島を船がしばらく旋回している間、僕は部屋で1人ゆっくり休ませてもらうつもりだったが、この船には高育の1年生全員と担任教師たち、船内の各施設で働く従業員と乗組員たちがいる。
(すっげー! 本当に無人島なのかよ!)
(これから俺たちはあそこで女子たちとキャッキャウフフなワンダーランドを……!)
(何人の生徒が気づけるかな。これがこれから行われる試験の前座だと)
(あれは洞窟か? ロッジのようなものは見当たらないが)
(ああ? これが夢の島だ? 何も無さすぎるだろ)
(私たち全員が収まるには十分に見えるけど、本当にここで寝泊まりするだけなのかな?)
(ふーむ、これはこれは。自然の産物にしては少しおかしいねぇ。その名の通り不自然というべきだ)
僕は前もって試験の概要を知っているからこの島が学校の手が入った無人島ということは把握している。
それに気付いているのかはさておき、違和感を抱いた生徒は何人かいたらしい。
(やっぱり櫛田は可愛いな。子供のような仕草も笑顔も守ってしまいたくなる存在だ)
島よりも同級生の横顔に心惹かれている者もいたが、思春期故の高鳴りなのだろう。
船が島を1周し終わると、ジャージに着替えて指定された鞄と荷物を持って30分後に上陸することを促すアナウンスが流れた。
持っていくのは下着と携帯くらいでそれ以外の私物はここに置いていくことになる。
下船の際に持ち物検査をするため、不必要なものをこっそりと持ち込むことは出来ない。
金属探知機の類はないため、靴下の中などにゲルマニウムリングやアポート用の小物を仕込むことはできるが、今回はその必要はないだろう。
「斉木、もう着替えたのか(顔色はマシになっているな)」
「大丈夫だったのか? 船酔いしてたんだろ? (一之瀬から聞いてたよりはマシに見えるな)」
アナウンスの指示通りジャージに着替えるため神崎や柴田か部屋に戻ってくる。
マシ、マシってなんだ。僕はニンニクや野菜じゃないぞ。
まあこれくらいの軽口が叩けるくらいには元気だ。
日本の薬学は素晴らしいな。
超能力で少しズルをして薬の効きを早めたおかげもあってか、先程まで催していた吐き気などはなくなっている。
(寒気がするわね……風邪、かしら……? こんな時に)
さっきまでは自分のことで手一杯だったから聴き逃していたが堀北さんが風邪のようだが。
船酔いしている時に聞いていたら彼女も僕と同じく未知のウイルスにかかったと思っていただろう。
だが彼女のはただの夏風邪だ。
あの体調でこれから行われる特別試験を過ごすのは難しいだろう。
ポイントは減ってしまうがリタイアするのが懸命だろうが、彼女はそうはしないだろうな。
(とりあえず着替えて……準備をしましょう)
下船前に彼女に触れて1日前に戻してもいいが、明日になればまた同じ状態になるだけだ。
同じクラスであれば繰り返し戻してやれば問題ないが、他クラスとなればそうもいかないだろう。
透明化して近付こうにも島にいる間はめんどうな腕時計を付けさせられるからな。
昨今の腕時計らしく、時間の確認以外にも体温や脈拍、人の動きを探知するセンサーにGPS、非常事態を伝えるための機能を搭載したスグレモノだ。
全くもって迷惑極まりない。
防水性で、仮に壊したとしても代替品が用意されている。
勝手に外せばペナルティが課せられるため、僕は腕時計のせいで超能力のほとんどを封じられることになる。
夜に実家に帰ることができないのが一番のショックだ。
「……斉木大丈夫か? また顔色が悪くなっているが」
余程顔に出ていたのか神崎に余計な心配をかけてしまう。
「まあ学校が管理しているとはいえこれから無人島で1週間も過ごすんだ。不安になるのも無理はないがまたとない機会だ。少しは気を楽にしていこう」
「そうだぜ斉木。みんなで楽しくいこうぜ」
楽しく、か。
大半の生徒が神崎や柴田と同じ考えだろうが、彼らがそう言ってられるのはあと1時間もない。
300ポイントという持ちポイントの中から、自クラスで必要なものを取捨選択し、いかに多くのポイントを残して1週間を乗り切るかというのが正攻法での攻略法だろう。
恐らく、AクラスとBクラスならそれをこなし、この特別試験を終えることができるだろう。
CクラスとDクラスにも出来なくはないだろうが、Cは正攻法で来ることは無いという確信がある。
今後Cクラスに絡まれてもいいように、リーダーである龍園の思考を読み、行動を見たが彼ならこの試験のもうひとつの攻略法であるリーダー当ての方を利用するはずだ。
無人島試験中、各クラス1人リーダーを設定する。試験終了時の点呼で他クラスのリーダーを当てることが出来れば50ポイント、3クラス全て当てれば150ポイント加算される。
外せば逆に50ポイント失うことになるハイリスクハイリターンな権利だが、龍園なら積極的に利用してくるだろう。
そして、Dクラスだが、あのクラスでは正攻法もリーダー当ても難しく思うが、そこは綾小路が上手くやるのかもしれない。
何やら茶柱先生にAクラスに上がらないと彼の父親を呼び出して退学させると脅されているようだからな。
田舎育ちなのかと思えば、どこかの権力者の隠し子かもしれない。
とはいえ教師が生徒を私利私欲のために脅すというのはどうかと思うが、今僕がしてやれることは無い。
綾小路の意思を無下にして、退学させられるとなれば少しくらいは手を貸すが。
「さて、それじゃあ行くとするか(遅れるとペナルティがあるだろうからな)」
「行こうぜ斉木! 早くしないと出遅れちまうぞ(早く行って一之瀬や他のみんなと色々話したいしな!)」
今から行っても甲板で待たされるだけだから、急ぐ必要はないと思うが。
ペナルティがあるかもしれないからと早めに行っておいた方がいいと思う神崎と、一之瀬さんや他のクラスメイトと話をしたいという思いから早く行きたい柴田は僕を急かしてくる。
どちらでもない僕はトイレに寄ってから行くと伝える。
「(そういえば島に上陸してからしばらくトイレには行けないらしいな)なら、俺も行くとしよう」
「じゃ、俺は先に出てるぜ!」
まともにトイレのできる権利を放棄した柴田は足早に部屋から去っていき、僕と神崎は船内のトイレへと歩き出す。
(さっきの島の周りを回った時のことを伝えた方がいいだろうか。いや、斉木はまだ体調が回復したばかりだ。島に着いてからの方が伝わりやすいこともあるだろう。あとでいいか)
どうやら思った以上に神崎に心配をかけているらしい。
島のことどころか、試験内容ですらテレパシーと千里眼で把握しているから問題ない。
だが、神崎はその事を知らないため、何も知らないと思っている僕にも情報共有するべきだと考えているのだろう。
僕が体調不良になったことも相まって、余計に不安を感じてしまっているのかもしれない。
(斉木くん、大丈夫かな? トイレから出てきた時はいつも通りって感じだったけど。一応、さっきのこととか話したいんだけど……)
それは一之瀬さんも同様で、ジャージに着替え終わり、甲板で僕のことを心配しているようだった。
やれやれ、家に帰っても両親に心配され、船に戻ればクラスをまとめる2人に気をかけさせるとは。
仕方ない、試験では少しでもポイントが残るように手を貸すとするか。
書き始めた頃は斉木原作のように就寝時は自宅に帰そうと思ったんですけど、腕時計の存在に気付いてから無人島試験がハードモードになりました
テントの中でクラスメイトと一緒に寝る超能力者……何も起こらないはずもなく……(おねちょで吹き飛ぶ島、巻き込まれる星之宮先生)
「ここどこよー!!?(ペルシャ湾)」
※この出来事はあくまでフィクションです。
おまけ
本当の無人島試験編
斉木の船酔いが続いた場合に起こる超能力の暴発により、斉木と一部の生徒が学校所有の無人島ではなく国外の無人島に飛ばされてしまい本当の無人島サバイバルが発生するルート。
発生条件
①坂柳有栖乗船
乗船条件▶︎夏休み前に斉木or綾小路と交流する
坂柳父から本物の天才空助の存在を聞いており、斉木楠雄がその弟であると知ると天才の弟もまた天才なのかと興味を持つことから交流。
弟は兄のせいで面倒なのに絡まれたと知ると(あいつ……!余計なことを……!)とキレる。教えたのは坂柳パパなのに。
綾小路は言わずもがな。しかしこの時は体育祭の活躍を見てないのでもしかしたらレベル。
②船が才虎財閥の船
本来使用するはずの船のエンジンが不具合のため、点検作業中だった才虎財閥所有のもの借用して使用。
高育のものと施設数などは同様だが船の揺れがやや激しいため斉木の船酔いが早まる+悪化。
③船酔い斉木を見兼ねた綾小路や堀北、櫛田と通りかかった龍園、石崎、ひより、坂柳、神室、橋本が近くにいる。
以上の条件が揃うことで斉木の超能力が暴発し、船が故障、吐き気を催す状態で船に乗る人間を安全にテレポートさせようとした結果、一部の生徒は近くの港や島に流れ着いたようにテレポートさせることができたものの、自分や近くにいた一之瀬、神崎、さらには綾小路たちのみ国内ギリギリの島(無人島)にテレポートさせてしまう。
「凄く困ったことになったね……(なんか一周回って冷静になっちゃったよ)」
「ああ……運良く着替えの入ったカバンも流れ着いたおかげで着替えはあるが……」
「最悪……なんで私が……しかも堀北となんて……」
「堀北大丈夫か?(斉木の方はもう大丈夫そうだが、まさか堀北も体調が悪かったとは)」
「ええ……まさか風邪薬……それも抗生物質が流れ着いていて助かったわ……水も斉木くんが間違えてカバンに入れてくれたおかげで(ここ本当に無人島なのかしら……?龍園くんと橋本くんが見て回ってくれたようだけど)」
「龍園さん!洞窟に缶詰とか飲めそうな水がありました!」
「すごいですね。缶切りも砂浜から出てきましたし……(事実は小説よりも奇なりと言いますがとても面白い島ですね)」
「笑ってんじゃねえぞひより……だが、2日3日はなんとかなるな(あとは学校の連中が俺たちがここに流れ着いたことに気づいてもらえるかだな。缶詰や水があるってことはここが学校が用意した無人島の可能性もあるしな)」
「姫さん大丈夫ですかい?」
「はい、今のところは。ありがとうございます(しかし、思いもがけないトラブルに見舞われてしまいましたね。けど、流されて着いたからには東京湾のどこかでしょうし。すぐに救助がくるでしょう)」
「暑……(ほんと最悪。誰のか分からないけど化粧品とか入れた袋と割れた鏡が流れ着いてくれてるからスキンケアはできそうだけど……こんなスリルは求めてないっての……)」
(みんなすまない……とりあえず他のみんなの安全は確認できたが、僕たちが居ないことに気づいたらすぐに捜索に出るだろう。そして知るだろう東京湾にはいないことを。みんなが起きる前ならテレポートさせられたが。一応必要そうなものは家や船の中や寮から持ってきて違和感のないように置いたが……これからどうするか)
着替えの入ったカバン▶︎試験用に用意するように言われたもの。違和感のないように綾小路たち以外のものもサイコキネシスを使って引き寄せた。
抗生物質(風邪薬)▶︎斉木父が2月頃に風邪で処方されたもの。飲みきってくださいと言われていたが、飲み切る前に治ったため少し残していた。
缶詰や水▶︎船にあったものや斉木家の戸棚から持ってきた。違和感のないように洞窟や浜辺、森の中にも散らばせておいた。
化粧品▶︎船の中にあったものと斉木母のもの。母には事情を説明する間がなかったので後で返すと書き置きしている。
以上。
島の脱出方法はおそらく筏作って海に出たあと発見されるという斉木原作とほぼ同じオチだと思います。はい。
書いてて「こんなことなるか……?まあなるか……」と釈然としないと思いながら書きましたが、せっかく書いたのでおまけで披露します。
次回から無人島上陸です