ようこそ超能力者のいる教室へ   作:オールF

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結局GQuuuuuuXを使うことになりました
パチンコあたりから持ってきてもよかったんですけどね。
今回で夏休み編完結となります。


斉木楠雄の夏休み GQX

 一之瀬さんの挑発から始まったBクラス対Cクラスのプールバレーは2セット目に突入する。

 

「2セット目も取るぞ、足引っ張んなよ野郎ども!」

 

 バレーの経験はあまりなかった須藤だが持ち前の運動神経とセンスでその能力を発揮していた。

 

「うりゃ!」

 

 サーブは池のヘナヘナとした軌道を描いたボールだった。

 

「任せて!」

 

 それは網倉さんの近くにいき、彼女が難なくトスすると、一之瀬さんに運ぶ。

 

「いっくよー!」

(またオレか……)

(ふおおお!? 揺れ!)

(なんて破壊力だ!!)

 

 狙うは綾小路、池、山内らのバレーと一之瀬さんの胸部に不慣れな面々だ。

 卑怯だとは思わないでよねとアタックをした一之瀬のボールを山内は取れずに2セットの先制はBクラスとなる。

 

「ナイス一之瀬!」

「帆波ちゃんさっすが!」

 

 Bクラスから歓声が上がる。

 たった1点だが、どんなスポーツでも先取点というのは試合の流れを作る上では重要なのだという。

 点を取ったことでサーブ権がBクラスになる。

 

「はい、斉木くん」

 

 ん? 一之瀬さんがボールを持ってくるが、どういうことだ? 

 

「次、うちのサーブだから」

 

 そういえばサーブは順番に回していくんだったな。

 プールバレーもといビーチバレー用のボールは空気でふくらませたビニール製で、通常のバレーボール用のボールとは硬さが違う。

 そのため須藤や柴田のようなジャンピングサーブといった、威力が出てしまうものを打ってしまえばボールは破裂してしまう。

 目立たずに普通にサーブするには指先で軽くタッチするように触れて、それを念力で相手コートに入れるしかない。

 ただ、僕はここで思いつく。

 下手くそなサーブを打ち、ネットに当てたり、コート外に打てば、Bクラスの面々の好感度を下げられるのではと。

 平均すれば60と少し高い好感度を50前後にすべく、僕はボールを宙へと上げた。

 そしてそれをペチンと情けない音とともにアタックする。

 

「へっ、んだよあのボール。春樹、コートから出るぞ! 取るなよ!」

「おう! (ラッキー!)任せとけ!」

 

 ネットに当てるともう一度打たされそうだったので、ここはコートアウトを狙う。

 念力で微調整し、ボールは惜しくもコートから逸れる、はずだった。

 

(つぶつぶアイスそろそろ売り切れそうだね)

(こんなに売れるとは思ってなかったからな。昼まで持つかな?)

 

 な、なにッ!? 

 聞いていないぞそんなこと! 

 

 と、集中を削ぐテレパシーが聞こえたことで、念力での操作に誤差が出てしまう。

 結果、念力の操作から外れたボールは風の軌道に乗り、コートインギリギリで着水する。

 これには山内と須藤も驚きを隠せないようだった。

 

「なっ!?」

「ほぎゃあ!?」

 

 念力で手で触れた時の威力を殺していたのが災いして風で簡単に流れるようになってしまったとは。

 予想外の結果とお目当てのアイスクリームがなくなりそうなことに動揺していると網倉さんと柴田が声をあげる。

 

「(あんなサーブが入るなんて)すごいよ、斉木くん!」

「(てっきりコートアウトだと思ったのに)やるな! 2点目だぞ!」

「よし、この調子で巻き返していこう!」

 

【一之瀬の好感度が69になった!】

【神崎の好感度が67になった!】

【網倉の好感度が59になった!】

【柴田の好感度が58になった!】

【浜口の好感度が62になった!】

【白波の好感度が57になった!】

 

 あんなサーブだと思うなら揃って好感度を上げないでくれ。

 しかし、これで難所は超えたはずだと一息ついていると、ジッと僕を見つめる綾小路の視線に気づく。

 

(斉木のあのサーブ、どうやってうったんだ? あんな指先でチョンって触るようなサーブで……風に乗ったのはこっちのコートに来てからだった。それまではまるで決まった軌道をなぞっているような)

 

 冷静に分析されているが、気にしないでおこう。

 あと3回はサーブが回ってくるだろうが、今度は意識を乱されないように気を配ろうと、僕は静かに自分の位置に戻った。

 その後、Bクラスに取られてしまった点を追いつくべく攻めの姿勢を見せるCクラスだったが、攻撃方法が須藤主体のワンパターンということもあり、結局2セット目はBクラスが取ってしまう。

 

「すげえな斉木、あの須藤のボールを受け止められるなんて!」

「斉木のことを侮った須藤のミスだな」

 

 それもこれも僕が悪い。

 ビーチボールにも関わらず威力の高い須藤のアタックを一之瀬さんと網倉では受け止められず、柴田と神崎も3回に1度しか次に繋げることができていなかった。

 ただ、つぶつぶアイスの在庫に気を取られて、須藤からのボールを咄嗟にレシーブしてしまったがために、Bクラスに勢いが生まれた。

 僕のあげたボールを一之瀬さんと柴田が山内や池のところに叩き込み、点を重ねていく。

 須藤は須藤で舐めていた僕にボールを受け止められたことが気に障ったのか、狙い撃ちするように僕を狙ってきた。

 

「オラァ!」

(あと20人分くらいってとこかぁ)

(綺麗に各フレーバー2人分くらいはあるなぁ)

 

 数回に一度はミスろうとする度につぶつぶアイスの在庫が減っていき、僕の思考は掻き乱されてしまう。

 結果、適当に出した腕に当たったビニールボールが鋭い弧を描き相手コートに入ってしまう。

 

「なんだよ今の!?」

「ぶ、ブーメランスネイク……」

 

 狙ってやったわけじゃないが柴田の言う通りバンダナテニスプレイヤーの必殺技のようになってしまった。

 

「斉木くん、バレー、すっごい上手だね!」

「これなら勝てますよ! 次のセットも取りましょう!」

「「おう!」」

 

 僕のテンションが下がっていくのと反比例して、一之瀬さんたちのテンションは上がっていく。

 相手コートも僕のレシーブや返球を脅威に思い始めたのか、須藤にアドバイスをしていた。

 

「須藤くん、斉木くんは一見へなちょこなヘアピンメガネに見えるかもしれないけどあの中じゃ出てきたばかりで1番体力があるわ。ムキになって彼にスマッシュを撃つのはやめなさい」

「くそ、わかったよ」

 

 堀北さんのおかげで僕への集中砲火は終わりそうだ。

 そう安堵しているとまたもや僕の前にボールが出される。

 

「斉木くん、勝とうね!」

 

 キラキラとした笑顔で言う一之瀬さんだが、僕は2ゲーム目のみの参加だ。

 ここは素早く離脱してつぶつぶアイスを買うため、白波さんの方を───────いない!? 

 佐倉さんも姿を消していた。

 

「あー(千尋ちゃんと交代か。けど、どっか行っちゃってるね)何か飲み物でも買いに行ってくれたんじゃないかな?」

 

 一之瀬さんの言う通り、千里眼で彼女らのいる場所を見たが、どこかの屋台に並んでいるのが見えた。

 これがせめてつぶつぶアイスのところであればと思ったが、看板には飲み物としか書かれておらず僕は天を仰いだ。

 

終わった……

 

「さ、斉木くん、大丈夫? (熱中症? でも顔色とかは悪くなさそうだけど)」

 

 熱中症よりも酷い病だ。

 特に早く終わらせる理由もなくなってしまったし、どうしたものか。

 心配する一之瀬さんからボールを受け取り、サーブを打つため後ろに下がる。

 すると、向かいから須藤の声が届く。

 

「さっきのヘナチョコサーブなんかすんじゃねぇぞ! 本気でこい本気で!」

 

 本気? 本気だと? 

 本気で言っているのか? 

 こんなビーチボールでも超能力で材質を強化して叩きつければお前をリアルなアンパンマンにすることができるんだぞ? 

 ……ダメだな。

 たかがスイーツごときで、こんな考えになるのは。

 つぶつぶアイスは聞けば関西で食べれるらしいじゃないか。

 今日食べられなかったのは僕の運がなかったということだろう。

 そもそも須藤たちがあっさりと僕たちを倒してくれないのが悪い。

 さらに言えば、勝負をふっかけた一之瀬さんの罪なのだが、まあそんなことを言い出したらキリがない。

 僕は負の感情を押し殺すように青春の馬鹿野郎とサーブを叩き込んだ。

 

「綾小路!」

「綾小路くん!」

「あ、あぁ……(妙な回転がかかっている……? ちゃんと受け止めないとまずいか……?)」

 

 僕としては団扇を扇ぐような軽いスナップでボールを叩いた。

 しかし、そのボールは緩やかながらも高速で回転しており、綾小路がベストポジションかつ、腰を落としてレシーブの構えを取る。

 あれなら回転を殺せずとも、上手くいけば真上にかちあげることができるはず。

 そうすれば須藤が走り込んできて強烈なスマッシュへと繋がる。

 そう思っていた。

 須藤と堀北さんの呼び掛けに応えるように、ボールを受け止めた綾小路だったが、回転のかかったボールは宙には舞わなかった。

 先程の反省を活かしつつ、スポットで捉えてレシーブした綾小路の腕を駆け上がり、ビニールボールは彼の顎をアッパーした。

 

「かはっ……!」

「綾小路くん!?」

 

殺っちゃった……☆

 

 いや、たかがビニールボールだ。

 死んではいない、はずだ。

 

「綾小路も下手くそじゃねぇか!」

「いや……顎でも上がればOKだ!」

 

 ビニールボールによるアッパーを食らって倒れ込んだ綾小路を見て池が笑うも、そのまま須藤がアタックを繰り出す。

 

「うらぁっ!」

「し、しまった……!」

 

 そのアタックは神崎や一之瀬さんの間に叩き落とされた。

 

「綾小路くん、大丈夫!?」

「あ、ああ……(ボールが襲いかかってきた……あんなの知らないぞ……)」

 

 綾小路は無事らしく、透視で見ていたが脳震盪なども起きていないことに僕は安堵する。

 

「斉木、お前……(奢りたくないからってあんな凶悪サーブを……)」

 

 神崎がドン引きしており、何も言わないが網倉さんと柴田や浜口も引いている。

 おかげで僕への好感度は神崎は【59】、他の連中も【52】ほどになったのは不幸中の幸い、というやつだろうか。

 

(斉木くん、スマッシュの威力の小ささを補うために技術力を上げたタイプだね。やるなぁ)

 

 なんで君だけ感心しているんだ一之瀬さん。

 僕のCOOLドライブでBクラスにできた流れは止まってしまい、この試合中、ほぼ一人で動き回っている須藤の独壇場となった。

 彼に体力の低下は見られず、直線的な強いスマッシュを柴田がなんとか返すもそれも幾度目かわからぬ須藤のジャンピングアタックで再び返される。

 総合力ではBクラスの方が勝っているが、須藤のフィジカルはそれを凌駕しており、僕がトスなどでフォローするもBクラスの体力が底をつき、最後には一之瀬さんのレシーブが空振りにより、須藤のアタックが地面に落ち、Bクラスは敗北してしまう。

 

「勝ったぜ!!!」

「「うぉぉぉぉ!!!!」」

 

 雄叫びをあげながら須藤たちが喜ぶ一方で、Bクラス側は負けたというのにその表情はどこか晴れやかなものだった。

 

「まさか須藤があそこまでやるとは」

「これは運動系の特別試験などがあったら手強いですね」

 

 柴田は意外なライバルの出現に嬉しそうにしつつ、浜口は冷静に分析する。

 

「負けちゃったのは仕方ないけど収穫はあったね」

 

 一之瀬さんが腰に手を当てて残念そうな表情をするが、 須藤の運動神経の高さを知ることが出来たのは良かったと良いように考えているようだ。

 その須藤とはいうと、最初から最後まで足を引っ張っていた山内、池に詰め寄っていた。

 

「お前らなぁ、足引っ張りすぎだろ! 俺がいなかったら大惨事だったんだからな?」

「わ、わりぃ……(くそー、須藤のやつ運動できるからって調子に乗りやがって」

「で、でも須藤が活躍したから何とかなったじゃん」

 

 言い訳じみたことを述べる二人に須藤が更に詰め寄ろうとしたが、そこは綾小路が割って入った。

 

「まあ勝てたからよかったじゃないか。昼飯は好きなものが食べられるぞ」

「そういやそうか、すっかり忘れてたぜ……つか、お前、アゴ大丈夫か?」

「あぁ、一応な。割れたりしてないか?」

「ビニールボールで人のアゴが割れるかよ」

 

 試合に夢中で忘れていたようで、綾小路との会話である程度落ち着いた須藤は「何食うかな」と遠目から見える屋台へと目を移す。

 

「約束は果たさないとね。それじゃお昼に……って、あれ? 千尋ちゃんたち?」

 

 その会話を聞いていた一之瀬さんが端末を片手に持ち立ち上がると、いつの間にか席を外していた佐倉さんと白波さんが戻ってきた。

 そして僕にはその姿が天使に見えた。

 

「ごめん、飲み物と限定アイス買いに行ってたんだー」

「み、みん、なで、食べ、ませんか?」

 

 彼女達の持っているトレーの上には人数分のつぶつぶアイスの入ったカップが乗っており、僕はそれに吸い寄せられるように近づいてしまう。

 

「ひゃっ、あ、あの……?」

 

 困惑する佐倉さんに対し、僕は何も答えない。

 ただ、心の中で「ありがとう」と呟き続けると佐倉さんが肘窩に引っ掛けた飲み物の入ったビニール袋を受け取る。

 

「これプールでしか食べれない限定アイスだよね」

「うん、飲み物買いに行ってたら残りわずかって言ってたから買ってきたの」

「ありがとう千尋ちゃん〜」

 

 情報通の櫛田さんはもちろん知っていたようで、白波さんからアイスを受け取ると美味しそうに頬張る。

 飲み物を並べて好きに取れるようにしておき、僕もアイスに手を伸ばそうとしてその手を掴まれてしまう。

 

「おい、斉木。勝ったのは俺らなんだから先に選ばせてもらうぞ」

 

は? 

 

「っ、な、なんだよ……いいだろ! 文句あんのかよ!」

 

 ちっ、まあフレーバーはバニラ、ストロベリー、チョコレート、抹茶、クリームソーダ、キャラメル、レインボーの7種類あり、それぞれ2つずつだ。

 スイーツに関しては特に好き嫌いはない。

 強いて言うならチョコレートかストロベリーあたりが食べたかったんだが、負けてしまった以上は仕方ない。

 大人しく、怨みがましい目を向けながらCクラスが選ぶのを待つ。

 

(なんだこいつ怖っ、さっさと選ぼ……桔梗ちゃんがいちごにしてるし俺もいちごかな)

(たかがアイスくらいで、とりあえず俺はチョコにしとくか)

 

 池と山内が僕の狙っていたフレーバーを持っていき、これによりストロベリー味が消失する。

 僕の計画では3フレーバーは食べたかったんだが、佐倉さんたちが買ってきた分でもう売り切れらしい。

 もっと在庫を確保しておけよと堀北さん、須藤が取るフレーバーを見る。

 

「私は抹茶でいいわ」

「俺はクリームソーダにするぜ」

 

 クリームソーダか、悪くないな。

 特に運動で疲れたあとの爽やかな味わいというのは癖になりそうだ。

 残るは綾小路と佐倉さんかと2人が選ぶフレーバーを見守る。

 

(んーこういうのはどれを選べばいいんだ……?)

(どうしよういちご食べようと思ってたのに無くなっちゃった)

 

 支払ったポイントを一之瀬さんに返してもらっていたら佐倉さんが食べたかったものは櫛田さん、池に取られてしまっていた。

 

(うぅ、残念……でもバニラもおいしいしバニラにしよう)

 

 佐倉さんはバニラを選ぶが、バニラも悪くない。

 アイスといえばバニラだ。

 特にここのバニラは2種類のバニラを使った芳醇な甘さと香りが特徴だ。

 まあ僕は別にスイーツマニアでも何でもないから詳しいことは知らないが。

 綾小路は適当に取るのかと思いきや、ふむ、と悩んでいる。

 それを見て既に半分食べ終わっている須藤が口を挟んでくる。

 

「どうしたんだよ、綾小路。早く取れよ」

 

 僕としては何を取り、残りが何であっても構わないので早く決めてほしい。

 でないとアイスが溶けて、せっかくのつぶつぶ食感が台無しになってしまうからな。

 

「そうだな……斉木はどれがいいと思う?」

 

 今の残りを考えると誰も食べてないキャラメルかレインボーをすすめるが、綾小路の舌を考えると……どれでもいいな。

 綾小路も特に好みはないようだし、それなら定番のバニラがいいだろうと思い、指で指し示す。

 

「バニラか。わかった。食べてみよう」

 

 これで全員選んだため、Bクラスの番となる。

 

「斉木くん先に選んでいいよ」

 

 なに? いいのか? 

 

「うん。ホントはこれ食べたかったんでしょ? しょうがないから先に選ばせてあげる」

 

 なんだか得意げな一之瀬さんに首を傾げつつもそれならばと僕はまだ誰も手付かずのレインボーにすることにした。

 これは全てのフレーバーが入った大乱闘アイスクリームブラザーズという感じの味らしい。

 

「よかったね斉木くん」

 

 早速1口とスプーンを手に取ったところで白波さんが突然僕の元へとやってきた。

 

「これ帆波ちゃんが斉木くん好きそうって言ってたから、今日食べようって言ってたんだよ」

「ち、千尋ちゃん!? それは言わないって(ただのお礼のつもりなのに変な意味が出ちゃうじゃん!)」

 

 なるほど。

 お礼……生徒会の件で相談に乗ったことか。

 

「えっと、ほら斉木くん、甘いものとか好きだし、アイスクリームも好きかなーって(この前南雲先輩のことで相談に乗ってもらったしお昼すぎにお礼に買おうと思ってたけど、まさか売り切れ寸前だったなんて。千尋ちゃん達のファインプレーは助かるけどみんなの前で言われるのは困るよ〜)」

 

 あせあせと誤魔化すように一之瀬さんが早口で捲し立て、顔を赤くする。

 限定販売されているのを食べ損ねるところだったのは事実だ。

 それに関しては感謝の意を示さないとな。

 僕は止めていた手を動かして僅かに溶けかけたアイスクリームを掬いとると口に含む。

 掬いとったフレーバーたちが口の中で混ざり合うのはなかなか面白い。

 

『ありがとう、いい思い出になった』

 

 もぐもぐと咀嚼しながら感謝の言葉を贈ると、一之瀬さんは「そ、そう? 良かった」と笑顔を浮かべた。

 

「でも飯の前にアイス食っちまったら腹が冷えちまったな」

「じゃ、焼きそばとかで温めにいこうぜ」

 

 先にアイスを食べ終えた須藤がそんなことを言うと、池と山内もそれについていくように屋台へと走り出してしまう。

 

「みんな、走ると危ないよ〜」

 

 櫛田さんが注意をするも彼らの耳には入らないようだった。

 

「ごめん、私も行ってくるよ。奢らないとだし」

「もしかして一之瀬が全額負担するのか?」

「うん、私が言い出しっぺだからね」

(そうかもしれないが、バカには出来ない負担額だろ……)

 

 平然と答える一之瀬さんに綾小路は唖然とした様子だった。

 

「大丈夫なの? 服や化粧品でポイントを使うものじゃないの?」

 

 それを聞いていた堀北さんも思わず尋ねた。

 堀北さんは服くらいしか買わないようだが、Cクラスには化粧品を買っている人もいたのだろう。

 彼女の頭の中には軽井沢さんや他数名名前は知らないがCクラスに所属している女生徒の顔が思い浮かんでいる。

 

「私はそんなにこだわってないっていうか、着回しちゃうから。ローテーションさえ組めれば問題ないし。女の子としてはちょっとアレかな?」

(私は髪や服装には気をつけているけど……一之瀬さんはしていないのかしら)

 

 女子ならオシャレに気を遣うものというのは偏見だろう。

 母さんも若い頃から今まで化粧品などにはこだわっていないし、髪型もずっと同じだ。

 しかし、一之瀬さんの言葉のフォローに堀北さんと綾小路は悩んでいるらしく、どう返せばいいか分からないようだ。

 

「お、俺はいいと思うぜ!」

「うん、ありがとう、柴田くん」

 

 柴田がここぞとアピールするように言うと、一之瀬さんも嬉しそうにお礼を言う。

 しかし、ポイントか。

 この学校においては買えないものはほぼないと言われるシロモノでその重要性は入学してからたった4ヶ月の僕ら1年生にも根付きだしている。

 ポイントはもっと重要なところで必要になってくると一之瀬さんは言うが、それは今この瞬間も含まれているのかもしれない。

 

「遠慮なく選んでいいのかしら」

「うん、でも残すのは勿体ないからやめてね」

「分かってるわよ」

 

 アイスを食べ終え、カップを集めて捨ててから先に屋台へと向かった須藤たちのあとを追うように一之瀬さんと堀北さんは歩き出す。

 

「ジャンクフードには興味があるんだが、どういうのがいいんだ?」

 

 食への好奇心が強い様子の綾小路に訊かれた僕は実際に見てから選ぼうと2人に続いて歩き出す。

 こうして僕の高校1年生の夏休みは終わりを迎えるのだった。

 

 




この回を書くにあたってテニプリのビーチバレーの回を読みました。
その片鱗がかなり出てしまいましたが斉木らしくてよかったと良いように考えます。

ボールの破壊は出来なかったので綾小路の破壊(未遂)程度におさめましたが……あれが普通のバレーボールだとホワイトルームの最高傑作はどうなっていたのやら……。

次回から体育祭編になります
ただ斉木のせいで
・櫛田が龍園と組んでない
・堀北クラスがCクラス浮上
・一之瀬が生徒会に入っていない
といったパラドックスが発生していますので原作通りにはいかないな……やれやれ。

体育祭編はBクラスは特にイベントもないので普通に戦うことになるので斉木くんの出番はなさそうですね!!がはは!















###

夏休みももう終わりという日に1人の少女を囲むようにして、済ました顔の女生徒、高校生にはそぐわぬ厳つい顔をした男子生徒、そしてやや軽薄そうな顔をした男子生徒が集まっていた。
 口を開いたのは端正ながらもどこか軽薄そうな顔をしている男子生徒だった。

「明日から2学期っすけど、どうするんです?」
「どう、とは?」

 尋ねられた少女は紅茶を飲んでいた手を置き、男性へと顔を向ける。

「夏休みの特別試験で姫さんの株はガタ落ち。一之瀬の提案を受け入れて龍園クラスを蹴落とした葛城派が優勢って話ですぜ?」
「誰のせいよ」

 おどけたように言う男に、クールな女生徒が呆れたように言うが男はすぐさま反論する。

「葛城の邪魔をしろっていうのが姫さんのオーダーだったからな。しかし、Bクラスには教えなかったんだが、まさかD……今はCか。あそこが仲良いとはねぇ」

 予想外だったと肩を竦める男、橋本に、少女、坂柳有栖は小さく息を吐いた。

「ええ。ですが、成果はありましたよ? Bクラスの一之瀬さんがただ優しいだけの方ではないとわかりましたし、元Dクラスが意外と楽しめそうな相手ということも」

 瞑目して微笑む坂柳に、橋本はソファに深く腰掛けながら笑う。

「まあ、実際不気味っすよねぇ。無人島試験の結果を踏まえたら、あのままAクラスに上がることも出来ただろうに」
「確かにね」

 橋本の言葉に一貫して澄ました表情を浮かべる神室が同意する。

「追われるのを嫌ったか、龍園くんへの制裁を優先したか。鬼頭くんはどう思いますか?」
「後者、だろうな」

 尋ねられた厳つい顔をした男子生徒、鬼頭が短く答える。
 Bクラスのリーダーを脅して、リーダーから降ろさせないようにしたという話は学年に知れ渡っている。
 竜グループでの細かい様子は、メンバーが葛城派ばかりだったので聞けていない。
 しかし、グループにいた女子の話曰く、龍園とBクラスの神崎が対立していた話は橋本が聞き出している。

「クラスを掌握したら終わりかと思って少し遊んでいましたが、他クラスにも存外面白そうなのがいるみたいですね」

 1学期は様子見、夏休みは自身の身体的事情から活動できなかった坂柳は不敵に微笑む。

「2学期は私も楽しめる催しがあるといいですね、ふふ」

 紅茶の無くなったカップを見やりながら、坂柳は小さく微笑む。
 窓の外では、沈みかけた夕日がカフェから僅かに見える校舎を赤く染めていた。
 長かった夏休みも終わりを迎え、明日からまた、新たな学期が始まる。
 多くの思惑が交差し、多くの生徒が競い合う高度育成高等学校。
 その中で誰が笑い、誰が脱落していくのか。
 それはまだ誰にも分からない。

「退屈だけは、させないでくださいね。一之瀬帆波さん」

 誰に向けるでもなく呟かれたその言葉は、静かな部屋に溶けて消えていった。
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