ボスとジョルノの幻想訪問記   作:フリッカリッカ

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光陰邪の如し②

ボスとジョルノの幻想訪問記 53話

 

光陰邪の如し②

 

 十六夜咲夜はディアボロが絶命したのを知るとすぐに背後にいる『ブラックサバス』の方を見る。

 

「ーー『ホワイトアルバム』ッ!!」

 

 全身に冷気を纏い、『ブラックサバス』が押さえつけてくるのを凍らせることによってガードする。

 

「ギッ!?」

 

 手が凍り付いたことに驚きすぐに影の中に身を隠す。

 

「く、凍らせても関係ないのね……。影の中に潜るのに」

 

 咲夜は周囲を見る。近くに雑木林があり、影ならそこから大量に伸びている。ここにいるのはまずい、と直感的に理解した。

 

「影から出なくてはッ! 囲まれているようなものだ!」

 

 すぐさま影のあるところから離脱しようとすると、ガシィッ! と、その足首を『ブラックサバス』が掴んでいた。

 

「スーツの『内側』にッ!! 氷で出来ているスーツは光も影も透過する……!! マ、『マズイ』!!」

 

 氷のスーツは光を通している。光を通しているということは陰影も通しているということ。『ブラックサバス』は抜け目なく、スーツの内側に出来た影から腕を伸ばして咲夜の右足首を掴んでいた。

 

「きゃああああッ!! 骨が……折れ……!?」

 

 押さえつける力だけは凄まじい。その握力は足首がミシミシと音を立てている。このままではバキバキに砕かれてしまうだろう。しかし、砕かれたところでこいつはこの右手を外しはしない。

 

 時を止めよう、と思ったが込められている力も停止するのだ。時を止めている間他人に干渉できない咲夜に足首を掴む手をふりほどくことは出来ない。

 

「『ホワイトアルバム』ッ!!」

 

 掴まれている更に内側に氷を密集させて『ブラックサバス』と自身の足首の皮膚との間に層を作る。そして氷で出来た層を始点に『ブラックサバス』の手のひらを凍らせ始める。

 

「……ッ!? 冷たい……!!」

 

 『ホワイトアルバム』の精密動作性は最低のE。自分の足を掴んでいる『ブラックサバス』の手だけを凍らせることは出来ず、自分の足首ごと凍っていく。

 

「アガガガ……ッ」

 

 『ブラックサバス』の声が足首付近の影から聞こえてくる。苦しんでいるようだが、力を緩めようとはしない。

 

「ち、クショォォーーーーーッ!! てめぇいい加減に手を離しやがれェェーーーーッッ!!!」

 

 自分の足首が凍傷で腐り落ちてしまうほどの冷気を更に集中させ手を引きはがしにかかる。

 

 きらっ、キラキラ

 

「……ハッ!?」

 

 一瞬、咲夜の目にキラキラと光る物体が空中に見えた。何か分からなかったがそれはすぐに消滅していく。

 

「い、今のは……いや、それよりもいつの間にか奴の手が離れている!!」

 

 既に氷の膜は『ブラックサバス』の手と咲夜の足首を離すことに成功していた。

 

 すぐに影から離れて日当たりのいいところに脱出をする。

 

「ハァハァ……」

 

 呼吸を整え、『ブラックサバス』の様子をうかがうと、やはり影の中をうろうろするだけで咲夜の元へ襲ってくることはなかった。

 

 試しに手を影の中へ近付けようとすると、すぐさま『ブラックサバス』はそれに襲いかかろうと攻撃を開始する。

 

「……ッ。やっぱり影の中以外を移動することは不可能なようね……。となると、やはり影と影が離れている場所は安全ということ。こいつのいる影と繋がっている影に注意しながら敵を探せばいいわ」

 

 『ブラックサバス』はしばらくの間日陰と日なたの境目をウロウロしていたが、咲夜が移動し始めると同時に影の中に姿を眩ました。

 

 影と影が重なり合わないように気をつけながら影の多い場所から離れるように移動していく。だが、ただ逃げるだけでは敵を倒したことにはならない。ディアボロが言っていた本体をぶちのめさなければ、こいつは追跡を止めないだろう。

 

「……?」

 

 と、ようやく咲夜は『ブラックサバス』が影の中に身を隠したまま姿を現していないことに気が付いた。そしてもう一つ。緊急を擁する事態に気が付く。

 

 速い速度で移動する影が真っ直ぐこちらに向かっている。

 

「ーーーーな、『鳥の影』!? 奴はこれを待っていたのかッ!!」

 

 鳥の影に移動したかどうかは分からない。だが、姿が見えないところから察するにこの影に触れるのは危険だ。

 

 何より、こいつ! 『私の』影に入る気だ!! 私のに入られたら私に逃げ場はないッ!!

 

「幻世『ザ・ワールド』ッ!!」

 

 咄嗟に咲夜は時を止めて鳥の影から離れた。だが、それが精一杯だった。スタンドをさきほど使いすぎたのか、精神エネルギーがすり減っており彼女の世界が安定しない。

 

「……限界ね、解除」

 

 そして時は動き出す。鳥の影は咲夜の影と交わることはなく、そのまま別の木の影に入った。咲夜の予想通り、その影から再び『ブラックサバス』が姿を現す。

 

「? ??」

 

 『ブラックサバス』が首を傾げながら再び姿を現した。時を止めていたことに気が付いてはいない。

 

 だが、すぐさま再び影の中に身を隠してしまう。

 

「……奴を影から引き離せば消滅すると言ってたわね……しかし、重なり合う木の影をどうやって取り除く?」

 

 しばらく思考してある一つの考えが浮かび上がる。だが、実行するには時間が足りない。『止める』時間が、だ。

 

 このまま回復していれば、先ほどより長く時を止められるはずだ。

 

「イ、イギギギギ」

 

 ふと、『ブラックサバス』が姿を現したかと思えば意味不明のうなり声を上げてその場に立ち往生をする。陽向にいる咲夜に対して攻撃が届かないのに、それでも向かおうとしてくると言うことはディアボロの言っていた『自動操縦型スタンド』の特徴に当てはまる。

 

「……そろそろ、体力が回復してきたわ。そして、どうやら丁度来たようね」

 

 咲夜が上を見上げると、再び鳥が空を飛んでいた。彼女はこれを待っていたのだ。先ほどと同じように『ブラックサバス』が飛行する鳥の影を伝ってこちらに来ると踏んでの作戦である。

 

 そして鳥が咲夜の頭上で大きく旋回したとき、鳥の影と『ブラックサバス』のいる影が交わった。

 

「ーーーー」

 

 瞬間、『ブラックサバス』は鳥の影に引きずり込まれるように影の中に身を隠し、案の定鳥の影を伝って咲夜の影に飛び込んできた!

 

 その瞬間を狙い澄ましたかのようにーーーー。

 

「止まれ、時よ」

 

 咲夜が時を止めた。

 

*   *   *

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄……」

 

 咲夜は懐からズラァァっと大量のナイフを取り出して空中に狙い澄まして放り投げる。

 

 数本は飛んでいる鳥の方へ垂直に。そして大半を鳥の影の真上、自分の目線の高さに合わせて投擲する。ある程度までナイフが止まったときの中を動き、そしてぴたりと停止した。

 

「んっんー、角度よし、高さよし、本数よし、完璧、パーフェクト、瀟洒。これで準備は整ったわ……あと12秒程度残ってるわね。親指の爪が気になってたところだし、人目にも付いてないし……」

 

 と、独り言のように(実際に一人だが)呟いて

 

「がじり」

 

 と歯に爪を立てて爪をかじり始めた。

 

「ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ」

 

 高速で爪を噛み、形を整えていく。10秒程度噛み続けた結果、咲夜の親指の爪は少し欠けていたのが綺麗になった。

 

「……ふぅ、美し……あ、時は動き出す」

 

 彼女の合図で停止していた時間は動きを取り戻す。と、同時に鳥の影が消滅した。

 

「ーーーーッ!!?」

 

 その時、いきなり地面から『ブラックサバス』が引きずり出された。自分の潜伏していた影を失ったのだ。

 

「ギャァアアアーーーーーー!!」

 

 急いで影の中に入ろうとする『ブラックサバス』に咲夜は指を立てて

 

「安心しなさい。あんたの影は既に用意してるわ。……と、言っても鳥の影じゃあないわ」

 

「……ハッ」

 

 と、そのときようやく気が付いたのだろう。『ブラックサバス』は既にとある影に入っていたことに。

 

「飛んでいるナイフの影に移ったのよ」

 

 上空の鳥は既に時間停止中に投げられたナイフによって射抜かれ、更に上空へと押しやられていた。高度が増せば増すほど影は小さくなり、ある一定のラインを超えると限りなく縮小して消える。鳥の影は最初の時点でかなり小さかったため、影はすぐに消滅した。

 

 よって『ブラックサバス』が次に移る影の候補はただ一つ、今度は咲夜が水平に投げていたナイフである。

 

「日当たりの良いところまで、ごあんなーい♪」

 

「アガガガガガ!!」

 

 ナイフの影に引っ張られるように『ブラックサバス』は日当たりの良いところまで強制的に移動していく。

 

「そして、ここでーーーー現世『世界』」

 

 再び時間が停止した。今度は今『ブラックサバス』を連れて行っているナイフを取り除くだけである。これに大した時間は浪費しない。連続で時を止めても大丈夫だった。

 

「回収完了! そして時間ね」

 

 べしゃあ! と、『ブラックサバス』は陽向に投げ出されてしまった。そして周囲には一つの影も存在しない!

 

「詰み、よ。そのまま消えてなくなりなさい」

 

「アギャアアアアアアッッ!!!」

 

 咲夜の声に反抗することもかなわずーーーー

 

 ボシュン!!

 

 ーーーー『ブラックサバス』はその場から消滅した。

 

「……さて、他の生物を殺さないように、『本体』を見つけだして叩く必要があるわね……」

 

 すぐに咲夜は戦闘態勢を取った。

 

*   *   *

 

「ち、ちっくしょーーーッ!! 駄目だバレちまった! 私のスタンド『ブラックサバス』の能力と弱点! 全部バレちまった!」

 

 森林地帯でギリギリと悔しそうに歯ぎしりをしながら、鬼人正邪は叫んだ。

 

「正邪……だ、大丈夫だよ! まだここがバレた訳じゃあないんだし……」

 

 そんな正邪を宥めるように言ったのは小さな小さなプリンセス、少名針妙丸。ちなみに彼女のスタンドは『上っ面(サーフィス)』である。木彫り人形を媒介とし、触れた人間の姿、声、性格、雰囲気その他もろもろを全てコピーするスタンドである。なお、針妙丸自身の力が弱いため、人形の力も相対的に低くなっており、それに反比例して射程距離が伸びている。

 

「……そ、そうだな。確かに、この私らの場所がバレているわけでもあるまい。つーか、何だよあいつら……! 戦い慣れしすぎというか、片方が死んだってのに何であそこまで冷静なんだよォーーッ!」

 

 ちなみに、正邪と針妙丸が出会ったのはつい最近である。正邪が小人族の持つ幻の打出の小槌を利用するために、小人族の姫の針妙丸を騙し、今に至っている。

 

 二人は会った当初からスタンド使いであり、そして気があった。針妙丸が現在手にしているスタンドの元々の持ち主の台詞通りの展開である。

 

「でも、正邪落ち着いて。まだ、奴はあなたのスタンドを全て理解した訳じゃあない。あなたのスタンドは『ブラックサバス』、確かに弱点は看過され奴の前に敗れ去ったわ」

 

 針妙丸が正邪の頬をぺしぺし叩き、そして指をさす。

 

「でも、敗れ去った今!! あなたの『何でもひっくり返す程度の能力』が発動して『ブラックサバス』は『生まれ変わる』ッ!!」

 

「……! あ、あぁそうさ。まだ私は負けちゃいない。一度負けたところで、二度大敗を喫したところで、三度敗北を味わったところで、負けじゃないのが鬼人正邪だ。私の本気はここからだぞ、クソメイド野郎ッ!!」

 

 と、正邪が大きく啖呵を切ったとき。

 

「ーー興味がないわ、失せなさい」

 

 先ほどまで視界の先にいたメイド服の女が一瞬にして消えたかと思うと、背後から冷たい声が投げかけられた。

 

「……へっ?」

 

 振り向いた正邪が見た光景は大量の凶器。全てがナイフ。まるでトラップでも仕掛けられていたかのような、一瞬の出来事だった。

 

 振り向き、ぎょっとした正邪に避ける術など存在しない。彼女は大量のナイフを全身に浴びせられ、隠れていた樹木上から落下する。

 

「ぎゃああああああぁぁぁあああッ!!??」

 

 凄まじい痛みを匂わせる悲痛な叫び声が辺りに響きわたった。木から落ちた彼女はぐったりと倒れ伏したまま、多量の血を流し始める。

 

「ひぅッ!」

 

 すぐに咲夜は小人の方を捕まえて、ナイフをかざして問いつめる。

 

「……珍しい種族ね。小人? それにそっちは鬼……いや、天の邪鬼かしら? 大丈夫よ、私は人間。取って食ったりなんてしないし、あの天の邪鬼も生かしてある」

 

 ガチガチと歯を打ち鳴らす針妙丸に顔を近付けて咲夜は笑った。嗜虐的な笑みだ。

 

 正邪を生かしておいた理由としては、『ブラックサバス』の能力を回避してのことである。もし、こちらの小人の方が『ブラックサバス』を有していた場合、正邪を殺すことで攻撃条件である『命の火を消す』が達成されてしまうからだ。

 

「さて、話が通じそうな貴方に一つお尋ねしたいことがあるわ。それはーーーー」

 

 ガィン! と金属を打ち鳴らすような音が辺りに響いた。

 

「……反抗的な態度、可愛いものね。子リスに噛まれる程度だわ」

 

「ーーーーっ!」

 

 針妙丸は懐から針を取り出して咲夜の眼球にそれを突き立てようとした。だが、それは『ホワイトアルバム』の氷によって刹那の差で防がれてしまう。

 

「聞きたいことは一つよ。あ、別に無理に答えなくていいわ。体に聞けば分かるもの……」

 

 と、咲夜は針妙丸から針を取り上げ彼女の親指を丁寧に掴んだ。

 

「貴方にとっては鉛筆ぐらいの大きさのこの針を、爪と肉の間にセットします。さて、ルールを説明するわ。私の質問に嘘偽り無く答えること。もし、嘘をついたり答えるのに時間をかけたりすると……」

 

 ずぶり……。

 

「あ、ああああああああッ!!!」

 

 咲夜がほんの少し力を込めるだけで、針は針妙丸の親指の先に突き刺さる。同時に痛みに悶える悲鳴が響き、血とともに彼女の親指の爪が剥がれ落ちた。

 

「貴方達二人の他に仲間はいる?」

 

 咲夜は冷え切った視線で涙を流す針妙丸に問いを投げかけた。だが、針妙丸にそんな質問に答えるような精神的余裕はない。

 

「い、痛い……痛いよぅ……助けて……あああああああッ!!」

 

 泣きじゃくる小人の親指からすぐさま針を引き抜き、躊躇無く人差し指を串刺しにする。いや、指より僅かに細いだけの針は刺すと言うより肉を潰す感覚に近い。親指は辛うじて指としての原型を留めていたが、人差し指は根本まで一気に裂けてしまっている。

 

「言う、言うから、やべて……痛い痛い痛いッいいいいいいぎぃいひいいいい!!!」

 

 涙ながらに訴える針妙丸の言葉に咲夜はぐちゅぐちゅ針をかき回す動作を止める。

 

「わ、私たち以外にはい、いない……で、でも正邪……の能力は……ぅう、あっ、二つ、二つあるんだよおおお……」

 

*   *   *

 

 ぽつり、ぽつりと針妙丸は真実を吐露していく。その言葉に咲夜は正直耳を疑った。だが、彼女の言い分を考えると確かに説明が付く。

 

「程度の能力と『スタンド』の合成……ね」

 

 咲夜はちらりと下で気絶している正邪を見る。なるほど、彼女がもう一つの能力を有していたなら、同時に襲ってこなかったことにも納得がいく。一つずつしか能力は使えなかったのだ。

 

(……しかし、程度の能力と『スタンド』は相容れないものだと思っていたのだけれど……私の能力だけかしら?)

 

「ううううぅぅ……痛い、よぅ……」

 

 おそらく、この小人にはもう戦意は無いだろう。『ブラックサバス』の能力発動がもし自動であるならここで二人を殺すのは得策ではない。

 

「分かったわ。これに懲りたらもう私たちに構わないで。命までは取らないわ」

 

 と、咲夜は木から降りて正邪の隣に針妙丸を置く。

 

「……?」

 

 と、咲夜はおもむろに『スタンド』を発現させた。そのことに針妙丸が疑問を抱くより早く……。

 

「『ホワイトアルバム』」

 

 二人を一瞬で冷凍した。更に、その氷には不可思議なピンが取り付けられている。それには時計の文字盤のような物が刻まれているが、針は停止している。

 

「程度の能力との応用……ね。いいヒントを貰えたわ」

 

 咲夜は冷凍された二人を一瞥し、すぐに地底へと向かうことにした。

 

 ディアボロはまたどこかで復活していることだろう。目的は自分一人で遂行するしかない。

 

 

54話へ続く……

 

*   *   *

 

 あとがき

 

 何時以来の更新だよ、と起こられても仕方がありません。取りあえず、ボスとジョルノの幻想訪問記53話でした。

 

 いつの間にか1話をアップしてから2年が経過してしまいました。時の流れとは時に残酷です。

 

 これからもちゃんと完結には漕ぎ着けていくつもりなので、応援よろしくお願いします。

 

 では。

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