ようこそ超能力者のいる教室へ -1年生編-   作:オールF

127 / 129
真実が残酷だと言うのなら嘘はきっと優しい

日常回3個目?かな?
今回も平穏無事な回ですが、また他クラスなのは許して欲しい


驟雨の如し烈火の実

 春休みも気づけば4月を目前に控えた30日になっていた。

 初日である3月26日と2日目である3月27日は外に出ていたが、28日と29日の2日間は特に何をするでもなく、時間の大半を自室で過ごしていた。

 ただし、のんびりと1人で読書はできず、来客とその来客者の置いていった爆弾のせいでそれどころでは無かったからな。

 

 28日に櫛田さんが来た。

 午後からは堀北元会長とスマブラの決着をつけることになっていたため、来るなら朝にしてくれと言うと8時にやってきた。

 早すぎるだろ。

 

「おはようっ、斉木くん。朝早くにごめんね」

 

 春休みの朝早くに外に出る人間はそう多くはないが、周囲の目を気にしてかインターホンであってもみんなから好かれる櫛田桔梗とやらを演じている。

 というか、わざわざエレベーターで降りてエントランスまで行ったのかと当惑していると今度は部屋の前のインターホンが鳴らされる。

 オートロックは玄関に出向かなくても開けられるのは楽だなと思いつつ、念力でロックを解除してやると櫛田さんは部屋の中に入ってくる。

 

「(おはようは……さっき言ったからいいか)お邪魔します」

『ああ』

「(急に来るって言ったのに結構片付いてるな。まあコーヒーゼリーメーカーとかくらいしかないから散らかりようもないか。というか)なんで朝早くにしたのか聞かないんだ」

 

 部活の朝練に行くやつらや高円寺みたいにトレーニングに行くやつはもう少し早い時間帯の6時半から7時半に寮を出る。

 トレーニング組の帰宅時間は読めないが、朝練の連中は早くても10時前、遅くとも昼前まで戻ってこない。

 あとはケヤキモールの開店は9時で、寮から歩いて5分であることを考えれば8時前後に外に出てくる人間はそういないから訪ねるのにはちょうどよかった、というところか。

 という推論を説明してやると櫛田さんは手を叩いた。

 

「せーかい。さすがだね」

 

 コーヒーをいれてやり、彼女の前に置いてから僕は勉強机前の椅子に腰かける。

 

「ありがと。てか、来といてなんだけどこの時間で良かったわけ?」

 

 特に何かするわけでもないしな。

 ただ朝ごはんがまだなので食わせてもらうが。

 実家から持ってきたトーストを食べながら櫛田さんの要件とやらを聞くことにする。

 また相談か、誰かの愚痴か、2年生までにやっておくべきことは何かを聞きに来たとか。

 用事はそんなところだろうと予想していると櫛田さんが口を開く。

 

「斉木ってさ、誰にも負けない得意なことってある?」

 

 藪から棒になんだとは思うが、まあ櫛田さんの話をする上で必要なことなのだろう。

 しかし、特技か。

 大抵の事は超能力でなんとかなってきたから、誰かに負けない強みとなるとそれは超能力になってしまうのだが。

 秤を使わなくても重さが10g範囲の誤差までなら測れるとか? 

 答えに悩んでいると櫛田さんはため息を吐いた。

 

「(まぁこいつ大抵の事は出来るし、誰かに負けたこともなさそうだな)斉木にはあんまり分からないかもしれないけどさ、他人にはない自分だけの価値を感じる瞬間って最高なんだよ。テストで1番を取ったり、かけっこで1番を取った時、皆が注目してくれるよね。凄い、かっこいい、可愛い、そんな視線を浴びる瞬間があるじゃない?」

 

 幼い頃は母さんに褒められたいという感情があって色々とやらかしたからわからなくもない。

 

「斉木も気付いてると思うけど、私はそれが他の人よりもずっと強くて依存してるんだよ。自己アピールをしたくて仕方ないの。目立ちたくて仕方がない。褒められたくて仕方がないの。それが叶った瞬間に自分の価値の高さを実感する。生きてるって最高だって感じる」

 

 しかし、櫛田さんは知ってしまったのだ。

 どれだけ頑張っても勉強やスポーツでは1番になれない。

 2番や3番では自分の承認欲求を満たすことはできない。

 だから、彼女は誰よりも優しく、誰よりも親身になる女神のような人格を演じた。

 

「まぁ、勉強やスポーツはあんたのおかげでクラスでもかなり上位に入れた。今の私なら堀北の得意な合気道ってやつ以外ならサシでやり合っても2回に1回は勝てると思う」

 

 基礎を徹底的に身につけさせておいたからな。

 ただ特定の分野になるとまだ堀北さんの方が上だろうが、やり方次第では櫛田さんにも軍配が上がる可能性はある。

 

「けどさ、やりたくもないことをやり続けるのは苦痛でしかなかったなぁ。勉強とか運動は大したこと無かったけど、興味無いやつの話聞いたり、愛想良くしたりするのは毎日ハゲそうになるくらいストレス溜め込んでさ。苛立ちから自分の髪の毛を毟ったり、気持ち悪すぎて吐いたこともある。だけど、優しい私を維持し続けるためにはそんな姿を誰かに見せるわけにもいかない。耐えて耐えて耐え続けた」

 

 そこまでして他人から褒められたい、必要とされたいという気持ちは……まぁ、わからなくもない。

 幼少期の僕も似たようなものだったからな。

 他の人とは違うという特別な部分にプライドのようなものを持っていたのだろう。

 母さんから人前で超能力を使ってはいけない、見せてはいけないと言われても、僕は何度か人前で使ってしまったわけだしな。

 

「ほら、君はそのストレスをどうやって乗り越えたんだ? って聞きなさいよ」

『え? あぁ、うん……どうやって乗り越えたんだ?』

「私の心を支えてくれたのはブログだった。誰にも言えない秘めたストレスを全部吐き出せるのは、そこしかなかった」

 

 無論、櫛田さんは匿名でやったようだが、匿名なことに安心しすぎたのかありのままの事実を書き綴った。

 日頃のストレスを全部そこに吐き出して、そうすることで溜飲がスッと下がっていったらしく、櫛田さんは自分を維持できたらしい。

 しかもブログであるため第三者からの励ましの言葉も嬉しかったようだ。

 だがそれも長くは続かず、ある日櫛田さんが書いていたブログを彼女のクラスメイトが偶然見つけてしまった。

 いくら登場人物の名前を伏せていても、書いている内容は櫛田さんの学校やクラスであった出来事や相談された内容であるため、知っている人間が見れば気づくのも当然だった。

 しかし、クラスメイト全員の悪口なんてよくもそんなに出てくるな。

 クラスメイトの方に問題がありそうだと思いつつ、僕は櫛田さんの話を聞く。

 

「翌日にはクラスメイト全員にブログの内容が拡散しててさ、全員が私を責め立てた。今まで散々私に助けられてきたのに、全部手のひら返しして。身勝手だよね」

 

 まぁ他人にバラして欲しくないことは他人に言うべきじゃないな。

 僕の前では考えるべきでもない。

 櫛田さんの書いた内容も問題はあるな。好きだと言っていたのに肩を突き飛ばされ、好きでもない人物が告白してきたことを気持ち悪いと書くまではいいとして、死んで欲しいとは書くべきじゃないな。

 中学生なら婉曲表現も使った方がいい。

 お前みたいな人間は生きていちゃいけないやつなんだとか。

 もっとダメだな。

 

「私はその時、クラスメイト全員の秘密をぶちまけた。誰々は誰々が嫌いだよとか、ずっと気持ち悪いと思ってるみたいだよ、とか、ブログに書いてなかったようなこと全部ね」

 

 そうすることで櫛田さんに向いていた敵意は、自身を嫌い、気持ち悪いと罵った相手に向けるようにしたわけか。

 どれだけ過激な内容だったのかは分からないが、男子は殴り合いをはじめて、女子も罵り合いに留まらずに髪を引っ張ったり張り倒したりとドッタンバッタン大騒ぎだったようだ。

 

「クラスの人間関係の内情を全部暴露されたんだからさ、そのクラスはもう機能しなくなっちゃうよね。私も学校側から責められちゃったけど、やったのは匿名のブログに悪口を書いたことと、クラスメイトに真実を話しただけで学校も処分には困ったみたい」

 

 ブログに書いていた内容はともかく、クラスに拡散されたことに関しては見てしまったクラスメイトが広めたのが原因だしな。

 それにそもそも論をいえばどいつもこいつも櫛田さんにばかり人に言われては困ることを言い過ぎだ。

 真実を話しただけで学級崩壊するのならその程度のクラスだったという見方もできる。

 堀北兄妹もいたんだろうが、かなり劣悪な環境だったんだなと心配になる。

 

「自分のストレスの吐き出し口をインターネットにしたのは失敗だったね。不特定多数の人が見るし、情報は永遠にデータとして残ってしまうから。だからブログはやめたけど、ストレスを言葉で吐き出すことでしか発散できないのは困りものかな」

 

 そうまでして今の櫛田さんはクラスメイトや他クラスの生徒とも交流を持ち、尊敬され、注目され、彼女にだけ秘密を打ち明けてくれると知った時に生を実感したいのだろう。

 他人が自分の胸の内にだけ抱える不安や苦しみ、恥じらいや希望、それらを知ることが櫛田さんにとって最大の快楽。

 

「中学の時とは違って、まだクラスの仲間のことは詳しくは知らないけど、数人を破滅させるだけの真実は握ってるよ(佐藤さんは小野寺さんが嫌いとか、寧々が嫌われてることとか)」

 

 考えたものは軽いものだが、櫛田さんはクラスメイトだけではなく、彼女を信用し信頼して相談してきた人間の善行から悪事、恥ずかしい過去、家庭事情や補導歴といった様々な情報を握っている。

 テレパシーも催眠も使えないのに大したものだと素直に驚かされる。

 櫛田さん自身を守るための武器になると中学時代に知ってしまったのが原因ではあるが、圧倒的な情報量は学年でも1番に違いない。

 僕を除けばという話だが。

 

「斉木からすればくだらない過去だったよね。けど、私にとってはこれが全て」

 

 話し終えた櫛田さんは息を吐くと温くなったコーヒーに口をつける。

 その顔はどこか満足気で誰かに話すことができて嬉しそうでもあった。

 

「あ~スッキリした」

 

 それもそのはずで櫛田さんは本性を晒して接することのできる相手など他にいない。

 いや、いるにはいるが櫛田さんとしてはまだ仲良くはしづらいのだろう。

 堀北さんも綾小路も断片的にしか知らないみたいだしな。

 いや堀北さんは知ってろよ。

 同じ学校だろ。

 

『それでどうして僕に過去の話を?』

 

 ぶっちゃけ、櫛田さんから直接聞かなくても大体のことは知っていた。

 だから今更聞いたところで思うことといえば櫛田さんの地元の人間性終わってんなということくらいだ。

 

「どうしてって、知って欲しかったから」

 

 他人の弱点を知るのは好きなのに、知られるのは嫌いじゃなかったのか。

 そう顔に出ていたのか櫛田さんは不満そうな顔をする。

 

「別に、私だって嫌いな奴とかどうでもいい人には知られたくないよ。誇れることじゃないのはわかってるからね」

 

 ムスッとしたまま櫛田さんは話を続ける。

 

「どうでもよくないっていうか、素の私でもいいって言ってくれるやつなら聞いてくれるんじゃないかと思って話しただけ。悪い?」

 

 悪いとは言ってないがやはり疑問は残るな。

 なぜ櫛田さんが僕に過去を話すことにしたのかが分からない。

 メールを見たのがさっきだったからな。

 夜は実家に戻っている僕には櫛田さんがメールを打つのに思い至った経緯が分からないのだ。

 

「それは、その……私にとっては斉木はどうでもよくないっていうか……知って欲しいと思ったから……」

 

 なるほど……。

 これは告白される流れか? 

 いや、でも櫛田さんの好感度は94と告白してきてもおかしくない数字ではあるが……ってなんか105になってるな。

 しかし、櫛田さんはみんなの櫛田桔梗を演じるためには恋人という存在は枷になると考えているから誰か特定の異性とは付き合わないと決めている。

 そんな彼女がいくら素を見せられる上に、相談事にはほぼ100パーセント乗ってくれて解決もしてくれて、勉強と運動面だけではなく特別試験のフォローまでしてくれるだけの僕と付き合おうとするか? 

 自分でも言うのはアレだが、体育祭以降の僕はもはや地味でどこにでもいる男子高校生から逸脱しているぞ。

 

「実際、斉木なんとも思ってないでしょ。私の昔話聞いて」

 

 元々知ってたからな。

 言うとすれば、よく頑張りましたというくらいか。

 

「別に頑張ってな……くはないか。けど、褒められた努力じゃないでしょ」

『相談相手が勝手に誰が嫌いとか気持ち悪いとか言ってきたのは別に君が聞いたからじゃないんだろ』

 

 それに味を占めたのは問題ではあるが、自己防衛にしか使わないのであれば問題ないだろう。

 あるとすれば櫛田さんの情報網を利用する輩が現れる可能性くらいだが、そのあたりは僕がいればなんとかなるだろう。

 

「……ほんと斉木って変わってるよね」

『君ほどじゃないと思うが』

 

 他人の秘密を知ることが快感というのはある種の性癖なのだろうか。

 そんな特殊性癖を持ってる子に変わってると言われても説得力が

 

「でも私は好きだよ」

 

 な

 

 

「ん?」

 

 ちょっと待って、今なんて言ったこの子。

 僕に巻き戻し、ムーディブルースの能力とかなかったか? 

 もう一度言わせると流石に後に引けなくなる。

 キムチでもいい? って言ったのか? と誤魔化せるか? 

 

「(混乱してる? 意外。体育祭以降告られまくったって聞いてたから慣れてるもんだと思ってたけど)私、斉木のこと好きだよ。嫌な顔はするけど、私の話聞いてくれるし、助けてくれるし、こんな私でも別にいいって言ってくれたし」

 

 誤魔化せなくなったな。

 やれやれ、だな。

 櫛田さんには悪いが、その気持ちには応えられないなと言おうとした時に櫛田さんが口を開く。

 

「あ、勘違いしないでね。別に付き合いたいとか、恋人になりたいとかじゃないから。ただ好きってだけ」

 

 ん? 

 んん? 

 

「ふぅー……言いたいこと言えてスッキリしたから、私帰るね。また学校で……ってその前にまたスイーツビュッフェとか行けたら行こっか。私たち付き合ってないんだし、別にいいでしょ?」

 

 え? 

 ええ? 

 まあ? うん? いい? のか? 

 

「じゃあね(あー、思ったより普通に言えた。昨日の夜2時間くらい練習して良かった。帰って寝よ……寝れるかな?)お邪魔しましたー」

 

 ちょっと待っ…………え? 

 ど、どういうことだ? 

 好きなだけで付き合う気は無い……? 

 友達として、ということか? 

 いやそれなら枕詞かなにかにつけるはずだ。

 わ、分からない……。

 堀北元会長に……………………あいつに聞いても絶対分からないな。

 

 

 とりあえず僕はこの後堀北元会長とのスマブラ王決定戦には勝ったが、櫛田さんの言葉の真意がわからずしばらく考え込むことになった。

 




桔梗(坂柳さんが自分の気持ち素直に伝えられてて羨ましいっていうか、なんか言っとかないと斉木のやつなあなあで付き合っちゃうかもだったし。斉木は誰とも付き合う気ないって聞いたことあるけど、それなら好きって言うだけなら困らないでしょ。私も誰とも付き合う気ないし。好きなのは嘘……じゃないし)
1000PPマンの時に坂柳が優遇受けてるのと、学年末特別試験帰りに坂柳が楠雄のこと好き好き大好きウードッカンって感じだったのがモヤモヤしたのと、坂柳や白石たちとご飯食べているという話を聞いてモヤッたから(はー……多分好きだなこれ……)と自覚したため告った
振られたくないから付き合おうと言わなかったのではなく、上記の通り付き合う気がない同士なので気持ちを伝えるだけに留めた感じ
紅蓮滾るクシダギウスになった
これも全部坂柳有栖ってやつの仕業なんだ
おのれ坂柳有栖!

くーちゃん《わ、わからん……櫛田さんがどうして告白してきたのか……この超能力者の力を持ってしても……》←夜に寮にいない弊害
学(ボーッとしてるようで的確にはめ技使ってくるな……変な感じがしたが、いつも通りなのか?)

2年生編に入る前に櫛田さんには楠雄に直接過去をお話いただこうと思っていたらズルズルと最終巻にまでもつれこみました。
意外な形ではありますがちゃんと書けてよかったです

学と楠雄遊びすぎでは?▶︎クラス闘争関係なく遊べて、特に気を使わなくていい、お互いにまともな先輩後輩の関係ということもあるので……
一応家遊びはダントツ1位だけど、外食とかは書いてないけど柴田の方が多め(部活ない日の帰りによく誘ってる)

あと1話と言いましたが書きたいのがもう1話生えてきたのでそれ書いたら終わりかな
だから最終話が早くて28、遅くても31日になります
どう終わるかと聞かれれば堀北学見送るだけですので、そんなに大した話にはならないかと思います
ではこのあたりで
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。