『クリア・ノート』に転生しました。   作:ファウード編アニメ化まだですか?

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『消滅』

 滅びを求める『セウノウスの声』は、聞こえていた頃四六時中僕を苛んでいた。

 そうするべきだという使命感、そうしなければならないという焦燥感、そうするのが当然だという義務感……声が聞こえる度にそれらの強い感情が呼び起こされる。

 端的に言えば、『魔界を滅ぼさなければならない』と無意識で常に思考してしまう状態にされてしまう。

 普通の思考回路を持つなら『何故?』と考えるだろう。

 何故滅ぼさなければならないのか……けれど、結論が常に聞こえてくる以上、思考回路は自己保全の為に自分にとって都合の良い『答え』を作り出す。

 そもそもこの世に生物が繁栄している事に疑問を持ったり、世界は人や魔物が繁栄しているべきではないと思ったり……支配されていない状態が正しい状態だと思ったり……形は様々な破滅願望とも言えるような『答え』を導きだしてしまう。

 これをまっさらな状態から植え付けられたのだとしたら、()()()()()()()()()がああも歪むのは当然だと思った。

 前世の倫理観を引き継いでいて、この世界が創作の……かつて僕が心から楽しんで読んだお話の世界だと気付いて、消したくないと強く思った僕だからこそ、その声を振り払う事が出来ただけなのだから。

 

 ……『滅びの声』、『セウノウスの囁き』が僕に見切りをつけたと判断したのは、声が聞こえなくなってから……ではない。

 確信したのはつい先刻……それまではただ黙っているだけだと思っていた。

 新たな宿主を見初めていたなんて事には気付けなかった……いや、気付こうとしなかった。

 心の何処かで、僕は特別な存在で、僕以外に()()()()()()()の役目を果たせるような存在はいないと思い込んでいたから。

 ……僕と同じ、『消滅』の素質がある少女がすぐ側にいたのに、傲慢にもそう思っていた。

 結果、彼女の変化に気付いていながらも見て見ぬふりをして……こんな惨劇を招いてしまった。

 

 ……『答え』を求めるまでもなく、この孤児院に生存者はいない。

 誰も思いもしなかっただろう、問答無用で消滅させられるなんて……。

 子供達の中で一番優しかった彼女が、レイが、誰かを害するなんてきっと誰一人思っていなかった。

 だからきっと、先程まで姿の見えなかったレイを心配して皆が駆け寄ってきたところを……。

 

「『ラディス』」

 

「『スプリフォ』」

 

バシュゥ

 

 再度不意に放たれた消滅波を、また同じように消し去る。

 ……きっと、今のようになんの予備動作もなく、前触れもなく、消滅させられたのだろう。

 苦しむ暇すらない程に……一瞬で。

 

 反対方向に首を傾げたレイからは、理性を感じとる事は出来なかった。

 既に『セウノウスの囁き』で自我が押し潰されているのだろう。

 あまりにも自我が希薄で、何の感情も読み取れなかった。

 

 きっと、これから彼女は『セウノウス』の意志のままに、魔界を消し去るように行動するだろう。

 ()()()()()()()()()のように『どうすれば魔界を滅ぼせるか』という思考すら持てない彼女は、魔界の王を決める戦いに参加し王となり、特権によって魔界の住人を消す……そんな方法を思い付く筈もない。

 恐らくはこのまま目につく人々を消し去り続け……そしていずれは返り討ちにあうだろう。

 消滅の術は確かに普通の術よりも強力だ。

 だが、()()()()()()()……だったか。

 彼のように素で消滅の力に抗える存在もいるように、魔界はただ強い術を使える程度で滅ぼせる程甘くはない。

 道中ばで彼女が力尽きるのは……ほぼ間違いないだろう。

 ……きっと、そんな事は『セウノウス』には関係ないんだろうな……。

 彼女が死ねばまた、別の素質のある存在に、囁き続けるんだろう。

 魔界を滅ぼすまで。

 

 同じ境遇の仲間を何人も消し去って、慕っていた恩師も可愛がっていた雛鳥すら消して、なんの痛痒も感じていない様子の少女は……。

 

「…………可哀想に」

 

 あまりにも、哀れだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴキッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふと、手の平を見る。

 命を奪ったのは、久し振りだ。

 ブラゴはギリギリ先に魔界に送還され死こそ迎えていないが本の持ち主(パートナー)のシェリーは消滅した。

 つまり、僕が殺した。

 

 ()を殺したのは初めてだけど……。

 

「…………ふぅ」

 

 そこまで……思うところはないね。

 

 まぁそもそも、僕がこの場で魔界の王になれば、戦いによって傷付いた人間界は人、物、自然問わず全て修復される。

 今消し去ったシェリーも、健康体で戻ってこれる事を僕は知って、理解している。

 ……だから罪悪感はそこまでないのかもしれない。

 

「「『ザケルガ!』」」

 

 挟み込むように、二人の貫通力の増した電撃が、僕へと放たれる。

 

「……ふん」

 

バチンッ!

 

 今の僕なら、腕の振りだけで弾く事が出来る。

 ……ゼオンのほうが多少痺れるかな。

 ガッシュもそこそこ鍛えたようだけど、ゼオンの練度にはまだまだ及ばないようだ。

 

 人間をわざわざ消す必要性はないけれど……生かしておく必要もない。

 ブラゴを消した時と同様、狙えるならば諸とも消滅させてしまおう。

 特に……ずっと僕を見通そうと目を見開き続けている、デュフォー……。

 幼少期から鍛え続けた答えを出す者(アンサー・トーカー)の力は、清麿とは比べ物にならないだろう。

 もしかしたら、僕自身の全てを……完全体の事や『セウノウス』の事すら見通す事も可能かもしれない。

 ……やはり、彼は危険か。

 明確な『答え』は出ないけれど……可能性を示唆されてしまえば、彼を放っておく選択肢は選べない。

 

ブオンッ!

 

「『エクセレス・ザケルガ!』」

 

 ゼオンのマントを避け、放たれる雷に対して身を翻し、振るわれたゼオンの拳を腕で防ぐ。

 

ガンッ!

 

「ちっ! 受け流しもしないか!」

 

「必要ないからね……『ラウザルク』でも使うかい? ゼオンの『ラウザルク』なら、流石にこうは受けられない」

 

「貴様相手にそんな隙を晒せるか!」

 

 蹴りを僕に叩き込み、反動で離れていくゼオンを見届ける。

 ゼオンが『ラウザルク』で隙を晒してくれれば楽だったんだけど……流石にそう上手くはいかないか。

 

「『テオザケル!』」

 

 すかさず放たれるゼオンの雷を、大きく飛び上がって避ける。

 瞬間、二人の答えを出す者(アンサー・トーカー)の視線が僕を貫いたのがわかった。

 まあ、宙に浮いていれば避けられない、そう思うのが自然だ。

 実際攻撃を放たれれば僕は避けられないだろう。

 

 チラリとヴィノーに視線を向ける。

 少し術を使わずに休んでいたヴィノーの持つ魔本は……既に目映い光を取り戻していた。

 

「イケるぜクリア!」

 

 その元気の良い返事に笑みを返し……右腕を上に掲げた。

 ゼオンとデュフォー、ガッシュと清麿……二組の魔物と本の持ち主(パートナー)を、静かに見下ろす。

 本の持ち主(パートナー)は既に心の力を漲らせ、本からは目映い光を放っていた。

 

「『マーズ・ジケルドン!』」

 

「『ジャウロ・ザケルガ!』」

 

 ……良いチョイスだ。

 身動きのとり辛い空中で、引き込み拘束する術と、自在に操れ時間差での攻撃も可能な術……更に心の力を高まらせ、隙が出来たら最大術を叩き込もうともしている……並の相手ではこれでチェックメイトだろう。

 

「……狙いは良い。だけど」

 

 ただ、今の僕相手には温いと言わざるをえない。

 

「『シン・――

 

 磁力の球体と電撃が迫る中で、僕はただそれを眺めていた。

 確かに直撃すれば、無事では済まない。

 この距離になってしまえば、避けるにも避けられない。

 

 僕が先程使った『シン・リア・ウルク』の警戒の為か、彼等は僕から意識を外す事はない。

 警戒するのは悪い事ではないけれど……気を付けるのは、立ち位置はそこで本当に良いのかな?

 さあ……。

 

――ランズ・ラディス!!!』」

 

 鈍く光る、消滅の力の宿った槍が僕の頭上に出現する。

 形は『ランズ・ラディス』と同じだけど……込められた力は別物だ。

 

キィンッ!

 

「!!! ゼオン!」

 

 デュフォーが焦ったように目を見開き、指示を出す。

 『答え』を見たようだね……。

 そして、やはり……遅い。

 

 僕は躊躇なく、彼等の術へと、『シン・ランズ・ラディス』を投げつけた。

 真っ直ぐ飛んでいった槍はそのまま術と衝突し――

 

ッパァンッ!

 

 そのまま、消し飛ばした。

 何の抵抗もなく、微塵の拮抗もなく、二つの術は消し飛んだ。

 槍の速度を、まったく減衰させる事なく。

 狙いは……。

 

「くっ……! デュフォー!」

 

「『ラシルド!』」

 

 ゼオンの本の持ち主(パートナー)

 ゼオンに押され、マントに包まれ、驚愕に目を見開いたデュフォーは、盾で視界が遮られるその瞬間まで、僕を見つめ続けていた。

 

 ゼオンが滅多に使わない『ラシルド』に、完全防御の体勢をとったマント。

 強力であろうそれも、『シン・ランズ・ラディス』の前では――

 

ドシュッ!

 

ゾンッ!

 

――紙切れにも等しい。

 『ラシルド』は衝突した中心部だけが消滅し……ゼオンのマントすらも無視し……。

 僕の放った槍は、彼等を貫いた。

 

「ぐあっ……!」

 

「ゼオン!」

 

「デュフォー!」

 

 鮮血が、飛び散った。

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