『クリア・ノート』に転生しました。   作:ファウード編アニメ化まだですか?

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『最終決戦4』

 ポタリポタリと、ゼオンの足元に血が滴り落ちていく。

 その顔は苦痛に歪んでいた。

 

「……本の持ち主(パートナー)を守り、即死は避けたか……流石だね、ゼオン」

 

 ……ただ、僕の狙いは果たせなかったようだ。

 ゼオン、ないしはデュフォーをこの一撃で再起不能にするつもりだったのだけど……そう上手くはいかないか。

 マントで包まれ身を屈めていたデュフォーは、上手く避けたようで無傷だった。

 とはいえ、デュフォーの答えを出す者(アンサー・トーカー)があっても『シン・ランズ・ラディス』を無傷で防ぐ事は出来ないようで少し安心したよ。

 手元に戻ってきた槍を見れば……うん、まだ充分に力は残ってるね……ならこのまま詰めていこうか。

 地面に着地し、穂先をゼオンへと向ける。

 ゼオンはゴポリと血を吐き出し、此方を睨み付けた。

 

「ゴボッ……嫌味か貴様……」

 

「ゼオン!」

 

「騒ぐなガッシュ……すぐに死にはしない」

 

 悲痛な声をあげるガッシュへと、ゼオンは口元を拭いながら言葉を返す。

 ……弟を心配させまいとする兄心かな?

 

「ゼオン、弟にくらい自分の状態を正しく伝えてあげるべきじゃないかい? 君のまだ幼い体の一部が消し飛んだんだ……出血多量でそう間も無く死ぬ。そうじゃなくても気絶する程の痛みの筈だ」

 

 僕の言葉に、ゼオンはニヤリと笑った。

 強がり……じゃない?

 

「ハッ……この程度の痛み、なんて事はない……出血も……デュフォー!」

 

 ゼオンは、右手を自分自身に向けた。

 その行動にゼオンのやる事がわかって、僕は思わず苦笑を浮かべた。

 

「あぁ……『ザケル』」

 

ジュゥウウッ

 

「「ゼオン!?」」

 

 ゼオンの体……いや、抉れた傷口に炸裂した雷は、未だに大量に出血している跡を電熱で無理矢理焼いた。

 まったく……確かにそうすれば出血で死ぬ事はないかもしれないけれど……。

 

「……まったく、見てるこっちが痛々しいよ」

 

 内臓もあっただろうに、よくやるよ……それでいて冷や汗一つで済ますんだからとんでもない。

 

「フン……この程度の痛み、今までも経験してきた事だ。父上の『バルギルド』を受けた方が痛かったぞ」

 

 さらっと語られた魔界の王の息子への虐待に思わず頬がヒクついた。

 そんな事もやってたのか……まったく、魔界の王の株はストップ安だよ。

 

 まぁ、これでゼオンが出血多量で死ぬ事はないだろう。

 

「ただ、根本的な解決にはなってないね。内臓も容赦なく焼いた事で、君の体はもたないだろう」

 

「フン、知った事か。負ければどうせ貴様に消される。そもそも本を燃やせば俺は魂だけとなり魔界に帰る……そうすれば」

 

 そこでゼオンはグイ、とガッシュの肩を抱き寄せた。

 心配そうに顔を歪めていたガッシュは、突然の行動に目を丸くしていた。

 

「こいつが王になり、俺に体を与えてくれる……この程度、なんのリスクもない。貴様を倒し、ガッシュが王になる……それだけの話だ」

 

「ゼオン……ウヌ! 当たり前なのだ!」

 

 ……まったく、丸くなったものだね。

 

「随分と殊勝だね。僕の記憶じゃ、君は王になるのは当たり前だと言っていた筈だけど……」

 

 心底憎んでいた筈のガッシュに、全幅の信頼を置いている様子だった。

 

「バッ! 貴様! 余計な事をガッシュに吹き込むんじゃない! あの時は俺も若かっただけだ!」

 

 ……少しだけ面白くない、か。

 

 

 

――――滅べ――――

 

 

 

 あぁ……まぁいいや。

 ゆらりと、手元の槍を頭上に掲げた。

 

「さてじゃあ、続きをしようか? まだ『シン・ランズ・ラディス』は活きている……次の一撃は……防げるかな?」

 

 これはろくに防ぐ事は出来ないだろう。

 そうすれば後は一組……そこまで行けば容易い。

 

 もしくはここで『バオウ・ザケルガ』か『ジガディラス・ウル・ザケルガ』を使うか?

 だが、『シン・ランズ・ラディス』はそう甘い術じゃない。

 既に力は半分程だが、最低でも相打ちにはさせて貰う。

 ……そして、シンに到達していない術一つで打ち倒せる程、僕と『シン・クリア・セウノウス』は弱くない。

 つまり、この時点で、この槍を振り下ろせる時点で、ゼオン達を詰み(チェックメイト)に持っていけるだろう。

 

「さぁ、行くよ」

 

 そうして、僕は槍を掲げた。

 あわよくば、ガッシュにも被害を与えようと、位置を軽く調整して、と。

 そうして振りかぶり、投擲した瞬間だった。

 

キィンッ

 

 ……成程、それは……予想外だな。

 見えた『答え』に、流石に顔が歪むのがわかった。

 

 僕の視線の先、血塗れの白銀のマントをはためかせたゼオンは、堂々とした態度で、此方を見返していた。

 

「……あまり俺を嘗めるなよ、クリア!」

 

 ゼオンは、右手を何かを持っているかのように横に振りかぶる。

 それに合わせて、本の持ち主(パートナー)が術を唱えた。

 この場において、最も想定外な事が起きようとしていた。

 止める事は……出来ない。

 

「『シン・ソルド・ザケルガ!!!』」

 

 ゼオンの手には雷の剣が……『ソルド・ザケルガ』よりも二回りは小さな剣が握られていた。

 見た目こそ小じんまりとしているけれど……その術に込められた力は見るからに凄まじい。

 間違いなく、『シン』だ。

 まさかゼオンが『シン』を会得しているとは……しかも『ジガディラス・ウル・ザケルガ』じゃなく『ソルド・ザケルガ』の『シン』だとは……まったくもって想定外だ。

 

 そして、ゼオンはその力を奮った。

 僕の『シン・ランズ・ラディス』へと、その刃を叩き込んだ。

 その振りはとても流麗で洗練されていて……僕はその動きを美しいと、そう思った。

 

「ふっ!」

 

ドガシャァアアアアアアアン!!!

 

 ゼオンの刃と僕の穂先が触れた瞬間、まるで、すぐそばに雷が落ちたような轟音が響き渡った。

 閃光が走り、弾かれた『シン・ランズ・ラディス』が辛うじて形を保ったまま僕の手元に戻ってくる。

 戻ってきた槍を僕は握り締め……そのまま無造作に前に突き出した。

 

ガキィイイインッ!

 

 閃光に紛れ、一息に近接してきたゼオンの振る刃と、僕の穂先が再度激突する。

 悲鳴をあげる『シン・ランズ・ラディス』を内心で鼓舞しつつ……僕とゼオンの視線は至近距離で交わった。

 

「っ……いつの間に『シン』を会得していたんだい……? 君の幼い精神じゃ『シン』を会得するのは難しいと思っていたんだけどね……!」

 

「フン……自分を見つめ直しただけだ。自分の力を鍛えたところで、今の俺に伸び代は殆どなかったからな。故に貴様との決戦までの間……精神修行に充てさせてもらった」

 

 言葉を交わす間も、僕達の間では稲光が閃く。

 雷の力が漲るゼオンの刃は触れる度に雷が迸り、一合毎に僕を苛む。

 ……受け流してまともには受けていないけど……ダメージは間違いなく蓄積していっている。

 

「それにしても……さっきの啖呵……君が魔界の為になんて言うとはね……」

 

「意外か? ……いや、貴様からすればそうだろうな。それに、今も完全に割り切れている訳ではない。ずっと積み重ねてきた怒りと憎しみ……そう簡単に変われる程俺は器用じゃない」

 

 ギャリギャリと音をたてて、僕の槍の力が削られていく。

 まずいな、槍を振る腕も雷が蓄積してか痺れてきた。

 ……そろそろこうやって打ち合うのも限界か。

 

「だろうね。ならば何故? 君は魔界なんて好きじゃないと思っていたんだけどね」

 

「確かに魔界には嫌な思い出が多い。俺にとっては痛みと苦しみ、怒りと憎しみの記憶しかない。だが、俺が痛め付けた、利用した魔物達の中に……当時の俺にとって面白くない奴等がいた。そいつらも諸とも消えてしまうと思った時……」

 

 そこで一瞬、ゼオンは動きを止めた。

 胸に左手をあて、俯いて。

 

「惜しいな……と。素直にそう思った」

 

 そう言って顔をあげたゼオンの瞳には……輝きが宿っていた。

 ずっと、ずっと憎しみに淀んでいた瞳に、気高い……輝きが。

 ゼオンの握る剣の雷が輝きを増す。

 その思いに応えるように、バチバチと雷が迸る。

 

「俺はまだ魔界を……そこに住まう魔物達をちゃんと見ていなかった。憎しみに曇った瞳でしか見ていなかった。正しい姿を見れていなかった……。だから、もう一度見て回りたいんだ。魔界を。この目で」

 

 ゼオンの瞳が真っ直ぐに僕を捉えた。

 その表情はひどく穏やかで、戦いの場で浮かべるような顔じゃなかった。

 不意に頭に浮かぶ、魔界でのゼオンとの日々……訓練以外の僅かな時間、少ない回数、短いながらも共に過ごした穏やかな時間……。

 ほんの僅かに、僕の思考に空白が生まれた。

 そして……ゼオンの姿が消えた。

 

ズバンッ!

 

 次の瞬間、僕は斬られていた。

 右肩から、バッサリと袈裟懸けに。

 『シン・ランズ・ラディス』は限界を迎えて砕けた。

 激痛と困惑、そして感心と共に、目の前で刃を振り切っていたゼオンを見た。

 

「ゴボッ……だから、ここで貴様に負ける訳には、いかんのだ」

 

 ゴポリと血を吐き出して、剣を握る腕からも出血しながら、ゼオンは言い切った。

 死も厭わぬその気迫、その覚悟……。

 僕は――――

 

 

 

――――全てを滅ぼす――――

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