ようこそ超能力者のいる教室へ -1年生編-   作:オールF

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愛することに資格なんて必要ない!

真面目な話とコメディを行ったり来たりしてたらめちゃくちゃ文字数増えた
バカかな?

あと伊吹さん誕おめ


迷える子羊、導くのは

 3月が終わるまで残り2日。

 春休みが終わるまであと8日ほどとなった。

 予定と呼べる予定が堀北元会長の見送りとクラスの祝勝会だけである。

 見送りが明日で、祝勝会は今日の夕方からなのだが、どうにも行く気になれない。

 その理由は櫛田さんからの告白のせいである。

 好きだけど付き合う気は無いという今までにない告白に僕は戸惑いを隠せないでいる。

 おそらくは異性としての好きのはずなんだが、それも明言せずに去ってしまったため詳細は不明だ。

 もしかしたら友達としての好きという意味なら僕はとんだ勘違い野郎となるし、どういう意味の好きだったのかを問うハードルが上がってしまっているのだ。

 櫛田さんに付き合う気がない以上、僕の生活は守られるということなので一旦よしとして気持ちを切り替える。

 そうしようとした時に寮の部屋に戻ると1通のメッセージが入っていた。

 差出人は一之瀬さんからだった。

 その内容は春休み中に少し話せないかということであった。

 内容は分からないが日にちは僕の都合に合わせてくれるらしいが、どうしたものか。

 部屋にいても、家にいても考えることは変わらないし、ふとした話の流れで僕の中で解決の糸口が見つかるかもしれないと思って今日の夕方までなら空いている旨を伝える。

 

【一之瀬帆波:じゃあ祝勝会の前に集まろっか。11時にケヤキモールのカフェでいいかな?】

 

 昼食がてらということか。

 昼過ぎには一時的にではあるが大雨も降るし、もう少し早くてもいいと思うが僕の方は時間には余裕があるし、リサイクルショップを見てから行こうと思い、朝の10時を過ぎた頃に部屋を出た。

 

「またあんた……」

(長期休みは伊吹とよく会うな)

 

 エレベーターを呼ぼうとするとそんなテレパシーが流れてきたので、エレベーターの中の様子を見ると伊吹さんが乗っていたところに綾小路がやってきたところだった。

 

「休み中なんだ。たまたま会うのは不思議なことじゃないだろ」

「そりゃそうだけど……あんたと関わるとろくな事がないから……」

「それは同感だ」

 

 そういえばあの2人は長期休みの度にどこかしらに閉じ込められているんだったな。

 

「また止まったりしないでしょうね……」

「そういえばそんなこともあったな(アレは夏休みだったか)」

 

 乗らない選択肢のない綾小路はエレベーターに乗り込むと、伊吹さんと昔話に花を咲かせる。

 咲いている花はラフレシアかもしれないが花は花だ。

 そこに割って入る僕はハエか何かなのだろうか。

 

「今度はあんたか」

「おはよう、斉木」

 

 これをスルーして次のを待つという手もあったが、この時間帯はどうしても色んな生徒に会うことになる。

 知人がさして多くない僕や綾小路、伊吹さんも例外ではない。

 2人に会釈だけしてエレベーターに乗り込むと、そのまま1階のロビーにつき、直ぐに伊吹さんがエレベーターから降りた。

 続いて僕と綾小路も出る。

 

「斉木もケヤキモールか?」

「えっ? あんた達もなの?」

 

 そもそも、この学校の生徒が行く先なんて学校とケヤキモール以外ないだろ。

 一之瀬さんと会うことは別に言わなくてもいいだろうとリサイクルショップに掘り出し物がないか見に行くことを告げる。

 

「3年がいなくなるから何かあるかもしれないな(オレもまた暇があれば覗いてみるか)」

「てか、なんで3人で並んで歩いてるのよ」

「嫌ならさっさと走っていけばいいんじゃないか?」

「なんで私が」

 

 喧嘩口調の伊吹さんに綾小路は努めて平静に言う。

 いつもこんな感じなのだろうか。

 僕は気にしないから早く行くなら行ってくれれば構わないと思いつつ、足を進める。

 結局、伊吹さんも綾小路も特に急ぐ理由はないためか、似たような足取りで進んでいく。

 その途中で綾小路が口を開いた。

 

「そういえば学年末の特別試験、おつかれだったな」

「は? なに? 話しかけないでよ」

「今のは斉木に言ったんだが。お前は司令塔じゃなかっただろ」

「うっさい。黙れ」

(理不尽だ……)

 

 まあ今のは綾小路も僕に対して言ってる割には斉木も司令塔の文言も無かったから伊吹さんに勘違いされても仕方はない。

 敢えてそう言ったのかもしれないが。

 僕としては疲れたのは特別試験よりも隣の部屋の司令塔2人の会話の方だったので、特に触れることはない。

 2人の間に流れるピリピリとした空気は後ろからやってきた大声によって掻き消される。

 

「よー伊吹、ちょっと待てよー!」

(はぁ、石崎か。なんで今声かけてくるんだよ)

 

 龍園の側近の1人で、僕に椎名さんの名前を騙ってラブレターを出してきた男だ。

 伊吹さんは振り返ることもなければ、歩調を落とすことなく前向いて歩き続けるが走ってやって来ている石崎が追いつくと彼女の隣に並ぶ。

 

「おい待てって! おい!」

「っさいわね。近くで大声出さないで」

「お前が反応しないからだろー。お? 確か綾小路と……斉木か(変な組み合わせだな。こいつら仲良かったのか?)」

 

 走って追いついてきた石崎に名前を呼ばれたので一応会釈を返してやると、慣れないながらも頭を軽く下げてくる。

 しかし、簡単に頭を下げたことが気に入らなかったのか伊吹さんの蹴りが彼の膝裏に入った。

 

「いでっ! 何すんだ!?」

「簡単に頭下げすぎ。あと暑苦しい。離れて」

「んだよ、斉木が挨拶してきたから返しただけだろーが」

 

 朝から元気な連中だな。

 

「どうせこの後落ち合う予定だしこのまま一緒に行ってもいいだろ」

「龍園やひよりもいるのか?」

「いや椎名は観たいドラマがあるから後で来るって……あ、いや……」

 

 あまりにも自然な流れで綾小路から聞かれたため、石崎はうっかりといった感じで口を滑らせてしまう。

 それに伊吹さんはため息をついた。

 

「はぁ……」

 

 この2人がいて龍園がいないというのは不自然な話なので、石崎の失言というわけでとないと思うがな。

 

「ま、まあいいだろ? 斉木の前じゃ隠し事は通用しないって龍園さんも言ってたし」

「言ってたけど……(でも斉木は私らに興味なんてないんだから言わなきゃバレないでしょ)」

 

 僕のことを探偵か何かだと思っているのか? 

 残念ながら口にしなくても思ったことは筒抜けな超能力者ってだけだぞ。

 

「はあ、けどやっぱりわかんねぇよなぁ。龍園さんが言うほど斉木がすごいって感じはしねぇんだけどなぁ」

「それは私も同感だけど、実際前の試験で司令塔になって綾小路のクラスに勝ってるんでしょ?」

「けどそれはアレだ、あの退学にならないポイント持ってるからで、別に一之瀬でも良かったんじゃないか? むしろ一之瀬の方がクラスメイトの個性を把握してるから司令塔に向いてるんじゃ」

 

 そういう話は僕の居ないところでしてくれよ。

 そう思っていると2人の会話に綾小路が口を挟んだ。

 

「いや、当日の斉木の采配は見事なものだったぞ(バスケと弓道は勝ち目がないと悟りつつも、バスケでは須藤を引きずり出せるメンツにしていたし、卓球では神崎と一之瀬のコンビを選出して勝ちを狙いに行っていた。オレが事前に練習していなかったら2人のコンビネーションで負けていた可能性もあったからな)」

 

 あくまで可能性だがな。

 しかし、言われた2人としては僕よりも実力の未知数な綾小路の意見であるためか腑に落ちない様子だ。

 

「斉木のパワーは認めるけどよ、采配の面では龍園さんが上のはずだぜ。なんたってあの坂柳に勝ったんだからな」

(アレは当日の椎名の采配だし、何よりまぐれの要素強いと思うけど)

 

 龍園を崇拝している石崎と嫌悪している伊吹さんとで見解に相違があるが、どちらの意見も正しいといえば正しいだろう。

 当日の僕は選ばれた種目に合わせて適性のある生徒を選ぶだけでよかったからな。

 それからしばらく学年末試験の話を僕が黙っていても続ける3人を傍目で見ているとケヤキモールに近づく。

 

「悪いな2人とも、ここまでだ。お前らは俺らとつるんでるとこ見られると面倒だろうからな(特に綾小路は)」

 

 なんで僕を省いた。

 僕も君たちみたいな不良とつるんでいるところを見られると面倒だぞ。

 しかし、このまま石崎たちとケヤキモールに入って知り合いに会うのは避けるべきだろう。

 石崎の配慮に甘えて僕は正面入口から入ることにした。

 それを見た石崎がそこは俺らが入るはずだったのにと当惑の声を出す。

 

「なっ! おまっ! えぇ……」

「はぁ……マイペースなやつ……」

「悪いな。そういうことだ(オレは見られても問題ないしこっちから入るか)」

 

 石崎たちには別の入口から入ってもらうことにして、綾小路はこの後堀北さんと約束があるようなので、ここで別行動となった。

 綾小路としてはこの1年を振り返っておきたいだろうしな。

 僕は僕で何か掘り出し物がないか探させてもらうとしよう。

 以前来た時はクソゲー探しのために来たが、今回は時間を潰すためだ。

 今のところ特に欲しいものはないし、軽く見て約束の時間になるまで時間が余れば古本を立ち読みさせてもらうとしよう。

 その前に家電コーナーでも見てみるか。

 綾小路の言っていた通り、3年が卒業したから、彼らが使っていた家電でなにか良さげなものがあるかもしれない。

 そう思ったがどうやら学校側が回収しているのかめぼしいものは見つからず、あったのはゼリーメーカーイクシオンというゼリーメーカーだった。

 価格は2480ポイントと安めだが、元の値段はいくらだったんだろうか。

 ここの家電量販店で買ったゼリーメーカーと比べるとデザインはかっこいいがキャスターと取っ手が少し邪魔そうだな。

 買ってみてもいいが元値が分からないのと、説明書がないこと、それに今から人に会うことを考えると今は買わない方がいいな。

 部屋に既に5台あるし、これを買うならこの前見た10万ポイントの高出力ミキサーの方が興味があるな。

 千里眼を使ったがゼリーメーカーイクシオンのメーカー希望小売価格が分からなかったから、おそらくは通販のものだろうな。

 監視カメラまみれの施設じゃなきゃ念写を使って調べるが、それも出来ない以上ここは立ち去るしかない。

 他にいいものはないかと20分ほど止めていた足を動かすと、予定よりも早い集合時間にも関わらず、一之瀬さんの声が届いた。

 

(少し早くついちゃったな。斉木くんは流石にまだだよね……化粧室で髪もうちょっと整えようかな……)

 

 早っ。

 いや人のことは言えないが。

 多分、呼び出しておいて待たせるのは失礼だと思って早めに来たとかだろうな。

 リサイクルショップはいつでも来れるし、今日はもういいかと店を出る。

 普段の休日であれば10時オープンのケヤキモールも長期休み中は一部が9時から開放される。

 一之瀬さんが待ち合わせに指定したカフェもその9時オープンの店の一つだ。

 しかし時刻は10時半、ピークタイムでは無いとはいえ、行く宛のない学生たちが屯しており、中には知り合いの姿も何人か見える。

 先程別れた綾小路や彼と待ち合わせをしていた堀北さんもそうだ。

 この前も橋本と来たばかりだし中に入るのは勘弁願いたいなと思っていると(あ、斉木くん、もう来てる)とブーメランを投げてくる一之瀬さんが戻ってきた。

 

「おはよう、斉木くん。待たせちゃったかな?」

『いや、待ってない。予定よりも早く用事が終わったから少し早く来ただけだ』

「用事? (なんだろう、特に何も持ってないから買い物とかじゃ無さそうだけど)そっか、良かった。じゃ、中入ろっか」

『それは待ってくれ』

「え? どうして?」

 

 首を傾げて聞いてくる一之瀬さんに僕は顎で綾小路と堀北さんのいる席を指す。

 気づいたのか一之瀬さんは「あーなるほど」と声を上げる。

 

『カフェにはこの前来たばかりだから、悪いが場所を変えてもいいか?』

「うん、全然いいよ。まだお昼前だし、ゆっくり決めよっか」

 

 いやゆっくりしてたら祝勝会に間に合わなくなるかもしれないぞ。

 それに何か僕に言いたいことがあって集まってるんじゃないのかこれは? 

 

「とりあえず、上の階に行こっか。それなら綾小路くんたちとは会わないだろうし」

 

 そう言って歩き始めた一之瀬さんの後をついて行く。

 目的もなくただ歩いているように見えるが、歩きながらも周囲の看板を見渡していて、どこの店に入るか考えているのが分かる。

 

(この前定食屋さんには行ったし、カフェと中華は坂柳さんたちと行ったんだよね……うーん、どこがいいかな?)

 

 その話どのくらい有名になってるんだ? 

 やっぱり閉鎖的な環境だと噂の駆け回りも早いんだな。

 一之瀬さんは別に情報通というわけではないが、その人気度故に勝手に情報も集まってくるのか、網倉さんや小橋さんあたりが拾ってくるのか。

 どちらにせよ、この学校での行動には気をつけねばならないなと思いつつ歩いていると一之瀬さんが振り返る。

 

「(ラーメンにハンバーガーショップ、ピザ屋さんかぁ。この中ならハンバーガーかな)斉木くんは何か食べたいものとかある?」

『じゃあハンバーガーで』

 

 僕にはこれといって食べたいものはないし、一之瀬さんの考えも分かっているので彼女に任せる。

 

「(い、一緒だ……偶然だろうけど)うん、わかった。じゃあ入ろっか」

 

 注文をするカウンターにつく。

 昨今の人件費削減の流れなのか、店頭でもモバイルオーダーのようにセルフで注文し、支払うようになっていた。

 

「好きなの頼んでよ。今日はご馳走するから」

 

 ドンと胸元を握りこぶしで軽く叩き、支払いに関しては任せてよと笑みを浮かべる一之瀬さんに僕は首を横に振る。

 

『いや、遠慮しておく。特に奢られる謂れもないしな』

「誘ったのは私なんだから遠慮しなくていいのに」

 

 困ったように笑う一之瀬さんだが、やはりこういうのは自腹を切るのが筋だと思う。

 

「何にする?」

『チーズバーガー』

「早いね」

 

 大体こういうのは食べるものが固定化されていくものだろうが一之瀬さんは違うらしい。

 

「私は迷っちゃうな〜(何が良いかなぁ……この期間限定のチキンが美味しいって聞いたことがあるような……)」

 

 うーん、と唸る一之瀬さんだが、正直僕は味にもこだわりはないので、そんなに悩む必要もないだろうと思うが、彼女にとってはそうではないのだろう。

 

「じゃあ私もチーズバーガーにしようかな(悩んでも答えが出ないや)」

『迷ってたのにそれでいいのか?』

「うん。別に味の好みがそんなにあるわけじゃないし」

 

 メインを決め終えた後はポテトやナゲット、ドリンクなどを頼み、支払いを済ませて座席に移動する。

 店内で食べる時は出来上がったら席まで持ってきてくれるため、空いた席に座り番号札を立てておく。

 

「ゴメンね急に呼び出して」

『気にするな』

 

 どうせ祝勝会まで何も無いからなと言うと、一之瀬さんは何故か顔を暗くする。

 

「ごめんね、その……また斉木くんに頼りきりになっちゃって」

 

 またその話かと僕はため息をつく。

 学年末特別試験以降、一之瀬さんはずっとこんな感じだ。

 焦燥感を漂わせたり、繰り返し自分に落胆の息を吐いたりと自責の念が強くなっている。

 

『試験が終わったあとも言ったが勝ったから良かったじゃないか。それに僕だけの力じゃない』

 

 実際、あの試験でのMVPは誰かと聞かれれば僕ではなく、1対1の勝負を制した柴田になるだろう。

 僕たちの選出種目である学力種目が半分未満であったにも関わらず勝てたのはあいつのおかげだ。

 

「それでも斉木くんの采配が無かったら勝ってなかったと思う」

『司令塔は君がやっても結果は同じだったと思うが』

「(夢ちゃんや千尋ちゃんにも言われたなぁ)斉木くんもみんなも私の事、買いかぶりすぎだよ……」

 

 ナイーブモードになっている一之瀬さんはクラスメイトから見た自分の評価に懐疑的だ。

 

「私だったら絶対に勝ててなかったって思うんだ。学力種目での司令塔の関与で確実に正解できる保証はないし、1戦目のバスケでも柴田くんと神崎くんを入れて勝ちを取りに行って返り討ち……なんてこともあったかもしれない」

 

 タラレバの話だな。

 一之瀬さんがそこまで冷静さを失うようなことはCクラス相手では起こりえないだろう。

 司令塔のできることは限られている。

 種目の関与以外だと、龍園の用意した策を実行した椎名さんや、舌戦を得意とする坂柳さんのように会話術で相手を追い詰めるといったことが挙げられるが櫛田さんにはそれがない。

 あちらもあちらで手一杯だったからな。

 一之瀬さんが功を焦っても選ばれた種目が同じならば結局Aクラスが勝っていた可能性は高い。

 

『一之瀬さんと神崎が練った戦略が良かったから勝てた。結果はそれ以上でもそれ以下でもない』

 

 やっと運ばれてきたハンバーガーやポテトの乗ったトレイを受け取りながら僕が言うと、一之瀬さんは目を細めた。

 

「やっぱり斉木くんは優しいね……」

 

 なんでそうなると呆れながらハンバーガーに齧り付こうと動かしていた手を止める。

 僕が言いたいのはAクラスが勝ったのは皆で頑張った結果で、一之瀬さんが落ち込んでいる必要はないと伝えたいだけなのだ。

 Dクラスは今回の結果に満足することなく次に意識を向けているし、負けたBとCクラスの面々もまた来年度に意識を向け始めている。

 そんな中で勝者であるAクラスのリーダーがこの有様というのはいささかいただけないものがある。

 

「食べよっか。ごめんね、ご飯の前に湿っぽい話になっちゃって……(私、斉木くんにダメなところばっかり見られちゃってる……かっこ悪いな……)」

 

 無理をして笑っているように見えるのは、それが虚勢であることの証明だ。

 本当は1人で抱え込んだまま折れてしまいそうな心を鼓舞しているに過ぎないのだろう。

 どうしたものか。

 

(他の人の前なら、もっと毅然とできてるのになぁ。どうしてだろ)

 

 口に出さなくなっただけで弱音を吐いているのは変わらないな。

 しかし僕にだけか。

 小橋さんや網倉さんの前ではもちろん、神崎や柴田にも弱みを見せていないのはなぜなのだろうか。

 ダメな姿を見せられるのは信用できる人間の前でだけと言うが、僕の父は誰の前でもダメな姿を見せている。

 ただ母さんの前ではカッコつけたり、僕や空助の前では父親らしく振る舞おうとはしているが全て空回りに終わっている。

 そういう時父さんはどうしていたかと考えるが「いっけねー☆てへっ♡」とただ気持ち悪く気持ちを切り替えていたな。

 失敗したら、した時だと。

 したことを引きずってても仕方ないと。

 

『そういえば少し相談があるんだが』

「ん? 何かな(私に聞けることならいいけど、斉木くんが解決できないことなら難しいんじゃないかなぁ)」

 

 この子も大概、僕のことを買い被ってる気がする。

 

『好きな相手に好きとだけ言って付き合う気は無いっていう相手の真意はなんだと思う』

「え? (好きな相手に好きだけ言って、でも付き合う気は無い? うーん、なんだろう。付き合いたいけど付き合うと迷惑がかかっちゃうからとか、もう卒業しちゃうから自己満足のため……とか?)」

 

 前者はありそうだが、後者は同級生だから無いな。

 ただ櫛田さんと付き合うことで被る害なんてたかが知れてる。

 せいぜい池のように彼女に好意を抱いている連中から嫉妬の視線を受けるくらいだろう。

 

『一之瀬さんは好きになった相手とは付き合いたいと思うタイプか?』

「えぇっ!? うーん、どうだろ……(あんまり考えたこと無かったけど)確かに好きになった人とはデートとか、電話とか……してみたいし、付き合いたい、かなぁ?」

 

 それは別に付き合わなくてもできるのでは? 

 例えばだが、一之瀬さんとはこうして2人でご飯を食べているし、夏休みには電話もした。

 付き合わなくてもできることだ。

 

「私としては好きになった相手とは付き合いたいけど……斉木くんは違うんだよね?」

『ああ』

 

 付き合うことが必ずしも幸せとは限らない。

 何より、付き合うことで恋人という関係に引っ張られて気まずくなって、疎遠になったりするというケースを僕はいくつも見てきたからな。

 付き合わずに友達以上恋人未満の関係の方が良好だったというケースも多い。

 それに学生同士の付き合いなんていずれどこかで終わりがやってくる。

 結婚にまで至るケースも……うん身近にいるからないとは言いきれないが決して多くはないだろう。

 

『僕は重いから付き合うとなれば結婚までいくタイプだからな』

「けっ」

 

 父と母に倣うわけではないが、僕も仮に誰かと付き合うという選択をすることになったら、その人と一生添い遂げる覚悟をした時だと思う。

 なんて本当にそうなるかは分からないが、冗談めかして一之瀬さんに伝えると彼女はピシリと固まってしまう。

 

「(え、結婚……? 私今プロポーズされた!? いや落ち着け帆波! 斉木くんは誰かに相談されてそれを聞いてただけだよ! きっと! そう! うん!)えっ、えーと……じゃ、じゃあ、斉木くんは仮に私と付き合うってなったらずっと一緒にいる、覚悟があるの……?」

 

 その例えはおかしい。

 何をどう勘違いしたのかは分からないが、まずは落ち着いてほしい。

 僕が櫛田さんから告白まがいのことをされたと言えばすぐに収まるだろうが、この子は一度思い込みだすと周りが見えなくなってしまう節がある。

 

「か、仮にだから!」

 

 手汗を抑えようとしているのか両手をスカートの裾で拭っている。

 なんでだろう。

 凄く申し訳ないことをしてしまった気がする。

 

『とりあえず、食べないか? せっかく暖かいものを頼んだのに冷めてしまう』

「そ、そうだね……じ、じゃあ食べようか……って、食べれないよ!? さっきのどういうこと!? 何の相談なの!?」

 

 5分前まで落ち込んでいた少女とは思えないほどにテンションが高くなっているな。

 

『たまたま読んでいた本に、好きだけど付き合う気はないからという趣旨の言葉が出てきて、普通の高校生の恋愛のゴールは付き合うだと思っていたからよく分からなくてな』

「そ、そうなんだ…………けど、その告白した方は告白された側のことを考えたんじゃないかな?」

 

 僕のことを? 

 

「される方が今は誰とも付き合う気は無いからとか、他に好きな人がいるみたいなケースなら付き合えなくても告白だけはさせて欲しいみたいな……そういうわがままだったんじゃないかな?」

 

 なるほど、確かに僕は誰とも付き合う気がないことを公言しているし、その可能性は充分にあるか。

 それに櫛田さんも誰とも付き合う気は無いと言っていたし。

 上手く言い逃げされたというわけか……この僕が……。

 

「えっと、斉木くん、大丈夫? (なんか急に落ち込んでるけど)」

 

 あぁ、大丈夫だ。

 僕なりに納得ができたからな。

 僕がポテトやナゲットを食べ始めたのを見て、一之瀬さんも手を伸ばし始める。

 

「そっか……でも、いいなぁ」

『何がだ?』

「私にもさ、しがらみとかそういうの考えずに言いたいこと言えたらなぁって思う時があるんだ」

 

 それは何に引っ張られた我慢なのか。

 Aクラスのリーダーとしてか、あるいは僕にか。

 そのあたりは本人が口をつぐむ以上、僕が詮索するのも野暮というものだろう。

 

「ねぇ斉木くん」

『なんだ?』

 

 ハンバーガーに齧り付こうとした僕に一之瀬さんは躊躇いがちに声をかけてくる。

 

「私、この学校に来てよかったって思うんだ。クラスのみんなに初めて出会ってさ、勝ちを確信したっていうか、私の過去のこと聞いても変わらずに接してくれるとっても素敵な仲間に恵まれたなって思う」

 

 沈鬱な表情とは打って変わって一之瀬さんの口ぶりは穏やかなものだった。

 

「だけど、唯一の誤算はリーダーが私だったこと。みんなは私が優れた人間だって言ってくれるけど、そんなことないと思う」

 

 他クラスのリーダーと自分を比べた時、一之瀬さんはリーダーとしての資質が劣っていると感じているのだろう。

 しかし、一之瀬さんが居なかったら誰が今のクラスを引っ張っていったのか。

 神崎なら上手くやれたという保証もない。

 あいつもあいつでリーダーというよりは参謀や補佐役の方が向いている。

 

「でも私は、私はさ、堀北さんや龍園くん、坂柳さんみたいなリーダーにはなれないってわかったからさ。だからさ、私はみんなの力を借りて、どこまでもクラスのみんなと突き進んでいきたいと思う」

 

 繋がる心が私の力だと言わんばかりに一之瀬さんは拳をグッと握る。

 

「みんなが望むようなリーダーにはなれないかもしれない。きっとこれからも、弱い部分やダメなところとか、かっこ悪いところをいっぱい見せることになると思うけど、みんなとAクラスで卒業するために、斉木くんにはこれからも力を貸して欲しい……んだけど、ダメ、かな……?」

 

 一之瀬さんはリーダーという言葉に縛られすぎなんだ。

 別にリーダーがカッコ悪くてもいいと思う。

 むしろ、完璧すぎるリーダーというものに周囲は溝や距離を感じてしまいがちだ。

 今、一之瀬さんにできることは、今まで通り、仲間の力を信じる自分を信じて突き進み、仲間が取り残されそうになったら手を伸ばして助けること。

 それが一之瀬さんのこの1年の結果であり、成果なのだから。

 

『まぁ僕もクラスの一員だからな。やれと言われたことは出来うる限りやるつもりだ』

「……そっか、ありがとう」

 

 来年になれば綾小路を退学させようという月城の刺客やらも来るみたいだし、特別試験どころじゃないこともあるかもしれないが、僕のこの力は困っている人を助けるためにあるらしいからな。

 それで目の前の困っている人を救えるなら安いものだ。

 ただ、これ以上目立つのは勘弁願いたいが。

 

「ほんと、斉木くんは優しいよ。だから、私も好きになっちゃったんだろうなぁ」

 

 だから、僕は優しいというわけでは…………ん? 

 

「……………………ん? (あれ? 今、もしかして、私声に………………)え"っ!?」

 

 いや、出てない出てない。

 きっと今のはテレパシーだ、幻聴だ。

 僕がどうしたという顔をして口に出ていなかったことにすれば事は片付く。

 

「いや、その、優しいから好きになったんじゃなくてって……(他にも色々と……)って、いや、ちが、いや、違わないんだけどね!?」

『さっきから何の話をしてるんだ?』

 

 僕は努めて平静に、さっきの言葉は口に出ていなかったから聞こえていないと言う風に装う。

 

「えっ、今……いや、何も言ってなかった?」

『ああ、僕のことが優しいとは言っていたが』

 

 それ以外は聞こえていないし、一之瀬さんは口にもしていないと伝えるとホッとした顔をした。

 良かった。

 一之瀬さんは僕を慕ってくれているみたいだが、変な関係に拗れるのは避けたかったからな。

 本当に良かったと内心安堵していると彼女はガックリと肩を落とした。

 

「そっ、そっか……にゃはは、また同じこと言ってたんだね、ごめんごめん(危うく告白するとこだった。ほんとに危なかった……)」

 

 まぁされたんだが、された側としては荷が重いというか、また付き合わなくてもいいからと言われるとどういうことなんだってばよと頭脳回路がショート寸前になるからな。

 それに万が一、付き合おうと言われて僕が断ってしまったら来年度から気まずくなるのは確実だ。

 それを避ける意味でもこの告白はなかったことのようにしてしまった方がいい。

 

(そうだよね。でも、良かった。祝勝会の前に話せて……私、好きなんだ。斉木くんのこと)

 

 うん、まぁ、薄々気付いていたが……今回で確信に至らせてしまったということか。

 坂柳さんといい、櫛田さんといい、こんな何を考えているかよく分からない地味な男子のどこがいいんだか。

 

(二人三脚の時とか、リレーで1位になってくれた時はずっと近くにいたからだと思ってたけど、南雲先輩から守ってくれたり、坂柳さんに追い詰められた時も何も聞かずに励ましてくれたし)

 

 ……それくらいなら僕じゃなくても柴田あたりが……ってあいつは南雲には頭が上がらないのか。

 体育祭の時は制御装置が外れたせいもあるが、他は僕が良かれと思ってやったことだな。

 

(それに、桔梗ちゃんとか坂柳さんとご飯に行ったって話聞いたらモヤモヤしたし……この前も坂柳さんやBクラスの人たちとご飯に行ったって聞いて、斉木くんが引き抜かれるんじゃないかって麻子ちゃん達が心配してたし……いや、私はそんな心配してなかったけど……万が一はあるかもしれない。斉木くん、坂柳さんには甘いし)

 

 そんなことは無いが? 

 あれは2000万ポイントのため仕方なくだ。

 1番ポイントを巻き上げても罪悪感がなくて、ポイントを持っていても意味のない相手だったから選んだだけだ。

 我ながらクズみたいな言い方だな。

 とりあえず、一之瀬さんからの告白は何とか回避できたが、またいつどのタイミングで不意に言われるか分からないから注意が必要だな。

 しかし再び活力の戻った一之瀬さんは、食事を再開すると「冷めちゃっても美味しいね」と笑顔を向けてくる。

 柴田に言われたからでは無いが、泣かせることがないようにはしてやるか。

 それが僕にできるかは不明瞭ではあるが、目立たない程度に手を貸すとしよう。





一之瀬が綾小路に介錯宣言される話の代わりどうしようかなー
一之瀬のことだから卓球で勝てなかったこと引きずりそうだよな〜
相変わらず楠雄に助けて貰ってる感は拭えてないだろうし
でも坂柳とか龍園みたいに絶対的なリーダーも、堀北みたいに成長リーダーにもなれないのは事実ではあるし……みんなに頼りながら助けてもらいながら勝つリーダーになればええと思うけどなぁ〜って話を書きたかったんですよ
なんでこうなったんだろうか
まあ遅かれ早かれ時間の問題やったしええか

一之瀬の好感度ですか?110……運が良かっただけですよ(何が?)
なお、この後の祝勝会で一之瀬が楠雄に向ける目が明らかに変わったので
小橋(え?告った?付き合った?)
麻子(絶対何かあったよね)
白波(でもあれは片思いの目だよ。私にはわかる。……分かりたくないけど)
姫野(斉木くん、一之瀬さんのこと避けてる?いや、一之瀬さんも斉木くんのこと避けてるな……?)

柴田(楠雄、何したんだ……?)
浜口(一之瀬さんが元気になったのはいいことですが、斉木くんを前にすると挙動不審になるのは……まさか!)
神崎(一之瀬はまだ斉木に申し訳ない気持ちがあるんだろうな。俺もそうだ。だが、引き摺っていても仕方ない。来年度に備えてできることをやっていくしかない)

とまぁ一部には気づかれてるというか、生暖かい視線が多くなった。
くーちゃんはちょっと居心地悪かった。
可哀想に。

では次回でラストですが、今回よりはかなり短くなる予定です
さらだば
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