姫騎士ヴィクトリアの戦場   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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9 姫騎士VS神将

『「え? え?」』

 

 ホームラン! されて空の旅に送り出されたキーガは大分混乱していた。

 

 彼は生まれついての大天才であり、生まれついての絶対強者である。

 

 同格以上は同じ神将しかおらず、神将同士のガチバトルは禁止されているので、ここまで強烈な攻撃を受けたのは人生で初めてだった。

 

「グォオオオオオオオ!」

「キシャァアアアアア!」

 

 そんなキーガに空を飛ぶ竜や巨鳥の魔物が襲いかかる。

 

 地海空は魔物の領域。

 

 行きはその魔物の中でもかなり強い(ヌシ)クラスの奴を従属魔術で従えて乗り物にしていたから通過できたが、身一つで飛べば「ワイの縄張りになんの用じゃ!」「いてこましたる!」とばかりに目をつけられる。

 

『「うるさいなぁ! 【神炎砲(イフリート)】!」』

「「「ギギャアアアアア!?」」」

 

 無数に分裂した神銃(ミストルティン)の銃身を全方位に向け、お気に入りの最上級火魔術を発動。

 

 360度全てに獄炎を放射して魔物を焼き払うキーガは、遠目に見るともう一つの太陽のようだった。

 

 そして──その炎をスパッと斬り裂いてヴィクトリアが飛来する。

 

『「へ? もぎゃっ!?」』

 

 当たり前のように脚力だけで雲の上まで跳躍し、上からフルスイングをもう一発。

 

 守護結界に更なる亀裂が生じ、キーガは打ち落とされて地面にめり込んだ。

 

「ハッ!」

 

 ヴィクトリアはそれを追い、空中を蹴りつけてキーガの落下地点に特攻。

 

『「【二十重・物理結界】!!」』

 

 しかし、さすがにノーガードのまま殴り続けさせてはくれず、キーガの魔術が発動。

 

 六角形の盾のように展開された結界が組み合わさって多面体となり、彼を覆う。

 

 指定範囲を小さくして効果を跳ね上げた結界を同時にいくつも展開し、隙間を無くすという高等技術。

 

 それが落下速度の乗ったヴィクトリアの一撃を完璧に受け止める。

 

『「!?」』

 

 だが、一撃でダメなら連撃とばかりに、ヴィクトリアは結界一つに狙いを絞って連続斬り。

 

 ピシピシと結界がヒビ割れていき、キーガは冷や汗を流しながら、叩き割られる前に次の一手を放った。

 

『「【神炎砲(イフリート)集中砲火(フルバースト)】!!」』

 

 先ほど360度に放った獄炎を、正面のヴィクトリアのみに向けて放つ。

 

(……なるほど。これは無理だな)

 

 その一撃は、彼女をして正面から受け止めたらタダでは済まないと確信する威力だった。

 

 ヴィクトリアの最高火力より余裕で強い。

 

 だが、

 

『「ッ!?」』

 

 あくまでも当たればの話だ。

 

 ヴィクトリアはサイドステップで獄炎を避ける。

 

 キーガはそれを追って銃を振り回したが、ヴィクトリアはそのまま一周回って元の位置へ。

 

 獄炎がマズい方向へ向かないうちに、結界一枚を狙った連続斬りを再開。

 

 そして、とうとう結界を叩き割り、空けた穴から手を突っ込んでキーガの首を掴んだ。

 

『「ぐえっ!?」』

 

 首を掴んだ手を振り回してキーガを結界から引きずり出し、地面に叩きつける。

 

 そのままマウントポジションを取って、ムチムチの両足でキーガの腕を封じ、剣の柄頭で顔面を叩く! 叩く! 叩く!

 

『「ぅ、ぁ……」』

 

 ヒビ割れていく守護結界と、無表情で顔面を狙い続けてくるヴィクトリアに、キーガは人生で初めての恐怖を抱いた。

 

 いくらスペックで勝っていようと、こうなってしまっては意味が無い。

 

『「しょ、【短距離転移(ショートワープ)】!」』

 

 しかし、そこで硬直ではなく逃走を選べたのは、根っこの部分が戦いに向いていたからだろう。

 

 キーガの体が消える。

 

 空間魔術。

 

 使い手は大陸に五人もいないと言われる、結界魔術以上の激レア魔術。

 

 だが!

 

「それの仕様は知っているぞ!」

 

 過去にはナイツ王国にも使い手がいたらしく、文献だけは城の図書室に残っていた。

 

 空間魔術の中で最も有用な瞬間移動の魔術。

 

 発動には莫大な魔力を消費し、起動から発動までの間にも結構なタイムラグがある。

 

 そして、消費魔力と発動までのタイムラグは、瞬間移動する距離の長さに比例する。

 

 つまり、マウントポジションから一刻も早く脱出しようと発動を急いだ以上、そこそこ近い場所にしか飛べない!

 

『「ひっ!?」』

 

 少し探せば、キーガの気配はすぐに見つかった。

 

 五百メートルほど離れた林の中。

 

 その程度の距離など一瞬で詰められる。

 

『「く、来るなぁあああ!」』

 

 キーガは涙目で魔術を発射。

 

 使ったのは【神炎砲(イフリート)集中砲火(フルバースト)】。

 

 避けるのは容易──

 

「!?」

 

 いや、ダメだ。

 

 この攻撃は避けられない。避けてはいけない。

 

『「…………え?」』

 

 ヴィクトリアは、避けなかった。

 

 必死に剣を振るって獄炎を散らし、結果として剣は溶解、両腕にも決して軽くはない火傷を負った。

 

 その結果にキーガの方が驚く。

 

(な、なんで? なんで避けなかっ…………あ)

 

 彼女が回避しなかった、いや回避できなかった理由に気づき、ニチャァァと、キーガの口角が吊り上がった。

 

『「アハハハハハ! そっか! そうだよね! 避けられないよね姫騎士様は!」』

 

 ヴィクトリアの背後には──王都があった。

 

 キーガの神炎砲(イフリート)の射程は長い。

 

 ここからでも余裕で王都を焼き払える。

 

 瞬間移動で逃げた位置が良かった。

 

『「大逆転だね! さあさあ、どこまで耐えられるかなぁ!」』

「くっ……!」

 

 キーガは笑顔で魔術の乱射を始めた。

 

『「【色彩の雨(カラフル・レイン)】!」』

 

 火、水、土、雷、氷、あらゆる魔術が飛んでくる。

 

 ヴィクトリアの帰るべき王城を吹き飛ばした攻撃。

 

『「【魔力強化(マジック・ブースト)】! 【火炎強化(フレイム・ブースト)】! 【水流強化(アクア・ブースト)】! 【暴風強化(ウィンド・ブースト)】! 【大地強化(アース・ブースト)】! 【電撃強化(サンダー・ブースト)】! 【氷結強化(フリーズ・ブースト)】!」』

 

 余裕ができたことで追加の魔術も発動。

 

 結界魔術より手っ取り早い強化魔術で自分を強化。

 

『「【修復・軍服守護結界】! 【修復・二十重・物理結界】!」』

 

 そして、ヴィクトリアのラッシュでボロボロになった結界の修復まで始めてしまった。

 

 ここまでの戦いの成果が、無に帰していく。

 

『「アハハハハハ! 君自身は無事でも、服はどんどん破れていくねぇ! 面白ーい!」』

「ッ……!」

 

 ヴィクトリアは必死に迎撃を続けるが、彼女の肉体より遥かに脆い鎧や衣服が先に悲鳴を上げた。

 

 破れ、千切れ、消し飛び、徐々に乙女の素肌があらわになる。

 

 おのれ、なんという辱めを。

 

 興奮してしまうではないか。

 

「スッポンポンになったら、できるだけ情けなくお願いしてみなよ! そうしたら君一人グッチャグチャにするだけで許してあげるからさぁ!」

 

 だから、そういうのは変態姫騎士を喜ばせるだけだからやめろと。

 

(……最低限、力を見せつけることはできただろうか)

 

 ヴィクトリアの中にそんな気持ちが生まれる。

 

 キーガは強い。

 

 単純なスペックならヴィクトリアより上。

 

 幼いせいか、多すぎる手札を有効活用し切れていない印象を受けるが、それでも足枷の付いたヴィクトリアとの差は歴然だ。

 

(今なら、ギリギリ私一人の身で済ませられるか……?)

 

 まだ脅しは足りていない。

 

 キーガの顔を見ればわかる。

 

 多少の恐怖は感じているようだが、あの程度では本当に最低限だ。

 

 だが、最低限でもナイツ王国が生き残る目は生まれた。

 

 やれるだけのことはやったと言えるかもしれない。

 

(なら、もうこのまま諦めてしまっても……)

 

 ──ヴィクトリア様……! ご武運を……!

 

「ああ、くそっ……!」

 

 やはりあれは効果覿面だったようだ。

 

 腹の奥で暴れる煩悩に蓋をされてしまう。

 

 快感でしかない戦闘のダメージなんかより遥かに苦しい。

 

《ヴィクトリア様!》

《! データか!》

 

 その時、次席宮廷魔導士から通信が入った。

 

《今、ケンチークさんが分厚い防壁を完成させました! エンジェリーナちゃんがシルドさんを回復させてくれて、結界の上乗せもバッチリです! 後ろは気にせず暴れちゃってください!》

「……まったく」

 

 諦めて快楽に溺れるチャンスを尽く潰しおって。

 

 酷い仲間達だと、ヴィクトリアは笑った。

 

「どうやら、私の雌奴隷生活(ゴール)はここではないようだ」

『「ッ!?」』

 

 ヴィクトリアが動き出す。

 

 横っ飛びでキーガの暴風圏から逃れ、側面から接近。

 

『「く、国を見捨てた!? 騎士として恥ずかしくないの!?」』

「お前は私以外を計算に入れていないらしいな」

 

 宣言通り、ヴィクトリアが迎撃をやめた魔術は仲間達が防いだ。

 

 土の防壁が、シルドの結界が、防壁の上から放たれるミシェルのガトリングや魔術師達の一斉砲火が、距離によって威力の減衰したキーガの大魔術を止める。

 

『「く、【超巨大人形作成(クリエイト・ギガントゴーレム)】!!」』

 

 キーガの周辺一帯の地面が隆起した。

 

 キロ単位の地面が巨大な人型の上半身となり、凄まじく巨大な掌でヴィクトリアを叩き潰しにくる。

 

「鈍重だな」

 

 しかし、それが振り下ろされる前に、ヴィクトリアは巨大ゴーレムの根本に到達。

 

 胴体を拳で粉砕してトンネルを掘り、直線距離でキーガに接近した。

 

「む……!」

 

 キーガの気配が消えた。

 

 また瞬間移動だ。

 

 巨大ゴーレムで時間を稼いで、さっきよりも遠くに逃げられた。

 

「だが、それにはもう慣れた!」

 

 キーガの気配を捕捉。

 

 約二キロ先、周囲に他の人間の気配無し。

 

 ヴィクトリアは安心して、砕いた巨大ゴーレムの欠片である大岩を持ち上げて投げつけた。

 

 二キロ先に、凄い勢いで。

 

『「!?」』

 

 まさか、こんなすぐに攻撃が来るとは思わず、音速を越えて飛来した大岩はキーガに命中。

 

 余裕ぶっこいていた時に補強された守護結界に阻まれてダメージこそ与えられなかったが、動揺させて時間を稼ぐことはできた。

 

 その隙にヴィクトリアはダッシュ。

 

 マラソンではなく短距離走の走り方により、約五秒でキーガのもとへ。

 

「ふん!!」

『「あがっ!?」』

 

 加速の乗った拳がキーガの顔面にクリーンヒット。

 

 これも守護結界が防ぎ切ったが、ヴィクトリアの拳は下方向に加速して、キーガの後頭部を地面にめり込ませる。

 

 そして、再びのマウントポジション。

 

「すぅぅー……!」

 

 ヴィクトリアは大きく息を吸い、腕の筋肉をパンプアップ。

 

 強化された両拳によるラッシュで執拗に顔面を狙い始めた。

 

 修復した結界がどんどんヒビ割れていく。

 

『「【短距離転移(ショートワープ)】ぅぅぅ!!」』

 

 再びの悪夢にキーガは錯乱し、成功体験にすがって空間魔術を発動。

 

 しかし、本当に発動速度を優先し過ぎて数十メートル先にしか飛べず、瞬で捕獲されてまたラッシュ。

 

『「しゅ、【無力の呪い(シュヴァハ)】!!」』

 

 キーガの周りを呪いの光が照らした。

 

 敵を弱体化させる呪縛魔術。

 

 だが、ヴィクトリアの動きは殆ど変わらない。

 

 相手の肉体に直接作用する魔術、特に負の効果を与える魔術は相手の魔力耐性にモロに影響を受ける。

 

 大抵の強者は耐性も優れているので、キーガとヴィクトリアのレベル差ではそこまでの効果が出ない。

 

『「【次元封印(ディメンジョン・シール)】!!」』

 

 次は封印魔術。

 

 倒せない相手は封じ込めるのがお約束だ。

 

 だが、ヴィクトリアを内側に封じるために歪み始めた次元は拳で粉砕された。

 

 封印には時間がかかるのもお約束である。

 

『「う、うわぁああああ!?」』

 

 キーガは咄嗟に思いつく限りの魔術を試した。

 

 けれど通じない。

 

 ヴィクトリアは意地でもマウントポジションを譲らない。

 

 そうしているうちに、とうとう彼の身を守る守護結界は限界に達し──

 

『「ぁ……」』

 

 ヴィクトリアの拳が結界を破壊して、キーガの頭を粉砕した。

 それで、終わりだった。

 

「ぜぇ……ぜぇ……! ハァ……ハァ……!」

 

 戦闘が終わり、さすがの化け物ヴィクトリアも多大なダメージと疲労によって息が切れ、しばらく呼吸を整える。

 

 久しぶりの洒落にならない痛みと苦しみに体は喜んでいるが、それを堪能しようという気分にはならない。

 

「…………」

 

 殺した。死んだ。

 

 殺さず捕虜にしようとか、心を折って帝国との交渉窓口に使おうとか、ほどよく力を見せつけてから降参しようだとか、そんなことを考える余裕が無かった。

 

 あと少し決着が遅ければ、倒れていたのはヴィクトリアの方だった。

 

 完全敗北かギリギリの勝利しか選べなかった。

 

「…………」

 

 脳裏に浮かぶのは決着の瞬間、恐怖に染まった子供の顔。

 

 仲間達を散々にいたぶってくれた奴だが、やはり気分は良くない。

 

「……負けて捕らわれた方が遥かに気楽だな」

 

 気持ちの良い勝利などあり得ない戦争にため息をつきながら、それでも決して項垂れることは無く。

 

 ヴィクトリアはボロボロの体で、されど守るべき者達にはフラついた様子を一切見せず、勝利の凱旋をした。

 

 その堂々たる姿を見た王都が歓声に沸く。

 

「「「わぁあああああああ!!」」」

「ヴィクトリア様ぁ!」

「おお、女神よ! 勝利の女神よぉ!」

 

 ドゲスティエールを倒した時のように祈る者達まで現れた。

 

 しかし、必要なことだろう。

 

 信じる者は救われる。辛い時にすがれる対象ができるから。

 

 今回の一件で大混乱した王都には救いが必要だ。

 

「「「団長!」」」

「ヴィクトリア様! お帰りなさい!」

「お前達。復帰が早いな」

 

 そんな彼女のもとに走り寄る部下達。

 

 こちらも治療が終わったようだ。

 

 誰も彼も死体半歩手前だったというのに、本当に優秀な生命線には感謝しか無い。

 

「あ」

「「「!?」」」

 

 その時──ヴィクトリアの服が限界を迎えた。

 

 キーガの悪意によってズタズタにされたドレスアーマーが「ブチッ」という音を立てて引きちぎれ、彼女の大層ご立派なものがこんにちはする。

 

 部下達の前どころか、祈る国民達の目の前で。

 

「わ、わぁああああ!? 見ちゃダメです! 見ちゃダメですッッ!」

「最、高……!」

「良いもん見た……!」

「死ななくて良かった……!」

「おお、戦いと性愛の女神様じゃあ!」

 

 真っ赤になってアタフタしたミシェルが必死に自分の背中で隠そうとし、他の部下達は万感の想いに浸り、国民達の祈りには変なもんが加わった。

 

 やめとけ。そいつに性愛なんて司らせたら大変なことになるぞ。

 

(な、なんというご褒美……!)

 

 手ブラで胸を隠すヴィクトリアは震えていた。

 

 羞恥ではなく、突然の恥辱による興奮で真っ赤になっていた。

 ハタから見ると恥じらう乙女にしか見えないあたり、実にタチが悪い。

 

(ああ、頑張った私に天がご褒美をくれたのだな……!)

 

 キーガ戦の疲労が全てどこかに吹き飛んでしまった。

 

 今から神将と連戦しろと言われてもバッチコイだ。

 

 露出プレイ一発で完全回復とか、本当にわけのわからない生態をしていらっしゃる。

 

 そうして、変態姫騎士VSクソガキ十二神将の戦いは終わった。

 

 勝者、変態姫騎士!

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