ようこそ超能力者のいる教室へ   作:オールF

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さすがに超とブ〇リーを混ぜたサブタイトルは思いつかなかった
体育祭編ラストと言ったな?あれは嘘だ
ラストラスト詐欺ですまない……今月はこれでラストで……本当にすまない……


復活の超能力者!走れ体育Ψ!

 2、3年生の四方綱引きがあっという間に終わり、グラウンドの一角では次の競技である男女混合二人三脚の準備が進められていた。

 互いの内側の足を一本の布で固く結ばれる。

 右の者は左足を、左の者は右足を差し出し、まるで一本の足を共有するかのように固定されるのだ。

 

「斉木くんどう? キツくない?」

 

 今の僕では20%の確率で紐を粉砕してしまうため、ペアである一之瀬さんに結んでもらっている。

 キツイよりは少し緩めがいいという僕のオーダーに、彼女は少し紐を緩めに調整してくれる。

 そして、綺麗に紐が結べたのを確認していると、堀北妹・須藤ペアがこちらを見ながら話していた

 

「(斉木と一之瀬か。仲良さそうだな……)一之瀬の方はあんまり見てなかったんだが、運動神経はいいのか?」

「いいえ。2位が1回で3位が1回、あとは4位と5位が多かったと思うわ」

「なら、俺と堀北なら楽勝だな」

「そう、だといいのだけどね(四方綱引きでは須藤くんたちが勝ったけど、斉木くんには油断しない方がいいと綾小路くんが言っていた。彼が言うから、ではないけれどあの足の速さはたしかに油断ならない。でも、これは二人三脚。斉木くんがいくら速くても一之瀬さんのスピードに合わせないといけないのだから、私と須藤くんの脅威にはならない……はずなのに何故かしら、この違和感は)」

 

 随分と長い独り言だったな。

 

「どうしたの? 斉木くん……って堀北さんたちか。一緒の組みたいだね(強敵だなぁ。どっちも足速いし、1位は難しいかな)」

 

 まあ他のペアも足の速さが似通っていたり、スピードはそこそこでも体格を合わせてきたりとどの組も工夫して臨んでいるようだ。

 ただBクラスには運動自慢の女子はおらず、良くて平均並という女子がほとんどだ。

 そのためクラス内でも比較的上の方であり、他者に合わせることのできる一之瀬さんと網倉さんなどが出場している。

 一応他にも運動がそれなりにできる子はいるが、その子も午前中の200メートル走で足を挫いてしまったらしいため結果的にこうなっていた可能性は高い。

 

「斉木くん、大丈夫そう? さっきは最後のリレー出て欲しいって言ったけど本当に疲れているなら全然大丈夫だからね」

 

 ボーッとしていたのが一之瀬さんには僕が疲れていると映ったのか心配してくれている。

 台風を打ち消したり、飛行機を持ち上げて沖縄まで運んだりしていたらそれなりに疲れていただろうな。

 今日の場合は力の調整やら精神的な疲れの方が大きい。

 肉体面は仮眠も取ったことで幾分かはマシになっているが、最後の1200メートルリレーに出る気にはならない。

 最終競技ということもあり注目度は高く、同学年のエース格はもちろん、他学年からは堀北会長や南雲も出てくる。

 僕も体力的な問題ではなく怪我をしたことにすればよかったなと思いながら一之瀬さんに『これが終わってからだな』と答えておく。

 

「そっか、それじゃあ、とりあえずはこの二人三脚、頑張ろうね」

 

 あぁ、頑張って一之瀬さんの足を引きちぎらないようにしなければと僕は頷き返す。

 

「練習の時と同じでペースは私に合わせてくれるんだよね?」

 

 その方がリスクがないからな。

 とはいえ一之瀬さんも1日の疲労があるため、体育祭開始前よりもパフォーマンスが落ちている。

 それは須藤や堀北妹も同じだろうが、元のスピードが違うゆえにスピード低下量にも大きな開きがある。

 

「位置について用意……」

 

 審判が開始の合図をすると共に全員が一斉に走り始める。

 まずは先手必勝とばかりに一番最初に飛び出していくのは堀北妹・須藤ペアだ。

 そして、こちらはというとスタート直後、一之瀬さんが転倒しそうになる。

 

「あっ!? (やば、転んじゃ)きゃっ」

 

 普通ならば足を結んでいる2人とも転倒だが、僕は反射的に念力を使ってしまう。

 

(転んで……ない?)

 

 周りや一之瀬さんには僕が彼女が転ぶ前に僕が引き上げたように見えただろう。

 Bクラスのテントで見ている男女からは黄色い歓声が上がり、一之瀬さんはホッとすると共に瞬きした直後しか見えなかったが恥ずかしさがあるのか少しだけ赤くなっていた。

 

「あ、ありがと、斉木くん」

 

 礼には及ばないが出遅れてしまったのは事実だ。

 透視で見たところ足に異常などはなく、僕が緩く結んでくれといった紐が原因で躓いてしまったようだ。

 キツく結んでしまうとそれだけ密着度が増えて万が一のことがあった時に一之瀬さんに迷惑がかかると思ったが、そうなる前に起きたアクシデントにほんのわずかに罪悪感を覚える。

 それに周囲の歓声も中々に面倒だった。

 

「もっとくっついて走れよー!」

「男の方羨まし、男らしいぞ!」

「帆波ちゃんがんばれー!」

 

 見てる側は気楽でいいなと思いつつ、一之瀬さんに『いけるか?』と確認する。

 

「う、うん。いち、に。いち、に」

 

 一之瀬さんが声を合わせる。

 僕もそれに合わせて足を運んだ。

 

「(すご……私の出せるスピードそのままで斉木くんが合わせてくれてる……!)さ、斉木くん、もう少し速くてもいける?」

 

 練習では僕がここまで一之瀬さんに合わせはしなかったため、彼女が驚くほどスムーズに進み始める。

 

「じゃあ、お言葉に甘えて……!」

 

 そう言うと一之瀬さんがスピードをあげる。

 普通の走りではあるが、今は二人三脚。

 どの組もペアに合わせた走りをする分、通常のスピードの3分の1ほどしか出せない。

 そこに一之瀬さん本来のスピードの上、僕という異端な存在が加わったことにより抜き去っていくのは容易かった。

 

「斉木の野郎、一之瀬さんの腰に手を回しやがって!」

「おぉ、帆波ちゃんが追い上げてきた」

「あいつら息ぴったりじゃねぇか!」

 

 一部の男子からは恨みの籠った視線を感じ、女子からは普段の一之瀬さんとは異なる一面を見れたと興奮してる者もいる。

 Aクラスのペアを抜き去り、そのまま前にいるDクラスの後ろに着く。

 

(嘘でしょ、このままじゃ追いつかれる……! こうなったら龍園くんの指示通り、斉木くんと一之瀬さんを……!)

 

 追いついているのはいいが、あまり前に出るのも面倒だと思っていると、前の2人が視線を合わせて頷き合う。

 

(いい?)

(仕方ねぇな!)

 

 すると、前方のペアが派手に転倒する。

 

(いいぞ、それだ! それで斉木と一之瀬とぶつかれば、あいつらが怪我をするのは確実だ!)

 

 自傷覚悟で僕たちに衝突させ、何かしらの賠償請求をしようと龍園があらかじめ言いつけていたのだろう。

 このままではこちらも衝突する。

 一之瀬さんも前の転倒には当然気付いているが、彼女は自身の出せる最高速度を出している。

 止まることはできない。

 

「危な……っ」

『跳ぶぞ』

「へっ? (と、跳ぶ!?)」

 

 今から走るコースを変えていては間に合わないが、飛び越えるのであればコースを変える必要はない。

 ただ転んだ人間、大体130~150センチメートルをいきなり飛び越えるのは難しいだろうが、そこは安心していい。

 僕がいるからな。

 

「嘘だろ!? ぶつかる気かよ!?」

「危ないよ2人とも!」

 

 周りの声など無視して一之瀬さんの服の裾を握り、倒れた2人の手前で同時に跳ぶ。

 あとは僕が超能力で少し調整すれば……。

 

「すげぇ! あの2人、2メートルくらい跳んだぞ!?」

「どんだけ息ぴったりなの!?」

 

 ……やりすぎてしまった感はあるが、一之瀬さんも着地時に足を挫いたり、捻ったりすることはなくそのまま二人三脚を続行する。

 

「すげぇぞあのペア!」

「走れ走れ!」

(斉木のやつ、午前の部でもそうだったが共に走るペアの呼吸に完璧に合わせている。あれほど身を預けるのに適した男もいるまい)

 

 妹の方を見てやれよと言いたいところだが、須藤と堀北妹は思いの外進んでおらず、後方のざわめきやらで気を取られていたようだ。

 これ以上目立つことはしたくないため、一之瀬さんのペースに合わせつつ走り、僕たちは2位という結果を得た。

 

「はは、一時はどうなるかと思ったけど結構楽しかったね」

 

 僕は今から自陣に帰るのがとても恐ろしいが、今日に関しては今に始まったことじゃないな。

 2組目で柴田と網倉さんのペアが1位になったことでCクラスとの差は変わらず、四方綱引きで負けているため僅かに離されてしまっている。

 しかし、それも次の3学年合同1200メートルリレーの結果次第ではひっくり返すことができるだろう。

 残念ながら僕は観客席で応援だけになってしまうが。

 

(斉木くんってやっぱりすごい。私に合わせてくれたのもそうだけど、さっきのジャンプも、なんだろう、私を引っ張り上げてくれてるような、そんな感じがした。走り幅跳びでもあんな距離跳んだことないのに)

 

 実際引っ張りあげたからな。

 少しミスってしまったがあれくらいなら誤差の範囲だろう。

 

「(やっぱりこれしかないよね。ズルいけど、でもこの体育祭は、ここまで来たら勝ちたいって思っちゃったから)……斉木くん、ずるいお願いしてもいいかな?」

 

 自陣へと帰る途中、一之瀬さんに呼び止められて僕は立ち止まる。

 

「船上試験の時に言ってたさ、斉木くんができる範囲でお願い聞いてくれるってやつ……今使っても、いいかな?」

 

 一之瀬さんに優待者に名乗り出てもらう声掛けをしてもらったこと、そして試験を終わらせるためにAクラスや当時のDクラスに話を持ちかけてもらったお礼に、僕は一之瀬さんに僕のできる範囲で何でもひとつお願いを聞くことになっていた。

 

「どんな結果になってもいいから、斉木くんにリレーのアンカーをして欲しいの。もちろん、疲れてるとか、さっきので怪我をしてたら断って。その時は私がみんなを説得するから」

 

 もし、僕がここで断ってしまうと、それはそれでまた僕は一之瀬さんに借りが出来てしまうな。

 それに、一之瀬さんのお願いは僕のできる範囲に収まっている。

 リレーのアンカーとして出るだけなら、叶えてもいい範疇だ。

 

『願いは叶えた。では、さらばだ』

「ええっ!? え? いつ?」

『……冗談だ。早く申請してきた方がいいんじゃないか?』

「えっと、それって……」

『リレーのアンカーをするだけなら体力も怪我も関係ない』

「(そっか、斉木くんは1位になるのは約束できないけど、出てはくれるってことか……!)うん、わかった! 今すぐ行ってくるね!」

 

 そう言って駆け出して行った一之瀬さんを見て、僕はやれやれと空を見て、寄り目になる。

 千里眼を使うためだ。

 3学年4クラス総勢12人のアンカーを把握する。

 1年生はAは鬼頭、Bは僕、Cは堀北妹、Dは山田アルベルトか。

 男女3人ずつを選出するリレーであるため、堀北妹が出ていることにはなんら不思議はない。

 むしろ、3年Aクラスのアンカーが堀北会長であるのならば、出てきてもおかしくはない。

 2年Aクラスもまた思っていた通り南雲が出てくるようだ。

 彼らに勝てというわけではないのなら、3位くらいなら目指してもいいだろう。

 それなら1年生でのクラス優勝の座は手に入れられる。

 

「よし、楠雄も戻ってきたし、最後のリレーだ! 絶対勝つぞ!」

「「「おーっ!!」」」

 

 自陣に戻ると既に僕の出場を聞いたのかボルテージが最高潮な柴田が声を張る。

 1番手の柴田が差をつけ、2、3番手の女子に繋ぎ、万が一差を詰められたことを想定して4番手の神崎がまた引き離し、それを5番手の女子である一之瀬さんに繋ぐ作戦のようだ。

 

「最後は頼んだぞ、楠雄」

 

 そう期待されても困りものではあるが、やっぱり200メートル走のアレはやりすぎだったかと後悔してきた。

 こんな時タイムマシーンでもあればいいと考えてしまうが、タイムリープや時間戻しの超能力も目覚めないだろうか。

 いや、目覚めたところでどうせ時間指定もできないろくな能力じゃないだろう。

 時の王者になるには資格が足りないようだなと項垂れる前に、柴田や他のクラスメイトたちに大丈夫、僕最強だからと言える自信は僕にはないため『やれるだけやる』と答えて準備に入る。

 アンカーである6番手の集まる待機場所に行くと、僕の来訪が想定外であったかのように堀北会長が目を見開いた。

 

「……まさかお前が出てくるとはな(出てくることはないと思っていたが、これは最高のサプライズだな)」

 

 隣に妹もいるが、全く見向きもしないな。

 見ないように意識しているのは分かってはいるが、その徹底ぶりには頭が下がる。

 僕の兄にも見習って欲しい限りだ。

 

(兄さん……やっぱり私を見てくれない……でも、このリレーで私が兄さんよりも前に出れば……! というか、なんで斉木くんばかり見ているの……!?)

 

 堀北妹の熱意が伝わってくるが、こちらに炎を向けるのはやめてもらいたい。

 

「へぇ、Bクラスのアンカーはお前か。てっきり、柴田が出てくると思ってたぜ」

 

 そんな僕と堀北兄妹の間に割り込むのは2年Aクラスの南雲だ。

 

(こいつが一之瀬が自力でAクラスに上がれると思っている根拠か? さっきの二人三脚といい、200メートル走といい、足には自信がありそうだが)

 

 ないぞ。

 

「初めましてだよな、南雲雅。知っているかもしれないが、生徒会の副会長で……」

 

 僕は会うのは2回目というのは言わない方がいいかと黙っていると、南雲は言葉を切って堀北会長へと目を向ける。

 

「次の生徒会長になる男だ。よろしくな」

 

 よろしくする気はあまりないが、一応自己紹介されたわけだし返しておくか。

 斉木楠雄、16歳。

 仕事はまじめでそつなくこなすが今ひとつ情熱のない男だ。

 

「そうか……変わった挨拶だな(なんだこいつ。まあいいか。こいつは午後の競技フル出場。体力的にも限界だろ)」

 

 今回の体育祭で推薦競技を含めた全ての競技に出ているのは僕と須藤だけらしいな。

 僕の場合は事故みたいなものだから、なかったことにして欲しいものだ。

 

「南雲、斉木を甘く見ていると痛い目を見るぞ」

「(!) へぇ、そりゃ楽しみですね……」

 

 年上2人の話から逃れようと少し距離を取ろうとすると、堀北妹に捕まってしまい、僕は問い詰められる。

 

「ねぇ貴方、兄さんと知り合いなの?」

『知り合いといえば知り合いだな』

 

 しかし、よくよく振り返ると、メールも電話もしたことがある唯一の先輩になるんだな。

 

「……そう(名前も覚えられているし、南雲先輩への忠告も見るに、斉木くんの実力は本物のようね)今思い出したけれど、夏休みの一件の時、兄さんに見せたら笑うんじゃないかと言っていたのは知り合いだったからなのね」

 

 今思い出すの? 

 てっきり聞こえていないものだと思っていたんだが。

 

「斉木くん、さっきの借り、ここで返してもらうわ」

『なんだ? わざと負ければいいのか?』

「そんなわけないでしょう。全力で走りなさい。もちろん、体力が落ちているのは分かっているわ(須藤くんと一緒で全種目に出ていたし、四方綱引きのあとかなり息を切らしていたわ)だから、貴方が今出せる全力を出してくれればいいわ」

 

 今出せる全力を出すと多分観客席の人間が吹き飛びかねないんだがな。

 しかし、堀北さんはせいぜい堀北会長や須藤より少し遅い程度を想定しているらしい。

 それくらいならと了承すると「言質は取ったわよ」と堀北妹は踵を返す。

 

 スタートを告げる音と共に、全者一斉に走り出す。

 だが突き抜けて速いのはやはり須藤と柴田だった。

 総勢12名の中から飛び出して先頭の景色をどちらが奪い合うかというデッドヒートを繰り広げている。

 上級生たちも速いが、混戦に巻き込まれて位置取りに手間取り、前を走る2人から15メートルほど離されていた。

 

「頼んだぜ!」

「任せんぞ平田!」

 

 僅かに柴田の方が早くバトンを渡すが、次の走者が男子である平田のため、柴田の作ったリードはなくなってしまった。

 4番手に渡る頃には他の走者たちとさほど変わらない位置になっており、それは1年Cクラスも同じで2年Aクラスの男子に抜きさられていた。

 3年Aクラス、2年Aクラスが頭ひとつ抜き出ており、1位、2位を走っていたが3年Aクラスの女子が躓き転んでしまう。

 一生懸命走るが故に起こってしまったハプニングを機に、2年Aクラスが1位に躍り出る。

 

(神崎くんが頑張ってくれて、何とか3位! 2、3年生が思ってたより速いけど、これなら入賞はできそう……!)

 

 神崎が奮闘しており、年の差という溝をものともせず、上位を2、3年生が埋めるなか、1年Bクラスのみが今のところ3位で走っていた。

 次の一之瀬さんに繋ぎ、彼女が仮に追い抜かれたとしてもそれでも5位くらいかと見ていると、一之瀬さんの隣で準備する上級生が不可思議な行動を取る。

 自身の靴紐を結ぶために屈んでいるのかと思いきや、その手が神崎の走りを見守る一之瀬さんの靴紐に伸び、彼女の左足の靴紐を解いていた。

 

(……たく、南雲のやつ嫌なことさせやがって)

 

 流石に最終競技となれば、龍園すら小細工無しの真っ向勝負に切り替えてきていた。

 それなのに隣でほくそ笑んでいる南雲は一之瀬さん潰しを諦めていなかったらしい。

 

「この勝負は俺たちの勝ちっすね堀北会長。できれば接戦で走りたかったですよ」

 

 1位を維持したまま走る2年Aクラスの生徒を見つめながら笑った南雲に、堀北会長は視線を向けるだけで答えはしない。

 

「総合点でもうちが勝ちそうですし、新時代の幕開けってところですかねー」

「(新時代の幕開け、か)本当に変えるつもりか? この学校を」

「今までの生徒会は面白みがなさすぎたんですよ。伝統を守ることに固執しすぎたんです。口では厳しいことを言いながら救済措置も忘れない。ロクに退学者も出ない甘いルール。知ってます? 今年の1年はまだ退学者0だって……もうそんなの不要でしょう? だから俺は新しいルールを作るだけです。究極の実力主義の学校をネ」

 

 そう言い南雲は5番手にバトンが渡ったのを見て第1コースへと歩いていく。

 次に神崎が一之瀬さんへとバトンを繋ぐ。

 

「一之瀬!」

「任せて!」

 

 完璧なタイミングでバトンを受け取った一之瀬さんが地面を蹴る。

 左足の靴の紐が解けているとも気付かずに。

 走り出す前に靴紐を結べないかとやってみたが、今もなおブレのある超能力の出力ではそれも叶わなかった。

 こうなれば転けそうになったら念力で支えてやるしかない。

 そう思って見ていると、一之瀬さんの後ろに迫る2年Cクラスの生徒が思わぬ行為に出る。

 

(悪く思うなよ、恨むなら南雲を恨んでくれや!)

 

 外側から追走していたそいつはあろうことか一之瀬さんの解けた靴紐を踏みつけ、そのまま走り去る。

 

「えっ!? きゃっ!」

 

 念力で靴を脱がせて最悪のケースから逃れさせるも、それでもやはり一之瀬さんが転けてしまう。

 

「ぐぅっ……」

「一之瀬!?」

「帆波ちゃん!」

 

 周囲のクラスメイトは大慌てで一之瀬さんに駆け寄り、保険医の先生を呼ぼうとするが、一之瀬さんは立ち上がり、左足の靴が脱げたまま、そのまま走り出した。

 

(絶対に斉木くんに繋ぐんだ……! 絶対に、このバトンだけは!)

 

 グラウンドの砂に塗れ、土煙を巻き上げて一之瀬さんが走る。

 すぐに起き上がったとはいえ、2位から落ちており、さらに被害を抑えはしたものの転けたさいに身体にかかった衝撃も足枷となっており、順位を7位に落としている。

 

「いけ! 一之瀬!」

「頑張れ帆波ちゃん!」

 

 走り終え、待機場所に居る柴田が大声で声援を送り、クラスメイトも一之瀬さんに届けと祈るように声を出す。

 僕は痛みに耐えて走り抜ける彼女にかける言葉を、一つしか見つけられなかった。

 

「斉木、お前のクラスのリーダーは立派だな」

 

 あぁ、全くだ。

 普通あの身体で、あの体力で走ろうとは思えないだろう。

 けれども彼女は僕をアンカーにした責任を取るために走っている。

 それも、彼女を手に入れるために非道なことを行った男のせいで。

 

「悪いが先に行くぞ」

『ああ、すぐに追いつく』

 

 僕がそういうと、また堀北会長は驚いた目を僕に向けてくる。

 

「(こいつここから……ふっ)……そうか、では楽しみにしておこう」

(兄さんが笑ってる……?)

 

 南雲の2年Aクラスから遅れながらも3番目にバトンを受け取って走り出した堀北会長を追うように、堀北妹も4番目にバトンを受け取る。

 そして、5番目、6番目とバトンが受け渡されていくと、息も絶え絶えになりながらそのバトンを握りしめた一之瀬さんがやってくる。

 

「さ、はぁ、はぁ、い……っ、きくん……!」

 

 パシっと一度もやっていないバトンパスを成功させ(よかった、これで……入賞は無理でも……)と安堵する一之瀬さんに僕は呟く。

 

『あとは任せろ』

 

 僕に課せられたお願いは2つ。

 一之瀬さんからはリレーのアンカーをすること。

 堀北妹からはこのリレーで全力を出すこと。

 それらを果たすために僕は、ここで出しても問題ない範囲のスピードで駆け出した。

 




次は斉木以外の視点となります(多分)
6月中に投稿できたらいいな

龍園はここでの勝ちを諦めて次に活かす為に観察に切り替えています
引き際を見誤るなよ

綾小路はアンカー出たかったけど色々と誤算が多くて上手くいかないもんだなと逆に楽しそう

Aクラスは坂柳が特に妨害や邪魔の指示をしなかったため、結果こそ振るわないものの3位にはなれそう

ではまた次回
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