高度育成高等学校は卒業するまでの3年間は外部と連絡が取れなくなり、さらに学校の敷地から出ることを禁じられる。そのため敷地から出なくても生活に必要な物を買う場所や娯楽は充実している。その中にケヤキモールと呼ばれる大型商業施設では、カフェから家電量販店、水道管修理会社や、理髪店にカラオケと、学生生活や日常生活において必要とするものはほとんど揃っている。
「で、斉木、ケヤキモールのどこに行くんだ?」
放課後、僕は佐倉さんのカメラ修理とストーカー退治のため、特に理由は告げずにケヤキモールにやってきた。
綾小路くんはBクラスの僕が佐倉さんを呼び出すと変な誤解を与えかねないからと協力を要請し、そのまま着いてきてもらった。
「話ならここでもいいでしょう。そこに3人は座れるベンチがあるわ」
堀北妹は着いてきても来なくてもどちらでもよかったが、僕に聞きたいことがあるからと着いてきた。
初めて会った時は兄妹喧嘩の最中だったからしおらしい印象を受けたが、普段はかなりツンツンした感じのようだ。
「えっと、あの……」
せっかくこの人数でケヤキモールに来たのだ。
佐倉さんとしては嫌な人間がいるところでも、行ける機会に家電量販店に行っておきたいだろう。
何か言いたげにしている佐倉さんに僕は、佐倉さんは行きたいところはないか問いかける。
「あ、えっと……(堀北さんはそこでいいって言ってるし……斉木くんは私に昨日のことで話したいことがあるだけだし、電気屋さんになんて行かない、よね……)わ、私は別に……」
どうしてそこで諦めるんだそこで。
仕方ない。先に昨日の話を済ませるとしよう。
「えっ!?」
昨日須藤とCクラスの石崎たちが喧嘩をしてたところにいなかったかと尋ねると佐倉さんは驚いた様子を見せた。
「な、なんで知って?」
「それは私も聞きたいわね」
その場に居合わせた理由は、須藤が挙動不審な態度で特別棟に向かうのが見えて興味本位でついて行ったから。
向かい側に佐倉さんがいると気づいたのは何かを落とす音がしたから、と言っておくか。
「えっ、あ、あっ、じゃあ……(み、見られた? えっ? わ、わぁ……!)……あ、あの、ど、どうして、私がDクラスって……?」
(それはオレも気になるな。須藤はBクラスの一之瀬の前で、Cクラスの生徒と言い合いをしているところを見られていた。だから須藤が知られているのはまだ分かるが、佐倉はクラスでも目立たない女子だ)
やっぱり綾小路くんの観察眼は恐ろしいな。服の下に隠した筋肉も見れば、茶柱先生の言うとおり、他クラスへの下克上が狙えると考えるのもおかしくは無い。
さて、どうして僕が佐倉さんがDクラスにいるかわかったか。
それくらいなら僕が全クラス片っ端から回ったからでいいだろう。
最初にいったDクラスに目的の人物がいて僕はラッキーだったー。
「(見られたのは着替えた後だったのかな……? じゃあよかった……)ふぅ……」
「話はわかったが……それで? 佐倉はその時何かを落としたらしいが」
「は、はい……! こ、これです……」
綾小路くんが佐倉さんに尋ねると、彼女はカバンから昨日落として電源のつかなくなったカメラを取り出した。
「カメラか」
「特別棟でカメラ? あそこ何か撮るものなんてあるの?」
趣味でカメラを持つ人もいるだろう。スマホでデジカメと遜色ない撮影ができるようになったとはいえ、デジカメのコンパクトさは魅力的だ。
電源をつけてボタンを押せば、誰でも写真が撮れるという点は変わらないが、個人所有のデジカメならばデータの流出などの心配は少ないだろう。
彼女の場合は、学校では見せていないもう1人の自分を撮るのだからスマホを覗き見られてバレたりすることは避けたいんだろう。
「あ、えっと……私写真撮るのが趣味で……それで、あそこ、普段は静かで、写真撮るにはいいなあって、思ってて……」
堀北妹の言い方がキツかったからか、佐倉さんは怯えながら説明してくれる。
「そう……それで須藤くんとCクラスの人たちの喧嘩を……? ちょっと待ちなさい」
「あっ!? ひゃいっ!」
待たせなくとも佐倉さんは逃げないと思うが。なんでそんなに威圧するんだと僕と綾小路くんは堀北妹を凝視する。
「(なんでそんなに二人して見るのよ)……佐倉さん、もしかしてあなた、須藤くんたちの喧嘩の写真を撮ってたり」
あぁ、そこからの話は後でやってくれ。とりあえず、カメラが壊れたなら直しに行くべきだ。
「オレも斉木に賛成だ。須藤の件もカメラが直って、映ってる写真を見た方が早いだろう」
「……それもそうね」
僕と綾小路くんに言われて納得したようで堀北妹は頷く。
「あ、ありがとうございます……!」
深々と礼をしてくる佐倉さんに僕らは気にする事はないと、共に佐倉さんがカメラを購入した家電量販店へと足を運ぶ。
「そういえば斉木は須藤たちの喧嘩を撮ったりはしなかったのか?」
向かう途中、綾小路くんからそんな質問が来た。
誰も彼もがあそこでカメラを構えられるほど冷静にはなれない。佐倉さんが凄いと褒めたたえておく。
「そ、そんな……」
「そうか(須藤を追いかけて来たなら、最初からいたわけだし、途中からでも撮っているかもしれないと思ったんだが)」
まあ撮ってる。
だが、佐倉さんが表に出るなら僕の映像は必要ないだろう。
家電量販店まではそこまでかからなかったが、今いる4人は全員自分から話すタイプではなかったので少し無言が続いた。
「ここに来るのは4月以来だな」
「寮に無いもので欲しいのをある程度揃えたら用はないものね」
「私もカメラを買って以来です」
僕は1度もないな。
家電は学校が用意してくれたもので事足りたし、前を通ったことくらいはあるが。
ケヤキモールは高育の敷地だから当然の事ながら学生が多く、店員たちの心の声も多くあったため来ることはなかった。
「いらっしゃいませ〜何かお探しですか? (家電に興味無さそうなのが3人、1人がカメラを持っているから付き添いか?)」
学生が4人入ってきて接客業の鑑のような笑顔で近づいてきた店員は、薄めていた目を開き、僕らのことを順番に見定める。
中々の観察眼だな、家電を買いに来たとは思えないメンツを見て予測を立ててきた。
さて、誰が修理保証を受けに来た話をするんだ?
(誰が用件を言うんだ?)
(誰が用件を言うのかしら)
(だ、誰か……)
なんだこいつら。誰も前に出ようとしないな。
仕方ない。
「あー! 修理・交換希望のお客様ですね! かしこまりました! では、受付までご案内しますね(んだよやっぱり新規じゃねぇのかよ)」
心の中は正直すぎてアレだが接客対応そのものに悪い点はないな。
今度何か買うものがあったらこの人を尋ねてもいいレベルだ。
(あー亀有から来た新人の教育にいいと思ったけど、ままならないね)
僕らの前では肩を落としたりすることなく、その店員さんは修理・交換受付のカウンターへと案内してくれる。
「じゃああとは担当の者に引き継ぎますので」
「あーはい、いらっしゃいま……(えっ!? あの子は、もしかしてっ!?)」
そして、そこに居たのは同じ制服を着てこそいるが、佐倉さんを見ただけで目を見開き、僕の脳に彼が見たことのある雫のグラビアの画像を送り付けてくる。
(どうかしたのかあの店員)
「ひっ……(やっぱりあの人、なにか怖い……)」
接客しながらなんてハレンチなと思っていると、綾小路くんも佐倉さんもこの店員に違和感を覚えたようだ。
「あの、どうかされましたか?」
「あぁ、いえ何も。失礼しました……それで、えーっと……(あ! 雫のカメラ!? もしかしてブログの自撮りとか撮ってるのか!?)カメラの修理・交換希望ですかね?」
店員の態度を不審に思った綾小路くんが疑問をぶつけたが、流石に社会人、表では冷静さを取り戻して対応する。
「あ、えっと……はい」
「分かりました。ではこちらにお客様のお名前や生年月日、お電話番号などを記入してもらえるでしょうか」
(カメラの交換・修理にそんなのがいるのか?)
まぁ、交換にしろ修理にしろ、直ったカメラを受け取るには連絡手段が必要ではあるがな。
しかしこの男に佐倉さんの電話番号を渡すというのは問題があるな。
というか、そもそも直すか交換かも決まってない段階で電話番号を聞くな。下心が丸見えだ。
あの堀北妹ですら眉間にシワを寄せているくらいだからな。
そういえば聞いてなかったが、佐倉さんは交換と修理どちらがいいんだ?
交換なら手早いが、下手をするとデータを消してないカメラがこの店員の手に渡ることになるからな。
この店員に修理する技術があった場合を考えるとここは修理の方がいいかもしれないな。
修理ならメーカーに届けることになるから、この店員がカメラを直す暇も、メーカーから返ってきたものを勝手に開けることも出来ない。
まあ最後のはまともな精神を持っていればだが。
「あっ、えっと……できたら修理の方が……(撮った写真のデータ、カメラの中に保存しちゃってるからパソコンに移せてないし)」
カメラ内部のメモリにデータがあるんだな。
じゃあ、修理だなと綾小路くんに目配せをする。
「(えっ? オレか? このまま斉木がやるものかと……)あー、じゃあ修理でお願いします」
「(クソっ、交換なら雫のカメラの中身を見れるかもしれなかったのに。でも壊れてるならそれも無理か……くそぅ)分かりました……。では、保証書と手続き書類の記入をお願いします」
電話番号だけ綾小路くんのを書いておけばいいか。
クラスが同じならまた取りに来やすいだろうと説得すると、綾小路くんは頷いた。
「……電話番号だけオレにすればいいのか?」
あぁ、少し気になることがあってな。
杞憂ならいいが、もし僕の懸念通りなら佐倉さんが少し危ない。
と慎重な言葉選びで言いつつも、僕はすべて知っている訳だが。
この店員、佐倉さんの住所、というよりは寮の場所は知っているからな。
エアコンなど初期家電はこの店から出されているようだからな。寮の情報は入っている。
佐倉さんの部屋を知っているのは顧客情報リストから入手したのだろう。
ただ監視カメラや他の生徒の目もあるため、近づけるのはポストのみ。
だが、電話番号を入手すればこの男のやりそうなことには察しがつく。
「(意図は読めないが、たしかに佐倉1人ではまずいか)わかった。悪い、佐倉」
「えっ? ど、どうしたの、綾小路くん……?」
綾小路くんは電話番号を書く前に佐倉さんに声をかける。
じゃあ、僕はあの店員の気を逸らさせるとしよう。
「あ(なんだよこのヘアピンメガネ)はい? コーヒーゼリーメーカー……? ですか?」
そうだ。ここは政府が管理してる施設の電気屋なんだろう。
そういう最新家電も売っているんじゃないのか?
「(最新ってもう結構前だぞ……)取り扱いはしてますが……」
コーヒーゼリーメーカーが最新家電じゃない……!? 何を言っているんだこの店員は。
「斉木くん? (何を驚いているのかしら。というかコーヒーゼリーメーカーなんてものがあるのね。知らなかったわ)」
知らなかった……!?
知らなかったのにその反応なのか?
薄くないか?
「でも今だとジャムやヨーグルトも作れるものもありますよ」
ゼリーだけじゃなくジャムとヨーグルトも!?
まさか朝ごはんのお供のヨーグルトやパンに塗るジャムまで作れるなんて……!
「えっと、斉木くん? (さっきまで冷めた目であの店員を見ていたのに急に目が輝き出したわ……なんなの……?)」
「あとは家電じゃないけど、ところてんゼリーメーカーとかもありますし」
ところてんゼリーメーカー!? なんなんだそれは! 詳しく教えてくれ!
「え、ええ……(何だこの客)」
(まさか斉木くんケヤキモールに来たかったのはこのためだったの? 佐倉さんのカメラの件はたまたまなのかしら……?)
(書けたから声をかけようと思ったんだが……斉木はゼリーが好きなのか? 佐倉が壊したのがカメラだと察して来たのかと思ったが、違ったのか?)
(ど、どうしたんだろ斉木くん……でもすっごく楽しそう……)
僕がこの店員からところてんゼリーメーカーについて聞いた後に、ようやく佐倉さんが手続き書類を書き終えたらしく、メーカーではなく電気屋内に修理専門のスタッフが修理を済ませ次第連絡する運びになったそうだ。
ちなみにゼリー、ヨーグルト、ジャムが作れる家電は10万ポイントと高かったので今回は購入を断念した。
さすがにクラスのみんなから貰ったポイントで買うわけにもいかないしな。
今度休みの日に実家に戻って小遣い稼ぎをして買えるか検討するとするか。
この辺の話よく覚えてないから店員の感じもかなり適当
雫たんとか言ってた気もするけどそこまでヲタクだっけなって気もしたのでそのまま。
あと感想いただけるのは嬉しいのですが、出来れば1話につき1感想だと助かります。
ヤメテクダサイヨォ!とまでは言いませんが、あれ?この人前も同じ話に感想書いてなかったっけ?となるので。
まあその話の感想なら特に言うこともないんですけど、ちょくちょく感想かこれ?みたいなのが見受けられるので。
申し訳ありませんがご協力のほどよろしくお願いします。