と思ってたんですが2話目に回しました
理由は……ない
坂柳とのお話(一方的)見たかった人らはごめんやで
人は自分の理想通りに生きているかと問われると私、櫛田桔梗はそうだと言い切れる。
理想の自分になれていると思う。
同性の中でも恵まれた容姿であることを私は物心ついたときには理解していた。
人よりも記憶力が良かったから勉強だって出来た。
運動も得意の方だし、お喋りにも自信がある。
手先だって器用だし、咄嗟の出来事にも柔軟に対応できる賢さを持っている。
けれど、私は完璧な人間かと問われると違うと言える。
私より可愛い子は当然存在するし、頭のいい子や運動神経のいい子はこの世に大勢いる。
そんなのは当たり前。
人は生まれながらにして平等ではない。
全ての能力値が平均より上にある私も恵まれている方だが、私より恵まれている人間はごまんといる。
そんな私のコンプレックス、私は身近な誰かに負ける度、感情が大きく揺さぶられてしまう。
一つ一つのことに負ける度に私の心の中には闇が生まれ、それを自覚する度に激しいストレスで吐いたこともある。
現実は非情で私は凡人ではないが、天才でもない。
そんな私が唯一みんなに勝てるもの、それが信頼。
私は誰よりも好かれることで優越感を得ることにした。
感情や本音を押し殺し、偽りのキャラを演じきって、見るのも嫌な気持ち悪い男子に手を差し伸べたり、腸が煮えくり返るほどムカつくブスにも手を差し伸べた。
人気者になった私は誰からも好かれる人間になって、他の人には負けない存在になれた……そう思っていた。
高度育成高等学校に来て、私に一切靡かない男がいた。
斉木楠雄、1年Bクラスで地味でメガネをかけ、ヘアピンをつけた男の子。
悪い噂もなければ特段有名でもない。
でも、学校の裏サイトで行われているランキングで、声がいい男子1位とメガネを外したらイケメンそうな男子ランキングで1位を取っていた。
そいつは私が声をかけても無視して、近づいてボディタッチで気付かせてやろうとしたら全て避けた。
全部見えてるだろうに、気付いていただろうに。
どうしてそんなことをしたのかと後で問いかけたら、日替わりスイーツのため急いでいたと言うのだ。
そう、私はスイーツに負けたのだ。
誰にも負けない存在になれたと思っていた私が。
その時は斉木楠雄のことを心の中で激しく罵り、見下していたけど、船内試験での彼の発言と雰囲気作りを見て、私は興味を持つようになった。
龍園くんからのヘイトを一気に請け負ったかと思えば、彼が納得する答えを提示して大人しくさせていた。
しかもAクラスの葛城くんの出した提案も龍園くんに折らせるように誘導していたりと、かなりの切れ者であることがわかった。
その後に私は彼に接触した。
理由は皆から信頼される存在となり、優越感を得るため。
そのためにも私の過去を知る堀北鈴音を排除する手伝いをさせるため。
頭のいい彼なら何かいい手を考えてくれるのではないか。
初めは龍園くんにするつもりだったけど、斉木の方が頭が良さそうだし、何より、余計な感情で動くタイプには見えなかった。
まあ、斉木には堀北排除のお願いは却下された上に、堀北は私の事覚えてないし、路肩の石ころ程度にしか思っていないと言われてしまった時は「は?」と素の声が出そうになってしまった。
けど、彼の言うとおり、中学では堀北とは同じクラスにはなったことがないし、部活や委員会にも入っていなかったから接点はない。
噂程度には聞いたことがあるかもしれないが、斉木の言うように兄貴に夢中で他のことに気が向いていなかったのならその可能性も薄い。
堀北排除は手伝えないが堀北より目立つ、クラスで活躍できるように手助けならしてくれると言っていたので、私はその契約を結んだ。
条件は他者を傷つけない、斉木のクラスメイトを傷つけない。
そして、私の方から斉木を切り、龍園や他の人間と協力して堀北さんを退学させようとした場合は堀北さん側につくと言う。
私としては不満がないわけではなかったが、実際斉木は船内試験を1日で終わらせるための施策を提示し、それをクラスに伝える役目を私に与えてくれた。
おかげで船内試験は始まってから1日で終わって私も気が楽だったし、平田くんと共同になっていたけどクラスからも感謝された。
それからも体育祭で堀北レベルで活躍できるようにとトレーニングメニューも組んでくれた。
練習の合間にスイーツを渡してやるともきゅもきゅと子供のように食べていて、結構可愛いところもあるなと思ったりしたが、私は斉木を利用しているにすぎない。
おかげで斉木の予想通り、龍園くんから執拗な攻撃を受けて2位を取ることが多かった堀北よりも、対戦相手に恵まれた私は1位を取ることが多かった。
体育祭後も「桔梗ちゃんすげぇよ!」「堀北さんより1位多いんじゃない!?」と褒められていい気持ちになっていた。
体育祭が終わり、休養日を挟んでの登校日。
教室に行けばいつも通りの挨拶、いつも通りの笑顔、いつも通りの会話、そう思っていたが教室、いや学年の話題は1人の男の子に集中していた。
まあそうなるよねと思いつつ、私はどうしようかなと考えていると私を見つけた池くんが声をかけてくる。
「桔梗ちゃん、来る時見たかよ。Bクラスの人だかり」
「うん、見たよ。1年生だけじゃなくて、2、3年生もいたね」
教室に来る前に見かけたのはCクラス(体育祭で白組が負けたことによるペナルティで、CクラスからDクラスになるが、体育祭は10月にあったため、記録が反映されて降格するのは11月から)の2つ隣の教室であるBクラスの前に集まっていた人の群れだった。
目当ては間違いなく200メートル走と3学年男女混合リレーで常軌を逸したスピードで走っていた斉木だろう。
私にはあいつ運動は苦手だとか言ってたくせにめちゃくちゃ速いじゃんと私は苛立ちを覚えたが、あそこまで速いとどうでもよくなってくる。
妬みとか尊敬とかよりも、なんであんなに速くなれるのかという疑問が来るが、聞いたところでどうせ『風になろうよ』とか私がそのアニメのリサーチしてなかったらどうするんだよみたいな返ししかしてこないだろう。
「まあ最後7位から一気に1位だもんな。そりゃ注目されるよな」
「そうだね」
しかも上級生6人を抜き去って……あぁ、そういえば堀北もいたから上級生は5人か。
妹の方。
兄貴の方はそこそこ化け物だった。
斉木を見たあとだとそんなに気にならなかったけど、よくよく考えたらゴールまで残り数メートルも無い距離で南雲先輩を追い抜いてゴールしてたし。
昼休み終わりに堀北が兄貴と勝負できるようにお膳立てしてあげた方がクラスでの貢献度も上がるしいいんじゃないかと斉木に言われて出てあげたけど、結果は上々。
恩を売った気はないし、多分堀北は返してくれることはないけど、クラスに好印象を与えることには成功した。
女子の中では好成績だったこともあり、私の立場は堀北より断然上。
気分がいいため、池くんとの話にも普通に付き合ってあげられる。
「斉木くん、困ってるんじゃないかな? あんなに色んな人に見られてさ」
目立ちたがりじゃないし、速く走れるのに走らなかったのはその辺が絡んでると思う。
じゃあなんで急に本気を出したのかは分からないけど、200メートル走は龍園くんに負けるのが癪だからと言っていたし、最後のリレーは一之瀬さんがあんなに一生懸命にバトンを繋いだからなのかなと思う。
その結果があの人だかりなのだから、斉木も大変そう。
借りを返してあげるわけじゃないけど、なんとかしてくれとか言われたら手伝ってあげてもいいかなと思っていると池くんが思いもがけないことを言う。
「いや、なんか斉木まだ来てないらしいんだよね」
「あ、そうなんだ。じゃあ、みんな斉木くん待ち?」
「多分?」
確証はないのか。
まああの人だかりじゃ教室の中は見えないし、斉木が来てたらもう少し騒がしいか。
野次馬に混ざるのは嫌だけど、Bクラスがどういう様子かは気になるし見に行ってみようかなと立ち上がる。
「ちょっと行ってみようかな」
「え? あ、うん。い、行こうぜ!」
誘ったわけじゃないんだけど、邪険にはしないでおこう。
野次馬は私が見た時よりも増えており、登校してきたBクラスの生徒が教室に入るのに困るほどだった。
「おいおい、斉木はどこだよ。まだ来てねぇのか? さっさと出せよ」
「出せって言われても……まだ来てないんすよね〜」
「真面目そうなのに?君たちが匿ってるとかではなく?」
「いたとしても出す義理はありません。先輩方もそろそろホームルームでしょう。早く教室に戻られては?」
「え〜くっすーいないの〜?感じ悪〜」
ガラの悪い上級生は確か2年Dクラスの人、だったかな。
大人しめの子が多いBクラスの他の子に危害が及ばないように柴田くんと神崎くんが対応に当たっているようだ。
「ほんとに大変そうだな……」
一躍、学校中の有名人になってしまっている斉木のおかげでしなくてもいい対処に当たらされているクラスメイトを見て、池くんは同情しているらしい。
けど、神崎くんの言う通り、ホームルームが始まる10分前で、教室の離れている3年生たちはそろそろ戻らないとクラスポイントに影響が出るだろう。
「ちっ、昼休みにまた来るか……」
そうして上級生や物見遊山で来たのであろう生徒たちが引き返していく。
池くんも先に戻ると言って帰っていく。
時間ギリギリまで粘って追い返したのはさすがと思っていたが、肝心の斉木が出てくる気配というか教室にいる様子がない。
「ごめん、神崎くん」
「ん? あぁ、櫛田か。お前も教室に戻った方がいいんじゃないか?」
「うん、そうなんだけど、その、斉木くんのこと大丈夫なの? すごい人だったけど」
心配そうに眉尻を下げ、不安げな表情で言えば神崎くんはううむと腕を組んで悩むそぶりを見せる。
「大丈夫と言えば大丈夫なんだがな」
多分に意味を含んだその言葉に首を傾げていると、怯える女の子たちを守っていた帆波ちゃんがこちらにやってくる。
「桔梗ちゃんおはよ〜。ごめんね、迷惑かけちゃって」
「ううん、全然平気だよ。斉木くん、大変そうだね」
「にゃはは、まさかこんなに人が来るとは予想外だったよ」
困ったように頬をかく帆波ちゃんに私は単刀直入に尋ねる。
「それで……斉木くんは? 姿が見えないけど……」
教卓の下とかロッカーにでも隠れてるのかなと思って視線を動かす。
「あぁ、ごめん。斉木くん今日お休みするんだって」
「え……?」
「思ったより疲れちゃったみたいで……朝にメッセージが来てて、クラスの方に僕目当ての人間が来たら放置するか先生に言って注意してもらっておいてくれって」
そう言って帆波ちゃんが見せてくれたメッセージアプリでのやり取りを見る。
『おはよう。体育祭の疲れが思ったより酷く、筋肉痛で足が動かないため今日と明日は学校を休もうと思う。先生には連絡済だ。ただの筋肉痛で食事などは出来るからお見舞いなどは不要だ。万が一、クラスに僕や柴田目当ての野次馬が来たら放置するか先生に報告して対処してもらってくれ。あと訪れた生徒に僕が休んでいる事は言ってもらって構わない。寮に来ても鍵を開けなければ特に問題ないし、これも学校側になんとかしてもらう。迷惑をかけると思うがよろしく頼む』
斉木らしいメッセージだなとぼんやりと見ていたがやっぱりあのスピードを出すのには代償が大きかったらしい。
「ごめんね心配かけて。あとのことは私たちでなんとかするから」
「う、うん、わかった。あ、でも私にできることがあったらなんでも言ってね」
「ありがとう、桔梗ちゃん」
帆波ちゃんからのお礼を聞いて、私も教室に戻る。
教室に戻るとホームルームが始まる直前で茶柱が入ってくる二歩手前くらいだった。
なんとかクラスポイントに影響が出ないギリギリだったかなと席に着く。
茶柱の話が始まり、前を向いて聞いている間もあの斉木が休んでいるという事実に頭がいっぱいになる。
私の練習を見ていたのも疲れの原因かもしれない。
そう考えると私にも出来ることがあるまで待つより、何かしてあげたほうがいいのかなとなる。
あいつにはそれなりに世話になったし、お礼も兼ねてコーヒーゼリーくらいは持っていってやりたいけど、さすがに迷惑か。
一応メッセージくらい入れておこうと休み時間に打つメッセージの内容を考えるのだった。
千里眼で全て見ている超能力者『休んで正解だったな』
なお想定より人多くて3日目も休んだ
訪れたのは単なる野次馬と斉木目当ての女子生徒、南雲にスパイを命じられた2年生など。3年生は堀北学に勝った後輩の顔を拝みに来た(悪い意味ではなく)
寮に誰か来たところで、楠雄がいるのは自宅でなので効果がない……
ではまた次回