学内やケヤキモールなどの敷地内の至る所に監視カメラのある高度育成高校だが、例外は存在する。
今回、石崎たちが須藤を呼び出した特別棟やプライバシー保護の観点からトイレや更衣室、寮の自分の部屋などには監視カメラがついていない。
そして、公共の施設にも監視カメラがついていない場所がある。
それがカラオケルームだ。
「あ? 石崎、お前、コケて須藤に殴られてねぇだと?」
「は、はい……なんか足が重くなって絡んで……で、でも! ちゃんと怪我はしてきましたよ! 龍園さん!」
須藤に殴らずに転んだ傷だけで龍園や他のCクラスが待つカラオケルームに戻ってきた石崎たちは、その事を報告する。
「殴られてできた怪我と転んでできた怪我は全然違うんだよ。アルベルト」
「Hey」
「え、ちょ、あ、待っ!!」
屈強な身体から放たれた右ストレートに石崎は吹っ飛び、転んでできた顔の傷の上に青い痣が上塗りされる。
(この怪我をダシにして坂上に報告してもいいが、リスクが高いな。せめて小宮と近藤にも怪我がありゃまだマシな訴えになったが)
「アルベルト、小宮と近藤にも腹に1発入れとけ」
「えっ!?」
「BAD BOY……(殴られてきたら殴られなかったのに)」
「あ、やっ、あ"っ!?」
実質何の成果も果たせなかった部下2人にも山田くんの制裁が加わる。
ちなみに山田くんというのはアルベルトのことだ。彼は日本人と黒人のハーフらしい。
龍園に制裁役をやらされているが彼自身は暴力を嫌うようだ。
彼は目立つからな、龍園よりは情報が多かった。暴力を嫌うのはテレパシーで知ったものだが。
「で、どうすんの?」
「焦んなよ伊吹……計画変更だ。相手をBにする」
傍目で見ていた龍園周りにいる生徒では唯一の女子は伊吹さんというらしい。
彼女に問いかけられて龍園はまだ諦めていないのか、トラブルを起こそうとしているようだ。
「Bクラスのやつらがこっちに手を出すとは思えないんだけど?」
「そこは状況次第だな。それに必ずしも傷害事件にする必要はねぇ」
まあ傷害事件でいくならそのまま須藤にしておけばいいからな。
ただ須藤の事件を表面化させて、Cクラス側の自作自演とバレれば、実行犯の3人、下手をすると命令した龍園に厳罰が与えられるだろう。
「お仲間意識が強いBクラスだ。大事なクラスメイトが貶さりゃ手を出してくれるかもしんねぇし、こっちに色々と酷いことを言ってくれるかもしれねぇ」
(後者に備えてボイスレコーダーを、といきたいが、そうするとこっちから吹っ掛けた証拠にもなっちまう。やるなら暴力が手っ取り早いんだがな)
学校側が生徒同士のトラブルにどう動くか見たいからってここまでするか?
それくらいなら僕が堀北会長に聞いてやるが。
龍園としてはCクラス側に非がないように事を起こしたいのだろうが、そう上手くはいくはずもない。
それに彼らが事件を起こそうとしていることを知ってしまった以上、見て見ぬふりという訳にもいかなくなったしな。
「……で、でもBクラスには須藤みたいな頭の出来が悪くて野蛮なやついませんよ」
「今ならこの怪我で学校にいえば須藤とDクラスにダメージを与えられるんじゃないですか?」
山田くんの殴打のダメージから復帰した石崎と小宮が龍園にそう提案した。
「お前らの誰かがちゃんと殴られてればそうしたんだがな」
冷めた目で見据えながらそう言った龍園は(気は進まねぇが)と心の中で呟くと大きくため息を吐いた。
「仕方ねぇ。ひよりにも手伝ってもらうとするか」
「は? 椎名に? なにをさ」
椎名さんに? 彼女がこの手の野蛮な輩に協力するとは思えないんだが。むしろ止めるタイプだ。
「あいつ、脅したりしたら後が怖い気がするんだけど」
「……まぁそれは同感だ。別に椎名に事件を起こして欲しいってわけじゃねぇ」
Cクラスを掌握した龍園にも畏れられているのか椎名さん。
流石、僕に無限のネタバレを喰らわせてきた女の子だ。
「伊吹、お前たしか椎名の知り合いにBクラスのやつがいるって言ってだろ? そいつを使う」
椎名さんの知り合いのBクラスの生徒? 彼女はあまり他者との交流は深くないと思っていたが、一体誰のことだろう。
「あぁ、斉木、くにお……? だっけ。読書仲間って言ってた」
奇遇だな。僕と苗字が同じだ。
しかし、Bクラスにいる斉木は僕だけだ。それに僕は楠雄だしな。
はちゃめちゃでなんでもありなアクションゲームのタイトルになっている伝説の不良とは違うんだ。
苗字と読書仲間というのが一致しているがまだ僕かわからない。
アキネーターは眉を顰めている。
「ああその読書仲間で男のくせに2個もヘアピンをつけた地味メガネだ」
男のくせにヘアピンをして何が悪いっていうんだ?
僕が名前にコンプレックスを持っていたら、その発言だけで万死に値していたぞ。
それにこのメガネはおもちゃのメガネだからそんなに地味でもないぞ。
現実逃避はここまでにして、どうやら龍園が須藤の次に狙いを付けたのは僕らしいな。
「そのナヨナヨした地味メガネをどうするっての?」
「勘違いヲタクのヘアピン野郎と椎名は仲がいいんだろ? 椎名を餌にヘアピン野郎を呼ぶのさ」
どうして僕の容姿を知らないやつらにそんなに貶されるんだ? 椎名さんの情報が悪いのか?
「石崎、汚名返上させてやるよ。お前椎名の彼氏のフリをして斉木に、俺の女に近づくなクソ野郎って、須藤の時みたく挑発しろ」
「え、いいっす、けど……その、斉木はガリガリのヲタクなんすよね? そんなことで殴りかかってきますかね?」
失礼だな。体型はいつでも可変可能だから、男子高校生の平均に合わせている。ブヨブヨでもガリガリでもない標準体型だ。
あとメガネで読書好きという要素だけで、ヲタクにするのはやめろ。
「その手の男は好きな女や仲のいい女子に自分の他に親しい男がいるってだけで過剰に反応するんだよ。挑発すれば、お前か、あるいは裏切った椎名に手を出してくるぜ」
「なにそれキッモ」
まあ思春期で多感な男子高校生ならありえなくはない、とギリギリ言えるかくらいの説得力はあるな。
あるか?
「理由はどうあれ日本じゃ先に手を出したやつが負けだからな。いいか? 須藤の時みたいにヘマすんじゃねえぞ? いいな(まあこんなんで上手くいきゃ大したもんだが。無理だったらまた須藤にけしかけるか別の手を考えるか)」
「は、はい……(なんとか成功させないと……龍園さんの期待に応えるためにも!)」
デイリーガチャを引くみたいな感覚で人にちょっかいかけるのやめた方がいいぞ。
しかもあんなに堂々と言っておいて、龍園自身上手くいくとは思っていないのか。
そんな杜撰な作戦で大丈夫なのか? 石崎は期待されてないからやめておけ。
「話は終わりだ。6月が終わるまでにヘアピン野郎を呼び出して、お前らの誰かか、椎名に手を出させておけ。あと、今日の部屋代はお前らで払っておけよ」
僕が変に首を突っ込んだせいで面倒なことになったな。
このままだと僕は椎名さんのことが好きな痛いガリガリナヨナヨヘアピンメガネヲタク野郎ということになってしまう。
須藤を怪我から守ったばかりにとんだとばっちりだ。
一応の収穫としてはCクラスのメインメンバーたちが知れたことか。
クラスを指揮する龍園と、荒事担当の山田アルベルト、石崎、小宮、近藤。
伊吹さんは龍園のことが嫌いなようだが、彼に喧嘩で負けたから仕方なく下に着いているといった感じか。
龍園や他のメンバーの彼女だからいるというわけではなかったし、彼らの恋人なんてゴメンだと思っていそうだ。というか、喧嘩で優劣を決めているならCクラスこそくにおくんなのではないだろうか。
しかし、これだけの情報が手に入ったんだ。わざわざ1人でパーティールームの隣の部屋の個室を取って、盗み聞きをした甲斐はあったな。
「お待たせしましたープレミアムフルーツアイスパフェです。ごゆっくりどうぞー」
(うわこいつ一人で大部屋使ってる。てか通したの誰だよ)
平日のこの時間にカラオケに来るのは学生だけだし、反対隣の2~3人部屋が埋まっていたんだから仕方ないだろう。
ここじゃなくてもテレパシーは聞こえるし、千里眼で中の様子は見えるが、近い方が余計なノイズが入らなくて済むし、何よりこの部屋が大部屋で防音対策がしっかりされてるから取ったんだ。
別に広い部屋でプレミアムフルーツアイスパフェを楽しみたかったわけではない。広い部屋で食おうが、狭い部屋で食おうが美味いものは美味いからな。
ほら、美味い。
最近のカラオケはフードメニューも豊富で味も良くなってきたからな。
これだけのために1時間パックを買っても損はしないだろう。
学生料金ならワンコインで1時間誰にも邪魔されないエンペラータイムが完成するのだから。
今後のことを考えるためにしっかり糖分を取らないとな。あむあむ。
斉木が石崎を転ばせたせいで、須藤は部活に遅れるし、佐倉はカメラを壊すし、石崎と仲間2人はアルベルトに殴られるし、椎名は知らないところで石崎と付き合ってることにされそうになってるし、斉木はキモイ勘違いヲタクにされている。
だ、誰がこんなこと……ひ、ひどい。
なお須藤は石崎たちを追いかけるのをやめたあとは普通に部活に行った模様。
佐倉は諸事情でカメラを壊れてから24時間以内に直せていないので、斉木の修復適応外に。購入したケヤキモールの家電量販店の保証期間ではある。