そいつの話を聞いたのは、嫌々ながらもオレの配下になった伊吹からだった。
正確には伊吹がひよりから聞いた話をオレが聞いてからだった。
中間テストを終えて、学校側が生徒間の問題にどう介入するのかを見るために事件を起こそうとオレが考えていた時だ。
石崎やアルベルトと集まった時に中間テストの結果について少し駄弁っていた時に伊吹が思い出したように言った。
「斉木っているじゃん、あの地味なの」
「あー、椎名と仲良い?」
「そう」
急にどうしたんだとオレは怪訝な目で見たが、石崎は特に気にすることなく伊吹の話に食いついていた。
どうせくだらない話だろうと、話を切らせようとした時、伊吹が耳寄りの情報を口にした。
「その椎名から聞いたんだけどさ、斉木のやつ今回の中間テストの過去問と答え持ってたらしいよ」
「過去問? そんなのあったのかよ」
過去問と答え。
石崎は驚いているが、それが存在することはオレも知っていた。
赤点での退学に加えていきなりのテスト範囲の変更。
学校が何の救済処置を用意せずに敢行するとは思えない横暴さだ。
何らかの対策はあるんだろうと坂上の口ぶりからも察せられた。
しかし、Dクラスより少しマシな奴らが集められ、金田のような座学の出来るやつがいたため、その方法は取らなかった。
上級生から過去問を手に入れるのにはどうしてもポイントがいるからな。
「伊吹、明日いつもの場所に斉木を連れてこい」
だが、あいつはその手間をかけてまで過去問を手に入れたが、それをクラスに公表したり、他クラス、特にDクラスに売りつけたという話も聞かない。
何の目的だ?
オレはそれが気になった。
「ちょっと、なんで私が——」
「リーダーは誰だ?」
「はぁ、わかったよ」
オレがクラスの王になるにあたって、反抗してくることもなく、中間テストでの結果操作も受け入れていたから特に気にしていなかったが、過去問を入手していたというのはかなり面倒くさい。
もし、俺に対抗して来るような性格の男であれば、今後障害にもなり得るかもしれない。
今のうちに芽を摘んでおこうと思った。
「連れてきたよ」
翌日、監視カメラのないカラオケボックスに伊吹に連れてこられた斉木はアルベルトと石崎を隣に立たせた座るオレに『何か用か?』と無表情で言った。
その様子からは特にこちらへの敵意を感じることは出来なかった。
「ひよりから聞いたぞ、斉木お前は過去問を入手していたらしいじゃないか。何故使わず、ましてや公言もしない」
単刀直入に尋ねたオレに斉木は呆れたように『言ったのは椎名さんではなく、椎名さんから聞いた伊吹さんだろう』とドア前で斉木が逃げないように立っている伊吹の方を見る。
「まぁな。そんなのは些細なことだろ? で、何故だ?」
2回目の問い。
理由として考えられるのは、斉木がテストに自信がなくあいつだけが過去問を欲していたからだが、これはないだろう。
中間テストでオレがクラス内の点数を操作することは前もって説明してあったから、過去問を使う必要性はない。
そして、売りつける目的でも無いのはDクラスが独自に過去問を入手していたという話と合致しない。
いくつか予想を立てていると斉木は『偶然過去問の存在を知って、本当にあるのか確かめたくなって手に入れた』と答えやがった。
「は?」
オレは思わず声を漏らす。
石崎やアルベルト、伊吹も驚きを隠せないように斉木を見ていた。
本当に意味が分からなかった。
過去問があるかどうかを確かめるために金を使って手に入れただと?
なんだそれは?
「ふざけてんのか? 確かめるためなら買う必要はなかったはずだ。上級生共に聞けば済む話だろ」
今のDクラスのようにポイントに余裕のない上級生どもからなら、買う必要があるかもしれないが過去問があるか確かめるためなら聞くだけで『実物がないと存在の証明にはならないだろう。それに過去問は買ってないぞ。もらった』
オレの思考を遮るように反論してきた斉木の、その真っ直ぐな瞳に俺は動揺していた。
まるで自分の全てを見透かされているような不快感が胸を襲う。
「貰っただぁ? 誰に、いつ?」
1年のこいつにわざわざ過去問を寄越す気狂いがいるのか?
兄弟がいて、兄貴から貰ったとかなら分かるが、今年の1年に上級生の兄弟がいるのはDクラスの堀北だけのはずだ。
流石に腹違いで苗字が違うとかなら話は別だがと斉木の方を見ると『入手先は言えないが、中間テストの範囲が発表された次の日に買いに行ったらくれた』と淡々と答えた。
その証拠にとやつはオレにポイントの使用履歴を見せてくる。
そこに上級生へとポイントを渡した形跡はなく、さらにはデータ化された過去問とその答えを見せられて、オレは斉木の言うことが本当だと理解させられた。
「クク……おもしれぇ、そのナリで人たらしとはな」
一見するとヘアピンをつけた地味なメガネ野郎だと思っていたが、こいつは面白い。
これまで見たことがないタイプの人間に出会ったことに愉悦を感じたオレはニヤつきながら斉木に近づいて行く。
瞳の中に俺に対する怯えや恐怖心は感じない。
「気に入ったぜ斉木、お前オレの下につけ」
こいつは使える。
過去問の存在に気づいた点といい、それを確かめるための行動力。
頭のいい金田やひよりにはない能力を持っているこいつをオレは配下に引き入れたくなった。
しかし斉木はさも当然のように『断る』とオレから1歩距離を取る。
「はっ、てめぇに拒否権があるとでも?」
『あるだろ』
「……ここに監視カメラはない。お前が従う意志を見せなければどうなるかは分かるだろ?」
オレの言葉を合図にアルベルトと石崎が動く。
「オレは暴力ってのを信頼している。この世界は『暴力』によって支配されている。この世界の『実力』は『暴力』の強さで決まっている。この悟りを覆すような存在があるとするなら──それは『死』だけだろう」
これがオレの持論。オレの力。
力で他者を支配する。
初めはオレが負けていても、最終的に勝てばいい。
「ここのいる3人もお前と同じで最初は首を縦に振らなかったが、今はこの通りだ」
オレは元の位置に戻り、代わりにアルベルトと石崎、さらに伊吹が斉木を囲む。
弱いものいじめのような構図だが仕方ない。
弱いやつは淘汰されるのがこの世の常だ。
「どうする? 自慢のメガネが割れないうちに従った方がいいぜ」
最後の通告。
このまま素直に頷いてくれれば楽なんだがな。
オレが斉木を見つめていると、やつは『もう一度言うが断る』と答えた。
チッ、面倒臭いやつだな。
「そうか。なら……やれ」
そう言ってオレは目を閉じた。
3人で1発ずつ殴らせりゃ、斉木も大人しく従うだろう。
だが、それでもダメなら骨の1本くらいは覚悟してもらわないとな。
相手が悪かったなとボコられたであろう斉木を見るために目を開ける。
「なっ!」
「っ!」
「はぁ!?」
そんなオレの視界に飛び込んできたのは3人のストレートを避けるために変なポーズになっている斉木の姿だった。
「は……?」
3人同様にオレも驚きを隠せずにその光景を眺めていた。
身長約2mの大男であるアルベルトに体格の良い石崎、反射神経に優れている伊吹。
正面ではなく3方向からの3人が同時に放った拳を避けられるわけがない。
拳を引っ込めて3人でさが困惑していると斉木は『まだやるのか?』とオレを見てくる。
「嘘だろ……?」
石崎が唖然として斉木の方を見ていた。
伊吹とアルベルトも信じられないものを目の当たりにしたように硬直している。
それもそのはずだ。避けられたものは現実として認識できても、なぜ避けられたのかが分からない。
そして、オレもその理由を掴みきれていなかった。
「おい、どういうことだ」
この場の全員の疑問を代表してオレが問うと斉木は『何のことだ?』と白々しい態度をとってきた。
「とぼけんな。アルベルトと石崎はいい。だが、伊吹の拳を避けれた? 見えないはずだ」
後ろにいる伊吹の拳を斉木はモロに受けるはずだった。
だが、振り返ることもなく簡単に避けやがった。
まるで後ろにも目がついているかのように。
2撃目を入れようとした石崎とアルベルトの間をすり抜けた斉木はやれやれと呟くと床に置いていたカバンを持ち直す。
『何の対価もなく嫌がる人間を動かせると思うな。それは傲慢だぞ。僕を動かしたいなら……』
斉木の放つ雰囲気が変わる。
それは石崎達にも伝わったのだろう。
息を呑む音が聞こえる。
何を要求するんだと身構えていると『コーヒーゼリーくらいは持ってきてもらおうか』とアイツは服従の条件にスイーツを要求してきた。
石崎は「は?」 と拳を止め、伊吹は「いやちょろいな」と呆れ顔だ。
そしてオレはというと。
「く、くくく、はははは! そりゃ失礼したぜ! そうだな! 働きには正当な対価が必要か! はははっ!」
そんな簡単なことでいいのかと目の前の不気味な男に笑いが込み上げてくる。
スイーツ如きで自分の自由を奪われる可能性があったのにそんなのお構いなしにアイツは要求してきたのだ。
滑稽すぎる。
「次回から気をつけるぜ。だが今回は手ぶらで来たからなぁ……おい、石崎」
「は、はい?」
「買いに行け」
「へ?」
「聞こえなかったのか? 斉木を満足させるコーヒーゼリーを買ってこい」
「あ、はい!」
石崎は慌てて携帯を確認すると店を探しながら部屋を出て行った。
「石崎が買いに行ったのはここに来てもらった礼をするためだ。次は次でちゃんと用意してやるから安心しな」
『それはいいが、買いに行かせなくてもカラオケのメニューでよかったんじゃないか? とりあえず僕はこのコーヒーパフェでいいか?』
オレの言葉を聞いて斉木は何事も無かったかのように座ると、カラオケのメニューを見てそんなことを言う。
「oh……」
「……あんたそんなにスイーツ好きなの?」
あまりにもマイペースな行動にアルベルトと伊吹は引いている。
そんな2人を気にすることなく『君たちは何か頼まないのか? 一応石崎くんにはスナック系を頼んでおこうか』と部屋にある電話で注文をしていく。
『まぁ、とりあえずゆっくりしたらどうだ』
斉木のその言葉に伊吹とアルベルトは目を合わせると、張っていた力が抜けたのか言われるがままにソファに座ると斉木が見ていないメニュー表を見始めた。
『君は何か頼まないのか龍園』
「オレは呼び捨てかよ。まぁいい」
従うのなら文句はない。
だがオレはこの時まだ知らなかった。
こいつの強情さを。
力を使った勝利を目指すオレに『ダメだ』『卑怯だ』『まともにやれ』といちいち口出ししてくることを。
Dクラスとの事件は特に何もさせなかったし、何もしてこなかったが無人島試験では大いに働いてもらった。
スイーツで買収し、リーダー当てをやらせた。
もちろん、確証を得るために伊吹と金田にスパイとしてDとBに送り込んだ上でだ。
ただ驚いたのは体調不良でリタイアした鈴音から綾小路にリーダーが変わったのも当て、Bクラスはオレが揺さぶりをかける前から『たまたま聞いた』と言って白波と当てていた。
一応、金田に確認させたら合っていたため、『違っていたらこれから無償で働いてやる』 というやつの言葉は果たされなかったのは残念だったが、勝ちを拾えたのは大きい。
船上試験では、恐らく斉木自身はすぐに分かっていたのだろうが、目立ちたくないからか、ひよりにヒントを与えて解かせていた。
結果をどうするかはオレに丸投げしてきたが、いいように使われたひよりに怒られて、機嫌とりのため夏休みのほとんどは本屋や図書室に度々連行されていやがった。
能力があるのに目立ちたくないという主義がオレには理解できないが、おかげでBクラスに大きく迫れたから良しとした。
問題は体育祭からだ。
桔梗を使ってDクラスの参加表を手に入れ、鈴音や須藤を潰してやろうとしていたら、めちゃくちゃ邪魔してきやがった。
動くなとスイーツを渡してやったにも関わらずだ。
まあ何故か総合得点で勝てたからいいが……。
オレに反感を持っていた時任達も大人しくなっており、Dクラスにいるであろう鈴音を操っているやつもオレたちに手も足も出ていない。
これならポイント貯めをしなくてもAクラスに届くかもしれないが油断は禁物だ。
次のペーパーシャッフル試験ってやつでも勝ちを狙いに行くために、桔梗を味方につけた。
あとはこっちの問題を金田とひより、斉木にやらせるために報酬を持って斉木の部屋に行く。
「おい、また変なの買ったのか」
テレビの横に置かれているスイーツを作るための機械がまた増えてやがる。
『ああ。それは生クリームやゼリーを作れるだけじゃなく歯磨き粉も出てくるんだ』
「いらねぇ……」
欠点の無さそうに見える斉木だが、こういう無駄な買い物が多いのは問題視すべき点だ。
個人のポイントだから口出しはしないようにしていたが、斉木のはあまりに目が余る。
「5機目だろこれ。スイーツ作るのにこんなにいらねぇだろ」
『新しいのが出る度に味も機能も進化しているんだ』
スイーツのことになると冷静さを失う点はなんとかさせた方がいいな。
この前も危うく鈴音や坂柳に買収されかかっていたからな。
『君も食うか?』
「食わねぇよ……!」
嬉々としてスイーツを勧めてくる斉木から逃げつつ、オレは報酬に持ってきたスイーツを出す。
「さぁ、斉木、また働いてもらうぜ」
『やれやれ』
アニメ見てたら書きたくなったので書きましたすみません
斉木Cクラスルートですが
真鍋と軽井沢の絡み消失▶︎綾小路の手駒なしなので綾小路が若干弱体化しているのがDクラス弱体化にもなっています
ちなみにそれに当たって真鍋が軽井沢に絡んで面倒事になるという予知夢を見た斉木がしつこく真鍋に声をかける羽目になり「斉木ってもしかして私の事……♡」と斉木にとってはさらに面倒なことになっています。
どれくらい面倒かというと、真鍋の斉木に対する好感度が斉木原作初期での夢原さんくらいになっています。
Cクラスの抱えている搦手の使えない試験や正攻法での突破ができないという弱みも斉木が龍園に暴力や人体に被害を及ぼす搦手を使わせないようにしているため、かなり抑えられています
餌で釣る作戦で勉強に消極的な生徒にも達成可能なボーダーラインでの報酬を用意して学力試験は無難に突破させています
龍園に一言どころかかなり物申せる存在なのでクラス内での立ち位置は高いものの、本人は目立ちたくないからと前には出ないようにしてます
今回はこのくらいで
また気が向いたら続きかifルート書きます