ダイジェストでやろうとしたけど開幕前は書かなきゃと思って短めだけど書いた
約2週間という準備期間を経て、1年生にとって最後の特別試験の日がやって来た。
負けたクラスの司令塔は退学となるが、今回は付与されたばかりのプロテクトポイントを剥がされるだけ。
退学者が出ないのであれば、各クラスが意識することはクラスポイントのみ。
1種目ごとに30クラスポイントが移動し、最大で210ポイントが手に入り、勝ち越しクラスにはさらに100クラスポイントが与えられる。
結果次第では全体のクラスが入れ替わる可能性は大いにあるだろう。
「斉木くん、昨日はよく眠れた?」
朝のホームルームを待っている間に一之瀬さんから声をかけられる。
その声に釣られて前の席の神崎も僕の方へと身体を向けてくる。
僕はいつも通りだったと伝えると2人は安堵したように頷いた。
「良かった」
「お前らしいな」
今日まで準備を重ねてきた2人は緊張しているようだ。
それに比べると僕はまるで他人事のように落ち着いている。
司令塔として、重要な役割を与えられているはずだが、たった2週間ではあったがこのクラスが今日までにやってきたことは知っている。
どんな話し合いをして、どんな種目にし、どんな練習を積んできたか。
「今回はクラス対抗戦だ。司令塔の関与があるとは言っても、基本的に求められるのは俺たちの総合力。Cクラスに劣っているとは思わないが、須藤や堀北、高円寺といった強敵もいる」
神崎はこれまで少なからず関わってきたCクラスの面々を思い出す。
しかし、そんなの関係ないという言葉を引き取るように柴田が口を開いた。
「大丈夫だぜ神崎、なんたってこっちにはスーパーウルトラ司令塔がいるんだならな!」
他クラスの強敵達を意識して不安になりつつある神崎を安心させるように、柴田は明るく話す。
そんな彼に引っ張られるように、他のクラスメイト達も徐々に活気づいていく。
「楠雄がその気になれば世界でいちばん強い。見せてくれよ楠雄、本当の力を……なんてな!」
「斉木くんがいれば一勝は確実だけど、いつまでも頼ってられないし」
「私達もAクラスに上がったメンバーの1人だって見せつけないとね」
網倉さんと小橋さんもやって来ては他のクラスメイトたちも僕を囲んでくる。
すると、ちょうど全員がいるということで柴田が円陣を組もうと言ってくる。
「っしゃあ、試験前に円陣、いっちょやってみっか!」
「いいね! やろやろ!」
女子たちが賛同すると全員で肩を組んでいき円ができる。
僕の隣は神崎と一之瀬さんで、2人ともこういうのは慣れていないのか僕の肩に触れるか触れないかの位置で手が浮いている。
「悪い……(小学生の時は無邪気だったから気にしなかったんだがな)」
「えっと、あはは……私、円陣組むの初めてで……(こ、これでいいんだよね?)」
僕もやるのは初めてだよ。
やったとしても僕はトイレに逃げたりしてたしな。
『僕も初めてだ』
「そうか……俺もだ。肩の手はここでいいのか?」
「にゃはは、よかった、私だけじゃなくて」
僕が言うと、2人は安堵したように彷徨わせていた手を置いてくる。
僕も2人の肩に手を置くと、円陣が組めたところで発案者の柴田に注目が集まる。
「で? 掛け声はどうするんです?」
「決まってんだろ、こういう時は……俺たちは強い! って言うんだよ」
「初耳だけど……いいね」
浜口が問いかけると柴田が当然だろと鼻を鳴らす。
それに異論がなかったのか、あとは誰が言うのかというだけになる。
「一之瀬頼む」
「えっ!? 私!?」
「確かに帆波ちゃんに言ってもらえれば自信つくかも」
「頼むぜAクラスのホワイト仏陀!」
柴田のそれは褒めてるのか?
「じ、じゃあ……えーっと、私たちは……!」
「「「「強い!」」」」
そうやって掛け声を出すと、クラスメイトたちは顔を見合せ、笑顔を綻ばせる。
1年生最後の試験前とは思えない、いや1年間を共にしてきたからこその空気感というやつなのだろう。
円陣から離れると、墨田や時任、安藤さん、白波さんらからの視線を受けて僕は司令塔としての移動を始める。
「頼むぜ、斉木」
「僕らも力いっぱい頑張りますから」
「どんな種目でもね!」
出口まで道を開けるクラスメイトたちの作った路を通る。
「斉木くん、頑張ってね」
『君もな』
最後にいた姫野さんと一言だけ交わして教室を出る。
残された生徒たちは基本的に教室で待機し、多目的室からの指示を待つ。
種目が発表されてから場所の移動や着替えを行うそうだ。
モニターなどでは詳細は知れないようになっているようだが、僕にはテレパシーと千里眼があるから問題ないな。
冬の寒さが僅かに残った特別棟に足を踏み入れて多目的室へ向かうと、すでに他の3人は到着しており、女子だけの姦しいトークをしていた。
それも僕が来たことに気付くと中断し、こちらへと挨拶をしてくる。
「おはようございます、楠雄くん」
「おはよう、斉木くん」
「おはようございます、斉木くん」
坂柳さん、櫛田さん、椎名さんと3人同時に声をかけられるが、僕は手などは挙げずに同じく挨拶を返しておく。
3人がここで立ち話をしているのを見るにまだ多目的室には入れないようだが、4人揃ったら声をかけろと言われているみたいだ。
あくまでも、徹底して公平に進めるためか。
「にしても櫛田さんが羨ましいです」
「え? 私? (何が?)」
「楠雄くんと数時間2人きり……まぁ先生たちもいるでしょうが、羨ましいと思うのは当然です」
「そうかな? (そう言われてみればそうか……試験のことばっかで考えてなかったな)……坂柳さんは斉木くんのこと好きなんだね」
「いえ、好きだなんて2文字では足りませんよ……ふふふ……」
頬に手を当て恍惚とした表情を浮かべているのであろう坂柳さんに櫛田さんが(うわ)と心の中では毒づく。
(この前まで一之瀬さん潰しとかしてたくせに……まぁ本人とかが許してるなら他人がどうこう言うべきじゃないか)
表情こそ苦笑いではあるが心の中では呆れつつも、気にしないでおくことにしたらしい。
一方で椎名さんは坂柳さんの様子を見て何やら納得がいったらしい。
(なるほど確かにこれは龍園くんの言う通りにすれば多少は動揺や精細を欠いてくれるかもしれませんね)
どうやら椎名さんになにか指示をしたらしい龍園の思惑は……吉と出るか凶と出るかは置いておいて今は放っておくか。
「さて、全員揃ったことですし、参りましょうか」
坂柳さんを先頭に多目的室に入ると、初日には無かった壁が作られていて、ちょうど室内の半分で区切られていた。
直ぐに気付けたのは3人からのテレパシーのおかげで僕には透け透けだったが。
防音性は高いようだが、あまり意味は無さそうだな。
「BクラスとCクラスの生徒はあちらに移動するように」
真嶋先生の指示で、坂柳さんと椎名さんは仕切り板で区切られた隣の部屋へと姿を消す。
それに茶柱先生も続いていく。
どうやら対戦するクラスの担任は受け持つクラス以外の進行役をやるようだな。
おかげでこちらは坂上先生と真嶋先生ではあるが、隣は茶柱先生と星之宮先生。
よかった、相手がCクラスで。
「5分後から試験開始となる。今のうちに気持ちを作っておけ」
真嶋先生がそう言うと、坂上先生と最後の打ち合わせを始める。
それを見ていると、櫛田さんがふぅーっと深呼吸をした。
(今まで夏休み以降の特別試験は斉木にアドバイスを貰ってたけど、今回は敵同士……斉木との連絡は控えてたけど……平田くんのこと相談したらなんか勝手に解決してるし……なんなのホントこいつ)
それに関しては申し訳なく思っている。
主に自クラスに対してだが。
本当ならそこまで手を出す気はなかったが、流石に敵に塩を送っておいて、自分のクラスには毒を放つわけにもいかないんでな。
「(斉木に私が成長してるって見せるチャンスと捉えて頑張るしかないよね……)斉木くん、この前もいったけど手加減はなしだよ?」
試験前の僅かな時間、交わされるのは短い言葉だけでいい。
僕はAクラスで、彼女はCクラス。
必然的に挑戦者は櫛田さんたちになる。
『僕は本気だ。クラスメイトたちは知らないが、出させてやってくれよ。本気を』
「(こいつ……!)こっちも強いから。油断してると負けちゃうよ?」
心から自分のクラスを強いと思えているのならば、それは君の成長の証だとも思うがな。
まぁ、僕のクラスの方はもっと強いらしいが。
「では、試験を開始する。双方、着席しろ」
真嶋先生からの指示が出て、僕たちは機材を間に置いて向かい合う。
相手の顔は見えないのだが5秒もあれば機材を貫通してしまう。
パソコンの画面を見るのも一苦労だな。
その画面には僕以外のAクラス全員の顔写真が表示されていく。
「特別試験の進行を担当する坂上です。早速ですが1年度最終特別試験をはじめたい思います。各クラス、5種目を選択し決定ボタンを押すように」
一之瀬さんと神崎が用意した10種目が表示され、選択するように画面上でも指示が出る。
(えっと、あっちは学力で有利だから試験系の種目を選んでくるはず。だから、こっちは弓道、バスケット、卓球、タイピング技能、サッカー……っと)
相手のCクラスは神崎の予想通り、運動系で固めてきたか。
弓道はメジャーな競技認定されているのか。
とりあえずこちらは総合得点での勝負にすることで有利に進められると知識や学力を必要とされる種目を中心に選択する。
現代文、数学、化学、英語、世界遺産クイズとCクラスが運動系を多めにしてくるだろうという前提で用意していた学力種目を選ぶ。
お互いに選んだ5種目が大型モニターに表示される。
「ここから、完全なランダム抽選を行いこちらで7種目を決定していきます。中央の大型モニターに抽選の結果が表示されるようになっているので、見るように」
そう言って坂上先生がモニターを見るように促し、同時に画面が切り替わる。
3Dの映像に変わり、抽選中の文字が表示される。
そして映し出された1戦目の種目はあちらが選出したバスケットボールだった。
司令塔のスキルに任意のタイミングでメンバーを1人まで入れ替えても良いとあることからバスケ部の須藤を温存出来れば温存し、危なくなれば投入する作戦だろう。
選んだCクラスとしては落とせない種目だろうが、僕にも譲れない事情はある。
ここで柴田や安藤さんといった運動能力に自信があるメンバーを使うと後がしんどくなる。
かと言って相手に須藤を温存させるのも面倒だ。
となると、中西、服部、米津、墨田、女子からは南方さんを出しておくか。
ルールは覚えられていたし、服部はミニバス経験者だ。
柴田の見立てでも中西と攻めの軸にして、あとのメンバーはドリブルより、パスとディフェンス練習を徹底させた。
こちらには週刊少年ジャンプで培ったバスケットの知識がある。
柴田はスラムダンク派らしいが、僕は黒子のバスケの方がいいな。
僕に逆らう奴は親でも殺す精神は学ぶべきじゃないが。
メンバーを選出した後は僕らは見ているだけだ。
唯一できることは状況に応じて1人の生徒を交代させることだけだが、司令塔に許された関与となる。
モニターの向こう側で手早く準備が進んでいき、程なくして試合が始まったが……
「(さてと、気は進みませんが、やることはやりましょうか)坂柳さん、斉木くんとプライベートポイントを払わないと手を繋げないなんて可哀想、ですね」
(ふふっ、挑発でしょうか? そんなものに乗る私ではありませんよ)
「私は約束もしていないのに映画館でばったり出くわして、同じポップコーンを食べました」
(な、なんですかその羨ましいシチュエーションは……!? 同じ、ポップコーン? 偶然出くわしたのにそんなものがあるなんて有り得ません!)
「その後、カフェで感想を語り合ったんですが……って、聞いてます?」
(き、効いてなどいません……私は楠雄くんに髪を乾かしてもらったんですから……)
「斉木くんとは小説を貸し合う仲で、図書室で週に1度会うことにしてるんです。坂柳さんはポイントを払ったり自分から出向かないと会えないんですよね……大変、ですね……」
(た、耐えるんです私……! これもきっと龍園くんの作戦のひとつ! 私から集中力と冷静さを奪うための狡猾な罠! 乗ってはいけませんよ……!)
「(そういえば……)バレンタインのお返しは何を貰ったんですか?」
「…………貰っていません。そもそもあげていませんから」
「えっ? そもそもあげてない……? あぁ、そういえば帆波さんにちょっかい……かけてましたもんね……」
「……何が言いたいんですか? さっきから。くどくどと……」
「いえ、その……斉木くんに固執しているように見えてそうでもなかったんだなと思っただけで、不快にしたつもりはありませんよ? (こんな感じで言えと龍園くんに言われましたが、効果あるんでしょうか?)」
「(天才で可愛いんじゃなかったのか? 使えないな……ですか……そうですか、そうですか……椎名ひよりさん、でしたか……先程までの話、黙って聞いていれば……! ほんと、よく喋りますね、その程度のことで私の心が乱されるとでも?)初めてですよ……私をここまでコケにしたおバカさんは……許しません、絶対に許しませんよ! じわじわと、自分の発言を後悔させてあげますよ、椎名さん……!」
「後悔……はて、どんな味でしたっけ(めちゃくちゃ効いてますね……でも私も何やら恥ずかしいことを斉木くんの担任の前で言わされているような……?)」
「きゃわ〜! ねぇ、サエちゃん、あの2人超可愛いんだけど! うちのクラスの男の子巡って舌戦に次ぐ舌戦なんだけど!?」
「チエ……うるさい、静かにしろ……(なんでチエと2人な上に、生徒たちの惚気を聞かされなければならないんだ……!)」
あっちの方が凄まじいことになっているのは聞かなかったことにしておくか……
流石に殺すはダメかと思ってオブラートにしておきました。
逆にキレてやっかいなことになる可能性もあるけど、Bクラス全体のヘイトがDに向けられて多少冷静さはなくなったから龍園的には戦いやすくなるのかもしれん
同じ室内でやってるけど防音だし聞こえないよね▶︎楠雄に全部筒抜け
一番の被害者は楠雄なので無罪
おまけは今回はなしです
ごめんね!
明日はできたら投稿します