『クリア・ノート』に転生しました。   作:ファウード編アニメ化まだですか?

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『生きる』

――クリア……。

 

 女性の声が聞こえる。

 疲労の滲んだ、けれど優しい声色だった。

 

――クリア!

 

 男性の声が聞こえる。

 焦ったような、けれど歓喜に満ちた声色だった。

 

――あなたは、クリア……クリア・ノートよ……。

 

――ああ、クリア……! よく産まれてきた……!

 

 温かい……。

 祝福されている、歓喜に満ちている……。

 この先幸せになるのだとまったく疑っていない。

 幸せに満ちた空間。

 

 ()はそれを、微笑ましく(無感情に)見つめていた。

 小さな手を伸ばして、ただただ伸ばして。

 喜色満面の笑みを浮かべるそれら二人の男女に手を伸ばして……。

 気付けば()の体は言葉を発していた。

 ()の意思じゃない。

 何かに急かされるように、気付けば口ずさんでいた。

 ニコニコ、ニコニコと笑う、二人の男女へと、手を……向けた。

 

 

 

――――けしされ――――

 

 

 

――らでぃす

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ました時、一番に感じたのは強い喪失感だった。

 意識がハッキリしていくにつれて、今目の前にある景色が、気を失っていた時に見た夢が、現実を繋げていく。

 

「わたし……は……クリア……? クリア……ノート……?」

 

 その名前には、覚えがあった。

 死ぬ前、生きていく中で楽しんだ娯楽、読んでいた漫画の一つ……。

 確か続編が連載中だったような……残念ながら続編は読んでいなかったのだけど。

 でも、そんな事はどうでも良い……いや、良くないけれどもっと大事な事がある。

 

「『こんじきのガッシュ!!』のラスボスの……?」

 

 ()()()()()()()とは『金色のガッシュ!!』という()()に登場する最後の敵なのだ。

 少し……いや、かなり性質に問題のある人物……なんせ主人公の()()()()が産まれ育った、魔界を滅ぼすという目的を持っているのだから。

 そんな存在になっている……?

 信じられない思いだった。

 

 そもそもこうして生きている時点で意味不明なのに、そこに創作の世界への転生、しかも創作されたキャラクターになってしまうという異常事態。

 そんな二次創作のお手本のような状況が我が身に起きるとは想像もしていなかった。

 

「……」

 

 目の前の景色は気を失う時と変わっていない。

 この雄大な景色……思い出せば確かに漫画で見たことがある。

 今の目の前の光景は鮮やかに色付いていて、記憶のそれは白黒と違いはあるものの、まったく同じ光景だった。

 確か……魔界の王を決める戦いが残り10人になった時、魔界の様子を映した時のシーンだったか……。

 どうやって建てたのか想像もつかない建築物……現代日本の

建築法なんてガン無視されてそうな建物達。

 

「じしんおきたら、やばそう……」

 

 そんなくだらない事を呟きつつ……私の頭は気を失っている間に見た、夢……のような映像の事でいっぱいだった。

 私を『クリア』と呼び……笑みを浮かべていた男女……。

 あれは……あの視線は、死ぬ前の人生においても経験のないものだった。

 思い出すだけで安心出来て、胸が温かくなって……心が安らぐ。

 ここは私にとって安全だと、心から感じる空間だった……。

 ……きっと、恐らく、多分……断言は出来ないけれど、その男女が……私のお父さんとお母さんが、心から()を愛してくれていたからこそ、感じた事なんだろう。

 だから私はそれがとても、とても心地よくて……。

 

 

 

――――壊せ――――

 

 

 

「っ……!? なんっ……だ……?」

 

 誰の、声……?壊せ……?

 耳鳴りのように、頭の中に響く声に顔をしかめた。

 辺りを見回すも、人の気配どころか生き物の気配すらない。

 頭を押さえながら、聞こえてきた謎の声に、思考を巡らせる。

 

 正体は、わからない。

 創作の世界なんだから、テレパシーの一つや二つあるかもしれないけど、わざわざこんな子供に『壊せ』なんていう相手がまともな訳がない。

 ……何より、その声には……聞き覚えがあった。

 つい先程、夢みたいな形で見た映像の最後に……()の頭に響いた声だ。

 その声が聞こえた瞬間、靄がかかったかのように意識が薄れて……それで……。

 

 伸ばした手の先にいた、お父さんとお母さんは……いつの間にか消えていたんだ。

 ()を抱いていた腕だけを残して。

 

うっ……

 

 ……気持ち悪い、気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。

 頭が痛い、眼が痛い、胸が、痛い……。

 気付いてはいけない事に気付いてしまった……思い出さなければ良かった。

 わかった、わかってる。

 だって、()が『クリア・ノート』なら、消滅の力を持っているのは当然じゃないか。

 そして、()()()()()()()が人や魔物の命をなんとも思っていない事を知っている。

 だから、だから……声に従って……そのまま……。

 

うっ……うぅ……!

 

 ()は、なんて事を……。

 ()を愛してくれた、お父さんとお母さんを……!

 二人は、善良だった、ただ産まれた子供を慈しんでくれた……!

 なのに、なのに()は……!

 

 例えようのない、強い罪悪感に苛まれ、私は気付けばその場に踞っていた。

 折角手に入ったのに。

 折角愛されるかもしれなかったのに。

 折角、愛していたのに……。

 

 愛する者を自ら手にかけた、手にかけてしまった、その過去は……私にとって耐え難い現実だった。

 ()が消してしまった二人を思うと、胸が張り裂けそうだった。

 

ぐっ……! つぅっ……!

 

 頭が……眼が、痛い。

 強い、強すぎる喪失感……。

 ()は……愛を失ってしまった。

 自らの手で……二度と戻らない形で……。

 

うぅ……あぁああああ……!

 

 ポタリ、ポタリと頬を伝って雫が流れていく。

 失ったものが大きすぎて、取り戻しようがなくて、取り返しがつかなくて……後悔の念が止めどなく()を苛み続けた。

 

 

 

――――滅ぼせ――――

 

 

 

うるさいっ!

 

 滅ぼせば、何も関係なくなる、全てなくなるのだから。

 そう告げる謎の『声』へと、反射的に声をあげた。

 

 

 

――――全てを、滅ぼせ――――

 

 

だまれだまれだまれだまれだまれ! もうおまえのことばなんてきくものか!

 

 ボタボタと、足元に落ちる赤い雫。

 噛み締めた唇からか、頬を伝う雫からか、口の中に鉄の味が広がる。

 ギロリと睨み付けたのは、何もない空……この『声』の主が空から見てる訳じゃないかもしれないけれど、何かを睨まずにはいられなかった。

 

 ()は……お父さんとお母さんを殺した。

 自分の明るく幸せになれる未来を閉ざした……。

 残る未来は……()()通り、『滅亡の子』として生きる未来か……。

 

「……そんなみらい、こっちからねがいさげだ」

 

 それを、否定する未来。

 ()は、滅ぼさない。

 

 

 

――――滅亡させよ――――

 

 

 

「ことわる……」

 

 まだひどく痛む眼を押さえながら、()はゆっくりと立ち上がった。

 ()は失った……愛を、自らの手で消し去ってしまった。

 愛してくれた大事な家族を、自分の手で……。

 この『声』のせいだと言うのは簡単だ……だけど、手を下したのは自分自身……それはきっと、()が弱かったからだ。

 

「つよくなる……」

 

 だから、強くなろう。

 もっと、もっともっと。

 正体不明の『声』なんかに、惑わされないように……。

 この身体が()()()()()()()ならば……きっと……つよくなれる。

 そして強くなって……。

 

「つよくなって……いきてやる……」

 

 僕が殺してしまった両親の分も、生きて……幸せになってやる。

 それがきっと、今の僕が出来る、唯一の親孝行だ。

 強く、そう思った。

 

 だから、こんな所で立ち止まってはいられない。

 このままじゃ、遅かれ早かれ野垂れ死にだ。

 まずは……今日を生きよう。

 食料を……なければ取り敢えず今夜を安全に過ごせる場所を……一歩ずつ、少しずつ……進んで、生きて……強くなろう……。

 そう胸に刻み込みながら、僕は体を起こし、頬の雫を拭った。

 そして、森へと踵を返す……その前に。

 最後に目の前の雄大な景色を眼に刻み込んだ。

 魔界の、その姿を。

 さっきよりも色鮮やかに、鮮明に見える景色は、輝いていた。

 

「…………きれい」

 

 この景色は、失われてはいけない。

 僕は改めて、強く誓った。

 魔界は、決して滅ぼさないと。

 強くなって、生きて、幸せになって……また、この景色を見に来よう。

 その時にきっと……僕は、僕を許せるように……なれる……そう思うんだ。

 

 

 

――――壊せ――――

 

 

 

「……うるさい」

 

 それまでは……この五月蝿い声に付き合わなければいけないのは……かなり面倒だけれど。

 僕は森の中へと引き返し……これからの事に思いを馳せていった。

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