姫騎士ヴィクトリアの戦場   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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6 決着

『【嵐天の槍(ランス・テンペスト)】!!』

 

 初手はランスの攻撃から。

 

 カルロスに放った雨のような連打、王下騎士団に放った豪雨のような連撃を超える、嵐のような連続攻撃。

 

 その全てが飛翔し、ドゲスティエールのガトリングなんて目じゃない破壊の雨が迫る。

 

 それをヴィクトリアは──普通に剣で受け流した。

 

『──ファイア』

「!」

 そんなヴィクトリアに超長距離から狙撃。

 

 狙撃タイプの魔銃を持った兵士からの横槍だ。

 

「ハッ!」

『!?』

 

 彼女は頭を傾ける最低限の動作でそれを避け、スナイパーの方向に向けて鋭く剣を振り抜いた。

 

 三日月型の斬撃がブーメランのように飛んでいき、数キロは離れた場所にいたスナイパーが真っ二つになる。

 

『マジかよ……!』

 

 自分と戦いながら、専用装備も無しにこんな芸当を……!

 

 これは本人のスペックだけなら神将クラスの中でも上位かもしれない。

 

『撃てぇ!』

『『『おおおおおお!!』』』

 

 精密さでダメなら数の暴力で勝負。

 

 ここは帝国軍の陣形のド真ん中。

 

 前後左右から銃撃の雨がヴィクトリアに降り注ぐ。

 

 精兵ばかりを残したことが幸いして、どれもこれも近くのランスには当たらず、ヴィクトリアだけを狙って飛来する。

 

「ふん!」

『チッ……!』

 

 全方位から撃たれる状況で、ヴィクトリアが選んだのは前進。

 ランスの懐に潜り込むことで彼を盾にする。

 

『舐めんなぁああああ!!』

「!」

 

 しかし、足手纏いになることに強者のプライドが拒絶反応を起こし、ランスの連続攻撃のギアが限界を超えて一段階上がる。

 

 それがヴィクトリアを押し返し、ダメージこそ与えられなかったものの、再び銃撃の嵐の中に押し返した。

 

「すぅー……」

 

 押し返されたヴィクトリアが大きく息を吸う。

 

 取り込んだ酸素で腕の筋肉をパンプアップ。

 

 ビキビキと血管が浮き出した腕で、前方全てを薙ぎ払う極大の一撃を繰り出した。

 

 風圧が発生する。

 

『『『ッッッ!?』』』

 

 銃撃の嵐が、ランスの嵐のような連続攻撃が、全て風に飲み込まれた。

 

 終わった時には耐久力の低い者達が軒並み脱落し、逃げずに残った僅かな帝国軍は更に半数が脱落。

 

『ハハハ……! これだよ……! このデタラメっぷりがお前らだ……!』

 

 だが、とても人間とは思えない化け物っぷりを見せつけられても、ランスの戦意は欠片も衰えなかった。

 

 何せ、もう知っている。

 

 このくらいはやってくる化け物がいるのだと、十年も前に学んでいる。

 

『まだまだぁ!』

 

 かつては見せつけられた次元の違いに、戦わずして膝を折った。

 

 だが、今は違う。

 

 敵は圧倒的な高みにいる。

 

 追いつけないし、追い越せない。

 

 それでも跳ねるなり投げるなりして、槍の穂先の先端くらいは届かせてやる!

 

『ツチーム! 止めろ!』

『はい!』

 

 一人じゃ無理だ。

 だから、仲間を使う。

 

 最初に名前を呼んだのは、亡国に仕えていた時からの部下。

 

 土魔術の名手、ツチーム大佐。

 

『【うねる大地】!』

「!」

 

 ヴィクトリアの周辺一帯の地面がウネウネと形を変え、踏み込む足場を奪う。

 

 ランスを巻き込まず、ヴィクトリアの足下だけを狙うために、危険を承知で近づいた女軍人の勇気の一撃だ。

 

『【嵐天の槍(ランス・テンペスト)】!!』

 

 やりづらさを感じてジャンプで空中に逃れれば、そこへランスの連続攻撃。

 

 しかし、ヴィクトリアは風に舞う木の葉のように攻撃を受け流し、空中で身を捻って土魔術師に遠距離斬撃を放つ。

 

『カーベル!』

『お任せを』

 

 だが、身長二メートル半はある巨漢の盾使いが土魔術師を守り、ヴィクトリアの攻撃を受け流した。

 

 元ロンゴミアント王国最高のボディーガード、カーベル大佐。

 

 彼の技術をもってしても一撃で盾が半壊しているが、それでも一発は耐えた。

 

『エロジジイ!』

『ほいほい!』

「ぬっ!?」

 

 巨漢のカーベルの陰から、小柄な老人が鎖を射出。

 

 達人鎖使い、キンバック准将。

 

 彼の鎖がまず剣を振るう右腕に巻きつき、そのまま全身に絡みついて、ヴィクトリアは胸を強調するエロい感じで拘束された。

 

『うっひょー! 最高ぉ!』

『よくやった!』

「しまった……!」

 

 極まった動体視力と予測能力が鎖の軌道を正確に先読みしてしまい、こうなることを感じ取って、反射的に体が受け入れてしまった。

 

 煩悩がとんだデバフになっている。

 

『【英雄の槍(ランス・へーロース)】!!』

 

 動きの止まったヴィクトリアに、ランスが最高の一撃を放つ。

 

 地を蹴り、一筋の流星となって、空の上で無様を晒しているヴィクトリアに突撃。

 

「ヴィクトリア様ぁ!?」

 

 ミシェルの悲鳴が聞こえた。

 

 ヴィクトリアはとても申し訳ない気持ちになった。

 

 さすがに、これでやられたら死ぬ気で時間を稼いでくれた部下達に顔向けできないどころの話ではない。

 

「ふんッッ!」

『何!?』

 

 腹筋に力を込めて体を跳ね起こし、縛られた両足のフルスイングでランスの一撃を相殺。

 

 直後、全身の筋肉をパンプアップさせて、鎖の拘束を力尽くで引き千切った。

 

『ワ、ワシのアートを力技で……!』

 

 鎖自体の強度も半端じゃない上に、縛られた者が力を入れることすら封殺する、キンバック准将が人生をかけて磨き上げた至高の緊縛術が姫騎士の筋肉に敗れた。

 

 これで縛れないなら、もう生け捕りにされてあんなことやそんなことをされる未来は諦めた方が良いね。

 

「ハァアアアア!!」

『ぐっ……!?』

『ぬぅ……!?』

『おぎゅ!?』

『無念……!』

 

 近くをクルクルと舞っていた愛剣をキャッチし、敵全員に斬撃を浴びせる。

 

 渾身の一撃をふざけたエビゾリキックで粉砕されて体勢の崩れたランスは、盾にした結界を当たり前のように破壊されて片腕を失い、カーベル、キンバック、ツチームは大ダメージを受けて崩れ落ちた。

 

 ランス軍の精鋭がやられた。

 

『まだだ!』

『『『うぉおおおおおおお!!』』』

 

 ツチームが倒れてうねらなくなった大地に降り立ったヴィクトリアに、残った兵士達が全軍突撃。

 

 彼らは逃げることを選ばなかったモノノフ達だが、精鋭ではない。

 

 将官どころか左官や尉官すら殆どおらず、雑兵と一括りにされる者達が大多数。

 

 それでも、それぞれの引けない想いを胸に絶対強者へ向かっていく。

 

『シィィィィ……』

 

 彼らの奮闘を無駄にしないために、片腕を失ったランスは更に闘志を燃やす……のではなく、逆に心を静め始めた。

 

 息を吐き出し、吐き出す息に熱量の全てを乗せて、自分の中から追い出す。

 

 極限まで自分を殺し、気配を殺していく。

 

「なるほどな」

『『『ぐぁあああああ!?』』』

 

 向かってきてはヴィクトリアに返り討ちにされる人の波に紛れて、ランスの姿が消える。

 

 狙いは明白だ。

 

 この死屍累々の目眩ましの中に唯一の有効打であるランスを隠し、不意を突いた一撃でヴィクトリアを討つ気だろう。

 

『『『まだまだぁあああああ!!』』』

 

 恐らくはそれを承知で、命を捨ててヴィクトリアに向かってくる戦士達。

 

 彼らが命を懸ける理由をヴィクトリアは知らない。

 

 きっと、こちらの王下騎士団のように何かがあるのだろう。

 

 それをただ戦闘力が高いだけの煩悩まみれの自分が雑に殺していくというのは気分の良い話ではない。

 

 だが、

 

「……これは戦争だ」

 

 敵を殺さねば己だけでなく、己の背に守る者達まで無慈悲に蹂躙されてしまうという究極の免罪符のもと行われる虐殺。

 

 誰が何を考えていようと関係無い。

 

 ヴィクトリアの中身がさっきの鎖の余韻を忘れられないド変態だろうと、敵兵達の中身が譲れない何かのために殉じる英雄達であろうと、そんなことは何の関係も無く、ただ勝利条件を満たした者だけが正義だ。

 

 ゆえに──

 

 

『──【神影の槍(ファントム・ロンゴミアント)】』

 

 

 ただ一つの戦場の正義となるべく、おびただしい犠牲の中に隠れたランスが。

 

 ヴィクトリアの死角から、恐ろしいほど静かで、あらゆる全てを内側に閉じ込めた最後の一撃を放った。

 

『くっそ……!』

 

 いっそ笑うしかないという顔でランスが笑う。

 

 彼の渾身の一撃は──ノールックで伸ばされたヴィクトリアの手に掴まれて止められていた。

 

『結局、傷一つ付けられなかったか……!』

『すまんな。私は色々と強過ぎるんだ』

 

 肉体も、性欲も、性癖の癖も、それを抑え込む精神力も。

 

 ……強過ぎるというのも考えものである。

 

『がっ……!?』

 

 ランスの体から鮮血が舞う。

 

 ヴィクトリアの剣が、彼の四肢を斬り飛ばした。

 

『痛ぇ……!』

『お前を捕虜として拘束する。大人しくしていろ』

『おいおい、俺の話聞いてたよな? 潔く死なせてくれよ』

『敗者は死に方すら選べないと聞いた。それにわかっていると思うが、ウチの国には手段を選んでいられるほどの余裕が無いのだ。諦めろ』

『……ケッ』

 

 ヴィクトリアの事情もわかるのか、ランスは大人しく体から力を抜いた。

 

 まあ、手足が無いのでは舌を噛んで死ぬくらいしかできないだろうし、それも回復薬の一つもあれば阻止されてしまうので、無駄な抵抗だ。

 

『敵将ランス討ち取ったり! 勇ましき帝国の残党達よ! まだやるというのなら相手になろう! そうでないのなら武器を捨てて投降せよ! 王国第三王女ヴィクトリア・D・M・ナイツの名にかけて、悪いようにはしないと誓う!』

 

 それを聞いて、彼らは悔しそうに歯を食いしばった後、言われた通りに武器を捨てた。

 

 唯一ヴィクトリアを倒せるかもしれなかったランスを失った以上、これ以上の抵抗は何の意味も無い無駄死にである。

 

 それでも敵がクソ野郎なら死ぬまで抗っただろうが、一見すると高潔に見えるムチムチ女騎士だったので、ギリギリ心が納得した。

 

 見てくれに騙されている。

 

「我らの勝利だ!」

「「「う、うぉおおおおおおおお!!」」」

 

 もうダメだと思ったところからの大逆転勝利。

 

 その光景に王国兵達が絶叫を上げ、涙と鼻水が凄いミシェルがヴィクトリアの胸に飛び込んできた。

 

「ヴィクトリア様ぁぁぁぁ!!」

「本当によく頑張ったな。お前達のおかげで勝てた」

「うぇええええええん!」

 

 戦闘終了。

 

 王国軍は二割が戦死し、砦が半壊。

 

 帝国軍は九割が戦死か逃走。

 

 生き残ったランス大将以下、生き残って降伏した者達が捕虜となった。

 

 ……しかし、戦争自体は何も終わっていない。

 

「ミシェル。お前達は彼らを拘束し、戦場に散らばった武器を回収しろ。……仲間の仇は憎いだろうが、決して粗雑に扱ってはならんぞ。それは最終的に我らの首をしめる」

「はい! えっと、ヴィクトリア様は……」

「私は逃げた連中を追撃し、ついでにノルド公国の前線基地を壊してくる。それで少しは時間が稼げるだろう」

「へ?」

 

 訂正、戦闘すらまだ終了していなかった。

 

 ヴィクトリアは帝国兵達が全ての武器を剥ぎ取られて縛り上げられるのを確認してからマラソンを再開。

 

 逃げた者達を降伏させて捕虜を増やし、侵攻部隊を放出して一時的に戦力が落ちた隣国の帝国基地を破壊。

 

 あえて見逃した何人かの兵士達に伝言を頼み、後始末を現地の反乱勢力に丸投げして、火事場泥棒のごとく高位っぽい武器を抱えられるだけ抱えて帰還した。

 

 とんでもない化け物っぷりに敵味方揃って白目を向き、ランスとその側近だけが「まあ、それぐらいやるだろうな」と納得したという。

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