥目になったことで視界が狭められたのである。これにより四方八方から迫りつつある弾幕を避けるのは相当な瞬間的判断力が必要になってくる。しかし、弾幕ごっこ経験など皆無なディアボロにとって、そのような能力を持ち合わせている方がおかしい。

 

 ーーーーそれでも、避けなければそんなものは必要ないのだが。

 

「『キングクリムゾン』!!」

 

 彼の言葉通り説明するならば『時間を消し去って』『飛び越えさせる』能力。口で説明するのは簡単だが、実際に体験するまで真の意味で理解をすることは叶わない。

 

 『キングクリムゾン』こそが、あらゆる状況下において柔軟に作用し最も対応力のある能力である。

 

*   *   *

 

「ーーーーあれ?」

 

 ミスティアは一瞬の瞬きの後、『自分を見ていた』。あまりにも突拍子もない映像を見せられて彼女の理解の範疇を優に越えていた。

 

 攻撃の軌跡は自分の方へと向かっており、自身はただそれを眺めているだけである。

 

 攻撃が当たった。しかし、その傷は弾幕によって生じるものではなく、何かが貫通している一つの巨大な穴だった。

 

「こ、これは……ッ!? 私??」

 

 一体何時地上に降りたのか、なぜこんな映像が目の前に映っているのか、ミスティアは到底理解しきれない。

 

 ただ、彼女の脳裏にあった考えは、今実際に触れたこの自分の肉体は紛れもない自分自身であるということだった。

 

「見ているな。貴様が今見て、触れている自分は、未来のお前自身だ」

 

「ーーーー何のことを……ッ?」

 

 ミスティアが触れている自分と重なる。消し飛ばした先の未来の自分と重なっていく。

 

 だが、声の主はそこにはいない。ただ、背後から声が聞こえてくるだけだった。

 

 そして、完全に自分と映像が重なった瞬間ーーーーーー

 

「時は再び刻み始める」

 

 ミスティアの腹部から真紅の腕が生えるようにして伸びている。

 

「ーーーーあっ、ああああああああッ!!」

 

 痛烈な叫びが恐怖に歪んだ彼女の顔から吐き出される。

 

 何だ? 今の不可解な現象は。一体、いつ? どこから? どんな攻撃が?

 

 そこまで考えてミスティアは理解した。

 

 いや、初めから私は攻撃を見ていた。ただ、錯覚していただけに過ぎなかったのだ。

 

 弾幕じゃあない。あのとき私を攻撃していたのはこの気味の悪い赤い腕だったのだ。

 

「ぐーーーーあっ、あ……」

 

 ごぽっ、と巨大な血の固まりを口から吐き出した後、彼女は絶命した。

 

「……咲夜、そばに他の敵はいるか?」

 

「いいえ、全く。そいつ一人みたいよ」

 

 動かなくなったミスティアを捨て、ディアボロは咲夜に尋ねた。

 

 周囲を見張っていた咲夜だが、特に生き物の気配も周辺には無い。しばらくの間スタンドを出して警戒状態だったがすぐに警戒を解く。

 

「分かった。なら、この死体を隠せ。ここにあると見つかったら後々面倒なことになりそうだ」

 

 ディアボロに命じられるがままに死体を処理しにかかる咲夜。二人の淡々としたこの残虐な行為。

 

「……ディアボロ。違うわ、これは……人形よ」

 

「……何だと……?」

 

 だが、咲夜が死体に触れたとたん、その死体は姿を変えたのである。

 

「木彫りの人形だわ……! 今まで私たちを攻撃してきていたのはミスティアじゃあないッ!! 人形をミスティアに変身させることができる『スタンド使い』がいるのよッ!!」

 

 咲夜は死体から離れて周囲を見回した。だが、やはり誰の気配もない。

 

 

 これを見ていた人物が二人。

 

「ーーーーきやがった、かかったぞプリンセスッ!! 命を火を消したぞ!! 私のスタンド能力が発動する!!」

 

「ずるいよ正邪! 一人だけ双眼鏡で見て私は全く見えないんだけど! まぁでも私のサポのおかげかな?? ねっ」

 

 ディアボロと咲夜の様子をかなり遠くで観察していた妖怪と小人はハイタッチをして喜んだ。

 

*   *   *

 

「変身能力……いや、変身というか『擬態』に近い能力か。こいつに従っていた鳥獣の妖怪達も騙されて従っていたわけか」

 

 ミスティアの姿が人形に変わった瞬間、周囲で取り巻いていた妖怪達も我を取り戻したのか方々の体で散っていった。

 

 咲夜とは違ってディアボロは冷静な判断が出来ていた。木彫りの人形に触れると実際に木の感触がする。これは実在する物体である。

 

「誰かが遠くでこの人形を指揮した奴がいるな。おそらくそいつが本体だ。周囲を探すためには常に警戒を怠ってはならない」

 

 人形にこれ以上の害がないことを確認し、ディアボロは視線を周囲へと向けて話し始める。スタンド、『キングクリムゾン』を出して敵を見つけようとする。

 

 この状況。いつ、どこから死に直結する攻撃が飛んでくるか分からないこの状況。これまで幾度無く経験してきた状況だが、『越えることが可能』な死の予兆というのは久しぶりで、どことなく懐かしい感じがした。

 

 これもまた、試練である。自身の成長に不可欠な試練に終わりはない。

 

「『墓碑銘(エピタフ)』」

 

 前髪を画面としてディアボロは未来を映し出す。相手が遠距離タイプのスタンドだというなら攻撃手段も遠距離である。その攻撃を避けることは容易い。消し去って飛び越えさせるだけだ。だが、その動きに対応できるのは『キングクリムゾン』を有する彼だけであり、十六夜咲夜にその効果の恩恵を与えることは出来ない。

 

「咲夜、遠距離からの攻撃に対して俺の『キングクリムゾン』は俺自身しか守ることは出来ない。自分への攻撃は自分で何とかしろ。いいな?」

 

 と、ディアボロは咲夜に尋ねるが

 

「……」

 

 一向に返事が返ってこない。ただ周囲の警戒のために気を張っていて返事をしなかったのかもしれない。

 

 だが、嫌な予感がした。ディアボロは未来を写す『墓碑銘(エピタフ)』の範囲を少し咲夜の方に向けると、そこには予期せぬ出来事が写されていた。

 

 十六夜咲夜の首の後ろ。うなじから頸椎にかけての部分から『矢』が喉を貫通していた。

 

「何だとォーーーッ!?」

 

 すぐさま後ろを振り向き咲夜の方を見る。予知に写された出来事は100%の真実である。矢が貫通したのなら絶対に咲夜の喉に矢が突き通されるのだ。

 

 事実、十六夜咲夜は何かに首を捕まれていた。だが、抑えられているのは肉体ではなく精神の具現、スタンドだった。『ホワイトアルバム』のヘルメット部分が露出し、がっちりと黒い両手に押さえ込まれていた。

 

「お前『消火』したな? 命の火を……チャンスをやろう! 『向かうべき2つの道』を!」

 

 咲夜の首をつかんでいるのは黒いスタンドだった。見覚えがある。これは確か幹部である『ポルポ』のスタンドだ。名は『ブラックサバス』。本物の矢とよく似た矢を持ち、それによってスタンド使いを生み出す能力だが。

 

「本来からスタンド使いである人間に対しては『魂を溶かす』ように作用するッ!!」

 

 咲夜はスタンドを押さえつけられ、矢を刺され始めていた。ジュゥゥゥという痛ましい音がして肉体ではなく精神を、魂を溶かしていく。

 

「ーーーーだが、幸運だったな。魂に作用するなら刺された位置は問題ではない。首を貫かれようと、脳味噌を貫かれようと、魂へのダメージは一定……」

 

 『キングクリムゾン』で咲夜を押さえつけている『ブラックサバス』を蹴り飛ばす。

 

「ギ、ッ!?」

 

「お前のスタンドの性質は手に取るように分かる! 影に潜むならば光の中に入れてしまえばいいだけだッ!!」

 

 蹴り飛ばした方向は丁度、影になっていない日当たりの良い場所だった。

 

「アギャアアアアアッ!!」

 

 『ブラックサバス』は呆気なく悲鳴を上げて消滅していく。

 

 だが、このスタンドは自動操縦遠隔型のスタンドだ。消滅をしたからと言って本体にダメージが行くわけではない。ただ追跡を止めただけなのだ。

 

「今が昼間で良かったところも幸運だった、と言ったところか。おい、十六夜咲夜。大丈夫か?」

 

「……ごほッ、畜生。何て力よ……身動き一つ取れなかったわ」

 

 スタンドの首の部分をさすりながら咲夜は咳をした。辺りがひんやりと冷やされ霜が降り始める。

 

「そういう能力だからな。奴は『押さえつける』ことに関しては抵抗しようがない。それ以外のパワーは皆無だから他の力を加えてやれば……」

 

 簡単に引き剥がせる、というわけか。

 

「と、そんな話をしている場合ではない。単に今のは撃退しただけだ。この木彫り人形のスタンド使いと『ブラックサバス』のスタンド使い……敵は二人いるというわけだ」

 

「どっかからその二人が私たちを監視して攻撃を伺っているわけね……さっきみたいに何かが死ねば攻撃が始まる……。無闇に近づく者を攻撃するのは得策ではないのね」

 

 そこで咲夜が取った手段は『ホワイトアルバム』による防御である。冷気を凝縮させ、自身に氷で出来た防御鎧を纏わせる。ただの弾幕程度なら無傷だ。

 

「超低温は静止の世界……」

 

 咲夜は同時に心の中までも冷え切ったような感覚になっていく。冷静に、熱くならずに、状況を見極めるのだ。

 

 ーーーーぴちゃり。

 

「……暖かい?」

 

 何か、暖かい物が彼女の足下を這っていた。私の凍らせた氷が溶けたものではない。ならばこの液体は一体どこから……。

 

「ーーーー咲夜……貴様……!」

 

 

 背後からディアボロの苦痛の声がした。ハッとして振り返るとそこにはディアボロが地面に崩れ落ち、血塗れになっていたのだ。

 

 

「な、何だってぇえええーーーーーッ!!? い、一体どこから!? いつの間にッ!?」

 

「ち、がう……ッ!! そこにいる!! き、貴様の……スタンドが!!」

 

 と、ディアボロがそこまで話した直後、彼の体に突然鋭利な刃物で切り裂かれたかのような傷が走り、大量の血を吹き出す。

 

「す、タンドを……がはッ……」

 

「ディアボロォォーーーーッ!!」

 

 咲夜の叫びも空しく、最後にディアボロは何かを伝えようとしたが、そのまま地面に倒れてしまった。

 

「うううぅううッ!! い、一体どういうことなのよッ!? 目を、目を覚ましてッ!! 貴方がいなくなったら、私は……!!」

 

 動揺する咲夜。どうしていいか分からず、スタンドを解除してディアボロの体を起こすが、そこには生気を感じることはなかった。

 

 代わりに、一つ。声が聞こえる。

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

 

「『命の火』を消火したナ? チャンスをやろう……」

 

 咲夜の背後の影から、あのスタンドが再び姿を現していた。

 

 

第53話へ続く……

 

*   *   *

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