姫騎士ヴィクトリアの戦場   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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4 開幕

《通達! 北方第一砦に再び帝国軍が接近中との連絡あり!》

「!」

 

 前回の攻勢から二週間も経たないうちに、そんな通信がヴィクトリアの頭の中に流れ込んできた。

 

 次席宮廷魔導士の一派が国内に張り巡らせている通信魔術による情報網。

 

 ナイツ王国を難攻不落たらしめている強力な武器の一つ。

 

《推定到達日時は五日後! 応援の騎士団はただちに準備を開始してください!》

 

 国の中心にある王都から各国境砦までの距離は、約五百キロ。

 街道が走りやすいように整備されているのに加え、国境の防衛に派遣されるような精兵達は足を徹底的に鍛えられるので相当の行軍速度を誇るが、それでも十日はかかる。

 

 つまり、最低でも五日は国境砦の戦力だけで帝国軍を押し止めなければならない。

 

 普通の相手なら楽勝だが、奴ら相手だとこれだけで結構な無理難題だ。

 

《なお、ヴィクトリア様には陛下とカルロス団長から出撃禁止命令が出ております!》

「チッ」

 

 随分露骨に縛ってきた。

 

 だがまあ、宮廷魔導士は筆頭であるシルドと共に帝国産兵器の解析を担当した者達であり、誰よりも帝国の恐ろしさを知っている。

 

 そのシルドがヴィクトリアのやばさを一番よく知っているので、かなり融通を利かせてくれる良い部署だ。

 

 今回も片棒を担いでもらおう。

 

「どうしますか、ヴィクトリア様?」

「走る準備をしておけ。今回はお前達にも出てもらう」

「「「え?」」」

 

 すぐに動けば王城内に無用の混乱を生んでしまう。

 

 戦闘発生直後に到着できるタイミングがベスト。

 

 国境砦までの道のり五百キロ。

 

 万の軍勢で動けば十日かかるが、無駄に鍛えられた二百人の野郎どもだけで全力疾走すれば、半日程度で辿り着ける。

 

 ヴィクトリア一人なら一時間もあれば充分。

 

 戦闘に備えてもう少し余裕が欲しいところだが、そうなると出発のタイミングは──

 

《データ、聞こえているな?》

《はいはい! まだ繋げておりますとも!》

 

 先ほどの通信のために向こうが繋げたラインを通して、次席宮廷魔導士にメッセージを送る。

 

 本来こっちから繋げるには特定の場所に設置された端末を使う必要があるので、気を利かせて繋ぎっぱなしにしておいてくれた彼女に感謝だ。

 

《現地のキタール辺境伯に伝えておいてくれ。戦闘開始まで一日ほどの距離に敵が来たら連絡しろとな》

《命令違反する気満々ですね! さっすがヴィクトリア様!》

《できればやりたくはないがな。それと、そのタイミングになったら私達が出撃できそうな適当な理由をでっち上げてくれ》

《わっかりましたー! ザコいけど数の多い魔物が北側で湧いたとか言っておきます!》

《助かる》

 

 カルロスは大分こじらせているが決して無能ではない。

 

 口では帝国を侮るようなことを言っていても、実際には最大限の警戒を払って、かなりの戦力を引き連れていくだろう。

 

 そうなれば王都周辺を守る戦力はガタ落ちし、雑務のために気軽に動かせる部隊はそう多く残らない。

 

 そこへ面倒だが危険の少ない案件(嘘)が発生したとなれば、出撃の言い訳はいくらでも立つ。

 

「心してかかれよ。帝国は前回の部隊だけでも国境を落とせるレベルだった。それがやられるのを見て送り込んできた第二軍だ。最悪、私以上の敵が来ると思え」

「「「勝てるわけねぇじゃん!?」」」

 

 三年間、毎日のようにヴィクトリアにわからされてきた男達は絶望の声を上げた。

 

「何、最悪の場合は全裸土下座でもなんでもして、お前達の命だけはと、みっともなく命乞いしてやるから安心しろ」

「ダメですよ、ヴィクトリア様!? それは絶対にダメです!」

「おい、団長の全裸土下座だってよ」

「後ろから見てぇ」

「やっぱり、ただのドМなのでは?」

 

 涙目になってくれるのはミシェルのみ。

 なんとも薄情な部下達だった。

 

「とはいえ、お前達は貴族のボンボン。勝手に動かして死なせたら大問題だ。ゆえに今回の作戦は志願制で行く。覚悟のある者だけ、遺書を書いてからついて来い」

 

 その言葉に王下騎士団の団員達はお互いに顔を見合わせた。

 

 この三年で鍛えに鍛えてきたとはいえ、このような大一番に出るのは初めて。

 

 本来なら怖くないはずがない。

 しかし、

 

「おいおい、舐めんなよ団長!」

「せっかく鍛えた力だ! 使わず腐るなんてもったいねぇ!」

「せいぜい、あんたにぶつけられないストレスをぶつけてやる!」

「フッ。頼もしいな」

 

 「おっしゃー! やるぞぉ!」と言って気炎を上げる男達。

 そのテンションに唯一染まっていないミシェルも、両拳を胸の前でグッと握って気合いを入れていた。

 

 訂正しよう。良い部下達に恵まれたようだ。

 

◆◆◆

 

「カルロス様! 見えました! 帝国軍です!」

「ふん! 思ったより随分と遅かったではないか」

 

 ナイツ王国北側国境第一砦。

 

 前回の出撃時に使うはずだった物資が、ヴィクトリアに仕事を取られた影響で丸々残っていたため、すぐさま準備を整えて出撃できたカルロス率いる精鋭達。

 

 彼らが十日をかけて砦に辿り着き、その半日後に敵軍の姿が見えた。

 

 推定到達日時より五日も遅い。

 

 まあ、道中で魔物の襲撃にでも合ったのだろう。

 

「……あれが帝国軍か」

 

 そこにいたのは、見るからに強いということがわかる異質な軍勢だった。

 

 鎧ではなく軍服を纏い、剣ではなく魔銃を構える歩兵達。

 

 彼らの後ろで運ばれている兵器の数々と、それを運搬する巨大な魔物達。

 

「あれは、まさか地竜か……?」

 

 体長五メートルはある太い体をしたトカゲの群れ。

 

 それがサイズに見合った巨大な台車を引き、中に詰め込まれた兵器を運搬している。

 

「帝国は竜を調教しているのですか……!?」

 

 隣にいる愛する息子ダレルが驚愕していた。

 

 ナイツ王国が有する魔物戦力は、扱える者が限られ過ぎているユニコーンのような例外を除けば、動物に毛が生えたようなものばかりだ。

 

 あんな強くて便利なのを使えるとか羨ましい。

 

「惑わされるな! 我らは強い! 結界起動!」

「「「了解!」」」

 

 魔力を戦闘に使えない魔導の素質無き者達がその魔力を有効活用し、砦に刻まれた結界魔術の魔法陣に魔力を注いでいく。

 

 ナイツ王国最高の魔術師にして結界魔術の達人、シルド・ガラハドールの設置した至高の防壁だ。

 

 向こうからの攻撃は防ぎ、こちらからの攻撃は通す。

 

 これだけで並大抵の相手はこちらへ攻撃を通す手段を失い、一方的に撃たれて詰む。

 

 だが、今回の相手が並大抵ではないことくらいわかっている。

 

 何せ、あのヴィクトリアが強いと言った相手だ。

 

「砲撃開始!」

「「「ハッ!」」」

 

 引き連れてきた中央騎士団、及びその上澄みである近衛騎士団、更に現地戦力である北方騎士団の魔術師達が、帝国軍に向けて一斉に魔術を放つ。

 

 腕っぷしでは解決できないことを任される宮廷魔導士達と違い、騎士団にいるのは戦闘特化の魔術師達だ。

 

 カルロスが腕によりをかけて育て上げてきた中央の精鋭達。

 だが、それよりも北方の田舎者達が放つ魔術の方が遥かに強い。

 

「……いざ戦場で見ると恐ろしいな」

 

 彼らの魔術をやたらと強力にしているカラクリは、砦の上に設置された複雑な形状の大砲だ。

 

 先の戦いで帝国から奪い取り、捕虜から使い方を聞き出したという魔導大砲。

 

 誰でも使えるがコンセプトの魔銃と違い、魔術師の力を増幅して一発一発を上級魔術並みの威力に変える、魔導の杖の超強化版。

 

 難点は異様にデカくて重くて取り回しが悪く、それこそ地竜やヴィクトリアでなければ運べないこと。

 

 だが、固定砲台として砦に置いておく分にはノーリスクだ。

 

「ぬぅ……!」

 

 そんな大砲を含めた魔術の雨を帝国軍は防いだ。

 

 敵軍を守るように展開された半透明の壁が、全ての魔術をシャットアウトする。

 

「結界魔術……!」

 

 こちらと同じ結界魔術。

 

 ヴィクトリアが持ち帰ってきた兵器の中にあった、簡易の結界生成魔道具によるものだろう。

 

 だが、砦に術式を刻んでいるこっちと違って、持ち運び可能な魔道具であの強度は反則だ。

 

『撃ち返せ!』

『『『ハッ!』』』

「!」

 

 帝国軍も魔術を使ってきた。

 

 大砲の数は向こうが上。

 

 おまけに遠距離特化と思われる魔銃を持った兵士もそれなりにいる。

 

 だが、大部分がこちらの魔術とぶつかって相殺されているのもあり、シルド謹製の結界はしっかりと耐えてくれていた。

 

「撃ち続けろ! 長引いて困るのは補給が困難な向こうの方だ! 地の利を活かして、じゃんじゃん撃てぇ!」

「「「了解!」」」

 

 こっちの魔術師はちゃんと交代要員を確保してあるし、回復アイテムもたんまり。

 

 仮にそれが尽きたとしても、次席宮廷魔導士を通して後ろの都市に連絡を入れれば、いくらでも補充してくれる。

 

 これが三百年無敗を誇ったナイツ王国の戦い方だ。

 

「ぬっ……!」

 

 そこで帝国軍が次の手。

 

 敵陣の各所で魔術が発動。

 

 全長十メートルはある、黒い岩石の巨人の群れが現れた。

 

「【人形作成(クリエイト・ゴーレム)】か……!」

 

 人形作成(クリエイト・ゴーレム)

 

 土や岩石の人形を作って操る魔術。

 

 生み出す人形の強さや数によって等級が変わるが、あんな明らかに強そうな黒くて大いのが三十体もいれば、文句無しに上級魔術だ。

 

 これもヴィクトリアが回収した兵器の中にあった。

 

「ポンポンと上級魔術を使いおって……!」

「ち、父上、あれはマズいのでは……!?」

「狼狽えるでないわ!」

 

 優秀ではあっても、まだ経験の足りない息子に檄を飛ばす。

 

 同時に指示も飛ばす。

 

「大砲はゴーレムを砲撃! 人形相手に頭や胸を狙っても意味が無い! 足を狙え! 他の魔術師達は敵軍の魔術を全力で迎撃! 少しでも結界にかかる負担を軽減せよ!」

 

 自分の半分も生きていない小娘を嫉妬全開で睨みつけていた男とは思えない的確な指示。

 

 実績も実力もあって声も大きいリーダーの言葉を部下達は素直に実行し、ゴーレム達の足を大砲の連射が襲った。

 

 更にゴーレム達の足下で、強烈な爆発。

 

「これが魔導地雷……! 恐ろしい威力よ……!」

 

 先の戦いで帝国軍が自陣を守るために埋めていたという、踏めば大爆発を起こす兵器。

 

 良い位置にあったからそのままにしておいたとは聞いていたが、ゴーレムの巨大な足裏に踏まれて複数が連鎖爆発すると、とんでもない威力。

 

 だが、おかげで大砲と合わせて全てのゴーレムの足が砕け、転倒。

 

 機動力の殆どを失わせることに成功した。

 

「父上! 行けます! 勝てますよ、これは!」

「そうだろう、そうだろう! ヴィクトリア様などいなくとも、我らナイツ王国騎士団は無敵なのだ!」

 

 なお、ここまでの戦果の半分以上が、ヴィクトリアの回収した帝国産兵器によるものだということを言ってはいけない。

 

『地雷は消えたぞ! 突撃!』

『『『うぉおおおおおおお!!』』』

 

 しかし、ゴーレムの死は無駄死にではなく、その巨体の行進と転倒で殆どの地雷が爆発してしまった。

 

 倒れたゴーレムを足場にして堀すら無視し、帝国兵達が突撃してくる。

 

「矢を放て!」

 

 そこへ今まで射程が足りなくて使えなかった矢を一斉に射掛ける。

 

 原始的な武器だと侮ってはいけない。

 

 鍛え抜かれた怪力を持つ弓の達人が放つ矢は、下手な魔術よりも強い。

 

 だが、

 

『『『【携帯結界】起動!』』』

「ぬぅぅ……!」

 

 帝国兵達は左手で体を庇い、その左手の手首を中心に半透明の盾が出現した。

 

 装着型の結界魔道具。

 

 それが殆どの矢を弾いて防いだ。

 

「おのれぇ……!」

 

 さすがに小型化し過ぎたようで性能が随分と落ち、達人と呼ばれる者達の矢は防げていないが、それでも九割以上の矢を防げている時点で充分過ぎる。

 

「ッ……!」

 

 そうこうしているうちに、敵の先頭集団が砦に到達してしまった。

 

 彼らは特殊な靴で城壁を垂直に駆け上り、守りが結界しか無い部分をゴリゴリと削り始める。

 

 結界が砕けてしまえば、待っているのは魔術攻撃による崩壊だけだ。

 

「守備隊! なんとして奴らを叩き落とせ!」

「「「ハッ!」」」

 

 当然させるものかと王国兵達も奮闘するが、相手が悪い。

 

 すぐに一人が結界の一部を叩き割って、砦の中に侵入してきた。

 

『ハッハッハー! イッチャリー少将、一番乗りィ!』

「がっ!?」

「ぐはぁ!?」

 

 他とは違う軍服を着た男が、先端に刃の付いた魔銃を槍のように振るって兵達を蹂躙していく。

 

(こやつ、強い!)

 

 どう見ても英雄の領域に足を踏み入れた者。

 

 これが噂に聞いた将軍か。

 

 ならば!

 

「近衛騎士団、我に続けぇ! シキトール、指揮は任せた!」

「お任せを」

「父上!?」

 

 側近に全体の指揮を任せ、カルロスは精鋭達と共に敵の英雄へと突撃した。

 

 英雄に数をぶつければ死者の数がえげつないことになる。

 

 ゆえに、英雄は罠にハメて仕留めるか、それが無理なら同じ英雄を精鋭のサポートとセットでぶつける。

 

 それが古来より続いてきた英雄同士の戦いのセオリー。

 

「ナイツ王国総合騎士団長、カルロス・キャンベル! 参る!」

『ハッハー! 何言ってるか全然わかんねぇ!』

 

 言語の違う二人の強者がぶつかり合う。

 

 素の実力はほぼ互角。

 

 装備の質では圧倒的にイッチャリーが上。

 

 だが、それ以上に英雄のサポートができる精鋭達の力が大きい。

 

 イッチャリーのこじ開けた小さな穴は既に魔術師達が修復したため、彼に味方の援護は無い。

 

「ぬぅぅぅぅぅん!!」

『なん、だと……!?』

 

 カルロスの振るう家宝の大剣が、イッチャリーを守るやたら固い結界をぶち抜いて、その体を袈裟懸けに斬り裂いた。

 

『バカな……!? この俺様が、西大陸の、原始人どもに……!?』

「敵将の一人を討ち取ったぞぉ!」

「さすが父上!」

「「「うぉおおおおおお!!」」」

 

 一人で戦況を変えうる英雄の討伐に、王国軍が歓声を上げる。

 

 行ける。勝てる。帝国がなんぼのもんじゃ。

 

 見えてきた勝利の可能性に士気は最高潮にまで高まり──

 

「「「!?」」」

 

 ──直後、強烈な一撃が結界を穿った。

 

 極大の砲撃のような一撃が結界を割り、イッチャリーの時とは比較にならない大穴を空ける。

 

 そして──

 

「父、上……」

「………………………え?」

 

 それが着弾した地点に──大量の血痕と屍があった。

 

 その一角にいた者達が、軒並み叩き潰されてしまっていた。

 

 その中には──下半身を失ったダレルの姿もあった。

 

「助、け…………ぁ」

『あー、もういい。警戒しながらチンタラ攻めんのはもうやめだ。めんどくせぇ』

 

 結界の中に敵将がいた。

 

 イッチャリーより作り込まれた軍服を着崩し、魔力の残滓を纏う巨大な槍を持った男。

 

 極大の砲撃だと思っていた一撃は、槍を構えたこの男の突撃だったのだ。

 

 その男が、なんの感慨もなく、致命傷を負ったダレルの頭を踏み潰した。

 

「ダレル……?」

 

 唐突に息子を失ったカルロスが呆然とした声を上げた。

 

 優秀な息子だった。

 

 騎士としての才覚であれば自分以上のものを持っている、次代の英雄だった。

 

 長男には家督を譲り、次男であるダレルには総合騎士団長を継いでもらおうと思っていた。

 

 いつかは、あの忌々しい姫騎士を超えるという野望も託していた。

 

 それが、こんな、突然──

 

「アー……テューポーン帝コク軍『大将』ランス・ロッドシェル。参ル」

「貴、様……貴様ぁあああああ!!!」

 

 拙い西大陸語で名乗りを上げた敵将に、カルロスは怒りのままに突撃した。

 

◆◆◆

 

「走れ! 予定より少し遅れているぞ!」

「くっそ、化け物め……!」

「五百キロ近く走って、汗一つかいてねぇ……!」

「っていうか、ずりぃぞミシェルてめぇ!」

「ご、ごめんなさい!」

 

 時は少し巻き戻り、開戦に間に合うように適当な理由で王都を出立した、ヴィクトリア率いる王下騎士団。

 

 新入りで他より体力が劣る上に重装備ということもあって、遊ばせておくのももったいないユニコーンの背に乗ることを許されたミシェルに文句を言いつつ、なんだかんだで五百キロマラソンを順調に消化していた時のことだった。

 

「よし! ここで最後の休憩を取る! その後はゆっくり走って体力を残しつつ友軍に合流だ!」

「つ、疲れた……」

「でも、なんだかんだ戦えそうな体力は残ってるんだよな……」

「フッ。俺達も鍛えられたもんだぜ」

 

 五百キロを半日で走破して、まだ余裕のある野郎ども。

 

 性欲を糧にしたトレーニングの有用性をこれでもかと証明していた。

 

 ……と、その時。

 

『よっしゃー! やるぞ! 頑張るぞ! 手柄を立てて出世であります!』

「ん?」

 

 街道の先からそんな元気な声が聞こえてきた。

 

 結構な大声だったせいで、そこそこ距離があっても聞こえた。

 そっちを見れば、五人ほどの軍服を着た集団の先頭で、年若い少女が鼻唄を歌いながら元気良く行進していた。

 

「は?」

 

 帝国だ。どう見ても帝国の軍服だ。

 

 なんでもう国内にいる? というか、なんであんな遠足みたいな雰囲気で街道を歩いてる!?

 

「て、帝国兵だ! 構えろ! 戦闘開始!」

「は?」

「団長、ボケるには早過ぎ……って、速っ!?」

 

 戦闘開始と言いつつ、部下を待つことなく一人で突撃していく騎士団長。

 

 彼女は一戦力としてはともかく、指揮官としてはまだまだ新米だった。

 

『なっ!? 敵襲でありますか!? ぬわぁああああ!?』

『ぐ、軍曹ぉ!?』

『お、おのれ貴様! ぶげっ!?』

 

 どうやら精鋭はいなかったようで、ヴィクトリアが一秒とかけずに制圧。

 

 情報を搾り取るべく、全員生かして捕らえた。

 

『おい貴様、吐け。何故こんなところにいる? というか、どうやって国内に入った?』

 

 まだ国境砦の戦いが始まったという通信は受けていない。

 

 つまり、こいつらは国境砦をすり抜けて国内に入ったことになる。

 

 看過できる話ではない。

 

 なんとしてもカラクリを暴いておかなければ、例え砦を守り切れても敗北一直線だ。

 

『くっ、殺せ! 誇りある帝国軍人として、死んでも祖国の情報は吐かないであります!』

「こいつ……!」

 

 いつかヴィクトリアが言ってみたい台詞第一位を……!

 

 羨ましい!

 

「よろしい。ならば尋問だ」

『へ? ひゃああああ!?』

 

 ヴィクトリアは躊躇なく敵の先頭を歩いていた少女兵士の服を剥ぎ取った。

 

 野郎どもが「おおおおお!」と歓声を上げ、ミシェルが真っ赤になって両手で顔を隠した。

 

「喜べ。私は女を辱める尋問には一家言あるぞ」

「なんでそんなもんに一家言あるんだよ!?」

「あんた、どんどんド変態疑惑を否定できなくなってるぞ!?」

「でも、ありがとうございます!」

『や、やめ、やめろぉおおおおおおおお!?』

 

 その後、帝国軍シメール軍曹は、新たな扉を開くほどの壮絶な尋問の末、持っていた情報を全て吐かされた。

 

◆◆◆

 

「情報を整理するぞ。こいつらは魔物だらけの森を突っ切ってきた。方法は魔物避けの薬剤散布。それでも逃げない魔物は複数の英雄と数の力で正面突破。ウチの強みを丸々無視されるとはな……」

「トテモ、イイモノヲ、ミタ」

「ワガショウガイニ、イッペンノクイナシ」

 

 ナイツ王国が三百年無敗を誇った最大の理由は、東西南北に一つずつの通り道以外を、森や山などの天然の防壁が塞いでくれていたからだ。

 

 あそこに住まう魔物達は本当に強く、そこらの英雄より強いのがゴロゴロしている。

 

 ヴィクトリアですら通り抜けようと思えば多少の疲弊を覚悟しなければならない。

 

 まさか、あの魔の領域を突っ切ってくるとは予想外だった。

 

「国内に入ったのは将軍四名が率いる四軍の精鋭、合計千人と少し。それがバラけて国境周辺の町や村を片っ端から焼き払う。目的はナイツ王国の弱体化による特記戦力の封じ込めか……」

 

 あられもない姿でビクンビクンと震え、未だに顔面真っ赤っ赤なミシェルに毛布をかけてもらっている女軍曹曰く、こちらの作戦は保険とのことだ。

 

 ドゲスティエールを倒した相手が、万が一尋常ではない化け物だった時のために、弱体化したナイツ王国を盾に従属させるための策。

 

「帝国には良い軍師がいるな……!」

 

 だが、敵がヴィクトリアを警戒すれば国を滅ぼすのではなく、弱らせて彼女への人質として使おうとしてくるとわかったのは僥倖だ。

 

 最悪の結末が、最悪の一歩手前くらいにはなる。

 

 上手くすれば夢の雌奴隷生活も狙えるかもしれない。

 

 まあ、最善からはほど遠いので、もっと良い未来を求めて戦い続けるのは変わらないが。

 

《ヴィクトリア様! 北方第一砦で戦闘開始です! 急いでください!》

「くっ……! 始まってしまったか……!」

 

 尋問に少し時間をかけ過ぎた。

 

《データ! よく聞け! 重要な情報がある!》

《へ?》

 

 通信が繋がったタイミングを逃さず情報共有。

 

 話が進むにつれて、次席宮廷魔導士の声は焦っていった。

 

《やばいじゃないですか!? 地方の騎士団じゃ帝国兵に太刀打ちできませんよ!?》

《そうだ。本当にやばい。そして、良い作戦を考えている時間も無い》

《あばばばばばばは!?》

 

 次席宮廷魔導士がバグった。

 

《とりあえず、誰か軍略に長けた奴に策を考えてもらってくれ。その間、私は少しでも被害を抑えるために動く》

《わ、わかりました!》

 

 通信が切れる。

 

 そして、ヴィクトリアは何故か神に祈りを捧げている野郎どもに命令を出した。

 

「聞け! 私はこれから敵の作戦予定エリアを片っ端から走って回る! お前達は予定通り北方第一砦に合流しろ! 英雄級以上がいた場合、現地戦力と協力して意地でも私が行くまで保たせろ!」

「リョウカイ」

「イマナラ、ナンデモ、デキルキガスル」

 

 広大な作戦予定エリアを短時間で回り切るには、部下達をパージしてヴィクトリアが全力疾走しなければならない。

 

 だが、女軍曹からは大雑把な作戦予定エリアの情報は得られたものの、どの部隊がどこに行くかまでは本人も知らなかったせいで聞き出せず、英雄級と思われる将軍四人の居場所がわからないので、パージした部下達だけで周辺を守らせるのは危険過ぎる。

 

 だったら、味方の大戦力がいる場所に合流させた方がまだマシ。

 

 カルロス達と協力できるか大変心配だが、向こうもこっちも決してバカではないはずなので信じる。

 

(戦略的には国境の守りを最優先するべきなのかもしれないが…………いや)

 

 国境を支える町や村をゴッソリ削られたのでは、潤沢な物資という大きな手札が失われ、砦への輸送も移動も大変になり、飯も不味くて少なくなり、兵達のストレスも凄いことになる。

 

 帝国に抗う力を残したいのなら、国境とその周辺の両方を守り切らねばダメなのだ。

 

 できなければ遠からず詰む。

 

「お前達! 無事に勝てたら胸くらい触らせてやるから気合いを入れろ!」

「「「ふぉおおおおおお!!!」」」

 

 賢者のようだった男達が歓喜の声を上げ、一瞬にしてその顔が餓えた獣のそれに変わり、尋常ならざる気合いが注入された。

 

 涙目になってるミシェル以外に強烈なバフがかかる。

 

「行動開始!」

 

 そうして、ナイツ王国の真なる最高戦力が動き出した。

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