『クリア・ノート』に転生しました。 作:ファウード編アニメ化まだですか?
強くなる……そう決意したは良い。
良いけれど、前世からてんで荒事には縁がなく、貧乏な孤児院育ちだった僕に強くなる方法なんてわかる筈もなく……。
取り敢えず曖昧な知識と認識で走り込みや腹筋、腕立て伏せなんかはやってみてたけれど……効果の程は定かじゃない。
何よりも……。
ぐきゅぅぅぅ
「……おなかすいた」
そんな事をしてると、凄くお腹が空くのだ。
とても、とても……。
僕達魔物は、同じくらいの見た目の人間とは比べようもない程に身体能力が高い。
だがその分、とてもよく食べる。
それこそ
そんな魔物の身であり、更には食べ盛り育ち盛りの子供である僕は……食料の確保に悩んでいた。
強くならなければならない、その為には鍛えなければいけない。
けれどそうすると疲れるしお腹は減るし、ご飯を探す時間もなくなる……。
どうしよう……そう悩み続け、一日木の実だけで過ごした僕は結論を出した。
「まずはたべておっきくなってからきたえよう」
お肉やお魚を定期的に……出来れば毎日食べたい。
その為には鍛える時間はまだとれない、そう結論づけた。
まだ幼いこの身では、お肉やお魚を捕るのも一苦労。
植物関係の確保は僕にとっては簡単だからこそ、ある程度この体が育つまでは、狩りに力をいれると、そう決めたのだった。
そして僕は、手作りの槍と銛を持って、狩りに出掛けるのだった。
「まってろ、おにく! おさかな!」
――――壊せ――――
……そんな行き当たりばっりな生活が続き、何度か危機に陥りながらもどうにか潜り抜け……気付けば十数年の時間が経っていた。
住み処を作り、畑を作り、自給自足の環境を作り上げ……やがては獲った肉や魚を売る余裕まで出来て、そのお金で衣服や調味料……そして知識を得る為の本なんかを買ったりして、なんだかんだと充実した日々を送っていた。
……勿論鍛練も欠かしてはいない。
単純な体力作りを中心に、槍の振りなんかを自己流で鍛え続けていた。
そして、それは……僕が毒キノコを食べて全身麻痺して死にかけていた時の事だった。
「……ねぇ、大丈夫?」
半ば意識を飛ばしながら、昨日の絶品ではあった毒キノコスープに思いを馳せていた僕に、そんな言葉がかけられていた。
高熱に喘ぎながらも薄く目を開けば、心配そうに此方を覗き込む少女の姿があった。
何か答えようと口を開くも、麻痺した体では言葉を紡ぐ事も出来なかった。
「大丈夫じゃなさそう……うん、安心して。今助けてあげる」
少女の手が僕に触れる。
僕よりもまだまだ幼い少女は、僕の胸に手を当てて、ニコリと微笑んだ。
触れたその手は……とても温かかった。
「『ジオ・スプリフォ』」
その手から温かな感触がじんわりと体全体に広がっていき……その温かさと共に痛みと麻痺が消えていく。
突然の変わりように目を見開き、パチパチと何度か瞬きをして……ガバリと体を起こした。
……痛みも麻痺も引いている、健康体そのものだ……。
先程まで死にかけていたというのにこの変わりよう……。
驚きと共に深い感謝を覚え……僕を助けてくれただろう少女へと視線を向けた。
ドサッ
そして、お礼の言葉を伝える前に倒れた少女の姿を見て、目を丸くした。
倒れた体は動く様子がなくピクピクと震え、その顔は赤く染まり、既に意識はないようだった。
先程までの僕の状態と同じ……そして健康体の僕。
それで察せない程、僕は愚かじゃなかった。
どんな術かわからないが、僕の状態異常を全て引き受けた……こんな幼い少女の身で、
「っ……!」
僕は即座に最寄りの人の集落を思い浮かべた。
村……では怪しいだろう、そこそこ賑わっている町のほうが良い。
少し遠いが……急ぐしかない。
僕は優しくその子を抱きあげ、町へと向かって駆け出した。
その振動で目を覚ましたのだろう、少女が浅い呼吸を繰り返しながら薄く目を開いた。
苦しそうだ……僕の食べた毒キノコの毒性は、こんな幼げな少女では長くはもたないだろう。
知ってか知らずか、あまりにも考えなしの……無謀な行為だ。
僕は彼女の行動が理解出来ず、苛立ちのまま口を開いた。
「! 気付いたかい? 今町に向かっている……すぐ医者に見せるから頑張るんだ。……ところで君が使った術、他人の傷を自らに移す術だな? 何故代わりに自分が苦しむとわかって、見ず知らずの僕を助ける為に――」
けれど少女を問い詰める言葉は、その手が僕の頬に添えられた事で途中で止まってしまった。
「元気に……なって、良かった……」
そう言って微笑む少女があまりにも眩しくて。
そのまま再度意識を失ってしまった少女が、誇り高く見えて。
その在り方に……金色の輝きを見てしまったから。
……自らの身を省みない行いを、手放しで称賛したくはない。
けれど……少なくとも僕はそれで救われた……ならば、それを成した彼女がこのまま死ぬなんて事は認められない。
優しく、誇り高く、強い……金色の輝きを持つこの腕の中の少女を……僕は救いたいと強く……強く思った。
ああ、遅い、これじゃ間に合わない。
間に合わない、遅い、遅すぎる……なら!
僕自身が、もっと……もっと早くなればいい!
魔力が滾る、力が漲る。
わかる、今なら……この術が使える!
「『リア・ウルク!』」
ギュンッ!
周りの景色が一気に引き伸ばされる。
一歩踏み締める度に風が頬を撫でた。
これなら間に合う……いや、間に合わせてみせる!
更に力強く地面を踏み締め、走り続けた。
ただ、彼女を救いたい、その一心で。
――――壊せ――――
……壊さないよ。
絶対に。
少しだけ強く抱き締めた彼女の体は、とても温かかった。
―――――――――――――――――――――――――
「バオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
バリバリバリ!
巨大で強大な雷の龍と、力の化身、消滅の巨神が衝突する。
ビシッ
小さな音とともに、胸についた玉に亀裂が走った。
……既に『セウノウス』に相当な負荷がかかっている証拠だ。
相当に『バオウ・ザケルガ』を鍛えたらしい。
拮抗する龍と巨神、雷と消滅波。
滾る力は魔力となり、雷と消滅波となり互いに削りあい続けていた。
このまま相討ちにでもなるか……?
そう頭に過った時、清麿の瞳が目に入った。
ギラギラと輝く、強い決意に満ちた瞳が、此方を見返していた。
「負けて……たまるかぁあああ!」
「ぐぅうぅぅ……!」
清麿の持つ魔本は更なる光を放ち、少しずつ……『セウノウス』が押され始めた。
清麿の……いや、ガッシュと清麿……二人の力が、思いが、心が一つとなり、『バオウ・ザケルガ』に際限なく力を与えているのだろう。
……素晴らしい力だ。
負けが見え始めた事に、ヴィノーの顔が驚愕に彩られる。
ビシッ、バキッ
そして……僕の胸の玉には更なる亀裂が入る。
……清麿はまだ気付いていないな。
まぁ……。
「……!!! ゼオン! 構えろ!」
「何……? 今俺はガッシュの勇姿を……」
「今すぐクリアを潰さんと手遅れになる! 早く!」
デュフォーですら今気付いたのだから、仕方ない事かもしれない。
ただ……自分ならある程度対応出来るからと、ギリギリまで見極めようとするその悪癖には……苦言を呈しておこう。
清麿は兎も角、君ならもう少し早く気付けた筈さ。
「……遅い。君はいつも遅い。君が気付く時はいつも……全て手遅れになるね、少年D?」
「ッ……! ゼオン! 手を前に出せ!」
「やれやれ……ガッシュに任せるつもりだったが……こうなれば俺の手で引導を渡してやろう! ごほっ……覚悟しろ、クリア!」
「『ジガディラス・ウル・ザケルガ!!!』」
煽りの言葉を呟けば、再び現れるのはゼオンの最強の術。
間髪入れずに放たれる雷の奔流が、僕に直接襲い掛かる。
「くっ……」
それをどうにか『セウノウス』で受け止めた。
受け止めたはいいが……意識を『ジガディラス』に向けた分、当然『バオウ』は自由になる。
「ZIGAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」
「バオオオオオオオオオオ!!!」
――――!――――
雷の奔流に圧され、怯んだ『セウノウス』を龍の牙が捉えた。
拮抗は僅かな時間……雷の龍へと渾身の消滅波を放とうとした『セウノウス』へ、更なる雷が降り注いだ。
――――!!!――――
そして……体勢の崩れたその巨体を『バオウ・ザケルガ』は噛み砕き、『ジガディラス・ウル・ザケルガ』の雷が穿った。
「バオオオオオオオオオオ!!!」
「ZIGAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」
倒れる『シン・クリア・セウノウス』、僕に迫るのは凶暴な雷の龍と、視界を覆い尽くさんばかりの膨大な雷……。
視界の端にヴィノーの瞳が見開かれるのが映る。
清麿も、ゼオンも、ヴィノーも、僕の敗北を直感している。
僕の最大術は打ち砕かれ、打ち砕いた二つの術はまだまだ活きている。
僕を打ち倒して余りある程に……。
「…………」
ただ一人、デュフォーだけが、苦虫を噛み潰したような顔で此方を見ていた。
……さぁ。
パン
前に向けていた両手を、胸の前で合わせた。
そっと目を瞑り……ゆっくりと開いた。
開いた僕の瞳には、視界を雷が埋め尽くす光景が映っていた。
「始めよう……力の支配を……」
――――始め……よう――――
そう言い残して、僕の体は雷の龍に呑まれた。
パキャァアン
ドクンッ!