『クリア・ノート』に転生しました。 作:ファウード編アニメ化まだですか?
……不思議な光景だった。
見たこともない光景だった。
けれど見覚えのある光景だった。
ただし、記憶にあるその景色に色は無かったけれど。
死んだ、と認識して、恐怖に包まれたまま意識を失って……気付けば私は見覚えのない場所で目を覚ましていた。
死ぬ寸前の、薬臭い白い天井とは程遠い、草と地面の匂いに溢れる、鬱蒼とした森。
息を吸えば排気ガスの臭いの一切しない新鮮な空気が肺を満たしていく。
困惑よりも感動が私の心を埋めていく。
周辺の青々とした葉っぱの一枚一枚が輝いて見えて、思わずそれに手を伸ばした。
そして……視界に映った小さなもみじのような手。
そこで漸く私は、自分の身に起きた『転生』という奇跡に気付かされたのだった。
「……ここはどこだろう」
言葉を口に出せば、甲高い子供特有の声が飛び出した。
転生した、それは良い……いや、良くないのだけど一先ず置いておこう。
前世の記憶を保持したまま新たな身体に宿る事……それが転生であり、創作の世界ではまぁまぁありふれた展開である。
それが自分の身に起きるとは思わなかったけど……問題はそこじゃない。
今、私の周りに親のような生命体が存在しない事が問題だった。
体をペタペタと触って確かめたところ、殆ど人と同じ形をしている事がわかったけど、衣服と呼べるものは身につけておらず、ボロ布で辛うじて体を包んでいるという有り様であった。
体はガリガリで空腹で……ただあまりそれが苦ではなかった。
体が空腹に慣れてる……それが最も正しい表現だろうか。
……この体を庇護する存在がいるとはとても思えない、そんな状態。
「……はぁ」
思わずタメ息が出た。
前世では天涯孤独だったから、生まれ変わったら家族が欲しいと思っていたのに、いざ生まれ変わってみれば既に天涯孤独っぽい。
ひどく残念であるし、そもそもこのままじゃ折角転生したというのにそこらでの垂れ死ぬのが関の山。
人生ハードモード……そんな言葉が頭に過った。
「とりあえす……あるこう……なんか、たべものでも……みつけないと……」
どちらにせよ、何もしなければ死ぬなら、何かするべき。
そう思って、私は歩きだした。
草の生い茂る道なき道を、素足で踏み締めていく。
素足で踏む草の感触は、悪くない。
もう少し痛かったりするかと思ったけど、小石を踏んでもあまり痛みは感じなかった。
……もしかしてもうこの体、神経が麻痺している?
そう思ってしまう程に、痛みを感じない。
その割には足は止まらないし、疲労もあまり感じない。
体が限界を越えているのかなとも思ったけど、あんまりそういう感じでもないような……。
「まぁ、いっか」
うん、体が丈夫な分には問題ない。
これから生きるのであれば、 生きていくのであれば、それは強みになるだろう。
取り敢えず……何よりも人がいる場所を見付けたい。
その一心で、私は歩き続けた。
そして……どのくらい歩いただろうか。
森がなくなった……拓けた丘のような場所に辿り着いて……それを見た。
広大な土地、切り立った山、崖……そして、そこに建つ巨大な建築物を。
そして……それに私はどこか見覚えがあった。
周辺の建物に比べあまりにも巨大な塔のような建築物の中心には、どうやって浮いているのかわからない球体がハマっていて、その上に更になんらかの建物が見える……。
切り立った崖には窓のようなものが見えるし、整えられている跡も見える。
山にも建物が建っていて、平地には小さな……恐らくは普通サイズなのだろう家が、いくつも建ち並んでいた。
その光景に、私は圧倒された。
前世では決して見ることのない……見れる筈がない、あまりにも雄大で壮大な景色に……心が揺さぶられた。
本当に……本当に素晴らしい景色だった。
思わず感嘆の息が漏れた。
「はぁー……
……え?
――――こわせ――――
何?誰?どこにいるの?
――――ほろぼせ――――
何の……声……。
――――けしされ――――
頭が……眼が……痛い……。
――――まかいをほろぼせ――――
う……ぁ……。
――――選ばれし子、クリア・ノートよ――――
そこで私は……気を失った。
―――――――――――――――――――――――――
「ッ……!ハァ……ハァ……くっ」
一瞬意識が飛んでいた。
凄まじい一撃に、気付けばゼオンから大きく距離をとって膝をついていたようだった。
幸い、ゼオンも似たような状況で追撃がくることはなかった。
「クリア! 大丈夫か……!?」
ヴィノーの悲鳴じみた声が響いた。
傷口、ゼオンの刃で切り裂かれた場所に手を当てれば、未だにバチバチと雷を帯びていて、傷口を容赦なく焼き続けている。
出血、という意味では大した事はないが、流石に中から焼かれ続けるのは……キツイな。
「……大丈夫。まだ、ぐっ……戦える……」
「おいおい、まだ術の影響残ってるんじゃねぇか! 消すか!?」
自分に言い聞かせるように呟く僕に対して、ヴィノーは焦りを見せている。
……まぁ、正直キツイ。
痛いし痺れるし、今すぐにでも術の影響を消したいくらいだ。
けれど……。
「……いや、良い。そんな事よりも……」
さっきから、まったく動きのなかったガッシュ達を……今は気にしなければならない。
どうしようもなかったとはいえ、たっぷりとあった時間を、心の力を目一杯溜める時間に使ったのだろう……。
天を突くかと思うような輝きを見せる、ガッシュの赤い魔本に……寒気が走った。
思い切りが良い……ここで全てを注ぎ込むつもりか……。
……僕の、この戦いにおいて明確に痛手を負ったタイミング……しかも『シン』を使った直後……合理的すぎて泣きたくなるよ。
でも、ここで僕も負けてはいられないんだ。
「使うしかないね、ヴィノー。良いよ、『シン・クリア』だ」
そう僕が呟いた瞬間、高まりきった魔力が、心の力が、ガッシュと清麿の最強の術が――
「『バオウ・ザケルガ!!!』」
「バオオオオオオオオオオオオオ!!!」
――形を成した……。
二人の最強の術、雷の強力無比な龍を作り出す術……。
でかく、強大な……恐ろしい力だ。
『オウ』級なのに、『ディオガ』どころか『シン』にも届き得る、まさに規格外の術……。
これでまだ真の力ではなく、更には力を増す余地まであり、この『上』すらある……。
――――滅ぼしが必要だ……――――
ああ……滅ぼそう……。
これさえ、滅ぼせば……それで……漸く……。
「やるよ、ヴィノー」
……いくらヴィノーとはいえ『シン』の連発はキツイ。
心の力は枯渇寸前だろう。
実際額には冷や汗が浮かんでいるけど……こればかりはどうにか絞り出して貰うしかない。
頼むよ、ヴィノー。
泣いても笑っても……きっと、これが最後だ。
「ああ! 任せろ!」
自分自身を鼓舞するようなヴィノーの言葉に、僕は全幅の信頼を寄せて雷の龍へと向き直った。
手の平を交差する。
此方に向かってくる、強大な龍を迎撃する為に。
雷の龍が近付くのに呼応し、ヴィノーの本は輝きを取り戻していく……。
……目の前の脅威に対しての心を、恐怖すら、心の力に変えてくれている……。
ヴィノーのその健気な献身が、ありがたかった。
「ッ……! よしっ……イケるぜぇええ! クリア!」
「ああ……ヴィノー。これで最後だ」
雷の龍が目と鼻の先で大顎を開いた時、ヴィノーの誇らしげな声が響いた。
感じる……ヴィノーの心の力を。
高まりきった、僕の魔力を。
そして……その全てを食いつくさんとする……意思の脈動を……。
ドクン
「『シン・クリア・セウノウス!!!』」
僕の目の前に現れたのは、白亜の巨神。
僕の最強の術、消滅の力の結晶。
僕の、力。
ドクン
ここまできた。
漸く、ここまで。
もうすぐ、僕の目的は果たされる。
もうすぐだ、もうすぐで……。
「
「バオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
『バオウ』と『セウノウス』。
最強の術同士が、ぶつかりあった。
ドクン