長くなりましたが10巻ラストです
なんか意図はしてなかったんですけど、その巻の〆(特に特別試験絡み)は綾小路にやらせてる気がする
てことで今回も綾小路くん、君に決めた!
そしてタイトルに3期オープニングタイトルを使う安直さ
なおチェス描写なし
ついに試験当日、3月8日の土曜日がやってきた。
ほぼ全クラスの状況は固まっており、オレが耳にしている限りではAクラスはプライベートポイントによる救済で誰も退学者を出さない。
Bクラスは坂柳が自ら名乗りを上げ、Dクラスはシンプルな人気投票による結果を優先すると聞いている。
もちろん当初の思惑とは異なる結果になる可能性は十分あり、蓋を開けてみるまでは分からない。
かく言うオレも100%安全圏にいる訳ではなく、この試験に絶対の保証はない。
オレのクラスは退学候補者に山内、須藤、池、高円寺の名前が上がっているが、昨日の堀北の演説が効いているのであれば山内になる可能性が高い。
1学期から成長が見られず、ここ最近は坂柳にストーカー行為をはたらいたらしく、それを堀北に指摘されていた。
他にも高円寺を退学させるように根回ししていたことも。
平田は退学者を出したくないと、自らの名を書くように試験前に述べていたが、平田の名を書く人間はこのクラスにはいないだろう。
試験前に表明した平田の宣言がどこまで効果があるかは知らないが、誰が退学することになるかはオレには見えていた。
「待たせたな、これからCクラスの結果発表を行う。全員席につけ」
9時ちょうどに茶柱が教室へやって来る。
ついに審判の時が来た。
間もなくこのクラスから、1人の生徒が退学する。
2000万プライベートポイントのないオレたちにはそうするしか道はなかった。
スタートが0クラスポイントであったオレたちと、地道にポイントを貯めていた一之瀬クラスとは違うのだから。
「ではまず、賞賛票の上位3名の発表から行う。3位は……堀北鈴音」
呼ばれた堀北は意外そうな顔をした。
オレも正直意外ではあった。
体育祭からクラスへの協力の姿勢を示してはいたが、まだその態度には刺がある。
しかし、昨日の放課後、クラスメイト全員に対して山内を退学にするべきと訴えた堀北の姿は今までとは違うように見えた。
1000プライベートポイントマンから堀北が何か助言をもらった可能性もあるが、オレには関係のない話か。
「次いで2位だが……平田洋介、お前だ」
「っ!」
結果がどうなるかはオレにも分からなかったが2位が平田というのは順当な順位だと感じた。
本人は不服だろうが、クラスメイトの前で見せた醜態も、大きなマイナスにはならなかったということだ。
それだけ平田は、この1年間身を粉にして尽力してきた。
特に女子からの信頼は絶大なものだろう。
では、残る1位は誰か。
その結果だけは誰の目にも明らかだっただろう。
「1位は、櫛田桔梗。お前だ」
平田と同じくこの1年間クラスのために動いてきた女子生徒。
男女共に信頼は厚く、表面上は欠点らしい欠点も見当たらない。
堀北のような刺々しさもなく、平田のように醜態を晒すこともなかった。
それに夏休み以降、堀北とほぼ同じ能力値にまで至った成長性は目を見張るものがある。
強靭な精神力と社交性を持った堀北……なるほど無敵か。
「さて、ここまで良いニュースを伝えた訳だが───ここからは悪いニュースについて話していく」
嫌な空気が教室内に漂い始める。
今までも毎回嫌な緊張感に見舞われることはあったが、今回ほど重苦しい雰囲気はない。
「そして批判票の1位は、33票を獲得した生徒。残念ながらお前だ、山内春樹」
「さ、さんじゅうさんひょう!?」
どうやらあいつに賞賛票を入れたのは池や須藤といった仲のいいメンバーくらいみたいだな。
その仲のいいメンバーも池は2位、続いて須藤とかなり危ない結果ではあったが、正直に言えばこの2人は残ってくれた方が助かる。
「嫌だ! なんで、なんで俺が退学しなきゃならないんだよ!」
立ち上がり机を叩いて吠える山内に池と須藤は目を伏せることしか出来ない。
何とか残って欲しいと思いながらも、山内ではなかったら自分が、という思いもあったのだろう。
須藤にはオレも票を入れたが、思いのほか批判票が少ない。
他のクラスのバスケ部や誰かから賞賛票を貰った可能性もあるが、誰が入れたか開示されない以上は予想の範疇を出ないな。
「なんで! なんでなんで!! なんでだよ!!! こんなふざけた試験! ふざけた試験で!! 人の心とかないのかよ!!!」
「どう思うのもお前の勝手だが、この決定は取り消せないぞ山内」
「うるっせぇ〜〜!!!」
淡々と現実を告げる茶柱に山内は咆哮する。
「ふざけるな! ふざけるな! なんで俺なんだよ!! なんで高円寺じゃ! こいつよりも、俺はァ!!」
「高円寺は下から10位とあまりいい結果ではなかったが、最下位はお前だ山内」
諦めろ、試合終了だと茶柱は暗にそう言った。
「……っっ!!」
茶柱の言葉を受け、山内は机を拳で何度も何度も殴りつける。
悲しみと絶望に耐えているようでもあり、憤怒をぶつけているようでもある。
やがてそれは嗚咽へと変わり、山内は肩を震わせながら俯く。
涙が溢れ、鼻水を垂らし、それでも声を漏らさないように耐える姿に心が痛む。
しかし、心が痛みこそすれど誰一人として助けの手を差し伸べることはなかった。
オレは無表情でただ静かにその光景を見つめ続けていた。
堀北の作戦で1人だけが退学させられるのだろうと分かっていたからだ。
それがオレになることを防ぐ方法を探していただけ。
それ以外はただ流れに身を任せるつもりだった。
「残された手段は2000万プライベートポイントを払うだけだが、出来ないのであれば退学だ」
「認めてねぇよ俺は! 嘘だこんなこと!」
「見苦しいねぇ。弱い犬ほどよく吠えると言うが、最後の最後まで君は惨めで醜く、救いようのない不良品だというわけか。君にはここに居場所はないのだから、速やかに退室したまえ」
茶柱に向けて吠えていた山内が高円寺の煽りに殺意を向ける。
「黙れぇぇぇ!!!」
自分の座っていた椅子を握りしめ、高円寺に向かって突撃する。
振り上げた両腕を、高円寺の頭部に振り下ろす。
直撃すればいかに高円寺であろうとタダではすまないが、あくまで当たればの話だ。
軽々と椅子の足を掴んで振り下ろしを阻止すると、強引に山内を引き寄せた。
「私を殺そうとしたんだ。私に殺されても文句は言えないよ?」
「ひぃっ!?」
山内の顔が引き攣ると共に、高円寺の危険な気配を察知した茶柱がそれを止める。
「そこまでだ」
忠告を受けた高円寺は、椅子から手を離す。
「これ以上は、やめておけ。山内、お前のためだ」
クラスメイトからの悲痛な視線と、憐れむ視線、どうして自分がこんな目にという自分を憐れむ視線が交錯する中、山内は鳴き声とも悲鳴とも取れる声を上げて、茶柱が改めて言う。
「退室だ」
こうしてCクラスから1人の生徒が退学した。
1人欠けた教室はいつもの教室とは大きく異なり、全員の心に影を落としていた。
そんな思考は切り替わっており、既に次の特別試験へと意識を向けている。
そう思わなければ、辛すぎるからだ。
その重苦しい雰囲気の中、1人席を立つとそれを皮切りにみんなが口数少なく帰路に着く。
1階にある掲示板には今回の退学者たちが記載されていることだろう。
オレもそれを見に行くために席を立つ。
1日休みを挟んで、月曜日が来ればこの教室に顔を見せる。
その時には山内の姿はない。
「思ったよりも重症ね、彼」
堀北の言う彼とやらを見ると、平田は魂が抜けたかのように半放心状態でボーッと座っていた。
それを心配したみーちゃんが恐る恐る声をかけていたが、あまり効果はないようだ。
このクラスに対して、今、平田がどう思っているのかは本人にしかわからない。
だが、前を向いてもらうしかないが、そんな平田の様子を見ていられなくなったのか他の生徒もまた教室を離れていく。
オレもそれに乗る前に、まだ教室に残っていた高円寺の前で立ち止まる。
「なにかな綾小路ボーイ」
「お前がクラスのために行動するとは思わなかった」
「それはそうさ。私としても退学を避けるためには堀北ガールの協力をするよ」
「そのことじゃない。山内を執拗に煽って、あいつの憎まれ役を一手に引き受けただろ」
退学となれば山内はクラスメイトを憎む。
もしかしたらオレたちが卒業した後に復讐のようなことをしてくるかもしれない。
だが高円寺は終始、誰よりも山内を煽り続け、その対象を自分にだけ向けさせていた。
「やれやれ。買いかぶりはやめて欲しいねぇ。私は醜く散る彼を1番間近で見たかっただけさ」
オレと高円寺の共通の友人の口癖を口にした高円寺に、そういうことにしておくかと教室を出た。
出来ればプロテクトポイントとやらを得ておきたかったが、今のオレに賞賛票を買ったりするプライベートポイントも交渉材料もなかった。
だから、退学にはならないようにとしていたが、山内が勝手に自爆してくれて助かったといったところだな。
「待って、綾小路くん」
教室を出ると、その後を堀北が追ってきた。
「掲示板を見に行くのでしょう? 私も行くわ」
それくらいならとオレも了承する。
須藤は先に教室に出ているし、友人であった山内が退学したから学校には残らずに帰っているだろうし、変なやっかみを受けることもないしな。
2人で今回の試験結果、他クラスがどうであったかが記載されていた。
その結果を見てオレたちは目を見開いた。
「どういうこと……?」
クラス内投票結果
退学者
Aクラス なし
Bクラス なし
Cクラス 山内春樹
Dクラス 真鍋志保
以上2名。
この試験によるクラスポイントの変動はなし。
「どうして……? Aクラスはともかく、Bクラスも……?」
批判票の結果に対して賞賛票の1位は、Aクラスは斉木、Bクラスは坂柳、Dクラスは椎名だった。
Dの椎名は素行や性格を考えれば納得だが、退学者として立候補した坂柳が1位になっている点が腑に落ちない。
坂柳は賞賛票29票と最少数ではあるが1位を獲得している。
そして、Aクラスはてっきり一之瀬が取るものと思っていたが、予想外にも斉木が1位になっていた。
恐らく本人が1番驚いていそうだが…………まぁ、オレも他クラスへの賞賛票で斉木に入れたしな。
Dクラスは他クラスや自身のグループから賞賛票を集めたのか龍園ではなく、船上試験中に恵に執拗ないじめをしていた真鍋だった。
「坂柳さんが1位……? あの噂はフェイクだったということ?」
「どうだろうな」
坂柳としては本気で退学する気だったように思う。
でなければ斉木にあんな厚顔無恥極まりないお願いはしないだろうし、昨日も朝はお姫様抱っこされて登校してきたと言う。
そんな恥ずかしいプレイの数々を見せておきながら退学がフェイクとは考えにくい。
そう考えていると坂柳が残っている理由に心当たりがありそうな生徒がやってくる。
「綾小路に、堀北か」
「葛城くん、どういうことかしら? あなたのクラスから退学者が出ていないというのは」
「結果通りだ。まあ内心、俺も驚いてはいるがな」
口ではそう言いながらも葛城はこの結果に憂いなどはないらしく、むしろ愉快げですらある。
「今回の試験でBクラスは退学者を出さず、 優秀な頭脳を失わずに済んだ……結果はそれ以上でもそれ以下でもない」
「だからどうしてそんなことになったのかを聞いているのよ」
坂柳を退学させる予定じゃなかったのかと問いかける堀北に、葛城は穏やかな表情を浮かべる。
「今回、1番批判票を集めたのは俺だった。俺が退学になるはずだった」
「なんですって?」
「組織に2人もリーダーがいらないのであれば一番のお荷物はこの俺だ。何一つ結果を示せていないからな。昨日の放課後に坂柳が帰った時に全員にそう言わせて貰った」
だが、結果として葛城は今こうして目の前に立っている。
つまり、それは。
「誰かがお前を救済したのか」
オレの呟きに葛城は頷いた。
Aクラスでスタートしていた葛城たちだが、一之瀬クラスのようにポイントを集めていたという話も聞かないし、むしろ龍園クラスに毎月ポイントを徴収されていると言う。
そんな状況下でどうやって救済したのか。
「……まさかとは思うが」
「そのまさか、なんだろうな。俺は、いや坂柳もあいつには頭が上がらんだろうな……」
思い浮かべるのはこの試験期間中、ずっとふざけたメガネをかけていた男子生徒のこと。
「事情を聞こうにも、さっき教室を見に行ったらもぬけの殻だった。神崎に聞いたら面倒事になる前に帰ると言って立ち去ったらしい」
「あいつらしいな」
今回の結果には1000プライベートポイントマンが絡んでいる。
それは誰の目から見ても明らかだった。
あんなに露骨にポイントをかき集めている生徒は他にいなかった。
「ちなみに救済をしたのは誰なんだ?」
「白石という女子だ。斉木には誰かのモノマネを頼んで卒倒していた」
橋本じゃないのか。
斉木と仲がいいBクラスの生徒だとあいつくらいしか思いつかなかったが。
「俺はこれから斉木に礼を言ってくる。聞きたいことは山ほどあるが、それよりも感謝を伝えたい」
「そうか」
退学すると決意していたはずが、そうならなかった葛城だが、その顔はとても晴れやかだった。
「斉木くん、たった数日で4000万ポイントも集めたというの? 信じられないわね……」
「ただあいつなら不正とかそういうことはしてないんだろうな」
「それは……そうね」
何をしたのかどうかはわからないが結果が全てだ。
最大で4人出るはずだった退学者はたった2人だけ。
毎月支給されるプライベートポイントが1人分減ったオレと龍園のクラスは手痛いダメージを受けたが、4000万プライベートポイントを吐き出した一之瀬クラスも厳しいはず。
ただ、葛城と坂柳のことだから、斉木に返済をしていくだろう。
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オレは試験が始まる前日に、斉木に一通のメールを出していた。
オレの手持ちのポイントの半分を払って、あることに協力してもらいたいという依頼だ。
ただそれは今回の試験ではなく、これからも行われることになるであろう退学者を出すことを前提にした特別試験に関してだ。
試験終了後、特別棟で待つとの連絡をしておいたが、さているだろうかと足を向ける。
すると、斉木は指定通り特別棟にいた。
ただ、一緒に坂柳の姿もあって妙だった。
しかも、その坂柳がベッタリと斉木にくっついているのも妙だった。
「……邪魔だったか?」
『いや、早く来てくれて助かった。何とかしてくれ』
オレが呼び出したのだから約束の時間よりは早く来たが、もしかして斉木はオレが来るまでずっとこの状態だったのだろうか。
なんでいるんだと坂柳に目を向けてみると、斉木の腕に絡みながら説明してくる。
「ふふふ、私が退学にならなかったのには楠雄くんが何かしたに違いないと思いまして……試験後注目を集めることを逃れられない楠雄くんなら試験後に誰も来ることはない特別棟で時間を潰すのではないかと来てみたらドンピシャでした」
「そ、そうか……」
こいつこんなキャラだったかと内心困惑する。
今までのクールでミステリアスな様子とは打って変わって斉木にデレデレだ。
そしてその斉木の目は心なしかいつもより3割増で死んでる。
「楠雄くんは綾小路くんと待ち合わせをしていると聞きまして、もしかすると今回の試験のことや、今後のことを話すのではないかと思いまして、少し残らせていただきました」
『少し?』
「15分は少しではないですか?」
問い掛けられた斉木は心底嫌そうな表情をしている。
坂柳の予想は当たっているし、こいつならオレの事情も把握している。
ある程度は問題ないと判断してオレは隠すことなく本題を切り出す。
「昨日メールで伝えた通りだが、今回の追加試験、恐らくだがオレの父親が動いた可能性がある」
『君の父親?』
「綾小路くんの予想は当たっています。お2人ともこれを見ていただけませんか?」
そう言って斉木の腕から一旦離れて携帯を取り出した坂柳が見せてきたのはメールの画面。
読んでみれば坂柳にオレを退学させるように指示した文書がそこにはあった。
「父を停職に追いやった学校側の人間でしょう。元々は追加試験に関しても、他クラスは賞賛票を投じるものではなく批判票を投じる形で行わせるつもりだったのですから、間違いないと思います」
もしもそんなルールがまかり通っていたら、どんな生徒でも、結託して退学させることができてしまう。
坂柳も、一之瀬も、斉木も倒そうと思えば倒せてしまう無茶苦茶な試験だ。
それは現職員たちの猛反対もあり、賞賛票とプロテクトポイントが生まれたと言う。
「そんなものに協力する気もなく、一之瀬さんに敗れた私には居場所もなかったので私は退学してこのことから目を逸らすつもりでした。しかし、せめて綾小路くんのことは守るべきでしたね」
「気にするな。お前は状況が状況だったんだ」
とはいえ、その状況の果てを見てオレはかなり驚いているが。
「仮にお前が心を折られて無ければどうしたんだ?」
「楠雄くんの前でその話をするのはちょっと……」
言いにくそうに坂柳は顔を赤らめて見せた。
それに対し、斉木は溜息を吐いた。
『山内に協力するフリをしてクラスの裏切り者に仕立てあげて退学させて、綾小路にはBクラスの賞賛票を流して1位にするといったところだろう』
「……流石ですね楠雄くん、私の事、何でも分かっちゃうんですね」
『わからんわからん知らん知らん』
この状況を櫛田に見せたら面白いことになりそうだなと考えたが、一瞬斉木の目が鋭くなったのでやめることにした。
「で、どうして山内なんだ? たまたまお前に利用されただけか?」
「ああいえ、以前、合宿の際に彼に私がぶつかって失礼な態度を取ってきたのでその報復をと思いましたが……今は気にしていません。彼のおかげで楠雄くんに背中を支えていただけましたから。ただ最近の付きまといは鬱陶しかったですが……それも楠雄くんに助けて貰えましたし許してあげます」
ああもう聞くのやめよう。
坂柳が動かずともCクラスの結果は山内の退学だったと思うしな。
「あとは一刻も早く父が復帰して、正常な学校運営に戻り、楠雄くんのことを報告出来ればいいのですが……」
オレたち以外誰もいないはずの特別棟で惚気ける坂柳、それを迷惑そうに見る斉木の空間に、突如として影が差す。
「やあ、こんにちは」
スーツに身を包んだ見覚えのない男が、オレたちの前に姿を見せる。
「この学校に来るのは初めてでね。職員室がどこにあるか分かるかな?」
「職員室ですか、それはまた随分と見当違いの場所をお探しですね。ところで、失礼ですがどちら様ですか?」
「私は、今度理事代行を務めることになった月城と申します」
丁寧に手を振り優しそうな笑顔を振りまく月城理事代行は年齢は40代くらいに見える。
先程までトゲがなく、斉木に対してのデレしかなかった坂柳だが、自分の父親の代わりにやってきたという月城理事代行には以前のようなクールでミステリアスで攻撃的な雰囲気が戻っていた。
「そうでしたか。迷ってここに足を踏み入れるとは、理事代行は相当な方向音痴のようですね。あるいは、監視カメラから私たちの足取りをたどって、様子を探りに来たのかと思いました」
「面白いことを言う子だね? とても愉快な学校とは聞いていたが、皆君みたいな生徒なのかな? それじゃあ、失礼するよ」
職員室のある方向とは逆の、オレたちの方へと歩いてきた月城理事代行に坂柳は言う。
「職員室をお探しながら、引き返して下ですよ? 校舎が違います」
丁寧に教える坂柳を、月城理事代行はほぼノーモーションで坂柳の杖に向かって蹴りを入れようとする。
『杖は蹴るものじゃないぞ』
それを坂柳の隣にいた斉木が割って入ると、月城理事代行の鋭い蹴りをもろに脛で受け止める。
何の防御もなく受け止めれば痛がるのは斉木のはず……だと言うのに悲痛の叫びを上げたのは月城理事代行だった。
「うぐっ!? あぁッ!?」
まるで電柱を蹴ってしまったかのような表情で悲鳴を上げる。
斉木の方は坂柳の腕から逃れて『痛かった、今のは痛かったぞ』とボソリと呟いて脛をおさえていた。
本当に痛いのか……?
「大丈夫ですか、楠雄くん!?」
『僕は頭に来ている。猛烈に脛が痛いからだ。よくも遠くまで飛ばしてくれたな月城理事代行』
「うっ……! くっ……! うぅっ……!」
飛ばされてないだろ、動かざること山の如しだったぞ。
オレには身体のハンデがある坂柳の杖を蹴ろうとして斉木を蹴ってしまった月城理事代行の方が大惨事に見えるが……。
少ししてから痛みが和らいで来たのかやや荒い息を吐きながらゆっくりと起き上がった月城理事代行は笑う。
「うっ……っ、随分なことをするじゃないですか、綾小路清隆くん」
「オレは何もしてませんけど……?」
あんたが勝手に動いて自爆しただけにしか見えなかったが。
あの蹴りを見るに相当な実力者のはずなのだが、どうにも調子が狂うな。
「ふぅーっ、坂柳有栖さん、あなたには指令が行ったはずでは? っぐ、彼を退学させるようにと」
「あのメールは、あなたのお仲間からのモノでしたか。学校関係者が露骨に生徒を退学にさせられない以上、私のような人間を頼りたくなるのも無理はありませんが、見当違いでしたね」
まだ当たった足の甲が痛いのか、涙目になりながらも、月城理事代行は締まらない格好でオレと坂柳を見てくる。
そんな弱々しい理事代行に坂柳は言う。
「理事代行が生徒に暴力行為をして、問題にならないと思いますか?」
「心配はいらないよ……っ、ここには監視カメラがないし、仮にっ、何かあってもいいようにこの辺一帯はダミー映像に差し替えてあるから」
つまり、何が起きても記録には残らないから問題になることはないということか。
「清隆くん……うっ、父上からの伝言だ。これ以上……はぁ……っ、子供の遊びに付き合う気は無い……ぃ、すぐに帰ってこいとの事です。YESなら、瞬きを2回しようか?」
「するわけないでしょう」
「自主退学の意思はなし……と」
退屈そうに呟く理事代行だが、オレの向ける目は敵意ではなく憐れみだった。
オレとの対話は無理と悟ったのか、あるいは自分をこの状態にした斉木の事に視線を向ける。
「……で、そこにいる彼は? あなた達のご友人ですか?」
「ええ。普通の理解力があれば説明は不要かと思いますが?」
「流行ってるのかそれ?」
坂柳が言ったセリフは確かこの前一之瀬も口にしていた。
女子の間でなにか流行りのようなものがあるのだろうかと思案していると月城理事代行は不敵に笑う。
「ふふ、言葉だけは1人前ですねぇ。しかし、君たちの友人は不幸だ。この場に居合わせてしまったというだけでこれから標的にされてしまうのですから」
やめておいた方がいいと思うが。
「正式に私がこの学校で活動を始めるのは4月からです。どうぞ、お楽しみに……うっ……っ……」
斉木の存在が厄介なのか、月城はそれだけを伝え右足を引きずりながら特別棟から去って行く。
「……なんだか拍子抜けだったな」
「ええ……あんなのに父は停職に追いやられたのでしょうか……」
オレに抵抗や反撃を強いて来るつもりだったのだろうが、状況が悪すぎたな。
一応は監視カメラの映像を差し替えたり、校内に誰もいないタイミングを狙ったりと準備はしたんだろうが。
「楠雄くんありがとうございます、また守っていただいて……楠雄くんは本当に私のナイト、いえフィアンセですね」
『そんなことはない。ほんとにない。やめてよね』
「ふふっ、照れ隠しが上手ですねっ」
月城が居なくなったことでまた惚気け始めた坂柳に、オレは本題に戻って用件を片付けておくことにした。
「斉木、昨日送ったメールの件なんだが」
さっきのことで大体の事情は察してくれているのだろうが、斉木には説明しておくべきだろうと、ホワイトルームのことは伏せて、オレが父親を名乗る不審者から退学を迫られていることを告げる。
そして出来ればそれを阻止するのに手を貸して欲しいことも。
『ポイントは貰ったしな。僕のクラスメイトを優先させてもらうが、それでもいいか?』
「ああ」
斉木の力が借りられるのであればオレとしてはありがたい。
「ところで、坂柳のクラスが退学者0だったのはどういうカラクリだったんだ? 誰かからプライベートポイントを貰ったのは分かるが」
斉木が救済に手を貸す義理はないと思うが、真意が分からなかったので聞いてみる。
プライベートポイントマンの活動の一環だったのかもしれないが、斉木にメリットはないと思うが。
「それは私にも教えてくれないんです。もしかすると依頼者を明かせない契約をしているのかもしれませんし、深くは聞きませんが……ただ、その……退学前提で色々とはっちゃけた私としては大変恥ずかしいので責任を取っていただきたいのですが……」
「アレは坂柳の自爆だろ」
「うっ」
やれやれとオレは肩を竦めて……斉木の癖が移ってしまったかと咳払いをする。
Bクラスが誰1人欠けることがなかった理由は気になるが、本人に言う気がないのなら仕方がない。
とりあえず、退学せずに済み、月城の存在と斉木の協力を取り付けられたことだし、よしとしよう。
「じゃあ、またな」
『おい、協力する代わりにこれを持って帰ってくれないか』
「これ呼ばわりは酷くないですか?有栖って呼んでください」
「……それは難しい相談だろうな」
3人で帰るつもりはなかったが、坂柳と2人きりになりたくなかった斉木が追いかけてきたことで結局寮まで3人で帰ることになった。
オレが原因で退学者を出すことになった追加試験はこうして終わりを告げた。
そしてこの2日後、オレたち1年生にとって最後の試験が始まる。
病院の先生「ヒビ入ってますね」
月城理事代行「えっ……?」
↑ヒビで済んで良かったな
感想でも書いたけど綾小路パパと月城理事代行の作戦ガバすぎる
綾小路1人退学させるのが難しいからって、その綾小路が退学するかも怪しい試験ばっかやりすぎ
これからはその怪しい試験に斉木楠雄がうるせえー!死ね〜!FINAL FANTASYしていくかもしれなくなったのでもっとやりにくくなりそう
月城さん見逃してええの?→月城さん潰してもまた新しいの送られてくるだけだからとりあえず様子見
綾小路パパは?→楠雄は空助が脅してるの知らないから、政界の人間に手を出すと面倒くさそうだなーで地味な嫌がらせをして気力を削ぐ作戦にしてる
メタ的な話をするとこの人潰すと綾小路だけいい空気吸って、高育がまともな青春学校になっちゃうから少しは元気でいて欲しい
なんで斉木は4000万も持ってるのか→堀北学が南雲とのポイント勝負もなくなり、林間学校で勝ったおかげで他クラスも死に体でポイントをつぎ込む必要もなくなった
そこに妹と気にかけてる後輩の相棒(一之瀬)を紹介してきて、さらには『僕が退学するから葛城を生徒会に入れてくれ』と言われて「あいつ自分を犠牲にしてまで、他クラスまで救おうというのか……なんて馬鹿げたやつだ……」と感服してトータル1500万ポイント送った。これで斉木の所持はトータル3500万。
南雲は「堀北先輩だけにいい格好させるかよ」と斉木に送ろうとしていた1000万を、堀北先輩からなら受け取ると思うんでと学に送って、学は「オマケだ」と南雲からとは伝えずに1500万の後すぐに1000万送り付けた。
まあテレパシーで聞こえる楠雄は分かっているので受け取るしかなく、救済役にはワンチャン批判票集まりそうな橋本ではなく、クラスでは可もなく不可もなく、男子から好意的に映っていて退学にはならないであろう白石に一任した
代わりに白石は在学中なら楠雄の可能な範囲で願いを聞いてもらう権利を得た
白石なのは連絡先交換したから。西川でもよかったらしい。
葛城に票が集まったのは葛城の説得もあれば、坂柳、葛城、橋本を抜いた即席グループに白石が「ポイントの詳細は教えられませんが、退学者を出さずに済みそうなので葛城くんに投票して頂いてもよろしいでしょうか?」と2000万ポイントのスクショを送って葛城に送るように誘導した。
クラスメイトは疑心暗鬼になりながらも、まぁ嘘でも葛城が退学するだけだしな……で葛城に入れた。
多分原作でも葛城の知らないところで戸塚に入れるように坂柳が誘導してたし、似たようなこと。
なお1位葛城2位戸塚3位橋本だった←橋本「俺ぇ!?」
なので葛城さんと白石さんが何もしなかったら戸塚か橋本が退学してた(橋本になりそうなら楠雄が手を加えてた)
こんな馬鹿げたこと(先輩から2500万も貰ったこと)を他の人に言っては反感を買うかもしれないので一之瀬含めて誰にも言ってないが、一之瀬には(堀北元会長から貰ったんだろうなぁ……)と思われている
Bクラスを救済したことには特に不満はなくむしろ流石斉木くんと好感度が上がっている
他のクラスメイトも薄々察しているが一之瀬から聞かないでおこうねと圧をかけられたので聞いてない
完全体坂柳「とうとう記念すべき日がやって来ました……。この私が一之瀬さんに負け、楠雄くんに辱められ完全体になる日が……」
完全体坂柳ですがドMにはなっていませんが、私を救えて倒せるのは楠雄くんしかいない思考になってるのでドMかもしれん
なおちゃんとチェスは相手してもらい3回やって3回ともボコられています
楠雄的にはこれで身の程も知れるし必要以上にボコボコにされては自分に対する敵意も好意も失せるだろうと思っていましたが、悟空のごとく『み、みんな……すまねぇ!こ、こんなはずじゃなかった……!』と後悔してます。
なお坂柳の好感度は102です(一之瀬が試験終了時点で95 櫛田が93 2人とも高校では恋愛する気ないからブレーキかかってるだけでブレーキ外れることがあったら助からない、ね)
本編の通り坂柳が楠雄にデレデレになっているのがその証拠
本人的には退学するつもりで恥ずかしい事ばかり要求していたのに、みんなに見られてしまっていて、トドメにお姫様抱っことチェスでぼろ負けしてもう生物的に好きじゃなくて異性として好きと認めるしかなくなった結果吹っ切れた
まあ当日の夜は流石に「私はなんて恥ずかしいことぉぉぉっ!!お嫁にいけまぇぇぇんんんっ!!」と悶えた模様
楠雄に救われた身なのでこれからは葛城とクラス運営をしていきつつ楠雄優先で学校生活を送る様子
優先とはいえ敵対する時はする
ちなみに楠雄に退学しろと言われたら退学するくらいには楠雄優先になっているので楠雄も冗談が言いづらい
すごく強いクールな女なはずが……まあええやろ
楠雄は坂柳のこと嫌いじゃないのか→苦手ではあるけど身体的制限がありながらもそれをバネにして知力を上げたので、感心はある。寮の一人暮らしも神室とかの手を借りているかと思えば一人でやっていたし。
ただその才能をどうして人を陥れるのに使うのかと哀れんでいたくらい。
助ける気はなかったけど、坂柳の代わりに善人の葛城が退学するくらいならと退学匂わせしたら学から「俺の卒業を見送ってもらうからダメ」と阻止された。
坂柳を助ける気はなく、葛城が坂柳を残して欲しいと言った時は(橋本以外の)元坂柳派閥だったり、神室が退学するの少し惜しんでいたのでまあなんとかなるんじゃないかとは思っていた
批判票が少なかったのはそのせい
賞賛票は契約通り龍園クラスがいれた
坂柳「貴方に愛を教えるのは……」→教えられた。答えはシンプル。まあ楠雄と関わっていく中で楠雄が愛に飢えてたり、愛を知らない訳じゃない事は分かってたけど、まさか愛を教えられるとは……みたいにはなってるかもね
楠雄は綾小路に父親の事を言われて聞き返してますが知らないフリしてるだけで全て知ってます
知らないフリとすっとぼけが特技の男、斉木楠雄
楠雄が退学していたら→みんな曇る……が超能力なしでは誰も楠雄を退学させないのでポイントを白石に移譲してからクラスメイトに催眠かけて自分の批判票書かせて……ってしたら一之瀬、神崎、姫野を筆頭に心壊れるからできなかった気もする
綾小路と高円寺に楠雄の口癖が移ってる→楠雄といるうちに彼がやれやれ言うこと多すぎて移ってきた(本当は林間学校あたりで入れたかったけど忘れてた)
なお橋本、龍園、櫛田、一之瀬、神崎、椎名も移りかけてる。
風邪か何か?
退学者たち→真鍋は退学させるのに惜しいキャラデザと声だったけど、他に退学させるようなのが本当に龍園しかいなくて困った……元々はオリキャラの名前作ってそれにしようとしたけど真鍋を残しておいても、軽井沢の不安材料になるから綾小路が消すよなぁで退学させました
すまん、楠雄が龍園クラスにいたらずっといるから……
山内は残当
こっちも適当にモブキャラ作って退学させようかと思ったけど、満場一致で消える運命になりそうだったのと斉木が助ける理由が皆無すぎてやめた
若干ではありますが、綾小路くんに感情が戻りつつあったりする
変なやつと1年間も一緒にいたせいだ……綾小路パパがいたらこんなのデタラメだ!ってキレると思う
龍園はともかく平田くんがなんで僕のクラスメイトは助けてくれないんだ?ってならん?→なるかも。ただ平田は1000プライベートポイントマン頼らなかったし山内だし、楠雄的にも無理だった気もする。まあ次の特別試験中に綾小路が板チョコみたいに心割って接着剤で補強していくから大丈夫でしょ。斉木への恨みで強くなってくれ(まあ斉木を恨むような性格してないからならんが)
くーちゃんへの賞賛票が多い理由→日頃の行い……ですかねぇ……
綾小路の言う通りくーちゃんが1番驚いていて『なんでだよ、一之瀬さんじゃないのかよ』ってなっている
これで10巻は終わりです
終わったよ……真鍋、山内、イギー……!
次回から最終巻11巻ですが、多分特別試験の話よりもホワイトデーの話の方が長くなるんじゃないか……?
坂柳からは貰ってないけど、一之瀬、姫野、小橋、網倉、椎名、櫛田の6人からもらってます
お、おお……多くない……?
今月中に1年生編終わる……?(11.5巻を見ながら)これさえ、これさえなければ……!
まあいっか!
本編とあとがき合わせて13000字と過剰ですが、〆にはいいやろ
てことでまた次回
(11巻に関してはなんも決めてないからすぐには書けないかも。まあ先生同士の話ならすぐ書けそうではある)
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