一之瀬帆波の頑張りすぎだ!
って感じの話です
唐突に始まった船内試験は1日目で終わりを迎えた。
一之瀬さんが葛城、櫛田さん、平田に呼びかけて結果①②③④を上手く使ってCクラスだけがポイントを得られないようにした。
これでCクラスは最下位確定になり、龍園はリーダーとしての責任を問われる、ということはまだないか。
龍というか蛇のようにしぶとそうな男だったからな。
試験を終えて、浮いた日数は再び悠々自適なクルージングに充てられる。
船酔いという弱点のなくなった僕は無敵だ。
なんという力だ、信じられんほどの素晴らしい力が……! これが酔い止めというやつなのか……! と製薬会社の皆様に感謝の意を伝えたくなった。
母さんから貰った分は尽きているが、星之宮先生から貰った分で残りの日数も問題なく過ごせそうだ。
僕の周りに酔い止めを海に捨てるという愚かな行為をする者がいなくて良かったと考えていると、待ち人がやってくる。
「こんばんわ、斉木くん(相変わらずの仏頂面。こっちはやりたくもない笑顔浮かべてあげてるんだからちょっとは反応しろっつーの)」
相変わらずの微笑みと腹黒さを兼ね備えた櫛田桔梗は僕の指定した艦尾の非常階段に来てくれた。
彼女の浮かべているやりたくもない笑顔というやつは僕がまばたきしなければただの筋肉繊維であり、骨になってしまうので、やりたくなければ僕の前ではやらなくてもいいんだがな。
「昨日はありがとう。斉木くんのおかげでこの試験もいい結果で終わりそうだよ」
一之瀬さんが神崎たちとの話し合い通りに進めてくれていれば、AクラスとBクラスはその地位を維持したまま9月を迎える。
ただし、CとD、龍園クラスと綾小路クラスと言えばいいか。
Dの代表が綾小路なのは呼び捨てできるからだ。
龍園クラスと綾小路クラスは入れ替わりが発生する。
龍園クラスは今回の試験でクラスポイントを手に入れることが出来ていないどころか、全クラスに優待者を指名されて-150だからな。
それに加えて綾小路クラスは無人島試験で2位という結果だったこともあり、Cクラスへと浮上している。
入れ替わりの血戦などなく、立ち位置が入れ替わるのはいいことだろう。
綾小路クラスのCクラス浮上は今回、櫛田さんが優待者であり、その事をBクラスに提供して共に優待者の法則を見破ったからということになっている。
優待者であることを明かして、優待者の法則を見抜く助けをしてくれたのは間違いじゃないので、その辺は好きにしてくれと言ったんだが、この様子を見るにクラスの中での地位を上げたようだ。
(斉木くんのおかげで私のクラスの立ち位置は堀北よりも上に戻ったし、私は指名されちゃってプライベートポイントは得られないかもって思ったけど、平田くんが気を利かせてくれたおかげでその心配もないし万々歳。まあ堀北を退学させられないのは残念だけど、そこは妥協かな)
─────1回目のディスカッションの後、櫛田さんは僕にお願いという名の脅迫をしてきた。
高育が招致した三ツ星レストランでパティシエの作るスイーツを餌にまんまと引き寄せられた僕は櫛田さんから堀北さんを退学させる手伝いをして欲しいとかなり遠回しに頼まれた。
本当の顔がまだバレていないし、バラす気もない櫛田さんは猫を被りながら何やら説明していたが、僕は一流パティシエのスイーツに夢中で本音の話しか聞いていなかった。
だが、ざっくり要約すると堀北さんを退学にさせる手伝いをして欲しいとのことだったので丁重にお断りしようとした。
しかし、そう簡単に逃がしてくれるわけもなく、僕の隣に腰掛けては僕とのツーショットを撮ろうとしてくるので、当然逃げた。
「(チッ! 勘のいいやつ!)斉木く〜ん、こんな所で走り回ったらダメだよっ」
しかしまだ食べ終わっていない僕は退店出来ず、櫛田さんの指摘と相まって周囲から迷惑そうな目を向けられる。
(私とのツーショットなんて撮られて、それを私のこと狙ってる男子に見せたら……目立ちたくない斉木くんにとっては迷惑だよね?)記念写真みたいなものだから、ね? 一応は夏休みだし、思い出作りのためにお願い」
僕は一切可愛いと思わないが、世間的には可愛らしいとされる小動物のような目で懇願してくる櫛田さんに僕はNO! と拒否の姿勢を取る。
「(ふーん、結構身持ちが固いんだ。人がいなければ綾小路くんにしたみたいな手でもいいんだけど、仕方ない)ここのスイーツだけね、無料じゃないんだ。支払いは前払いで斉木くんが食べた6800ポイント分はもう私が支払ってるんだけど……」
これで裏の顔を隠そうとしているってマジかと戦慄しながら僕はやれやれと肩を竦めた。
6800ポイントくらい返してやれば済む話だが、そうすれば次はまた別の手で来るだろう。
堀北さんを退学させるのに櫛田さんの脂肪を触らされるのは彼女も後々後悔するだろうし、僕も嫌だ。
一応、櫛田さんが堀北さんを目の敵にする理由は既に知っている。
同じ中学の同級生である堀北さんが櫛田さんの知られたくない過去を知っているから、それをバラされないように、というか知られているのが恐ろしいので退学させたいという理由だ。
だが、堀北さんの方は櫛田さんのことを微塵も覚えていないというか意識もしていない。
堀北さんから櫛田さんに向けられている好感度メーターが6というのは、同じマンションや住宅地ですれ違うご近所さんレベルなので櫛田さんが危惧するようなことはないだろう。
むしろ、櫛田さんが堀北さんを刺激すればするほど「そういえば中学にこんな子がいたような……」ということになる可能性の方が高い。
「で、斉木くんどうするの?」
ここで僕は彼女の根幹にある承認欲求を満たして、堀北さんの存在とかが気にならないようにする方策に切り替えた。
その前にまず、堀北さんが櫛田さんに対して何の興味も感慨も抱いておらず、記憶さえもないことを伝えておく。
(は? そんなわけないでしょ。私、中学の時には学校中に名前が通ってたんだけど。てか、私堀北と同じ中学だったって斉木くんに言ったっけ?)
いや本当に興味ない。マジで。
多分櫛田さんのことは投げる時には使える路肩の石ころくらいにしか思っていない。
というか、君が昔に色々あったことを知っていたり覚えていたら彼女なら皮肉の1つくらい言うだろう。
「確かに……」
今回はいつ誰の秘密を暴露するのかしら、とは堀北さんは言わなくても警戒はするだろう。
Aクラスにあがりたいと思っている堀北さんが櫛田のことを覚えていれば、いつ誰の秘密を暴露するかわからない櫛田さんは爆弾そのものだからな。
そんな感じで櫛田さんを言いくるめて、当分は堀北さんより凄いとクラスや学校の生徒に思われればいいのだろうと今回の計画に乗っからせたのだ。
他者を傷つけない、クラスメイトを裏切らないという条件ではあるが、櫛田さんからのお願いは了承した。
ただ、櫛田さんの方から僕を切り、龍園や他の人間と協力して堀北さんを退学させようとした場合は堀北さん側につくとは伝えてある。
「この前の話通りだと、私が満足するまで今後も協力してくれる……ってことでいいんだよね?」
満足するまでという曖昧なボーダーはよくないが、クラス内での地位が固まって名実ともにクラスの代表となればと彼女は考えているらしい
だが、僕としては櫛田さんはクラスを引っ張るリーダータイプでは無いように思う。
上昇志向の強さとメンタルの強固さは堀北さんに勝るが、リーダーとしての適性は堀北さんに軍配が上がる。
おそらく堀北さんを櫛田さんと平田が支えて、綾小路あたりが裏工作や準備を整えるなどする今のような体制が他クラスからすれば面倒に感じると思うんだがな。
とりあえず、櫛田さんにはできる範囲で協力しようと僕の方も曖昧に答え、次の約束があるからとその場を離れる。
(斉木楠雄、変なやつだと思ってたけど結構使えるな。これで弱味のひとつでも握れれば使いやすくなるんだろうけど、スイーツ好きと船酔い持ちってくらいじゃ脅しとかにはできないしなぁ。私からの攻めも動じないどころか嫌がるし、今までになかったタイプで全然わからない。けど……斉木くんの言う通り、堀北のやつ私のことマジで眼中になさそうだったな)
櫛田さんも用は済んだためか、追って来たり、声をかけようとしてはこない。
クラスで目立ったり、みんなからチヤホヤされたいという人間の気持ちは僕には分からない。
櫛田さんは自分に何も無いから、みんなの悩みを聞いたり、たすけたり優しくすることで一番の人気者という地位を得たいみたいだが、僕からすれば承認欲求だけでそこまでできるだけ十分凄いと思うがな。
それを言ってやるのは本当の顔を知らないことになっている僕ではないだろうと、艦首の方に足を向ける。
あとは佐倉さんの件と綾小路が軽井沢さんにやろうとしていること……は過度なことをしそうになっていたら止めるか。
ショック療法を推奨するわけじゃないが、このままだと軽井沢さんの為にもならない。
綾小路のやり方は褒められたものじゃないが、彼が別の理由はあれど手を差し伸べてやりたいと思ったのなら見守ってやるべきなのだろう。
となると、先に佐倉さんに好意を向けて困らせているという山内の方からか。
やれやれ。
###
「お前たちの協力に感謝する。俺の考えた策よりも素晴らしいものだった……本当に感謝する、一之瀬」
「ううん、全然気にしないで。私達も龍園くんに思うところはあったし、神崎くんから聞いたけどAクラスは巻き添えだったんでしょ?」
本来試験を終え、俺は改めて一之瀬に感謝の意を伝えに行った。
クラス内に裏切り者、坂柳をリーダーとして立てる事を強く望む面々がいる中で結果①に進むことは難しく、Aクラスの優待者を他クラスに漏洩される危険性があった中で、一之瀬の提案してくれた策は無人島試験で失った俺の失態を取り返させてくれた。
BクラスがAクラスになることも出来たはずだが、彼女はそうはしなかった。
今回の目的はあくまで龍園、元Cクラスに灸を据えるためのものであり、そのために協力してもらう見返りだと彼女は言っていた。
おかげで俺たちAクラスは9月もその立ち位置を維持したまま二学期を迎えることができる。
「そうだとしても奴の策に乗ってしまったのは俺の責任だ。それにBクラスのリーダーについても奴の使う手に薄々気づきながらも利益を優先して見逃した」
恥ずべきことだと苦虫を噛み潰すような表情になっていたのだろう。
それを気遣ってか一之瀬は優しい笑みを俺に向けてくる。
「そういう風に言えるのって大事だと思うよ、葛城くん。相手を責めるんじゃなくて、自分も悪いところがあったって思えるのって凄いことだから」
彼女の目を見て、その言葉に嘘がないことはすぐに分かる。
「だが……いや……」
「千尋ちゃんももう気にしてないから。むしろ、やり返しすぎてそっちが気になってるみたいだし」
言葉を弄して自身を責めようとしたが、一之瀬はあえてそこは触れず、話を進めていく。
彼女はもう過ぎたこと、終わってしまったことを蒸し返したりしない。
それで傷つく人がいると理解しているからだろう。
「一之瀬、お前にも謝罪させてくれ。正直侮っていた、すまない」
再び俺は頭を下げる。
今度は感謝のためではなく謝罪のためだ。
「ええっ!? 頭上げてよ葛城くん! 私そんなにたいしたことないから!」
「いやそんなことはない。無人島試験での結果といい、今回の結果といい、お前の活躍を見てお前を格下と思うやつはいないはずだ」
過度な謙遜をする一之瀬に、俺はそのままのことを口にする。
相手が俺ではなく、坂柳でも一之瀬には対応しきれない。
そう思わせるほどに今回の一之瀬の手腕は見事なものだった。
「お前の助言のおかげで坂柳を慕うクラスメイトに邪魔されることなく試験を終えられたんだ。お前がなんと言おうと俺はお前を尊敬するぞ」
「なんか照れちゃうなぁ……やめてよ、今回のは私だけの力じゃないし」
これは本当に俺の本心からの言葉だ。
彼女を評価できないような人間はこの学校を卒業することは叶わないだろう。
「仲間の助力含めてお前の力だろう。お前だから、神崎たちは助けてくれるんだ」
そう言うと一之瀬は「そう、かな……」と自身の毛先を弄び始める。
「そうだ。特に船上試験でBクラスへの認識を改めさせてもらった。手強そうなのはお前と神崎だけでは無いということがな」
思い出すのは最初のディスカッションで龍園に凄まれながらも動揺することなく言い返して見せた斉木楠雄の姿だった。
知的で、冷静で、論理的で。
俺に隠すことなくAクラスに裏切り者が潜んでいることも伝えてくれた、正々堂々とした男だった。
2回目の試験で【蝶野雨緑の誰でもできるマイリュージョン】という本を読むのに没頭していたのは、一之瀬が今回の結果にすることを知っていたからだろう。
不思議なやつだが侮ると致命的な敗北を招く。
そんな気配があいつにはあった。
「また協力し合える試験があればその時はぜひよろしく頼む」
「うん、もちろんだよ」
「……だが、無人島試験のようにクラスごとに競い合うものならその時は全力で勝ちに行くぞ。正々堂々とな」
「それはこっちもだよ」
大胆不敵といった笑みを浮かべる一之瀬に、俺もまた笑みがこぼれる。
これから祝勝会があると別れの挨拶をした後、俺は「ふぅ」とため息を吐いた。
一之瀬や堀北たちと渡り合うためには今のクラス内情では難しい。
何とかして今の現状を変えねばと誓うと俺もまた歩き出すのだった。
決着ゥー!!!
一応計算しましたが無人島試験の結果踏まえてもBがAに上がるには全指名しかないけど、CをDに落とすのは全指名で終わったのでそうしました
当てた人は得してラッキーとはならず当てられることになっている子に半分補填する計画を結んだりしています
この辺はざっくりとしか考えてないぜ!
投稿サボってたとは思えないほどの速度で書いていますが、理由を言うと2年生編がアニメ化されたからです
斉木10周年というのも……斉木10周年!!!?ファー!!!??(昏倒)
追いつける気はしませんが、それなりに進めるか想定イフとか書いたりしたいかもしれない
日月は更新無しと思われます
火曜日か水曜日あたりから続き書きます(投稿するとは言ってない)
ではまた次回
追記 2026/05/02 21時55分
Amazon Kindle unlimited によう実4.5巻含まれてなくて詰んだ
ブックオフでこれだけ買うのもなぁとなっているので、船内試験後の夏休み中の出来事飛ばすかもしれないです
まあ大したイベントなさそうだから仕方なかったってやつだ……
斉木の頭脳
-
綾小路レベル
-
坂柳レベル
-
一之瀬レベル
-
堀北レベル
-
龍園レベル
-
山内レベル
-
楠雄が上の人達より下な訳ないでしょ