ようこそ超能力者のいる教室へ   作:オールF

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諸事情で投稿が1日早くなりました
喜ぶがいい……この投稿が見れるのはお前たちが最初で最後だ……!


烈戦だ!体育Ψだ!

 万事塞翁が馬ということわざがあるが、体育祭は今のところつつがなく進行している。

 第2種目のハードル走は【ハードルを倒す】【ハードルに接触】の2つにタイムのペナルティがあるものの、それ以外は至って普通だ。

 ハードルの高さは男女で異なるものの、飛び越えるのは難しくない高さではあるが、10m間隔で置かれたハードル10個を上記のルールに抵触しないように跳ぶというのは案外難しいらしい。

 ハードルを倒せば0.5秒、ハードルに接触した場合は0.3秒がゴールタイムに加算されてしまう。

 そのため、脳筋のごとくハードルを飛び越えずに自身の最速でゴールできたとしても5秒加算されてしまうため、迅速かつ確実にハードルを飛び越え走り抜ける必要があるのだ。

 ひとたびジャンプしてしまえば一般的な日本家屋の2階くらいに跳んでしまえるため、最速クリア自体は簡単なのだが、それではかなり目立ってしまう。

 Bクラスの面々には申し訳ないが、目立たないようにクリアするため僕はペースを落として跳ぶことを選択させてもらった。

 

(なんか斉木、マリオみたいな跳び方してたな)

(慎重かつ確実な跳び方、一定のリズムで跳んでいたがあれで3位なのか)

 

 僕の交友関係は広くないため、僕を注視して見る人間は多くないと思っていたが、僕より後ろの組にいる神崎や葛城には見られていたらしい。

 そして、先程の種目で僕の様子をガン見していた2人も例外ではなかった。

 

(手を抜いているのは間違いないが、敢えてあのスピードで跳んでいるようにも見える。あれこそが斉木の中では最適解と言わんばかりに)

(どこかで見たことのある動きだな……なんだったかな……)

 

 メガネの方は相変わらず恐ろしいな。

 ポニーテールの方は既視感の方に持っていかれていて先程のような観察眼を発揮していないのは救いだな。

 神崎と同じ組の綾小路も僕の跳び方は興味深かかったらしく、その場でポイーン、ポイーンと跳ねて練習している。

 

「……何してるんだ綾小路」

「ん? あぁ、いや、斉木の跳び方を参考にしてみようと思ってな」

「斉木がマリオならお前はルイージといったところか……」

 

 綾小路は綾小路で人生初の体育祭を楽しんでいるのかはわからないが、僕と同じく目立たないように上手くやっているようだ。

 男子の方が終わると再び女子の部が始まり、Bクラスは軒並み2〜4位と悪くない成績を残していた。

 一方でCクラスの主力女子生徒である堀北さんは試練にぶち当たっているようだった。

 

「ちょっと良くない組み合わせになったね、堀北さん」

「そうなのか?」

「Dクラスで1番速いって言われている陸上部の矢島さんと木下さんがいるからね」

「なるほど……」

 

 平田と綾小路の会話を盗み聞いていると、すぐに競技が始まる。

 平田の危惧の通り、食らいつくように跳躍する堀北さんだが、本職というやつの陸上部には1歩劣るのか3位という結果になった。

 

(100メートル走の時の伊吹さんといい、今回といい……なにか妙な違和感がある……気の所為だといいんだけど)

 

 不安を募らせる平田に、参加表が漏れていることを察してはいる綾小路がアイコンタクトを交わす。

 

(平田も何となく気付き始めたか。龍園が昨日まで俺たちに対して監視や偵察を送らなかった意味まで分かれば真実に近づくだろうな。ただ、肝心の裏切り者がまだ分からないんだよな)

 

 何も考えてい無さそうな表情で考察をする綾小路は平田の方を見る。

 

(参加表の内容を知っているのは平田と堀北、そして体育祭ではリーダーをやっている須藤だけのはず。だが、こいつらが龍園に参加表を横流しするメリットも理由もない。櫛田が候補として有力だったが、他クラスへの偵察に行った日、櫛田は堀北が嫌いな理由は櫛田自身にあると言っていた)

 

 人を観察することが得意な綾小路でも櫛田さんのことは読み切れていないようだ。

 櫛田さんと堀北さんの問題は、櫛田さんの過去を知らなければ行き着かない結論ではあるし、仕方のない事なのだが。

 綾小路の今後の活躍と健闘を祈っていると柴田が声をかけてきた。

 

「斉木ー、次の棒倒しに向けてCクラスと話し合いに行こうぜ!」

 

 別に柴田と神崎、それと浜口でいけば事は済むんじゃないかと首を傾げる。

 

「ほら夏休みにビーチバレーしたメンツがいた方が話しやすいだろ?」

 

 だろ? って言われてもなと……と思ったがこのままダラダラと抵抗しても無駄ということは最近になって分かってきた。

 そういうことならと立ち上がってCクラスの方へと向かう。

 

「おーい、洋介ー! ちょっといいかー?」

「柴田くん? (それに神崎くんに浜口くんと斉木くん?)どうしたの?」

「次の棒倒し、事前に布陣とかのすり合わせしとこうと思ってよ、今いけるか?」

「(ああ、そういうことか)うん、もちろんだよ。須藤くんも呼んできていいかな?」

「いいぜ〜」

 

 須藤を呼ぶべく一瞬席を外した平田だが、数秒で帰ってくる。

 

「おうお前ら絶対勝とうぜ! 高円寺のアホがいねぇ分、俺が殺ってやるからよ!」

 

 殺っちゃダメだろ。

 しかし、ルール上は多少荒々しくなることは覚悟しているのか、突進や相手にしがみつくといった行為は容認されているらしい。

 ただし殴る蹴るなどの過度の暴力、あからさまな攻撃や暴力といった行為は禁止されており、また意図的に怪我させるような行為も認められていない。

 棒倒しのルールの確認を行った上で戦略の立案に入る。

 

「うし、じゃあ俺は突っ込むから柴田は攻めつつカバーしてくれ」

「おうよ!」

「じゃあ僕らは棒の守護だね、神崎くん」

「ああ」

 

 僕たちB・Cクラスの連合軍に立ちはだかるのは葛城・龍園率いるAとDクラス。

 Aクラスには鬼頭という生徒以外は力自慢の生徒はおらず、Dの方はリーダーの龍園に加えて山田アルベルトをはじめに石崎達もいる。

 こちらには柴田と須藤がいるが、高円寺とやらが抜けているため人数的には1人分不利になっている。

 

「攻守はどうしよう、ワンゲームことに切り替えていく方式でいいかな?」

「いや、このチームなら一貫していた方がいいだろう」

 

 平田が神崎に尋ねると、葛城のように堅実でもなければ、龍園のように信頼出来ない相手ではないCクラスとなら十分に対抗出来るだろうと答えた。

 こうして見ると、夏休みの特別試験で平田達がCに浮上してくれて助かったな。

 おそらく龍園クラスが仲間だったならこうはいかなかっただろうな。

 心強いかと言われるとそういうわけじゃないんだが、変に揉めたり、疑いの目を向ける必要がないという意味ではBクラスにとってはいい相手だろう。

 

「柴田がダメでも俺が1人で全員ぶっ倒してきてやるよ」

「逆に須藤がダメな時は俺が1人で相手を倒して棒も倒してくるぜ!」

 

 気合十分なエース格に平田と神崎は苦笑しつつもその会話を見守っている。

 すると、須藤が「ああ、そういや」と呟くと僕の方に来た。

 

『なんだ?』

「いや、100メートル走の時から気になってたんだけどよ」

 

 何がだと聞く前に須藤の手が僕の左側頭部のヘアピン─────制御装置に触れる。

 

「これ、棒倒しの時は危ねぇから外しといた方がいいんじゃねぇか?」

 

 おいやめろと言う前に─────僕の意識はここで事切れた。

 

 

 

 ###

 

 斉木楠雄が左右両方の側頭部につけているヘアピンは、体の成長と共に増幅する超能力を抑える制御装置なのだ。

 不用意に装置を外すと抑えていた力が一気に解放され、世界各地で異常事態として観測されてしまう。

 

「大変です! 東京を中心に巨大な渦巻きが!」

 

「ヌシよ! 封印されたウルブズ達が解き放たれるというのは本当か!?」

 

「ヌ、デバタキ、ウンジャラゲ……ギ、ダッタン……(世界の行く末がもう見えぬ、この世は終わりじゃ……)」

 

 生まれつき持っていた力であるが故にこれは楠雄にはどうしようもない。

 楠雄より強くなるのではなく楠雄が弱くなればいいという結論に至った楠雄の兄、空助の発明した制御装置のおかげで楠雄本人と世界の均衡は保たれていた。

 しかし、須藤健の良心で左側の制御装置が外された今、世界は大混乱に陥ろうとしていた。

 そして、それは斉木楠雄のいる高度育成高等学校のグラウンドでも起きていた。

 

「おい、須藤、斉木に何をした!」

 

 珍しく声を荒らげたのはBクラス内でも冷静かつ物静かな男、神崎で須藤が何かした後に突如その場に倒れた斉木へと駆け寄る。

 

「はぁ!? いやいや、ヘアピン邪魔じゃねぇかと思ってよ……」

「ヘアピンを取っただけで倒れるわけがないだろう!」

 

 良心から行った行動ではあるものの、結果的に楠雄を倒してしまった須藤と同様、神崎の口調も熱くなり怒気を含むものになっていく。

 

「見ろ! ヘアピンを外しただけで斉木がこんな……言葉にし難い顔になるわけが……!」

 

 神崎が言って、その場にいた全員、須藤、平田、綾小路、浜口、柴田が斉木の顔を見る。

 その顔はいつもの澄ました無表情の斉木ではない。

 やや白目を剥き、口元からはヨダレを垂らした……健全な男子高校生なら大人のビデオや写真集、漫画などでその名を聞いたり見たことがあるであろう顔だった。

 保健医の星之宮を呼ぼうかと浜口が走り出そうとした時、柴田が思い出したと呟いた。

 

「斉木のヘアピンは身内から貰った大切なものだって入学式に言ってた」

「じゃあそれが外されたショックで……」

「んなことあるか!?」

 

 もしここで斉木が正気ならば『大切なものではあるがアイツから貰ったから大切という意味では無い』と注釈のような事を言うだろう。

 しかし、斉木にとっても世界にとってもこの制御装置は生命線のようなものである。

 

「大変です! 坂柳理事長! 緊急対策室から至急入電! 世界滅亡の危機だと……!」

「何!? どういうことだね!?」

 

 須藤たちがわちゃわちゃとしている間にも地球では不可解な現象が起きようとしており、世界は大混乱となっていた。

 そんなことは露知らず、運営のテントが慌ただしいなと遠目に見ていた綾小路は須藤へと言う。

 

「とりあえず医療テントに連れて行く前につけ直してやったらどうだ?」

「お、おう、そうだな……」

 

 綾小路の提案に同意した須藤が倒れた斉木にヘアピンを付け直す。

 すると、斉木は瞬く間に目を覚ます。

 

「おお! 大丈夫かよ斉木!」

「あぁ、よかった……」

 

 目を覚ました斉木に声をかける柴田と、それを見てまた鈴音に怒られるところだったと須藤は安堵する。

 一方で慌ただしかった運営テントも斉木の目覚めとともに落ち着きを見せていた。

 

「理事長、世界各地で観測された異常事態、全て沈静化したみたいです……」

「えぇ……?」

 

「フンダバ、オンドゥバダ……テェテェ……(世界、助かった……てぇてぇ……)」

 

「族長! ウルブズたちが次々と土の中へと還っていきます!」

「な、なにぃ!?」

 

《やれやれ……どうにか間一髪だったな……あと5秒遅ければどこかしらの火山の噴火と世界各地の地層プレートの隆起に異常気象は避けられなかったな……》

 

 斉木もまた安堵の息をつくと、倒れ込んでいた体勢を起こして立ち上がる。

 斉木の目覚めに喜んだ平田は須藤に謝罪するようすすめた。

 

「本当に良かった! 須藤くんほら謝って!」

「お、おう、悪ぃな斉木……その、そんなに大事なヘアピンって知らなかったぜ……」

 

 それに斉木は《気にするな》と手で制す。

 須藤がヘアピンを取った瞬間と、斉木の疲労のピークが重なっただけだと説明するとそれはそれで神崎たちから心配を集めた。

 

「まだ2種目だぞ……大丈夫なのか?」

「棒倒しは結構激しいぜ? 相手はDクラスだし」

《少し寝たから問題ない……と言いたいが、棒倒しでは防衛に専念させてくれると助かる》

「もちろんだよ……でも無理しないでね斉木くん」

 

 ───────制御装置が突如抜かれたことで、脳と身体に膨大な負荷がかかり思わず気絶してしまったが、危ういところだったな全く。

 僕も目が覚めたことだし、そろそろ三人称視点じゃなくてもいいだろう。

 世界がパニックに陥っている描写をいれるためにわざわざ変えてみたが、ほんの数行なら必要なかったな全く。

 

「斉木、まだ顔色が少し悪いが大丈夫か? (気のせいかさっきから起き上がった時以外全く動いていないような)」

 

 綾小路がそう声をかけてくれるが、今は制御装置が外れたショックで身体がおかしくなっている状態だ。

 そのため、今の僕は少しでも動けば周囲にいるこいつらを殺しかねない殺戮人間状態なのだ。

 さっきも須藤が謝った時気にするなと手を振ろうとしたら、地面がえぐれる予知が見えてしまった。

 今の僕は超能力はおろか身体能力にも制御が利かない状態にある。

 歩く分には問題はない、と思いたいが棒倒しが始まるまでは少しでも身体を正常な状態に戻しておきたい。

 僕のことは気にしなくていいから話し合いを続けてくれと促す。

 

「わかったよ。でも本当に無理しないでね、斉木くん」

「平田の言う通りだ。もし不調が出るようならいつでも言ってくれ」

 

 平田と神崎がそう言うと須藤たちを連れて少し離れてくれる。

 

(斉木くんは気にするなって言ってたけど、大切なものを取られたショックもあるし、須藤くんに思うところはあるかもしれない。一応、須藤くんとは少し離れさせた方がいいよね)

 

 平田は女子の競技が終わっているのを見て、折角だから女子のリーダーも混じえて話そうと提案する。

 

「あ? 別にこっちに来るのを待ってればいいじゃねぇか(Cのテントだし鈴音たちはこっちに来るだろ)」

(空気読めよ……!)

 

 空気の読めない須藤に僅かに平田の心内が穏やかじゃなくなる。

 それなら僕が行った方が早いかとBクラスのテントへと戻ることにする。

 

「ご、ごめん斉木くん……」

「洋介が謝ることじゃないって」

 

 制御装置のついていないクラスメイトを抱えていて大変だなと思いながら僕は自身のテントの席に戻るフリをして、1人になれるトイレの個室へと入った。

 

 大丈夫、とは言ったが実際問題かなりまずいな。

 僕の身体能力と超能力はこの2つの制御装置でようやく世界のトップアスリートを凌ぐレベルにまで落とされている。

 

 歩くスピードはコントロールするほどでは無いが、走ることに関してはそれ相応の制御が必要となる。

 棒倒しなんて今の状態でやれば確実に死人が出る。

 防御側に回って何もしなければ無難にやり過ごせるだろう。

 問題はそれ以降の競技だ。

 

 男女別綱引き……これは僕が綱を握らなければ問題は無いとおもわれるが、それが許されるとは思わない。

 僕の前には柴田、後ろには神崎が来る。

 斉木楠雄包囲網の完成だ。

 そのため綱を緩く握ってるふりをするくらいしか思いつかないな。

 

 二人三脚……ペアの神崎の足がもげる。

 安いもんさ左脚の1本くらいと許してくれても周りが許してくれないだろう。

 しかも制御装置が外れたせいで、修復能力もバグが起きている。

 今試しに競技の書かれたプログラムシートを破って修復を試みたが、1日前の状態の白紙などではなく、元の原料である古紙と木材になってしまった。

 幸い、元の大きさではなく紙に使われていた程度なので大して目立たないが。

 しかし、これを仮に神崎の足に使ったとしてどのくらい前に戻るかが見当もつかない。

 二人三脚は歩くしかないか……。

 

 騎馬戦……は僕は土台である馬ではなく騎手だからなんとかなる……か? 

 一切合切動くことが出来ない木偶の坊の出来上がりになってしまうが、こればかりは仕方ない。

 仮に相手のハチマキを取ろうとすれば頭蓋骨やその中身まで取ってしまう可能性がある。

 体育祭がハンター試験になるのは避けたいため、申し訳ないが僕は何も出来ないな。うん。

 

 200メートル走は……この頃には走るくらいはどうにかなっていると思いたいがそれも難しいだろうな。

 無人島で一之瀬さんに制御装置を抜かれた時は凡そ5時間ほどは身体の制御が上手くいかなかった。

 最終日に抜かれたのは幸運だったが、今日はそうでは無い。

 まだあと6種目、僕に至っては3学年合同1200メートルリレー以外の推薦種目に入れられている。

 

【間もなく、男子による学年別、組対抗の棒倒しを行います。まずは1年生男子から集まってください】

 

 トイレにまで聞こえるほどのアナウンスに僕は肩を落とすと、個室から出る。

 この時間違っても自分の力でドアを開けてはいけない。

 テレポートで外に出て、サイコキネシスで鍵を……くそ、さっきは上手くいったのに鍵を壊してしまったな。

 復元能力で鍵を……直したいが今の復元期間がいつまで遡るか分からない以上使わない方が得策だろう。

 あとで必ず直しに来る。

 僕はそう誓ってクラスメイトの集まる入場門へと向かうのだった。

 

 





制御装置の外れた際の描写もうちょい上手くできたんじゃないかなと思いつつ、俺の力ではこんなもんかとも思う。

斉木の制御装置が一瞬外れたため、斉木のパラメーターが乱数になりました。
どれくらいの乱数かは本人にもよく分かっていませんが、最悪の場合になると本編で書いた通り、二人三脚のペアである神崎と一之瀬の足が……!ってなります
足だけで済むか?

なお、斉木はすっかり忘れてますが龍園が小細工や狡い手を使ってくるのをサイキネでなんとかする気でした
それが今は……トイレの鍵を壊すのにかかるパワーってどんくらいなんですかね
一応個室トイレなんでレバーみたいなので鍵かけるタイプ想定です


ではまた次回
早くて明日
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