ようこそ超能力者のいる教室へ   作:オールF

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スウィートだぜ、坂柳

てことで続きです
なんだこのトンチキ回は


神算鬼謀なストラテジー

 この日は新たに用意された特別試験のこともあり騒がしい1日だった。

 クラスメイトのだれかが必ず退学になる試験となれば当然かもしれないが。

 男女が入り乱れて警戒し合うような罵声を浴びせる中、高円寺は鼻で笑っていたが。

 

「ここでジタバタしてもどうにもならないだろう?」

「テメェだって余裕こいていられる立場かよ。これまでクラスにどれだけ迷惑かけてきたのか自覚してんのか?」

 

 須藤がそんな高円寺の言葉と態度が気に入らず詰め寄った。

 

「無人島試験も、体育祭もちょっと参加しただけ……てめぇはほとんど、いや全く役に立ってねぇじゃねぇか」

 

 クラス内の視線が高円寺に集まる。

 今、心や立場の弱い生徒が求めているものは自らが退学になりたくがないために、人柱になってくれる存在だ。

 

「分かっていないのは君だよレッドヘアーくん」

 

 しかし、高円寺は平然と言う。

 この1年間で培ってきたものが、今回の特別試験のキーではない。

 これはこの先2年間を見据えた特別試験であると。

 

「この試験は文字通り特例なのさ。退学者を出したクラスは大きなペナルティを食らうのが通例だろう? しかし、今回はそれが一切ない。つまり不要な生徒をデリートするのに適した機会ということだよ」

「だから、その対象者がお前だって言ってんだ、クラスの厄介者が!」

「いいや、それはないね」

「あ? そう言い切れる理由があるのかよ」

「なぜなら私は共に誓ったからさ。私は絶対に退学にはならないとね。それに私は優秀だからね」

 

 有無を言わさぬ圧倒的な大胆な態度に、須藤が怯んだ。

 

「筆記試験では常にクラス内、いや、学年でも上位に食いこんでいる。学年末試験で僅差の2位だった。もちろん私が本気を出せば1位を取ることは造作もない。それに身体能力の面でも……私が君を凌駕していることは、他でもない君がわかっているだろう?」

 

 ポテンシャルの高さは恐らく学年でもトップクラスであろう高円寺の発言に須藤は声を震わせる。

 

「だ、だからなんだよ! そんなもん真面目にやってなきゃ意味ないだろうが!」

「そうかな? 私の知る限り私と同じく実力があるのにその実力を発揮していない生徒もいるが……それは君の言う真面目にやっていない生徒にはならないのかい?」

「なっ! んなやつ、お前以外にいるわけねぇだろ……!」

「ふふっ、それに気付けていない時点で君とは見ている景色が違うのさ」

 

 高円寺は語るに及ばないと判断したのか、クラスのリーダーである平田や櫛田、そして堀北と先程高円寺以外にも真面目にやっていない生徒と評されたオレへと聞かせるように言う。

 

「しかし、私はこれからは心を入れ替えるよ。私はこの試験を境に、様々な試験でクラスに貢献し、役立てられる生徒となるつもりだ。クラスにとってそれは、大きなプラスになるとは思わないかい?」

 

 そんなこと今までの高円寺を見ていれば誰も信じられないだろうが、男子たちはあの高円寺が林間学校で本気になった姿を見ている。

 だが、あれは斉木というイレギュラーがいたからだ。

 高円寺を楽しませられるやつがいないこのクラスに、高円寺を本気にさせることはできない。

 

「レッドヘアーくんだけじゃない。これまで役に立っていなかった生徒が、この先役に立つ保証などどこにもないだろう? 私のように口だけならいくらでも言える。しかし本当に必要なのは実力だよ。それが伴っていなければ、何ら説得力を持たない」

 

 実力を持たない生徒が心を入れ替えて頑張ると言うことと、実力を持った生徒が心を入れ替えて頑張ると言うことは似て非なるものだと高円寺は語った。

 良くも悪くも本音を言いすぎてはいるが、正直な感想を述べればオレは高円寺に賛成だった。

 クラスを思うなればこそ、この追加試験のことは割り切って考える必要がある。

 好き嫌いではなく、クラスのために不要な生徒を選び、消し去れるチャンスが来たと考えればこの試験にも使いようはある。

 問題はそれを誰にするかは決めかねているが、須藤のように長所と短所を併せ持つ生徒は置いておいても損はない。

 あいつの場合はその短所を克服しようとしている訳だしな。

 問題はその兆候が見られないやつだ。

 人間は誰もが成長できる可能性を秘めているが、その開花の時期に違いもあれば、成長の幅が少ない者もいる。

 だからこそ、この試験を利用しない手はない。

 そのことに気付いているのは残念ながら高円寺だけというのは嘆かわしいことだ。

 仲裁に入った平田は退学しないからいいよなと言う池と山内。

 最近は棘がマシになったとはいえ強気な発言の目立つ堀北。

 そして、オレと同じグループに属する啓誠や明人、波瑠加、愛理。

 誰もが退学する可能性を孕んでいる。

 退学にならないためにはグループを作り賞賛票を分け合い、少しでも批判票のマイナスを打ち消していくしかない。

 この試験の間は呑気に過ごせるやつはそうはいない。

 そう思って迎えた放課後、先に教室から出たはずの池が慌てて戻ってきた。

 

「おい、大変だ!」

「んだよ、またBクラスとAクラスが揉めてるのかよ」

 

 部活に行く前に堀北と何かしら話をしていた須藤が反応すると池と一緒に帰っていたはずの山内も戻ってくる。

 

「え、Aクラスの斉木が、変なメガネかけて、さ、坂柳ちゃんのし、下僕になってるんだよぉ!」

 

 情けないことで嘘のようなことを言う山内にクラスメイトたちがいつもの虚言癖かと肩を竦める中、動き出す生徒が2人いた。

 櫛田と高円寺は実際に見た方が早いとばかりに廊下に出ていく。

 

「はっ、あの斉木が誰かの下につくか?」

「変なメガネか、気になるな」

「そこなの?」

 

 須藤の言う通り、斉木が誰かの下につくということは考えられないが変なメガネという付加された情報は、山内のつくうそとしてはやや考えにくい。

 

「オレは見てくる」

「私も行くわ。下僕になったかどうかは別として、一之瀬さんの件があった後よ。何かあるかもしれないわ」

「じ、じゃあ俺も」

 

 堀北が動くとなれば当然須藤もついてくる。

 3人で教室の外に出ると、池と同じく噂を聞きつけた他のクラスも廊下に出てきていた。

 そして、彼らが視線を向けるその先には《1000》という数字をあしらったメガネをかけた斉木と、彼と手を繋ぐ坂柳の姿があった。

 

「……待って、あれはどういうことなのかしら」

「あいつら付き合ってたのか?」

「……下僕というより恋人に見えるな」

 

 理解が追いつかない堀北に須藤が尋ねるが返事はない。

 オレもオレで坂柳の紅潮した頬や幸せそうな表情をしている坂柳を見て僅かに頭が痛む。

 隣に立つ男が変なメガネをかけた友人であるという点を除けばどこのクラスでも有り得るかもしれないカップルの光景なんだがな。

 そんな風に傍観していると、堀北から肘で突かれる。

 

「綾小路くん、あなたの友達でしょう。どういうことか聞いてきなさい」

「……まぁ、そうだな。今回ばかりはそうだと思う」

 

 飛び出して行った櫛田は言葉を失っており、高円寺は興味深そうに顎に手を添えて見ている始末だ。

 坂柳の取り巻きであったはずの神室と橋本も遠目からドン引きの表情で見ていることから、聞くに聞けないのであろう。

 オレは人混みを掻き分けて斉木たちの方へと近づく。

 

「斉木」

 

 声をかけると斉木はほんの僅かにオレの方を見たが直ぐに視線を外してくる。

 何故だ。

 そう思っていると坂柳がオレに気づいた。

 

「あ、綾小路くん。ごきげんよう」

 

 ひらひらと斉木とは繋いでいない手で手を振ってくる坂柳にオレも一応手を振り返す。

 いつも突いている杖と持っているカバンは斉木が持っていた。

 

「その、聞いてもいい……のか?」

「はい? なんでしょうか」

 

 オレは周りの好奇の視線を気にしつつも、ゆっくりと斉木と坂柳に近づいた。

 

「随分と仲が良いみたいだが……なにかあったのか?」

「……1000PPマン、ご説明をお願いしてもいいですか?」

『ああ』

 

 1000PPマン? 

 斉木の新しいあだ名かと思っていると、坂柳が携帯を操作し、その後斉木もまた携帯を見て頷くとオレへと口を開く。

 

『僕の名前は1000プライベートポイントマン。1000プライベートポイントで坂柳さんの頼みを可能な範囲で聞く者だ』

 

 その説明でオレは斉木の意図をある程度は察する。

 試験の説明を受けた段階でAクラスが2000万プライベートポイントを使った救済による退学者0作戦を取ることはわかっていた。

 ただポイントが足りるのかどうかという疑問はあったが、やはり足りなかったらしく、Bクラスの退学者として既に立候補している坂柳から不足分を受け取るために契約関係になったということなのだろう。

 

「……そうか。じゃあ手を繋いでいるのは?」

『坂柳さんのお願いだ』

「坂柳の荷物を持っているのは?」

『これはサービスだ』

 

 サービスなのか。

 1000PPマンというのは1000プライベートポイントマンの略称ということもわかったが、斉木にして随分と目立った行為に出たな。

 

「どうして坂柳は斉木と手を繋ぎたいと言ったんだ?」

「……別にこういう機会でもないと異性の方と手を繋ぐ機会など無さそうだったからということではなくただポイントを払えば可能な限りなんでもしてくれるという可能な限りのラインがどの辺りまでなのかを探るためです他意はありませんよ」

 

 めちゃくちゃ早口だな。

 まあ確かに斉木が聞いてくれるお願いのボーダーラインというやつは気になるところだ。

 

「オレもポイントを払えばお願いとやらを聞いてくれるのか?」

『条件次第だが一応な』

 

 ふむ、斉木が坂柳のようにオレの事情を知っているのであれば、10万プライベートポイントは 払えばあの男のことで協力してもらえたのかもしれないな。

 しかし、今思えばオレのことを知る坂柳がいなくなるというのは少し困るかもしれないな。

 神室にオレの身辺を調べさせてくるのが鬱陶しかったから接触してみたが、あの感じならオレに対する興味はあれど敵意はなかったしな。

 この試験ももしかするとあの男からの圧力で開催された試験の可能性もある。

 オレ1人を退学させるのでは露骨すぎるから各クラスから1人ずつというルールにして、オレの事情を知る坂柳にその補助をさせる。

 そういう狙いがあってもおかしくはなさそうだが、その坂柳は退学しようとしている。

 

「斉木は坂柳が退学するまではそのメガネなのか?」

『ああ。授業中などはいつものにするが』

 

 流石に授業中にお願いを聞く訳にはいかないもんな。

 しかし、この面白……奇怪なことをしている斉木のことをクラスの連中はどう思っているのだろうか。

 

『話は終わりか? 僕は彼女を部屋に送り届けないといけないから、そろそろ行きたいんだが』

「ああ、悪い。オレからの用は終わりだ」

 

 オレからはなと付け足そうか悩んだが、やめておくか。

 斉木はまた坂柳に手を引いて歩いて行く。

 

「ククク、騒がしいと思って来てみたら面白いことになってるじゃねぇか!」

 

 まあ、オレの用が終わってもあれを見れば誰かしら声をかけていくだろうと思っていたが、やはり龍園は反応するか。

 

「お前の女の趣味はそっちだったとはな。ククク、だがそいつじゃお前の広背筋をって、またかよ! クソ! なんなんだこれは!」

「……あなたがなんなんです?」

 

 愉しげに言う龍園だったが、急に意味のわからないことを言って坂柳に首を傾げられている。

 

「急に出てきたと思ったら広背筋……? なんのことでしょうか?」

『分からない。きっと自分が退学することになるから頭がおかしくなったんだろう』

「ああ、なるほど」

「なるわけねえだろ! クソ、広背筋! 広背筋! なんで言えねぇんだクソ! クソはいけるのかよ!」

 

 吠える龍園を見て大抵の生徒は萎縮しており、意味不明な発言も相まってか取り巻きの石崎や伊吹もかなり引いており距離を取っていた。

 そして、龍園が騒いだことで教室にいた連中も出てくる。

 

「教室までやかましい声が聞こえていたぞ龍園。何をそんなに広背筋……が……」

「そうだよ? よくわからないけどみんなのめい、わく、に…………え?」

 

 神崎と一之瀬も廊下に出てくると騒ぐ龍園に注意している途中で目の前に広がる異様な光景を目にしてか、唖然とする。

 他のクラスの生徒たちも続々と廊下に出て来ることもあり、更にこの光景は目立った。

 

「おい、斉木……何をしているんだ? ……というか、その奇抜はメガネはなんだ?」

『やれやれ、またか』

「掲示板か何かに貼った方がいいんじゃないですか? そうすれば説明の必要もなくなると思いますよ?」

『そうするか』

 

 困惑する神崎を置いておいて、斉木と坂柳は呑気にそんな会話をする。

 手早く学校の生徒なら誰でも見れる掲示板に1000プライベートポイントマンについての説明が載せられる。

 

《1000プライベートポイントマンとは▶︎1000プライベートポイントで可能な限りお願いを聞くヒーローである。今回は坂柳有栖優先。お助け料1億万円。ローンは今回不可。※ポイントはお願いの内容や相手で変動の可能性あり》

 

 全員が携帯で掲示板に書き込まれた内容を見たことを確認した斉木は『ではそういうことで』と再び立ち去ろうとするが、それを一之瀬が止めた。

 

「ちょ、ちょっと待って斉木くん!」

 

 呼び止められた斉木は一応止まってみせると、一之瀬に要件を促す。

 

「え、えっと、斉木くんが坂柳さんと雇用契約? を結んだのはわかったけど、それって2000万プライベートポイントの不足分を埋めるため、だよね?」

『ああ』

「じゃあ、じゃあさ、私もポイント出すから、その……」

『いや、僕がポイントを集めているのは私的な理由だし、そもそもクラスメイトからポイントを巻き上げるわけにもいかないだろ』

「はぅ」

 

 クラスメイトじゃなかったらいいのかとなるが、斉木の目的は不足分の補填だけじゃなく、退学すると明言している坂柳の持っているプライベートポイントが死ぬ前に回収しておこうという魂胆なのだろう。

 オレも考えはしたが巻き上げるようなことになりそうだからと遠慮していたのだが、ギブアンドテイクの関係ならば問題はないのかもしれない。

 斉木の見た目は問題かもしれないが。

 

「そういうことなら、他クラスのオレは頼んでもいいってことだよな? 斉木」

 

 やや大人しくなった龍園がそう言うと、斉木は無言で頷く。

 

「そうだな……どうせ誰かを傷つけたりするようなお願いは聞かねぇんだろ? だったら……おい、その場で踊ってみせろよ。1000ポイント送ってやるから連絡先もよこせや」

 

 龍園がそう言うと、斉木はメガネを素早く付け替えた。

《10000000》、つまりは1000万プライベートポイントマンに進化したようだ。

 

「はぁ?」

『払えよ』

 

 龍園は1000万プライベートポイントを払わないと斉木にお願いできないようだ。

 

「なんでだよ、相手選ぶのかよ」

『そりゃそうだろ』

 

 怒りと呆れが入り混じった声音で言う龍園に、何言ってるんだお前といったように言う斉木の0の多いメガネを坂柳は不思議そうに見上げている。

 

「楠雄くん、これいくらくらいまであるんですか? あ、ポイントは振込みましたよ」

『上限はこれだな。あとは1桁ずつ下がっていく』

 

 坂柳も慣れてきたのかポイントを振り込む速度が早くなっていた。

 というか、坂柳は斉木に質問するのにポイントを取られるのかと新視点を発見していると今度は櫛田が声をかけた。

 

「斉木くん、あんまり言いたくないんだけど、その、女の子に貢がせるようなことはあんまり周りからの心象よくないんじゃないかな? 悪目立ちもしちゃうし」

 

 櫛田らしい諭し方だったが、斉木は変わらず冷静に対応した。

 

『互いに合意の上だし、多少目立つことは仕方ない。みんな、気にしないでくれ』

「そうですよ、皆さん。見苦しいかもしれませんが私は今週末にはいなくなります。それまでの辛抱ですので」

 

 1000ポイントから1000万ポイントの範囲で斉木にお願いごとし放題か。

 プライベートポイントは貴重なものだが、これから退学する坂柳にはあまり関係ないことだ。

 お願いごとの内容や、斉木からよく思われていない相手だと桁が上がることも踏まえれば、気安くお願いすることは出来ないかもしれない。

 

「それでは皆様、ごきげんよう」

 

 ずっと斉木と手を繋いだままの坂柳はそう言って丁寧に空いた手でスカートの裾を少し持ち上げてお辞儀をする。

 今度こそ立ち去ろうとする斉木と坂柳に高円寺が声をかけた。

 

「楠雄、この説明文から察するに、リトルガール以外のお願いでも聞いてくれる可能性がある、という認識でいいのかな?」

『ああ。坂柳さんがお願いごとがない時間帯であればな』

「ふむ、OKだ」

 

 高円寺は斉木の答えに満足したようだが、坂柳は高円寺が言ったリトルガールという言葉が気に障ったのかムッとした表情を浮かべる。

 

「高円寺さん、でしたね? あなた、英語の使い方を間違えていますよ? 私は幼女ではありません」

「ふっふっふっ、それを決めるのは君ではなく私なのだよ。間違った用法ではないさ。君がガールと呼ぶに相応しい年齢と体型になれば、そう呼ばせてもらうだけだからね」

「それこそ誤りですよ。用法としてはリトルガールは小学生の女の子にしか使わない言葉ですから。この世界はあなたの好き勝手が許されるようにできているわけではありません」

「常識に捉われないのが私の流儀さ」

 

 ふぁさっと髪をかきあげる高円寺に、坂柳は敵意を持って見上げる。

 今までなら鬼頭あたりが高円寺に向かっていったのだろうが、今隣にいるのは鬼頭ではない。

 

「楠雄くん、10万プライベートポイント振り込むので彼に間違いを訂正するようにお願いしてもいいですか?」

『それくらいなら1000ポイントでいい』

「手を繋ぐよりもハードルが低いんですか? まぁ、分かりました。楠雄くんが言うのであれば。お願いしますね」

 

 手を繋ぐのには10万ポイントかかったのか。

 一之瀬と櫛田が携帯を見ているのを尻目に見ながら、斉木がどう高円寺を説得するのか興味深く観察する。

 

『高円寺訂正してくれ』

「ふむ、いくら楠雄の頼みでも私は私の言った言葉を取り消すことは出来ないねぇ。だが、楠雄が私の頼みを聞いてくれるというのならやぶさかでは無いが?」

『それは根本的解決にはならないだろう。君が坂柳さんをガールと呼ぶに相応しいと思っていないのであれば意味が無い』

 

 1000ポイントを貰ったからには依頼を完遂するという強い意志を感じるが、高円寺が頷く姿は想像できない。

 

『坂柳さんは見た目こそ幼く見えるかもしれないが立派なレディだ。いや、性格も負けず嫌いでコンプレックスを刺激されては怒る子供っぽさがあるが、それは誰しも持っている普通のことだろう』

「楠雄くん?」

『しかし、今まで葛城と対立しながらもクラス順位を維持し、一之瀬さんにちょっかいを出した挙句コテンパンにされて、その責任を取って自ら退学を選べるのは子供にできることじゃない。そうは思わないか?』

「く、楠雄くん?」

『加えてクラスメイトを巧みに操って情報収集をしたり、あとは……』

「も、もういいですから楠雄くん……あんな人放っておいていきましょう……」

 

 庇っているのか逆に子供っぽいところを露見させているのかわからない斉木の言葉にいたたまれなくなったのか坂柳が斉木の腕を引きながら恥ずかしそうに言う。

 その反応を見た高円寺が「ほう」と興味深そうに息を漏らした。

 そして、坂柳が握っている斉木の手を見て面白そうに微笑む。

 

「なるほど、そういうことなら……訂正しようじゃないか。キュートとプリティーは使ってしまったのでねぇ。君はスウィートガールと呼ばせてもらうよ。ふふふ、はははは!」

 

 勝手に1人納得し、坂柳の呼び方を改めた高円寺は去っていく。

『あれでいいか?』

「はい、リトルよりは全然いいですし……それに少し疲れました」

 

 流石の坂柳といえども、高円寺を相手するのは疲れるらしい。

 

「では、行きましょうか」

 

 斉木が頷いて再び歩き出すのを見て一之瀬と櫛田は我慢ができなくなったのか2人に駆け寄り話しかけ始めた。

 

「待って斉木くん! 私もお願いしたいことが……」

「斉木くん! 私もちょっと話を聞いて欲しくて……あ、ポイント払うから!」

 

 一之瀬も櫛田もポイントを払うと言ってまでお願い事をすると言うのだが、一之瀬は斉木の言う通りクラス内の人間であるため本末転倒であるし、櫛田の行為も敵クラスに塩を送る行為だ。

 それを見過ごす神崎と堀北ではなく、斉木の方はどうにもならないと思ったのか、一之瀬と櫛田に近づくと斉木から引き剥がしてしまう。

 

「俺には何が正しいかよくわからんがとりあえず落ち着け一之瀬」

「櫛田さんもよ、斉木くんを憐れんだのかもしれないけどあなたがポイントを払う理由はないなずよ」

 

 神崎と堀北は2人を捕まえてそう諭すと、一旦教室へと引っ込んでいく。

 それを見届けた斉木と坂柳は今度こそ帰るためにオレたちに背を向けた。

 斉木の真意が今ひとつ掴めないが、斉木が居なくなった廊下で、ヒソヒソと坂柳が退学になることを利用して金を巻き上げているクズだと罵る声も出始める。

 

「うらやま……いや、なんて酷いやつなんだ斉木のやつ。坂柳ちゃんを利用して、あんなこと……! 俺許せねぇよ寛治!」

「お、おう……そうか? 坂柳ちゃんは別に嫌がってなかったし……本人たちが同意してるなら……」

「そんなわけないだろ! あれも無理やり言わされてやらされてるんだ! じゃないと、坂柳ちゃんがあの時言った言葉は……!」

 

 と言っても男子で憤っているのは山内くらいだが、女子連中は坂柳への心象が良くないのか「坂柳さんの相手はポイントもらわないとやってらんないよねー」「でもスペックいい男子を1000ポイントで使い放題ってめちゃくちゃ良さそうじゃない?」と呟いてる子もいる。

 とりあえず、Aクラスがポイントを集めて乗り切ろうとしていることは確証が持てた。

 ただ坂柳1人のポイントで不足分を賄えるのかはまだわからない。

 今後の斉木の動きにはまだ注目できそうだと、オレは自分のカバンを取りに教室へと戻った。

 




2、3年は掲示板で把握。
ひよりは図書室に行っていたため不在。

龍園は高円寺が話し始めたところでくだらねーと戻って行った
橋本や神室は声をかけようにも何から言えばいいかわからず沈黙
綾小路グループは佐倉以外(アレと話せる清隆どうなってんだ……?)となっている

明日の投稿はお仕事の都合でお休みです
土日に投稿できたらいいですね
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