『クリア・ノート』に転生しました。 作:ファウード編アニメ化まだですか?
「……おや、なんて顔をしているんだい? 君達は僕を殺し……ないしは消す為に戦っていた筈……」
ゆらり。
体を起こして、両手を広げた。
……意図的に、彼等を煽るように。
「そんな戦いの中で、僕が君達を殺す……消す事に躊躇うとでも? 殺し合いなんだ。攻撃を見極めるのを失敗した者から消えていく……至極当然の帰結だと思うけどね」
苦虫を噛み潰したような、そんな表情を浮かべる彼等に、意識して笑みを浮かべた。
「あ、もしくは誰も犠牲にならず、僕に勝てると、そう本気で信じていたのかい? もしそうなら流石に考えが甘いと言わざるをえないよ。僕を倒し、みんな無事でハッピーエンド……そんなのただの夢さ。現実はそう甘くない」
ガッシュと清麿は、歯を食い縛り、憤りを我慢出来ずにいる。
きっと、今にも僕に襲い掛かりたいのだろう。
そうしない理由は単純……デュフォーに止められているからだ。
その同心円の瞳で僕を見つめながら、勝ちの目を探っているのだろう……
「三対一で漸く戦いになっていた状態で、僕の動作を抑制する役のブラゴが真っ先に落ちた……。さあ、君達の『答え』は変わらないかな? ちゃんと、僕を倒せる『答え』……出せてるかい?」
不敵な笑みを浮かべて、言葉を続ける。
さぁ、どうする?
憎いだろう、苦しいだろう。
仲間を奪われて、悔しくて仕方無いだろう。
怨敵である僕に……どう戦う。
デュフォーの瞳が細められる。
訝しむように、何かを見極めるように……僕をじっと見つめていた。
「『答え』は出たかな? なら再開しよう。もう少しで僕の目的は果たされる……精々足掻いてくれ。僕にはそれが必要だ」
僕の一方的な宣言に、彼等は即座に身構える。
ふむ……切り換えが早い。
既に今日二人仲間を失っているからだろうか。
ガッシュも……目に涙こそ浮かべているが、その闘志は衰えるどころか増してすらいる。
「行くぞガッシュ! 気を引き締めろ!」
「ウヌ!」
「俺の目の前で民を害した報い、受けて貰うぞクリア!」
並び立つ王の雷を受け継ぎし双子……
感慨深い……そう感じる。
ガッシュへの恨みを憎しみを、直接ゼオンから聞いて感じていたからこそ……強くそう思う。
僕は目を細めその光景をじっと見つめながら、手を前に向けた。
「『テオラディス!』」
「「『テオザケル!』」」
ドッ!
真正面から衝突する、消滅波と雷……。
さあ続けよう、魔界の運命を決める……最後の戦いを。
この末に、僕の目的は……果たされる。
「……これだけ直接見ても『答え』が明確な形で出ない……こんな事は初めてだ。クリア……クリア・ノート。お前は一体……何なんだ……?」
迸る雷の向こうで、顔を押さえ冷や汗を流したデュフォーの呟きが、僅かに聞こえた。
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……孤児院に戻ってまず感じたのは、静けさだった。
有り得ない事だった。
僕の住む孤児院は確かに小さく、子供達も僕を含めて両の手で数えられる程しかいない。
だが、逆に言えば年端も行かぬ子供達が数人はいるのだ。
しかも、魔物の子供……力の有り余る魔物の子供達は日中いっぱい遊び回ってもなお元気だ。
毎度昼寝の時間や、夜の寝かしつけに苦労させられる……。
だからいつも、孤児院は外からでもわかる程に騒がしい……騒がしい筈なのに。
「……不自然に静かだ」
……とても美味しいおやつを皆で黙々と食べてる……なんて事だと良いんだけどな。
そう楽観的な思考をしてみたけれど、僕の予感はそれを否定している。
そうはならない、と。
目が、疼く。
……嫌な予感が、嫌な想像が募る。
「っ……みんな! 何処にいるんだ!」
僕は思わず駆け出していた。
この時間、レフェは子供達を家に戻している筈だ。
だから、まずはさっきまで皆が遊んでいた筈の広場へと向かう。
先刻の騒がしさが嘘のように静まり返っている広場には、僕が最後に蹴ったボールだけがポツンと残されていた。
そして……そのすぐ近くに残された、森の中にあったものと同じ、破壊の跡……。
「かくれんぼかい! 何処だみんな!」
そう問い掛けるも、答える者はない。
気配はしない……ここで何かが起きたのは確かなのに、何もない。
誰もいない、誰一人として。
嫌な想像ばかりが膨らんでいく……。
「……何があったんだ……ここで、何が……」
そう憔悴したように呟くも、内心は自分でも驚く程に凪いでいた。
そして、ほぼ確信していた……何が起きているのか……何が起きたのか……。
ただほんの少し……名残惜しさのようなものを感じて……感傷に浸りたかった。
ここで過ごす日々は……とても心地好かったから。
レフェと
だから……自分の本能に従わず、生温い日々に身を投じていた。
「…………でも、それも終わり、か」
ぐしゃ
拾っていたボール、一部が抉れていたそれを落とせば、弾むことなくぐしゃりと形を崩した。
視線を向けた先、今まさに孤児院の壁に穴が空いたのが見えて、そちらへ足を向けた。
……
「『ラディス』」
ゴッ
辿り着いた先、まだ立てない赤ん坊が寝かせられていた部屋に、彼女はいた。
手作りのベッドの上ですやすやと安らかな寝息をたてていた赤ん坊が、パカリと口を開いていた彼女の目の前で消滅した。
彼女の足元には、骸骨の首……レフェの首から上だけが転がり、ピクリともしていなかった。
「……
彼女の名前を呼んだ。
自分でも驚く程に硬い声だった。
自分で思うよりも、緊張しているのかもしれない。
彼女は、レイは、ピクリと肩を揺らすと、ゆっくりとした動作で僕を振り返った。
「…………」
その空虚な瞳には、何も映っていなかった。
今この瞬間消し去った無垢な赤子も、足元に転がる保護者の亡骸も、僕の事も……果ては自分の事すら。
何もかも何にもない、寒々しい、がらんどうの瞳だった。
……気付けた、僕は気付けた筈だ。
レイの様子がおかしくなったのはついさっき、という訳じゃない。
予兆はあった。
そこでなんらかの手をうてた筈だ。
「クリア……」
そう思考するべきだった。
「
その深紅の瞳を暗く淀ませ、レイは口元に笑みを浮かべる。
その言葉に彼女を感じず、重なる声に彼女以外の意志を感じて……ひどく心苦しくなった。
「
彼女からは、情というものが一切感じられなかった。
ただ目の前に壊せるものがあるから壊す……そんな程度。
いっそ幼いともいえるその思考は、ひどく残酷だった。
「『ラディス』」
パカリと無造作に開いたレイの口が、見ることも叶わない何かを吐き出した。
それの正体が消滅波である事が、僕にはわかる。
……嫌な予感が的中してしまった事が、予想し得た現状が……僕の心を苛む。
自分に迫る消滅波に、手を向けた。
死を目前にし引き伸ばされた時間の中、僕はレイに視線を向けた。
何も、何も感じていない様子が、僅かばかりも表情を動かさない彼女が……ただただ悲しかった。
「『スプリフォ』」
パシュゥ
空気の抜けたような音が響き、彼女の口から放たれた消滅波は、僕の術の力でその力を失った。
「……?」
僕が無事であることが不思議なのか、彼女は首を傾げる。
その様子に……僕を消そうとした事による情動は、殆ど感じられなかった。
困惑にも届かないような、そんな僅かな情動を感じられた程度だった。
消滅した空間に流れ込む風を感じながら……静かに僕は目を細めた。