ようこそ超能力者のいる教室へ   作:オールF

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いつも俺は遅いんだよ!

てことで本当に体育祭ラストです
みなさまご愛読ありがとうございました


体育Ψ爆発!楠雄が走らねば誰が走る!

 斉木楠雄にとって走ることは特に苦ではない。

 時速1キロメートルから1200キロメートルを出すことのできる常人とは異なる身体。

 先天性で生まれ持って備わった力は、身体の成長とともにその強さを増している。

 それを抑え、常人並みの力にまでコントロール出来るようにした制御装置のおかげで楠雄は中学生の間、平均的な男子生徒として3年間を終えた。

 そして高校生となった楠雄は入学から半年にして、制御装置を外されたことにより不本意ながらも力を発揮することとなってしまった。

 その結果が体育祭最後の目玉競技、3学年合同1200メートルリレーへの推薦である。

 しかし楠雄の人生の中でリレーメンバーの一員として走るということは初めてでは無い。

 それはくじ引きだったり、足の速い順であったり、先生からの指名だったりと、楠雄の超能力では覆らないような状況であったためだ。

 リレーに出ること自体は嫌ではなく、そのリレーで目立つことが嫌だっただけの楠雄は淡々とリレーに臨み、それなりの速さでバトンを渡すだけ。

 

「くーちゃんの力は困っている人や優しい人のために使ってあげてね」

 

 母親の教えを守る訳では無いが、今回も心優しきクラスメイトからのお願いにより、楠雄はリレーを走ることになった。これまでと同じく無難に走って、クラスメイト達がほどほどに満足する結果、3位か4位を取ればいいだろうと思っていた。

 自分がリレーを走ることに意味を見出すことはない。

 昔も、今も、これからも。

 

 孤独な超能力者に、クラスメイト5人の想いが籠ったバトンが渡るまでは。

 

(頼むぜ! 楠雄!)

(斉木くん頑張って!)

(1年生の中ではトップに立って!)

(信じているぞ斉木)

(お願い斉木くん……!)

 

 努力することもできず、ただ目の前の出来事を傍観するだけ。

 そういう人生を歩むと思っていた少年の渇いた心に比例した熱い気持ちが、斉木楠雄の心を揺さぶった。

 

『あとは任せろ』

「へっ……?」

 

 砂に塗れ、膝からは血を流し、靴の脱げた左足で決死にクラスメイトたちの想いの籠ったバトンをクラスのリーダーから受け取った楠雄は地を蹴った。

 地面が抉れると共に一瞬で1位を走る南雲雅までの距離を把握し、彼に追いつき、抜き去るために必要なスピードを頭の中で割り出す。

 第1コーナーに入る前に彼が今出していい最高速度に到達すると前を走っていた3年生を通り過ぎる。

 

(速ッ!? ホントに1年かよ!?)

 

 これで6位。

 さらに第1コーナーを抜ける前にさらに1人置いてけぼりにする。

 

(ば、バケモンかよ……!)

 

 全種目に出場した生徒とは思えない身体能力を発揮した楠雄はそのまま5位まで浮上する。

 

「いけ! いけ! 楠雄! 全員抜き去っちまえ〜!!」

「斉木……! あと4人だ!」

 

 リーダーの帆波、そして今走っている楠雄へとバトンを繋ぎ終えた柴田と神崎が待機場所から声援を送る。

 帆波の転倒により入賞は難しいと思われていた1年Bクラスの追い上げは会場に小さくは無いざわめきを起こし、それを不安に思った2年Aクラスの歓声が沈んだことに南雲は訝しむ。

 

(なんだ? 堀北先輩が追い上げてきたのか?)

 

 それなら面白いとは思いつつも後ろを振り返ることはしない。

 振り返っている間に堀北学は隣に並んでくる。

 だが歓声を聞いていると迫ってきているのは学ではないと徐々に伝わってくる。

 

「会長!」

「鈴音! 後ろから来てるぞ!」

「もっと前に! じゃないと追いつかれるよ!」

 

 橘書記の鬼気迫る声と、学の妹である鈴音のクラスメイトたちからの忠告。

 南雲は自分より後ろの順位を把握していない。

 自分が1位になるのだからする必要がないと思っていた。

 学が上位に上がってきていることは予想に容易いが、途中で走者が転けたこともあり、彼が自分に追いつける可能性は低い。

 南雲は最終コーナーを曲がり最後の直線を走り抜ければゴールとなる。

 自分に楯突いた一之瀬帆波に真の実力者が誰かを見せつける絶好の機会。

 しかし、南雲は見た。

 コーナーを駆けながら、帆波の転倒により下位順位に沈んでいたはずの1年Bクラスのアンカーが学の妹である鈴音の外側を通り過ぎ、学と並んで徐々に自分の背後に近づいてきている姿を。

 

(嘘だろ!?)

 

 まるで楠雄がワープしてきたかのような錯覚。

 楠雄には可能ではあるが、これは超能力なしで、ただ純粋な身体能力で走り続けた結果。

 南雲が非道なことをしなければ、起こりえなかった現実だが、当の本人は知る由もない。

 

 須藤、平田、小野寺といった初めから出場すると決めていたメンバー以外にも、クラスの勝利のためならと手を貸してくれた櫛田、綾小路のおかげで学との勝負にまでこぎつけた鈴音は目の前を走る楠雄の背中を悔しく見つめた。

 

(速い……! 速すぎる! こんなの追いつけっこない! 兄さんと今は並んでいるけど、あれは……!)

 

 走る前に彼らが交わしていた会話を鈴音はしっかりと聞いていた。

 

「悪いが先に行くぞ」

『ああ、すぐに追いつく』

 

 先に走っていたはずの自分たち兄妹が、アクシデントで下位のスタートからだった楠雄に追いつかれ、離されようとしている。

 

(こんなはずじゃ……! 兄さんより上の人がいるなんて……!)

 

 兄に自分を意識させるため、見てほしいという自分よがりな願いのためアンカーを走っていた鈴音が知った現実。

 これまで楠雄と接する機会は多々あった。

 しかし、あくまで綾小路と仲のいい変わった男の子としか思っていなかった。

 それが今、学を離して南雲との一騎打ちに臨もうとしている。

 そんなレースを見ながら綾小路は独り呟く。

 

「井の中の蛙、か」

 

 あの部屋の中で敵なしになり、外の世界に出てもこんなものかと拍子抜けしていた綾小路が、自分がまだ井の中の蛙だと思わされるほどに斉木楠雄の走りは今まで知らなかった娯楽や施設、食べ物よりも1番の強烈な印象を植え付けた。

 それは彼だけではない。

 

「やはり、運にかけてでも出るべきだったねぇ……」

 

 涼しい救護テントから外に出てどよめくグラウンドを見つめながら高円寺六助は本日二度目の後悔を味わっていた。

 あそこで走っているのが自分であったのなら、この渇きを潤してくれる好敵手の登場に胸躍らせることができたのかと。

 

「……らしくないねぇ」

 

 そんな考えが過ぎってしまうのは自分らしくない。

 けれども、変数を加えた存在に高円寺は目を奪われてしまう。

 彼の中で斉木楠雄が興味以上の対象となったことが確定した瞬間であった。

 

「麻生というのは偽名か……ふっ、本当に面白い男だ」

 

 1年Bクラスの歓声の中に混じる「斉木」「楠雄」という名前。

 残り50メートルもない距離で南雲と並んだ久しぶりに見つけた自身の心踊らせる後輩に鬼龍院楓花はいつぶりか分からない微笑をたたえる。

 運動能力が明らかに自分を超えている時点で彼女からすれば興味深いというのに、自身に偽名を使ったという事実も相まってある感情が爆発寸前であった。

 

 そして1位は確実、並ぶもの敵なしと思っていた実力者は外から自身と並んで走る後輩に苛立ちを募らせていた。

 

(クソ! クソッ! なんなんだよこいつは!!)

 

 南雲は自身のプライドが刺激されるのが嫌いだった。

 自身が強い存在でありたいと望み、強くなるための努力は惜しまない。

 生まれ持って備わった天性のセンスとそれを巧みに使える技術、他者を利用して自分をのし上げるために身につけた人心掌握術。

 それらを使って高度育成高等学校の副会長の座を手に入れ、欲しい友達、欲しい女も手に入れてきた。

 そして勝利すらも。

 自分に勝てるのは堀北学しかいない。

 そう思っていた。

 

(なんで! 俺と並んでやがるんだあ!?)

 

 そう南雲が心で憤っていると、斉木は鼻で笑った。

 

『フッ』

「あ"?」

 

 この程度か? と挑発的な表情をしているのは南雲の被害妄想かもしれない。

 しかし南雲のプライドは斉木の鼻笑いを許すわけもなく、全力ダッシュする。

 今まで以上に脚を動かし、前に進む。

 しかし隣を走る男との差は縮まらず、それどころかジリジリと距離を開けられていく。

 

「はっ、は、か、は、はぁ……!」

 

 今まで感じたことのない疲労感が全身を襲う。

 呼吸をする暇さえなく、肺は破裂しそうだ。

 それでも負けたくないと必死に足を動かす。

 

(ちくしょう! ちくしょうぉぉお!!!)

 

 南雲の必死の抵抗も虚しく、楠雄の背中は遠くなるばかり。

 遂に2人に5メートル以上の差が付いたところで楠雄はゴールラインを超えた。

 そんな楠雄の背中を睨みつける南雲は荒い息遣いのまま、ゴールラインを超え、走り終えると共にその場に転がり込むように倒れた。

 

「……っ、はぁっ、はぁっ、はぁ……!」

 

 砂に汚れ、大の字になって肩で息をしながら、楠雄を恨めしげに睨みつけた。

 楠雄はそんな視線など露知らず、出しすぎたスピードを落とすためジョギングに切り替えていた。

 

《ちょっと……いやかなりやりすぎたか……?》

 

 周りからのどよめきを聞いて流石にやりすぎたなと何度目か分からない後悔をする。

 クラスメイトが傷つけられたからと少し大人げなかったこと、今後の学生生活に出てくるであろう支障、そしてクラスメイト達から向けられるであろう奇異の目を想像して楠雄はため息をつく。

 今まで力を隠していたというのに不本意ながらもここまで発揮してしまったのだ。

 おそらくは全員から「あんなに速いのに今まで地味なフリしてさ、見下してたんだぜ」「まだ隠していることがあるかも、怖い」とヒソヒソと陰口を言われるんだろうなと考えていると楠雄に駆け寄ってくる影があり、楠雄は目を向ける。

 

「楠雄ーッ!!」

 

 柴田を筆頭にした1年Bクラスのメンバーが楠雄へと駆け寄ってきたのだ。

 

「お前すげぇよ! マジで! なんだよお前あんなに速いなら言っとけよなぁ!」

「ほんとですよ! 僕、僕、人の走りを見て感動するなんてことがあるとは思いませんでしたよ!」

 

 抱きついて捲し立ててくる柴田や手を握って感動を顕にしてくる浜口に楠雄は困惑する。

 

「帆波ちゃんが転けて、もうダメかと思ったのに、ホントすごいよ斉木くん!」

「これで私たち優勝じゃない!? 優勝! 優勝だよ〜!!」

 

 普段は大人しい女子たちですらも楠雄を囲んで喜びを表現している。

 そしてそんな輪の中心にいる楠雄の下に安藤と白波に支えられながら帆波も姿を現す。

 膝の怪我は手当てされたようだが、まだ走れる状態ではないのだろう、白波と安藤の肩を借りてゆっくりと楠雄の前へとたどり着いた帆波は目を腫らしていた。

 

「斉木くん、ありがとう……みんなもありがとう……ごめんね、私のせいで」

 

 そう謝罪する帆波に白波と安藤は苦笑いを浮かべる。

 

「帆波ちゃんのせいじゃないよ。一生懸命やった結果だよ」

「そうだよ。気に病まなくて大丈夫だよ」

 

 二人がそう言うが帆波の表情は晴れない。

 そして次に口を開いたのは神崎であった。

 

「俺たちは一之瀬が悪いと思っていないし、責めるつもりはない」

「神崎くん……でも私は……」

「つーか、一之瀬が楠雄にバトン繋いでくれなかったらこうはならなかったし、一之瀬にも感謝だよな!」

 

 神崎は優しく微笑み、柴田も明るく答えた。

 そしてそのバトンを受け取った楠雄もまた肩をすくめる。

 

『やれやれ、君がもたらした勝利なんだ、もっと胸を張ったらいいんじゃないか?』

 

 そんな3人の言葉に帆波の目尻に雫が顕れる。

 それは自身の不甲斐なさから来るものでも、自分の転倒で皆に迷惑をかけてしまったという申し訳なさでもない。

 こんな自分でもリーダーとして受け入れてくれて、自分がいたから勝てたんだと言ってくれる仲間の温かさに帆波はその雫をこぼした。

 

「うっ……ぐすっ……うぅ……ありがとう、みんな……」

 

 泣きじゃくる帆波に寄り添うようにして、クラスメイトたちは慰める。

 そんな様子を遠巻きに眺めていた他のクラスの面々は呆然としながら彼らを見ていた。

 

(すご……)

(あそこから巻き返すとか……)

(あのヘアピンの子、よく見たらかっこよくない?)

 

 楠雄や帆波のよく知らない同級生や他学年の生徒の注目を集めている中、あの後ペースを乱した南雲の隙をつき、2着の結果を手にした学が楠雄たちに近づく。

 

「お前たち」

 

 荘厳で静かな学の声にピタリと話し合いが止まり、1年Bクラスの視線は学へと注がれた。

 

「堀北、会長……?」

 

 学はそんな帆波のことなど視界に入っていないかのように楠雄へと視線を固定する。

 クラスメイトたちは突然の学の登場にどう反応していいか分からず黙っていると、学はゆっくりと口を開いた。

 

「……ありがとう。久しぶりに心が熱くなる勝負だった」

 

 学のまさかの賛辞に帆波や柴田たちはその言葉を受け取らされている楠雄に視線をやる。

 学のイメージは威風堂々とした態度で、自分よりも上の者しか認めないといった感じだった。

 そんな彼が誰かに、それも1年生へと敬意を示してくるとは予想していなかったのである。

 

(お前と同時にスタートしていたら俺はもっと恥をかいたのだろうな……)

 

 そう考えながら右手を差し出した学に、楠雄は《これ以上目立つことはしたくないんだけどな》と心愚痴りながら学の手を玉砕しないようにその手を優しく取る。

 

「お前のような後輩と知り合えて俺はよかったと思う。これからも誰かのためにあれる斉木でいてくれ」

 

 今まで力を発揮しようとしなかった楠雄が力を発揮した理由に、学はすでに辿り着いていた。

 制御装置が外れるというアクシデントはあれど、楠雄は自身のクラスメイトに危害を加えるのであれば容赦しない。

 無人島試験、船上試験での経過や結果をある程度把握している学にはそれが分かっていた。

 学は自身がゴールした後すぐに帆波の脱いだ左足の靴を見た。

 どのタイミングで解けたのかまでは定かではないが、僅かに傷んだ紐と相まってそれが故意犯によるものだとメガネは伊達ではないと言わんばかりに彼の目は見抜いたのだ。

 

「みなさん、結果発表がありますので、1度退場してください」

 

 運営委員からそう言われ、手を離した学は彼にしては珍しい柔和な微笑みを浮かべて赤組のテントへと戻っていく。

 そしてそれを見送ったBクラスもまた彼らのテントへと引き返していく。

 

「つか、すげぇよな楠雄、これしか言えねぇや! すげぇすげぇ!」

「柴田くんも凄かったよ!」

「神崎くんもね! よく2人も追い抜かせたね!」

「俺のことはいいだろう……」

「あっ! 照れてる!」

 

 勝利の雰囲気でクラスメイト達の距離は急激に縮まっており、その中にあっても楠雄は平常運転である。

 しかし、自分を忌避することなく、受け入れてくれているクラスメイトに今まで感じたことの無い気持ちになっていると帆波が声をかける。

 

「斉木くん、本当にありがとね」

『気にする事はない。僕は約束を守っただけだ』

「約束?」

 

 話の分からない網倉が問いかけると帆波は「ごめん、秘密」と言って唇の前に人差し指を添える。

 意味深な帆波の発言に白波の視線が鋭くなる。

 

「え!? 何それ! どういうこと!? 斉木くんが説明してよ!」

『うーむ、キュウゲキにツカレガガガ……』

 

 それから逃げるように楠雄はスーッと離れていく。

 あれだけのスピードで走ったというのにまだ余裕のありそうな楠雄に帆波は安堵しつつ改めてお礼を言う。

 

「ありがとう、斉木くん。本当に、本当にありがとう」

 

 これからもよろしくね、と逃げる楠雄に手を振る。

 

『やれやれ』

 

 この学校に来てから数ヶ月。

 学生生活の中で一番大変な体育祭だったと楠雄は大きくため息を吐いたのだった。

 

 ###

 

 閉会式と共に各自解散を命じられているため、ロッカーで制服に着替えたオレは寮への帰路に着くことにした。

 体育祭の結果は閉会式と共に発表された。

 1年生はほぼBとCクラスが上位を独占する試合をしていたが、2、3年生のAクラスがほぼ勝っていたこともありAD連合の赤組が勝利となった。

 肝心の学年順位は最後のリレーで好走を見せた斉木の活躍もあってか1年Bクラスが優勝し、オレたちCクラスは2位となった。

 高円寺の欠席も痛かったかもしれないが、気まぐれとはいえアイツは高得点の四方綱引きに参加し、勝利に貢献しているため最終的にあいつを非難する声は少なかった。

 だが2位により順位でのマイナスは出なかったものの、白組敗北によるマイナス100クラスポイントを受けており、オレたちCクラスは再びDクラスへと落ちてしまった。

 3位だった龍園クラスは赤組優勝のためマイナスポイントは50で済んでおり、僅かに20ポイントという差ではあるが彼らの方が上になってしまった。

 これくらいならすぐに追いつく範疇……だとはオレは思えなかった。

 

 この体育祭で堀北鈴音に徹底的に負けてもらい、彼女に成長してもらうという目的があった。

 龍園はうちのクラスの誰かから参加表を入手して、堀北と競り合える女子をぶつけて彼女を潰す気だったのだろう。

 しかし、堀北の方が思いの外メンタルが強かったのか、2位になることはあれどうちのクラスがピンチに陥ることはなく体育祭は終わってしまった。

 ロッカールームから先に出て堀北を待っていると、同じく制服に着替えた彼女が出てくる。

 

「今回はBクラスに勝利を譲ってしまったわね」

「……そうだな」

 

 譲ったというよりは柴田の運動能力が思いのほか高かったこと、そして何より斉木楠雄が隠していた実力が大きすぎたことが今回の敗因だろう。

 団体競技では堀北が危うい場面があってもBクラスの協力があって窮地を脱していた場面もあった。

 もしオレたちがDクラスのまま彼らと龍園クラスを相手にしていれば……と考えたところで無駄だな。

 

「貴方、斉木くんの実力のことは知っていたの?」

「あいつが走っているのなんて初めて見たさ」

 

 実際あの走りには驚かされた。

 多分というか確実に今のオレが本気を出しても勝つことはできない。

 それほどに速かった。

 第1種目では須藤に負けていたが、平田の言うように徐々にエンジンがかかってくるタイプ……にしてはかかってからの上昇幅が大きすぎる。

 かかる前ですら運動部並みのスピードだったのだ。

 

「彼と……兄さんとも走って思ったの、私はまだまだ未熟、いえそんな言葉すら誇張と思えるくらいに無力だって」

 

 確かに堀北は平田や櫛田、オレが作ったBクラスへのリードを瞬く間に奪われていたが、あれに関しては相手が悪すぎる。

 堀北兄に関してもそれは同じだ。

 斉木に抜かれたままでは終わらないと言わんばかりの意地を見せて南雲副会長を追い抜く姿は鬼神のようだった。

 アイツにもちょっと勝てるか自信が無くなってしまうほどで久方ぶりに手に汗が滲んだ。

 

「それに櫛田さんも、私の知らないうちに成長してた」

 

 クラスの参加表を漏らしたのが櫛田だと疑っていたオレたちだったが、今回の体育祭の櫛田の頑張りを見るに彼女は無実だと思わざるを得なかった。

 各競技での活躍もそうだが、騎馬戦で堀北を助けたり、最後のリレーでも前園の代わりに出走したいと言い出したりと、櫛田の中で何かが変わりつつあるのが見て取れた。

 

「運動能力も明らかに上がっていたし……何があったのかは知らないけど彼女は変わったと思うわ」

「だからお前も変わろうと?」

「……ええ。変、かしら?」

「どうだろうな」

「真面目に答えて」

「敵に塩を送るようなことをしたやつに言うことはないな」

 

 聞けば斉木の最後の走りは借り物競争での借りを本気という形で返してもらったからだと言う。

 それだけが理由とはオレには何となく思えなかったが、借り物競争で斉木が堀北を連れていくところは見ていたし、何か話していたのも聞いている。

 さらに須藤も「借りがどうの言ってたぜ」と言っていたから間違いない。

 というか無人島の時の薬や水筒の件で手伝って貰ってるのによく借りを作れたな。

 

「あれは……兄さんが目をかけているのだから実力はあると思って……貴方みたいに隠されてたら分からないでしょう?」

「その上でさらに隠されるとは思わなかったのか?」

 

 斉木は須藤と同じで全種目に出ていたし、体力的にも200メートル走で見せた走りはできない可能性もあった。

 結果は疲れを微塵も感じさせない驚異的な走りだったが。

 

「その時はその時よ。ただ彼の性格から考えて約束は守るんじゃないか……そう思ったのよ」

「信じた結果が兄貴との握手か」

 

 Bクラスの面々に囲まれていたのもそうだが、あの生徒会長が斉木の下までいって握手をしていた時はそれなりに驚かされた。

 というか、オレはあいつに驚かされてばかりだな。

 

「只者じゃないとわかっただけ良かったわ。あなたと同じで」

「勘弁してくれ、あいつと一緒にされるのは不服じゃないがその括り方は困る」

「似たようなものでしょ。無表情で無口だし。そのくせ話しかけると思いの外話すし、つまらない冗談も言うし」

 

 友達と似ていると言われると嬉しいみたいなことがあるらしいが、イマイチ喜べないな。

 

「とりあえず今日はゆっくり休むわ。裏切り者についてはまた考えましょう」

「……そうだな」

 

 平田と話してみたが候補から櫛田が外れてしまったため、裏切り者探しは難航している。

 今後他クラスと競い合う試験が始まる前に見つけておきたいところだが、それも上手くいくか分からない。

 寮についてエレベーターに乗り込むとそこからは無言の時間が流れる。

 オレの部屋のあるフロアにつき、エレベーターが止まるとドアが開く。

 

「じゃあお先に」

「ええ、今日はゆっくり休みなさい」

「お前もな」

 

 そう言うと、ドアが閉まり、堀北を乗せたエレベーターは上へと上がっていく。

 思うような成長イベントではないかもしれないが、兆しが見えただけでも良しとしてオレは廊下を歩く。

 

「斉木、楠雄か」

 

 クラス外、どころか学内で初めてできた友人が実は運動神経抜群の麒麟児だったとは。

 それもあの自由人の高円寺の興味を惹くほどに。

 興味を惹かれたのはあいつだけではないだろう。

 堀北兄もしかり、負けた南雲にも斉木の存在が大きく刻まれたはずだ。

 そしてオレにも。

 多少手を抜いていても勝てるやつしかいない、そう思っていたところに現れたイレギュラーにオレは失っていたはずの感情が湧き上がってくるのを察する。

 

「斉木、お前は何者なんだ」

 

 他国からの諜報員、あの部屋以外の施設で何らかの訓練を受けた元孤児、または海外で拉致され洗脳教育を受けた……色々と候補はあるがオレと同等、またはそれ以上と認めるだけの実力を隠し持っている。

 ただオレはまだ斉木を知らなすぎるため、答えが出ないと悟り、部屋のドアノブに手をかけると同時にオレは考えるのを止めた。

 そんなものはもういい。

 斉木楠雄の正体がどうであれ、オレはあいつと今後を過ごすことになる。

 

「楽しい学校生活になりそうだ」

 

 部屋に誰も居ないとわかりながら、誰かに向けて話しているかのようにオレはそんなことを呟いて、寮の部屋の扉を開けた。

 

 




坂柳の霊圧が消えた……?

原作と多少乖離してきましたがこんなの誤差誤差
確率はやがて収束しウンタラカンタラ……

なんとか体育祭編を書き終えることができました
長すぎる
アホバカ!

綾小路が坂柳・南雲の認知外
堀北・須藤の成長イベ損失
綾小路が真鍋からもらった録音が役たたず

これ以外にもなんかあるかな
あるやろなぁ……

あとなんかこの小説投稿し始めて1年経つみたいです
途中休んでましたけどね
仕方ない仕方ない
オレは趣味で二次創作を書いているものだ
4.5と5巻は原作買うためのアマギフをいただいたから書かねば無作法というもの……って感じで書いたところはある

次回から6巻分
といきたいですがペーパーシャッフルBクラス側に書くことあるか……?って感じなのでざっくりになると思います
というか次回はボツにしてた体育祭の昼休みのお話とかになるかなと思います
借り物競争の話?そんなのウチにはないよ……
それも欲しけりゃくれてやる!探せ!!

てことでまた今度

入れ忘れたというか入れるか悩んでやめたセリフ
『さっきは随分と楽しそうだったな』
『もっと楽しんでくれよ』

借り物競争if

  • 全部よこせバルバトス
  • どちらでもいい
  • そんなのいらないよ……
  • で、できればで結構です……
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