いつもの時間ではなくてすまない
大グループが決まり、小グループ別に寝泊まりする部屋へと連れてこられた。
部屋の中に入り、木製の2段ベッドだけがある部屋を見るなり柴田が呟いた。
「こりゃ思ってたよりも古いな……(豪華客船とか普段の寮で麻痺してきたけど普通はこんなもんか)」
「ですね。ベッドの割り振りはどうしましょうか?」
「そうだな……(ここはジャンケンなどで決めた方がいいのか?)」
浜口がこのグループの責任者となった神崎に問いかけると、神崎は僅かに考え込んでいると高円寺と龍園が特に話し合うことなく2段ベッドの上へと向かった。
「おい、お前たち勝手に……」
「フフフ、NEW生徒会長のせいで余計な時間を過ごしたからねぇ。一刻も早く身体を休めなければ明日からの活動に支障が出てしまうよ」
「こういうのは早い者勝ちに限るだろ」
団体行動という言葉はこいつらにはないのかと神崎は頭が痛くなってきたらしく、手で頭をおさえる。
「ハァ……もういい。俺も上で寝ようと思うんだがそれでいいか?」
「僕はどちらでも良いですよ」
「じゃあ俺も上に行こうかな」
理由はよく分からないがどいつもこいつも2段ベッドの上を所望する生徒が多く、神崎と橋本もすぐに決まった。
別府や新浦、千葉らは話し合って誰が上か下で寝るかを話し合っている。
それを見ていると橋本が2段ベッドの上から声をかけてくる。
「斉木はどっちにするんだ?」
僕は上でも下でもどちらでもいいが、出来れば1人で寝たいんだよな。
最近はしなくなったとはいえ、寝返りで同じベッドのやつを消し飛ばしたり、お寝ちょでテレポートさせてしまうということは避けたい。
しかし8台あるベッドの上段が全て埋まってしまったことで、結局誰かの下で寝るしかない。
1人で眠れないことにため息を吐きながら、この中だと万が一吹き飛ばしても心が痛まず、窓際であるため被害者が1人で済むであろう龍園の下に行くことにした。
「あ? お前が下かよ(俺か高円寺の下は空くとおもってたんだがな)」
行くと龍園は意外そうな反応を示す。
僕が下に来たからか龍園は先程の南雲の1件について話し出した。
「そういえばお前、どうしてわかったんだ?」
なんの事かはわかっているが白々しく『なんの事だ?』と惚けてみせると龍園は嗤う。
「ククク、相変わらずのお惚けだな。南雲と堀北の勝負の件だ。どうして南雲が女子側の方に攻撃するとわかった?」
南雲がここしばらく不穏な動きを見せていたのと思考が筒抜けだったからわかっただけとは言えないため、予め用意していた言い訳を口にしておく。
『女子グループを狙おうかしてかは知らないが、今までの特別試験と比べると責任者と道連れのルールが異質だったことと、南雲の組んだグループでは堀北元会長に勝つことが難しいこと、本気で勝ちに行くなら1年生に上級生のグループを選ばせるはずがない。これらのことからなにか別の狙いがあるかもしれないと思って書面に起こそうと思っただけだ』
女子の方もルールに含んだのは念の為だと付け加えると龍園は納得はしていなさそうだが、特に指摘することがないのか「なるほどな」と呟く。
「じゃあ俺に契約書が書けるかを聞いたのは何故だ?」
『僕はその手の書面作成に疎いからな』
「嘘つくなよクソメガネ。南雲の動きを縛るためのペナルティを作らせるために俺のことを巻き込んだだろ」
蔑称からヘアピンが無くなったな。
そんなことを思っていると隣のベッドで話を聞いていた橋本も会話に参加してくる。
「俺にも話振られたな、あれはなんだったんだ?」
僕にだけヘイトが向いたら困るから巻き込ませて貰ったのと、書面を残すことに賛同して欲しいという意図以外はなかった。
あの時言った通りだと伝えると橋本は腑に落ちていないご様子だったが、これ以上僕に聞いても無駄だと判断したのか口を閉じた。
しかし、龍園の方は2段ベッドの上から身を乗り出して僕の方をジッと見てきたままだ。
(こいつが本当に勝負を流させないために書面を作ろうとしたのなら、さっきの説明だけで十分かもしれないが、まだ腑に落ちねぇ。斉木が契約書に含ませた内容からして、堀北と勝負すると見せかけて、女子側で平均点よりも低い点数を取り、堀北と近しい生徒を道連れにして退学させるプランだろ。小物過ぎる手だが、卒業前の3年、特にAクラスの堀北にはかなり痛手になる。道連れにされるやつを助けるのには莫大なクラスポイントとプライベートポイントが必要になるからな。仮にその生徒を助けなかったとしたら堀北への信頼や今まで培ってきたもの、何より堀北の心に大きな影を落とすことができる)
綾小路も高円寺もだが、そこまで読めるなら僕がわざわざ初日でなにかする必要もなかったか?
いや龍園も含めて堀北元会長にダメージが入ったところで屁とも思わないか。
(まあいい。少なくとも斉木には少しのヒントで謀略や知略を見破る能力があるとわかった。ククク、おもしれぇ。推理小説とやらが好きなだけはあるかもな)
椎名さん情報なんだろうな。
クラスに仲がいい生徒が少ないと言っていたが、だからといってこんなのとつるむ必要はないんじゃないだろうか。
彼女の交友関係に口を出す権利はないが友人としては忠告しておくべきだろうか。
(まあいい。あと7日もあるんだ。じっくり観察させてもらうとするか)
グループの結束力を強めていかないといけないというのに、腹の探り合いのようなことは勘弁していただきたいな。
そう思っていると入口側のベッドにいる柴田と浜口が超能力者でなければ聞こえない音量で話している声が聞こえる。
「楠雄、普通に龍園と話してるな……」
「まあ斉木くんからすればスイーツ未満の興味なんじゃないんですか?」
僕の寝床が上は龍園、隣は橋本、前は高円寺とクラスメイトからすれば近づきたくない帳が下りている。
高円寺の下はみんな避けたのか空いており、橋本の下には神崎がいる。
神崎も途中までは会話に耳を傾けていたが明日からの試験のことで頭がいっぱいらしく、どこか上の空だ。
(斉木が本気を出せば高円寺は本気を出すと言っていたが……それに龍園もいる……堀北先輩のグループになれはしたが足を引っ張らず上手くやっていけるだろうか)
悩みの種は珍獣2人のせいらしく、グループの責任者として胃をキリキリと痛めている。
(一之瀬ならあの2人とも上手くやるんだろうな)
男女別になったことでいつもは傍にいるグループのリーダーの不在に弱気になっているようだ。
今の精神状態ではあの2人と渡り合うことは難しいだろうな。
橋本がフォローに入り、高円寺の自由な時間を作るのもありだが、それをすれば神崎の成長機会を奪ってしまうことになりかねない。
僕は僕で既に自分の時間に入っている高円寺の相手をしなくてはならないし、明日から忙しくなりそうだ。
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部屋の割り振りが終わったため、昼食になる。
広い食堂には全校生徒が集うだけあってかなり広く、入ってくるテレパシーの量も尋常ではない。
学校である程度は慣れてはいるが、かなりの数の生徒でごった返した空間というのも相まって少々気分が悪い。
食事の時間は1時間で、その間は食堂にいてもいいようだが、各々部屋に戻るなり外の空気を吸うなりしてもいいらしい。
食事を終えたらトイレに行ってテレポートして自宅で時間を潰すことにしようと決めて、トレーを持って1人腰を下ろす。
この食堂も高育の食堂と同じく1年生はこの場所で食べるようにという区分けなどはされておらず、各々自由に座っている。
小グループで食べているものもいれば、普段の学校生活で仲のいい人間と合流して食べている者もいる中で僕は1人の時間を満喫させてもらうべく、目立たない席へと座っていた。
(神崎くんから話は聞けたけど、斉木くん大変そうだなぁ。こっちも中々に大変だけど……そういえば斉木くんどこにいるんだろ)
携帯もなく、事前に待ち合わせ場所などを決めることも出来ないため誰かと合流するのは難しいなかで、神崎は一之瀬さんと合流できたらしく、情報交換が出来たようだった。
一之瀬さんは僕に用があるから探しているというよりは姿を見ないからという理由だったので合流しなくてもいいと判断する。
それに彼女のところにはひっきりなしに男女問わずに多くの生徒が詰めかけているし、近くには綾小路もいる。
(オレは比較的周囲には気付かれない自信がある)
存在感のなさを豪語していることに情けなくなっているが、彼らしいといえば彼らしい。
神崎は一之瀬さんと別れたあとは浜口達と、柴田は平田といったサッカー部の連中と食事をしているらしく、僕の属する小グループのBクラス男子でぼっちなのは僕だけのようだ。
しかし、食堂には500人近い生徒がいる。
上級生や同級生でも1人の時間を好む者は多い。
高円寺や龍園もまた独りでの食事をしているが、龍園の方は石崎や山田アルベルト、伊吹さんといったいつものメンツが集結していたりする。
あいつはあいつで慕われているんだなと感心しているとコトッと目の前にトレイが置かれる。
こんな端っこの席によく来たもんだなと目の前に座る生徒、橋本に一応目を向ける。
「探したぜ〜神崎や柴田と食ってるもんだと思ってたんだがここにいるとはな」
橋本は普段と変わらない飄々とした態度でトレイを置いて箸に手をつけ始める。
「にしても午前中のアレ、あんなに堂々とやるなんてお前らしくないな」
君に僕らしさを語られるほど仲良くなった覚えはないが、あれだけ目立ちたくないんだと言っていた僕らしからぬ行為ではあることは間違いないな。
『僕なりに約束事を果たしただけだ。それに思ったより注目はされてない』
「そうかぁ……? (にしてはなんかこの席に異様に視線を感じるんだが?)」
テレパシーで確認できた僕のことを探していたのは一之瀬さんと綾小路以外だと姫野さん、櫛田さん、椎名さん、堀北妹、鬼龍院さん、堀北元会長と中々に色の濃いメンツではあるが、全員探していた理由は異なる。
橋本が感じているのは僕の一挙手一投足を見逃すまいと僕が見える位置に座っている高円寺と龍園、堀北元会長、そして南雲の手下たちの視線だろう。
さらに言えば少し離れたところで僕が1人になるのを待っている櫛田さんと堀北妹、姫野さんに葛城、平田の視線もある。
「気のせいならいいんだが、お前凄く見られてないか?」
『気のせいだ』
(斉木の前にいるのって、橋本だっけ。彼女を裏切らせたっていう鬼畜。あんまり関わりたくないな。斉木が1人になったら愚痴とか聞いてほしいんだけど)
姫野さんは自グループの愚痴を言いたいようだが、今は無理だな。
龍園が見ているところでの会話は避けたい。
僕の弱みや弱点となる部分を探ろうとしている龍園の前で彼女と話すと、龍園が僕に攻撃をしかけてくる時に人質などに有用と判断されると巻き込まれかねない。
(斉木のやつやっぱり誰かといるな。でも神崎くんや柴田くんじゃないんだ。橋本くんってことはグループ絡みか、私に前園さんの件を告発する見返りになにかあったのかな?)
櫛田さんの要件は不明だが、彼女も話しかけてきて欲しくない。
Cクラスの中心的存在になっているし、冬休みのよりにも寄って周囲から注目されやすい時期に出かけていたこともあって面倒な勘繰りを受けたくはない。
(兄さんがやけに上機嫌だったけどなにかあったのかしら……3年生のグループと一緒にいるけど斉木くんを見張っているように見える。私も櫛田さんのことで聞きたいことがあるから出来ればこの試験が終わるまでに接触したいのだけれど)
(南雲との勝負を書面に残させた理由は南雲の暴走を止めるため、俺の意識外からの南雲の攻撃を止めるために人前での発言をさせてしまったのであれば俺はあいつに謝らなければならないし、そして何より、おそらくだが橘を守ってくれたことに感謝しなければならない。だが、これ以上あいつは目立つことを嫌うだろう。出来れば1人になったところでその話をしてやりたいが)
兄妹揃って長いし、試験が終わってからでもいいだろという内容の話をしようとしている堀北兄妹も悪いが無視だ。
堀北元会長の言うようにこれ以上目立つことは避けたいが。
椎名さんの方は聞いてもいいかもしれないが、鬼龍院さんの方は良くないな。
(一之瀬さんと同じグループになれましたがやっぱり彼女は人気者なのであまり話す機会がありませんね。斉木くんに一之瀬さんの趣味や好きなものを聞いておけばよかったです)
(斉木のやつ南雲になにかしたようだな。あいつのあの慌てようは久しぶり……いやこの前の体育祭以来か。出来れば共に食事をしながら全容を聞かせてもらいたいんだがなぁ)
全力でお断りします。
別に僕がしたことなんてどうでもいいだろ。
契約書を作ったのは龍園だから龍園に聞いてくれ。
その南雲の方は葛藤はあったものの、協力者の3年Bクラスの女生徒たちに作戦の中止を伝えに行っていた。
そして、どうして僕に策がバレたのかを探るために彼の手下である2年生数人から見られているが、これは別にどうでもいいな。
問題はこのまま席を離れれば、誰かしらに声をかけられてしまうということ。
トイレに逃げても出待ちされるのがオチだろう。
実家に帰るのは一旦諦めてこの斉木楠雄包囲網を抜け去る方法を考えるしかない。
本来、この1日1時間、男女が集まるこの時間は情報共有に使われるべきであり、僕に話しかけている暇はないのだ。
できる限りの情報を集め、リーダーは指示を出し、戦っていくことを狙いとしているのだろうが、テレパシーで大体の情報を拾える僕には関係がないし興味が無い。
ただ、この状況下で南雲への牽制の話も伝わっているのなら声をかけてきそうな坂柳さんが、ある目的のために僕との接触を避けている。
別に試験の臨み方や主義主張は個人の自由ではあるが、クラスメイトを傷つけられるのはあまり快くはない。
かと言って、今僕が何か手を出してもグループ決めは終わってしまっているし、意味の無いことだ。
一之瀬さんのグループにはA、Dクラスの問題児が多いグループではあるが、能力的には悪くない。
椎名さんもいるし、試験中の心配もしていない。
南雲の方は片付けたし、あとは平穏無事に試験が終わることを望むばかりではあるが、そうもいかない。
僕が立ち上がろうとすると、様子を窺っていたやつらも動き出そうとする。
『悪いがトレーの返却を任せていいか?』
「ん? あぁ、いいぜ(誰かと話に行くのか。斉木の交友関係は是非とも知っておきたいから要チェックだな)」
とりあえず、椎名さんの話は聞いてやるかと橋本に片付けを任せて彼女の方へと向かう。
『隣、少しいいか?』
「(本に夢中で忘れていましたが斉木くんに聞きたいことがあるんでした……まさか斉木くんから来てくれるとは)はい、どうぞ」
椅子を引いて先程と同じ座り心地を確かめると、椎名さんの手元に目を落とす。
『ここでも読書か』
「はい。斉木くんからおすすめされた方を読んでいまして。本が持ち込めて助かりました」
そう言ってブックカバーを外して見せてきた本は僕が冬休み明けに薦めた本で、栞の位置からして中盤に差し掛かるところだった。
「そういえば、私、一之瀬さんと同じグループになりました」
『そうなのか』
知っているがはじめて聞いたという風に反応しておく。
「はい、それで斉木くんにお聞きしたいんですけど一之瀬さんの好きな物や趣味などは分かりますか?」
『知らないな』
「知らないんですか?」
『ああ』
ある程度知ってはいるが、ここで教えてしまうと椎名さんのコミュ力アップを邪魔してしまうからな。
そういうのは盗み聞きとか誰かに聞いたではなく、自分から聞いた方が友好関係を築く上でも、会話の一環としても重要になると伝えると椎名さんは「確かにそうですね」と頷く。
「先に答えから知ろうとする行為でしたね。浅はかでした」
『別に君のは一之瀬さんと仲良くなろうとした善意から犯したミスだ。そんなに気に病むことはないだろう』
申し訳なさそうに言うが、これから何があっても7日間は衣食住を共にする相手なのだ。
それに一之瀬さんなら先に答えを知っていても不快に思ったりはしないだろうし、むしろ知ろうとしてくれてありがとうと喜ぶかもしれない。
「ふふっ」
何がおかしかったのか笑う椎名さんに首を傾げる。
「いえ、すみません。最近、斉木くんのことが先生みたいで」
なんだ僕が自クラスの生徒を不良品と呼んだり、自クラスの生徒で勝手にカップリングを組んでるとでも言うのか。
前者はどうでもいいが、後者は僕を巻き込むな。
「運動を見てもらって、こうして相談に乗ってもらって……こちらに来たのも私がさっき見ていたのに気付いていたから、ですよね?」
『やはり見ていたのか』
「はい。こちらから伺おうと思っていたんですけど本に夢中になってしまって」
その方がいいだろう。
本未満の価値でいられる方が僕も気が楽でいい。
さて、あまり長居すると面倒なことになりそうだし、サッサと立ち去るとするか。
「そういえば斉木くんは本を持ってきましたか?」
『ああ』
カバンに入れてきた分もあればテレポートする暇さえ見つければ自宅か寮に取りに行くこともできる。
もし今読んでいる本が合宿中に終われば別の本を貸してほしいということなのだろうと思い、読み終わりそうになったらまた声をかけてくれと伝えると椎名さんは「はい」と頷く。
僕はその返事を聞いてから立ち上がり、手を振る彼女に見送られながら他の生徒たちから接触される前に部屋に戻った。
桔梗(あいつなんで椎名さんと……本の話かな?)←話しかけようとしたら池に阻まれる
鈴音(あれはDクラスの……一之瀬さんと同じグループだったわね。まあいいわ。今日はやめておきましょう)
学・楓花(誰かは知らんが同級生との会話を邪魔するわけもいかないか)
姫野(知らない子と話してるし今日はやめとこ)
的な感じ
南雲サンの計画ぶち壊したから試験が終わるまで何事もなく……なんてこともなく……
変なやつらに目をつけられてるくーちゃん可哀想
彼は平穏に暮らしたいだけなのにね
ではまた次回