長ぁい!そんなに話進んでないのに!!
まあゆっくり見ていってね!
特別試験の説明を受けた翌日、昨日の夜のわだかまりのようなものは寝ている間に吹っ切ったのか神崎は以前のように接してきた。
昨夜は気を使って僕は実家の方で寝させてもらったため、神崎がどうやって自身の気持ちを整理したのかは分からない。
だが、神崎が今まで通りでいるのであれば、僕も変わりなく過ごせばいいだけだ。
「おはよう、斉木。昨日はその、悪かったな」
なんの事かととぼけつつ、僕は朝ごはんを食べに行くため『ブルーオーシャン』というカフェに向かうことを告げる。
すると、意外にも神崎よりも先に同行を申し出てきたのはルームメイトの浜口だ。
「あ、斉木くん。僕も同行していいですか?」
「浜口が? 珍しいな」
「そうですか? たまに話しますよ? でも、確かに斉木くんとご飯を食べるのは初めてですね」
浜口は温厚で口調も丁寧な男子生徒で、運動は苦手らしいが、勉強は得意で、コミュニケーション能力も高い。
僕と同じくメガネをかけているが、彼は伊達でもなければ、おもちゃでもない正真正銘のちゃんとしたメガネである。
そんなメガネキャラながらも爽やかかつ、話しやすい彼は巧みなコミュニケーション能力でBクラスの清涼剤ともいうべき人物だ。
人付き合いを好まない僕と神崎のグループに入ってくれていることがその証拠のひとつだろう。
「なら、俺も行くとしよう。試験のこともあるしな(構わないな? 斉木)」
テレパシーのことを分かっているかのように神崎は言っているが、目線でそう言ってるだけなので僕のテレパシーのことは何も分かっていない。
しかし、試験というワードが出て「なら」と浜口が気を利かせてしまう。
「試験の話をするなら一之瀬さんも呼びますか? 8時には優待者の発表もありますし」
「そうだな……(しかし一之瀬を呼ぶと他の女子も来るし人が増えるな……多人数になると他のクラスメイトも集まるかもしれないが、それはそれで優待者の確認がしやすいか)そうするか」
「では声をかけてみますね。席を取らないとですし、先に移動しておきましょうか」
浜口がそう言い、それに僕と神崎は頷くと、部屋を出る。
メールを打ちながら移動する浜口の後ろについていく。
特に会話はなく、静かな時間であったが一之瀬さんへの連絡を終えた浜口が僕に尋ねてくる。
「そういえば、斉木くん、朝食はなんでブルーオーシャンなんです? (ブルーオーシャンは悪くないと聞きますけど、他にも美味しいカフェやビュッフェはあるのに)」
人気どころだと人が多くて座れないかもしれないし、騒がしいのは苦手なんだとそのまま伝えると浜口は「なるほど」と呟く。
「けど、今回はその方がいいかもですね。Bクラスの生徒ばかりが集まる訳ですし。人気のない場所の方が話しやすい」
まあ僕のように多勢を嫌って、来る生徒はいるだろうから、完全にBクラスだけで埋まるということはないが、都合がいいのは確かだ。
午前7:30と早い時間から開いているブルーオーシャンに着くと、見知った先客がいた。
「あれ、他クラスの生徒がいますね。確か、彼はこの前……(斉木くんが連れてきたDクラスの生徒でしたね)」
「あぁ、Dクラスの綾小路だな」
無人島試験の際に、Bクラスのベースキャンプを見に来た時に神崎は綾小路と顔合わせをしているが、浜口は遠巻きに見ているだけだったな。
そういえば、昨日も説明会の前に見かけたが、船に戻ってきてからは話していなかったな。
(……何やら視線を感じるな。あれは斉木と、神崎……もう1人は知らないがおそらくはBクラスか)
綾小路の方も僕たちに気づいた。
それを見て浜口がまたもや気を利かせてくれる。
「僕と神崎くんは先に席を取っておくので、お話してきてもらっても大丈夫ですよ」
「一之瀬から返事は?」
「ええ、来てますよ。8時前には来れるそうです。白波さんと網倉さん、安藤さんも一緒に来ます」
「(一之瀬と同じ部屋の女子だな)わかった。では奥の広いテーブル席にするか」
「はい」
2人はそう言って先に店の奥の壁際の席へと向かっていく。
僕はと言うと、先程からこちらに視線を向けている綾小路の方へと向かう。
すでに注文も終わっていたようで、モーニングのトーストとサラダ、コーヒーをテーブルに置いてある。
おはようと挨拶すると綾小路からも返事が来る。
「ああ、おはよう。 無人島試験以来だな」
そうだなと返すと、少し無言の間が生まれる。
「……Bクラスは仲がいいんだな。朝も一緒なのか?」
いや、今日はたまたまだ。
試験の話をしたいから集まるのにここなら朝は人が少ないからちょうどいいとなった。
「なるほどな。俺もこれから堀北と試験の話を……ああ、そうだ。悪かったな、無人島の時の堀北の件だが(薬を飲むように促しはしたが、結局飲んでなかった……のは、結果的にはDクラスの勝利にはなったんだが、斉木としてはどうなんだろうか)」
気にしなくていい。
薬を渡したのは僕のお節介と彼女も言っていたからな。
リタイアしたのは後で聞いたが、朝食に出て来れるならもう回復したのだろう。
「おかげさま……と言っていいのかは分からないが、昨日はかなり元気だったぞ。いつも通り俺に毒を吐いてきた」
君たちの関係性はよく分からないが、それがいつも通りならいいことなのだろう。
(相変わらず斉木との会話は無駄がなくていいな。堀北や平田たちが無駄というわけじゃないんだが)
テレパシーで言葉の裏や真意が拾えているからというのもあるが、綾小路の場合は本心しか語らないので特に苦労しないのは確かだ。
「そういえば斉木は堀北や櫛田と同じグループなのか? 昨日葛城や龍園に絡まれているのを見たが」
僕が絡まれたのは櫛田さんだがな。
龍園は僕のことを警戒しているようだが、葛城は僕のことを特に気にしていなかったはずだ。
「櫛田に? 何かあったのか?」
大したことはない。
「そうか(まあ櫛田と斉木の接点は佐倉の時くらいだしな……佐倉といえば山内からラブレターを貰っている件も話しておくか。佐倉も何故か斉木には相談しておきたいと言っていたしな)……斉木、また試験の合間に時間をもらっていいか? 佐倉がお前と俺に相談したいことがあるみたいなんだ」
それは構わないが……山内か。
たしか思考が男子高校生の典型すぎるDクラスの男子か。
佐倉さんの容姿はグラビアアイドルとして誌面を飾れるし、そういう仕事をしているならと付け込む男子はいるだろう。
わかったと頷き、また時間や場所は決めようと伝えると綾小路は首肯する。
「助かる。こういう時、話は聞いてやれるがどうするかの判断にはまだ困っているんだ。場所はおすすめはあるか?」
それなら船尾にある『純喫茶魔美』というカフェは静かでコーヒーゼリーも美味いし、ちょうどいいんじゃないか?
コーヒーもリクエストすれば好みの味にしてもらえるらしいぞ。
「そうか、じゃあそこにするか。また佐倉に声をかけてから時間は連絡する(そろそろ堀北との待ち合わせの時間だな)」
みたいだな。
「にゃっはろー、堀北さんもこれからブルーオーシャン?」
「(にゃ、にゃっはろー? どこかの猫部族の挨拶かしら)え、えぇ。一之瀬さんたちも? 意外ね。あそこあまり人気がないと聞いたけど」
「うん、本当はビュッフェのあるところにするつもりだったんだけど、神崎くんと浜口くんが試験の話も兼ねてモーニングはどうかって誘われたの」
「そう。人気がないのなら話し合いには向いてるわね。でも、いいのかしら。Dクラスの私と綾小路もそこで話し合いをするのだけれど」
「別にいいよー。あ、でも、もし優待者とかだったら聞かれたらマズイかも……」
「それはお互い様でしょう(まあ離れた席に座っていれば問題ないかしら)」
遠くからテレパシーと共にそんな会話が聞こえてくる。
聞いていた通り、白波さんや網倉さんたちも一緒のようだ。
だが、その後ろに伊吹さんがいるのはまた龍園に尾行を任せられているのだろうか。
「どうした斉木」
一之瀬さんたちも来たみたいだ。
僕は神崎たちの方に合流する。
「……そうか。じゃあ、また」
ああ。またな。
そう言って僕が踵を返すと、綾小路は思い出したようにまた口を開いた。
「斉木、夏休みなんだが、少し遊ばないか? またお前のおすすめの映画かドラマを見繕ってもらえると助かるんだが」
綾小路とは佐倉さんのカメラを直して以降、連絡を取り合っている。
といっても、連絡してくるのは綾小路からだが。
そこでおすすめのドラマや映画を聞いてきた。
教えるとケヤキモール近くのレンタルビデオ屋で借りてきた。
だが、DVDの見方が分からないと相談を受け、見方を教えると、僕も久しぶりに見返したくなったので一緒に見たのだ。
それからたまに休みの日に映画やドラマを見たりしているのだが、クルージングが終わってからもドラマ視聴をするようだ。
それくらいならお易い御用だと答えて、堀北さんが到着する前に神崎たちのいる席に向かう。
「おや、ちょうどいいタイミングですね。一之瀬さんたちも着いたみたいですよ」
僕が席に行くと浜口が言う。
わざとらしくないように振り返り、一之瀬さん達は「おはよー」とこちらにやってくる。
にゃっはろーじゃないんだな。
「おはよう一之瀬、網倉、安藤、白波。悪いな急に呼び出して」
「ううん、大丈夫。試験の話は私達もしたかったし、ね?」
椅子から立ち、女性陣に詫びる神崎に気にしないでと一之瀬さんは答え、後ろにいた網倉さんらに同意を求める。
網倉さん、安藤さん、白波さんがそれぞれ頷く。
「うん、全然。てか、珍しいメンバーだよね」
「そう? 無人島試験の時結構話さなかった?」
「私はそんなに……(斉木くんとは船で少し話したけど……)」
ぺこりと会釈してくる白波さんに僕も軽く頭を下げておく。
挨拶を終えたのを見計らって浜口がメニュー表を渡してくる。
「モーニングセットは頼みましたが飲み物が分からなかったのでそれだけお願いします」
「ありがとう浜口くん」
一之瀬さんが代表して受け取り、女性陣たちと「どれにするー?」と選び始める。
僕はココアにでもしておくかと、メニューを見ることなく一番窓際の席に腰掛ける。
そして、全員が注文終えると、網倉さんが綾小路と堀北さんの座る席を見ながら呟く。
「あの2人いつも一緒だけど、付き合ったりしてるのかな? 何か知らないの? 斉木くん」
何もないんだなこれが。
まあ堀北さんがDクラスをAクラスにあげるために綾小路の助言を受けたり、利用したり利用されたりと、一言では説明するのは面倒な関係ではある。
互いに人付き合いが苦手だからああなったという面もあるが、男女の関係になるということは今のところはないだろう。
綾小路とはよく話すが、堀北さんとはあまり話さないからわからないと答えると網倉さんは唇を尖らせた。
「そうなの? つまんないのー」
「男女が共にいるから恋仲になるとは限りませんから」
苦笑しながら浜口は一之瀬さんと神崎の方を見る。
網倉さんの言うようにいつも一緒にいる男女に当てはまるが、そんな様子は全くない。
そんなたわいもない話をしているとじっと時計を見ていた神崎が口を開く。
「もうすぐ8時になるぞ」
「あ、ほんとだね」
神崎の一言に一同の雰囲気が少しだけ引き締まる。
携帯の画面に表示されている数字が『8:00』になった瞬間、着信が鳴る。
確認すると、全校生徒に向けてメッセージが届いていた。
自分が優待者ではないことが分かっている僕は目を通すフリだけして早々に電源を切る。
そして、僕の脳内には自身が優待者かどうかを確認している生徒たちのテレパシーが流れてくる。
(優待者じゃないかーポイント多めに貰えるからなりたかったんだけどなー)
(うそ、私が優待者……? マジ?)
(優待者、か。これ、何かに利用できないかな……私が優待者ってことは堀北は違うってことだし……)
よくよく考えたら、教師陣のネタバレがなくても優待者のメールを確認した段階で僕にはネタバレが押し寄せてくるんだったな。
「言いにくいとは思うが、この中に優待者だったやつはいるか?」
綾小路や堀北さんに聞かれないよう、声を潜めて尋ねる神崎に、この場にいる生徒たちは首を横に振った。
もちろん、僕もだ。
「そうか(本当かは分からないが、信じるしかないか。一之瀬がいる場で嘘をつく奴がいるようにも思えん)」
本当だぞ、と僕が言うとどうしてわかるという話になるため、口を噤み、デザートに出されたチーズケーキを1口、口に入れる。
ふむ、これはなかなか……。
「一之瀬、優待者の把握だがどうするつもりなんだ? (一之瀬の求心力なら教えてもらえると思うんだが)」
僕がチーズケーキに舌鼓を打っている横でそんなやり取りをしていたようだ。
「私は自主性に任せようと思ってるけど……(確認しても規則性とか法則がないと優待者の子が開示するだけ損だし)」
なん、だと。
「大丈夫ですか? スプーン落としましたけど……」
「虫歯にでも当たった?」
浜口が心配してくれているので、普通に拾ってペーパータオルに包む。
安藤さんの質問には首を横に振った。
僕に虫歯なんてできるわけがないだろう。
そんなことよりだ、優待者の確認はしないのか?
「う、うん。教えてくれるなら嬉しいけど無理には頼まないよって言うつもり……」
一之瀬さんはあらかじめ文章を打っていたのか、チャットルームを開いて、送信前の文章を見せてくる。
ふむ、まずいなこれじゃあ誰かに優待者の法則を教えられないな。
優待者の一覧を見て、ブレインストーミングの要領で意見を出しながら、一之瀬さんか神崎に気づかせるつもりだったんだが。
「……斉木は知ってどうするつもりだったんだ?」
君たちに法則について気づかせるつもりだった。
とは、とても言えないため、単に興味があったとそれらしいことを言っておく。
すると、浜口、網倉さんから同意を得られた。
「確かに自クラスの優待者については把握しておきたいですよね」
「だよね。同じグループにいるかくらいは知っておきたいかも。知らないと助けたりできないし」
しかし逆に反対する人もいる。
「でも帆波ちゃんの言う通り、言いにくいって人もいるんじゃないかな。その優待者ってことがバレたら、脅されたり、利用されたりって考えたら……私は言えない、と思う……」
無人島試験で、クラスメイトを、大切な一之瀬さんをネタに脅された白波さんは言いにくそうに訴える。
それを否定することは誰にもできないだろう。
安藤さんも白波さんの意見には一理あるようで腕を組む。
「確かにね。誰かに話すってことはそれだけバレるリスクが上がっちゃうしね」
朗らかな表情をしている一之瀬さんも今回ばかりは渋い顔をしている。
一之瀬さんにとっては、自分のクラスの人が危険な目に遭うというのは避けたいはずだからな。
優待者という情報は他人に言いふらさないほうがいいのは確かだ。
「それなら、仕方ないか(しかしクラスが2つに割れているAと統率が取れていないように見えるDはともかく、龍園の支配しているCは優待者を把握するだろうな)」
クラスメイトの意見を受け入れつつも神崎は懸念材料も忘れていない。
どうするべきかを一之瀬さんをはじめ、皆が悩んでいる中、僕の耳、というか脳内には別の方向からの声が入ってくる。
(ククク、こりゃ驚いた。鈴音だけじゃなく、一之瀬たちBクラスもいるとはな)
神崎の言う通りなら自クラスであるCクラスの優待者を把握できる龍園が来ていた。
尾行させていた伊吹さんから連絡を受けてきたのだろう。
だが、僕たちがいることまでは聞いていなかったらしい。
まだ龍園は店に入ってきていないため、他のみんなは気づいていない。
だが、気づくと白波さんがパニックになるかもしれないな。
「斉木、どうした?」
もう食べ終わったことだし、クラスの方針もグループチャットで確認すれば済みそうなら僕がここに留まる理由はない。
「そ、そっか。うん、わかった。また連絡するよ(斉木くん、何か気に障ること言っちゃったかな……)」
「斉木、本当にどうしたんだ? (顔が少し険しいが……)」
それをかなりオブラートに包んで言ったんだが、一之瀬さんたちは戸惑っているようだ。
なんでもないと首を振り、みんなにはゆっくり食べててくれと伝えてから席を立つ。
さて、優雅な朝ごはんに冷やかしの部外者は邪魔だからな。
大変不本意だが、店の外にいる龍の相手をしてやるか。
白波さん的に龍園はまだトラウマだからとりあえず遠ざけるかくらいの気持ち
白波さんは不安よな、楠雄動きます。
優待者把握させようと思ったら原作で一之瀬把握してなくて草ァ!
リーダーちゃうんけ君ぃ!自主性とか甘いこと言ってるから龍園に全部もっていかれるんやぞ!
まあそれはそれで……と楽しみながら書かせてもらいます
また次回